日本周辺国の軍事兵器 - M60A3戦車

■性能緒元
重量51.6トン
全長9.44m
全幅3.53m
全高3.29m
エンジンAVDS-1790-2C 空冷ディーゼル 750hp
最高速度48.3km/h
航続距離480km
武装M68 51口径105mmライフル砲×1（63発）
　12.7mm重機関銃×1（900発）
　7.62mm機関銃×2（5,950発）
装甲250mm（車体前面）
乗員4名（車長、操縦手、砲手、装填手）
M48中戦車に変わる後継戦車計画として、またソ連の新型戦車T-54Aに対抗可能な戦車として誕生したのがこのM60主力戦車である。既にT-54Aは部隊への配備が急速に進んでいた事から開発期間を短縮するため、M48をベースとして設計作業が進められた。開発の際に要求されたのは105mm砲の装備に加えて軽量化とローシルエット、ディーゼル・エンジンの採用、乗員の視界向上、対NBC能力の導入など。1959年3月にはM60として制式化が行われ、1982年の生産終了まで各型合わせて1万5,000輌以上が生産された。アメリカ以外に25ヶ国を超える西側各国において採用されたベストセラー戦車となった。

M60はM48の強化発展型と位置づける事ができる。このため車体こそ前部が避弾径始を図って適切な傾斜が与えられた圧延装甲板に変更され防御力の向上が見られるが、基本的には舟形の溶接式車体構造などM48のものを踏襲している。車体前部から操縦室、砲塔と戦闘区画、機関室に分けられ、戦闘区画と機関室の間には隔壁が設けられている。操縦席には専用のハッチが用意され、ハッチ前方に装備された3基のペリスコープで視界を得るが、中央のものは夜間操縦用の赤外線タイプに換装できる。車体後部に配された機関室には、コンチネンタルADVS-1790-2系ディーゼル・エンジンを中心としたパワーパックが収められ、エンジンの整備性向上を図って機関室上面には多数の点検ハッチが設けられているが、これもM48と同様である。砲塔はM48と大差ない鋳造製の亀甲形が用いられており、車長用としてM48A1で導入された砲塔内から操作可能な12.7mm機関銃を装備するキューポラがそのまま踏襲されている。主砲であるM68 105mmライフル砲はAPDS弾を用いた場合の初速1,470m/s、射距離1,000mで300mmの装甲板を貫通可能と言われている。発射速度は毎分6〜8発と高く、有効射程は2,000mに達する。射撃統制システムは車長、砲手ともに光学式ペリスコープを備え、砲手には照準用としてM17A1ステレオ式測距器が備えられ、これにM16弾道計算機を組み合わせて高い精度を得ている。M60の対NBCシステムは空気加圧装置と空気清浄装置からなるもので、戦術核の使用を前提とした装備であり制式戦車としては初の導入であった。

M60A3はM60シリーズの最終生産型で、M60A1で導入された新型鋳造溶接砲塔にM21アナログ/デジタル式弾道コンピュータ、YAGレーザー測距器、熱線映像システムなどが新たに装備され、命中精度はM60A1を30％以上上回り、夜間の戦闘能力は2倍以上になったと言われる。またサスペンションが強化されて機動力が向上しており、主砲の砲身にはサーマル・ジャケットが装着され、砲塔の両側面にはM239発煙弾発射機が標準装備されるようになった。

【台湾におけるM60A3】
台湾は1980年代にM60の提供をアメリカに求めたが、紆余曲折を経てM60A3の車体にM48A5の砲塔を搭載して近代的なFCSを搭載したCM11戦車「勇虎」（M48H）を開発生産することで落ち着いた。

その後、アメリカは方針を転換し、M60A3の台湾への輸出を承認するに至り、台湾陸軍は1994年にアメリカ政府と160輌のM60A3を購入する取り決めに合意し、これらのM60A3は1995年から1998年にかけて台湾に送られた。さらに1996年6月にはM60A3 300輌を2億2,300万ドルで追加購入すると発表された。以上の情報から、現在台湾陸軍に配備されているM60A3は460輌と思われる（1991年に110輌のM60A3が台湾に輸出されたとする資料もある）

2010年11月24日、台湾海軍陸戦隊第66旅戦車営（大隊に相当）へのM60A3配備式典が行われた[2]。同部隊では今回の改変に伴って部隊装備をM41D軽戦車からM60A3×44輌に更新した。海軍陸戦隊では長らくM41軽戦車の運用が行われてきたが、装備改変によりその機動力と打撃力が大幅に向上するものと期待されている。

【アップグレード計画】
2022年3月10日の報道によると、台湾陸軍は2025年までに40両のM60A3にアップグレード改修を行うことを決定したとの事[3][4]。予算は4億4401万新台湾ドル。開発は国家中山科学技術研究所が担当し、M60A3の射撃統制システム、砲制御システム、照準システムを近代化する計画。40両という数字は台湾陸軍のM60A3の総数の8.7%に過ぎないが、これは試験段階でありアップグレード後の運用結果が良好であれば、段階的に他のM60A3にも改修を行っていく予定[3]。

記事によると台湾陸軍は現在460両のM60A3を保有しており、金門、澎湖、台湾東部の花蓮や台東に配備されている[3]。

M60A3は戦後第二世代戦車であり、現時点では火力、防御力、機動力、情報ネットワークへの対応など、多くの点で立ち遅れが否めない状況であるのは否定できない。台湾はM1A2T「エイブラムズ」戦車の導入を決めているが、購入台数は108両に過ぎず、M60A3とCM11は今後も台湾の戦車部隊の数的主力の地位を占め続けることになる。長期にわたって運用する上では戦力の陳腐化を防ぐための近代化改修は必須である。台湾陸軍では2016年にもM60A3のアップグレード計画を立案しており、この時の計画では、戦車砲を105mmライフル砲から120mm滑腔砲に換装、砲塔駆動用の油気圧系統や弾道計算機を新開発のもので更新することが盛り込まれ[4][5]、自動装填装置の採用も検討されていた[6]。しかし、一両当たりの改修費用が1億新台湾ドルを要すると見積もられたことで計画は頓挫している[3][4]。

今回のアップグレードでは射撃統制システム、砲制御システム、照準システムの近代化が行われるが、エンジンについてはAVDS-1790-2Cの信頼性改善型AVDS-1790-2CAUに換装されるものの最高出力は据え置きになったので、防御力や機動性の改善についての余地は少なくなったと見られ、今後の動向が注目される（エンジンについては後述）。

2023年3月7日の報道によると、台湾陸軍はRENKアメリカ社との間で、200輌を超える近代化改修を受けるM60A3向けに、既存エンジンの能力向上型AVDS-1790-2CAUと関連コンポーネントについて総額72.45億新台湾ドル規模の契約に調印した[7]。契約期間は2023年3月31日から2028年3月1日までで、その期間内に納入を完了し、南投県にある陸軍兵整中心において改修作業が実施される予定[7][8]。AVDS-1790-2CAUは既存のAVDS-1790-2Cと同サイズでありエンジン換装に要する改修は最小限に済ませることが可能[7]。エンジン出力は750hpと変わりないが、新しい技術を応用することで信頼性、整備性、耐久性の改善が見込まれている[7]。当初、陸軍ではエンジンを950〜1200hp程度のものに換装することを意図していたが、M1A2T戦車108輌の調達による予算の制約もあって出力向上は断念し、最短期間で性能向上を達成し得る選択肢が採用された[7]。なお、AVDS-1790-2CAUには出力向上の余地が想定されており、将来必要になればパワーアップも可能とのこと[7]。

台湾陸軍が保有しているM60A3は2023年には運用寿命に達するため、寿命延長改修は喫緊の課題となっている[8]。M1A2Tの導入という大事業と並行して、予算の制約の中で、最短の時間と費用で改修を実施し、戦力の陳腐化を防ぎ信頼性を向上させるという課題を解決する必要に迫られた結果がAVDS-1790-2CAUの選択であると評価できる[8]。長期運用ではエンジン以外のコンポーネントについても確保が求められるが、台湾ではすでにM60A3のエンジン関連部品の製造経験があり、トーションバーの内製化にも成功しているので、今後はさらに必要とされるコンポーネントを出来るだけ国内調達する体制を構築することが必要だと指摘されている[9」。
【参考資料】
[1]戦車名鑑現用編
[2]國防部青年日報社-軍事新聞網「陸戰隊M60A3換裝編成 戰力大幅提昇」（2010年11月24日）
[3]早报「台拟在2025年前 更新40辆M60A3战车性能」（来自 / 联合早报、发布 / 2022年3月10日）https://www.zaobao.com.sg/news/china/story20220310...
[4]联合早报网「台拟在2025年前 更新40辆M60A3战车性能」（2022年3月10日）https://www.zaobao.com/news/china/story20220310-12...
[5]自由時報電子報「M60A3戰車升級案 陸軍證實評估中」（2019年7月7日/記者涂鉅旻/台北報導）https://news.ltn.com.tw/news/politics/breakingnews...
[6]自由時報電子報「�甼�火力 M60A3戰車將升級」（2017年10月6日/記者涂鉅旻/台北報導〕）https://news.ltn.com.tw/news/politics/paper/114124...
[7]上報 / 要聞「陸軍M60A3戰車更新性能提升型引�押《∨鰭�與美廠商簽約、採購案月底啟動」(朱明/2023年3月7日) https://www.upmedia.mg/news_info.php?Type=1&Serial...
[8]自由時報電子「《報圖解軍武》M60A3TTS「換心臟」 性能提升一次看」（2023年3月7日）https://news.ltn.com.tw/news/politics/breakingnews...
[9]上報 / 要聞「【落實國防自主】陸軍M60A3戰車更換引�屋董《�內廠商爭在台生產供應鏈」（朱明/2023年1月20日） https://www.upmedia.mg/news_info.php?Type=1&Serial...
台湾陸軍
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戦車名鑑-現用編 ミリタリーイラストレイテッド　田中 義夫 (編集)/出版社:光栄