綺麗に片付けられたリビング。
そこにあるテーブルの上に、美味しそうな料理と少し形の崩れたケーキが置いてある。
「よし!こんなもんかな。・・後は帰りを待つだけだな」
そう言って俺はソファーに腰を降ろした。
俺の名前は小波。今この家に居候させてもらっている風来坊だ。
そんな居候風来坊がエプロンを着て何をしているのかというと、この家の主を驚かす為の準備をしていたのだ。
何故こんな事しているかというと、さかのぼること24時間位前・・

「小波さんは何をプレゼントするんですか?」
「え・・・何の事ですか?」
グラウンドでの野球練習を終えていつも立ち寄るカレー屋。今日もカレーを食べてると、ここの主人、奈津姫さんが言ってきた。
「何の事って・・明日は武美の誕生日じゃないですか。何かプレゼントするんでしょ?」
「・・・・・・・・・え」
「・・・もしかして知らなかったんですか?」
誕生日?武美が?・・明日?・・・明日!?
「武美ったら何も言わなかったんですか?全く・・」
と奈津姫さんが喋っていたが全く耳を傾けていなかった。

その後ずっと何をプレゼントするか考えてた。
初めはネックレスとか指輪のが喜ぶと思ったが・・財布の中身を見てカンタ君のお小遣より少ないことに気付いて諦めた。うん・・悲しくもなったさ。
そこで余りお金のかからない誕生日ケーキを作ってあげることにした。
もちろん武美の家では作れるわけがない。なので考えた結果、維織さんにお願いして喫茶店のキッチンを貸してもらうことにした。


言うまでもないが維織さんと喫茶店のメイド、准に色々と事情聴取された。誰に作るの?とか、なんで嬉しそうなの?とか、質問するごとに二人の顔が般若の如く変わっていくように見えたが・・気のせいだと思いたい。
だんだん背筋がゾクゾクしてきたので、作ったケーキを持ってそそくさと帰って来た。

そして今日奈津姫さんの所に武美が手伝いにいってる間に色々と準備をして今に致る。
時刻は夜の6時を回った所、そろそろ帰ってくるかなと考えていると玄関の鍵が回る音がした。ほんの少ししてリビングの扉が開いた。
「おかえり。武美」
「ただいま〜・・って、あれ?どうしたのこれ」
テーブルの上に並ぶ料理を見て考えながら言った。
「どうしたのって、今日武美の誕生日だろ。だからお祝いしようと思って用意したんだよ」
「・・・ああっ!そうだね!」
・・・もしかして
「なんでもうすぐ誕生日だって教えなかったんだ?」
「えへへ・・忘れてた」
やっぱり・・というか普通忘れるか?自分の誕生日・・
「はぁ・・まぁいっか。とにかく・・誕生日おめでとう武美」
「ありがとう!小波!」
と可愛い笑顔を見せた。とりあえず喜んでくれたらしい。内心ホッと胸を撫で下ろした。

その後料理とケーキは綺麗に片付けられ今はのんびりくつろいでいる。
「形はちょっと崩れてたけど美味しかったよ。」
口に少しクリームを付けて武美が言ってるが、そんな姿は子供にしか見えない。「でも・・思い出になるようなものも欲しいなぁ」
「・・やっぱり首飾りとかのがよかった?」
「ち・・違う違う!物とかじゃなくてその・・ほら・・恋人同士だしさ・・」
少し悲しそうな顔をした俺に武美は慌てながら答える。だけど何だか武美の顔が紅くなっている。
「恋人同士だし?」
「・・キ・・・キスとかでも嬉しいな・・って」
・・へ?キスって武美、そんな事言うお方でしたっけ?そういえば、夜中俺の隣で寝てて驚いてそのまま不眠症になったり、ポッキー食べてたら私も食べたい!とか言って口にくわえてたやつ食べたり・・。
そんな事を思い出しながら武美を見るとさっきより顔が紅くなっていた。熱でもあるんじゃないかと思うほどに。
「あ・・アハハ!じょ、冗談だよ!冗談!」
そんな武美を俺は優しく抱き寄せる。
「あっ・・」
お互い相手の瞳を見つめ合う形になる。暫く見つめてから武美がゆっくりと目を閉じた。唇が触れ合う。静かで優しくほんの数秒で俺のほうから離れた。
「あれ・・もう・・終わり?もっと激しいのかと思ってたのに」
「いや、最初だしこれくらいがいいかな・・っと」 「そっか・・じゃあ続きしよう。私の部屋で」
「・・は?」
「2回目だから激しくしていいからさっ」
そう言ってガシッと俺の手を握りズルズルと部屋に引きずって行こうとする。
「ちょ、ちょっとまった!何言って・・・わー!」
抵抗虚しく奥の部屋に引きずられていく風来坊。
もちろんその夜キスだけで終わるわけがありませんでした。

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