今年こそは成功させるんですよ!小波君に美味しいの食べさせてあげるって約束したんです!)
食堂の厨房には、エプロンをつけた奈緒がいた。
「う〜ん、でもなかなかうまくいかないですよ・・・形なんか石みたいだし・・・どこで間違えたんだろ。」
奈緒が嘆いていると、「あら、ナオ!こんなところで何やってんの?」偶然通りかかった三橋妙子が声をかけた。
「あっ!タエタエじゃないですか!実はですね・・・・・・というわけなんですよ!」
奈緒は去年は失敗に終わってチョコをあげられなかったことを話した。
「な〜るほどね。それで今年は小波君にチョコをあげたいんだ。でもうまくいかないと・・・」
「そ〜なんですよ!どうも神様はナオッちに料理の才能を与え忘れたみたいですよ・・・」奈緒が暗くなった。
「そんな暗い顔しないの!チョコくらい私が教えてあげるわよ。で、どんな出来なの?食べてみないとわからないな。」といって
妙子は石ころのようなチョコを一つ食べた。「ああ!タエタエ!それはさっき・・・・」奈緒がとめようとしたがもう遅かった。
「バタッ!」妙子が顔を真っ青にしてその場に倒れた。「ナ・・ナオ・あんた・何入れたの」苦しそうに問う妙子。
するとナオが申し訳なさそうに「その・・・森の奥で拾った綺麗な木の実をたくさん・・・さっきこぼれたやつを食べたアリが
ピクリとも動かなくなりました・・・」
「ナオ・・・覚えときなさ・・・」(ガクッ)妙子はそのまま気を失ってしまった・・・

「む〜、やっぱりあの木の実はだめでしたか・・・よしっ!気を取り直しますよっと!でも、その前に・・・」奈緒は立ち上がると
妙子をかかえ妙子の部屋まで連れて行った。「明日にはうまくなってるはずですよ!そしたらタエタエにも食べさしてあげますですよ」そのまま部屋を後にした・・・

―三十分後―
(今度こそ!)
またも奈緒は厨房にいた。「さっきの石ころよりはマシですね・・・問題は味ですよ。タエタエみたいに倒れてもらっちゃ困りますよ。誰かに味見・・・いや毒見をしてもらわないと・・・あっ、さらだ!お〜い、さら〜!」
奈緒はまたも偶然通りかかったさらを呼んだ。「お姉ちゃん?今日は何やってんの?もしかして・・・チョコ?」さらが問うと、
「そ〜なの。昔からのことだから知ってるでしょ?うまく出来たつもりだけど、料理が上手なさらに味見してもらおうと思って・・」
「そ〜いうことなら全然いいよ!相手は小波君だよね?小波君より先に私が食べちゃっていいの?」さらが心配そうに聞くと、
「大丈夫!どんどん食べてよ!」(ほんとは味見じゃないからねぇ・・・)
「じゃあ、いただきま〜す。」奈緒は心配そうに見守る。しかしさらも顔を真っ青にして倒れてしまった。
「お・・おねえ・・」(ガクッ)「む〜、また失敗ですか・・・でもこんなことでめげるナオッちではないですよ!」
奈緒はさらを部屋まで運ぶとまた厨房に向かった・・・

―三時間経過―
「今度こそ大丈夫なはずですよ!でも念のために・・・あ!すずちんと紫杏ちゃんだ!」奈緒はふたりを見つけると
事情を説明し(さらと妙子が倒れたことは内緒にして)チョコを食べてもらうことにした。
「ほんとに大丈夫なのか?睡眠薬とか入ってるんじゃないのか?」五十鈴が疑わしく聞いた。
「そんなことないですよ!大丈夫ですよ!・・・たぶん」奈緒は自分でも何を根拠に大丈夫といっているのかわからなかった。
「とにかくいただこうじゃないか。せっかく作ってくれたんだ、わざわざそんなことをする必要もあるまい。ところでさっきの大丈夫です!の後がよく聞き取れなかったんだが・・・」紫杏が言った。
「な、何もないですよ!」奈緒はあわてて否定した。
ようやくふたりはチョコを口に運んだのだが、やはり結果は一緒だった。二人同時にドサッと倒れこんだ。
「高科!だましたな!」五十鈴が消えそうな声で叫んだ。「わざとじゃないですよ〜!信じてください!お願いですよ!」
奈緒は紫杏に助けを求めようとしたがすでに気を失っていた。「た・・たかし・な・・覚えて・・お・け・・・」(ドサッ)
五十鈴もついに果ててしまった。「なんかすごく悪いことした感じがするですよ・・・でもナオッちを甘く見たらだめですよ!
絶対に小波君に食べさせてあげるんだから!」

―次の日の放課後―
「ったく、ナオのやつこんなとこ呼び出してどうするんだよ。」小波は奈緒に呼ばれていた。
「小波君!今日が何の日かわかりますか?バレンタインデーですよ!
そこでナオッちは彼氏さんの小波君にチョコを作ってきたわけです!」
奈緒はチョコを差し出した。「マジで?やった〜!奈緒!ありがとう!」小波は急いで包みを開けてチョコを食べようとした。
すると後ろから何人かの声が聞こえてきた。(ま、まさか)奈緒はすべてを察した。
「小波君!それ食べちゃダメ!食べちゃダメ〜!」まだ顔色の悪い妙子。
「お姉ちゃん!それほんとにダメだって!」苦しそうなさら。
「小波!やめるんだ!それを食べてはいけない!」五十鈴も続き、
「ええい!小波!ダメだと言っているだろう!」紫杏もかなりあわてている。
小波はパニックに陥り、奈緒は放心状態だった。その後四人は一切の事情を小波に伝えた。
「そうだったのか!みんなありがとな!あと・・・奈緒が迷惑かけたな・・・俺からもあやまらせてくれ・・・」小波が申し訳なさそうに謝った。
(さてと・・・)「ナオ!」小波が叫んだ。奈緒は一瞬びっくりした後おそるおそる小波を見た。
「ったく、お前は元気なのはいいけど程々にしてくれ!」「ごめんなさい・・・でも!今年は小波君にチョコ食べさせてあげたかったんです!小波君にいつも迷惑ばっかりかけてて、私は何もしてあげられなくて!だから、だから・・・」奈緒が言い終わる前に
小波は奈緒を力いっぱい抱きしめた。「・・・!」奈緒は驚いて言葉が出なかった。
「そんなことない!ナオはいつも笑っていてくれるじゃないか!その笑顔をみてがんばろうって思えるんだ!
チョコなんてどうでもいい!ただずっと笑っていてくれればそれでいいさ・・・」小波はやさしくささやいた。
「う・うわあああ!これからもずっとずっと一緒にいてくださいですよ!私の横にいつまでもいてください!」
奈緒が大声で泣き叫んだ。「ああ、ずっといっしょだ。高校卒業しても、プロになっても・・・ずっと一緒だ。」
(ずっと笑っててくれるよな?・・・ナオ)
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