冷たい風が、容赦なく体を冷やしていた。
季節は冬、そろそろ一年が終わろうとする、どこかさびしい季節。
昼だというのに、空を覆う厚い雲が日の光を遮って、わずかなぬくもりさえない。
「……」
 冷え切っているのは、体だけではない。心も、悲しみに冷え切っていた。
「……しかし、ずいぶん汚れたな」
 目の前の墓を見て、独り言。
ここを訪れる人はほとんどいないのだから、当然ではある。
 ……自分も盆にさえ来ようとはしなかった。
全ての真相を知った後、たやすく彼女に顔向けできなかったから。
「……」
 汚れた墓石、だがこれは墓と呼ぶにはふさわしくないかもしれない。
なにせ墓の下には彼女の体は埋まっていないのだから。
「…………ごめんな」
 思い出すのは失われていく体温、消えていく鼓動。
そして祝いの言葉、それはあの夏に受け取れなかったもの。
「謝るのは間違ってるんだろうけどさ、でも俺馬鹿だから他に思いつかないや」
 誰が悪かったのではない、きっと誰も悪くはないのだ。
彼女も、亀田君も、誰も。 ただ、歯車が噛みあわなかっただけ、
運命というには酷だけど、そうとしか言いようがない。
 水をかけて、こびりついた苔を取り、石を丁寧に磨く。
一時間ほどかけて掃除をして、最後に水で洗い流すと、
見違えるほどきれいになった。
先ほどまで読めなかった彼女の名前を見て、一人つぶやく。
「……もし、俺がもっと早く記憶を取り戻せていたら、違う未来があったのかな?」
 いや、取り戻せなかったとしても、他に方法はあったのではないか。
そう思っても、何が変わるわけでもない。ただ後悔だけが残る。
「昔みたいにみんなで楽しく馬鹿をやれる、そんな日々を送れたのかな?」
 話しかけても墓石は何も語らない。返事を求めていたわけでもないが、
より、ひどい寒気が彼を襲った。
 顔をあげて、花束をたてかける。。
「またくるよ」
 拝み、背を向けて数歩進む。
「……」
 何となく、振り返った。もちろんそこにある景色は変わっていない。
ただ、このまま意気消沈しているのを、きっと彼女は望まないだろう。だから。
「せめてもう二度と、俺の周りであんな最期を迎える人がいないように」
 声を上げるほど子供ではない、涙を止めることができるほど器用でもない。
「俺が、守るよ。みんなを、大切な人を…………だから」
 それでも涙を拭いて、決意する。
「安心して、ゆっくり休んでくれ…………智美」
 再び背を向けて、振り返らずに歩み始めた。







「ただいまー」
「あ、お帰りなさい、小波さん」
 皿洗いをしていた手を止め、ヒナコは手をタオルでぬぐった。
十二月の初め、水仕事をするには少々つらい季節だ。
もっとも、今は昔に比べて、お湯が簡単に出てくるため、
ずいぶんと楽になっているのだが。
 視線を玄関の方へ向けると、どこか悲しげな顔の小波の姿があった。
大好きな人が悲しい顔をしているのを見るのは、あまり良い気分ではない。
「……どうしたの? なんだか顔色悪いみたいだけど」
「いや、なんでもないよ」
 怪訝そうな顔のヒナコを見て、彼が苦笑しながら返事をする。
「……?」
 彼の眼を見て、瞳が少し赤いことに気がついた。
今朝は墓参りに行くと彼は言っていたが、それに関係しているのだろうか?
 ……いずれにせよ、これ以上問うべきではない、そう思った。
「今日はスキヤキだよ、たくさん食べてね」
 朗らかに笑いながら、鍋を指さす。
味がしみ込むにはもう少し時間が必要なようだけれど。
十分に良い香りが、鍋から立ち上っていた。
「うん、もうお腹ぺこぺこだよ……ところで、博士は? 玄関に靴がなかったけど」
「お父さんなら、今日は遅くなるって言って出て行っちゃった、夕御飯もいらないって」
「そうなんだ、最近博士、出かけることが多いね」
 最近。正確に言うなら、半年前―――ちょうどヒナコが小波に告白した日―――から、
ヒナコの父、唐沢博士は外出することが多くなった。
もともと家で何らかの実験をしていることが多い父なのだが、
最近では、何かと理由をつけて出かけることが増えている。
 ……特にヒナコのアルバイトが翌日休みのときに、多い。
もしかしたら気を使っているのかもしれない、
そう考えついてヒナコは顔が赤くなるのを自覚した。
(そんな必要ないのに……)
 だが結局のところ、それに甘えているところがあるのも事実だが。
「どうしたの? なんだか顔が赤いけど」
「なんでもないわ、もう少し待っててね」
 ピピピと、炊飯器が電子音を発する。
ご飯を炊くのも、昔よりずいぶん楽になった。
「あ、うん、手伝うよ」
「そう? それじゃあご飯をついで……その前に、手を洗ってきてね?」
「ああ、そうだね」
 遠ざかる足音、知らずに緩んでいた頬を引き締めると、夕餉の支度を再開した。

 ヒナコが目を覚ましてから、もうすぐ二年がたとうとしていた。
いつもの目覚ましで目覚めたときに、そばには年老いた父親と彼の姿があった。
父に彼を紹介されて、嬉しそうに、けれど少し悲しそうに、
ヒナコを見る彼の瞳が気になったことを覚えている。
 その時、彼の名を口にすることができたのかは、未だにわからない。
けれど、彼がいい人だということは、何故かすぐに確信できた。
 母親を亡くしたこと、いつの間にか三十年という月日が流れていたこと。
ショックで落ち込んだヒナコを、彼と父親は優しく励ましてくれた。
だんだんと彼に惹かれていったヒナコは、気づけば、プロテストを受けるために
毎日練習する彼の姿を、じっと見守るようになっていた。
 子供のようにひたむきに打ち込む彼の姿はとてもかっこよく見えた。
少々間の抜けているところはあるけれど、それすらも魅力的に感じた。
休みの日にデートをするようになって一年、ようやくヒナコは決心した。彼に思いを伝えようと。
それは暑い夏の日、遊園地に行った帰りに河原を散歩をしていたとき。
真っ赤な夕焼けに照らされた姿にヒナコは告白した。
「私、小波さんのことが好き……小波さんは私のこと、好き?」
「!」
 驚いた顔を見せる彼。一瞬の静寂の後、彼は突然眼に涙をあふれさせた。
「嫌だったの?」そう聞くヒナコに、
彼は大きな声で「違う!」と叫び、ヒナコを抱きしめた。
 突然の出来事に、ヒナコの心臓は痛いほど高なる。
強く抱きしめられて少し痛かったけれど、嫌だとは思わなかった。
そのまま長い時間が過ぎて、彼が口を開いた。
「俺も、俺もヒナコちゃんが好きだ、大好きだ!」
 溶けてしまいそうなほど、熱い告白が耳に届いて。
「……うれしい」
 夏の暑さも関係なく、二人は抱きしめ合った。
セミの鳴き声すら、祝福しているように聞こえる
そんな、夏の暑い日だった。

 夕食を終え、今は食後の安らかなひと時。
テレビをBGMにしながら他愛のないことを語る。
ごく普通に一日を過ごし、恋人との甘い時間を楽しむ。
……それがかつて渇望していたものだと、今のヒナコは知らない。
「……あら?」
 聞こえてくる電子音声、「お風呂が沸きました」と告げてくる。
「お風呂、沸いたわね……一緒に入る?」
「えっ?! いいの!」
 にやける彼の笑顔を見て、くすくすと笑いながら
「冗談よ」
 無慈悲に鉄槌を下す、彼の一気に落胆した顔が面白い。
「でも、もうお互い裸なんて見慣れてるんじゃ……」
 言い終わる前にパコ、と彼の軽く額を小突く。
「クスクスクス……小波さんってデリカシーないのね」
「へ?」
「とりあえず先に入ってね、私は次に入るから。
……その後は、今日は大丈夫な日だから、ね?」
 頬が熱くなるのを感じながら、言葉を紡ぐ。再び彼の顔がにやけた。
その顔だけ見ると、野球をやっているときのカッコイイ顔が嘘のようだ。
でも、この顔すら愛しく思えてしまう。恋は盲目。そんな言葉が頭に浮かんだ。

 シングルベッドの上。
濡れた髪を優しく撫でられて、ヒナコは幸せそうに頬を赤く染めた。
ゆっくりとベッドに横たわり、軽いキスから始まる。
ただ唇を重ねるだけなのに、
心までつながったように思えるのはなぜだろう。不思議に思う。
 触れる肌。伝わる体温が、火傷しそうなほど熱いのは、
私の身体で興奮してくれているからなのだろうか。
そう思って、少しだけ嬉しくなる。
 ぷち、ぷちとパジャマのボタンが一つずつ外されていく。
人に脱がされるというのは、子供に戻ったようで少し気恥ずかしい。
けれど、気分が高揚していくのも確かだ。
「ん…………」
 舌をさしこまれ、口内に生暖かい異物が侵入してくる。
蹂躙するように暴れる舌を、優しく包むように迎えることを心掛ける。
軽いキスとは違い、征服されていくような錯覚に落ちいってしまう、彼の動き。
 ピチャピチャと音を立てながら彼とのキスが続く。
……いつのまにか、上半身は下着だけになっていた。
前に『服を脱がせるのが楽しい』といわれてから、
ヒナコは交り合うときは下着をつけるようにしていた。
ブラジャーの上から優しくなでられたあと、
ホックをはずされて、二つの小さい丘が露になった。
胸にはあまり自信がなかったのだが、
小波がこの胸が好きだと力説してくれたので、今では少し自信が持てる。
「あ……はぁ…………んっ」
 唇が頬から首筋へと、ゆっくり、這うように動いた。
 痺れたように体が震える。ぬめりとした感触の中、
時折強く吸われたり、軽く噛まれる。発する甘い痛みが気持ち良い。
跡が残りそうなのが気になるけど。
彼が目立たないところだけに、跡をつけているのはよくわかった。
「…………んっ…………ぁは」
 小波の硬い――けれど優しい――手が、ヒナコの胸を揉みしだく。
自分でいじるよりも何倍も気持ちが良い。
固くなった乳首がつままれて、引っ張られ、押し潰される。
いつの間にか彼のつむじが見えた。
胸を口で犯されていく。吸われて、舐められて、噛まれる。
 彼の動きが変わるたびに、ヒナコの吐息はこぼれおち、
そして、胸だけでなく身体全体が熱くなってきた。
「はぁ……あっ……」
 移動していく唇、上から下までただ一つの個所を除いて余すところなく舐められていく。
ついばまれる体の場所すべてが、性感帯だと思えるほど敏感になっていた。
続いて行く愛撫、時折彼のモノが体に擦りつけられることも、
興奮を高めさせる一つの要素になっている。
「……ん………………むぅ……はぁっ!」
 再び口をふさがれたときに、ようやく彼の手がショーツの上をなぞった。
待ちわびていた感触に身体が打ち震えるが、それをおさめて、キスに集中しようとする。
 けれども彼は容赦なく、下着の上から割れ目をなぞってきた。
触られる感触からして、もうずいぶんとあそこが濡れているのがわかった。
羞恥心で、顔がさらに熱くなる。
大きくあえぎたくても、彼の口がそれを許さない。口の中で暴れる舌を止める余裕もない。
追い打ちをかけるように、乳首を強くつままれ、さらに最も敏感な部分に触れられた。
「んう! んーっ! んぅぅぅぅぅぅ!」
 軽く達して、ヒナコはビクンと痙攣して、嬌声をもらそうとした。
けれども、ふさがれた口からはうめき声しか出ない。頭がぼうっとしていたまま収まらない。
彼の手は未だに秘所の周りを刺激していた。
 下着の上からでも十分に気持ちがいいのに
直に触られたらどうなるのだろうか。期待と不安がないまぜになって襲ってくる。
「…………はぁっ! はぁ……はぁ……ふぅ……んっ……」
 十数秒後。ようやく口を開放されて、ヒナコは大きくあえいだ。
垂れる唾液の糸が、頬に落ちる。
軽い絶頂により、彼を求める気持ちが高まっていく。
 早く貫かれて、思うがままにされたい。 それなのに。
「……はぁ、っ……あっ……」
 彼は、優しく体をなでまわし、ところどころにキスマークをつけながら愛撫を続ける。
気持ちいい、気持ちいのだけれども、物足りない。
 視線が絡み合う、優しく微笑まれて、ようやくかと思った、けれど。
彼の頭が股間に移動して、下着の上からぺろっと舐めた。
「……いいかな?」
 その言葉を、理解できずに一瞬固まるヒナコ。
だが、すぐに何を意味するのかを理解する。
「……え? そ、そこはダメ!」
 彼の顔が向かっていた先は、
口でされるのがどうしても恥ずかしくて、今までダメだと言っていた場所。
首を振りながら手で頭を押して、逃れようとする。
けれども弛緩した体は言うことを聞いてくれなかった。
 彼が、下着を脱がして、舌でゆっくりとなめ始める。
口で攻められているということは、眼でじっくりと観察されていること同じだ。
部屋には小さな明かりがともっているだけだが、
それでも耐えがたい羞恥がヒナコを襲う。
割れ目にそって動き、舌先を少しだけ侵入させられ、愛液をすする音が聞こえる。
「凄く濡れてるね……気持ち良い?」
「んっ…………そんなこと……あ!」
 意地悪く問いかける彼に言葉を返す、
だがそれも彼の加虐心を増長させるだけというのはわかっていた。
舌の動きが勢いを増す、それと共に快楽の波が押し寄せる。
「やぁ! だ、だめぇ、いやぁ、あっ、あぁ! あっあっあぁぁ!」
 手で触られるのとは違う、経験したことのない感触がヒナコを襲う。
むずがしくて、気持ち良くて、恥ずかしくて。
気づけば彼の髪を握りしめて、必死に快楽を耐えようとしていた。
「だめ……ん……だめぇ! いや、いやぁ!」
 涙が眼から溢れだす、心は嫌だと思っていても身体は求めている。
快楽の前では想いなんて通じないのだろうか。少し悲しい。
厭らしい水音が聞こえる、逃げようと動く体はわずかにベッドをきしませる。
だんだんと快楽で頭が溶けていき、経験したことのないところまでたどり着きそうだった。
「あんっ! あっ、ああぁ、ああっ!」
 小さく痙攣し続ける身体、呼吸がかすれていく。
いつのまにか高みまで昇ろうと、ヒナコは自らの身体を慰めていた。
乳首をつねり、指をしゃぶる、快感を高めるだけに身体が動く。
そして小波が肥大したクリトリスに軽く噛みついた時。
「あぅ! うあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 絶叫と共に、大きく体が痙攣した。
何も考えられなくなり、ただ快楽を受け止めるだけ。
「はっ! はぁぁあ! いやああぁぁ!」
 小波の攻めにより、嬌声は止まらない。
舐められ、むしゃぶられ、吸われて、噛まれて。
最も弱い部分を集中して攻められて、ついに意識が飛んだ。
「うぁ、あああぁ!……はぁ……」
 少しの間の後、絶頂の余韻が去り、ヒナコの意識は覚めた。
けれど、眼は潤み、ぼんやりと宙を見つめている。
吐き出す息に疲労の色が濃く、浮遊感が体を包んでいた。
「…………」
 それを見て、彼は少し時間をおいたほうがいいと思ったのか。愛撫の動きを止める。
「……はぁ……はぁ…………いじわる、嫌だって言ったのに」
 しならく息を整えた後、ヒナコはかすかな声でつぶやく。
「ゴメン、ゴメン。なんか歯止めが利かなくて。
ヒナコちゃんが可愛いからついいじめたくなるんだよ」
 言い訳にしか聞こえないが、それでもヒナコは彼のことを許してしまう。
ただ、欲を言えば…………
「ヒナコ」
 小波がヒナコを呼び捨てにするのは、滅多にないことだ。
顔が近づいて、眼を覗きこんでくる。綺麗で優しい瞳にヒナコの顔が映る。
「好きだよ、愛してる」
 待ち望んでいた言葉と共に、口づけされる。舌をからめ合わせ、唾液を交換。
少し酸っぱいのは、自らあふれ出た液体の味なのだろう。
自分の愛液を口にするというのは、気分の良いものではないとヒナコは思っていた。
けれども、彼の口から移されたというだけで、嬉しく感じてしまうのだ。
「……私も、大好き、愛してるわ」
 はにかみながら言葉を紡ぐ、
人前では言いにくくても、二人だけなら素直に口に出せる。
「うん…………あれ?」
 突然、彼の声に驚きが混じる。それはそうだろう、ヒナコの手が彼の怒張したものを握りしめたのだから。
「……ねえ、その…………欲しいの」
「何を? どこに? どうして欲しいの?」
「………………」
 間髪入れずに返された質問に、顔が今まで以上に熱くなるのを感じた。
にやにやと笑う笑顔が憎たらしい、それでも従うしか道は残されていない。
「ええと……私の……ここに、これを……入れて?」
 せいいっぱいの表現、これだけでもう逃げ出したくなるくらい恥ずかしい。
「よく言えたね、入れるよ」
「ん……ぁああああああああ!」
 待ち望んでいたものを一気に挿しこまれて、ヒナコの身体は喜びに打ち震えた。
お互いが深くつながり、相手の存在をより近しいものとする。
それは他の行為では代用できない快楽。
「あああぁっ、ああっ、あんっ! あんっ、あんぅ、んぁっ!」
 小波が動き出すと同時に、ヒナコも合わせてわずかに腰を動かし始めた。
身体の奥まで勢いよく踏み込んでくる彼の分身が、先ほどとは違う快楽をもたらしていく。
「……なんかっ、ヒナコ、凄い感じてない?」
腰を動かしながら、小波は問いかけてくる。
会話をする余裕もあまりないのだが、なんとかヒナコは返事した。
「んっ! はぁっ……う、うんっ! なんだか、すごい……んっ!」
 いつもより激しく、彼は体をぶつけてきた。
だが、それをヒナコは辛いとは思わない。
ただ彼のすべてを受け止めたくて、お互いの快楽を高めたいと思う。
肉の激しくぶつかり合う音、腰をしっかりとつかまれて奥の奥まで激しく打ち込まれる杭。
膣奥の性感帯を激しく刺激されて、拷問のように快楽を与えられる。
「やぁぁ! あっ、やぁ、あぁぁ! あっ! ぁぁあ!」
 嬌声はもはや悲鳴に近い、我慢することなく声をあげて快楽に身をゆだねるヒナコ。
打ちつけられて震える身体、汗と体液が飛び散り、シーツにしみ込む。
足を片方持ち上げ、角度を微妙に変えて、小波はガンガンと突いてくる。
軋むベッドの上、ただひたすらに快楽を貪る二匹の獣。本能に身を任せ、喰らいあう。
シーツをずれるほど激しく掴みながら、絶頂に達しようとするのをヒナコは必死に抑える。
まだ、達するわけにはいかない。相手に気持ちよくなってもらわなければ意味がない、そう思うから。
「……あんっ……んんんっ……!」
 耐えて、耐えて、耐える。小波の顔を見ると、少し苦しそうな顔だった。
お互いに限界は近いはず、と、小波が動きを止めた。
達したのかと思ったが、まだ膣内のものは熱く蠢いている。吐きだしたものも感じない。
すっと性器が引き抜かれていき、ヒナコが疑問に思う、刹那。
「ゃっ!」
 ひっくり返されて、後ろから再び突き刺された。
ヒナコは後ろからされるのはあまり好きではない、
顔が見ることができないというのが一番の理由。
けれど、好きな人に支配されるかのように犯されるのが、限界を超えた興奮を呼ぶ。
乱暴に、けれど優しく。矛盾したようにただ突かれる。
一定したペースではなく、様々に動きを変える肉棒が、抉るように膣内を犯す。
持ち上げられた下半身にもう力は入らない、痛いほど強く手を握りしめた。
「は、はげしい…………んっ、んんんっ!」
 シーツを噛み、ただただ耐える。もう、脳は何も考えることができない。
ただ悦楽の声をあげ、すぐそこまで来た時を待つ。
「ヒナコ、ヒナコ、ヒナコ!」
「あぁっ、ああああぁぁっ、あああああああぁぁぁぁぁあああ!」
そして、大量に何かが入ってくる感触より一瞬遅れて、ヒナコの意識は白濁した。



 意識を回復させたヒナコが最初に見たのは、歪んだ白いシーツだった。
意識が飛んで、あまり時間はたっていないらしい、背中に熱い体温を感じる。
引き抜かれた男根は、力を失ってお尻に当たっていた。
「……はぁ…………はぁ……」
 身体全体が幸福感と満足感に包まれていた、
けれどもヒナコにはどうしても納得できないことがあった。
「え?」
体を起こし、小波を見る、不思議そうな顔になる小波。
満足そうな顔をしているヒナコだったが、その瞳には未だに欲情の炎がともっていた。
「えい」
「わっ!」
「クスクスクス…………」
 笑いながら、ヒナコは小波を押し倒した。
そのまま彼の性器に顔を近づけふっと息を吹きかける。ぴくりと反応するのが可愛らしい。
「ひ、ヒナコちゃん?」
 いつのまにかちゃん付けされていることに小さな怒り。
意を決して、口にくわえた。
「うっ!」
 子供のような唸り声。はじめて口にするモノの味は、酷くまずかった。
それでも愛しい人の半身を丁寧に舐めていく。技量は拙くても、ただ愛情をこめて。
尿道に残る精液を吸い上げ、亀頭を刺激して、竿を上下に擦る。
「ど、どうしたの? なんで急に?」
 小波の質問に、一度口を離して答える。
「だって、今、最後に顔を見ることができないのがいやだったの……」
 再び口をつけて、刺激し始める。
だんだんと力を取り戻していくそれに、少し感動する。
「でも、今まではこんなこと……」
 そう、素直に快楽を得ていたヒナコだが、まだ経験の回数はそんなに多くない。
まだ気恥ずかしさが残っていて、今日までお互いに口で性器を慰めることはしたことがなかった。
けれど、今日無理やりにいじられて、ヒナコのネジが外れたのだった。
「……くっ!」
 必死に快楽を耐える小波の声、それがなんだか新鮮な感触だった。
生臭い匂いが鼻を満たす。それだけで再び興奮していくヒナコの身体。
気づけばヒナコは口でモノを攻めながら、自らの秘所をいじくっていた。
「あ…………」
 手で触れると、べとべとのそこから、わずかに精液が垂れているのが伝わってきた。
この後を考えて、自らの興奮も高める必要があると思い、達したばかりの敏感なそこをいじる。
だが、受け入れる準備をする必要などなかった。だらしなく熱い液体が滴っている。
「…………くっ、や、ヤバイって」
 慣れていない刺激だからか、彼は意外に早く限界を訴えてきた。
(のちに彼は、『ヒナコちゃんに口でされているというのに感動していたからだ!』
といいわけすることになる。)
ともかく、今度はヒナコが責める番だった。
口の刺激を止め、小波の上にまたがる。俗に言う騎乗位。
この体位は数えるほどしかしていないが、
お互いの顔を見ることができるのが、ヒナコは好きだった。
てらてらと光る股の付け根を小波の視線が射抜く、
それだけでじわりと愛液が滲みだすような気がした。
「あ、あれ? …………あっ!」
少し入れるのに手間取ったが、無事に招き入れることに成功。
再び一つになる。一度欲望を飲み込んだそこは、彼のモノを歓迎するかのように包み込む。
「……ん……はぁ……はぁあぁ……」
 ゆっくりと腰を動かし始めるヒナコ、だが、一度弛緩した体が思うように働かない。
小波に喜んでもらいたくて、必死で動かす。けれども、駄目なものは駄目だった。
思うように快楽を与えることができず、得ることもできない。
もどかしさで焦っても、結果に結びつかない。無力さで涙が滲む。
「ううっ、えっと…………んっ、んっ!」
 それに業を煮やしたのか、突然小波が激しく突きあげてきた。
「やぁぁぁっ! だめ、だめえっ! こ、小波さんは、うぁっ!」
 再び攻守が逆転して、ヒナコはあえぎ始めや。
「あっ! あっ、あっ、あぁぁ! はぁぁ!」
 小波が付きあげることで、ヒナコが自分の良い部分に男根を誘導する動きになる。
それが功を奏し、お互いのボルテージを高めていった。
小波が手を伸ばし荒々しく胸をつかみ取る。
歪む乳房を自分で眺め、それを気にする余裕もなく激しく突かれる、何度も、何度も。
ゆっくりと、けれど一回一回が最奥までたどり着く一撃。
長く耐えることができないのは自明の理だった。
ただ、相手を愛しく思って、少しでも長く交わり続けようと、ヒナコは必死だった。
けれど、ぶつかり合う視線で互いの限界を悟る。終わりの時は近い。
突然、小波はすべての力を振り絞ったのか、さらに激しく動き始めた。
もうバランスを取ることもできず倒れこむ形になるヒナコ。それでも互いの腰の動きは止まらない。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 ヒナコの視界が霞み、絶叫をあげ、膣を強く締め付けたところで意識が途絶えた。

「ん・・・・・・・」
 再びヒナコの意識が戻ったとき、股間に何かが押し当てられている感触がした。
眼をあけると、小波の姿。
「あ、起きた?」
 体中に汗がまとわりつく、倦怠感が体を包み今すぐ眠ってしまいたい。
けれど、もう一度お風呂に入らないわけにもいかないのだが。
「なに…………してるの?」
 彼はヒナコの性器を、ティッシュで拭いていた。
優しい動きが、むずむずとして少し気持ちいい。
「ちょっと出しすぎたかなって思って、嫌だった?」
「……そんなこと、ないわ……」
 今日だけでいろいろと新しいことをやりすぎて、
諦めの境地に達しているヒナコだった。
「うん。これでOKかな」
「んっ!」
 最後に軽く全体をなでまわし、始末は終わったようだった。
「さて、ヒナコちゃん先はいる? それとも俺が入ろうか?」
「……一緒に入りましょうか?」
「え?! ……また、冗談なんでしょ?」
くすくすと笑う、心からの笑顔。
「ううん、お父さんが帰ってくるまでに、早くしないといけないし」
「ホント?! やったぁ!」
子供のように嬉しがる小波を見て、ヒナコは幸福感に包まれる。
ごく普通のカップルの、ごく普通の行い。
かけがえのない大切な時間、小波が二度と手放さないと誓ったもの。



行為を終え、二人でお風呂に入った後。
この幸せな時間が、いつまでも続いてほしい、そう思った。
だから今、昼に彼女に贈った言葉を、こんどは恋人に贈ろう。
彼はゆっくりと口を開く。



 お風呂でいちゃついた後、二人はヒナコの部屋でのんびりとしていた。
さっきまで激しく絡み合ったベッドに、二人で腰かけて。
「……やっぱり、人を守るのは大変だってことを、今日思い出したよ」
 突然、真剣な声色で小波がつぶやく。ヒナコには意味がさっぱりわからない。
「でも、決めたんだ。必ずヒナコちゃんを守るって、絶対に!」
 恥ずかしいセリフね、と言いかけて、やめる。真剣な言葉には真剣に返すべき。そう思ったから。
「うん、ありがとう!」
 笑顔と共に、キス。きっと未来には楽しい出来事が待っている、そう確信できた。

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