例えばある晴れた日に、道を歩いていて吐き捨てられたばかりのガムをふんづけた。
「んー!」
 例えば雨音が心地よい雨の日に、車に泥をかけられてお気に入りの服が汚れた。
「んむー!」
 例えば気分の滅入る曇りの日に、目の前でお目当ての物が売り切れた。
「んむぐんぁー!」
 こういったことについて、彼女――白瀬芙喜子がぐだぐだ言うことはないだろう。
せいぜい苛立ちまじりに地面を蹴りつけるとか、運転手への愚痴を吐き出すとか、
少々値段の張るものを自分に買わせる。そんなことで彼女の怒りは収まるはずだ。
「んむぐんぁぁぁぁぁぁぁーー!!!」
 だが、今の怒り狂った芙喜子――ギャグボールを噛んで、
涙目でこちらを睨みながら妙な唸り声を上げている――の怒りを納める方法はあるのだろうか?


「まあ、俺は悪くないよな」
「むーーー!!!!」
 眼前のベッドの上で横たわる女豹――いや、女狼に向けて、小波は小さくつぶやいた。
 そのまま、不満そうに唸り声をあげながら暴れる彼女の裸体をじっくりと見つめる。
白い光に照らされて艶やかに光る、まるでワックスをかけたばかりの新車のような彼女の身体。
というのも、先ほど小波がぬるぬるローションをたっぷりといやらしく隅々まで塗りたくったからである。
もちろんヘアスタイルもぐしゃぐしゃにして、彼女の気力を奪うことも忘れていない。
「むぁぁぁぁ!!!!」
 両手両足を縛られた彼女は、呻きながらごろごろとベッドの上を転がる。
仰向けになるたびに、小さく揺れる胸。
同年代の女性と比べて少々しっかりしすぎているため、小さくしか揺れていない。
だが、小波が何度も何度も触れて、吸って、舐めて、かぶりついたその胸が、
とてもとても美味しいことを、小波は良く知っていた。
「ふっ! むぅ! むぁ!」
 確かな幸せを感じながらじっと見つめ続けていると、
芙喜子が陸に上げられた魚のように大きく跳ね出した。
白に包まれたベッドが軋み、ぎし、ぎしと大きな音をたてる。
 その音に合わせるように小さく頷いて、小波は言葉を繰り返した。
「俺は、悪くない」
「むぐーーーーー!!!!」
 小波の言葉に何かしら思うことがあったのか、芙喜子がさらに激しく暴れだす。
全裸で縛られていて、まともに声を発することのできない彼女を見ると、
何とも言えない幸福が小波の胸を満たしていった。
 この感情こそきっと、愛とかそういうものなのだろう。
 確信に近い感情を持ちながら、小波は頬をにやけさせる。
「むぐぇ?!」
「おっと」
 妙な声とともに、ベッドから転げ落ちそうになった芙喜子を手を伸ばして支える。
とっくの昔に暴れることが無意味だと悟っていたのだろう。
彼女は抵抗することなく、小波の手を借りてベッドの上に戻った。
「む……」
 小波の舐めるような視線に冷静さを取り戻したのか、芙喜子が呻くことをやめる。
 それを確認して、小波は口を開いた。。
「寝ているところに催涙弾を投げて、窓を割って不法侵入。
さらに布団をはね上げて、俺にスタンガンを押し付けようとした」
「む」
 五分ほど前の出来事を感情を込めずにたんたんと告げると、
彼女はぴくりと身悶えして、頬に一筋の汗を垂らせた。
どうやら、少しばかりやりすぎたとは思っているらしいが。
「俺がたまたま、本当にたまたまガスマスクをかぶって眠ってて、反撃できたから良かったけど。
いくらなんでもやり過ぎじゃないか?」
「……むぇ。むぁむぁむぁむぃむぇむぉ!!」
「え? いや、本当にたまたまだって。ホントホント」
「むがぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
 怒りを隠さずに再び暴れ出す芙喜子。
どうやら、小波が某悪の宇宙帝国の暗黒卿によく似たガスマスクを被って寝ていたことに、
どうしても納得できないらしい。ありえない光景に固まったことが、
彼女の反応を遅らせ、無様な姿をさらす結果となったのだから仕方ないともいえるのだが。
 布団をはね上げてきたときの芙喜子の間抜け顔――それを思い出しながら、
小波は彼女の首筋まで流れおちた一滴の球に指を伸ばした。
「んっ!」
「まあ、明日は試合がないのを見越して襲撃してきたのは評価するけどな。あむ」
「!」
 汗とオイルが混じった液体は、筆舌し難い味がした。
不味い、そういってしまうのはた易いし、正しいのだが。
彼女の体液が混じっているものを、たやすく不味いというのはいかがなものだろう。
「……む?」
 こちらの葛藤を感じ取ったのか、
不味いのは当たり前じゃないとでも言いたげに、芙喜子が半眼でこちらを見つめきた。
 それに少し苛立ちを感じた小波は――
「よっと」
「むぇ?!」
 ベッドの上に飛び乗り、マウントポジションをとった。
そのまま体重をほどよくかけて、芙喜子の動きを封じる。
「むぅ……」
 以外にも、彼女が暴れだすことはなかった。
――もっとも、抵抗をやめる気がないのは、その瞳で知れたが。
「とりあえず」
 べたべたの髪を手で撫でながら、小波はつぶやいた。
「罰として、全裸に剥いて縛った挙句エロいことをしまくっても、問題はないよな?」
「むぁぁぁぁぁ!!!」
 なぜか――本当になぜかわからないが――芙喜子が抗議の唸り声をあげて、再度暴れ出す。
小波に押さえつけられているため、わずかにしか体は動かせていない。
むしろ暴れるたびに荒縄にちくちくと肌が刺激されているのか、
時折見せるむずがしそうな表情がより小波の情欲を掻きたてる。
「だいたい女スパイってのは捕まったらエロいことされるのが常識だ」
「むぁぇ? むぁむぅむぇむんむむっむむむぁーむんむぁ?」
「ん? まぁ確かに最後に逆転して女スパイが目的を達するパターンもあるな。それは困る」
「むぇむぇ」
 満足そうに首を縦に振った芙喜子は、視線だけで『じゃあ、やめるわよね?』と言ってきた。
「まさか、やめるわけないだろ」
「むぁぅっ……むぅ」
 芙喜子の言葉を即座に否定して、唸り声をあげようとした彼女の口を右手でふさぐ。
止まっているホテルは隣の部屋の声が聞こえるほど貧層と言うわけでは決してないが、
万が一にでも、騒ぎになることは避けたかったのだ。
 引きつる頬を見て、安心させるために微笑み、語りかける。
「ところで、前回のことを俺もいろいろ反省してさ」
「……む?」
 予想外の言葉を聞いたかのように、彼女は疑問の混じった唸り声をあげた。
反省? 何を? とでも言いたげな瞳が小波を睨めつけてくる。
「色々と用意してみたんだが……これとか、あれとか、それとか」
 それを気にすることなく、小波は横に置いておいた鞄から道具を取り出し、
ぞろぞろベッドの上に並べ始める。
 コンドーム、バイブ、ローション。この三つは良く使っているものだったのだが。
「むぇ……」
 ローター、鞭、ろうそく(マッチ付き)、眼隠し、剃刀、アナルビース。
「…………むぁ」
 鼻フック、ランプ、拘束具一式、ローションセット、乳首につけるクリップ。
なんだかよくわからない丸い物――最後に鞄に残っていた――は、とりあえず鞄にしまっておくことにした。
「これだけあれば芙喜子の期待にも添えるんじゃ……って、なんで泣いてるんだ」
「むぇぇぇ……」
 ベッドに並び終えて芙喜子の方を見ると、妙な鳴き声とともに、彼女はしくしくと泣いていた。
眼から涙が出ていたわけではないの。だが、確かに眼を閉じて確かに泣いていた。
「……? んぐんむぁ ぐむぁー、むぁ?」
 だが、泣き続けることをよしとしなかったのだろう。彼女は視線でランプを指し示し、何事かを唸ってきた。
「……ああ、ランプは何に使うかって? ……さぁ? なんか心惹かれるものがあったから買ってみたけど」
「むむぇむぇむむむぁっむむ?」
「ああ、うん。通販で眼についたもの片っ端から買ってみた」
「むぃむむぁむむぁむっむむぉ?」
「え? ああ、だいたい給料の三か月分かな」
「ぐぇあぇむあぇあ?!」
「冗談だって、……でも、三週間分ぐらいは使ったかな?」
「むが!」
「そういえば馬鹿って言うやつが馬鹿って良く言うけど、あれってどっちも馬鹿ってことになるよな」
「むが!」
 非難を軽くあしらって、小波は彼女の手首を優しく撫でた。
無理に動かしすぎたためか、縛られた跡が紅くなってしまっている。
「むぁ…………」
 その優しい動きが気持ち良いのか、芙喜子が気持ちよさそうに眼を細める。
なんとはなしに喉を撫でてみたくなったが、
彼女の怒りを再燃させるきっかけになりそうだったため、断念した。
「そうだな……とりあえず蝋燭でも使ってみるか」
「!!!」
 左手で蝋燭を持ち、空いた右手でマッチを擦り、火をつける。
仕事柄様々なことを経験している小波ではあるが、本格的な道具を使った行為は初めてだ。
「むぇ……」
 ちらちらと揺れる赤い炎を、芙喜子が期待半分、怒り半分と言った様子で見つめてくる。
期待――そう思うのは少しばかり都合のいい解釈かも知れない。
そう小波は感じたが、潤み、きらめく彼女の瞳は、興奮していることは確かだった。
「そろそろ……」
「っむ!」
 芙喜子の胸元にろうそくを近づけいくと、芙喜子が固く眼を閉じた。
まるで拷問を耐えるような苦悶の表情を浮かべる彼女に、少しだけ小波の熱が冷める。
「うーん……」
 拷問――二人が所属していたCCRでは、それを耐える訓練を行っていなかった。
人の記憶を操作できる機械なんてものが現実に存在すること。
そもそもそういった訓練が、無意味だということ。
他にも理由はあるだろうが、主なものはそんなところだろう。
――もっとも、日々の様々な訓練は拷問と言っても大差ないものだったことも事実だが。
「大丈夫、だよな?」
「……」
 念のため、身体をこわばらせている芙喜子に聞いてみる。
 彼女は眼を開き、こちらを睨んで。
「……むぁ」
 小さく馬鹿とつぶやいた。
 それを了承の証ととり、小波はろうそくを傾ける。
 じり。蝋の溶ける音がした。
「……っ!!」
 胸元に蝋が垂れた瞬間、芙喜子の身体が予想以上に激しく跳ねた。
かなり熱かったのか、ギャグボールからは小さな呻き声さえ聞こえてくる。
「う゛っ! むぅ! う゛ぅ!」
 押さえつけている小波の身体が揺れるほどに、芙喜子が暴れる。
 芙喜子に使う前に、小波も蝋の温度がどれぐらいか試してみたのだが。
耐えられないとまではいかないが、低温と言う言葉が嘘ではないかと思うほど熱かった。
正直なところ、芙喜子に快楽を得ることは難しいだろう。
「う゛、ぁっ! う゛〜〜う゛ぅ!」
 それを知っていながら、小波は次々に蝋を垂らしていく。
ぽたり、ぽたりと落ちる蝋が、白い肌を綺麗に彩っていく。
胸の先端を避けながら、小さな膨らみを覆うように
くぐもった声を背景に、胸の膨らみから下腹部へ赤い線がゆっくりと描かれた。
 身体を縛る縄と、体を痛めつける蝋。
 蝋の赤と、熱によって朱に染まった肌。
それらを見て、わずかな罪悪感に紛れて強い嗜虐心が小波の心に芽生え始める。
普段ならばその感情を彼女を悦ばせるために利用するのだが、
「……ふっ」
 今はただ、彼女の苦しむ顔をもっと見ていたい。
ゆがんだ欲望を隠そうともせずに笑い、小波はろうそくの火を吹き消した。
そのまま、ベッドの上に置いてあった鞭を取り上げる。
軽く振ってみると、甲高い音が部屋に響いた。
音に反応して、身体を強張らせて熱を耐えていた芙喜子が目を開く。
「少し身体に跡が残るかもしれないけど、我慢してくれよ?」
 小波は鞭を器用に動かし、先端で芙喜子の顔を撫でた。
嫌悪感溢れる眼差しで、芙喜子が鞭を睨みつける。
 その途端。
「う゛ぁ!!」
 空気を裂く音、肌が打たれる音、くぐもった芙喜子の悲鳴。
三つの音が順に響き、小さな赤い線が彼女の右肩に生まれる。
快楽よりも痛みの方が強いのだろう、芙喜子は怒りを瞳に映し、小波を睨みつけてくる。
 だが。
「い゛っ! うぅ、んっ!」
 二度目の鞭を、右の乳房に叩きつけられる。
三度目は左の乳房、四度目は左肩、五度目は左頬をなぞるように。
叩いて、叩いて、叩いて、十度目の鞭で、芙喜子の悲鳴が止まった。
「…………ん、ん……ぅぁ」
 痛みを耐えるために歯を食いしばり、荒い息をギャグボールの隙間から噴き出す芙喜子。
いつもの気丈な姿からは、考えられない痴態だ――――他の男には絶対に見せることのできない、小波だけが知る彼女の姿。
 ゆっくりと、小波は押さえつけていた彼女の身体を転がして、うつ伏せの状態にした。
「〜〜〜〜!!!!」
 そして再び鞭を振るう。
背中に、尻に、腕に。彼女の体のあちこちに傷をつけていく。
痛みに悶え、芙喜子は泣き声のような唸りを上げ始めていた。
本当に泣いているのかもしれない――たとえ泣いたとしても、彼女が折れることはないだろうが。

「ぅぅ……ふぁ……」
 二十まで数えて、小波は鞭を振るうことをやめた。
芙喜子の身体に浮かぶ、赤いみみずばれ。しばらくの間、跡が残ることは明白だ――
季節が冬のため他人に気づかれることはないだろうが。
「……?」
 彼女の身体を、仰向けに戻す。
怒りを燃やしていた瞳は、痛みから解放された安心感からか、今はだらしなく半分ほど閉じかけていた。
端からは光る雫さえも見える。反射的な涙とはいえ、彼女にとっては最大限の屈辱だろう。
 だが、光る雫が見えているのはそこだけではなく。
「……ぁっ」
 雫の見える箇所――彼女の股間へと指を伸ばすと、ローションとは違うぬめりが指に触れた。
びくりと身悶えし、必死に逃げようとする芙喜子。
知られたくないことを知られてしまった焦りが、潤んだ瞳に浮かんでいた。
「ま・さ・か」
 言葉を区切り、芝居がかった口調で小波はつぶやく。
形の良い尻に向けて顔を近づけ、大げさに鼻で息を吸った。
 びくり。震える芙喜子の白い尻。
やや固く、小ぶりな果実からは、汗とは違う香りが漂ってきていた。
 ぐち、ぬちゅ、ぐちゅと、音が鳴るほどに激しく、右手の人差し指を芙喜子の中に出し入れする。
膣内は熱い雫に満たされていた――飲み込むように指を締めつけてくる。
「感じてるわけ、ないよな? 」
「〜〜〜〜〜!!!!」
 こちらの言葉を無視するように、芙喜子が顔をシーツに押し付けた。
ローションでべたべたになったシーツは、かなり不快な感触なはずなのだが。
それを気にする余裕もないようだった。
 悔しさと、羞恥と、鞭の跡で赤くなった首筋を、空いていた左手でなぞる。
甘い声が聞こえてくることはなかったものの、小さく震える彼女の身体は、明らかに強い快楽を得ていた。
「さて、次は……これにしようか」
 首筋を軽くつまんで、跡をつけて、小波はベッドの上の道具に手を伸ばした。
手に取ったのは、小さな丸い球が繋がっているアナルビーズ。
やけにカラフルなそれは、一応細めの物を選んだつもりだった。
 小波が芙喜子と身体を重ねた回数は、かなりの数を数えたのだが、
あまり後ろの方を強く攻めたことはなかった。(むしろ、後ろを強く攻めてくるのは芙喜子の方だった)
せいぜい指を入れて掻きまわすぐらいである。
恐らくそれは普通のことなのだろうが、
小波としてはもう一歩先に――先とはどこなのかはわからないが――進みたかった。
「っぅっ……………?」
 指を膣内から引き抜く、だらだらと指を垂れる液を、小波はビーズの一つに擦りつけた。
さらにローションセットから適当な小瓶を選び、両手と道具にたっぷりとたらす。
「……!!!? む! むぁむぇむぁむぇ!」
「残念なことに、なんて言ってるかさっぱりだな」
「むぁぁぁぁぁぁぁ!!!! …っ!」
 準備が整って、小波は芙喜子の尻の割れ目を手で広げた。
小さな菊門は、早くいじってもらいたいとでも言うかのように、ひくひくと蠢いている。
「……むぁ! あ! ん〜〜〜!!!」
 まずは人差し指を侵入させていく。一応力は抜いているのか、割とすんなり入って行った。
……とはいっても、締めつけてくる力は、確実に膣内のそれよりも強い。
暖かく、背徳的な香りのするその穴に男根を入れる日を、小波は夢想した――とりあえず次の日、
芙喜子が本気で激怒する姿が浮かんだ。
「……二本目、っと」
「〜〜ぅぅ!!!」
 続いて中指を無理やりねじ込む。そして拡張するように二本の指を動かしていく――
多少指が汚れることも覚悟していたのだが、指に異物がついている様子は無い。
 ふと疑問に思って、聞いてみる。
「なんか綺麗だけど、もしかして準備してきたのか?」
「む…………むむむぁ」
「うーん……」
 再び顔をシーツに押し付ける芙喜子。
どうやら、きちんと洗って来ていたらしい。
こうなることを期待していた、というのは違うだろう。
恐らく、小波にする予定だった屈辱的な命令――それに関わる予定だったのだ。
「そろそろ、だな」
「む……ぁっ……」
 かなりほぐれたのを確認して、小波は勢いよく指を引き抜いた。
小さく漏れた甘い呻き声。それに確かな手ごたえを感じて、
「力抜いて……」
「ぅ!」
 ずぶ、ずぶとアナルビーズを侵入させていく。
あまり太いものではない――先端は指二本と同等か、それよりも細いだろう。
 誘い込むかのように収縮する菊門が、貪欲に異物を飲み込んでいく。
その光景を小波は鼻息荒く見守り、最後のピンク色のビーズがのみこまれたのを確認して、
小波はズボンのベルトを外した――三十秒もかからずに、適当に服を放り投げ、彼女の身体に覆いかぶさる。
「……んっ!」
 ついでに、抜けかけていたビーズを手のひらで押すと、
妙な感覚に悶えるするように、彼女が体をくねらせた。
「芙喜子……」
 次に小波が取った行動は、おそらく芙喜子の予想していなかったことだった。
縄の結び目を緩め、彼女の身体を自由にしたのだ。
 放り投げられる縄――強く縛りすぎたためか、
鞭で叩かれたのと同じように、縛られた後は赤くなっていた。
「……ぷはっ……はぁ、ふ、んむぅ!?」
 次いでギャグボールを外して、小波は息を整えている芙喜子の唇を奪った。
舌を差し出し、唾液を送り、唇を食む。
芙喜子がしようと思えば、小波の舌を髪切ることさえできる行為。
「んっ……むっ、じゅる……っ」
 だが、彼女も流石に今の空気――恋人同士の、甘い――を壊したくなかったのだろう。
素直に、けれど激しく舌を小波の下に絡めてきた。
 鼻息も荒く、小波は口づけを続けた。
今までの非道をわびるように、情熱的に、想いをこめて。
「んっ!」
 股間のいきり立った棒を、入口にあてがうと、
芙喜子が恐れを感じたかのように顔をしかめた。
 眼を開くと、光る彼女の瞳にも若干の不安が見える。
「ん……ぁっ……」
 空いた左手を動かす。口づけを続けながら、右頬から眼の横、首筋、背中へ。
彼女の固い筋肉をなぞるように、柔らかい肌を撫でるように、
 小波の優しい愛撫は、彼女の不安を薄れさせたようだった。
少しだけ、柔らかい表情になった芙喜子、愛しいその身体をゆっくりと抱きかかえる。
彼女の後ろの穴から、器具が取れないようにしっかりと右手で抑えつけながら、
小波は座った状態で向き合う体制に持っていった。
 芙喜子の身体を抱えるような形の、対面座位。
密着する肌と肌――少し妙な感触がするのは、冷えた蝋が芙喜子の身体に残っているからだろう。
 彼女の体重は、決して軽いとは言えないものだったが、
彼女の体重を支えることに、小波は喜びを感じていた。
「んっ……」
 再び口づけをして、彼女の中にモノを滑り込ませる。
同時に右手で押さえつけているアナルビーズを、さらに強く押す――彼女が達するその瞬間、
小波はこれを引き抜くつもりだった。
「ふぁっ……あっ! んむぅ……はふ」
 激しい口づけをしながら、腰と腰を小刻みにぶつけあう。
肉棒に、ぐちゅり、ぐちりと絡んでくる肉壁は、
彼女の貪欲さを示すかのように、淫猥に精液を吐き出させようとしていた。
 小波も負けてはいられない――唇を吸い、首筋に噛みつき、耳を食む。
ビーズをしっかりと抑えつけながらも、両手で尻を掴み、
奥へ、奥へとつきあげる。
「んっ、あっ……ふぁ、あんっ!」
 汗と愛液とローションによって、肌がぶつかり合うたびに小さな水音が生まれる。
暖かい彼女の膣内――そこにいつまでも自分の分身を鎮めていた、そんな衝動さえ生まれる。
「ん!」
 一旦腰の動きを止めて、小波は芙喜子を強く抱きしめた。
奥へ、奥へとモノを侵入させ、子宮へ精液を注ぎ込むために深くねじ込む。
急速に高まってくる射精感――小波の限界は近い。
 だが、芙喜子もまた、限界が近づいているようだった。
目の焦点が合わなくなり、重ねあった唇は小さく震えている。
小波は彼女の身体を抱きしめたまま、腰をグリグリと彼女に押し付けた。
小刻みに動いて、奥をついて、引いて、
ひねって、押しつける――芙喜子の身体が小さく痙攣し、
ぬらぬらの肉が、一際強く締めつけてきた。
「んん〜〜〜!!!!」
 前触れもなく、大きな呻きが部屋に響く。
先に絶頂へたどり着いたのは芙喜子だった。
唇をこちらに強く押しつけてきながら、身体を大きく震えさせる。
 それを確認して小波は。
「ひぁぁぁ!!!??!?」
 一気にアナルビーズを引き抜いた。
ずぼっ。そんな音が小波の耳に届いた瞬間、小波の射精が始まる。
子宮の奥へ、奥へと子種を送り込むように、小波は強く腰を押し付けた。
自分の子を孕ませるための、本能的な行動。
「あ…………はぁ……はぁ、はぁ……」
 しっかりと密着したまま、二人は絶頂を味わい続けた。
互いに荒い息を吐き、強く抱きしめあいながら、長い間。
 いつのまにか、意識せずに二人の手が絡み合っていた。





「ん……」
 目覚めは、そう悪くないものだった。
追われ、逃げて、追い詰めて。神経を張りつめる生活を送っている芙喜子にとって、
自分の身の安心を確信して目が覚めることは、そう多くない。
 ただ一つ難点を言えば、妙なすっとする匂いが鼻にまとわりついていた。
「…………!!」
「お、起きたか」
 眼を覚まし、少し離れたところに小波の姿を確認し、
怒りの衝動に身を任せて体を起こそうとしたところで、芙喜子は痛みにバランスを崩して、布団に倒れこんだ。
質のいい羽毛布団が、芙喜子の身体を柔らかく包む。
寝起きで思うように動かない身体には、昨夜の微かな痛みにまぎれてどこか心地よい疲れも残っている。
「ん……・」
 微かな――あれだけの責苦を受けたにもかかわらず、
そう感じたのは別におかしいことではなかった。
腕についている赤い跡には、 軟膏のようなものが塗られている。先ほどの匂いの正体はこれなのだろう。
 どうでもいいところで、気がきくんだから。この馬鹿。
 呪詛を胸中で吐き捨て、再び視線だけで小波を見やる。
「ずいぶん疲れてたみたいだな。もう昼だぞ」
「……?」
 突っ伏した顔を起こして、部屋を見渡し、時計を見る。
確かにちょうど正午を過ぎたところだった――ホテルのチェックアウト時間は、とうにすぎているだろう。
彼に余計な出費をさせたことに、ほんのわずかな罪悪感。
「まあ、たまにはこういうのもいいけどな」
「…………」
 それを気にする様子もなく、小波が近寄ってきて、頭をぐしゃぐしゃと撫でてきた。
いつもなら、それに皮肉の一つでも返さないと気が済まないのだが、
 今は何も、言いたくなかった。
「……」
 もっとも、昨日味わった屈辱を忘れたわけではない。
 倍――いや、十倍返し。
 デジャブを感じながら固く決意したところで、彼の声。
「昨日はずいぶん可愛かったぞ、芙喜子。……次もよろしくな」
 その笑いを含んだ声に向けて、芙喜子は小さく。
「……ばか!」
 つぶやいて、傍らの枕を小波に投げつけた。

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