日本周辺国の軍事兵器 - P-12短距離弾道ミサイル






性能緒元
弾頭重量450kg
推進装置固体燃料ロケットモーター
最大射程150km
誘導システム慣性航法+GPS
弾頭榴弾、サーモバリック、クラスター弾、地中貫通型など
命中精度(CEP)80〜120m(慣性航法方式のみ)、30〜50m(慣性航法+GPS)
発射準備時間3〜5分(遠距離攻撃や精密射撃の際は10〜20分)

P-12短距離弾道ミサイルは、2006年に広東省珠海市で開催された珠海国際航空展で初公開された戦術弾道ミサイルである。開発元は、中国航天科工集団公司(CASIC)。

中国では既に、海外市場向けにB-611短距離弾道ミサイルを開発していたが、P-12も中国軍向けではなく国際市場への売り込みを目指して開発されたミサイルである。P-12は、B-611に比べ後発であるため、システムとしての完成度はより高い物になっている。

【性能】
P-12はロシアのOTR-21トーチカ(NATOコード:SS-21 Scarab/スカラベ)やイスカンダル-E(NATOコード:SS-26 Stone/ストーン)、そして中国のB-611などと同クラスの短距離弾道ミサイルであり、部隊配備される場合は、集団軍所属の一個師(師団相当)が戦術ミサイル師となる。一個ミサイル師は6個ミサイル団(連隊相当)から構成される。P-12は、部隊への火力支援を行うほか、その長射程を生かして敵機甲部隊や砲兵の集結地、後方の司令部や補給地点など高い価値を有する目標に対して攻撃を行うこと想定している。特にP-12は射撃精度が向上していることにより、中国の従来の戦術弾道ミサイルよりも効果的な打撃を行うことが可能。

P-12は、弾頭重量450kg、最大射程150kmという性能を有している。大量破壊兵器の拡散防止を目的とした国際規制であるMTCR(Missile Technology Control Regime:ミサイル技術管理レジーム)により、搭載能力500kg以上、射程300km以上のミサイルは輸出が厳しく制限されるため、P-12の性能はMTCRの規制を受けない範囲内に抑えられた。

P-12ミサイルは、尾部に4枚の安定翼が装着されているが、ミサイルの機動は噴射口に装備された推力偏向装置によって行われるため、安定翼は固定されておりミサイルの軌道変更には関与しない。推力偏向装置を採用したのは、飛翔中のコース変更を可能とし、また命中精度を向上させる目的によるものであった。飛翔中のコース変更は、相手側の弾道ミサイル迎撃システムに対抗するためであり、この能力を利用して、別方向に発射したように見せかけて、大きくコースを変えて本当の目標を攻撃することも可能。P-12は、同クラスの戦術弾道ミサイルであるB-611よりも高高度を飛翔し、より高い弾道コースを取る。これにより、より急角度、かつ高速で降下することになり、迎撃側の対処を困難にする狙いがある。

P-12の誘導方式は慣性航法方式とGPS方式の併用であり、CEP(Circular Error Probability:半数命中半径)は慣性航法方式のみの場合80〜120m、慣性航法方式とGPS方式併用の場合で30〜50mの精度を確保している。弾頭には、榴弾、サーモバリック、クラスター弾、地中貫通型など任務に応じて各種タイプが用意されており、容易に弾頭を換装することが可能。クラスター弾には、戦車攻撃用の成形炸薬子弾と対人用子弾の2種類が用意されている。

P-12のシステム構成は、ミサイル本体、自走発射機、指揮車両、通信車両、予備ミサイル輸送車で構成される。自走発射機は、ベラルーシの技術支援により開発されたTEL(Transporter-Erector Launcher 輸送・起立・発射機)に二発のミサイルを搭載している。ミサイルは車内に収納されており、発射直前に上部扉を展開してミサイルを直立させて発射する。ミサイルを車内に納めることで、ミサイルが気温や湿気による影響を受けずに済み、砲爆撃による断片被害を防ぐことが出来る。また、外見からはミサイル搭載車両であることを確認できないため、敵からはTELなのか輸送車両なのか区別できなくなるという効果もある。TELのミサイル搭載時の全備重量は20tであり、IL-76MD輸送機(キャンディッド)などの大型輸送機による空中輸送も可能と見られる。

システムの自動化が進められており、ミサイル発射の指令を受けてから、諸元を入力して発射するまでに必要な時間は3〜5分間という短時間で行うことが可能。ただし、遠距離目標の攻撃、もしくは高い命中精度が求められる際には、詳細なデータ入力が必要となるため10分から20分の準備時間が必要になる。

【P-12の現状】
P-12の輸出窓口となっている中国精密機械進出口公司(CPMIEC)では、P-12は、コンパクトで軽量なシステムであり、命中精度や威力に優れ、僅かな時間で発射が可能で、敵の防空システムに対する突破能力に優れた信頼性の高いシステムであり、TELは野外機動力に優れ生存性が高く、システム全体の整備補修の負担が軽いことを宣伝している。

P-12は、前述のように輸出向けに開発された戦術弾道ミサイルであり、そのスペックはMTCRの基準を満たすように、弾頭重量450kg、最大射程150kmに制限されている。より長射程でペイロードの大きなDF-11やDF-15を保有している中国軍にとっては、P-12を保有する意義は乏しく、中国軍への配備は行われていない。(「Research IDEX 2007 Showcases Chinas Productive Weapons Sector」によると、IDEX2007兵器ショーで、中国当局者はP-12やB-611が中国軍でも採用されるであろうと述べたとされるが、現時点では中国軍への配備は確認されていない。)

中国精密機械進出口公司(CPMIEC)では、P-12とB-611の2つの戦術弾道ミサイルを各国に売り込んでいる。B-611はトルコでJ-600T「ユルドゥルム」として採用されたが、P-12は現時点では採用の報は無い。

【参考資料】
CASIC P12 Missile Weapon Systemパンフレット
International Assessment and Strategy Center「Research IDEX 2007 Showcases Chinas Productive Weapons Sector」(Richard Fisher, Jr)
鼎盛軍事「中国地地戦術導弾専家劉靭称PL12導弾很厉害」
新浪網 「中国先進武器現身阿布扎比:嚇壊美国安全専家!」
中国武器大全「中国航天科技集団最新型P-12地地戦術導弾系統」
中華網「中国軍工披露P12導弾詳情 携帯450公斤弾頭」
外務省公式サイト「ミサイル技術管理レジーム(MTCR:Missile Technology Control Regime、大量破壊兵器の運搬手段であるミサイル及び関連汎用品・技術の輸出管理体制)」

中国第二砲兵