Y-8洋上偵察機（Y-8ASA） - 日本周辺国の軍事兵器

中国は1996年にイギリスのRacal社（現タレス社）からスカイマスター空中捜索レーダーを6600万ドルで6～8基輸入した[1][2]。中国軍ではこのSkymasterレーダーを、既に量産体制が整っていて、十分な航続距離を有しており各種機材を搭載可能なY-8輸送機に搭載して洋上監視・早期警戒機とする事を決定した。この機体はY-8Jと呼ばれており、試製01号機は1998年9月26日に初飛行に成功している[2]。

Y-8Jは機首にあった航法士席が塞がれており、そこにSkymaster用の大きなレドームが設けられている[1]。この特徴的なレドームの形状から「大鼻子」の渾名がある[3]。胴体後部に貨物ランプは無く、キャビンはY-8Cのように与圧されている[1]。機内は大幅に配置変更が行われ、哨戒任務に必要な各種機材が搭載されると共に長距離飛行に必要な搭乗員の休息施設も設けられた[3]。航続距離も延伸され、最長飛行時間は11時間となっている[3]。

本機に搭載されたSkymasterレーダー・システムは中国軍が初めて手に入れた近代型機上捜索レーダーである。Skymasterレーダーはイギリス軍のニムロッドMR.2とシーキングAEW.2に装備されているレーダーを改良したLバンドのパルスドップラー・レーダーで、高度1,000m～3,000mを飛行している状態で、空中目標に対して85km（ルックダウン・モード）～110km（ルックアップ・モード）、水上目標に対して最大230～240kmの捜索範囲を有している[2][3]。また海面上の32目標と空中の100目標を同時に追尾する事が可能。Y-8Jの実用上昇限度である10,400mまで上昇した場合、Skymasterは320km×640kmの範囲をカバーする能力を有している[3]。Skymasterレーダー・システムは2台のコンピュータを備えており、一台が探知・観測用、もう一台が攻撃・管制用に使用される。システムを使用して、水上目標捜索、航空目標捜索、気象観測、救難、敵味方識別、電子支援、データリンクなど各任務に対応した操作モードが用意されている[3]。システム各機材の接続方式はMIL-STD-1553B規格が採用されている[3]。

Y-8Jは限定的ながら指揮管制能力も持っており、6機の味方航空機を管制する事ができる[2]。Y-8Jは中国海軍標準のデータリンク機能を有しており、海軍の司令部、水上艦艇や潜水艦、海軍航空隊の航空機に対して探知した目標の情報を迅速に提供することが可能[3]。Y-8Jからの情報を得ることで、水上艦艇は単独では探知困難な水平線外の目標に対する攻撃が可能となる[3]。実際に、022型ミサイル艇がデータリンクを介してY-8Jからの情報提供を受けて、対艦ミサイルで遠距離目標を攻撃するという演習がしばしば実施されているとの事[3]。Y-8J自体も長距離対艦ミサイルの誘導を行う事が出来る可能性もあるが、これは確認されていない[2]。

Y-8Jは少なくとも3機（機体番号はNo.9281、9301、9311、9321が確認[2])が生産されている[2]。この内2機（No.9281、9301）は上海近くの海軍航空隊基地に展開しており東海艦隊の作戦支援任務に従事している模様[1]。アメリカ空母艦隊を追跡する為に、東シナ海に頻繁に出没することが伝えられている[1]。

【2010年3月12日追記】
2010年3月12日、Y-8J哨戒機1機が東シナ海上空を沖縄本島に向けて飛行していたため、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進した。
http://www.mod.go.jp/js/Press/press2010/press_pdf/...

■性能緒元

空虚重量	35,488kg
通常離陸重量	54,000kg
最大離陸重量	61,000kg
全長	34.02m
全幅	38.00m
全高	11.60m
エンジン	哈爾浜渦奬6（WJ6） 4,250shp ×4
巡航速度	550km/h
最高速度	662km/h
フェリー航続距離	5,620km
最長飛行時間	11時間
上昇限度	10,400m
武装	なし
乗員	3～4名

【参考資料】
[1]Chinese Defence Today「Yun-8J Skymaster Maritime Surveillance Aircraft」
[2]Chinese Military Aviation「Surveillance Aircraft ～Y-8J Cub」
[3]陳光文「無形殺～中国運-8系列電子改型機家族」『現代兵器』2009.11（総第371期）10～14頁（中国兵器工業集団公司）

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