日本周辺国の軍事兵器 - Z-8輸送ヘリコプター(直昇8/SA-321Ja)(空軍)

▼Z-8K


▼Z-8KA


性能緒元
Z-8AZ-8K/KA(諸元はZ-8Fのもの)
ローター直径18.9m18.9m
全長(ローター長含む)23.03m23.035m
機体長(ローター長含まず)20.27m18.085m
機体幅(フロート含まず)2,24m2.24m
空虚重量7,031kg7,100kg
通常離陸重量9,000kg
最大離陸重量13,000kg14,500kg
エンジン渦軸6A型(WZ-6A)(最大連続出力:1,370shp)×3プラット&ホイットニー・カナダ社製 PT6B-67A(最大連続出力:1676shp、最大1,940shp)×3
海面最大速度315km/h  
海面巡航速度266km/h255km/h
ホバリング限度1,900m3,000m
上昇限度3,000m5,000m
航続距離830km(フェリー状態)、500km(作戦時)800km(フェリー状態)
武装固定武装なし固定武装なし
乗員2〜3名+兵員27名(最大39名)2〜3名+医療要員1名+傷病者15名
注:諸元はJane’s All the World’s Aircraft 2007-2008と昌河飛機工業集団公司公式サイト、中華網「中国陸軍未来千里眼:直−8預警直昇機」による。

フランス製ヘリコプターSA-321Jaシュペル・フルロンをリバースエンジニアリングにより国産化したZ-8ヘリコプターは、最初に海軍向けの各種派生型が、次に陸軍向け(Z-8A)の生産が行われ、それに続いて空軍向けの機体の生産が開始された。

空軍向けに製造されたのは陸軍向けの機体と同じZ-8Aであり、空軍では同機を空降(空挺)部隊のヘリコプター大隊に配属し、Mi-17やZ-9などと共にヘリボーン作戦での兵員・物資輸送を担当している。他の機体では困難な重装備を空輸することが可能なZ-8Aの大きな搭載力は、空降部隊にとっては魅力的であったと思われる。ただし、配備機数が少数に留まっているのは陸軍航空隊と同じであり、空軍でもZ-8Aの性能や機体の信頼性への不満があるものと推測される。

2007年、空軍でZ-8の捜索救難型であるZ-8K/KAが配備されていることが確認された。Z-8K/KAは、いずれもZ-8シリーズの最新型であるZ-8Fをベースに開発された機体である。

Z-8Fは、Z-8を生産する昌河飛機工業集団公司が、Z-8シリーズの性能向上と信頼性改善を目標にして開発した機体であり、その存在は2002年の珠海航空ショーにおいて公にされた。Z-8Fは、2004年8月28日に初飛行に成功し、2007年に民用機としての証明を得た。

Z-8Fでは、機体設計においてコンピュータを利用した電子設計方式が全面的に取り入れられ、機体構造や機体制御システムは全面的に見直された。Z-8Fの最大の特徴は、エンジンをカナダから輸入したプラット&ホイットニー・カナダ社製 PT6B-67A(最大連続出力:1676shp、最大1,940shp)3基に換装したことである。出力を大幅に向上させたことにより、ホバリング限度はZ-8Aの1,900mから3,000mに、最大離陸重量は13,000kgから14,500kgへと向上した。上昇限度は5,000mとなり、チベット高原の海抜4,500mの地点においても運用が可能な中国では数少ない能力を有する機体となった。エンジンの寿命も大幅に改善しており、前のWZ-6が500時間ごとに修理が必要で、3,500時間でエンジンを換装していたのに対して、Z-8Fでは最初の修理まで3,500時間エンジンを使用できるようになった。3基のエンジンの制御には新型の電子制御システムが採用されている。インテークにはエンジン寿命の延長のために防塵装置が取り付けられており、操縦席上部のインテークの形状が変化している。これは、エンジン排気口の形状の変化と合わせてZ-8Fの識別点となっている。メインローターは、軽合金製から防氷能力を有する複合材製に換装。中国のヘリコプターで防氷機能を有するローターを使用したのはZ-8Fが始めてであった。新型ローターの採用も、飛行性能の改善に寄与している。Z-8Fでは、アビオニクスもアップグレードされ、操縦席はグラスコクピット化され、全ての航空電子システムは集積・デジタル化された。

Z-8Fは、エンジンの換装と全面的な設計の見直しにより、これまでZ-8の欠点として付きまとってきた低い信頼性と性能面での不満という問題を解消することに成功したといえる。ただし、現時点ではPT6B-67Aターボシャフトエンジンはカナダからの輸入に頼っており、部品の安定供給の面で問題が生じる可能性がある。

空軍に採用されたZ-8K、Z-8KAは既出のように、上のZ-8Fをベースに開発された捜索救難型である。両機とも、機首に気象レーダーや前方監視用赤外線暗視装置を搭載しており、悪天候時の飛行能力を強化している。また、捜索救難任務に必要な前方捜索用のサーチライトが設置されている。胴体は水密構造になっており、着水しての救難活動が可能。

胴体格納部は救護スペースとなっており、最大15名の傷病者を搬送するため15台の担架が設置されており、治療要員1名が配置についている。捜索専用装備としては、水上での救難任務において使用するための救命ボート2隻、胴体右の側面ドアの上に救助用の巻き上げウインチ1基を装備する。

Z-8Kは、洋上迷彩が採用されており、主に海上での捜索救難活動を担当する。一方のZ-8KAは、機体はオリーブドラブに塗装されており、陸上(特に山岳・高地)での運用が想定されている。中国において高地での救難活動が可能な汎用輸送ヘリコプターは、アメリカから購入したS-70C-2汎用ヘリコプターと、近年ロシアから購入したMi-17-V5しか存在せず、高高度飛行能力の高いZ-8KAは高地での救難ヘリとして重要されるであろう。元来、Z-8は大型の機体を活かして充実した救難装置を搭載することが可能であり、信頼性が改善され高高度性能や飛行能力が大きく向上したことで、救難捜索ヘリとして潜在能力を十全に発揮できるようになったといえる。

空軍では、Z-8Kが8機、Z-8KAが4機運用されている。2008年5月12日に発生した四川大地震では、全てのZ-8K/KAが四川省に派遣され、地震の被害を受けた地域での救難活動に投入されることとなった。

【Z-8派生型一覧(空軍で運用されているタイプに限る)】
Z-8A中国で生産されたZ-8をベースに製作された戦術輸送型。陸軍航空隊と空軍で少数が運用される。
Z-8KZ-8Fの捜索救難型。海洋迷彩が施されており、主に洋上での捜索救難に当たる。
Z-8KAZ-8Fの捜索救難型。オリーブドラブ迷彩が施されており、主に陸上での捜索救難に当たる。

【参考史料】
Jane’s All the World’s Aircraft 2007-2008(Jane's Information Group)
航空知識2006年5月号(航空知識雑誌社/2006年)「旋翼之路-試飛編・中国直昇機研制試飛掲秘」(杜韮・威長江)
現代艦船2008-02B(中国船舶重工業集団公司/2008年)「中国海軍航空兵族譜之八-直昇機簡史」(老畢)
航空世界2005年10月号(航空世界雑誌社/2008年)「風虎雲龍-中国大型直昇機之路」

Chinese Defence Today
Chinese Military Aviation
Global Security
航空世界
国家国防科技工業局「昌飛公司全力以赴保障抗災救災直昇機使用」(2008年5月14日)
昌河飛機工業集団公司公式サイト
中華網「中国陸軍未来千里眼:直−8預警直昇機」
中国航空工業第二集団公司公式サイト
中国教育資源網 軍事「中国空軍精鋭:第15空降軍」
中国武器大全

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