「新しいゲームを買ったから一緒にやろ!」
来て早々そんなことを言いながら、返事をする前に部屋の片隅にあるパソコンをセッティングしている一人の女の子。
名前はピンク、桃井という名前もあるがこっちが本名?らしい。どうみても普通の女の子だが普段は正義の味方、ヒーローとして活躍している。
「ま〜だ引越しの荷物片付けてないの、狭い部屋がより狭くなっちゃうよ?」
「片付けようとする日に限って何処かの変身ヒーロー様が来るんでね、時間が無いn」
「さて用意しよっと・・・」
「聞けよ!」

あの事件の後、就職先が何とか決まり俺は一人暮らしを始めた。
開田君にアパートを出る話をした時『なんでいつの間にか就職先が決まってるでやんすか!?ずるいでやんす!家賃が大変でやんす!』
などと騒いでいたがその後すぐ、あのマニアショップで店員として働けるようになったらしく今もあのアパートで暮らしている。
そんな訳で二人とも何とかまともな社会人になれた訳だ。
「よし!準備オッケー、ほら小波!早く早く」
「ちょっと待てって」
お酒とおつまみで埋まっている冷蔵庫から唯一のジュースを出してコップに注ぐ。
仕事の関係上、お酒を飲む付き合いが多くなり家でもお酒を飲むようになった。
ジュースなどの飲み物はあまり飲まなくなったし本当は必要無いのだが、ちょくちょくやってくる子供っぽいヒーローの為に欠かさず入れてある事は此処だけの内緒だ。
「それじゃあやるか」
「待ってました!それじゃあ私はこれをつかおっと」

「そういえば最近合体の呼びだしに来ないけど平和にでもなったのか?」
画面を見ながらふと気になったことを聞いてみる。テレビを見てもあの時のような事件は放送されてないし、一見平和に思える。
それでも今現在も至る所でツナミによる多くの問題や事件が起きているのだろう。だから期待した答えは貰えないはずだ。
「う〜ん、平和になったというか静かになったって感じね、おかげでヒーローは皆休暇中よ」
「なるほど、それで家に遊びにきたって訳ね・・・ブラック達はどうしてるんだ?」

どうやらこれは失言だったらしい、途端にピンクの顔が不機嫌に変わった。
「ブラックとダークスピアには高校生の時から付き合ってる彼氏がいるの・・・どうせ今頃仲良くイチャイチャしてるんでしょうよ!大体なんで女のヒーローは皆彼氏持ちなのよ!!あ〜!もう!」
などと口では愚痴を言いながら画面に映る弾幕の雨を完全に避けている。無意識に能力を発動しているのか完璧なものだ。
それより自分も男の家に遊びにきてるのは忘れているのだろうか?

そんな俺とピンクだけど恋人同士ではないのか?と聞かれると何とも曖昧だ。
どちらとも愛の告白をした訳ではない、かといって嫌いなんて事もありえない。
お互い信頼しあっているし一緒に居る今も楽しい。
ピンクもこの関係がいいのかもしれないが俺としては一歩前進したいものだ。

(ちょっと試してみるか)
「なぁピンク」
「んん〜何〜?」
思った通り画面から目を離さない、その方が俺としては恥ずかしくなくていいが
「俺の事好きか?」
ドーン! お、やられた。先程まで完璧な回避を見せていたが呆気ないほど簡単に被弾した。
動揺してるのが分かりやすい。一瞬固まってすぐにこっちを向いて
「な、ななに言ってんのよ小波は!ま、まったく!くだらない冗談はやめてよ!」
顔を赤くしてテーブルのジュースに口をつける、やはり動揺してるのか凄い勢いで飲み干していく。
こうなるともう少し攻め込んでみたくなるもので。

「俺はピンクの事好きなんだが」
「ごふっ!!けほっ・・・けほっ・・・」
飲んでいたジュースをおもいっきり噴き出しむせこんでいる。
「お、おい、大丈夫か?」
「ごほ・・・ごほんっ!あ、あんた酔っ払ってるの?それとも熱でもあるんじゃ・・・あ!分かった!ブラックのいたずらでしょ?!」
「いや・・・どれも違うけど・・・ピンクは俺が嫌いか?」
「き、嫌いな訳無いじゃない!ただ・・・その・・・」

出会った頃は強気だったが、ダークスピアの前では脅え弱気な感じだった。
その後は徐々に自信をつけヒーローらしい自信に溢れるピンクになっていった。
そんなピンクが久々に見せるオドオドとした表情が何とも懐かしく感じる。

「私も小波の事好きだけど・・・私だけが一方的に好きだと思ってて、怖くて言えなくて・・・ほら!相思相愛なんて有り得ないと思ってたからさ・・・だから今も信じられなくて」
「そうか、なら仕方ないな・・・証拠を見せれば信じるだろう」
「へ?」
ピンクの横に座りそっと肩を抱き寄せる。未来予測を使えばこれから先の事は分かるのだろうか?
まぁどちらにしろ能力を使うのは完全に忘れている様子だ。

「ふぇ!小波!?な・・・んっ!」
ピンクにキスをする。あまり激しくない、互いの唇を合わせる位のソフトなキスだ。
左手で髪を撫で右手ではピンクを抱きしめる。
「んんっ、小・・・波・・・っ・・・」
大した時間ではないだろう、だけどどれだけの時間そうしていたか分からない。
こちらから唇を離すとき「あっ」というピンクの名残惜しげな声が聞こえた気がする。
「これで信じたか?」
「・・・・・・・・・・・・・うん」
少し見つめ合ったままだったが余程恥ずかしかったらしい、すぐに俯きそのまま顔を上げない。
顔を朱に染めている・・・というより完全に真っ赤だ。急にこっちまで恥ずかしくなってきた。
「よ、よし!じゃあゲームの続きでもするか」
「へ?・・・で、出来る訳無いでしょ!こんな状態で!きょ、今日は取り合えず帰る!じゃあね!」
来たときと同じく家主に何も言わせず入り込み何も言わせず帰っていった。
・・・まぁ一歩前進出来ただろう。これで相思相愛があると思えればいいが・・・次に会うときが楽しみだ。
などと考えながらピンクが置いていったゲームのコントローラーを手に取りスタートボタンを押した。


「・・・キスされちゃった・・・ファーストキス・・・あぅ」
頭がポッーとする、これが初めてキスした感覚なのだろうか、小波の家からアジトに戻るまでの記憶があやふやなのは言うまでもない。
分かることは帰る途中の顔は終始緩みっぱなしだっただろう。
「ただいまぁ・・・って誰も居ないけd」

「「おかえり」」

「うわっ!なんであんた達此処にいるのよ!彼氏のところ行ったんじゃないの!?」
「・・・今日はナイトゲーム」
「右に同じや」
「明日から遠征だから移動日よ」
くっ・・・全員プロ野球選手ってのが更に腹が立つ・・・

「それで・・・何で三人して此処に居るわけ?」
「・・・・・・面白いことがあったから皆で見るところ」
「へぇ〜・・・」
正直今は何を見ても大した興味も沸かない。先ほどのことがそれ程印象的に残っている。
「・・・ピンクもカズと朱理の間に座って・・・スタート」
言われるがまま用意された椅子に腰掛ける。まるでピンクが帰ってくることを予期していたかのようだ。
『ザザー・・ザッ・・・新しいゲームを買ったから一緒にやろ!』
・・・へ?これってついさっきの・・まさか!
「ブ、ブラック!アンタまさか隠し撮r」
ガシッ!ガシッ!
「まぁまぁ落ち着きぃや」
「そうよ、まだ始まったばかりじゃない」
「・・・因みに帰宅途中の惚気顔も録画してある」
「嫌ああああああああああああ!見るならせめて私が居ないところで見てええええええええええ!」

ヒーローの苦悩はまだまだ続くのでした

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