18世紀の音楽史(主に鍵盤音楽)に関して続編１
最終更新：ID:r1L+G0Bt1g 2009年11月10日(火) 15:48:54履歴
目次 (文章が長くなり読まれるのに不便だと思いますので一部ジャンプ出来るようにしました。)
[18世紀の音楽史(主に鍵盤音楽)に関して書いてみます(第3回 その2-1)]
4．ソナタの変遷と組曲の消滅
4-1．バロック･ソナタ
4-1-1．楽曲としてのソナタ
『ソナタ』の名が付けられた楽曲は、バロック、古典派の両時代に無数に存在する。特にバロック音楽に関していえば、ソナタが具体的にどういった曲種を指しているのかを特定するのは非常に困難です。なぜなら、あまりにも多種多様な楽曲に対してその名称が付されているという現実があるからです。
「もともとソナタという語はイタリア語のソナーレ(なりひびく、演奏する)に由来し、楽器のための作品一般を意味したのである。」（皆川達夫著『バロック音楽』108頁）ということからすれば、そういった現象が認められるのは当然の話なのです。それでもあえてソナタを定義するとすれば、多くの部分、ないしは楽章から成り立っている器楽曲とでも言えるのではないでしょうか。
ここで注意して頂きたいのは、バロック音楽(通常1600-1750頃の時期)では、「ソナタ」は「ソナタ形式」で書かれた曲を意味しているわけではないということです。後の古典派の時代に該当している18世紀末以降のソナタでは、一般的にソナタ形式が使われていますが、この形式が世に現れたのは両時代の移行期である前古典派(1730頃-1750、60頃)の時代になってからです。
それではバロック時代のソナタについて説明していきましょう。
4-1-2．初期のソナタ
「初期のソナタはきまった形式をもたない器楽曲で、16世紀末頃ヴェネツィアで生まれた。強弱と音色の対比の手段としての多群様式や、のちの多楽章性の前段階としての多部分性を特徴とする。」(『カラー図解音楽事典』149頁)
バロック･ソナタはカンツォーナと呼ばれる独奏または合奏による器楽曲から発展したと言われていますが、「ポリフォニックな短い楽節とホモフォニックな短い楽節が対比的にいくつも含まれているカンツォーナは…(中略)…〔イタリアの〕数多くの作曲家たちによって、カンツォーナ、あるいはカンツォーナ･ダ･ソナーレそしてソナタの題名によって作曲され」ました（『新音楽辞典 楽語』330頁）。
最初期のカンツォーナとソナタの例として、ジョバンニ･ガブリエリ(1554/7-1612)作曲の作品を取上げます。
1）カンツォーナ<La Spiritata>
http://www.youtube.com/watch?v=TgptlvJokKs
楽譜: http://www.icking-music-archive.org/scores/raverij...
楽曲解説: 模倣様式が曲全体を通じて認められ、同一の主題的素材や動機(モティーフ)が各声部で何度も繰り返されます。拍子の変化や主題的素材の変化を伴って、多くの部分を形成しながら(多部分性)切れ目なく進行する。
(1)まず、2/2拍子で始まり(第1-27小節、0:00-0:42)第1-4小節のアルトと、これに呼応する第2-5小節のソプラノに現れている主題素材が各声部で繰り返されます。
(2)次に6/4拍子に変わり(第28-35小節、0:43-0:54)、第28-29小節のソプラノとアルトに出てくる主題素材の組み合わせが、第30-31小節のテナーとBcにそれぞれ現れ、以後同様に繰り返されます。
この後再び2/2拍子に戻りますが、音楽は中断することなく終わりまで継続していきます。
(3)拍子の変更の直後(第36-49小節、0:55-1:14)、テナーの第36小節の二つ目の四分音符から第38小節1拍目辺りまでと、これに呼応するアルトの第36小節2拍目から第38小節までの主題素材が各声部で幾度となく繰り返されます。
これに続く2つの部分(第50-72小節)はこの演奏では反復されています(1:15-1:50並びに1:50-2:26)。
(4)第50小節以降は、これまでとは対照的な模倣的ではないホモフォニックで経過的な部分が置かれています(第50-62小節)。ここでは終わりの僅か4小節だけ軽い模倣がなされています。第59小節のテナーと、これに即座に応答する同小節の最後の四分音符から始まるソプラノによるものです。
(5)第63小節以降(第63-72小節)では、再び主題素材が各声部で頻繁に繰り返されますが、第62小節より前の部分と比較するとその内容が少し複雑になっています。
ここでは第63-64小節のソプラノ声部の主題素材と、それとは対照的な、ソプラノに呼応する類似した二つの主題素材(第63小節二拍目から64小節までのテナー及び第64-65小節のバスとBcに現れているもの)が用いられています。
このテナーとバスに用いられている単純な素材は連続して奏されることによりエコーの効果が得られています。なお、第72小節まではこれらの二つの動機的素材は上声部のソプラノとアルトには現れません。
また、ソプラノに現れた主題素材は第65-66小節及び第67-68小節では八分音符の部分の音型が変形されています。
(6)最後の部分(第73-78小節、2:26-2:45)では、まず第73小節で、上で述べた変形された素材の初めの部分が断片的にテナーに現れ、これは同小節の第二拍目から次の第75小節の半ばにかけて最初の音が八分休符であることを除くとほぼ完全な形でソプラノで再現されます。
それと平行して、直前に中低音部で用いられていたエコー風の音型は、遂に上声部にも現れ、第74小節の一拍目にアルト、二拍目にバスとBcで、第75小節目で一拍目にアルト、二拍目にソプラノの順で波及していきます。第76小節目でも同様にバスとBcで、続いてソプラノで繰り返され、次の小節でバスとBcで奏でられ、その効果を強めながら曲が終わりを迎えます。
ちなみに、この演奏では第50小節から第72小節のみ反復され、その他の部分は反復記号があっても反復は省略され一度しか演奏されていません。
2）ソナタ
http://www.youtube.com/watch?v=zixws7_z0Bk
解説: 曲全体を通して幾度となく変化してゆく主題的素材や動機(モティーフ)を、幾つかの声部が絶えず模倣し合いながら、且つ、強弱や音色を対比しつつ短い楽節が構成され、それらの繰り返しから曲がかたち創られています。短い動機の反復によるエコーの効果(特に1:30-1:35, 2:24-2:36, 3:27-3:34, 4:14-4:18)も印象的です。この演奏は、古楽器の管楽器によるもので、柔らかな音色を持つコルネット(2:58からの映像)と、トロンボーンの前身であるサックバット(5:56からの映像)が使用されています。現代のブラスバンドとはかなり響きが違うという印象を持たれるのではないでしょうか。
どちらの曲も切れ目のない複数の部分から成り立っていますが、これが後の多楽章構成のソナタの基になったといわれる根拠であると思います。前回取上げたカステッロのソナタの例も楽章の区切りがなくこのような流れを汲む作品です。
ところで、最初の曲で詳細に説明したように、これらの作品の中に、絶えず出てきている模倣様式の側面も極めて重要です。この技法はバロック時代において広範に用いられていたもので、これを抜きにしてバロック音楽は語れません。そしてこの模倣様式はフーガ形式の基礎となるものであり、その後バロック時代の後期にフーガ形式はJ.S.バッハの手によって頂点に達せられたのです。
そのような例としてバロック初期に活躍したイタリアの鍵盤音楽の大家フレスコバルディの作品を付け加えておきます。この曲の最初の部分はまさにフーガ形式の先駆けです。
3）フレスコバルディ(1583-1643)作曲 カンツォーナ第4番
http://www.youtube.com/watch?v=JuRt7mYMsXY
楽譜: http://www.icking-music-archive.org/scores/frescob...
楽曲解説: 4/4拍子で開始されますが、冒頭の三小節で主題が提示され、声部を4つに増やしながら順に下の声部で模倣されてゆきます。主題が一巡し、最上声部に再び主題が現れその直後に経過的な部分が付け加えられてこの楽節は終止します(第1-19小節 0:00-0:50)。
次に6/4拍子に変わり、新たな楽節が加わりますが、ここでは単純な音型による軽い模倣がなされていきます(第20-31小節 0:51-1:13)。
そのまま4/4拍子に戻り、付点のリズムが各声部で自由に模倣され、ホモフォニックに楽節が形成されていきます(第32-42小節 1:13-1:33)。これに十六分音符の細かい動きを伴う経過的な部分が挿入されて次の楽節を導きます(第43-46小節 1:34-1:44)。
十六分音符二つと四分音符一つ、或いは二分音符一つからなる動機が次々と模倣されていきます。ここもホモフォニックな楽節となっています(第47-53小節半ば 1:45-2:00)。これに続く経過部では、低音部が細かな動きを示してから一旦速度を落とします(第53小節半ば-58小節 2:01-2:17)。
拍子は6/4に再度変更され、音程の跳躍とシンコペーションを伴う単純なリズムパターンが繰り返されるホモフォニックな楽節が最後に置かれています(第59-68小節 2:18-2:34)が、曲が終わる直前の第68小節がリズム的に完結する前に、突如として4/4拍子の小節が割り込み、音階的走句(パッセージ)とトリルによって装飾され終わりを迎えます(第69小節-最後 2:35-2:45)。
フレスコバルディは他国の音楽家に多大な影響を及ぼしたと考えられていますが、皮肉なことにその後のイタリアでは、18世紀を迎えるまで鍵盤音楽は殆ど書かれなかったようです。少なくとも今日ではその種の作品は殆ど知られていません。僅かに残された作品も、その内容はかなり保守的で、バロック初期に生み出された音楽に認められるような斬新さは持ち合わせておらず、古風な形式や曲種によるもので占められているようです。従って、それらの作品は音楽的な発展をあまり感じさせません。
イタリアの器楽曲では、ヴァイオリン音楽の発展が目覚ましく、弦楽器中心のソナタや協奏曲(コンチェルト)が脚光を浴びることとなりました。そのような訳で、鍵盤用独奏曲ではなく合奏曲を中心に以下のソナタに関する説明を進めていくことにします。
4-1-3．その後のバロック･ソナタについて
ソナタは17世紀後半にはイタリアで一定のかたちとなりましたが、それらは室内ソナタ(ソナタ･ダ･カメラ)と教会ソナタ(ソナタ･ダ･キエザ)の二種類に大別することができます。(以下は『カラー図解音楽事典』149頁からの引用です。)
バロック･ソナタの類型 17世紀末に2つの主要なタイプが生まれ、コレッリ(1653〜1713)によって標準化された。
‐ 室内ソナタ 前奏曲と2〜4の舞曲楽章から成る(イタリア型の組曲形式)
‐ 教会ソナタ 重々しい模倣様式の緩、フーガ風の急、カンタービレでホモフォニックな緩、それにフーガ風の急という4楽章から成る。
各楽章は概して〈2部分〉で、各部分が反復される。全楽章とも調は同じだが、教会ソナタでは変わることもある(例: イ短調の曲でも〔第三楽章の〕アンダンテは〔平行長調である〕ハ長調)。
編成からすると、室内ソナタも教会ソナタもともにトリオ･ソナタのタイプに属する。上２声はたいていヴァイオリン、コンティヌオ〔（通奏低音）〕声部は低音とチェンバロによって演奏される。編成は教会ソナタがたいてい各声部複数楽器であるのに対し、室内ソナタは単数楽器である。(引用終わり)
4-1-4．トリオ･ソナタ
「トリオ・ソナタはバロック室内楽の中心曲種である。書法は3声部(奏者は4人)。上２声の標準的な編成はヴァイオリン2挺で、2つのフルート、オーボエ、ヴィオラまたはその混合もあった。」(『カラー図解音楽事典』319頁)
そして、残りの1声部である通奏低音を、鍵盤楽器とチェロといった組合せなどで2人で演奏するのが基本的なかたちです。
しかしながら、通奏低音は、楽器を増やして2人以上で演奏されることもあります。上の引用文では、教会ソナタに関しては「たいてい各声部複数楽器」という記述がありますが、上ニ声は必ずしも複数の楽器で演奏されなければならないという訳ではなく、各声部に一つずつ楽器が割り当てられることは珍しい事ではありません。
実際には4人で演奏されるのが原則ですが、書法上は三声部に依っていることからトリオ･ソナタと呼ばれています。
ここで、三人で通奏低音を演奏している映像を紹介しておきます。
1）テレマン(1681-1767)作曲
リコーダー、ヴァイオリンと通奏低音のためのトリオ･ソナタより第三楽章
http://www.youtube.com/watch?v=JDzwDE3xf3k
解説: 前列左からリコーダー、ヴァイオリン、ヴィオラ･ダ･ガンバ、テオルボ、右後方にオルガンという楽器編成です。ここでの声部の振り分けは、リコーダー及びヴァイオリンが上ニ声の内の一声部をそれぞれ担当し、残りの一声部である通奏低音による伴奏部をヴィオラ･ダ･ガンバ、テオルボ、オルガンの三つの楽器で演奏しています。
この曲は次の教会ソナタの 例３）と同じ曲ですが編成をみてもらうために取上げました。
2）ヘンデル(1685-1759)作曲 2つのリコーダーと通奏低音のためのトリオ(ソナタ)
http://www.youtube.com/watch?v=s2YRNYGe04A
解説: ここでは、前列左からリコーダー、リコーダー、チェロ、テオルボ、後方にチェンバロという楽器編成です。ここでの声部の振り分けは、2つのリコーダーが上二声の内の一声部をそれぞれ担当し、残りの一声部である通奏低音による伴奏部をチェロ、テオルボ、チェンバロの三つの楽器で演奏しています。
尚、この曲は緩‐急‐緩‐急の四楽章構成の教会ソナタですが、第三楽章は平行短調で書かれ完全終止(��-�気力太漆聞圈�属和音から主和音への進行)の代わりに半終止(��-�垢力太漆聞圈�下属和音から属和音への進行)が用いられています。
以下に、教会ソナタと室内ソナタの形態をとる作品を、トリオ･ソナタを中心に幾つか取上げてみます。これらの例では教会ソナタは何れも上ニ声は単数楽器で演奏されています。
4-1-5．教会ソナタの例
1）コレルリ(1653-1713)作曲 トリオ･ソナタ ト短調 作品1-10
http://www.youtube.com/watch?v=y72hEBc5_3k
楽譜: http://imslp.info/files/imglnks/usimg/3/3d/IMSLP01... (pp33‐36)
楽曲解説: 先に説明した標準的な編成で、ヴァイオリン2挺(チェンバロを挟んで前の左右2人)と通奏低音(後列左、ヴィオラ･ダ･ガンバ、右隣にチェンバロ奏者)によるものです。この曲はGrave-Allegro-Allegro-Adagio-Allegro(緩‐急‐急‐緩‐急)の5楽章からなりますが、教会ソナタのかたちをとっています。第二楽章及び第三楽章はフーガ風です。緩徐楽章の第四楽章はホモフォニックに書かれていますが、楽譜と見比べると、実際の演奏は譜面通りではなく装飾がなされているのがよく解ることと思います。また、この曲の第二楽章と第三楽章では双方とも完全終止せずに半終止で楽章を終えていますが、この手法はバロック時代のソナタや協奏曲にしばしば見受けられるものです。
2）ヘンデル作曲
フルート、ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ ロ短調 作品2-1
第一楽章、第二楽章: http://www.youtube.com/watch?v=CekRzbnW_sg
第三楽章、第四楽章: http://www.youtube.com/watch?v=eVGXygSZJmc
楽曲解説: 緩‐急‐緩‐急の四楽章からなる教会ソナタです。第三楽章は平行長調のニ長調で書かれ、最後の部分ではロ短調の半終止で終わります。このような長調の楽曲での平行短調における半終止を特にフリギア終止と呼び、後期バロックの教会ソナタやその形式に順ずる合奏協奏曲では、中間に位置する楽章でしばしば用いられた手法です。
3）テレマン作曲
リコーダー、ヴァイオリンと通奏低音のためのトリオ･ソナタ ニ短調
http://www.youtube.com/watch?v=LnTEwsRT-8k
解説: この曲は四楽章構成ですが、急‐緩‐急‐急の順番に楽章が並んでおり、緩‐急‐緩‐急の順序ではありませんが、四楽章ともプレリュードや舞曲の名称は付けられておらずテンポのみが表記されていることから、楽章配列の異なった教会ソナタと解釈してよいでしょう。実際、コレルリの作品にもこのような楽章の順序を持つ教会ソナタがあります。
4-1-6．室内ソナタの例
4）コレルリ作曲 トリオ･ソナタ ホ短調 作品2-4
第一、第二楽章: http://www.youtube.com/watch?v=v1Oinx_0Syg
第三、第四楽章: http://www.youtube.com/watch?v=zdV2WOMRsOk
楽譜: http://imslp.info/files/imglnks/usimg/2/2a/IMSLP01... (pp9-11)
楽曲解説: 室内ソナタは、イタリア型の組曲といえるものです。この曲ではPreludio(Adagio, 3/4拍子) − Allemanda(Presto, 4/4拍子) − Grave-Adagio − Giga(Allegro, 6/8拍子)という楽章配列になっており、第二楽章はアルマンド、第四楽章はイタリア風ジーグという舞曲名を与えられています。第一楽章はプレリュード(前奏曲)ですが、フランスやドイツの鍵盤楽器用の組曲でも最初の楽章に頻繁に用いられているもので、室内ソナタの第一楽章にもしばしば置かれているものです。
これら三つの楽章は、舞曲では一般的である ║: a :║║: b :║ という二部形式で書かれており、前半、後半の両部分がそれぞれ反復されます。
第三楽章でも通常は舞曲が置かれますが、この作品では教会ソナタ型の緩徐楽章が採用されています。初めのGrave(3/2拍子、4小節)の部分は、属調のロ短調で開始されすぐに半終止し、そのままAdagio(4/4拍子)へと続きますが、Adagioの部分に入るとすぐに主調のホ短調に戻り、ホ短調で半終止して楽章が終わります。教会ソナタでは常套手段である中間楽章の半終止ですが、室内ソナタでは完全終止するのが普通です。なぜなら、各舞曲は完全終止して曲が終わるからです。
5）コレルリ作曲 ヴァイオリン･ソナタ ホ短調 作品5-8
第一、第二楽章: http://www.youtube.com/watch?v=jgMlvUiv4GE
第三、第四楽章: http://www.youtube.com/watch?v=H9TdrxqFTpc
楽譜:http://imslp.info/files/imglnks/usimg/b/bb/IMSLP31... (pp44-47)
楽曲解説: この曲はトリオ･ソナタではなく、独奏ヴァイオリンのためのソナタであり、ヴァイオリン1挺と通奏低音のために書かれています。つまり、今までみてきたトリオ･ソナタと違って、三声書法ではなくニつの声部から出来ています。
ここでは通奏低音をチェンバロ1台だけで受け持っていますが、トリオ･ソナタと同様に、チェロとチェンバロ等の組み合わせで演奏することも可能です。
楽章配列は前曲とは異なり、Preludio(Largo, 3/4拍子)- Allemanda(Allegro, 4/4拍子)-Sarabanda(Largo, 3/4拍子)- Giga(Allegro, 12/8拍子)の順になっていて、プレリュードに続いてアルマンド、サラバンド、ジーグという三つの舞曲が並べられ組曲のかたちをとることにより典型的な室内ソナタに仕上げられています。また、各楽章は二部分からなり、それぞれの部分が反復されています。
4-1-7．まとめ
コレルリは、それぞれ12曲からなる曲集の内、作品1と3のトリオ･ソナタ集を教会ソナタ、作品2と4のトリオ･ソナタ集を室内ソナタとしてまとめました。作品5のヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ集では前半6曲を「ヴァイオリンとヴィオローネまたはチェンバロのためのソナタ 第一部」と題して教会ソナタの形式で書き、後半6曲を「プレリュード、アルマンド、コレンテ、ジーグ、サラバンド、ガヴォットとフォリア 第二部」と称して室内ソナタの形式に準じこの二つを区別しています。また、作品6の合奏協奏曲集では前から8曲を教会ソナタで、残り4曲をプレリュードと舞曲の組み合わせからなる室内ソナタとして書き分けています。
室内ソナタは、コレルリの作品ではたいてい三楽章または四楽章構成をとっており、ほぼ例外なく三楽章構成の場合は舞曲のみからなり、舞曲の前にプレリュードが置かれている場合は四楽章構成になっています。舞曲の配列は他国の組曲に比べてかなり自由でまちまちですが、登場する舞曲そのものは一般的なものばかりです。それに加え、舞曲に主として二部形式を用いている点や、同一の調で楽章がまとめられている点でも他国の組曲と共通しています。
教会ソナタと違って、全ての楽章で和声的には完全終止して終わっていますので各楽章が完結しています。また舞曲中心ですので形式的には比較的単純です。
例外的に、単一楽章のソナタが2曲存在していますが、どちらも変奏曲(シャコンヌまたはフォリア)であり複数の部分から構成されています。
教会ソナタも基本的には、緩‐急‐緩‐急の四楽章構成のものが多く残されています。とは言え、作曲家や作品によっては楽章の配列が変えられたり、楽章の数が増やされたりしていますが、このような事実は特に珍しいことではありません。また、初期のソナタに較べると楽章間の区切りが明確になってきてはいますが、教会ソナタではテンポや拍子の異なる複数の部分から構成されている楽章も多々みられます。また、一般的に、主題素材の模倣が常套句として第一楽章と第二楽章を中心に用いられています。曲全体で調性の統一は図られていますが、特に緩徐楽章の第三楽章では属調や平行調で書かれていることが少なくありません。このことに関連して、主としてこの楽章で時折用いられているフリギア終止に象徴されるように、半終止した状態で楽章を終わらせることは、聴き手に当然次の展開を期待させるものですから後続の楽章への橋渡しの役割を担わされていると言えます。つまり、譜面上は楽章が完結していても、聴いている者にとってはすっきりしないので完結しているとは認識出来ない訳です。こういった観点からも楽章間の区切りが不明瞭であると解釈できます。
こうした教会ソナタの特徴は、初期の頃のソナタの構造に起因するものだと考えられます。
一般的に、17世紀末ごろからのバロック･ソナタは、上述したように、教会ソナタと室内ソナタに分類されていますが、上の 例4）のコレルリの作品では、室内ソナタで本来舞曲があるべき場所に、教会ソナタの楽章が置き換えられていることからも判るように、両者の間に明確な区別が与えられているとは限りません。
実際、初期の頃のソナタでは、「“per chiesa e camera”(教会または室内用)というただし書きがついていることもある〔ように〕、教会ソナタと室内ソナタの区別は、必ずしも厳密なものではなかった」ようです。（『音楽史[下]』38頁、132頁）
また、冒頭でも述べましたが、そもそもソナタという楽曲自体が、時代や国、作曲家によって実にさまざまな形態を取っており、その定義付けが容易ではないのです。
皆川達夫氏はその著書の中で次のように述べています。
「初期バロックの器楽音楽の形式はきわめて不確定的であり、その用語法も不統一で、明快な定義は下しがたい。結局、この時期は器楽音楽様式の模索の時代であり、ありとあらゆる可能性をつくして試行錯誤が行われている時代である。」(『バロック音楽』113頁)
初期バロックほどではないにせよ、後期バロックに至っても、まだこのような状態が継続していたと考えてよいでしょう。形式上は徐々に統一される傾向にあったと思われますが、その一方で、まだまだ過渡期の状態であり混沌としていました。殊にソナタに関しては、バロック後期にはある程度の統一がもたらされたのですが、その形を維持することなく、次の古典派の時代に向けて新たなる試行錯誤が続いてゆくことになります。
ここで扱った室内ソナタは、組曲の一種と考えられますので、この辺りでバロック時代に盛んに作曲された組曲に話題を移すことにします。
(COPYRIGHT Sep 30, 2009 T. Todoroki) ⇒先頭に戻る
[18世紀の音楽史(主に鍵盤音楽)に関して書いてみます(第3回 その2-2)]
4-2．組曲
4-2-1．17世紀後半から18世紀前半の組曲について
そもそも組曲とは複数の舞曲を組み合わせた楽曲のことを指します。
リュートや、そこから派生したチェンバロの独奏用の組曲に登場する代表的な舞曲としては、アルマンド、クラント、サラバンド、ジグといったものが挙げられます。
17世紀後半のフランスのこの種の組曲では、最初にプレリュードが置かれることが多く、その直後にアルマンド、クラント、サラバンドの順序でこれら三つの舞曲が配列され、それに続いて、他の舞曲や舞曲形式による曲或いは変奏曲が置かれているのが標準的なかたちです。
また、フランスの影響を大きく受けたと考えられているドイツの鍵盤用の組曲でも、同様に冒頭のトッカータやプレリュードといった前奏曲、或いは序曲の直後に先の三舞曲とその他の曲が続いています。
リュートやチェンバロ等の楽器を対象とした組曲では上記のような定型があったのとは対照的に、フランスの管弦楽組曲では、最初に序曲が置かれ、その後には比較的自由に舞曲等が配列されていました。
なお、これらの組曲を構成しているそれぞれの曲は同一の調性(または主音を同じくする同主調)に基づいており、組曲内では調性の統一が図られていました。
4-2-2．組曲に用いられた様々な舞曲
もともとフランスではバレーが盛んでしたが、ルイ14世の統治下(1643-1715)では以前にも増してバレーが盛んになり、オペラも踊りを伴うものとなりました。ルイ14世自身も度々バレーに出演し、王の寵愛を一心に受けた作曲家リュリ(1632-1687)によって多くのオペラが作曲されました。ルイ14世が太陽王と呼ばれたゆえんは、オペラで太陽神に扮したからであると言われています。
当時、必ずしもこれらの舞曲全てが一般的に踊られていたとは限りません。既に、殆ど踊られなくなった曲種や、オペラ等で踊られていても舞曲と断定できないものもありますが、ここでは踊りの映像を交えながら、17世紀後半から18世紀前半にかけて組曲に取り入れられていた曲をみていくことにします。
ここでは、個々の曲目に関する記述は全て『新音楽辞典 楽語』からの引用によるものですが、地域や時代によって同じ名称の曲種でも異なる場合もあることを留意しておいて下さい。
主要な舞曲
アルマンド(Allemande)
http://www.youtube.com/watch?v=eDZtdCPgS2Y
1550年ごろ現れたゆるやかな2拍子系の舞曲。バッハの時代には実際には踊られなくなり、様式化された舞曲となって組曲の第1曲に採用された。(『新音楽辞典 楽語』24頁)
クラント(Courante)
http://www.youtube.com/watch?v=418-Lzfhu0I
フランス語の〈走るcourir〉の語に由来する舞曲。17世紀中ごろには組曲中の1曲となった。17世紀に2つの型―イタリアふう〈コレンテ〉とフランスふう〈クラント〉に分れた。(1)イタリアふうコレンテは3/4または3/8拍子の速いもので、絶えず走りまわるような音型をもつ。(2)フランスふうクラントは(1)より洗練された型で、中庸の速度。3/2または6/4拍子で拍子はしばしば互いに入れかわる。この拍子の不定が特徴のひとつともいえる。(同 190頁)
コレンテ(Corrente)
http://www.youtube.com/watch?v=qF2XURSmeQY
サラバンド(Sarabande)
http://www.youtube.com/watch?v=QaaQn51Qipk
17,18世紀にヨーロッパで流行した舞曲。緩やかな3/4拍子または3/2拍子で荘重な表情をもつ。一般に第2拍子に軽いアクセントとがあるか、あるいは長い音符が来る。上拍はなく終止は女性終止〔��-�機佑任△襦�(同 240頁)
ガヴォット(Gavotte)
http://www.youtube.com/watch?v=3fLUVEZ8cUo
17世紀のフランスの舞曲。中庸のテンポで2/2拍子、4分音符2つの上拍をもち(初期のものは、ない場合もある)、フレーズはふつう小節の中央で始まり、また終わる。17世紀中ごろ、リュリがバレーやオペラに使用して広まり、さらにドイツでは組曲にとり入れられた。(同 126頁)
メヌエット(Menuet)
http://www.youtube.com/watch?v=_i9opgNifSE
http://www.youtube.com/watch?v=DsgCX0iwAOY
17世紀中ごろルイ14世によって宮廷にとり入れられ、上流階級の愛好の踊となった。バロック時代の多くの踊は滅びたにもかかわらず、これはその中から残った唯一の踊である。その音楽は、かなりゆっくりした3/4拍子で、8小節の繰返しからできている。繰返しの後に新しい楽節(第2メヌエット、またはアルテルナティーヴォ)がつけられる。この部分は同様に繰返しがあり、第1の部分とは関係調に出る。第1部は2声部(ユニゾンのヴァイオリン2個とバス)であるが、第2部は3声部で作られ、そのためにこの部分は後にトリオ(三重奏)といわれた。最後に第1部が繰り返されるので、3部形式をなす。(同 570頁)
ジグ(gigue)
(楽曲の例については下のシャコンヌを参照のこと)
16世紀のイギリスのjigを起源とする活発な舞曲であるが、バロック期の組曲、パルティータ、室内ソナタを構成する楽章として重要な意味をもった。フランスとイタリアで様式が異なり、フランスでは複合3拍子(6/8, 6/4)、付点リズム、広い音程(6度、7度、オクターブ)、フーガ的書法、第2部で転回された主題を用いることなどを特徴とする。イタリアのgigaはより速いテンポで、フーガ的構成をもたず、急速な経過句を特徴と〔する。〕ヘンデル、バッハの作品は通常フランス型である。(同 251頁)
その他の舞曲等
ブレー(Bourrée)
http://www.youtube.com/watch?v=P3SMNkpnL-E
17世紀のフランスの舞曲で、通常、速い2拍子で、1拍の上拍をもつ。リュリのオペラやバレー(1670ごろ)以前の音楽作品にはこの名称は現れていない。これ以来、ブレーは17世紀後半から18世紀初期にかけての組曲にみられる。(同 515頁)
タンブラン(Tambourin)
http://www.youtube.com/watch?v=cMQDy5lWH7o
フランスのプロバンス地方起源の長い太鼓。通常1人の奏者がガルベ(小さな縦笛)を右手で、タンブランを左手で同時に奏する。18世紀にはタンブランとガルベで伴奏する舞踏のことも指した。(同 350頁)
パスピエ(Passepied)
http://www.youtube.com/watch?v=kG7zlB3617M
速めの3/8拍子または6/8拍子の陽気で活発な舞曲で、ルイ14世、ルイ15世のフランス宮廷で大変もてはやされたもの。(同 435頁)
ルール(Loure)
http://www.youtube.com/watch?v=sD9SksRjrFE
17世紀の舞曲。中庸の速度の6/4拍子で付点リズムをもつ。(同 607頁)
ミュゼット(Musette)
http://www.youtube.com/watch?v=UcQDyCplmMc
(1)17,8世紀にフランスで流行したバッグパイプの一種。ルイ14世、ルイ15世時代に、ヴィエール(ハーディ･ガーディ)とともに流行した。(2)牧歌的な3拍子の舞曲ふうの楽曲で、長い持続低音をもつ。しばしば、ガヴォットやメヌエットのトリオに、〈ミュゼットふうに á la musette〉として用いられている。(同 557頁)
カナリー(Canarie)
http://www.youtube.com/watch?v=h_kqYysqy1Y
17世紀のフランスのダンスで、当時のヨーロッパ人の目に異国的に映ったカナリー諸島の原住民の踊をまねたもの。3/8, 6/8拍子で強拍に付点音符を使い、ジグに似たリズムをもつ。(同 139頁)
コントルダンス [フランクール(1698-1787)作曲による] (ここでは踊りの映像はありません。)
http://www.youtube.com/watch?v=0YFdqEBnbgY
変奏曲に属するもの
パッサカリア(Passacaglia)
http://www.youtube.com/watch?v=e4xQr39eBDU
シャコンヌと密接な関係をもつバロック音楽の一形式。ともに遅めの3拍子の変奏曲である。パッサカリアとシャコンヌは、ともに和声リズムをともなう連続的変奏で、その区別は明瞭ではなく、諸説があるが、相違点は、前者がバッソ･オスティナートをもつのに対して、後者がそれをもたないとする説が有力である。また、フランス･バロック音楽においては、パッサカリアとシャコンヌの名称は、ともに反復されるルフランといくつかのクプレをもつロンドーをさした。(同 437頁)
シャコンヌ(Chaconne)
http://www.youtube.com/watch?v=j_QDJsZ9bfQ (シャコンヌとジグの例、最初がシャコンヌ、続いてジグ)
バロック時代の重要な器楽形式であった変奏曲の一種。3拍子の荘重なリズムを特徴とする。変奏の技法に4小節または8小節の和声定型を設定し、(たとえば��-��-��-�后⇔消爾漏猟蠹�であるが内側の音は変更可能)、その反復の枠組の中に楽曲の統一と変化を作りあげるものと、一定の旋律の反復(バッソ･オスティナート)を設定し、他の声部が対位的変奏を受け持つものと2種類がある。〔シャコンヌとパッサカリアは〕文献的にも用例的にも本質的な区別はつけにくい。(同 263頁)
フォリア(Folía)
http://www.youtube.com/watch?v=B_mP7PdpEdg
イベリア半島の古い舞曲で、3拍子系のリズムをもつ。17世紀以降、フォリアのもつほぼ一定の低音旋律およびそれに伴う和声の進行を用いて多彩な変奏曲を書くことが広く流行した。(同 493頁)
4-2-3．序曲付きの管弦楽組曲
「1670年以後のドイツでは、フランス舞曲やフランスの管弦楽法や、あるいはリュリ好みのリズムが模倣せられ、組曲の冒頭にもっぱらフランス風序曲が用いられるようになってきた。その結果、導入曲として用いるフランス風序曲にちなんで、作品全体をこれまた序曲となづけることが多くなってきている。また、はなやかな管弦楽様式ができあがり、色彩的な効果がますます求められ、そのうえイタリアのコンチェルト･グロッソの手法にならって、総奏と独奏(純粋な独奏ではなく3重奏になる)の効果が対照的に利用されている。」(ウェルナー著『音楽史 [下] 』34頁)
「フランスの管弦楽組曲は(…中略…)宮廷での祝祭的な娯楽としてオペラとバレーからのバレー音楽が踊りを伴わずに好んでくり返され、宮廷外でもよく用いられた。フランスの管弦楽組曲は、リュートやチェンバロ組曲で普通な〈アルマンド‐クーラント‐サラバンド‐ジーグ〉という固定した楽章配列を欠くことが多く、その代わりにいつもフランス序曲ではじまり、そのあとに〈エール〉〈ガヴォット〉〈ブーレ〉〈メヌエット〉といったフランスの様式化された舞曲や現実の舞曲がつづき、〈プレリュード〉〈パッサカリア〉〈シャコンヌ〉といった舞曲以外の楽章も用いられる。」(『カラー 図解音楽事典』323頁)
ここでいうフランス風序曲とは、イタリアのナポリ派のオペラ序曲(イタリア風序曲)に対して用いられる名称で、作曲家リュリの手によって生み出されました。
「緩-急の2部分からなる序曲で、リュリがバレー《アルシディアヌ Alcidiane》(1658)において初めて用いた。付点リズムを伴った荘重な第1部(通常、繰り返される)のあと、フーガのような模倣的手法で書かれたAllegroの部分が続き、時にはそれに導入の緩やかな部分を思わせるようなコーダがついていることもあった。この〈フランスふう序曲〉は、バロックの中･後期を通じて、序曲の最初の定型として広く愛好され、イタリアやドイツの作曲家たちにも、オペラやバレーの導入部として使われた」ものです。(『新音楽辞典 楽語』 508頁)
それでは、フランスの作曲家J.B.リュリ(1632-1687)の作品をみていきましょう。
1）オペラ《Persée》より序曲
http://www.youtube.com/watch?v=v_hFq9jM-ns
楽譜: http://imslp.info/files/imglnks/usimg/2/2d/IMSLP01...
(目次の後のプロローグの最初のページから2頁まで)
楽曲解説: この序曲は次の二つの部分から成ります。
(1)2/2拍子で始まり、十六分音符の音階的な急速な動きが主として下の声部で反復され、その上では付点のリズムが奏でられます。この最初の部分は繰り返されます。 (0:00-1:12, 目次等の後のプロローグの最初の頁)
(2) そのままの拍子で続けられる第二の部分では、最初の二小節に現れる、八分音符と十六分音符から構成される動機並びに、付点のリズムによる動機の二つの単純な動機によって展開されています。 (1:13-2:06, p2)
2）オペラ『アティス』よりプロローグ
このオペラはプロローグ及びそれに続いて第一幕から第五幕までの全五幕から構成されていますが、ここでは序曲を含む最初のプロローグ全体を取上げることにしました。
(その1) http://www.youtube.com/watch?v=LPO1Xqvv70E
(その2) http://www.youtube.com/watch?v=J_K-U-CnEGk
楽譜: http://imslp.info/files/imglnks/usimg/d/d0/IMSLP18...
楽曲解説:
(その1)
�� 序曲(0:00-1:48, pp1-3)
この序曲は緩-急-緩の三部分から成ります。
(1)2/2拍子の緩やかなテンポで始まり、随所にフランス風序曲に特徴的である付点のリズムが伴われています。この部分は繰り返されます。(0:00-1:00, プロローグの最初の頁)
(2) 6/4拍子に変わり、最初の小節で現れる上声部の音型をもとに、下声部で幾度となく同じ八分音符からなるリズムの音型が繰り返されていきます。上声部には付点のリズムが時折認められます。(1:01-1:34, p2)
第二部に続いて、この曲ではコーダに当たる第三の部分が付け足されています。
(3)2/2拍子の緩やかなテンポに戻り、最初のところでみられるような付点のリズムが用いられ序曲が終わります。(1:34-1:48, p3上二段)
�供｜棒�(Le Tamps)独唱(1:49-2:41, p3三段目〜p4三段目)
�掘々臂�(2:42-3:37, p4四段目〜p8) 五声部で書かれていますが、その内のト音記号を持つ一声はヴァイオリンのパートです。また、一番下の声部で〈B.C.〉と書かれているのはバッソ･コンティヌオ(通奏低音)の略です。
�検．蹈鵐鼻爾砲茲襯─璽襦�3/4拍子 (3:38-4:25, p9最初から五段目まで)
この曲は、A(一段目の5小節)-B(二段目の7小節)-A’(三段目初めから5小節)-C(8小節 三段目最後から五段目最初の小節まで)-A(5小節 五段目ニ小節目から最後まで)という形をとっています。
このように主題A(リフレイン)とそれとは異なる挿入句(クプレ)が交互に並べられる形式を一般にロンド形式といいます。
�后�1. 男性(Le Tamps)独唱(4:26-5:02, p9六段目〜p10四段目第二小節途中まで)
2. 女性(Flore)独唱(5:02-5:27, 5:28-5:55, p10四段目第ニ小節途中〜p11一段目第四小節、p11一段目第五小節〜p11終わりまで)
3. 男声(Le Tamps)、女声(Flore)によるニ重唱(5:55-6:57, p12〜p13三段目)
║: a :║║ b ║という形式をとり、aの部分はp12二段目第四小節まで、bの部分はそれ以降最後までです。ここでは後半部分で、次の合唱と共に六つの八分音符から出来ている音型が頻出していますが、実際には音価通りではなくあたかも付点リズムであるかの如く不均等に歌われています。これは当時のフランス音楽特有のものでノート･イネガル(notes inégales)と言われている演奏法です。
4. 合唱(6:57-7:42, p13四段目〜p14終わりまで)
�� A. エール(ロンドーによるガヴォット 2/2拍子)(7:43-8:31, p15最初から五段目まで)
ここでは前に出てきた�犬里茲Δ法�舞曲であるガヴォットが通常用いられる二部形式の代わりにロンド形式で作曲されています。
楽曲構造: ║ a ║║ b ║║ a ║║ c ║║ a ║
[8:22までで曲が一応終わっていますが、最後の5小節半が弱音(ピアノ)で繰り返され、この動画では最後の二音が残念ながら抜けています。]
(その2)
(その1で中途半端に中断した)ガヴォットに続き、15ページ六段目から(0:14以降)次の場面が始まります。
B. 男性独唱(0:14-0:54, p15六段目〜p16三段目)
║: d :║║: e :║という二部形式で書かれていますが、前半と後半の各部分を繰り返す際に、最初はピエロの男性が歌い、続いて映像では隠れていますが、別の男性がそれを復唱しています。
歌に続いて16ページ三段目の終わりに、15ページに戻る指示があり、直前のガヴォット(A)が繰り返されます(0:55-1:45)。
従って、ここでは║ A(ロンド形式によるガヴォット) ║║ B(二部形式による男性独唱) ║║ A(ロンド形式によるガヴォット) ║というダ･カーポによる複合三部形式になっています。
�� プレリュード 2/2拍子 (1:46-2:12, p16四段目から六段目まで)
�� 女性(Melpomene)独唱(2:12-3:10, p17〜p18一段目)
�� エール 2/2拍子 (3:11-4:28, p18二段目から最後まで)
ここでも、║: a :║║: b :║という二部形式が用いられています。
�勝�1. 器楽によるリトルネロ 2/2拍子 (4:28-4:41,19ページ最初から二段目まで)
2. 女性(Isis)の独唱(4:41-5:21, p19三段目〜p20四段目第三小節)
3. 女声(FloreとMelpomeneによる)ニ重唱(5:21-5:38, p20四段目第三小節〜p21一段目)
4. 男女混声合唱(5:38-7:11, p21二段目〜p25終わり)
この部分は以上の四つから構成され、最後の混声合唱では、主役三人(Flore, Melpomene, Le Tamps)と合唱が交替しながら進んでいきます。
Ⅺ メヌエット 3/4拍子(7:12-8:04, この楽譜の最後p26)
この演奏では前半部分六小節が繰り返され、後半部分(最後の小節まで)が演奏されていますが、後半部分を繰り返す際にその部分の初めに戻るのではなく、曲の冒頭まで戻り前半部分(再度繰り返しあり)を含めて後半部分の最後まで演奏しています。ちなみに譜面では║: a :║║ b ▏c ▏c ║という構造になっています。
メヌエットの最後には、「序曲に戻るように」との指示があります。
Ⅻ 最初の序曲でプロローグが締め括られます。(8:05-)
(この映像では序曲が完結する直前で途切れてしまっています。)
上の二つは何れもオペラの例でしたが、フランスのバレー組曲からちょっと異色な作品を一曲だけ取上げてみます。
3）J.F.ルベル(1666-1747)作曲 バレー組曲『四大元素』より第一楽章『カオス』
http://www.youtube.com/watch?v=RxCLTxQypDo
解説: この曲は組曲の最初に置かれ、序曲に当たるものです。
火、水、空気、土という四大元素の混沌とした状態を描写した当時としてはかなり斬新で衝撃的な作品だったのではないかと想像されます。強烈な不協和音によって曲が開始され、急速に上昇下降を繰り返す音型やトレモロ(同音の急速な反復)等によって、燃え盛る炎や地響き、吹きすさぶ嵐といった光景が表現されており聴く者に強烈な印象を与えますが、最終的にはそれら四つの元素の勢いは鎮まり融合へと向かいます。
この楽章の後には、定番の舞曲やそれに準じた曲が並べられています。
(4-2-3．序曲付きの管弦楽組曲の途中ですが、枠の都合上この続きは次回掲載します。)
(COPYRIGHT Oct 6, 2009 T. Todoroki) ⇒先頭に戻る
[18世紀の音楽史(主に鍵盤音楽)に関して書いてみます(第3回 その2-3)]
(4-2-3．序曲付きの管弦楽組曲 の続きより)
4）テレマン(1681-1767)作曲 組曲『水上の音楽』 ハ長調
この曲は『ハンブルクの潮の満干』としても知られています。この組曲では第一曲、第六曲、第七曲以外は全て舞曲となっています。
ここでは、調性や楽節構造も考慮に入れながら楽曲を詳細に分析してみることにします。
下記に掲載されている楽譜は何れもリコーダー四重奏用の編曲版で原曲ではありませんが大差はないと思いますので参考にして下さい。
4-1）第一曲 Ouverture(序曲): http://www.youtube.com/watch?v=v2AVnC8c3V4
楽譜: http://www.icking-music-archive.org/scores/teleman...
この曲は║: A :║║: B A’:║という複合二部形式(または三部形式)で書かれています。
前半A Grave 4/4拍子 (0:00-1：02/1:03-2:09, 第1-31小節) ここでは全体を通してフランス風序曲に特徴的な付点のリズムが随所に現れています。
1．主題の提示 a (0:00-0:22, 第1-11小節 ハ長調)
2．主題を構成している素材をもとに変化を付けている部分 b (0:23-0:34, 第12-16小節 は下属調の平行調であるニ短調→第17小節からは属調のト長調へ)
3．ト長調で主題の再現 a’(0:35-0:52, 第18-25小節)
4．主題的素材に基づいて構成された移行部 c (0:53-1:02, 第26-30小節 ハ長調)
この移行部では属音であるト音が保続音として使用されています。
(1:03-2:09 第1-29,31小節 前半Aの繰り返し)
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
後半 B 及び後続のA’(2:10-4:44/4:44-7:24, 第31-111小節)
3ページ目の第31小節から2/2拍子のAllegro が10ページ目の第96小節まで続き、第 97小節以降は4/4拍子Graveに変わり、冒頭の主題をもとにした終結部(コーダ)の部分で終わります。
B Allegroの部分 2/2拍子(2:10-4:14, 第31-96小節)
この部分は、リュリに代表されるようなフランス風序曲における第二部とは異なり、模倣様式を用いる代わりに、後期バロックの協奏曲に認められるリトルネロ形式を用いて書かれており、そのために大規模なものとなっています。リトルネロ形式では、挿入句を交えながら主題的なリトルネロと呼ばれる部分が繰り返し登場しますが、ロンド形式のようには主題の再現は明確なものではなく、多少変化したりその一部だけを再現したりなどします。ここでは説明を加えるに当たりリトルネロを便宜上二つに分けRaとRbと表記します。
1．リトルネロ Ra(2:12-2:18, 第32-35小節一拍目)とRb(2:19-2:29, 第35小節二拍目-41小節一拍目)
2．挿入句a (2:30-2:35, 第41小節一拍目-第44小節一拍目)及び(2:35-2:39, 第44小節二拍目-46小節)
挿入句b (2:40-2:47, 第47-50小節) 第47-48小節はハ長調、第49小節以降は下属調の平行短調であるニ短調で反復しています。
3．リトルネロ(ニ短調) Ra(2:47-2:54, 第51-54小節)とRb(2:55-3:03, 第55-59小節一拍目)
4．挿入句c (3:04-3:12, 第59小節二拍目-63小節) 第62小節からハ長調の平行調のロ短調へ転調しています。
5．リトルネロ 転調を伴うRaのみの再現(3:12-3:25, 第64-70小節)
第64小節ではロ短調で始まり、次の第65小節から転調が行われ、ロ長調、ニ長調、ト長調を経由し五度圏を順次下降しながら第68小節または第69小節にて主調のハ長調へと回帰します。
6．挿入句b (3:25-3:28, 第71-72小節)
7．リトルネロ Ra(3:29-3:36, 第73-76小節)とRb(3:37-3:45, 第77-81小節一拍目)
8．リトルネロ Ra(3:45-3:59, 第81小節二拍目-89小節一拍目)とRb(4:00-4:14, 第89小節二拍目-96小節)
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
A’ Graveの部分 4/4拍子 (4:14-4:44, 第97-110小節)
第 97小節以降は4/4拍子Graveに変わり、この部分は冒頭の主題をもとにした終結部(コーダ)の役割を担っています。
1．下属調であるヘ長調による音階的な楽節d(4:14-4:27, 第97-102小節)
2．主調のハ長調による冒頭主題の再現部(4:27-4:44, 第103-111小節)。
[aの一部(第5-11小節)の、またはa’(第19-25小節ではト長調)のハ長調での、再現となっています。]
第110小節から一旦第32小節まで戻り、後半部分を繰り返してから曲が終了します。
(4:44-7:24, 第32-109, 111小節 後半BとA’の部分の繰り返し)
─────────────────────────────────────────
4-2）第二〜第六曲: http://www.youtube.com/watch?v=50VYYaBRpoE
第二〜第五曲は舞曲ですが、第六曲は『アルルカン』というタイトルになっています。尚、第四曲及び第五曲は主調ハ長調の平行短調であるハ短調で書かれています。
第二曲 Sarabande(サラバンド)
楽譜: http://www.icking-music-archive.org/scores/teleman...
3/4拍子 ハ長調 ║: a :║║: b :║の二部形式です。
前半a(0:00-0:28/0:28-0:56, 第1-12小節)及び
後半b(0:57-1:25/1:26-1:55, 第13-25小節)の各部分をそれぞれ繰り返し、最後に短いコーダ(1:56-2:05, 第26-28小節)が付けられています。
前半、後半はともに六小節単位の二つの楽節から構成されています。
基本的には付点八分音符、十六分音符、四分音符から形成される動機が並べられている部分が主で、これに音階的な動きを伴った三連符から構成される部分が付加されています。従って、構造的には非常に簡素に作られていますが、これだけでも聴衆の心を惹き寄せられるところに、当時ヨーロッパで一番の人気を誇っていた作曲家テレマンの並々ならぬ実力を感じさせられます。
調性: 前半: ハ長調→第7小節からト長調(属調)、後半: 第13小節からニ短調(下属調の平行短調)→第21小節以降はハ長調
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
第三曲 Bouree(ブレー) 楽譜: http://www.icking-music-archive.org/scores/teleman...
4/4拍子 ハ長調 それぞれが二部形式からなる複合三部形式(║ A ║║ B ║║ A ║)をとっています。
Aの部分は║: a :║║: b :║の二部形式です。
前半a(2:09-2:15/2:16-2:22, 第1-8小節 ハ長調)と後半b(2:23-2:29/2:29-2:36, 第9-17小節 ハ長調)がそれぞれ繰り返されます。各部分は二つの四小節単位の小楽節から成る八小節の大楽節で出来ています。
Bの部分は║: c :║║: d :║の二部形式で、Aと同様に前半と後半がそれぞれ繰り返されます。
ここでは前半が十二小節、後半が八小節の大楽節で構成されています。
前半部分c(2:36-2:47/2:47-2:57, 第18-30小節、調性: 第18小節からハ長調→第24小節から属調のト長調)は、二小節の動機が二つ組み合わされて出来た小楽節が二つ(第19-22小節と第23-26小節)と、四小節からなる小楽節一つ(第27-30小節)の合計三個の小楽節が大楽節を構成しています。
後半部分d[2:58-3:11/3:12-3:25, 第31-47小節、調性: 第31小節からイ短調(平行短調)→第40小節からト長調(属調)→第43小節以降はハ長調]は前半部分と類似していますが、二小節の動機二つからなる小楽節は一つとなり、これに四小節単位の小楽節が続いており、二つの小楽節から大楽節は形成されています。そしてこの八小節からなる大楽節二つ(第31-39小節、並びに第39-47小節)からこの部分は成り立っています。
〈D.C. al Fine〉なので、この曲の冒頭の部分Aに戻りFineで終わります。
A 前半a (3:26-3:32/3:33-3:39)、後半b (3:39-3:46/3:46-3:55)の各々が反復されています。
なお、D.C.は、ダ･カーポ(da Capo)を意味し、曲の始めに戻って繰り返すことを示しています。ここでは〈al Fine〉と書かれていますので、Fineと書き記されているところで終わり(fine)です。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
第四曲 Loure(ルール) 楽譜: http://www.icking-music-archive.org/scores/teleman...
3/4拍子 ハ短調 ║: a :║║: b :║の二部形式です。
前半a(4:00-4:15/4:16-4:31, 第1-8小節)、後半b(4:32-5:04/5:04-5:41, 第9-25小節)がそれぞれ繰り返されます。
第1-8小節、第9-17小節と第17-25小節のそれぞれ八小節単位の大楽節から構成されています。各々の大楽節は四小節単位の小楽節から出来ています。後半部分は、前半を基礎として最初の八小節(第9-17小節)で変化を加えながら拡張しています。
続く八小節(第17-25小節)の内、最後の四小節(第21-25小節)は前半部分(第4-8小節)とほぼ同じになっておりこの曲に統一性をもたらしています。
調性: 前半: ハ短調、後半: 第9小節から変ホ長調(平行長調)→第14小節からト短調(属調)→第18小節でハ短調に戻る。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
第五曲 Gavotte(ガヴォット)
楽譜: http://www.icking-music-archive.org/scores/teleman...
2/2拍子 ハ短調 ║ a ║║ b ║║ a ║║ c ║║ a ║のロンド形式です。
1．a(5:44-5:52, 第1-8小節、ハ短調)
2．b[5:52-6:00, 第8-16小節、調性: 第8小節から変ロ長調(属調の平行長調)→第13小節からト短調(属調)]
3．a(6:00-6:07, 第16-24小節、ハ短調)
4．c[6:08-6:15, 第24-32小節、変ホ長調(平行長調)、〈D.C. al Fine〉の指示]
5．a(6:16-6:23, 第1-8小節、ハ短調、〈Fine〉で終了)
各部分は四小節の小楽節二つからなる八小節の大楽節で構成されています。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
第六曲 〈Harlequinade〉 楽譜: http://www.icking-music-archive.org/scores/teleman...
3/4拍子 ハ長調 ║ a ║║ b ║║ a ║║ c ║║ a ║のロンド形式です。
aのロンド主題以外の挿入句の部分では、低音部が動き、中、高音部は和声的な伴奏に回っています。
1．a(6:26-6:35, 第1-8小節、ハ長調) このaの部分では、四小節の小楽節二つから大楽節が形成されています。これに対して、その他の部分は楽節が不規則に作られています。
2．b(6:35-6:47, 第9-18小節、属調のト長調、〈D.C.〉の指示あり)
ともに低音部に現れる、第9小節にみられるような三音から成る音階的動機と第13小節にあるような動機だけでこの部分は成り立っています。
3．a(6:48-6:58, 第1-8小節、ハ長調、〈Fine〉まで)
4．c(6:58-7:15, 第19-32小節、平行短調のイ短調、〈D.C. al Fine〉の指示あり)
低音部の最初の二小節に現れる動機と先述したbの部分の二つの動機により形成されていきます。ここではbの初めの動機はより和声的になるよう変化されています。更に、第26小節以降は新たな動きが加えられ曲が展開してゆきます。
5．a(7:15-7:26, 第1-8小節、ハ長調、〈Fine〉で終了)
─────────────────────────────────────────
4-3）第七〜第十曲: http://www.youtube.com/watch?v=udfLjszRoTU
第七曲は『吹きすさぶアエロー』、第八〜第十曲は舞曲です。第九曲のジグには『潮の満干』という副題が付けられています。
第七曲 "Der sturmende Aeolus"
楽譜: http://www.icking-music-archive.org/scores/teleman...
3/4拍子 ハ長調 ║: a :║║: b :║の二部形式です。
バロック的な対位法的でポリフォニーによるのではなく、音階やトレモロを用いながらホモフォニックで和声的に仕上げられています。和音と音階で曲の大部分が構成されおり、頻繁に転調が行われます。
前半a(0:00-0:30/0:31-1:02, 第1-24小節)と、後半b(1:03-1:33/1:34-2:05, 第25-48小節)が反復されます。両部分はかなり似通った構造になっています。
調性の変化は以下の通りです。
前半: ハ長調→ト長調→イ長調→ニ長調→ト長調→ハ長調→ト長調
後半: ト長調(またはハ長調)→イ短調→ニ短調→イ短調→ト長調→ハ長調
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
第八曲 Menuet(メヌエット)
楽譜: http://www.icking-music-archive.org/scores/teleman...
3/4拍子 ハ長調 それぞれが二部形式からなる複合三部形式(║ A ║║ B ║║ A ║)をとっています。
このメヌエットには第一メヌエットと第二メヌエットがあります。それぞれのメヌエットは二部形式で書かれていますが、この種のメヌエットは通常第二メヌエットが終わると再度第一メヌエットが繰り返されます。このようなタイプのメヌエットは、後の古典派の時代まで書かれ続けました。バロック時代の数ある舞曲の中で、ほぼ唯一後世まで生き残ったのがこの三部形式║ A ║║ B ║║ A ║によるメヌエットだったのです。
A(第一メヌエット) ║: a :║║: b :║の二部形式です。
前半a(2:10-2:25/2:26-2:41, 第1-8または9小節 第7小節から属調のト長調)と、後半b[2:41-2:57/2:58-3:14, 第10-17または18小節 調性:第10-13小節はニ短調(下属調の平行短調)、第14小節以降はハ長調]がそれぞれ反復されます。
B(第二メヌエット) ║: c :║║: d :║の二部形式です。
前半c(3:15-3:29/3:29-3:43, 第19-26小節 ハ長調)と、後半d[3:44-3:59/3:59-4:15, 第27-34または35小節 27-29小節はニ短調(下属調の平行短調)、第30−31小節へ長調、それからハ長調]がそれぞれ反復されます。cとdは構造上かなり似ています。
A(第一メヌエット) 前半a(4:15-4:30, 第1-7, 9小節)と後半b(4:31-4:51, 第10-16, 18小節)が、ここでは反復されずに続けて演奏されています。
この曲では、a, b, c, dの各部分は四小節の小楽節二つからなる八小節の大楽節で構成されています。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
第九曲 Gigue(ジグ) 楽譜: http://www.icking-music-archive.org/scores/teleman...
6/8拍子 ハ長調 極めて単純な║: a :║║: b :║の二部形式による舞曲です。
前半部分a(4:55-5:11/5:11-5:27, 第1-20小節 第8-20小節は属調のト長調)と後半部分b(5:27-5:44/5:45-6:02, 第21-43小節 ハ長調)がそれぞれ繰り返されます。
曲の構造は極めて単純なのですが、『潮の満干』というタイトル通り、前半は三つの八分音符による音型が徐々に上昇していき、後半ではそれらの音型が下降していくことによって『潮の満干』を見事に描写しています。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
第十曲 Canarie(カナリー)
楽譜: http://www.icking-music-archive.org/scores/teleman...
6/8拍子 ハ長調
カナリーに特徴的な付点のリズムと単純な和声によって全体が形成され、前半部分aをもとにして後半部分bが拡張されていますが、前曲と同様にその構造は極めて単純で舞曲的に書かれています。それにもかかわらず、活気のあるリズムとオーケストレーションの巧みさもあってか、決して冗長ではなく単純にして簡潔に書き上げられた作品です。
║: a :║║: b :║の二部形式ですが、後半に比重が置かれています。
a(6:03-6:14/6:15-6:25, 第1-10小節 ハ長調)
前半部分は短く、楽節の区切りが四小節、四小節、二小節の順になっていて規則的でないので不完全に終わるような印象を受けます。
b[b1: 6:25-6:38, 第11-23小節一拍目 ト長調(属調)、b2: 6:38-6:53, 第23小節二拍目-37小節 ハ長調、bの反復 6:54-7:24, 第11-37小節]
まず、b1ではaの主題素材を用いながらも変化を付け、続くb2は、aを基本として作られていますが、b1の素材も組み合わされて出来ています。すなわち、b2の第28-32小節は前半aの第3-7小節と、第33-36小節はb1の第19-22小節と一致しています。
楽節に関しては、b1では四小節単位の小楽節三つから作られているので随分とまとまりが感じられます。他方、b2では六小節、四小節、四小節の順で区切りがあるにもかかわらず、最初に不規則な六小節が置かれ、且つ、残りの八小節はまとまった一つの楽節を構成している為、結果としてaのようには不完全な印象を与えていません。
─────────────────────────────────────────
以上で分析は終わりです。
元来、舞曲は単純な構造を取りますが、テレマンによるこの組曲(1723年)の中では、四小節を小楽節(楽句、フレーズ)として、それらを二つ組み合わせることによって八小節の大楽節が創作されたという事実が認められます。
また、その一方で四小節や八小節を基本的単位とはしていない別の構造を持つ曲も見受けられましたが、バロック音楽またはそれ以前の時代の音楽における器楽曲の分野ではこのような形態の楽曲はごく一般的なものでした。
しかしながら、バロックから古典派への変遷期に当たる前古典派の時代にはギャラント様式が盛んになり、歌と伴奏という形態が器楽曲にも持ち込まれることになったため、必然的にその構造に変化をもたらしました。
四小節や八小節を基本とする楽曲構造は歌曲や舞曲を基礎として、形式面での対象性を追求した結果発展したものと考えられますが、このような構造は後の古典派以降のクラシック音楽では定石となりました。
これまでフランスとドイツの序曲や管弦楽組曲を考察してきましたが、「4-1-6．室内ソナタの例」で触れたイタリアにおける室内ソナタもまた組曲に基づいたものであり、合奏協奏曲の中で室内ソナタの形をとるもの(室内協奏曲)には複数の舞曲の楽章が含まれています。例えば、コレルリの室内協奏曲では、前奏曲のプレリュードと、アルマンド、コレンテ、ジグ、サラバンド、ガヴォット、メヌエットといった舞曲や、舞曲風の楽曲が自由に組み合わされています。
イタリアの室内協奏曲に関する前奏曲とこれらの舞曲の組み合わせについては、アルマンドやコレンテが使われている点においてフランスやドイツでの管弦楽組曲よりもむしろ両国でのチェンバロやリュートを対象とした組曲に近い形をとっており、尚且つ、より自由な順序で並べられていると言えます。
注）本文中、引用文にて〔〕内に書かれている言葉は、著者によって加筆されたものです。
参考文献
『カラー 図解音楽事典』白水社、1996年
『新音楽辞典 楽語』音楽之友社、1996年
F. E. カービー著『鍵盤音楽の歴史』全音楽譜出版社、1995年
皆川達夫著『バロック音楽』（講談社現代新書291）、講談社、昭和62年
K. H. ウェルナー著『音楽史 [下] 』全音楽譜出版社、1995年
謝辞
本原稿の執筆に関しまして、無償で映像を借用させて戴いている＜You Tube＞の演奏者の皆様方に心より御礼申し上げます。
I appreciate using some movies on the ＜You Tube＞ for free and players who render music works for showing on this article in public.
COPYRIGHT Oct 19, 2009 T. Todoroki
⇒先頭に戻る(この記事の目次へ)
⇒『18世紀の音楽史(主に鍵盤音楽)に関して書いてみます』の目次へ
このページへのコメント
HxbLQU Thanks again for the blog.Really looking forward to read more. Fantastic.