日本周辺国の軍事兵器 - HQ-7艦対空ミサイル(紅旗7/FM-80/CSA-N-4)

053H3型フリゲイト(ジャンウェイII型/江衛II型)に搭載されたHQ-7B/HQ-7NB。3番目の写真はキャニスターを外した状態。後方にキャニスターとキャニスターを納める弾薬箱が確認できる。



054型フリゲイト#525「馬鞍山」のHQ-7用電子機器。枠1が360S型対空・対水上用二次元捜索レーダー(SR-60)、枠2が345型射撃管制装置(MR-35)。8連装発射機の直後の甲板下には再装填装置が格納されている。

▼345型射撃管制装置(MR-35)の模型。


HQ-7(FM-80)性能緒元
全長3.00m
直径0.156m
翼長0.55m
重量84.5kg
弾頭破片効果榴弾(HE-FRAG )
推進装置一段固体推進薬ロケットモーター
最大速度マッハ2.3
射程500〜12,000m
射高15〜5,000m
誘導方式無線指令+光学誘導

HQ-7(紅旗7)艦対空ミサイルは、1987年にフランスから輸入したクロタール8MS艦対空ミサイルをベースに模倣・国産化した個艦防御ミサイル・システムである。艦載型であることを強調したHHQ-7(海紅旗7)の名称で呼ばれることもある。HQ-7/HHQ-7は中国軍での制式名称であり、輸出名としては飛meng(漢字は虫+蒙)80(FM-80)が使用されている。その後、改良型のHQ-7B(HQ-7NBの名称もあり)が登場し、2002年にはHQ-7Bの輸出型FM-90N(FM-80M)が兵器ショーで公開されている。HQ-7にはCSA-N-4のNATOコードネームが付与されている。

【開発経緯】
1980年代末、中国海軍は051型駆逐艦(ルダ型/旅大型)の#109「開封」での実用試験で良好な成果を収めたクロタール8MS艦対空ミサイル を当時計画中であった次期駆逐艦(後の052型駆逐艦(ルフ型/旅滬型))の艦対空ミサイルとして採用すること、そしてクロタールをリバース・エンジニアリングして国産化することを決定した。クロタールの国産化に当たったのは、クロタール地対空ミサイルの国産化を行っていた航天機電集団二院(長峰機電技術研究設計院。現中国航天科工集団)を中心とする開発グループであった。

外国から少数のサンプルを輸入して後にそれを模倣・国産化する方法は、この時期の中国の兵器開発ではしばしば見られた。しかしクロタールの開発メーカーであるトムソンCFS社やフランス政府は、中国の行為に抗議することなく、その後も中国への兵器システムの売却や技術協力を継続している。これは、おそらく冷戦時代に西側に中国が協力する見返りとして、クロタールのコピーに対して黙認・暗黙の了解を与えたのでは無いかと推測されている。また、後にクロタールの技術移転に関して両国の間で合意が成立したとも伝えられている。

【性能】
HQ-7艦対空ミサイル・システムは、8連装ミサイル発射機、360S型対空・対水上用二次元捜索レーダー(別名SR-60。TSR 3004シー・タイガー対空警戒レーダーを国産化)、345型射撃管制装置(別名MR-35。レーダー、赤外線/光学探知機などで構成。DCNS CTMシステムをベースに開発)、再装填装置などで構成され、システムの操作はZKJ-4戦闘情報システム(TAVITAC戦闘情報システムを国産化)によって行われる。これらは、いずれもクロタールの各種機器をコピー、もしくはそれをベースに開発されたものである。

360S型対空・対水上用二次元捜索レーダーはE/Fバンドのレーダーで、最大探知距離は100km。ミサイルの誘導は無線指令誘導方式を採用しており、345型射撃管制装置(MR-35)に搭載されたJバンド・レーダーが、目標と(ビーコンの助けを借りて)ミサイルの双方を追跡して自動的にミサイルに誘導指示を行うが、電子妨害などによりレーダーが使用できない状況に備えて赤外線/光学追跡モードも用意されている。無線誘導方式は、セミアクティブ・レーダー誘導方式に比べるとより容易に複数のミサイルを同時誘導できる利点があるが、敵の電子妨害には弱いという問題を持っており、HQ-7(原型のクロタールも同様)は複数の誘導方式を確保することで脆弱性を補っている。

HQ-7の基本的な諸元は、原型のクロタールと同じ。有効射程は速度400m/sの目標に対し8,600m、速度300m/sの目標に対して1,0000m、ヘリコプターに対して12,000m、有効高度は30〜5,000m。最大30目標を探知し、そのうち12目標を追尾して、同時に4目標にミサイルの誘導を行うことが可能。目標の探知から6秒以内にミサイルを発射することが可能であり、低空から飛来する亜音速対艦ミサイルに対する迎撃成功率は85%とされている。ただし、対艦ミサイルの迎撃可能範囲は、4〜8kmと航空機に対する迎撃範囲よりもかなり狭いものに留まっており、複数の対艦ミサイルによる攻撃に対しては十分な防御能力を有していないことが指摘されている。

HQ-7のミサイルの諸元は、重量85kg、全長2.89m、直径0.15m、弾頭は15kgの破片効果榴弾(HE-FRAG)で赤外線式近接信管と瞬発信管が装着されている。推進装置は固体ロケット式で、発射後2.3秒で最大速度のマッハ2.3まで加速される。ミサイル発射機後方には再装填装置が装備されており、052型駆逐艦(ルフ型/旅滬型)では8発、051B型駆逐艦(ルハイ型/旅海型)では16発の予備弾が装備されている。艦形が小型な053H3型フリゲイト(ジャンウェイII型/江衛II型)では再装填装置は搭載されていないが、艦内に10発の予備弾を搭載しており人力により再装填を行う。一代前の053H2G型フリゲイト(ジャンウェイI型/江衛I型)では、HQ-61艦対空ミサイルを搭載していたが、このミサイルの重量は300kgを超えるため人力での再装填は事実上不可能であったことからすると、053H3型フリゲイトは対空戦闘における継戦能力を大きく向上させることに成功した。

【改良型HQ-17B/FM-90N】
HQ-7のベースとなったクロタール短SAMは1970年代に開発に着手されたミサイルのため、将来的な対艦ミサイルの性能向上に対して、性能不足になることが懸念された[9]。レーダー追尾性能、目標探知精度、電子妨害への抗湛性能、全天候作戦能力などの改善が求められ、対艦ミサイル迎撃性能向上のためHQ-7ミサイルの速度や機動性向上が迫られることになった[9]。これを受けて、1990年代末期からHQ-7の発展型HQ-7Bの開発が開始されることになった[9]。HQ-7Bの開発では、陸上用HQ-7の改良型であるFM-90の技術が生かされつつ、対艦ミサイルの性能向上に対処し得る性能が目指された。HQ-7Bは21世紀初頭には実用化に漕ぎつけた模様で、2002年の珠海航空航天展覧会では中国国営精密機械進出口総公司(CNPMIEC)は、HQ-7Bの輸出型FM-90N(FM-80Mの名称もあり)を公開した。

【HQ-7B/FM-90Nの性能】
HQ-7B/FM-90Nの開発の主眼とされたのは、対艦ミサイルの迎撃能力の向上であった。超低空で飛来する対艦ミサイルに対する探知能力を高めるためレーダーの改良が行われ、探知距離が延伸され電波妨害や悪天候下での目標探知能力も向上した。そして、対艦ミサイルの飽和攻撃に対処するため、射撃統制装置の処理速度向上が実施された。HQ-7B/FM-90Nは同時に2発の対艦ミサイルが飛来した場合でも、4発のミサイルを発射して同時に迎撃を行うことが可能となり、前タイプHQ-7/FM-80に比べて迎撃時間の短縮とより高い撃墜確率を実現した。HQ-7B/FM-90Nは、4つの異なる誘導方式(レーダー無線指令方式、光学無線指令方式、赤外線無線指令方式、光学/赤外手動指令方式)でミサイルを指向させることが可能であり、敵の電子妨害に対して強い抗堪性を有している。ミサイルの連続発射間隔は3秒。システムのデジタル化・モジュール化を進めたため、整備性が向上し、システムの反応速度や効率性も高まっている。

345型射撃管制装置のミサイル誘導用レーダーの探知距離は20〜25kmに延伸され、より早く目標を探知してミサイルを誘導することが可能となった。ミサイル自体も改良が施され、最大射程は全ての目標に対して15,000mに延伸、射撃限界高度が15mとより低空の目標に対する攻撃が可能となった。ミサイルの最高速度はマッハ2.3からマッハ2.6に上昇、最大荷重は25Gとなり高速・高機動目標に対する迎撃能力を改善させている[9]。ミサイル1発の撃墜確立は85%とされている。

HQ-7B/FM-90Nの目標迎撃シークエンスは以下の通りである。まず、360S型対空・対水上用二次元捜索レーダーにより目標が探知され、目標の飛来する方位や速度が計算される。次に345型射撃管制装置に搭載されたJバンド・レーダーで目標の中間〜終末追跡が実施され、同時にミサイルが射撃準備態勢に入る。この際、360S型対空・対水上用二次元捜索レーダーや345型射撃管制装置の光学/赤外線センサーでも目標の追尾が行われ、より詳細な目標に関する諸元を収集している。目標の確実な諸元がそろうと、345型射撃管制装置は目標の方向に旋回し、レーダーによる目標追尾に入る。目標発見後のこれらの過程は全て自動的に遂行される仕組みになっている。目標が迎撃可能距離に入ると、システムは警告灯を点滅しサイレンを鳴らして、システムが「発射状態」に入ったことを知らせる。「発射状態」になると、ミサイル発射機が目標の方向に旋回して射撃統制装置の指令に基づいて自動的にミサイルを発射する。発射されたミサイルは、345型射撃管制装置の光学/赤外線センサーとレーダーにより追尾されて、ミサイルの位置や速度などの諸元と目標諸元の両方のデータを基にして、自動的にミサイルに誘導指示を無線で伝える。ミサイルは発射後、加速度が18Gに達すると安全装置が解除されて近接信管が作動する。ミサイルの信管には高度計や海面波浪探知装置などが設置されており、シー・クラッターの多い超低空域においても目標を正確に探知して信管を作動させることが出来るようになっている。

HQ-7B/FM-90Nは、上記の改良により対艦ミサイルに関する迎撃能力を向上させることに成功した。ただし、近年各国で開発されている超音速対艦ミサイルに対する迎撃能力については、射程や威力の点で不十分であり、なお改良の必要性が有ると認識されている。HQ-7Bは、051B型駆逐艦(ルハイ型/旅海型)053H3型フリゲイト054型フリゲイトなどの艦艇に搭載(HQ-7NBと呼ばれることもある)された。輸出向けのFM-90Nは、パキスタン海軍のF-22P型フリゲイト(ズルフィカル級)、バングラデシュ海軍のフリゲート「ハーリド・ビン・ワリード」[8]、アルジェリア海軍のC28A型コルベットに搭載されている。

HQ-7は1990年代初めの制式採用後、中国海軍の戦闘艦艇に広く搭載された。これによって、長年、艦隊防空を海軍航空隊の戦闘機と艦砲・機関砲に依存してきた中国海軍は、HQ-7の普及によりようやく実用的な個艦防御ミサイル・システムを得て艦隊自体の経空脅威への対抗能力を向上させることに成功した。ただし、HQ-7は、あくまでポイント・ディフェンス用のミサイルであり、艦隊全体の防空を行うエリア・ディフェンス能力は有していなかった。そのため、なおも海軍航空隊の航空支援が得られない外洋における艦隊行動には限界があった。中国海軍は1990年代になるとエリア・ディフェンス能力の確保を次の目標としてその実現に奔走することになるが、実際にエリア・ディフェンス艦を入手するのは、ロシアからSA-N-7艦対空ミサイルの運用能力を持つソブレメンヌイ級駆逐艦(現代級/956型)を輸入する1999年を待つことになる。

【参考資料】
[1]陳肇祥「“紅旗”防空導弾家族戦力全透視」『海事大観-中国主戦兵器』2005年10月号/総第58期(中国船舶報社)
[2]天一・祁長軍「中国海軍試験艦専題-幕後英雄」『艦載武器』 2006年12月号/No.88(中国船舶重工集団公司)
[3]《世界航空航天博覧》編集部「“飛meng”防空反導系統PK“捕鯨叉”」『世界航空航天博覧』2005年8月(総第141期)(《世界航空航天博覧》雑誌社)
[4]茅原郁生『中国軍事用語辞典』(蒼蒼社)
[5]艦載兵器ハンドブック改訂第2版(海人社)
[6]Chinese Defence Today
[7]中国武器大全
[8]Bangladesh Military Forces - bdmilitary.com「FM-90 Surface-to-Air Missile System」
[9]卫天「剑指海天 中国海军舰队防空导弹武器系统的技术发展 舰载近程防空导弹武器系统」『舰载武器』2019.10号/No.323(中国船舶重工集团公司)10〜22ページ

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クロタール艦対空ミサイル
HQ-7近距離地対空ミサイル(紅旗7/FM-80/クロタール)