「じゃあ、また明日…じゃなかった。月曜日に。」
「またね!」
「バイバイでやんす〜。」

吐く息は白く、トレーナーの上にコートを羽織ってもなお寒い、もうすぐ春とはいえ、やはり夜は寒い。
今日は楽しかった。久しぶりにわいわい騒ぎあった。
山田くんとユイさんと、いっぱい笑った。
親友、と呼べる人たちが居る。それに加えて恋人まで居る。
まぁ、俺は幸せなんだろう。…呪われたりもしたけどね。

なんて思いながら歩いていた。時計を見ると、10時。
今日は家に父さんが居ないのもあって、少し遊びすぎてしまった。
帰ったら…寝るのはもったいないな。久しぶりにバーチャルボーイでも……。


……?

家の前に誰か居る…?
遠巻きにも、人が座り込んでいるのが見える。
歩いていくにつれて、疑問は確信に変わっていった。
くりっとした丸い目に、茶色い巻き髪…やっぱりそうだ。

―寒さに震えるアキミが、いた。

「…よかっ…た。」

俺の姿を見つけたアキミは、そう呟いて、抱きついてきた。

「うわっ!どうしたんだよ!」
「よかった…よかった…」

手が食い込んで痛い。それほど強く抱き締められていた。

「アキミ、外は寒いからさ、とりあえず家に入ろうか。」



「もう!せっかく来たのに誰も居ないし、知らない人ばっかりだし、道わかんないし、寒いし、心細いし、どこ行ってたのよー!」

しばらくして、アキミに俺は責められていた。確かにまだまだ寒く、日が落ちるのも早い。この島は街灯も少なく、あっという間に暗くなる。
しかもほとんど知らない土地だ。いつも強気とはいえアキミも女の子だ。さすがに怖かっただろう。
しかし、気になる。気になると言えば、アキミが何かおかしい。

…気のせいかな?

「ごめんごめん。でも来るんなら連絡してくれたらいいのに。
―ところで、『よかった』って言ってたよな。どうしたんだ?…何かあったのか?」
「…うん、ちょっとね。」

目を伏せ気味に答えた彼女は、やがて、意を決したように顔をあげて、不安げに尋ねてきた。

「ねぇ、約束してくれる?」
「何を?」
「えっと…笑わないって。馬鹿にしないって。あたしがこれからする話を聞いても。」

そんなもの、返事は決まっている。

「わかった。約束する。」

アキミの表情が若干和らいだように見えた。
ホッとした…そんな感じだ。
ポツリ、ポツリと話はじめてくれた。

「最近、夢を見るのよ。」
「夢?」
「うん、ここ一週間ぐらい、断続的に。」
「…どんな夢なんだ?」
「最初に、2日連続で見たんだ。一つ目は、ゲームの中みたいな世界で、あたしはあんたと旅をしていた。モンスターを一緒に倒したりして、楽しい夢だったよ。
…でも、次の日に見た夢は、あたしとあんたが戦ってる夢だった。あたしはなにかに操られているようで、体が言うことを聞かなかった。
そして、あたしは…夢の中のあたしはあんたを……。」

顔色が悪い。思い出したくない記憶を無理やり引っ張りだしているからだろう。

「…大丈夫か、辛いのなら無理して話さなくても…。」

しかしアキミは、自分を鼓舞するように、またNO、を意味するように首をプルプルと振って答えた。

「うん、大丈夫よ。…それに、あんたには聞いてほしい。」
「……わかった。」
「それでね、次の日には、あたしがあんたに手を引かれて、二人で必死に怪物から逃げている夢を見たのよ。
…この夢は、そんなに怖くないって思ってた。あんたと一緒だったし、大丈夫だと思った。
でも、あたしは喰われた。あんたをしっかりつかんだ手だけを残して。

寝るのが怖くなった。夜がたまらなかったよ。またいやな夢を見るんじゃないかって思うと、眠りたくなんかなかったのに、どうしようもなく眠たくて
…そして、また夢を見たのよ。
三つ目の夢は、のどかな町の街道で、あんたは金髪の美人といて、あたしはあんたたちと、また戦ってた。
三対一だったけど、そんなことものともしないぐらいあたしは強くて…それで、それでね、あたしはっ…あっさり、三人とも一突きに…」


苦しさに歪む顔は、その夢にどれだけうなされていたかを物語っている。
…これ以上アキミに辛い思いをさせるわけにはいかない。

「…もういいよ。もう十分だよ。」
「あと一つ…あと一つだけ聞いて。…これで最後だから。
誰かに話さないと、わかってもらえないと、怖くて…。」
「……!わかった。…ごめん。」
「それでね、昨日の夜に…夜の村の裏路地でね、また、あんたと戦ってる夢だったのよ。しかも同じ金髪の女の人と居た。」

またか…何だか自分が申し訳なくなってきた。アキミの話は続く。

「今度は二対一だった。あたしは狼男みたいで、ライカンってあんたに呼ばれてた。
…やっぱりあたしは物凄く強くて、女の人のハンマーを掻い潜りながら、鋭い爪の一掻きで切り裂いた。
そして、あんたの方に向き直って、二掻きで、…あんたを切り裂いた。動かなくなった二人を、あたしは、あたしはっ………!
……喰らい始めたわ。食べちゃったのよ。まるで獣が獲物をむさぼるように、血にまみれて、生肉の食感を楽しむように、恍惚とした表情で…、
そんなことしたくないのに、気持ち悪くて、怖くて仕方がないのに、それでも体は言うこと聞かなくて…、
そしたら急に場面が変わって、あたしはあんたの家の前に居た。
戻ってきた、そう思って明るい玄関をみて心底ほっとして、夢中でドアを開けたら、中は小部屋で、血だらけのあんたが…首から下がばらばらで横たわってた。
頭がぐにゃりってなって、もう訳わからなくなって…

そこで目が覚めたわ。
べたっとした寝汗をいっぱいかいてて、気持ち悪くてしょうがなかったわ。」


「…誰かに相談とかしなかったのか?」
「したよ!友達にも、お母さんにも、お父さんにも!
…みんな信じてくれなかったけどね。心配はしてくれたけど、ストレスとか、疲れてるだとかで、誰一人夢について真剣に考えてくれる人はいなかったのよ。
…へへっ、そりゃそうよね。こんな子供みたいな話、信じろって言う方がおかしいもん。…それにね、信じてくれないだけならまだましなんだけどね、
中には精神的な病気だとか、自意識過剰だとか言う人も居た。気を引くための嘘なんだろ、構ってほしいだけなんだろって言う人まで居た。そんなわけないじゃない!
あたしはただ本当にあったことを話しただけなのに!
…一旦そんなことを言われたら、みんなあたしのこと嘘つき呼ばわりしてるんじゃないか、バカにしてるんじゃないかって思えてきちゃってさ。
…ねぇ、あんたは信じてくれる?もう…あんたしか居なくて。」

涙をたっぷりとためたその大きな瞳に、いつもの快活なアキミの面影はない。心底参っているのだろう。疲れてしまったのだろう。
何て言おうか…、…悩むまでもないな。

「…信じないわけないだろう。大切な人が、俺のアキミがここまで辛そうにしてるのに、そんなときに信じてやれないようじゃ、恋人失格だ。」
「…じゃあ、じゃあ何で家にいてくれなかったのよ!
すがるような思いであんたに会いに来たのに、真っ暗な玄関を見て、血だらけの夢を思い出して、怖くて、どうしても中に入れなくて、知らない人ばっかりで、
しかも寒くて、どんどん暗くなって、いつまで待っても帰ってこなくて、辺りに誰もいなくなって、まるでっ…、まるで夢の中みたいで…、
いったいどこ行ってたのよぉっ……。」
「…悪かった。ごめんな、アキミ。」

腕の中で小さく震えるアキミを片腕で強く抱き締めながら、頭を撫でてやった。ふわふわとした、髪の感触が心地よく、その体は意外なほど小さかった。
ああ、やっぱり女の子なんだなあ…。


「…ありがとね。」

しばらく経って、声が聞こえた。

「…なんで?」
「…信じてくれて。あたしの話を信じてくれて。」
「お礼を言われるようなことじゃないよ。むしろ、こっちが謝らないと。
…怖い思いをさせて悪かった。ごめんなさい。」
「………仕方ないなー、アキミちゃんの海より広い心に感謝しなさいよね!」
「……はいはい。」
「あー、はいはい、いうなー。せっかく許してあげようとしてるのにー。」

ちょっとだけ元気を取り戻した、そんな気がした。
抱えてたものを洗いざらい話して、少しだけ楽になった、そんな感じだ。
まだまだ本調子には遠そうだけど。

と、頭に何か引っかかった。

あれ…、そういえば……。

「なあ、アキミ。」
「ん、なに?そろそろ帰らないと。」
「その事なんだけど、もう帰りの船ないと思うんだけど…。」
「えっ、ウソっ!……どうしよう?」
「…泊まっていけば?」
「え!?でも…」
「布団は二枚はあるから別々に寝ればいいし、どうしても気になるなら、別々の部屋で寝ればいいよ。」

よしよし。いつもアキミに引っ張られてばかりの俺だけど、こういうときぐらい引っ張ってあげないとな。男として。
アキミはしばらく、あー、とかうー、とか言葉にならない声をいていたけど、
やがて、決心したように一言。

「…一つ、お願いがあるんだけど。」

…なんだろう?別に変なことなんてしないんだけどなあ。
でも、続いた言葉は心細げで、それでいて俺の予想の斜め上を行っていた。

「えっと…、別々じゃなくて、その、いっしょに、同じお布団で、寝て…、ほしい…。」
「!?」

瞬間、脳がオーバーヒート寸前になって、なにも考えられなくなり、
何で、そう聞こうとした瞬間に、…一気に冷めた。
そうだ。
…怖いんだ。まだ夜が怖いんだ。独りになりたくない、なれないんだ。
なのに俺は別々でも…だって?馬鹿じゃないか。酷い奴だ。
あまりに鈍すぎる。…ごめんな、アキミ。

「いいよ、アキミ。今晩は一緒に寝よう。…一緒にいよう。ごめんな、鈍くて、すぐにわかってあげられなくて。」
「…まったくよ!アキミちゃんがこんなに怖い思いしてるのに一人で寝ろって!?
…断られたらどうしようって思ったじゃないのよ……。」
「ごめん。…俺って鈍いよなあ。」
「いいよ、許してあげる。その代わり…、何かあったら、絶対に助けてね。ずっとそばにいてね。離れないでよ、…約束よ!」


布団を敷く。二人分の布団を並べて敷くと、なんだかダブルベッドみたいで、アキミにそう言うと、恥ずかしいのか顔を背けてしまった。
…こんなアキミは珍しい。いっつも元気いっぱいだからなぁ。
そのギャップも相まって、アキミには悪いけどとってもかわいい。
二人で布団に潜ると、最初は冷たくて、でもだんだんフワッと、なんだかほっとする温かみにつつまれた。

「へへへっ、あったかい、あったかい!」

アキミも同じことを思ったようだ。なんだか嬉しい。

「電気、消して大丈夫?」
「うん、だいじょーぶ。…あー、でも、小さい明かりがほしいかな。」

了解した。父さんの部屋から、読書に使ってる電気スタンドを持ってくる。

「これでいいかな?」
「うん、ありがと。」

…闇夜をほんのりと照らす明かりのなか、俺はアキミとならんで天井を見つめていた。

「ねぇ…」
「ん?」
「あたしね、今ね、とっても幸せだよ。あんたが隣にいて、一緒のお布団で寝てて、温かくて、夜は怖いけど…それでも幸せ。
…もっとこっちに来て、ぎゅって…、その、…抱き締めて。」
「わかった…」

アキミの体に腕を回して、体の震えを止めるように、ちょっと強く抱き締める。…今夜は一緒だ、アキミ。




――始まりはどっちからだったかはわからない。
気付けば、唇を二回、重ね合わせていた。最初に、触れるだけの軽いキス。
そして…

「んっ…」

舌を絡ませて、ぴちゃ…くちゃ…と淫靡な音を奏でる濃厚なキス。
今までは、ここまでだった。
ここから先は、二人にとって、未知の世界だった。

「アキミ…」
「…いいよ。あんたとなら…、ううん、あんたじゃないと…」

これが限界だったみたいで、顔が真っ赤に染まっていた。
…ちなみに俺の理性の限界もここまでだった。
アキミの服を脱がせると、普段服越しに見えるよりずっと大きくて、白くて、形のきれいな乳房が露になって、
指でつつくとぷるぷる震え、無防備にさらされたそれは見るからに美味しそうだった。

「アキミ…きれいだよ。とっても。――いただきます。」
「へへっ、そうで…、ひゃあ!」

片方を優しく揉んでみる。柔らかく、自在に形を変えるそれはとても心地よく、もにゅもにゅと堪能しながら、
もう片方の、白いお椀の頂点の、赤い小さな粒を吸ったり、弾いたり、なめ回したり…、とにかく知識を総動員して攻めたてた。

「はぁっ…ぁあんっ、うあっ!」

心なしか、アキミの息もだんだん荒く、熱っぽくなってきている気がする。
ふと、スカートの中に手を入れてみると、下着越しにも分かるぐらい濡れそぼっている。
そのまま、わざとまどろっこしい刺激を与え続けて、赤いつぶらな果実を甘く噛んだ瞬間、

「ダメぇ…ぁああああああ!!」

アキミの体が声と共に震え、スカートの中の手が一気にぐしょ濡れになり、
下着は、まるでおもらしでもしたかのようにぴちゃぴちゃで、もはやその役目を果たしていない。

「アキミ、ほら、下の方、もうびしょびしょで…、気持ち悪いだろうから、脱がしちゃうよ。」

手をアキミの目の前にかざし、指で見せつける。
絶頂の余韻に震え、恥ずかしさに直視できないアキミを尻目に、腰を浮かせて脱がせようとしたときだった。



「ねぇ…で、電気を、消してぇ…」

懇願する声が聞こえてきた。残念ながら、その願いは聞けないけどね。
すでに布団は大きくはだけられていて、緩やかな曲線を画くくびれた腰、すらりとのびた健康的な足と、…そして、スカートと下着を脱がされて、
何にも守られることなく、外気にさらされたアキミの秘所がはっきりと見てとれた。

「いやぁぁ……、み、見ないでよ……でんき、けしてよぉぉ……」

凝視する俺をポカポカと叩きながら、か細い声で半分泣いて懇願するアキミ。
ハイ見ませんと、そんな男がいるわけがない。
とろとろと蜜を溢れさせ、くらっとさせられる香りを放つピンク色の花弁と、それを守るかのように、しっかりと、濃い目に生い茂った陰毛が目に映る。
…なるほど、本人は気にしているのか、恥ずかしがっているようだけど、白い肌と恥毛が生み出すコントラストは美しく、…それでいてどうしようもなく卑猥で、
一匹の雌として、これ以上なく目の前の雄を興奮させていた。

「電気を点けてって言ったのはアキミだろ。それに、消しちゃったらなんにも見えないじゃないか。勿体ない。
――綺麗だよ、アキミ。こんなにしちゃって、とってもいやらしくて、…魅力的だ。」
「もうっ!い、いやらしいのは、あんたでしょうが!」

俺だけじゃないだろう。ちょっとムッとする。

「ふーん、ほんとにそうなのかな?まぁいいや。」
「えっ!?ちょっ、ちょっと!そんなところでっ、何をっ…ひゃあああっ!!!」

ちょっとしたダイバー気分で、アキミの股の付け根に潜り、濡れて艶やかに光る陰毛をかき分け、舌で冬の寒さに負けない熱気を放つそこに舌で割って入る。
擦り付け、なめ回し、溢れる蜜と唾液をひとまとめにして吸い上げる。ぷっくりと肥大した豆の皮を、剥いて転がしたり…弾いたり…。

「あっ、んあっ!やっ、やめてぇぇ…き、きもひっ、よふぎっ、てっ、ひゃんっ!おかしく、なっちゃうぅっ!!」

すでに一度絶頂に達し、より敏感になっているアキミにとって、刺激が強すぎてひとたまりもないみたいだ。
…やめるつもりは毛頭ないけど。舌の代わりに指を差し込み、ゆっくり抜き差ししながら、なにかを探るようにアキミのそこを攻める。


「ふにゃあああ!?」

ふと、あるポイントに指が触れたときだった。
アキミの反応が、明らかに違った。これはいい。俺はにんまりして思った。少しアキミをいじめてやろう。

「どうした?アキミ。」
「そ、そこはっ…!」
「ん?ここがどうかした?」

ちょっとだけ強く攻めてやる。

「ダメぇぇぇぇ!そこはっ…!はぁっ!…ふぁあああっ!やめっ…!」

アキミの叫びに耳を貸さずに、ひたすらそこを攻める。舐める、掻き回す……。

「やめぇぇぇ…そこはやめてぇぇっ……!…あっ!?
やぁっ!?や、やめてぇ!でちゃうぅっ!なにかが、で、でちゃう、ぁあああああ!!!」

アキミの絶叫が聞こえた瞬間だった。
ぷしゃあっ、と飛沫が顔を濡らし、布団にじわぁぁ…、とシミが広がる。
さらさらしていて、舐めると、ほんのりしょっぱい。

「はぁ…はぁっ……、ゃぁあ…、でちゃった……。ばかぁあ…、だ、だめって、言ったのに…。」
「ごめんごめん、ちょっと歯止めが効かなくなっちゃってさ。…お詫びに、責任持ってきれいに掃除させてもらうよ。」

『責任』を強調して、再び舌を動かす。体液に濡れる秘所の周りを舐める。丁寧に、執拗なくらい舐める。

「ふゃあ!?なっ、なにを、してるのっ…?」
「何って…きれいに後始末してるんだよ。」
「後始末って…、ぁっ!き、きたいでしょ!あたしの、その…。」
「アキミのなら全然汚なくなんてないよ。それにこれ、おしっこじゃないみたいだし。」

はっきり言ってやる。
恥ずかしさの極み、といった感じのアキミ。うんうん、こういうアキミもとってもかわいい。

ちょうどあらかたなめ終わったときだったか、アキミの口から、弱々しく言葉がこぼれた。

「ねぇ…、も、もういいでしょ。」
「ん?何が?」
「もうっ…焦らさないでよ…あたし、もう限界で……してほしい…」
「だから、何をどうしてほしいのかはっきり言ってくれないとわかんないよ。」

俺はこれ以上ないほどの笑顔を作り、ゆっくりとアキミに尋ねる。

「アキミちゃんは、俺に、どうしてほしいのかな?ん?言ってごらん?」
「ぅうう……、そんなこと言わせないでよっ!…ぐすっ…い、いじわるっ!
さんざんあたしの体をいじめたくせにぃっ…、まだっ…ひっ…いっ、いじめたりないのぉっ!?ばかぁっ…!ひくっ…人でなしぃ!」



…あー、ちょっとやりすぎちゃったかな?普段強気だと、やっていいことと悪いことの線引きが難しいんだよなあ。
反省反省。怒ってこっちに背を向けてしまったアキミを、背後からそっと抱き締める。

「…アキミ。」
「何よ…!」
「ごめん、俺、ちょっと調子に乗りすぎた。なんかこう、しおらしいっていうか、ちょっとおとなしめのアキミもかわいいなぁって思ったら止まらなくて。…悪かった。この通り、あやまる。」

若干の間。そのあと、アキミはこっちを向いてくれた。

「…もう!そりゃあたしは普段騒がしいし、ちょっとわがままだし、魅力的でもないかもしれないけどさ、これでも一応女の子なんだから、もうちょっと丁寧に扱いなさいよね!
…今回は許してあげるけど、次からはもう知らないから!」
「…わかった。ありがとう。…でも、一つ間違いがあるぞ。」
「間違い?」
「うん。アキミは、普段から十分女の子らしいし、それに、とっても魅力的だよ。」

…言ってから自分の台詞の恥ずかしさに気がついた。

「…………ありがと。」

アキミの顔も赤いが、言った俺の顔もきっと赤いだろう。
…なんだか気まずい。俺のソレだけが空気を読まずに主張している。
ええい!
もう一度アキミを抱き締める。
「あのさ、アキミ…、実を言うと、俺ももう限界で…、いい、かな?」
「………うん、あたしも、もう…」
「できるだけ優しくするけど、痛かったら、…ごめん。」
「うん。だいじょうぶ。…あんたとなら。
あのさ、…する前に、もう一回だけ、その……、キス、して。」
「ああ、わかった。」

俺たちは、今日三度めの口づけを交わす。一番長く、一番濃厚なキスだ。舌を絡め合い、互いを貪りあうキス。

…それが合図だった。



「じゃあ、いくよ、アキミ。」
「うん…来て…。」

アキミの、今日何度も味わったそこに俺の分身をあてがい、ゆっくりと挿入していく。
散々前戯をしたとはいえ、やはり初めてだ。かなりきつい。

「ぅああっ……ひぐっ…」

暴発しそうなそれを堪える俺も辛いが、アキミはもっと辛そうだ。
顔は苦痛に歪んでいる。
それでも、確かに中に入りつつあった。ゆっくり、ゆっくりと侵入していく。

「アキミ…もう少しだから、頑張って。」
「うん…、っ…!わかった…。」

すると、先が何かとぶつかった。アキミの、初めてたる証。…そして、俺がこれから奪うもの。

「アキミ、もうすぐだ。…ゆっくりすると痛いから、一気にいくよ。」
「うん………、ひいぃっ!ぁああっ!ぅぐっ…!」

腰を入れて、一気に突いた。

――ぷつん

そんな音が聞こえた気がした。アキミの顔に汗が浮かぶ。大きな瞳からは涙が零れ、結合部からは血が流れていた。

「アキミ…大丈夫か?」
「っ…うん…。ねぇ、つながった、よね。」
「ああ…、いっしょ、だよ。」
「………。」
「なぁ、アキミ、動いていいかな?」
「…うん。…もう、だいじょうぶだよ。」

腰の動きを再開する。アキミの中に、最初はゆっくり、だんだん早く、媚肉に擦り付けるように前後に動かす。

「あっ…!ふぁっ…!ひっ…」

アキミももう痛くないのか、それとも快楽が痛みを上回っているのか、息を荒げ、快感に身を任せていた。
俺も限界だ。

「アキミっ…そろそろ出すぞ…!」
「あたしもっ…、ふぁあああっ!」

体勢を少し変えて、若干ポイントをずらして、より早いストロークで腰を動かす。
さっき触れなかった敏感でまだ慣れていない点に擦り付ける。
「ひぁあぁっ!だめぇっ!また、またイっちゃうよぉっ…!!」
「俺もだっ…!くぅっ…いっ…イくぞっ、アキミぃっ…!!」
「あっ!ひゃぅっ…!ぁああああああ!!!!」

どっちが先だったか、同時だったかもしれない。
アキミは三回目の絶頂を迎え、俺は溜まりに溜まった子種を余すことなく放出した。

「ふぅ…ふぅ……、アキミ、…アキミ?」

息を整えて、射精の疲労に襲われながら、アキミに話しかける。…しかし、答えは返ってこなかった。
かわりに返ってきたのは、すぅすぅという寝息。
そういえば、最近ちゃんと眠れてなかったんだったな。
おやすみ、アキミ。
そう思うやいなや、俺も眠りに落ちていった。



…目が覚めたのは、誰かの声でだった。とても悲しい声。怖くて、辛くて、逃げ出したくて、…それでもその願いは叶わず、苦悶し続ける声。
「ぁあ…うぁああ…」
アキミが、うなされている。
顔は歪み、涙をこぼし、まるで地獄を見ているかのようだ。
とりあえず起こさないと…。
そう思って、アキミの体を揺すろうとしたとき、『それ』に気づいた。
アキミの枕元に何か居る。
決して見てはならないと、脳が警鐘を鳴らす。

「…アキミ、アキミ!」
「いや…あ…、たす、けて…」
「アキミ!!」

体を起こして、ゆさゆさとアキミを揺らす。やがて開き始めた目。
よかった。なんとか目を覚ましてくれたみたいだ。

「え…ぁ…あ…?また…ゆめ?」
「しっかりするんだ。アキミ、俺だよ。」
「……うっ…、ひっ…」

よっぽど怖い夢だったのか、しゃくりあげてしまっている。

「もう大丈夫だ。枕元を見ないようにしながら、こっちへおいで。」
「ひっく……まくら、もと?」

しまった。枕元なんて言う必要なかったんだ。
こっちに来いとだけ言えばよかったのに…

「だめだアキミ!見るんじゃない!」

だが、時すでに遅く、アキミの目は既に『それ』を捉えてしまっていた。

「ぁ……あ…あ…ひぃっ…」

腰がぺたんと抜け、目は恐怖に見開き、がちがちと、歯がぶつかり合う音が聞こえる。
助けを求める手は震え、体はなにかに釘つけにされたみたいに固まってしまっている。
急いでアキミに手を伸ばし、体を抱き寄せてやる。
背中と顔の後ろに手を回して、固く、強く抱き締める。

「ひぃぃっ…ゃああ…、もういやぁ…、たすけて……」

むせび泣くアキミの声を聞いて、俺は決めた。
顔をあげて、『それ』を真正面から睨み付けてやった。


―まさしく怪物だった。一応人の形はしていたが、肉は所々脱落し、腐り、変色していた。
腹部には大きな空洞があり、そこから腸が垂れ下がっていて、長い髪は血に染まり、顔の右半分は焼け爛れ、左半分は白骨だった。
ぽっかりと空いた眼窩の奥は、吸い込まれるような、闇。
…普段の俺なら飛び上がって逃げ出していただろう。
だが、不思議と恐く無かった。心を怒りと憎しみが支配していた。
こいつがアキミを…俺のアキミをこんなにも苦しめたのか…!
そう思うと、膨れ上がった感情が、口をついて出た。

「おい!なぜこんなことをするんだ!?一体アキミが何をしたって言うんだ!?
俺の…俺の一番大事な、大好きな人をよくも傷つけやがって…!消え失せろ、化け物!!……はぁ…はぁ…はぁ…。」

一気に捲し立てる。頭のどこかで意味がないとわかっていたが、感情がそれを無視した。
息をついていると、声が聞こえた。

「……ま…た……また…ぁ…ぃに…い…く…か…ら…ぁああ…、に…ぃ…ぃ…がぁ…さ…な…………ぃいい…!」

そう言い残して、化け物は消えていった。
ふぅ、と一息付く。とりあえずこの場はなんとかなった。
未だ腕の中で泣いているアキミを、優しく、赤ん坊をあやすように抱いてやる。

そろそろ落ち着いたかな?
そう思った俺は、アキミの頭を優しく撫でつつ、ゆっくり話しかける。

「もう大丈夫だぞ。…怖かったよな。」
「うん…。」
「俺のせいだな。俺が枕元を見るな、なんて言わなければよかったんだ。」
「そんなことないよ。…あんたは必死にあたしを守ってくれた。へへ、嬉しかったよ。」
「当たり前じゃないか。アキミは俺の恋人、だからな。」
「うん…ありがと。あたしも、あんたのこと、大好きだよ。」返事の替わりに、唇を重ねる。あまりにいとおしくて、それしかできなかった。
「…ね、このまま、朝が来るまで、抱き締めててよ。こうしてると、何だかとってもホッとするんだ。」
「わかったよ、アキミ。…もう離さない。」

なんとか抱きつかれたまま布団に入る。
しばらく後に、アキミの寝顔が少しだけ和らいだように見えた。今度こそおやすみ、アキミ。もう夜は残り少ないけど、せめて残りだけでも安らかに君が眠れますように。



…どうも俺は眠れそうにないけど。
よく考えたら、俺とアキミは完全に密着している。…しかも全裸で。服を着たかったが、ガッチリ絡まったアキミの腕はそれを許さない。
つまり俺の胸板にはアキミの…おそらくそこそこ豊かな方である…その…おっぱいが…やわらかい。そしてふわふわとした、柔らかな感触…行為の余韻を残す秘所…。
再び元気を取り戻す俺のソレ。しかも柔らかなアキミの肌に触れる、擦れる。
…生殺し、か。
あぁ…朝が待ち遠しい…。布団にくるまりながら、俺はそう思った。


結局、アキミが目を覚ましたのは、もう昼間際の11時頃だった。

「あ、おはよう、アキミ。」
「…う、ん…おはよう…。ふゃ?あのまま、寝ちゃったの?」
「うん。俺に抱きついたまま。しかも…その…はだか……。」
「ふぇ……?………!」

目をまだトロンとさせ、状況をまだ理解できていない。
あ、気付いた。みるみる顔が朱に染まっていく。
…寝起きの女の子って、何だか色っぽいなぁ。

「とりあえず、お風呂入ろっか。…一緒に。」


ちゃぽん…
湯船に向い合わせで浸かると、さっきまでのことがまるで嘘みたいに思えてくる。全身の筋肉が弛緩する。
あぁ、極楽極楽。

『寝るな!寝たら死ぬぞ!』

…あまりの気持ちよさに脳内雪山ワールドに突入する勢いだったが、すんでのところでアキミの声に引き戻された。

「ねぇ、…一つ、聞いていい?」
「…ん?あぁ。」
「あのね、あの化け物は、また会いに行く、逃がさないって言ってた。…今回はあんたがいてくれた。あんたのお陰で、助かった。怖かったけど、あんたと一緒だったから、大丈夫だった。でも、いつもそういうわけにはいかない。」

あぁ、何を言いたいのか大体の予想はついた。だけど…。

「そう思うと、えっと、…だからさ、
ずっと一緒にいてくれない…?」
「アキミ、それは…。」

きゅっ、と心が締め付けられるように痛む。
心からそうしてあげたい。
それが出来たらどれだけいいだろうか。でも…それは…まだ…。

「ううん、いいんだ。…へへへっ、バカよねー、あたしも。
…そんなこと、無理に決まってるのにね。ごめんね、今のは忘れて―」
「無理じゃないさ。」

アキミの言葉を遮る。

「え…?」
「もう一度言うぞ、無理じゃないよ。確かに今はまだ難しい。…俺だって、アキミといつも一緒がいい。あの化け物のこと関係なしに、単純に一緒に暮らしたい。
でも、俺たちはまだ学生だし、俺にはまだ何の甲斐性もない。
…俺、プロ野球の選手になろうと思うんだ。一応、いくつかの球団のスカウトさんにも目をかけてもらってる。
プロになって、一生懸命頑張って、一杯活躍して、少しでも早く一人前の男に…、アキミを貰いに行けるような男になるから、待っててくれないか?
絶対に、そんなに長くは待たせないから。…約束するから!」
勢いに任せて言い切る。…正面の、アキミの返事は…、久々に魅せてくれた晴れやかな笑顔。

「…うん!じゃあ、約束よ!」

そのまま、顔を寄せ合い、誓いの口づけを交わす。
…アキミ、待ってろよ。俺は必ず…。


――彼女が本当の安らぎを、幸せを手に入れるのにはもう少し時間がかかるのかもしれない。もうしばらく一人でいることに耐えなければならないのかもしれない。
だが、明けない夜は無い。
いつか来るその日を信じ、彼女は眠りにつく。使い古されたグローブとボールを、必ず胸元に抱いて。

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