『あ、小波さん、お弁当持ってってくださいね?』
『小波さん小波さん、今日は肉じゃがです』
『小波さん? ちゃんとお掃除しないとダメじゃないですか』
『あの、今日出された課題で分からないところがあって……その、勉強見てください』

 ――最近の典子ちゃんが可愛い。

 いや、容姿で言うなら1年と少し前に会ったあの時から、変わりなく美少女だったし、
 性格だって――お父さんのこともあり少し暗かったが――優しい良い子だったんだけど。
 何故だか典子ちゃんを見ていると落ち着かなくなった。
 ……典子ちゃんは、可愛い。
 一緒に暮らすようになってから数ヶ月経ち、俺は以前よりもまして典子ちゃんの魅力に浮かされているのだった。

 勉強机に向かい、高校受験に向けて猛勉強している典子ちゃんの後姿を見つめる。
 今やっているのは数学だ。
 時折り、計算が合わないのか、ノートに書く手を止めて、顔の左サイドでまとめた髪を人差し指で絡めている。
 その仕草にもドキッとした。

「どうかしましたか?」

 俺の視線に気付いたのか、振り返って首を傾げる典子ちゃん。
「な、なんでもないよ」
「……?」
 ごめんね。
 慌てて取り繕って、心の中でそう呟く。

 君を守ると言って、お父さんの代わりになると約束したのに、今では君に欲情している。

 そんな自分が情けない。
 今勉強しているのだって、無理をしてでも推薦を取って、高校に入った時の学費を少しでも減らそうと、
 つまりは、俺の負担を減らそうと頑張っているのだ。
 典子ちゃんは基本的に成績優秀だし、授業態度も良好だから、
 今目指している高校に入るだけなら、普段やっている自習だけで十分のはずなのに。
 サラリーマンになって間もなく、そして中途採用扱いな故に安月給な俺のフォローをするために、必要のない苦労を背負っている。
「……っ」
 思わず声に出して、今すぐ抱きしめたくなった。握りこぶしを作って、ぐっと堪える。
 部屋から出よう。今はいない開田くん(実家に帰ってしまった。南無)の方の部屋へ行って、気を静めよう。
 そう思い、俺は立ち上がった。
「ちょっと隣の部屋に行ってくるね。
 典子ちゃんは勉強頑張って。でも、ツラくなったらすぐに止めるんだよ」
「はい、分かりましたー。もう、過保護ですよ?」
 典子ちゃんは元気に挨拶をした後、ほっぺたを少しだけ膨らませて、拗ねた目をしてそう言った。
「そうかな?」
「そうです」
 そうだろうな。俺だってそう思う。過保護に扱っていると思う。
 それがいつからか愛情表現となっているのも否定できない、するつもりもない。

 だから――、
「それは、俺が典子ちゃんのこと、大好きだからだろうね」

「なっ、なっ、何を恥ずかしいご冗談を?!」と顔を赤くして口をパクパクさせている典子ちゃんを尻目に、俺は部屋を出た。
 もちろん、嘘じゃない。冗談でもない。大好きだ。
 少し道端で転んだだけで「傷はないのか!? 頭は打ってないか!? 救急車は!!?」と大慌てするくらい過保護なのも、
 それは愛情からくる一種の表現なんだ。

 ……愛情の中に性欲が入っているってのが、悩みモノであり、後見人として問題なんだけどね。

 典子ちゃんのいる部屋を出て、台所を通り過ぎ俺の部屋へ入る。
 元々は開田くんが使っていた部屋だったが、今は前の俺の部屋と全く同じように家具を置いているので違和感はない。

 ただ、この狭さで家賃が6万というのは、少しの不満もないわけじゃない。
 同じ6万なら3LDKの貸家だって昔は見たものだ。
 フリーター時代はとにかく就職活動のしやすさやバイトの通いやすさから、この部屋を選んだが、
 もうそろそろ新しい部屋を探すべきなのかもしれない。
 典子ちゃんの親戚の方からは毎月援助を頂いているが、家賃の半額にもならないわけで、
 このままだと高校生になった途端、バイトを始めると言いかねない。
 そんなのはダメだ。納得できない。

 と、考えたはいいが、インターネットで賃貸物件の情報を調べようにも、
 パソコンは開田くんが持っていってしまったため、今の俺の部屋にパソコンはおいていない。
 とりあえず、落ち着く為に典子ちゃんから離れたわけだが、
 俺の部屋にあるものといえばベッドなどの家具と……
「どうやって処分するかなぁ、あれ」

 開田がおいていった漫画くらいなものだ。
 その漫画は、主に小学生くらいの女の子があられもない姿で、
 18歳未満には到底見せることのできないような事を思いっきりやっているエロ漫画だ。
 捨てようとしてヘタに典子ちゃんの目に映ったら最悪だし、かといって絶対に見つからない場所に隠しているとはいえ、
 他人に見られたら即人生が終わるような漫画を、いつまでも所持しておくのは心臓に悪い。

(というか、どういう意図であんなもの置いていったんだ?)
 ほんの興味本位で中身を全て確認したが――断じてオカズにしたわけじゃない――、
 どれもこれも、俺と同じくらいのダメ社会人が○学生に手を出して、
 目隠しプレイだとか緊縛プレイとかランドセル装備とかスク水とかおもちゃ付けて放置プレイとか、
 妙にマニアックな行為ばかりだったのだけど。
 いや、中身を鮮明に覚えているというか大半がお兄ちゃん呼びだったりしてうらやましいなぁだとか、
 ぶっちゃけ典子ちゃんの方が可愛いなぁとかむしろ典子ちゃんにやってみたいなぁとか、
 そういうことを思って読んだわけではないのだけど!?
 ……ん?
「うはぁ……」

 エロ漫画を回想している内に勃起してしまった自分の男根を見て、思わず心の中で溜息を吐く俺。
 実に最低だ。
 俺は好きになった子が年下だっただけで、ロリコンではないつもりだったのだが……
(典子ちゃん、まだ勉強中だよな。……一発抜くだけなら……うん)

 天井裏に隠しておいた開田くんの遺産(意図的な誤用)を持ち出し、ベッドに寝転がる。
 ズボンとトランクスを脱ぎ、いきり立った肉棒を見つめる。
 なんてダメな奴だ。二枚の壁の向こうには、愛しいあの子が自分にために猛勉強しているというのに。

 ……黙って左手でページをめくりつつ、右手でシゴいていく。
 
 漫画の中の女の子は、裸にYシャツだけを着ていた。
 まんぐり返しの状態で右腕と右足、左腕と左足を縛れ、なおかつ下の口にはディルドー型のバイブが挿入されている。
 男は女の子の太ももを掴むと、何の感慨もなくバイブを乱暴を動かした
「はん。おいおい、もう床に水溜りができてんぞ。我慢しろよ」
「す、すいませっひゃっ……!! くぅぅぅぅ、んっっんっっ」
 もう既に調教されきった後という設定なのか、女の子の顔には嬉しさが滲んでいる。
 目を細め口をだらしなく開き、顔を紅に染めて、男の責め苦を受け入れている。

 やがて男は「つまんねぇ、飽きた」と言って部屋を出た。
 いわゆる放置プレイという奴で、男はドアの前で待っているのだが、女の子は膣にバイブを突っ込まれたままだ。
 女の子が何度も昇天しつつ、泣き始めた頃合を見計らって男は部屋へ戻る。
「何度イった? 俺のチンポ以外で何度イったんだ?」
「い、一回です」
 嘘を吐くな! と男が同じ男として羨ましいレベルの巨根をズボンから取り出し、女の子のアナルへと突っ込んだ。
「ご、ごめ、ごめなさっいぃぃぃぃイクッッ! イったの! 5回ッ! これでろっかいですぅぅぅぅ!!」
「6回目はどっちでイったんだ!」
「ケツ穴ッ! 私はお兄ちゃんにケツ穴ほじられてッ! くぅぅ! イくぅぅ!!」

 漫画が終わりに近づき、ヒートアップしていくと同時に、俺の右手の勢いが増していく。
 竿を中心に亀頭にも我慢汁をv塗りたくり、手のひらで転がして、丁寧にけれど乱暴にしごいていく。

「イくぞ! 肛内発射(なかだし)してやる!」
 射精感が高まっていくのを感じ、フィニッシュのタイミングを見計らってティッシュを用意しようとして――、

「小波さん、さっきからガタンガタン揺れてますけど、どうしたん、で……すか」
「ッッ?!!??!!?」

 止められないッ?!
 気が付くと、3ヶ月ぶりくらいになる精液を、ドアを開けた典子ちゃんに向けて発射していた。

 俺の精液が典子ちゃんにぶっかかったわけじゃない。
 飛距離的に俺は一般人なので、びゅ、びゅ、と典子ちゃんの足元に俺の精液が二点、三点落ちただけだ。
 しかし状況を考えれば、「ぶっかけてしまったかどうか」なんて事は瑣末事に過ぎない。

 見るからに小○生、もし言い逃れするとしても、中○生としか言えないような女の子がアヘ顔を晒している漫画を片手に、
 下半身裸でチンポを握り、射精した瞬間を見られているのだから。
 ヤバイ。せっかくデウエスの恐怖に打ち勝ち、就職にも成功したというのに、何もかもが崩れ去る音がする。
「あ……いや……その……」
「…………」
 しかし何も言えない。
 夕方にオナニーしていたのは事実だ。言い逃れなんて出来ない。ロリコンと罵られても仕方がない。

 お父さん。すいません。
 約束しましたけど、ヘマしちゃいました。本当にすいません。

「が……」
 長らく時が止まったように固まっていた典子ちゃんが、口を開く。
 俺は言い訳せず――出来ず――、典子ちゃんに罵られるのを待った。
「が、学校で……その、習いました」
 そりゃそうだろう。自分のときも性教育は中学校二年生の時だった。
 女子はさらに早く、小学校の時には既に性教育を始めているらしい。けしからん。
「その、オナニー……ですよね」
 あぁ、と答える。
「その、興奮するとおっきくなって、その……」
「うん。そうだよ。……ごめん」
 今度はちゃんと口に出して謝った。
 ごめん。君が頑張っている間に、こんなバカなことをして。君に見つからないようにするべきだった。
 典子ちゃんは顔を赤くして、何か意を決したような表情を一度作った。
「え、エッチな気分になるのは仕方ないと思います。
 誰だって、そんな時があるって先生は言ってましたから……だから、その、私は、小さな女の子に興奮しても……変じゃないと思いますッ!」

 これは……フォローしてくれているんだろうか。
 あぁ、こんな時ですら、愛しい。
「それでも、ごめん。時間とか考えるべきだったよ……」
 内心、軽蔑されただろうか。
 それともこの子は優しいから、忘れてくれって言えば忘れるんだろうか。
 悩ましい。他人の心が分からない。当然だ、分かるものじゃない。だけど、典子ちゃんの心だけは知りたい。
 馬鹿か、俺は。

「ごめん、後始末とかするから、一度出て行ってくれないかな?
 後でこれからのこと、話し合おう?」
「いやです」
「ごめん、でも少し待ってくれないかな」

「後始末、するんですよね」

(なっ……!)
 あまりの出来事に俺は絶句した。今年に入って、一番驚いたといっても過言じゃない。
 典子ちゃんが、ベッドに座る俺の足元にちょこん、と座る。
 典子ちゃんの目の前に、俺の男たる所以がぶら下がっているっ!
「え、あ、え!!?」
 ようやく口に出たのは言葉になっていない声だった。
 典子ちゃんは俺の様子を意に介した様子はなく、俺のイチモツを右手で握り締めると、
「お、お手伝い、します」
「おおおお、お手伝い!?」
 途端に、色々な想像が頭の中を駆け巡る。
 驚く俺を無視して徐々に復活していく俺のイチモツを、典子ちゃんは口に咥えた。
「おふぉうふぃでふ(お掃除です)」
「だ、誰にこんなことっ……っ!」
「ふぇんふぇいふぁいってまふぃふぁ(先生が言ってました)」
 言い終わると同時に、射精してからまだ拭いていない俺のモノを吸い上げる。
 何教えてんだ先生っ!?
「じゅぅるぅぅ……ちゅっちゅっちゅ……じゅるるうぅぅ」
 正直に言うと、典子ちゃんのフェラチオは上手くはなかった。
 とにかく歯が当たって痛い。舌も使わずただ吸うだけで、技術も何もあったものじゃない。
 だけど今まで経験してきたフェラの中で、一番興奮した。
「んむぅ!? んぅ……ちゅぅぅ……じゅる、じゅる……じゅるぅぅぅ」
 その興奮に呼応して俺のモノも巨大化していく。
 典子ちゃんが俺にフェラチオをしている。それを考えただけでイキそうになったが、踏ん張って我慢する。

 さっきの射精で肉棒に残っていた精液を典子ちゃんは懸命に吸いだしていく。 
「ちゅっちゅ……じゅるぅる……、……ん、苦いの、出なくなりました」
「あ、あぁ。そうか……なら」
「でも、透明なのは沢山出てます。
 私、もう中学三年生なんですよ? この透明なのが何かなんて、分かります。
 小波さんが私の口で興奮したんだって、分かるんです」

 あぁ、その通りだよ。
 君と暮らしている間、俺はずっと禁欲し続けていたんだ。さっき解禁したけどね。
 好きなんだって自覚したのは最近だったけど、それからの君に対する視線は性欲まみれだったよ。
 抜いてもらいたい。セックスじゃなくていい、このままフェラでいいから抜いてもらいたい。
 いや、いっそのこと手でもいい。足でも我慢できると思う。
「だから、続きを――」
 だけどそれは、間違いだ。やっちゃいけない。
 彼女のお父さんと交わした約束で、彼女自身とも交わした約束なんだ。
 彼女を見守る。彼女を幸せにする。こんなことをしてくれるんだ、典子ちゃんが俺にどんな感情を抱いているかなんて、なんとなくは想像付く。
 それでも、ダメだ。彼女の人生はまだ長い。けれど今までの人生は辛すぎた。
 だから、俺が食い物にしていいはずは、ない。

 もう一度咥えこもうとする典子ちゃんを手で制する。
「女の子にされたら、誰だって興奮するよ。典子ちゃんが相手だからじゃない。後は自分で何とかするから――」
「小波さん、間違ってるよ」
 言葉を遮られる。典子ちゃんの瞳は揺るがない。
「それ、何の問題もないじゃない。
 だって私は小波さんの被保護者で、小波さんは私の後見人なんだもの。
 私は小波さんを男性と感じるのはおかしいし、その逆もおかしい。
 だけど、小波さんは私の口で興奮した。理由は女の子だから」
「それは」

「私を女の子として見てくれているから、"そういう"対象だから、私に欲情したんでしょ」

「っ……」
 もう楽になりたい。
 全部認めて、約束なんて無視して、己の欲望のままに彼女を愛したい。
「ダメだ。……ダメなんだよ」
「私は嫌じゃない」
「俺は典子ちゃんを見守るってお父さんと約束した」
「ずっと近くにいるんだから何の問題もない」
「君に負担ばっかりかけているのが許せない」
「全部、私がしたいからやってるだけよ」
「君は普通の恋愛をするべきだ」
「恋愛に普通なんてない」
「俺たちの相性って悪い気がする」
「1年も同棲して、そんなはずありません」

 問答は続く。いつまでも続く、まるで平行線のような会話だ。
 一体何が目的で俺たちはこんなことをしているのか、分からなくなってくる。

「まだ、何かありますか? 何でもいいですよ。言ってみてください」
「…………」
 股の間で俺を見上げる典子ちゃんの顔に、一粒の涙がこぼれた。
「俺じゃ君を幸せに出来ない」
「小波さんと出会ってから私はずっと幸せです。むしろ、一緒じゃなきゃ不幸です」
 俺の涙だ。
 俺が弱音を吐いて、典子ちゃんが「問題ない」と返す、それだけを繰り返す会話。

 どこまでも情けない。
 年下の女の子にここまで言わせておいて、まだ踏み出せない醜い自分が情けない。
「ごめん……ごめんな……」
「泣かないでください。泣かれたって困ります。その、続き、しますよ?」
 未だに萎えていない俺のイチモツを掴み、咥えやすいように位置調整を行う。
 典子ちゃんは俺の顔を窺い、しばらくしてから恐る恐る口を開き、愛しい舌を肉棒の裏筋に触れさせた。
「ん、ちゅ」
 その瞬間、肉棒に電撃が走ったような快楽が俺を襲った。
 その様子に気付いたのか、典子ちゃんは安心したように目を細める。
「ん、どこ舐めればいいのか……ちゅっ、じゅぅ、じょうずなやり方とか……ペロ、ちゅぅぅ……教えてください」

 もう我慢は出来ない。歯止めなんて利かない。
「さっきみたいに、口に咥えて」
「はい。……ほうれふか?(こうですか?)」
 素直に咥える。やはり歯が棒に当たって痛い。
「歯が当たって少し痛いから、歯を当てないように気をつけてみて。後、棒に舌を擦らせる感じでなめてくれ」
「ふぁい……んぅっ……ふぉうれふか?(どうですか?) じゅる、ちゅゅ、ちゅるじゅるじゅぅぅ」
「つぅぅ、うん、いい、よ。っく……っ、唇をかぶせたん、だね、えらいえらい」
 典子ちゃんは飲み込みが早い。勉強に関してもそうだし、過酷な状況になっても、一人で何とかしていく力がある。
 フェラチオの技術は、さっきのお掃除と比べて段違いに変わった。
 たった少しの言葉でこれほどまでに改善できるのだから、この子は凄いと思う。
 俺は愛おしいに堪らず彼女の頭を撫でた。
「後、時折り変化を付けて、くっ……、頭を動かすとか」
「……あまふぁ(頭?)……ちゅぅじゅる、んっ、じゅるるぅぅ、んぅぅ、じゅる」
 咥えたまま笑顔になるという器用なことをしてから、目を閉じて言われた通りに頭全体を動かす。
 首に相当負担が掛かるはずだが、一生懸命に顔を振っている。

 ――覚悟しなくてはいけない。
 味方はいない。誰にも話せない。だけど、もう逃げるつもりはない。
 典子ちゃんにここまでさせて、典子ちゃんがこうして覚悟しているのなら、俺も彼女と添い遂げる覚悟をしなくてはいけない。
 決して、世間体の良い話ではない。
 彼女が俺と一緒じゃなきゃ不幸になるっていうのなら、俺は彼女のために彼女のための約束を放棄する。
 彼女のための後見人という自分を捨てる。そんな覚悟が必要だ。

 俺は快楽に身を任せながら、そんなことを考えていた。

「上手、だよ、典子ちゃん」
「ふぁい、じゅる、ちゅぅぅぅぅ」
 典子ちゃんのフェラチオは吸い上げ、喉まで咥え、舌を這いずりまわして、リズムカルに続く。
 もう二度目のフェラを始めてから40分経っているが、それでも勢いは止まらず、増してばかりいる。

「も、もうだめだ典子ちゃん! で、出るから!」
「ん、……ちゅぅちゅ、じゅるじゅるじゅる」
 射精するまでもう間がない! だが典子ちゃんは口から離すつもりはないようだ。
「で、出るっ……うっ……くぅぅ」
「ぐ、ん〜〜〜っ……!!」
 腰がビクンビクンと震えている。こんなに強烈なのは初めて味わった。
 二回目だというのにAV男優もかくやと思われる程の精液を、典子ちゃんの口に注いでいく。

「ご、……ごめん、大丈夫?」
「んぅぅ、えれ」
 典子ちゃんは俺のザーメンをどうすればいいのか分からず、口の中に溜めているようだ。
 おずおずと零れないように舌を出して、俺の指示を待っている。
「苦いと思うけど、飲んでくれる?」
「ん、ゴク、……ゴクッ……、んぇ……ゴクッ、ゴク……くはぁ」
 あまりの濃さにノドに引っかかるのか、目に涙を浮かべながらも、ちゃんと飲みきってくれた。
 もう一度頭を撫でる。
「精液って飲みにくいんですね……のどがイガイガして、風邪ひいたみたい」
「まぁ、飲み物じゃないからね。
 さて、もう大丈夫だよ。ありがとう。ズボン履くからちょっと待てって」
 布団の上に放り出された俺のトランクスとスウェットの安っぽいズボンを掴む。
 適度に身体を動かして、凝った背中や首周りから音が鳴るのを確認する。整骨院、いかないとなぁ。
「え、でも、お口でした後は、その、ヤるんじゃないんですか?」
「女の子がヤるとか言わない」
 少し中学生らしい下品な言動を垣間見せた典子ちゃんを諌めつつ、ズボンを履いた。
 ドアの近くに飛んだままの一回目の精液を拭いて、昨日と元通りの部屋だ。臭いはあるが。
「小波さん……?」
「あー、こほん」

 覚悟を決めなくてはいけない。

「ここまでさせちゃってごめんね、典子ちゃん。そしてありがとう」
「私は別に嫌じゃなかったですよ」
「ううん。それだけじゃない。
 背中を押してくれたことや、普段のこと、全部ひっくるめてなんだ」
「全部?」
「受験勉強。お料理とかの家事。今さっきまでのこと。世話になりっぱなしだ。
 大人としてしてやれてることなんて、生活費を賄っているくらいで、それもちょっと厳しい」

 君を見守ると言って、君に負担を強いている。そんな自分が歯がゆかった。
 君を好きだと言って、君に告白できない。そんな自分が情けなかった。
 君の幸せだと言って、君の意見を聞かない。そんな自分に、ようやく気付いた。

「君はまだ子どもだ。被保護者で、俺が保護するべき人だ。だけどね、典子ちゃん。俺は……」
「小波さんは……?」
 典子ちゃんの瞳が揺れる。

「俺は、君のことが誰よりも大好きなんだよ。今さっき典子ちゃんの部屋で言ったのは、嘘でも冗談でもない」
「小波さんっ……!」
 典子ちゃんが俺の胸に飛び込んでくる。
 中学三年生の身体はまだ幼さが残るものの、思ったよりも大人で、確かに女性だった。

 お父さんの頼み事は守れそうにない。保護者として、彼女を守ることはもう出来ない。
 これからは、彼女を最も大切にする一人の男として、彼女を守る。結果が同じだろうと経過が違う。
 心構えが違う。対応が違う。

「これで、ハッピーエンドかな」

 数日後。

 典子ちゃんにフェラをしてもらったあの日から、典子ちゃんは積極的にセックスアピールを意識するようになった。
「小波さん。今日、こんなの着けてるんですが……」
「あーはいはい、出かけるんだから、さっさと準備するよ。外ではしないようにね」
「ひ、ひどい。恥ずかしいのを我慢してゆーわくしてるのに」

 俺は典子ちゃんの彼氏になった。そしてもちろん、典子ちゃんは俺の彼女になった。
 男女の関係には当然、セックスというものが付きまとうものだが、俺たちはまだセックスをしていない。
 彼女が大人になるまで――じゃなかった、妥協したんだった――高校に入学するまで、そういうことは一切なしにしている。
 まだ彼女は思春期で、多感な年頃だから。受験の前に、クセになっても困るから。
 その他諸々、まだ大変な俺たちは我慢することになったのだ。

「今日、どこに行くんですか? デートですよね?」
「午後はデートだけどね。午前は墓参りだよ」
「え、でもお父さんの命日はまだ一ヶ月先なんじゃ」

 もちろん。命日に挨拶するだけが墓参りというわけじゃない。
 大切なことが決まった後とかには、挨拶に行くものだ。

「あぁ。典子ちゃんとの事を報告しにいくんだよ。ようやく休みを取れたからね」
「ぅ、外で恥ずかしい事言いますね」
 俺は報告した後、典子ちゃんにプロポーズしようと考えている。
 指輪は現在は家計難なので用意はできていないが、いつか給料三ヶ月分というのをやってみようと思っている。
 きっと驚くに違いない。そして喜んでくれるに違いない。

「じゃ、行こうか典子ちゃん」
「はい、小波さん!」

 お父さん、すみません。
 彼女を見守っている内に、彼女に惚れてしまっていました。
 大切にします。大事にします。
 あなたに頼まれた、典子ちゃんを見守るという約束は、果たせません。
 だけど、その代わりと言っちゃなんですが、彼女と共に歩もうと思います。彼女のために生きようと思うんです。

 絶対に幸せにします。
 こんなにも幸せになるべき子なんだから、不幸になんてさせません。
 だからお義父さん。天国に行ってるなら、遠くから見ていてください。近くにいるなら、やっぱり見ていてください。

 俺たち二人を。
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