「これより第○回、親切高校卒業式を開会します」
少し肌寒い風と心地よい日差しが講堂内を包んでいた
「一同、起立!礼!」
司会の教師の言葉で小波十蔵、高校最後の日が始まろうとしていた

卒業式が始まる前夜
小波と荷田は最後の整理をしていた
大きな荷物は既に無く後は制服と何も入っていないカバンだけだ
「……これで良しっと…」
「こっちもOKでやんす!」
小波は空になった机や棚を見て少し物思いに耽った
「荷田君、明日はもう俺たちはここにはいないんだな…」
「そうでやんすね」
机を磨きながら荷田は答える
「色んなことがあったな…」
小波と荷田は昔を振り返る
「先輩の洗濯、校庭の整備、練習の後片付け」
「色々苦労したよな…」
「でもそのおかげで甲子園へいけたでやんす!」
「そうだよな、でもそのせいで俺は天道にライバル視されたんだよなぁ…」
「あははでやんす!」
「あはは…」
「あっ、先輩!」
二人が思い出話に花を咲かせていると同じ部屋の真薄がやってきた
「おっ、真薄じゃないか」
「疋田や野球部はどうでやんすか?」
「疋田先輩は結構厳しいですね、でもその分レベルは落ちてないですよ」
真薄は優しく答えた
「へえ、そうなのか…」
疋田が来た当時はかなりの問題児だったが色々あってかなり落ち着いた性格になった
それが小波にとって嬉しかった
「そういえば先輩たちが出て行った後、この寮を立て直すって聞きました」
「なにぃ!?」
「それは卑怯でやんす!」
寮の建て直しの話に怒る二人を見ながら真薄は思わず笑みがこぼれ

真薄が時計を見て言った
「先輩、そろそろ寝たらどうですか?」
「そうだな、そろそろ寝るか」
「寝るでやんす!」
二人は最後になると思いベットの中にもぐりこんだ
昔の事を一つずつ思い出しながら

卒業式当日、小波は教室へ入る
一番と思いきや教室の中には元生徒会長で小波の恋人である神条紫杏がいた
「紫杏!久しぶりだな」
「むっ、小波か…」
小波は紫杏を見つけると声をかけた
紫杏は法学部へ進学し政治学を学んでいた
「どうだ、書けたか?卒業生の答辞」
「当たり前じゃない!私を誰だと思ってるのよ」
「あはは、ごめんごめん…」
小波は眉間に皺を寄せていた
「どうしたの?」
「いや、カズや朱理は卒業式に出たかっただろうなと思ってな」
大江和那と浜野朱理、彼女達はここ1月から姿が見えない
ジャジメントから脱走したという話が出ており小波はとても心配している
「心配なの?」
「ああ、友達だからな」
紫杏はそんな小波を優しく諭す
「大丈夫…きっと会えるわよ…」
「そうだな、また会えるさ」
二人の世界に入る寸前で荷田たちが登校してきた
「おはようでやんす!」
「おはようございますですよ!」
「おはよう!荷田くん」
「おはよう、諸君!」
そして、卒業式が始まった


「卒業証書、授与」
教頭の声が講堂内に響く
生徒一人一人呼ばれていく
「……小波十蔵!」
「はい!」
小波の名前が呼ばれ席を立つ
「おめでとう、プロへ行っても"親切"を忘れないでくれ」
「はい!」
両手で証書を貰う、小波
それと同時に記者たちが一斉にフラッシュをたいて小波を取る
そして小波は教師や生徒達、父兄に挨拶をしてステージから降りていった

小波は近くの絶壁へやってきた
「五十鈴…」
「…やっぱり来てくれたのね…」
五十鈴は海を眺めている
「ああ、ここは五十鈴のお気に入りの場所だからな」
「…もうここに来ることはないのね…」
「そうだな…」
二人はしばらく間海を眺めていた
「小波君…手、いい?」
「?ああ、良いけど…」
五十鈴の突然の要望に小波は戸惑ったがすぐに手を差し出した
その手を五十鈴は優しく握った
掌から小波の暖かさを感じた
「……暖かい…」
「……五十鈴…」
五十鈴は手を放し立ち上がり校舎のほうへ足を向けた
「ありがとう…私、あなたのことが好きだった…」
五十鈴は聞こえないように小さく呟いた
「え?」
「じゃあね」
五十鈴が立ち去ろうとする
「五十鈴!!」
小波が大声で五十鈴に呼びかける
「?」
五十鈴が振り向く
小波は笑顔でこういった
「また会おうな!」
「ええ…!また…」
五十鈴も笑顔で答えた


「校歌、斉唱」
親切高校校歌が歌われる
小波は野球部の事、様々な出会いの事、そして紫杏とキスをしたこと
まるでつい昨日の事のように思い出される
歌っている最中に涙声が混じる
この別れが悲しくないというのは嘘だが
また会えるという事を心のどこかで信じていた

小波は屋上へやってきた
「あっ、小波君」
「さら…」
「いい天気ですね」
「ああ、そうだな…」
なぜかさらは顔を伏せて小波のほうを向かない
「さら、こんないい天気に暗い顔をしている方が馬鹿だって言ったぞ」
「……すみません、私、小波君に泣いた顔を見られるのが恥ずかしいので…」
「あはは、さららしいや」
小波はさらの反応見て思わず笑ってしまった
「小波君…」
「何だ?」
さらは意を決したように顔を上げてまっすぐ小波を見る
「私、小波君には感謝しています、教えられました…人を信じるという事を」
「それが出来たのは俺の力じゃない、真薄や奈桜のおかげだろ?」
数ヶ月前、さらは人を、世界を信じられなくて自殺しそうだった
しかし、それを救ったのは小波と同じような経験を持つ真薄や姉の菜桜だった
「でも一番頑張ってくれたのは小波君です、こんな私のために…」
「自分を卑下にするな、さら」
「すみません、でも…」
「……わかった、だからって昔の自分を責めるなよ」
「はい…すみま…」
「ここはすみませんじゃなくてわかりましたにしろよ」
小波は優しくさらに言う
「はい、分かりました」
さらは笑顔で答える
「よろしい!」
小波はにこやかな顔でさらの肩を叩く
「おーい、さら!」
屋上に奈桜がやってきた
「あっ、すみませんが…そろそろ行こうと思います。姉が待ってるので…」
「そうだな、じゃあ…」
「さようなら、小波君」
「ああ、またどこかで会おうな」
「はい!では…」
さらは屋上を去って行った
小波はしばらく屋上で春の風を感じていた


そして校舎の中を気ままに散策していると教室に妙子がいることに気が付いた
「おや、誰かと思ったら妙子か…」
「あれ、小波君まだ帰らないの」
「まあな、これで最後だと思うと急に名残惜しくなってな」
小波は辺りを見渡す
居眠りばかりしていた自分の席
全く答えが書けなかった黒板
イモやおにぎりを焼いたストーブなど
数え切れない思い出が詰まった教室
もうこれないと思うと寂しさを感じた
「そっか…ねえ、小波君」
「何だ?」
「写真撮らない?小波君とは別のクラスだったから小波君との思い出の写真が一つもないから」
妙子と小波の出会いは至ってシンプルな物だった
妙子の友達である春田蘭がきっかけだった
だが小波は春田蘭にフラれて…というより一方的な理想が敗れただけなのだが…
それ以降蘭は別の男にアタックを始め小波は見向きをされなくなった
そしてしばらくして妙子と出会うようになった
妙子は小波の勉強を見てくれるようになり
小波は越後よりは一ミリくらいましな馬鹿にランクアップした
「いいぞ、カメラはあるか?」
「うん、あそこの窓で…」
二人は肩を並べて立つ
妙子はカメラのタイマーを起動させる
そしてすぐさま走って小波の隣に付く
カメラのフラッシュと共に笑顔になる二人
カシャッ、という音とともに思い出が刻まれた


小波はそろそろ帰ろうと思い昇降口へやってきた
そこには紫杏がいた
「紫杏、待ってくれたのか?」
「ああ、そうだ」
「ん?何でそんな口調なんだ?」
「知ってくるんじゃないか?」
おそらく紫杏は小波をずっと待っててくれたのだろう
その証拠に地面には様々な靴の跡がある
「……スマン」
小波は紫杏に謝った
「全く、今度はもう少し早く来てよ」
「ああ、分かってる」
二人は校門に向ってゆっくり歩き出した
紫杏は瞳を閉じて昔の事を思い出す
「…ねえ、覚えてる?」
「何をだ?」
「私達が初めて出会った場所」
「ああ、覚えているぞ。女子校舎の前だった…あの時はたどり着けて感動したぞ」
「でもあたしに見つかって先生に怒られたのよね」
「ああ、その時の紫杏の台詞は忘れてないぞ」
「なんて言ったんだっけ?」
「お前は俺にお茶はどうだと言ったんだ、そしてその後わざわざ先生の前に連れて行って指導室で存分に飲めって言ったんだ」
「そんなことまで覚えてるの・・・」
「当たり前だ、で、二度目は…」


色々な話をしているうちに二人は校門の前に来た
「……この門を出たら親切高校の生徒じゃなくなるんだな…」
「そして、それぞれの道へ行く…」
「不安か?」
「ううん、そんなことないわよ」
小波は紫杏にある提案をした
「なあ、せぇので校門をジャンプしてくぐらないか?」
「え?まあ良いけど…」
「じゃあ行くぞ…せぇの!!」
「ええい!」
小波と紫杏は大きくジャンプして門を出て行った
着地と同時に桜吹雪が盛大に待った
まるで2人をの巣立ちを祝福してくれるように…
「さて、行くとするか…」
「どこへいくのよ?」
「決まってるだろ?未来へだ!」
紫杏の手を握って小波は走り出した
「きゃぁ!ちょっと待ってよ!もう!」
手の暖かさを感じながら紫杏も一緒に走り出した

いつか時が過ぎ去った時二人はこう思うだろう
「ここが二人の始まりだった」と…
パワプロクンポケット10 完

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