日本周辺国の軍事兵器 - QW-1携帯対空ミサイル(前衛1/ヴァンガード1)

▼QW-1


▼射手が着座して使用するQW-1の連装式発射機

▼QW-1の発展型であるQW-11(手前)、QW-18(奥)。


QW-1性能緒元
ランチャー全長1,532mm
ミサイル全長1,477mm
ミサイル直径71cm
全備重量16.9kg
ミサイル重量10.36kg
弾頭HE+弾片(1.5kg)
推進装置固体燃料ロケットモーター+アシスト用ブースター
最大速度600m/s
射程500〜5,000m
高度30〜4,000m
誘導方式全方位赤外線誘導

QW-11性能緒元
ミサイル全長1,477mm
全備重量16.9kg
ミサイル重量10.68kg
弾頭部重量1.42kg
推進装置固体燃料ロケットモーター+アシスト用ブースター
射程500〜5,000m
高度30〜4,000m
誘導方式全方位赤外線誘導

QW-18性能緒元
ランチャー全長1,576mm
ミサイル全長1,526mm
全備重量18kg
ミサイル重量
弾頭部重量
推進装置固体燃料ロケットモーター+アシスト用ブースター
射程
高度15〜4,000m
誘導方式全方位赤外線誘導

QW-1(前衛1号/Qiánwèi-1/Vanguard-1)は1994年の英ファーンボロ航空ショーで初公開された中国第二世代の携帯地対空ミサイル[1]。開発は中国航天科技集団公司(China Aerospace Science and Technology Corporation:CASIC)傘下の第119工廠(瀋陽航天新楽有限責任公司)によって行われ、輸出は中国精密機械進出口公司(China National Precision Machinery Import&Export Corporation:CNPMIEC)が担当している[3]。

QW-1は主に、低空域のヘリコプターや軽攻撃機などの経空脅威に対抗する事を目標とした装備である。中国第一世代の携帯式地対空ミサイルであるHN-5に比べて、赤外線シーカーの探知能力や命中精度の改善、飛翔速度の増加など多くの点で能力向上がなされている[1]。

QW-1は、ミサイル本体、ミサイルランチャー、光学照準サイト、敵味方識別装置、バッテリー、赤外線シーカー冷却用ガスボンベ等から構成される[1]。システム全体の重量は17kg。バッテリーと冷却用ボンベは使い捨て。ミサイル先端部のドーム型赤外線シーカーは、冷却により赤外線シーカーの感度を向上させており、HN-5には無かった目標前方からの攻撃能力を獲得している。-40度から+60度までの気象条件下において運用が保証されている。ミサイル本体は、赤外線シーカーと目標シグナルを飛行制御装置に伝える電子回路、飛行制御装置、弾頭部(HE+弾片)、アシスト用ブースターと固体ロケットモーター、ミサイル先端のカナード翼4枚と尾部の切り落としデルタ翼4枚などのコンポーネントから構成される[1]。ミサイルはランチャーに収納されており、フリーメンテナンスで設定保管期間は10年間[1]。

ミサイル発射派手の手順は以下の通り。レーダー警戒システムなど外部からの情報、もしくは目視により目標の飛来を確認後、指揮官が射手に発射準備を命じる。射手はミサイルランチャーの前後のカバーを取り、肩に担いで射撃体勢に入る[1]。システムが作動して射撃体勢に入るまでに必要な時間は10秒[1]。ミサイルを射撃体制にすると目標が飛来する方向を向いて目視で目標を確認してその距離を判断[5]。目標が敵機であることを確認すると、引き金を途中まで引いてバッテリーとシーカー冷却用のガスボンベを作動させる[1]。ついで射手は目標を追尾、シーカーが目標をロックオンした事を知らせる信号と音声が作動するとランチャーの角度を定めて引き金を完全に押し下げる[1][5]。ロックオンに必要な時間は3秒とされる。引き金を引くとブースターに点火されミサイルが発射、0.3〜0.8秒後にロケットモーターの噴流炎が射手に被害を与えない安全な距離まで到達した後、ブースターは切り離されて本体のロケットモーターが点火される[1]。ミサイル弾頭部のカナード翼は機体制御を行い、尾部のデルタ翼は安定翼としての機能を果たす[1]。発射後の目標への誘導は赤外線シーカーによって自動的に行われるため、射手は直ちに次の行動に移る事が出来る[1]。QW-1はHN-5に比べて撃墜確率が40%向上しているとされる[5]。

QW-1は、1990年代後半から中国軍での運用が開始された。輸出も積極的に進められており、パキスタンやイランへの売込みに成功している[4]。両国ではQW-1を輸入すると共に、QW-1のライセンス権を取得して「Anza Mk.2」(パキスタン)、「Misagh-1」(イラン)の名称で量産化に漕ぎ着けている[3][4]。Anza Mk.2はパキスタン以外にマレーシアへの輸出がなされている[4]。1998年にインドとパキスタンとの間で勃発したカルギル紛争では、QW-1/Anza Mk.2が実戦投入されインド空軍機2機の撃墜に成功したとされる[3]。

QW-1は、通常は歩兵が肩に担いで発射されるが、射手が着座して使用する連装式発射機や車輌/船舶に搭載する発射機も用意されている[3]。

【派生型】
CNPMIECではQW-1の実用後も改良型の開発作業を続けており、下記のような各種発展型が実用化され各国への売込みが図られている。
QW-1M2002年の珠海航空ショーで公開されたQW-1の発展型。赤外線シーカーの能力が向上しており低空域での迎撃能力が改善されている。全備重量はQW-1よりもやや重い18kg。QW-1のアイアンサイトは暗視装置装着可能な光学照準装置に変更されている[3]。
QW-1A瀋陽航天新楽有限責任公司と西安天偉電子系統工程有限公司が共同開発したQW-1の発展型[3]。携行輸送可能な対空捜索レーダー(重量30kg、探知距離15km)と4〜5基のQW-1を有線もしくは無線で接続することで、統合化された防空網を構築する。QW-1発射機にはLCDモジュールが追加装備されており、レーダーに探知された目標情報を各射手が直接確認することが出来る。
QW-11(QW-1G)巡航ミサイルや低空域を飛行する航空機に対する迎撃能力を向上させた改良型。当初の開発名称はQW-1Gであったが、のちQW-11と改称された。QW-11では触発信管に加えて新たにレーザー近接信管が採用されている[5]。
QW-18赤外線シーカーを2波長赤外線誘導方式に変更。改良により、巡航ミサイルや超音速目標に対する迎撃能力が向上している[3]。最低射高は30mから15mに改善されている[5]。
QW-192010年にその存在が明らかにされたQW-18の改良型[6]。デジタル自動誘導装置を追加、新しい電動制御翼を導入。信管は触発+近接信管。2012年段階ではまだ輸出許可は下りていない模様[6]。

CNPMIECでは「QW-1」シリーズ以外にも、「前衛2号」(QW-2/ Vanguard-2)「前衛3号」(QW-3/ Vanguard-3)「前衛4号」(QW-4/ Vanguard-4)という一連の携帯対空ミサイルを開発しているが、これらについては別項で扱う。

【参考資料】
[1]Jane’s Land-Based Air Defence 2006-2007「CNPMIEC QW-1 Vanguard low-altitude surface-to-air missile system.」
[2]CNPMIECパンフレット
[3]Chinese Defence Today「QianWei 1 Shoulder-Fired Air Defence Missile」
[4]ストックホルム国際平和研究所公式サイト「The SIPRI Arms Transfers Database」
[5]中国武器大全「“前衛”1/“前衛”11/“前衛”18(QW-1)単兵防空導弾」
[6]Gordon Arthur「中国展示新型QW地対空導弾」(『漢和防務評論』2013年3月号)42ページ

【関連項目】
QW-2携帯対空ミサイル(前衛2/ヴァンガード2)
QW-3携帯対空ミサイル(前衛3/ヴァンガード3)
QW-4携帯対空ミサイル(前衛4/ヴァンガード4)
中国陸軍