空気の揺らぎが感じられた。後方から急速に近づいてくる。音を綺麗に消して、しかしあからさまな殺気を隠そうともせず。
 リンは素知らぬ風を装い歩き続けた。そして後方の敵が飛びかかろうとした最後のワンステップに合わせ、最小限の範囲で体を捻った。
 次の瞬間に放たれた攻撃は、寸分違わずリンが歩いていたその場所を切り裂いた。
 常人では目で追えないほどの鋭い斬撃。
 だがリンにははっきりと見えていた。そしてそのあとに緑色をした何かが颯爽と駆け抜けていくのもしっかりと視認していた。
 緑色は数メートルほど離れた場所に停止した。怒りのオーラをまとった緑髪の人物は、険しい表情を張り付かせたままリンの方へ振り返る。
 アステロイドベルトの破壊神の登場だった。
「リン!」
「あらリコ……久しぶりね」
 リンは微笑んだ。久しく見ていなかった可愛い親友の登場に笑みを零してしまう。
 傍から見れば非常に物騒で迷惑かつ犯罪レベルの挨拶なのだが、リンにとっては別にどうということはない、何気ない日常の一コマに過ぎない。
 唸る子犬をなだめる様な調子でリコに話しかける。
「随分な挨拶だったけど、さっきの攻撃はなかなかよかったわよ。あれで殺気を消せれば完璧だったのに――」
「うるさい! あんたの評価なんていちいちいらないわよ!」
「そう? 残念ね」
 リンは目を細めた。
「それで、今日は何の用なの? あなたのことだから情報が欲しいなんて言う事はないと思うけど……それとも本気で私を斬りに来たのかしら?」
「私はいつだって本気よ」
「……さっきの一撃が本気というなら、当面は斬られる心配はなさそうね」
「っ!!」
 安っぽい応酬についカッとなってしまいそうなリコだったが、何とか押さえた。
 いつもならここで目をぎらつかせて笑いながら突貫していくのだろうが、今日のリコは一味違った。
「ふふふふふ、そんな挑発に乗ると思ったら大間違いよ、リン!」
 サーベルを突きつけて高らかに宣言する。そんなリコを冷めた目で見つめるリン。
「今日はね、あんたのそのクールぶった表情を変えに来たのよ!」
「……へぇ、おもしろいじゃない」
「そんな顔も今のうちなんだから! とりあえず――」
 リコはサーベルを構えなおした。瞳の輝きが増す。
 これが一般人であれば今のリコに臆したかもしれないが、彼女の目の前に立っているのは完全無欠の情報屋。
 今のリコを見ても、ちっちゃい獣が尻尾を振ってじゃれ付こうとしている風にしか見えていない。
「――斬る!!!」


 芸がないわね、とリンは思った。どうやら先ほどの宣言をしたいが為の間だったらしい。
 それでも目の前の可愛い親友の成長ぶりには感心していた。
 手数もさることながら、攻撃のキレや一連の動作などは以前と比べると見違えるようだ。
 きっとコナミの船に乗せてもらっているせいもあるのだろう。彼の船に乗っていればいろいろとスリリングな体験が出来るだろうから。
 単にリコ自身がスリリングな状況を作り上げているような気もするが、まぁいい。
「どうしたのリコ? 私の表情を変えに来たんでしょう?」
 サーベルを避けながら声をかける。
 リコはそれに応えず、相手を捕らえようと必死に斬撃を繰り返す。
 しばらくの応酬が続く中で、リンの中にふとした疑問が浮かんできた。
 確かにリコは直情的で後先考えないタイプかもしれないが、何の根拠もなく先ほどのような宣言をするだろうか?
 ただの強がり?
 もしそうだとすれば、彼女ならあんな宣言抜きに斬りかかって来るに決まってる。
 たぶん何かあるのだ。たぶん。
 しかし今のところ、リコはいつもと同じように闇雲に斬りかかって来るだけだ。何も変わらない。
 猛進してきたリコの脇を潜り抜け、軽く足払いを見舞ってやった。
 すっころぶリコ。
「何がしたかったのかは知らないけれど、リコ。私も忙しいからもう終わりにしましょう」
 そう言った瞬間だった。
 リンは背後に何かを感じた。
 全く気づけなかった。
 振り返る間もなかった。
 体に強い衝撃。
 次の瞬間、リンは意識を失った。


「ん……」
 暗い世界からゆっくりと浮かび上がる。
 目を覚ますと、そこはリンの知らない部屋だった。
 どこにでもありそうな簡素な部屋。造りからして何処かのシャトルの中だと判断した。必要なだけの家具や雑貨が並ぶその部屋で、リンはベッドの上に寝転んでいた。
 ぼんやりとした頭で記憶を手繰り寄せる。
 たしかいつものようにリコが斬りかかって来て、それからいつものように軽くあしらって、そしていつものようにリコをすっころがしてさよならを告げた。
 ここまでは覚えている。
 それから今に至るまでの記憶がない。
 もう少し集中して思い出そうと試みる。
 少し間をおいて思い出したことがあった。たしか殴られて、突然体の力が抜けて「すまない」という声を聞いたような気がする。
 リンのよく知る人物の声だったような感じだったが、はっきりと思い出せなかった。
 そのとき、部屋のドアが開いた。瞬時に身構える。
「お、起きたわね」
 喜色満面の笑みを浮かべたリコだった。
「リコ、あなた――」
 目を細め、静かな怒りをリコへ向ける。
 だが続いて入ってきた人物を見た途端、リンの表情がさらに険しくなった。
「コナミ君?」
「リン、本当にすまない」
 リコの後ろからこそこそと部屋に入ってきたコナミは、リンから向けられる殺気にびくびくしながら謝った。
 そして先刻、意識を失う寸前に聞こえた声が記憶の中で再生される。
 リンは全て理解した。
 なるほど、この男なら自分を昏倒させることくらいは出来るかもしれない。
「そう……コナミ君だったのね」
「そゆこと。流石にリンを捕まえるのは難しいと思ったから、コナミに協力してもらったんだ。ちなみにここはコナミのシャトルね。今はドック入りしてるから誰もいないよ。整備員も皆出払ってるから。」
 リンはぎろりと視線を向けるが、コナミは目を逸らしたままだ。
 ただわかり易いほどに顔色が悪い。そしてだらだらと冷や汗をかいている。

「リコ、あなたには失望したわ。私を倒したい気持ちはわからないでもないけれど、まさかあなたが他人の手を借りるなんてね」
「違うわよ」
 少しだけむっとした表情でリコは答えた。
「それとこれとは別。今回はただあんたを捕まえたかっただけなの。だから、こんなことであんたに勝ったなんて微塵も思ってない」
「……それで、どういうつもりなの?」
「言ったでしょ? リンの表情をね……変えたいの、いろいろと」
 ふふふふ、と目をぎらつかせながら妖しく笑うリコ。
 リンは嫌な予感がした。多少の拷問程度で音を上げる彼女ではないが、リコがそんなことをやるとは考えにくい。
 じりじりと詰め寄るリコに警戒して、リンはできる範囲で身構えた。
 今、リンは万全に動ける状態ではない。彼女の腕は背後に回されており、両の親指には指錠がかけられていた。
 下手に引き離そうとすれば指に激痛が走るだろう。もっとも、本気になればこの程度の拘束など何の意味も持たないわけだが。
 そんなリンの鋭い視線にも全く臆せず、リコは心底楽しそうに笑っていた。
「そんなに警戒しなくてもいいよ。ちょっと気持ちよくなってもらうだけだから」
「気持ち、よく?」
「そ、私とコナミと一緒になって、リンがどんな顔するのかなーって」
 それがどんなニュアンスであるかを瞬時に悟ったリンは凍りついた。そしてゆっくりとコナミのほうを向く。
 コナミはゆっくりと首を振った。
「すまないリン……今の俺はリコには逆らえないんだ」
「残念ね、リン」
 恐怖と諦めを顔に張り付かせたコナミと、してやったりといった風のリコ。
 昨日唐突に「エッチのときのリンはどんな顔になるのか」というどうでもいい疑問に行き着いたリコは即これをコナミに相談。
 渋るコナミ。止まらないリコ。止めるコナミ。瞳をぎらつかせるリコ。コナミ陥落。
 シャトルを無人にするために朝から手回しに奔走。リン捕獲。
 そして今に至るというわけである。
 ちなみになぜ逆らえないかといえば、共に過ごした長い航海の間に握られた弱み、弱点、ウィークポイントその他諸々が全てリコの手の内にあるからだ。
 世間に名高いキャプテンコナミの実態である。
「……コナミ君。あなた、リコに手を出したのね?」
「それはあれだ。いろいろと一緒にいれば――」
「出したのね?」
「うっ……」
「あなたがこんなことに手を貸すなんて……私に手を出せばどうなるか、わかるでしょう?」
 背景にオーラを纏ったリンが三割増の恐怖を突きつける。
 心なしかコナミに伝う汗の量が増えているような気がした。今彼に向けられているプレッシャーは常人には耐え難いほどに重く、鋭かった。
 重い沈黙。

 そんな空気を破壊するかのように、リンは背後から抱きしめられた。リコだった。
 リコはリンの感触を味わいつつ、彼女の表情が怒りとそれ以上の戸惑いに揺れる様を楽しんでいた。
「な!? リコっ……やめなさい!」
「まだそんなこと言うんだ。いい加減諦めちゃえばいいのに」
「あなた……!!」
「ふふ……私知ってるんだ。リンがコナミのことどう思ってるか」
 リコはにやりと笑う。
「コナミは鈍すぎるから永遠に気づかないだろうけど」
 小さな声でそう言って、リンの服に手をかける。
 リンは表情を険しくして体を捩ったりしながら抵抗を試みたが、ほぼリコの腕の中にいる状態ではそれも叶わなかった。
 素肌が外気に晒される。リンは嫌がる素振りを見せはするものの、その光景は仲の良い女同士がじゃれあっているようにしか見えなかった。
 もっとも、非常に淫らな要素が加味されているので男には辛いシーンである。
 コナミはどうすることも出来ずに視線をさまよわせている。それでも次第に露になるリンの肢体に目が行くのは男の性としか言いようがない。
 ……なんとなく、リコのほうがこの状況にのめり込みつつあるように見えた。もしかするとSとかレズの気があったのかもしれない。
 たぶん今止めようものなら即アキカンの餌食になりそうだ。
 心の中でそう判断したコナミは多少の不安を覚えつつも、しばらくの間二人の女の絡み合いを観賞することにした。
 一方で、リンは戸惑っていた。
 自分自身に問いかける。
 どうしたのだろう? この状況に酔ってしまったのだろうか?
 形だけの抵抗。
 浴びせる言葉にも気迫がひとつ足りない。
 本当に嫌ならば、もっと本気で抵抗が出来るはず。
 両の手を塞いだだけでリンの全てを拘束することなど不可能だ。今の状態でも二人程度が相手ならあっという間に無力化できる。
 それをしないのはなぜだろうか。
 見知らぬ誰かならまだしも、こうして目の前にいる二人は顔見知り。
 片方は妹のように可愛がっていた女で、もう片方は……少なくとも人並み以上の好意を抱いていた男だ。
 知らない人間なら即ボコボコして宇宙に放り出せばいい。
 だがこの二人が相手だと、どうすればいいのか判断に迷う。それとも、コナミがいるから?
 思考がまとまらない。
 そんなリンの様子を見ていたリコが満足げに呟いた。
「よしよし。効いてるみたいだね」
「え?」
「わかんない? おクスリをちょっとね」
「なにを……」
「少し媚薬を……前にコナミが私に使ったから効果は実証済み。せっかくリンをいじめるチャンスなんだから念には念をってことで」
 リコは抵抗するリンから器用に服を剥いでいった。
 そうして最後、抵抗空しく、するすると薄布が白い脚から離れていく。
 くしゃくしゃの真っ白なシャツが腕に絡まっているのを除けば、もはやリンの体を覆うものは何もない。
 美しかった。少なくとも、その姿に完全に目を奪われていたコナミにはそうとしか映らなかった。
 視線を感じ、顔を赤らめたリンを後ろから抱きかかえた状態のリコはそっと耳打ちする。
「それに、3人でするのにも興味があったし」

 リコはリンの体にゆっくりと指を這わせた。首、背中、腹部、太もも。くすぐるような動きに、リンの体が震える。
 しかし声は上げなかった。
 そのかわり、こそばゆい感触を我慢する度に表情が崩れ落ちていく。
「へー、リンもそんな顔するんだ?」
「リコ、いい加減に、しないと……っ」
「ん〜? しないとなに? こんな格好で怒っても怖くないよ」
「くっ」
「ほらほら」
「うぁっ!?」
 突然胸を鷲掴みにされ、リンの声が跳ね上がった。
 リコとは比べ物にならないほどの豊満な乳房が、揉まれる度に形を変える。
 痛みはなかった。同じ女性同士加減がわかっていたのかもしれない。胸をいたぶるその手は止まることなく蠢き続ける。
「コナミー、持ってきたあれ取って」
 後々の恐怖のことなど知りもせず、美女二人が繰り広げる痴態に完全に目を奪われていたコナミは我に返った。
 いそいそと持ってきていた袋をリコに手渡す。
 リコは袋の中身をベッドにぶちまけた。中に入っていたのは多種多様なオモチャの数々。このためだけに用意してきた物だ。
「さてさて……こいつで逝きましょうか」
 手に取ったのはローターだった。
 スイッチを入れると低い振動音が鳴り響く。指の内で弄びながら、リコはそれをリンの胸に押し当てた。
「んっ!」
 小さなうめきが漏れた。その反応を楽しむように、リコはローターを動かしていった。
 乳首の周囲に弧を描いて、ゆっくりと下降して、やがてぴったりと閉じられた脚の分かれ目に到達した。
「ま、無駄なあがきだね」
 茂みの向こうめがけ、ローターを持つ指を突っ込んだ。
「や、あっ!」
「ほらほら。どんどん入ってくよ?」
「リ、リコ、やめ……っ!」
 既に熱く湿っていたそこにローターを押し当てる。蠢く無機質な機械は確実にリンの性感帯を刺激し、その肉体を解きほぐしていた。
 そしてリコの指は、リンを溶かそうと蠢いた。
「ここ、こんなになって」
 愛液で滲んだそこを重点的に攻めながら、リコはリンの首筋をぺろりと舐めた。
 その度にリンの身体は打ち震える。
 膣内に侵入した細い指が、遠慮もなしに暴れまわる。柔らかな肉が擦れるたびに鋭い快感が体を駆け巡る。
 声を抑えるのが辛かった。
 でもほんのささやかなプライド……リコの前ではしたない嬌声を上げることだけは拒み続けた。
 が、それもあっけなく崩壊してしまう。
「ほら、コナミも見てるよ?」
「え……?」
 リンはコナミのほうに目を向けた。
 彼と視線が絡まる――瞬間、リンの中で何かが弾けた。
「ぁあっ!!」
 目が合ったのがきっかけなのか、それとも声を上げたからか、はたまたリコの攻めが巧みだったからか――いずれにせよ、限界に達したリンは二人の前で絶頂を迎えた。
 僅かに仰け反った身体はすっかり熱くなっていた。
 余韻に震えるリンをそっとベッドに横たえ、リコは離れていく。

「可愛かったよ、リン」
 指を舐めつつリコは言った。
 そしてコナミの方へ振り向く。
「というわけで、ハイ。コナミの番だよ」
「なぁリコ、やっぱりやめたほうが――」
「今更なに言ってんの! だいたいコナミだって『普段と違う表情のリンを見るのは楽しい』って言ってたじゃない」
「いや、それはアカネと一緒にいるときのリンのことを言ってたのであって」
「い・い・か・ら! ケダモノになれ!」
 スパーンと服を引っぺがされ、ドンとベッドに突き出される。
 半ば無理やり押される形で、コナミは無防備に寝転がるリンの上に覆いかぶさった。
 腕の中に美しい裸身がある。上気した頬、濡れた瞳、汗ばむ肢体。どれもこれも初めて見るリンの姿。
 ごくりと生唾を飲む音が聞こえた気がした。
 視線を絡ませたまま、互いに硬直したまま、数秒が過ぎた。
 コナミの肉棒は先ほどのリンとリコのショーのせいでガチガチに硬くなっており、既にリンの秘所に滾るそれを押し当てていた。
 あとはほんの少し突き入れるだけで……最後の一線を越えてしまう。
「コナミ君」
 艶っぽい声で、けれども鋭い視線を向けつつリンは言った。
「後が怖いわよ」
 先ほどまでの乱れ様が嘘かと思えるほどの冷たい声。
 それが彼女の精一杯の虚勢だった。
 しかしコナミはもうためらわなかった。こんなに無防備なリンを目の前にして、理性を押し留めることなど不可能だった。
 引き返せる最後のラインが目の前にある。そのラインを、今、超えてしまった。
「っ……!」
 押し当てていたそれが、ゆっくりと膣に侵入していく。
 熱い熱いコナミ自身を感じたリンは、かすかに体を震わせた。内壁を擦る快感が背中伝いにぞくぞくと駆け上がってくる。
 なんとか悟られまいとするリンだったが、動き出されるとそれを保つのも難しくなってくる。
 犯されているとはいえ、相手はあのコナミなのだ。
 腕の自由を奪われているのがもどかしかった。
 ここまでくれば、ここまで来てしまえば、もうどうでもよかった。
 こうして繋がっているこの男と抱き合いたかった。
 コナミとなら――
「リン……リン!」
 不意に体をぐいと持ち上げられ、対面座位の格好になると、コナミはリンを抱き寄せ唇を重ねた。
 一瞬大きく目を見開いたリンだったが、すぐにそれに応える。足を彼の腰に絡ませ、さらに体を密着させる。
「んっ、ちゅ……っ」
 唇と唇の間からかすれた喘ぎ声が漏れた。触れ合うだけで快感が攻め上ってくる。
 もう二人ともタガが外れたように夢中になって、互いの肉体の全てを求め合っていた。

 そんな様子を見て頬を膨らませているのはリコである。
 確かにけしかけたのは自分だが……何か違う。おもしろくない。こういうのを期待していたわけではない。
 それに何より、二人の作り出す空気が気に食わなかった。まるで恋人同士がやるようなセックス。
 まるで自分が除け者にされたような感覚に陥り、リコの表情はだんだんと妖しい光を帯び始めていた。
 さてどうしようかと考えていると、手になにやら固い感触。さっきばら撒いたオモチャたちだ。
 ギラリとリコの目が輝いた。

 ふと気づくと、リンの背後にリコが迫っていた。
 当然リンにはリコが何をしているのか見えなかったし、もとより見るつもりもない。
 今はコナミを感じることに夢中だったからだ。
 そんな彼女に黒いオーラを纏わり付かせたまま這い寄るリコ。揺れるリンの背中にぴたりとくっついた。
「リン……」
 何の予告もなしに、手に持っていたバイブをリンのアナルに突き立てる。
 それに気づいたリンは一瞬目を白黒させ、慌てたように振り返った。が、リコは待ってあげるつもりはなかった。
「だめっ、あ、あぁああ!!」
 前をコナミに挿されたまま、空いたほうのもう一方の穴にバイブを挿し込まれる。
 たまらず悲鳴を上げてしまったことに気づいたリンは何とかして声を殺そうとした。
 しかし強烈な快感がその努力を無駄なものに変えようと次々に迫ってくる。
「リン?」
「やっ、あ、ぁん……っ!」
 リコの呼びかけには応じることが出来なかった。
 喘ぎを噛み殺すことに全神経を費やしていたからだ。
 前後から嬲られながら、リンはとめどなく溢れる快楽に翻弄されまいと必死だった。
「さっき薬を盛ったって言ったけど……あれウソなんだ」
 その言葉の意味が頭の中に浸透するまでに、少し時間がかかった。
「それなのにすっかりその気になっちゃってさ……大して抵抗しなかったし、本当はコナミに抱かれたかったんだよね?」
「ち、違――」
「違わないよ。だってリンはコナミが大好きだもん、ねっ!」
「ぁあっ!」
 激しく蹂躙され、リンの体が跳ね上がる。だがコナミのほうが彼女の身体を逃がしてはくれなかった。
 リコの攻め手も止まない。目の前の男から、背中にぴったりと張り付いた女から、交互に絶え間なく快楽の衝撃が与えられる。
 急速に限界が近づいてくるのがわかった。背中から這い上がってくる感覚を待ち焦がれているのが自分でもわかる。
「コナミ君……」
 目の前の男と視線が絡み合う。
 何も言わず、彼女の意を察したコナミはキスでその声を奪い、さらに激しく腰を揺り動かした。
 口内で交わされる唾液や息遣いが次第に荒くなっていく。互いに高みへ昇り詰めていく。
 先に限界を迎えたのはリンだった。
「あ、んっ! あぁ!」
「リンッ!!」
「私……もう、イ、イクッ……!」
 前と後ろ、同時に深く深く突き入れられたリンは押し留めていたものが一気に決壊した。
「っぁあああああ!!!」
 目の端に涙を浮かべ、今日一番の嬌声を響かせながら、リンはコナミの腕の中で二度目の絶頂を迎えた。
 絶頂を迎える間もずっとコナミの攻めは収まらなかった。そしてリンに続くように絶頂に達し、震える彼女の中に熱い体液をぶちまけた。
「あ、あぁ……」
 胎内でコナミの脈動が収まるまで、リンはずっと快楽に震えていた。
 それが収まると、ほぼ何も考えずに彼と唇を重ねた。抱きしめられる力が強くなった。
 先ほどまでの快楽よりも、こうして抱きしめられるほうがずっと心地よかった。

 息も絶え絶えの二人はベッドの上に倒れこんだ。
 リンの上に重なったコナミは尚彼女の体を抱きしめたまま、動けないでいる。
 目の焦点が戻ってきたリンが、すぐ隣にあるコナミのほうを向いた。
「コナミ君……」
 小さな小さな囁き声で、今しがた愛し合った男に何事かを耳打ちする。
 それを聞いたコナミの肉体がぞくりと震えた。リンに回された腕に力がこもる。
 そんな二人を頬を膨らませて見ていたリコは、乱暴にコナミを引き剥がすとその上に馬乗りになった。
「お、おい! リコ――」
「コナミ……まだまだたっぷり時間はあるんだからね? こんなんでへばってちゃダメだよ」
 それにまだ相手してもらってないし、と呟く彼女に対し、コナミはおびえた表情を見せるだけだった。
 そんな顔もまたリコの嗜虐心を煽るわけだが、ふと動きを止める。
 どうもコナミの視線がおかしい。
 リコに向けられているようで、そうでない。僅かにかみ合わないその視線の先はリコの背後だ。
 そのときリコの腕に何かがするりと絡みついた。
「へ?」
 それが何かを理解する間も無く、リコの腕はあっという間に捩じ上げられ、さらに動きを封じられた。
 具体的には後ろ手に指錠をかけられた。指に鈍い痛みが走り、驚き顔が僅かに歪む。
「え? なんで!?」
「リコ……さっきはよくも」
 低いトーンで響く怒りの声が聞こえた。
「リ、リン?」
「あなた……躾が足りないようね。ふふふふふ……」
 恐る恐る振り向いた先にはにっこりと微笑むリンがいた。指錠の跡が残る指をなぞりつつ、リコを、そしてコナミを見やる。
「なんで!? どうしてあれが外れるの!」
「さっきコナミ君に外してもらったから」
「コ・ナ・ミぃ! 何で裏切ってるのよ!」」
 食って掛かるリコに、コナミは泣きそうな表情でこう答えた。
「すまんリコ……今の俺はリンには逆らえないんだ」
 先ほどの耳打ち。あれが全てだった。
『外さなかったら――』
 あれを聞けばリンの言うことを聞かざるを得ない。
 リコは怖いがそれ以上に怖いのはリンだ。
 こうなることは最初からわかってた。勝てる相手じゃなかったのだ。捕まえてエッチしようなんて考え自体が自殺行為に等しかったのだ。
 さめざめと泣くコナミを見て、リコもようやく自分の立ち位置がわかってきたようだ。
 頬を冷や汗が伝う。
 不意に首根っこを掴まれ、リコはベッドの上に引き倒された。
 抵抗しようにも指錠のおかげで自由に動けない。もちろんリコにこんなものを外す術などない。
「あの、リン……ちょっと、落ち着いて、ね?」
「ふふふふ……時間はたっぷりある、そうでしょう?」
 相変わらず笑顔のままだったが、纏っているオーラは明らかに怒りのそれだった。完全にメーターが振り切っているようだ。
 いくら気持ちよかったといっても、それでチャラにしてしまうほどリンのプライドは安くない。
 リンは自由になった右手でリコの頬を愛おしそうになぞり、左手にはリコが用意していた玩具の中からもっとも凶悪そうなモノを選んで握り締めていた。
 リコは息を呑んだ。そういえば本気で怒ったリンって初めて見るなぁ、などと考える。
 さっきまでの優勢など全て消え失せていた。リコはこの現状がやばいと悟った。
「コナミ――」
「コナミ君。あなたは後から相手をしてあげるから……逃げようなんて思わないことね」
 助けを求めるリコの声は封じられた。そしてコナミはただただ首を縦に振るだけだった。
「ちょっ――ぅあっ?!」
 抵抗を試みようとしたリコの秘所に振動するバイブが押し当てられる。
 すでに出来上がっていたリコの体は否応なく反応してしまう。
 ゆっくりと、極太のそれが飲み込まれていく。
「んっ! あ、やぁっ!」
「さぁ、リコ……覚悟はいいわね?」
 その日、コナミのシャトルから悲鳴にも似た嬌声が延々と聞こえ続けたそうだが、それを聞く者は外には誰もいなかった。

管理人/副管理人のみ編集できます