日本周辺国の軍事兵器 - Ka-31早期警戒ヘリコプター(Ka-29RLD/へリックスB)



Ka-31(開発当時の名称はKa-29RLD。NATOコードネームは「Helix-B」)はソ連のカモフ設計局により開発された早期警戒ヘリコプター。

2010年5月21日のARMS−TASS通信の報道によると、ロシアのクメルタウ航空機製造工場(KumAPP)が中国との間でKa-28対潜哨戒ヘリコプター9機とKa-31早期警戒ヘリコプター9機を供給するための契約に調印したとの事[1]。Ka-28は既に中国海軍で運用されていたが、Ka-31の調達は初の事例となる。その後、2010年12月には中国海軍航空隊の機体ナンバーが記載されたKa-31の写真が撮影され、同機が中国海軍に就役していることが確認された[2]。

【Ka-31について】
1980年代、ソ連海軍では建造を計画していた1143.5型重航空巡洋艦(後のアドミラル・クズネツォフ級)に搭載するための空中早期警戒機の開発を各設計局に指示していた。これを受けて、アントノフ設計局はAn-71双発ジェット旅客機をベースとしたAn-71/An-88Rを、ヤコブレフ設計局は新規開発の双発ターボプロップ機であるYak-44Eの開発を進めていた[3][4]。しかし、何れの機体もその実用化は1990年代以降になると見られており(実際にはソ連崩壊後に開発は中断されてしまう)、これらの機体の完成までに何らかのストップギャップとなる早期警戒機が必要とされていた。

1985年、この状況を受けてソ連海軍ではカモフ設計局に対してKa-29強襲輸送ヘリコプターをベースにして早期警戒用レーダーを搭載した機体を開発することを命じた[5][6]。なお、[7]によるとKa-31の開発は1980年とされている。開発当初はKa-29の派生型ということで「Ka-29RLD」の名称が付与されたが、後にKa-31に改称されている[6]。試製01号機は1987年に完成したが、長期に渡る試験と改修が繰り替えされたため(ソ連崩壊による混乱も影響か?)、ロシア海軍への採用は1995年にまでずれ込む事となった[6]。現在、ロシア海軍(2機)とインド海軍(9機)により運用が行われている[5]。

【機体性能】
Ka-31は、前述の通りカモフ設計局のKa-29と(さらにKa-29のベースとなった)Ka-27対潜哨戒ヘリコプターを元に開発された。

Ka-31のコクピットはKa-29と同じくKa-27より幅広のものが採用されており、乗員の保護のため防弾装甲が施されている。乗員はパイロットと航法要員の二名。航法装置としてPNK-37D飛行・航法システム、INS-2000慣性航法システム、クロンシュタットKabris 12チャンネルGPS、デジタル地形マッピング装置、障害物警告装置などを搭載している[7]。PNK-37Dは、慣性航法システムとGPSを利用して自機の正確な位置を測定しつつ、指定されたルートを自動操縦で飛行することが可能[6][9]。

Ka-31はカモフのトレードマークともいえる同軸反転式ローターを採用している。ローターは3枚ブレード2基が同軸で反転する全関節型[8]。ブレードはカーボンとグラスファイバーの桁に13個のポケットを設けた複合材製である。全ブレードには電熱式の防氷装置があり、下側ブレードには防振ダンパーが取り付けられている[8]。胴体は金属製セミモノコック構造で、底部は水密構造になっている[8]。尾部はアルミ合金と複合素材製。エンジンはイソトフTV3-117VMAR(2,190shp)2基[7]。空気取り入れ口は電熱防氷され、エンジンカバーは開閉時には整備用スタンドになる[8]。床下に配置された燃料タンクは、タンク内壁にポリウレタン発泡剤を充填しており、被弾時の燃料漏れを防ぐ様になっている[7][8]。ローター・ブレーキとAPUは標準装備されている。「TA-8Ka」APUはエンジン区画の後部に搭載されており、レーダーや電子装備への電力供給を行う[7][8]。テイルコーン内部にはフライトレコーダーが搭載されている[7]。

Ka-31の最大速度は255km/h、レーダーを展開した状態での哨戒速度は100km/h、飛行高度は1,500〜3,500m。航続距離はレーダーアンテナ収納状態で600km。上昇限度は5,000m、ホバリング上昇限度は3,500m。最大哨戒時間は2.5時間[6][7][10]。

【早期警戒システム】
Ka-31が搭載している早期警戒レーダーE-801M「OKO」は、ニージニーノブゴロト電波工学研究所によって開発された。同レーダーはLバンドPESA(Passive Electronically Scanned Array)方式のフェイズド・アレイ・レーダーで、レーダーアンテナには96個のレーダー素子が装着されている[9]。E-801Mの大型の旋回式レーダーアンテナ(重量200kg、全長5.72m、面積6平方メートル)を如何にしてヘリコプターに搭載するのかは、Ka-31開発における大きな課題であった[6][9]。カモフは、このレーダーアンテナを胴体下面に密着させて搭載する事により、離着陸時や飛行中の抵抗にならない様にし、使用時には下側に90度ひねって垂直に立てて、アンテナの旋回の邪魔にならないように主脚を上側に折りたたむという手法を採用した[8]。当然、アンテナを展開している状態での着陸は不可能であるが、緊急着陸などの際には、レーダーアンテナの装着部に仕込まれた爆発ボルトを作動させてアンテナを切り離す[7]。

E-801Mの最大探知能力は、戦闘機大の空中目標の場合100〜150km、水上艦艇の場合最大250〜280km。同時に20もしくは40目標の追跡を行う事が可能([6]では20、[7]では40目標とされている)。Ka-31は、水上目標や空中目標の捜索・探知を行いつつ、それぞれの目標の追尾を同時に遂行する能力を有している[9]。自動モードでは、レーダーにより目標捜索・探知を行いつつ、データリンク機能を使用して他の部隊に情報を伝達する[6]。

通常、Ka-31は母艦や基地から150km程度離れた高度1,500〜3,000mの空域に展開して哨戒飛行を実施する[9][10]。航法要員がレーダーシステムを作動させると、収納状態のレーダーが展開して10秒で1回転のスピードで旋回を開始する[7]。レーダーを作動モードに切り替えた後は、システムは自動制御されるので乗員による操作は必要なく、航法要員はコクピットのKABRIS-31レーダーディスプレイに表示される目標情報に注視できる[7]。Ka-31後期型では、装備の近代化が図られており、BAGET-54コンピュータ、MIF-10多機能ディスプレイ、PS-3戦術入力パネルなどが採用されており能力や操作性を高めている[9]。この改修により、移動中の地上目標をディスプレイに表示することも可能となっている[9]。

Ka-31は、艦隊の周囲に展開して早期警戒任務を行う。艦隊から約100km前後の空域に展開して高度3,000mで早期警戒活動を実施した場合、艦隊から200km離れた空域までをカバーする[9]。仮に時速800kmの飛行目標が接近してきた場合、艦隊にたどり着く10分前にはKa-31から目標情報が伝達され、艦隊は十分な対応時間を確保することが出来る[9]。

Ka-31は、E-801Mレーダーシステムを使用して目標の探知を行うが、固定翼機の早期警戒管制機に比べて機体が小型で乗員数が限定されている事もあって、自機による管制任務を行うことは困難。そのため、Ka-31はデータリンクシステムを利用して地上や艦艇の指令・管制センターにリアルタイムで情報の送信を行い、これらの指令・管制センター各艦艇や航空機に対して管制を実施するという手法を採用している[6]。水平線外の目標に対する情報をデータリンクにより艦隊や送信して、対艦ミサイルなど長射程の誘導兵器の能力をフルに発揮させることも可能。また、Ka-31はこれらのミサイルに対して中間誘導を実施する能力も有している[9]。なお、Ka-31は米軍のMIL-STD-1553Bに相当するデジタル・データバスをソ連の軍用機としては早期に導入してアビオニクスの統合化を行っているとされる[9]。

【中国海軍におけるKa-31の位置づけ】
ヘリコプターを使用した早期警戒機はKa-31以外にもイギリスのシーキングAsaC Mk.7やイタリアのEH-101などが存在する。これらは、固定翼早期警戒機の運用が困難な小型空母でも早期警戒機の運用を可能としたが、その反面で固定翼機ほどのペイロードがないため搭載可能な装備に限界があり、飛行速度や航続距離においても遜色がある。また、固定翼機ほどの高高度性能を有していないため、カバーできる空域の範囲も限定されるなどのデメリットも抱えている。

上記のような限界はあるものの、中国海軍にとっては艦載可能な早期警戒機であるKa-31の導入は大きな意義を有している。空母を保有していない中国海軍では、水平線外の敵目標を探知するには対潜ヘリを飛ばすか、海軍航空隊のY-8Jなどの陸上基地から飛来する哨戒機から情報を得る必要があった。Ka-31は、通常の対潜ヘリよりも遥かに高い対空・対水上目標探知能力を備えており、艦隊が自前で利用できる早期警戒機を得られるため戦術的柔軟性が増すことになる。実際に、2014年12月に西太平洋上で行われた東海艦隊と北海艦隊による「機動六号」対抗演習では、東海艦隊の052C型駆逐艦 #151「鄭州」が、Ka-31×1機を搭載して艦隊の早期警戒任務に投入したことが報じられている[12]。

中国では空母用の艦載用早期警戒機としてZ-8ヘリコプターをベースにしたZ-18J早期警戒ヘリコプターを実用化し、さらに固定翼早期警戒機の開発を進めているが、これらの機体の開発と実用化には相応の時間を要した[9]。Z-18Jの実用化に先立ってロシアからKa-31を導入したことで、中国海軍は早期警戒機を実際に保有して運用ノウハウを蓄積出来るようになった。Ka-31が空母「遼寧」で運用されないにせよ、人員の育成やノウハウの蓄積という点で将来の航空母艦保有に向けた先行投資になった可能性は大きいと推測される。

Ka-31は中国海軍での運用中に段階的なアップグレードが実施されているが、特に重要なのは中国海軍のデータリンクシステムとの統合であった[13]。これにより、艦艇や航空機など他ユニットとの情報共有が可能となり、戦術的有用性を大きく向上させたと判断し得る。中国軍のデータリンクと統合されたことで、水上戦闘艦艇などが発射した対艦ミサイルの中間誘導を行い、水平線外の目標に対する打撃を行うことが出来るようになった可能性も指摘されている[13]。

性能緒元
離陸重量12,500kg
全長12.5m
ローター直径15.9m
胴体長11.25m
全幅3.8m
全高5.6m
エンジンイソトフTV3−117VMAR 2,190shp ×2
最大速度255km/h
哨戒速度100km/h
航続距離600km(レーダーアンテナ収納状態)
上昇限度5,000m
ホバリング上昇限度3,500m
最大哨戒時間2.5時間
乗員2名

【レーダー性能】
アンテナ面積6平方メートル
アンテナ回転数6回転/分
目標同時探知数40
レーダー旋回角度360度
最大探知距離(水上艦艇)100〜200km

▼機体下部のレーダーアンテナを展開・回転させるKa-31AEW


[1]АРМС-ТАСС「Кумертауское авиапредприятие успешно реализует контракты на поставку в Китай вертолетов Ка-31 и Ка-28」(2010年5月21日)
[2]China Defense Blog「Two Kamov Ka-31 naval airborne early warning helicopters spotted.」(2010年12月8日)
[3]施征「随風而逝的前蘇聨艦載預警機」(『艦載武器』2010年3月号(No.127)/中国船舶重工業集団公司/64〜69頁)
[4]Стелс Машины「Як-44」
[5]Yahoo!ブログ〜ロシア・ソ連海軍報道・情報管理部機動六課「早期警戒用ヘリコプターKa-31」(2006年10月29日)
[6]Уголок неба - Большая авиационная энциклопедия「Камов КА-31」
[7]Air Force Technology「Ka-31 Radar Picket Naval Helicopter, Russia」
[8]『世界航空機年鑑2006〜2007』酣燈社 362〜363頁
[9]小飛猪「卡-31対中国海軍的意義」(『艦載武器』2011年01月号(No.137)/中国船舶重工業集団公司/73〜79頁)
[10]カモフ社公式サイト「Ka-31」
[11]Global Ssecurity「Ka-31 Helix-B」
[12]天鷹「也談”鄭州”艦実兵対抗的失利」(『艦載武器』2015年06月号(No.219)/中国船舶重工業集団公司/26〜30頁)
[13]The WarZone「China's Massive Fleet Of Radar Planes And The Strategy Behind It」(ANDREAS RUPPRECHT, THOMAS NEWDICK/2023年4月5日)https://www.twz.com/chinas-massive-fleet-of-radar-...

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