日本周辺国の軍事兵器 - JL-2潜水艦発射型弾道ミサイル(巨浪2/CSS-N-5)

▼JL-2の発射試験とみられる画像


JL-2(巨浪2)は中国火箭発動機技術研究院(ARMT:Academy of Rocket Motors Technology)で開発中の中国第2世代の潜水艦発射弾道ミサイル(Submarine Launched Ballistic Missile:SLBM)。NATOコード名はCSS-N-5。中国海軍は現在JL-1(巨浪1)SLBMを12基搭載した092型弾道ミサイル原子力潜水艦(シア型/夏型)を1隻就役させているが、1隻だけでは継続的な核パトロールは不可能で、搭載しているJL-1Aの射程も短いため戦略的価値は高いとはいえないのが現状である。

JL-2の開発は1970年代中頃に開始された。内蒙古のフフホト(呼和浩特)にある第4航空宇宙学院(現ARMT)が主契約社に指名された。当初は射程6,000km、弾頭1tのスペックが求められ、地上用のDF-23弾道ミサイルをベースにして開発が開始された。直径2.25mの固体推進式ロケット・モーターの試験は1983年から実施されている。しかし1985年に入って最大射程の要求が8,000kmに引き上げられたことを受けて、第4航空宇宙学院が同時期に開発に着手していたより高性能なDF-31大陸間弾道ミサイル(東風31)をベースとすることに変更され、JL-2はDF-31と技術的共通性を持つ弾道ミサイルとして開発されることになった。JL-2の射程は7,200〜8,000kmで、3〜4個の多弾頭(各90キロトン)または250〜1,000キロトンの単弾頭が装着可能。ロケットモーターは3段式固体燃料ロケットを採用しているが、これはDF-31と技術を共有している。誘導方式は慣性誘導と恒星更新及び「北斗」衛星航法システムの併用で、半数命中半径(CEP:Circular Error Probability)は300mとされる。

かつてJL-1の発射試験を行った031型弾道ミサイル潜水艦(ゴルフ型)「長城200号」がJL-2の試験発射を担当することになり、1999年までにJL-2を発射するための改装を終えた。JL-2の発射試験の開始時期については、2002年8月[4]もしくは2005年6月[5]など複数の説がある。2005年6月の試験(水上発射と水中発射の両説がある)では青島近海からJL-2の打ち上げを行い、タクラマカン沙漠の目標地点に着弾させた[6][7]。その後も発射試験が継続されているが、JL-2の開発は必ずしも順調には進んでおらず、2003年、2004年、2005年、2008年、2009年に行われた水中発射試験の内、前述の2005年の試験を除いていずれも失敗したと伝えられている[6]。特に2009年の実験ではミサイルの射出は成功したものの発射したJL-2のロケット・モーターが点火せず落下し、潜水状態の「長城200号」に衝突して「長城200号」が大破する大事故になった。

JL-2は現在2隻が就役している094型弾道ミサイル原子力潜水艦(ジン型/晋型)の主兵装となることが予定されている。1隻あたりの搭載数は当初16発と見られていたが、実際には12発であることが確認されている。

JL-2が実用段階に達した場合、094型戦略原潜の母港になると見られる海南省三亜からインド全域やモスクワ、米軍基地の有るグァムなどを射程に収めることが可能となる。また、北方の渤海に展開した場合は、アラスカを攻撃圏内に入れることが出来る。ただし、JL-2の射程では中国の沿岸からではアラスカより南のアメリカ本土やハワイなどを攻撃する事は困難[8]。アメリカ本土の攻撃が可能な外洋に進出するのは094型の低い静粛性から現実的ではない[8]。この点から、JL-2のアメリカに対する核抑止効果は限定的なものに留まらざるを得ないのが否めない所。

2013年4月15日、台湾国家安全局の蔡得勝局長は立法院外交国防委員会での質問に対してJL-2と094型原潜は現在も試験段階であり、実用段階には達していないとの見解を示した[9]。

性能緒元
全長13m
直径2.25m
重量42,000kg
構造3段式固体燃料ロケット
誘導方式慣性誘導+恒星更新+「北斗」衛星航法システム
弾頭重量1,050〜2,800kg
弾頭単弾頭/1,000〜2,800kT
 多弾頭(MIRV)/3〜8個(各90〜150kT)
射程7,200〜8,000km
半数必中半径(CEP)300m



【参考史料】
[1]阿部純一「第二砲兵部隊と核ミサイル戦力」(所載『中国をめぐる安全保障』(ミネルヴァ書房/2007年)
[2]Strategic Weaopns Systems ISSUE45-2006(Jane's Information Group)
[3]Chinese Defence Today「JuLang-2 (CSS-NX-4) Submarine-Launched Ballistic Missile」
[4]MissileThreat「CSS-NX-5/CSS-NX-4 (JL-2)」
[5]Jane's Fighting Ships 2006-2007(Jane's Information Group)120頁
[6]自由時報「中國水下試射 「彈」砸自家潛艦」(2010年1月25日)
[7]軍武狂人夢「093型商級核能攻擊潛艦/094型晉級核能彈道飛彈潛艦」
[8]China Defense Mashup「What China’s SSBN Nuclear Missile Submarines Mean for the U.S.」(2012年11月13日)
[9]中央社即時新聞 CNA NEWS「蔡得勝:陸094潛艦仍研製中」(2013年4月17日)

【関連事項】
DF-31大陸間弾道ミサイル(東風31/CSS-9)
094型弾道ミサイル原子力潜水艦(ジン型/晋型)
中国海軍