▼海軍航空隊のJ-7
1961年、中国ではMiG-19に続いて昼間戦闘機MiG-21F-13を殲撃7(J-7)としてライセンス生産することでソ連と合意した。そして未組立機体とノックダウン生産用機材が引き渡されたが、中ソ対立によってソ連人技術者が全員帰国してしまい、中国は残された図面だけでを頼りに独自に生産を進める事になってしまった。MiG-21は本格的な超音速戦闘機であったため技術の習得に時間がかかり、また文化大革命の大混乱により航空産業は停滞してしまい作業は大幅に遅れた。中国で組み立てられたJ-7は1965年11月に完成し、翌1966年1月に初飛行に成功、1967年6月に量産が承認された。
1975年になるとJ-7の改良研究が開始された。その内容はエンジンの推力向上、射出座席の改良、ドラッグ・シュートの装備、720L増槽の携行能力付与で、J-7IIと命名された。J-7IIは1978年12月に初飛行し、1979年9月に量産仕様を確定、翌1980年から量産に入った。J-7IIの輸出型はF-7Bと呼ばれる。
1979年5月からは輸出用F-7Bに西側製機材を装備したF-7Mの開発が開始されている。F-7MはGEC-マルコニーのHUD/WACを備え、新型測距レーダー、エア・データ・コンピューター、電波高度計なども搭載している。主翼下のハードポイントが2箇所増設され、PL-7空対空ミサイルの携行能力も有している。このF-7Mの電子機器を従来の中国製のままとしたのが、スリランカ空軍向けのF-7BS。またパキスタン空軍の要求に合わせて射出座席をマーチンベイカー製とし、AIM-9サイドワインダーの運用を可能にしたのがF-7P/MPである。F-7Mの開発はテスト飛行を含めて1984年11月に完了し、1985年から輸出が始められた。
F-7Mをサイド・インテイクに変更し、機首に本格的なレーダー火器管制装置を装備するSuper-7と呼ばれる輸出型が計画され、1988年10月21日にアメリカのグラマン社が作業に協力する事で合意した。しかし天安門事件によりアメリカ政府が対中政策を大幅に見直し、計画は頓挫した。現在Super-7の設計をベースに
FC-1計画がパキスタンやロシアとの間で進められている。
中国国内向けの派生型としては、MiG-21MF(NATOコード:Fishbed-J/フィッシュベッドJ)と同等の性能を持つ全天候戦闘機としてJ-7IIIが開発された。友好関係にあるルーマニアや大規模な武器援助の見返りにエジプトから入手したソ連戦闘機から技術をフィードバックさせ、その初号機は1984年4月に初飛行し年末までにテスト飛行を完了した。J-7IIIは迎撃戦闘機として全天候能力を有し、また対地攻撃能力も付与されている。J-7IIIは機首の空気取り入れ口が拡大され、中のコーンも大きくなった。コーン内部にはJL-7 Jバンド迎撃レーダーが収められており、これにより全天候運用能力を有するようになった。垂直安定板頂部にはLJ-2全方位レーダー警戒装置のアンテナがある。エンジンはより推力の大きい渦噴13に変更され、胴体背部のドーサル・スパインも大型化され機内燃料搭載量も増加している。このように各種の改良が施されたJ-7IIIだが、JL-7レーダーは要求の捜索範囲70kmに達せず(実質30km)ルックダウン・ルックアップ能力に欠き、また十分な信頼性も得られなかった。中国空軍は当初、J-7IIIを1,000機生産することを計画していたが、結果としては20〜30機生産されただけで中国空軍に本格配備はされなかった。またJL-7レーダーをJL-7Aに換装し渦噴13FIエンジンを積むなどして更に改良したJ-7IIIAも性能向上は芳しくなく、少数配備に終わっている(2011年11月27日に全機退役[4])。
失敗作に終わったJ-7IIIに変わりJ-7IIの後継機として開発されたのが、J-7IIをベースにコンピューター(CAD)を利用して主翼を大幅に改設計したJ-7Eと呼ばれるタイプで、1995年に開発が明らかにされている。主翼は複合材を使用しそれまでの単純なデルタ翼が、内翼部で57゜、外翼部で42゜の二重前縁後退角付きとなり、翼幅も1.17m増加し主翼面積は約8%増加している。またエンジンも強力な渦噴13Fターボ・ジェットに換えられ、主翼の改設計とあいまってJ-7IIと比べて格闘性能は85%も向上したという。J-7Eの試作機は1990年4月に初飛行したと伝えられ、1993年末から中国空軍への配備が始まっている。パキスタンへの輸出型はF-7PGと呼ばれ、BAEシステムズのスーパー・スカイレンジャーかKIARのグリフォ7レーダーのいずれかを装備する。パキスタン政府はこのF-7PGを80機発注しており2001年から配備が開始が開始された。
J-7GはJ-7Eを更に改良したタイプで、イスラエルのEL/M2001を参考にしたと思われるKLJ-6Eパルスドップラー・レーダーを装備している。これにより新型のPL-8B、PL-5C空対空ミサイルを運用できるようになった。また最新のレーダー警報装置、ECM装置、チャフ・フレアディスペンサーを搭載した。これら新型アビオニクスのために重量が増加し、機内に装備している30mm機関砲は2門から1門に減じられている。
J-7 | 1966年1月初飛行 | テスト型。12機のみ製作 |
J-7I | 1976年6月初飛行 | 成都による最初の量産型。少数生産 |
F-7A | | 渦噴7エンジンを渦噴7Bに換装したJ-7Iの輸出型。アルバニアとタンザニアに輸出 |
J-7II | 1978年12月初飛行 | J-7Iの改良型。渦噴7Bエンジンと新型射出座席を装備 |
F-7B | 1982年5月初飛行 | 仏製R550ミサイルを運用できるJ-7IIの輸出型。エジプト、イラク、スーダンに輸出 |
J-7IIA | 1983年初飛行 | 西側アビオニクスを積んだJ-7II改修型 |
F-7M | 1983年8月初飛行 | J-7IIAの改良輸出型。バングラデシュ(F-7MB)、イラン(F-7N)、ミャンマー、ジンバブエに輸出 |
F-7IIN | | F-7Mの改良型。JL-7Aレーダーを搭載。 |
F-7BS | | 中国製アビオニクスを装備したJ-IIA輸出型。HUDは未装備。スリランカに輸出 |
F-7NI | | ナイジェリアへの輸出型 |
Super-7 | | 米グラマン社と共同の改修計画。天安門事件により中止 |
J-7IIH | 1985年3月初飛行 | J-7IIの対地攻撃能力強化型 |
F-7P「スカイボルト」 | 1988年6月初飛行 | F-7Mのパキスタン空軍型。AIM-9サイドワインダーを4発搭載できる |
F-7MP | 1996年試験飛行 | F-7Pの改良型。各種新型アビオニクスを搭載 |
J-7III(J-7C) | 1984年4月初飛行 | Mig-21MF相当の改良型。全天候作戦能力を持つ。性能不良で少数のみ生産 |
J-7IIIA(J-7D) | | J-7IIIの改良型。性能不良で少数のみ生産。2011年11月27日に全機が退役[4]。 |
J-7E | 1990年5月初飛行 | J-7IIの改良型。主翼を全面改修し全天候運用能力を持つ。中国空軍向け |
J-7EH | | J-7Eの海軍航空隊版。洋上飛行に備えて機体やエンジンの各部に防錆防塩処理が施されている |
J-7EB | | J-7Eベースのアクロ機。中国空軍の「八一表演飛行隊」に配備された。 |
F-7MG | | J-7Eの輸出型 |
F-7PG | | F-7MGのパキスタン空軍型。0-0射出座席、ECM装置等を備える |
F-7TG | | F-7MGのタンザニア空軍型 |
J-7FS | | エア・インテイクを下部に移し機首上面にレーダーを搭載したテスト機 |
J-7G | 2002年初飛行 | J-7Eの改良型。KLJ-6Eパルスドップラー・レーダーを装備 |
F-7BG | | J-7Gのバングラデシュ空軍型 |
F-7BGI | | F-7BGの発展型。2012年からバングラデシュ空軍で運用予定[5]。 |
F-7NM | | J-7Gのナミビア空軍型。F-7NGの名称もある |
J-7GB | | J-7Gベースのアクロ機。J-7EBに替わって「八一表演飛行隊」に配備 |
JJ-7 | | J-7の複座練習機型。ベース機体の違いにより数種類の派生型が存在する。 |
■
J-7III性能緒元重量 | 5,275kg |
全長 | 14.89m |
全幅 | 7.15m |
全高 | 4.11m |
エンジン | 成都 渦噴13(WP-13) A/B64.7kN ×1 |
最大速度 | M2.1 |
航続距離 | 1,740km |
上昇限度 | 18,800m |
武装 | 30I型30mm機関砲×2(60発) |
| PL-5赤外線誘導空対空ミサイル(霹靂5) |
| PL-7赤外線誘導空対空ミサイル(霹靂7/R550マジック) |
| PL-8赤外線誘導空対空ミサイル(霹靂8/パイソン3) |
| LT-2レーザー誘導爆弾(雷霆2型) |
| 各種爆弾/ロケット弾 |
乗員 | 1名 |
▼F-7IIA(J-7IIA)
▼J-7III(J-7C)
▼J-7E(J-7IIの改良型)
▼J-7G(J-7Eの改良型)
▼F-7MG(J-7Eの輸出型)
▼F-7PG(F-7MGのパキスタン空軍型)
▼J-7EB(J-7Eの中国空軍八一飛行隊専用機)
▼J-7FS(機首を大幅に改造した試験型)
▼J-7MF(計画のみ)
【参考資料】
[1]Chinese Aircraft: China's Aviation Industry Since 1951(Yefim Gordon・Dmitriy Komissarov/Hikoki Pubns/2008年12月)
[2]Jウイング特別編集 戦闘機年鑑2005-2006(青木謙知/イカロス出版)
[3]Chinese Defence Today
[4]China Defense Blog「Last of the J-7D decommissioned on Nov 27th 2011」(2011年12月31日)
[5]bmpd「МиГ-21 продолжает выпускаться」(2011年11月18日)
【関連項目】
FC-1戦闘機(殲撃9/JF-17/スーパー7)
JJ-7練習機(殲教7/FT-7/MiG-21)
中国空軍