その日ジオットは機嫌が悪かった
いつものように復讐にやってきた相手を追い詰め、あがくのを楽しんでいたのだが
野球のユニフォームを着たあの男に横から邪魔され、逃げられてしまったのだ
この借りは、かつてあの男の女だった‘モノ’
――かつてパカーディと呼ばれていた――を嬲り、返すことにしようと決めた

「やあ、キミ元気かい?」

ジオットが話しかけた視線の先
部屋の中央にある大型シリンダー、その中にメロンパンが入れられていた
かつてパカーディと呼ばれていた女の脳である

「・・・・・・・・・」
パカーディの様子を映すディスプレイは動かず、スピーカーは沈黙したままだった
「・・・返事がないなあ。ひょっとして、こわれちゃった?」
「じゃあ、バックアップの記憶を再ロードしてあげよう」

もしも地獄があるならば、それはジオット・セヴェルスの部屋にある
そこに連れて行かれた者には、決して死が与えられることはない
ただ永遠の苦しみが続くだけである

ジオットはいつものようにパソコンの電源を入れた

ジオットの私室は狭い、床や扉、天井までもが金属に囲まれた密室
様々な機材とシリンダーに入った無数の脳
彼は歯向かった相手の脳をコレクションしていた
パソコンの周辺とベッドだけが唯一の生活感を残している
部屋の主は狂人だった

パカーディは不安げにカメラを動かした
コンピューター経由で与えられる刺激以外で
彼女が自分から外界に及ぼせる唯一の手段である

「う・・・」
「おや?お目覚めですか?」

ジオットはカメラへ視線を向けた

パカーディの全身は逆立ち怖気が体を支配する
視線は外さない、睨み付けた
涙はコンピューターの仮想空間にある体では流せなかった

「ジオット!パワポケはどうしたのじゃ!」
「安心してください。彼はまだ捕まっていません」
「そうか・・・よかった」

ジオットの声は優しかった
「体を消された悲しみよりも、彼の命が助かったことを喜ぶのですね」

「私はどうなるのじゃ?」
「これから与えられる刺激に耐えてください、耐えられればキミの大切な彼氏は死なずに済みます」
「死なずに済むとは・・・余のように脳だけにするなら許さんぞ」
「アハハハハ、いいですよ見逃がしてあげましょう。耐え切れたらの話ですが」

ジオットは笑いながらキーボードを叩く

「痛いのは・・・いやじゃ・・・」

ひとしきり笑った後、言った

「だいぶ可愛くなりましたね。大丈夫。
 壊れないように、ゆっくりと気持ちよくしてあげるよ
 狂わないよう大切にね」

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