日本周辺国の軍事兵器 - J-16戦闘機(殲撃16)

性能緒元
重量
全長
全幅
全高
エンジンリューリカ=サチュルンAL-31F(推力 ドライ7.6t A/B 12.5t)×2(初期生産型)
黎明WS-10B(推力 ドライ8.6t、A/B 13.2t)×2
最大速度M2.0
戦闘行動半径
上昇限度 
兵器搭載量12,000kg
ハードポイント12箇所
武装GSh-301 30mm機関砲×1(150発)
 PL-15アクティブ・レーダー誘導空対空ミサイル(霹靂15)
 PL-12アクティブ・レーダー誘導空対空ミサイル(霹靂12/SD-10)
 PL-10赤外線誘導空対空ミサイル(霹靂10)
 PL-8赤外線誘導空対空ミサイル(霹靂8/Python-3)
 LT-2レーザー誘導爆弾
 LS-6滑空誘導爆弾(雷石6)
 YJ-91高速対レーダーミサイル(鷹撃91/Kh-31P/AS-17C Krypton)
 YJ-83K空対艦ミサイル
 YJ-12空対艦ミサイル
 KD-88空対地ミサイル(空地88)
 各種爆弾/ロケット弾など12トン
乗員2名

J-16は、瀋陽飛機工業集団公司が開発した多用途戦闘機。J-16の開発では、瀋陽が生産したJ-11B戦闘機の技術をベースに開発が進められ、ロシアから購入したSu-30MKK/Su-30MK2の運用で得られた経験や軍からの改善要求が反映されている[1]。

【開発の経緯】
中国空軍/海軍航空隊では、1990年代以降になると従来から重視していた国土防空能力だけでなく、近海での空対艦/地攻撃能力の向上を意図した装備調達を行うようになった。これは、湾岸戦争(1991)の戦訓や1995年の第三次台湾海峡危機において米海軍との戦力差が明確になったことが背景にある。航続距離の長いSu-27SK戦闘機J-8II戦闘機の導入、ASM運用能力を有するH-6D/G爆撃機JH-7/JH-7A戦闘爆撃機の配備は、上記の方針に基づいたものである[1][2]。

中でも重要な戦力となったのが、21世紀にはいってからロシアから購入されたSu-30MKK/Su-30MK2戦闘攻撃機であった[2]。Su-30MK2は、強力な対地・対艦攻撃能力を有すると同時に、Su-27譲りの空戦能力も兼ね備えた多用途戦闘機であり、対艦攻撃任務と制空任務の双方をこなす能力を有している。複座であり、充実した電子・航法装置を装備していることも、長距離打撃任務にとっては有利な要素となった[2]。Su-30MKK/MK2の導入により、中国空軍/海軍航空隊では遠距離打撃能力の一定の向上を達成したが、その一方で実際の運用のなかで生じた問題点も明らかになってきた。その一つはアビオニクスに関する問題であった[2]。Su-30MKKのNV001VE多モードパルスドップラーレーダーの平均稼働時間は100時間に過ぎず、3〜4回の出撃ごとに整備に回さねばならず整備面での負担となっていた。探知距離や対地目標捜索能力などでも更なる改善が求められていた。もう一つの問題は、Su-30MKK/MK2の兵装はすべてロシア製であり、中国製兵器との互換性を有していない点であった[2]。後に、中国側の独自改良によりPL-12中距離空対空ミサイルや中国製電子戦ポッドの運用能力が付与されるが、限定的な対応にとどまり根本的な解決にはならなかった[2]。

中国軍では、Su-30MKK/MK2に匹敵する性能を備え、自国産兵器との互換性を有する多用途戦闘攻撃機に関する需要が高まっていた。これに答えて瀋陽が開発したのがJ-16である。J-16の開発では、同社が量産化に成功していたJ-11Bの複座型J-11BSをベースにして、アビオニクスの改善や複合材の使用範囲の拡大、ペイロード搭載能力の向上などが施された。

J-16の開発が開始されたのは2008年ごろと見られている[3]。その存在が報じられたのは2011年6月の『漢和防務評論』であり、J-11BSをベースとして海軍の要求に基づいた改良を施したSu-30MK2相当の機体という同機の性格も明らかにされていた。試作機の初飛行が行われたのは同年10月17日[1]。J-16は試作機の生産から6年間にわたって、小数生産と部隊での試験運用が行われた[4]。試験運用に長い時間を要したのは、初期不良の解消や、搭載エンジンの信頼性向上、生産コンポーネントの品質確保などさまざまな問題を解決するために時間が必要だったとのこと[4]。2016年には本格量産に移行し、2017年7月30日に行われた中国軍建軍90周年軍事パレードにおいて部隊配備されたJ-16の編隊飛行が行われている[2]。

【性能】
前述の通り、J-16はJ-11Bの複座型であるJ-11BSをベースに開発された。開発に当たっては複合材の使用範囲を拡大すると共に、レーダー波吸吸収素材を使用してステルス性を向上させている[5]。兵器パイロンはJ-11BSよりも多い12箇所(胴体中心線×2、インテーク下部×2、主翼下×6、翼端×2)となっているが、これは設計の模範となったSu-30MKKと同じ数と配置である[2]。最も搭載量の高い3つのパイロンの搭載限度もSu-30MKKの1tから1.5tに強化されており、より大重量の兵器搭載能力を獲得している[3]。

J-16はSu-30MKK/MK2との類似点が多い機体であるが、外観上の識別点としては、Su-30MKKにはあったレドーム基部の切れ込み塗装が無くなっている、⇒稈璽僖ぅ蹈鵑侶曽の違い、垂直尾翼頂部の形状の違い(J-16は山形、Su-30MKK/MK2は水平)、ぁWS-10系エンジン搭載型に限られるが)エンジンノズル形状の違い、などが挙げられる[1]。

搭載エンジンについては、試作機から初期の量産型はロシア製のAL-31Fを搭載し、それ以降の生産機は中国製のWS-10Bを搭載している[9]。両者はエンジンノズルの形状が異なるので、識別は容易。AL-31Fは中国空軍のフランカーに広く搭載されたエンジンで、十分な運用実績を積んでおり整備インフラも整っていたが、J-16では多用途戦闘機化に伴う機体重量の増加をカバーするため、より推力の高いエンジンの搭載が求められた。その要求を満たす存在が、WS-10Bエンジンであった。WS-10Bは、J-11B/BSに搭載されたWS-10A「太行」の改良型で、エンジン推力はドライ8.6t、A/B 13.2tで、Al-31F(同7.6t、12.5t)に比べ約一トンの推力増加を実現。さらに、中国国産の戦闘機用エンジンとしては初めてとなるデジタル制御化(FADEC:Full Authority Digital Engine Control)を実現したことで、その制御と運用効率を高めている[9]。

J-16は、中国国産のASEAレーダーを搭載している。兵器システムの統合レベルはSu-30MKKよりも進歩しており、飛行制御システム、ナビゲーションシステム、兵装管理システムなどが統合された操作性・認識性に優れたシステムとなっている[2]。国産アビオニクスであることから、(輸入に頼っていたSu-30MKKと比較すると)部品調達面での問題が減少し、新しい兵器との統合化や将来のアップグレードについても問題なく行えるようになった[2]。開発時期が新しいことから、Su-30MKKよりも小型化の進んだ電子機器が使用できるようになったため、電子機器の重量軽減とスペース節約を実現している[2]。これは、複合材の使用範囲拡大とあいまって空虚重量のかなりの軽減を実現する事に成功した。機体重量軽減はペイロード増大にも有利であり、J-16の最大外部搭載量はSu-30MKKの8tから4t増加した12tに達しているとされる[2]。

J-16のAESAレーダーは多用途性能を備えており、空対空、空対艦、空対地モードに加えて、合成開孔レーダーとしての機能も備えている[1]。AESAレーダーはJ-10Cでも採用されているが、機首直径の大きなJ-16はレーダーアンテナ直径の大きなレーダーを搭載することが可能であり、その探知能力は現役の中国戦闘機中で最良のものを有すると見られている[1]。また、現在の軍用機の標準装備となっているデータリンク機能を利用して、自機は電波を発信せずに目標を攻撃することも可能[3]。

キャノピーの前右部には光学/赤外線センサーが搭載されているが、この配置もSu-30MKKと同じ。センサーは中国国産の第三世代赤外線暗視装置、レーザー測遠装置、自動追尾装置、光学照準装置などから構成されており、レーダーを使用せずに目標の探知・照準を行い得る[1]。

国境の域外で敵を迎え撃つ近海防御戦略に対応した長い航続距離を確保しているのもJ-16の特徴。7tの兵器を搭載した上で、1400L増槽2基を搭載する事が可能。Su-30MKKは、外部ペイロード8tの状態で1500kmの作戦行動半径を確保しており、J-16も同様の航続距離を備えているものと思われる。機首左側面にはSu-30MKKと同様の引き込み式空中給油用プローブが内蔵されている[1]。Su-30MKK/MK2と同じように、J-16も空中給油プローブを使用して空中給油機からの燃料補給を受けて航続距離を延伸することが出来る。

【兵装】
多用途戦闘攻撃機として開発されたJ-16は、空対空、空対地、空対艦、電子戦装備など各種任務に応じた多種多様な兵装の搭載能力を有している。空対空ミサイルとしては、中国第三世代AAMであるPL-12アクティブ・レーダー誘導空対空ミサイル (射程70km)とPL-8赤外線誘導空対空ミサイル (射程15km)に加えて、中国第4世代AAMであるPL-15アクティブ・レーダー誘導空対空ミサイル(射程100km超)とPL-10赤外線誘導空対空ミサイル(射程20km)の運用能力も備えている[1]。さらに、離れた空域にいるAWACSや空中給油機といった高価値機を目標とする長射程AAMと推測されるミサイルを搭載したJ-16も撮影されている。

空対艦ミサイルとしてはYJ-83KYJ-12空対艦ミサイル、艦艇のレーダー攻撃用のYJ-91高速対レーダーミサイル(鷹撃91/Kh-31P)といった遠距離からの発射、攻撃が可能なスタンドオフ兵器の運用能力を備えている[[1][2]。主な対艦攻撃兵器となるYJ-12は近年配備が開始された新型対艦ミサイルで、300km以上の長射程と終末段階ではマッハ3前後の超音速を両立させており、YJ-83Kの倍以上の弾頭重量で敵艦艇に対する破壊力向上を図っている[3][4]。YJ-12は中国軍のA2/AD(接近阻止/領域拒否)における重要兵器の一つ[3]。対地攻撃ではKD-88空対地ミサイル(空地88)を初めとする各種精密誘導兵器の運用が可能[1]。

J-16の特徴は、高い外部搭載能力と12箇所あるパイロンを有効活用して、空対空兵装と空対艦/地兵装を同時搭載して、空対空/空対艦/空対地/電子戦など各種ミッションを並行してこなし得る点にある[2]。これは従来のSu-27/J-11やJH-7では十分でなかったところであり、J-11×8機(護衛機)とJH-7×6機(攻撃機)の編隊と、J-16×14機(護衛&攻撃兼用)の編隊を比較すると、空対空戦闘力は3.06倍で、対地攻撃兵器でも全く遜色のないレベルを維持できると試算されている[2]。

【今後の配備状況、派生型について】
J-16の量産は2016年から本格化した[4]。J-16は、空軍のQ-5攻撃機(強撃5)や海軍航空隊が初期に導入したJH-7を更新する機体としてかなりの機数が導入されると見られている[4]。J-16は、2019年までに100機以上が生産され、中国空軍と海軍航空隊への配備が進められている[9]。J-16は長い航続距離と豊富な兵装搭載力を生かして戦術打撃任務に従事し、制空戦闘機であるJ-20戦闘機やJ-10Cなどと連携して運用されると考えられている[3][4]。

J-16の派生型としては、J-16D電子戦機の存在が確認されている[7][8]。J-16Dの試作機は、2015年12月18日に初飛行に成功した[7]。試作機の写真から、胴体内機関砲とキャノピー手前の光学/赤外線センサーが撤去されていることが判明している[7]。これは電子戦用機材の搭載スペースを確保するための措置であるとみられている[8]。翼端には新たに2つのウイングチップパッドが装備された。形状から、米海軍のボーイングEA-18Gグラウラ―電子戦機のノースロップ・グラマンAN/ALQ-218戦術ジャミングレシーバーに似ていることが指摘[7]されており、同様の役割を果たすと思われる。

【参考資料】
[1]「空中作战群 歼击机梯队-首次亮相 歼-20、歼-16和歼-11B战斗机」『兵工科技-纪念中国人民解放军建军90周年沙场大阅兵』2017-16(兵工科技杂志社)83〜91頁
[2]流星「歼-16战斗机助推中国打造攻防兼备型空军」『现代舰船』2017-18(现代舰船杂志社)23〜27頁
[3]银河「作战需求的变革- 浅析中国海军空基对海打击力量的建立与更新」『舰载武器』2014.10/No.203(中国船舶重工业团公司)18〜29頁
[4]「瀋陽批量生產J16多用途戰鬥機」『漢和防務評論』2017年9月号 32〜35頁
[5]青木謙知『サイエンスアイ新書‐中国航空戦力のすべて 中国のテクノロジーは世界にどれだけ迫っているのか』(SBクリエイティブ株式会社/2015年3月25日)116〜117頁
[6]张亦驰「歼-16、亚洲现役第二强战机」『兵器知识』2017年10期(兵器知识杂志社)27〜31頁
[7] 「中国−J-16電子戦機初飛行」『軍事研究』(ジャパン・ミリタリー・レビュー)2016年6月号 ミリタリーニュース 166ページ
[8] Chinese Military Aaviation「J-16D Flanker」
[9]银河「锻刃铸锋 专题 苏-35S的引进对中国四代重型战斗机发展的影响」『舰载武器』2020.02/No.331(中国船舶重工集团公司、22〜44ページ)

【関連項目】
J-11戦闘機(殲撃11/Su-27SK/Su-27UBK)
J-11B/BS戦闘機(殲撃11B/殲撃11BS/Su-27)
Su-30MKK/MKK2戦闘機(中国)

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