「うおおおおおおおお!どこだ、どこだ!どこだぁあああ!!」
住み慣れた自分のシャトル内を縦横無尽に駆け回る。いや、暴れてると言った方が正しくかもしれない。
叫び声で分かるだろうけど、俺は探し物の真っ最中だ。「探し者」じゃない「探し物」、具体的に言うと耳掻きなんだけど。
なのに何で激しく暴れているかというと、話は昨日から始まる。
いや、昨日の寝る前から耳に違和感はあったんだよ。でも我慢できないほどじゃないから
「まぁ明日掃除すればいいか」
みたいに気楽にしてたら、俺の耳あかは一晩でかなり成長したらしい。今日の朝には存在を確信できるほど巨大な物になった。
みんなも分かると思うけど、そんな耳あかをとるのって気持ちいいんだよな。楽しさ半分、期待半分で引き出しを開けた。
耳掻きはなくなっていた。
そして耳あかは現在進行形で俺をイライラさせている。それはもう俺を狂わせるほど断続的に。
「ない!ない!ない!!なんでだ!どこにいったんだ!」
あらゆる引き出しを叫びながら開けていく。知らない人には変人に見えるかもしれないけど、そんなの気にしてられない。


あぁ、そう言えば一昨日コックローチ3兄弟が来たっけ。
あいつらめ。今度きたらプラズマ砲の餌食にしてやる。
「………キャプテン」
「ん?」
ぐるりと振り返る。ブラックがいた。
「?………顔が怖い」
「ブラック、今の俺に近づかない方がいいぞ?狂乱してお前を襲いだすかもしれない」
「………どうしたの?」
相変わらずの無表情で尋ねられた。いや確かに無表情だけど心配してくれてるな。雰囲気でわかる。
「いや、耳掻きが見つからなくてね。今にも狂いだしそうなんだ」
「………それならこっち」
「えっ!?ちょっと、ブラック!?」
手を引っ張られて連れていかれる。ロボットなのに相変わらず温かくて柔らかい手。不思議だよな、やっぱり……って、そうじゃなくって!
「ブラック、どこに連れていくんだ?俺は一刻も早く耳掻きを探したいんだけど」
「………だから、ここ」
「だから?ここ?」
(コク)
頷かれた。ここは見るかぎり、長いすがあるだけのただの部屋なんだけど。
「ここがどうしたんだ………ってブラック?」
スタスタと歩いていって長いすに座った。
「………こっちに来て」
「?」
言われるがままに歩いていく。


「………ここに座って」
ブラックが自分の横をポンポンと叩く。従って座る。
「これでどうするんだ?」
「………これ」
ゴゾゴソとブラックが取り出した物は
「おおおおおおおおお!!耳掻きじゃないか!!」
(コク)
「貸してくれ!むしろお願いします!貸してください!!」
「………ダメ」
「なぁっ!」
断られた。天国から地獄に落ちる苦しみを俺に与えると言うのかブラック!!お前はそんな奴だったのか!?
「………違う」
「じゃあ何で!」
「……………寝て」
「……………………………………はい?」
一瞬フリーズしてしまった。聞き間違いかもしれない。なんせこんな耳だから。もう一度聞いてみる。
「………寝て」
聞き間違いじゃなかった 。自分の太ももをポンポンと叩くブラック。ただし目を合わせてくれない。
「えーと……これは、ブラックが膝枕で掃除してくれると言う事でしょうか?」
(コク)
ブラックの顔を見てみる。何か照れてる様な、雰囲気がそんな感じ。
「じゃ、じゃあお願いします…」
若干恥ずかしい思いをしながらブラックの太ももに倒れ込んだ。あぁ、ほっぺたに感じる柔らかい感触。正直たまりません。


「…………始める」

ブラックの手が動き出した。……俺の耳じゃなくて、頭を撫でだした。擬音で言うなら、ナデナデだろうか。なんか子猫の気分だ、まぁ悪くはないんだけど。
「ブラック……それは違うぞ」
「………失敗」
いや、そんな失敗有り得ないだろ。わざとだろ?絶対わざとなんだろ!?
「………改めて、始める」
「あぁ、お願いするよ」
ブラックの手が俺の耳を掴んだ。
スッスッと耳の外側の溝をなぞるように汚れを落としていく。汚れをとった部分を反対の綿でクルクルと。あぁ、やっぱり耳掻きはこれだよ。ずっと進化しない理由はこれだよ。
「………外側は終わり。次は内側」
「………わかった」
ブラックの太ももの感触と耳掃除の気持ちよさ、なんで和まないでいられようか。
カリコリカリコリ
「おおお………」
俺をイライラさせている例の物が剥ぎ取らていくのが分かる。時々ある痛みすら気持ちいい。
「………汚れがひどい。こまめな手入れが必要」
「あー、そう言えばこの1ヶ月してなかったな…」
なんせワクチン集めやらリコとの勝負やらシルバー・ゴールドの問題やらで忙しかったし。
「………今度するときも言って」
「えぇっ!?」


それはどういう意味かと尋ねようとしても、顔が固定されてブラックの方を向けない。
その変わりに俺の視界はリコを捉えた。
「あっコナミー……」
こっちにくるリコ。部屋に一歩踏み込んだ瞬間、凄まじい殺気を感じた。気のせいだろうか、リコがいる方向から感じるんだけど。
「わー、なんかとっても面白そうなことしてるねー」
笑顔で喋るリコ。だけどその笑顔が逆に怖い。
「ねぇ、ブラック」
リコがこっちに詰め寄ってきた。なんか鬼気迫るって感じがする。俺はブラックの太ももの上から動けない。
「反対側はあたしにやらせてくれない?」
「ダメ」
即答。何でだろう、二人の間に火花が見える。
「どうしても?」
(コク)
リコとブラックの体からのバックにオーラが溢れ出した。例えるなら風神VS雷神みたいな。
「そう……………それなら……………コナミ!!」
「は、はい!」
思わず敬語になってしまう。
「それが終わったら、あたしの耳掃除してね。もちろん膝枕で♪」
「なっ!」
「いいよね?」
「まぁ、別に…」
ギリッ
ブラックの手の力が強くなった。

「………私も」
「あれー?ブラックは昨日、自分でやってたよね?」
ギリッ!
ブラックの手の力がますます強くなった。痛い痛い痛い!
「じゃあ、待ってるからねー」
笑顔でリコが立ち去っていく。雷神と化したブラックを残して。
「………行くの?」
「まぁ、約束だし」
「………行っちゃダメ」
「いや、約束は守らないとダメだって」
「………そう」
ブラックの手がポンと頭にのせられる。一呼吸置いて
「………実力行使」
「えっ………って、痛い!痛い!!痛ぁあああああああああああああああ!!!」
俺の意識は暗転した。

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