冷蔵庫の唸るようなモーター音で眼が覚めた。
少し肌寒い。着崩れしていた寝巻きの肩を直す。
薄暗い部屋。天井の、古めかしくも美しい木目をぼーっと眺める。

「終わったんだな・・・」

今シーズンを持って、彼は球界を引退した。
本来の“小杉勇作”としては7年程度しか在籍していないのだが、“身体”の年齢はすでに33歳。
平均引退年齢が29歳前後のこの業界では、ほどほどの年齢であった。無理矢理に鍛えなおした野球能力も衰えを見せはじめ、
将来有望な若い選手たちが毎年参戦する中、もはや伝説と語られるモグラーズ日本一の立役者と呼ばれる内に潔く勇退することを決めた。

代名詞の闘気も気迫も、決して切れてはいなかったが、引き際は前々から弁えようと考えていた。
まだまだやれるだろう、という周囲の声もあったが、悔いはなかった。
コーチの道なども提言されたが、謹んで辞退した。・・・筋力コーチは関係ない。
もう充分、プロ野球は楽しんだ。そしていつかはきっぱりと区切りをつけなければならない世界だ。
やれること、やりたいこと、やるべきことは全てやったつもりだった。見えた限界から逃げたり、あきらめたりしたわけじゃない。
彼には、次に行くべき世界があった。

運命が入れ替わったあの日から昨日まで、奇跡、苦境、仲間、努力、勝利・・・。人生の色んなものが凝縮された、非常に濃い数年間だった。
思い出せば、才能に恵まれ高校、大学、そしてプロとスター選手として光の下を突き進んでいたあの日。
中身の入れ代わりなど、誰が信じるだろう。自分自身、それを真剣に考えるはじめると今でも脳みそが裏返ってしまうような感覚に陥る。
だからもう彼は考えない。入れ物が変わっても俺は俺だ。これからも、これまでも。俺の人生、俺の目指すようにさせてもらう。
名前は“小波”でも、在り方は変わらない。自分のできることをし、したいことをし、居たい所で生きて行く。
“小杉”の奴は球団の筆頭選手としての立場を固持し続けている。それも自由だ。あいつはあの身体でやれることをやればいい。
・・・結局あれから対戦することは無かったが、それはそれでよかったのかもしれない。マンガのようなことは何度も起きないものだ。

仲間達からの最後のお別れ会も終り、立つ鳥後を濁さず。全てをきっちりと終わらせた。
彼の野球人生の陽は沈んだ。今日から、第二の人生が始まる。
第二の人生。いや、小杉から小波に変わったとき、それが第二の人生のはじまりだったか。
正しくは第三の人生が始まる。
かつて野球を生きがいとしていた彼が目指す、全く新しい日々。新たな陽が昇り始める。

「・・・そして始まる、か」

「・・・すー、すー・・・ん、小波、さん?」
「ごめん、起こしちゃったね」
「ん・・・いえ・・・どうか、したんですか・・・?」

半分以上寝ているのか、眼を閉じたまま彼女は問う。

「・・・んーん。・・・さ、寝なおそうかな。明日からは、もう“お客さん”じゃないからね」
「・・・ふふ、・・・明日は、早いですよ。・・・・・・すー・・・」

すぐ隣で眠る、愛しい女性の柔らかな寝息。
暗がりでもわかる、ふわりとした鮮やかな朱髪。
秋を思い起こさせる、どこか儚げな色。でも、炎のような熱情と、朝焼けような美しさも併せ持っている。

第三の夜明けは妻とともに。向かう世界は――


【HOTEL】


「こんばんはー」
「あぁ、酒屋さん、こんばんは」
「あぁー、だんなさん。いんやーすんません、遅くなって。ご注文のビールと地酒、20ケースですー」

あいさつもそこそこ、手慣れた様子でワゴンに積まれた酒のケースを、てきぱき倉庫に運び込む壮年の男。
昔からこの旅館と取引をしている地元近所の酒屋だ。
食料品の在庫の確認をしていた小波も、その手を止め配達車からケースを運び出す。
ありゃすんません、とせわしく往復しながら酒屋。小波もいえいえ、と荷降ろしを手伝う。

「だいぶ慣れましたー?」
「はは、あの合戦みたいな夏とシルバー越えられたら、誰でも慣れますよ」
「なはは。今年のは特に忙しかったっすからねー。我々も嬉しい悲鳴って奴」
「まーいやでも、だんなさん、けっこー覚え早いとおもいますよ。さすがMVP」

軽い世間話に笑いながら伝票を切る。

「ほい、それじゃ・・・夜分にすんませんでした、毎度」
「はいご苦労さんです」
「はいー。失礼します毎度ー」

ブロロ、と少しくたびれたエンジン音を立てて、配達のワゴンが去る。見送り、ふぅと一息。

「酒屋さん・・・ですか?」

ふいに後ろから声。振り向くと妻の姿。白のパジャマの上に黄色いカーディガンを着、倉庫と旅館通路のドアに手を掛け立っている。
大学卒業と同時に兼ねてから交際をしていた小波と結婚し、そのまま旅館の若女将として働き始めた彼女。
大学では経営マネージメントを学び、どうにか次期女将として旅館を引っ張っていけるよう日々精力的に努力をしている彼女だが、
この時の彼女はどこか切なそうな表情をしていた。

「ああ、うん、注文のやつ持って来てくれた」
「そうですか。・・・あ、小波さん。あとは私がやりますから、そろそろ休んだらどうですか?従業員さんもみんな帰られましたし」
「んー?いや、いいよ。もうチェック全部終わるから」

在庫表と冷蔵庫を交互ににらみながら、鉛筆の頭についている消しゴムを顎にぺちぺち叩きつける。

「明日は久しぶりの休館日だしね。任された仕事はきっちり終わらせておくよ。暇なうちに勉強勉強」

ぴっぴっぴっとテンポ良く鉛筆をはね、在庫表にレ点を入れる。

「・・・・・・小波さん・・・。あの、明日、朝のお掃除終わった後・・・お昼からどこか、外に遊びに行きませんか?」

すこし低い、不安げなトーン。

「ん、遊びに?んー、うん。いいね、いこっか。どこ行く?」
「車でちょっと遠くまで、適当に。・・・そうだ、紅葉見に、ドライブがしたいなって。明日は晴れるみたいですし」
「うん・・・?うん。じゃ、明日はお昼からドライブ、行こうか」

最後に表をもう一度見直して、よしオッケ、ともらす。
そんな小波を、美咲はその大きな瞳を少し濡らして見ていた。


・・・・・・・・・・・・・・


「おぉーさすが。ここまできたら紅葉も見事なもんだね」
「本当、地元じゃまだまだなのに。すごく綺麗・・・」

旅館から車で1時間半ほど飛ばした先の、紅葉が有名な山中の公園。
平日のため人はまばらだった。老夫婦が数組遠くに見えるぐらいだ。が、旅行雑誌に掲載されているままの絶景が広がっている。

「鮮やかだねぇ。華やいでいるというか、ぱぁって燃えるみたい」
「華やか・・・そうですね・・・」

柔らかい風に吹かれ、ひらひら舞い踊る紅い楓。小波と美咲はベンチに並んで座り、それを魅入っている。
青い空・白い雲をバックに広がる、豪華絢爛の世界。誰もが見惚れ、誰もが息を呑む美しい情景。
だが、その眩しい世界を前に、ふいに彼女の顔が曇る。

「・・・小波さん」
「んー?」
「小波さんは、今、幸せですか?」
「? また・・・突然だね」
「小波さんは、・・・満たされていますか?不安はないですか?今・・・私といて」

ざわ、と強い風が吹く。紅葉と彼女の朱い髪が風に遊ばれる。だが、そんな真赤な世界の中で、彼女の瞳は小波だけを映していた。

「旅館の・・・ことかな?うん、すごく充実しているよ。なにより美咲ちゃんと仕事できるし」
「・・・嘘。そんなことはないでしょう」
「・・・美咲ちゃん?」

依然、彼女は小波をまっすぐ見つめる。少し瞬きが多い。質感のある大きな雲が、優しく降り注いでいた陽光を隠して
地上に影を広げる。

「プロ野球の、それも人気選手だったのに、辞めて、あんな田舎の、古い旅館なんて継ぐことになって・・・」
「今の・・・これからの旅館業は、この紅葉のように美しい仕事だとは、とてもじゃないけど言えません」
「正直、大変すぎて嫌になる人も多い仕事です。将来的にも、決して安定が約束されている業種ではないし・・・」

「うん」

彼女の眉は八の字に垂れ、少し瞳が揺らいでいる。冷たい風が彼女の柔らかい髪をより激しく揺さぶる。

「うちの旅館も、今はまだお母さんがしっかりしているからいいですけど、いずれは私が女将になって、取り仕切るようになって」
「・・・昨日、お母さんといろいろ話したんです。うちの旅館の将来のこと。お母さんは前に自分が倒れたのをずいぶん心配していて」
「・・・これから、もっと旅館に厳しい時代が来る。その中で、私はどう切り盛りしていくのか、そういう話でした」
「いくら老舗だといっても、不況に煽られて暖簾をおろす所も少なくありません」

「・・・後悔、していませんか?私と、一緒になってしまったこと」

「全然」

彼女の顔から眼を逸らし、紅く輝く山林を見つめなおす。

「なんていうか・・・もう、俺くらいになると、嫌になるとか大変だとか、そういうのまるで問題にならないんだよね」

「そんな・・・」

「昔からピンチや逆境で燃えるほうなんだよ、俺。あと、粘り強いし。プロやってたときも俺の一打で逆転勝ち多かったし」
「確かに、やること多すぎて自分でも何やってるかわからないとき結構あるけど」
「気合でぱぱーっと、気づいたらどうにかしちゃってるんだよな」

「でも!」

「デモも一揆もなし。俺は美咲ちゃんとあの旅館で働きたいから、いい加減、潮時になってきてた野球、辞めたんだ」
「・・・旅館業を地味だとか思ったこと無いよ。日本らしい、この景色みたいに美しい仕事だと思う」
「それに、美咲ちゃんならできるよ。まだ23歳なのに、もうほとんどお義母さんと変わらない位働けてるじゃないか」

「・・・」

「大丈夫、なんとかなるって。お義母さんだって、従業員さんだって、俺だっているんだから」
「なにも美咲ちゃん一人で全部背負おうとしなくていいんだよ。チームプレイチームプレイ。向かい風は皆でなんとかするもんさ」

彼女のほうには向かず、秋風にゆれる紅を眺めながら云う。

「・・・そう・・・でしょうか・・・。・・・・・・。そう、なのかな。・・・・・・。・・・そう、ですね。きっと、きっと大丈夫ですよね」

そうそう、と変わらずの態度で相槌を打つ小波。

「・・・なんか、やっぱり、小波さんと結婚してよかった。すごく、勇気でました」

「うん、良かった。俺も、もっともっと仕事勉強して、美咲ちゃんの力になるから」
「・・・まぁ、まずは見習いを卒業して、いい加減叱られないようにしないといけないけど」

遠い眼をする。今朝も朝一で、総務部のチーフにお説教をくらったばかりだった。
(・・・ハァ、しかし途中からプロ野球時代の成績の話になるのは勘弁して欲しいなぁ。熱狂的モグラーズファンとか、頭が痛い・・・)

「ふふ、はい。これからも、ずっと、ずっとよろしくお願いしますね。・・・それにしても」
「?」
「デモも一揆もって、小波さん、やっぱりもうおじさんですね」
「・・・そう・・・でしょうか・・・」

自然に出た言い回しだったが、指摘され少しひくつく。
身体的には33歳と23歳でまるまる10歳離れているものの、精神で言えば本来は5歳しか離れていないはず。
気持ちはまだ20台のつもりだったのに・・・と少し落ち込む小波。いろいろ有りすぎてやっぱり心も老け込んだのかな、とため息。

「うふふ、ごめんなさい。あぁ、そんな、落ち込まないでくださいよ、小波さん。・・・頼りにしてますから」

彼女はそっと身体を寄せ、小波の肩に頭を預ける。
そして彼と一緒に、瞳に焼きつくような華やかに広がる景色を見つめていた。

・・・・・・・・・・・・

「さーて、帰りますか。・・・まだちょっと早いかな?久々にボーリングでもやって帰る?」

車の運転席でうーんと背伸びし、助手席の美咲に問う。

「そうですね・・・。・・・。あ、小波さん、あれ見てください」
「ん?」

窓のほうを向いているであろう美咲の方向に顔を向ける、とその瞬間、唇に柔らかい感触。
いや、その前に顔の目前に美咲の顔がある。

「・・・」
「・・・」

5秒。唇をくっつけられる。小波は眼を見開き、瞼を閉じてキスをしてきた美咲を見つめる。

「・・・ふぅ」

唇を離す。閉じていた瞼を開き、光るように濡れた大きな瞳で小波を見つめ返す。


「・・・美咲ちゃん」
「・・・今日は、せっかく、久々のデートなんですから・・・」

顔を紅葉を散らしたように紅潮させ、もじ、っと握った手を自分のふくよかな胸に当てる。
キスの感触と彼女のいじらしい仕草が、小波の胸に熱を帯びた唾液を落とす。そして一瞬、深く呼吸をする。

「・・・じゃあ、どっか、休憩して帰ろっか」

・・・はい、と彼女は応える。そういや来る途中、山道に入る手前にホテルがあったなと、小波は車のエンジンをかけながら思い出す。
一瞬カーセックスという単語もよぎったが、不倫してるでもあるまいしと振り払った。
健全にデートして帰ろうとしていた矢先、ふいにお誘いを受けたことで、小波はかなりムラついていた。
夫婦の営みなんて、夏に入る前に一度か二度したのが最後だったか。余暇はほとんど勉強に費やしてるし、夫婦とはいえ流石に10歳下の

若女将を襲いまくるのもアレなので自制していた。喉が渇く季節でも無いのに、再び唾を飲み込む。アクセルを踏む力を意識的に抑える。
依然広がる紅い世界が、なんとも気持ちを昂ぶらせていった。


・・・・・・・・・


「旅館の温泉に、慣れちゃったら、他のホテルのお風呂とか、なんか、普通に、見えるね。ここも、けっこう、広いのに」
「そうですか・・・ン、うちは、温泉が、名物、です、から、ね・・・」

国道沿いにあるラブホテル。少し古びた外装の割りに、内装はなかなか小綺麗で近代的だった。
その部屋に備え付けられている浴室内で、二人は禊ぎも早々に情交を始めていた。
小波は湯を張った大き目の湯船のフチに半身浴のように座り、美咲は彼に向かい合うようにして浴槽の中で膝立ち、彼のペニスを
乳房で挟み込んで刺激している。湯船から沸き立つ白い湯気が、二人の沸きあがる情愛を露にしているようだった。

「美咲ちゃんは、何度見ても、ほんと、おっきいよね」
「ん、ん、そうですか?これ、着物着てるとなかなか苦しいんですよ。帯で、ぎゅってなるから」

豊かな乳房を両手で挟み、そのまま上半身を揺さぶる。亀頭をモグラたたきのマトのように乳房に埋もれたり
突き出させたりさせて刺激させる。性器のそれとはまた一味違う強かな温もり。

「はぁ、気持ちいい・・・久々だね、セックスするの。夏からずっと、忙しかったから・・・」

美咲の濡れてしっとりと纏まった髪を撫でながらつぶやく。

「うふ、来週あたりから、旅館のほうでも紅葉シーズンに、なります。またちょっと、忙しくなっちゃいますよ」
「あぁ、日帰りの、お客さんが、増えるんだよね・・・。うはぁ、やめよっか、お仕事の話は」
「そうですね・・・今は、今ぐらいはえっちだけしてましょう。はむ」


さらに“頭”を大きく出させたら、それに口を近づけ、棒付きキャンディーのように咥え込んだり、舌でペロペロとねぶる。
乳房に強く挟み込まれて、例え逃げたくてもそうそう逃げられない性的な束縛。ペニスの胴体部分は乳房の柔らかい肉感に包まれ、
亀頭部分は熱い唾液とざらついた舌で弄くり回されている。久々の性交にしてはいきなりすぎる快感。
ちゅぷちゅぷという彼女の口の音と、じゃぷじゃぷという身体を揺さぶる水音が蒸し暑い浴槽内を反響していた。
湯船につかっての激しい運動のためか、美咲の額からは珠汗がぼつぼつ浮き出ている。仕事中に浮かべる汗とは違う、艶やかな水分。

「ぷふぅ、んは、小波さん、先っぽ、マシュマロみたいに柔らかいですね」

ペニスから性的な匂いを感じたのか、半目で色っぽく吐息。それが亀頭にかかり、肉的な刺激とは一味違う威力を発揮する。

「あぁ、美咲ちゃん、ごめん、気持ちよくて、もう、そろそろ」
「ン、はぁ、ふぁ、じゃあ、最後の仕上げですね」

そういいながら、もごもご口の中を動かす。そして亀頭に口を近づけ、どろりと粘ついた唾液を蜜のようにかけ始める。
再び運動を開始。唾液がローションのようになって乳房とペニスの接触感をさらに滑らかにする。
ぶちゅぶちゅと激しい音を鳴らしながらしごかれて、とうとう真赤になっていたペニスがびくっと震える。

「うぉ、おー、うはぁー・・・。あ、ごめん、顔にも・・・とんじゃった」
「きゃ、ん、んふ、すごい、久しぶりな、感じ」
「ほんと、最後にやってから、全然出してないや、そういや」
「濃い色・・・。すみません、なかなか、えっちできなくて」

湯船に落ちて固形物のように浮かんでいる精液。それを手ですくい、指で煎ずるようにさすりながら言う。
顔も乳房もべとべとになっているのだが、特に気にする様子も無い。掌で泡立つ精液を見つめながら、ただうっとりとしている。

「・・・もっかい、身体洗いっこしようか。美咲ちゃんも汗かいちゃったし、綺麗にしないと」
「ん・・・ふふ、どうせ、また汗かいちゃいますよ」
「あはは、違いない。後で、帰る前にもう一回入らないといけないね」

彼女の腋に手を入れて立ち上がらせる。そして気持ちよかったよ、とキス。精液で汚れているのも気にせずついばむ。
とてもじゃないが旅館の客・・・いや自分以外には絶対見せられない状態の彼女を独り占め。彼女も久々の行為にかなり積極的だ。
早く一人前になろうと、日々を精進に費やすのもいいが、たまには息抜き・・・もといガス抜きもするべきだな、と小波は思った。

・・・・・・・・・

「それっ」
「きゃっ、小波さん、もう・・・んっ」

キングサイズのベッドに、風呂上りのまま――全裸の美咲を仰向けに寝かせ、飛びかかるように抱きつく小波。
そのまま彼女を抱え込むようにしてキスをはじめる。時間をとっての二人きりは本当に久しぶりだ。ここぞとばかりに互いを求め合う。
舌を舌で、れろれろと派手に音を立てて舐めあったり、唇同士を挟みあったり、口内を満遍なく弄りあったり。
二人で、知りうる限り、思いつく限りの種類のキスを交わす。浴槽で充分に昂まった気分がさらに昂揚していく。

「美咲ちゃん、かわいい」
「ん・・・小波さん・・・二人で、こういうことしてるとき、んちゅ、くらいは、呼び捨てしてください・・・」
「んあぁ・・・わかった・・・みさ、き、美咲」

全身運動をするような荒い息をしながらのキス。重ねた身体をキスをするたびによじって、胸や性器を摩擦させる。
長く続けていたらそれだけでオーガズムまで達してしまえそうだった。

「んはぁ、あぁ、小波さんたら、先っちょから、ちょっとでちゃってるみたい・・・」

太ももに当たった亀頭からぬめりを感じる。汗とは違う液体がへばりついている。

「ふぅ、そういう美咲だって」

手を彼女の股に潜り込ませ、ヴァギナを人差し指と中指でじっとりと撫ぜあげる。粘度のある透明の液体がその指にこびりつく。
ほら、と美咲に見せる。はさみのように二本の指を動かすと、ねちゃねちゃという音と共に粘液が糸を引く。
今度は自分の体液を見て、うっとりしながらため息を漏らす。

「はぁ・・ぐっしょり・・・濡れちゃってますね・・・。・・・小波さん、そ、その」
「ん、うん、挿れよっか。俺も、やばいくらい挿れたい」

そういうと小波は彼女の右足を持ち上げ、ヴァギナがぱくりと開くようにし、そのまま互いの股間がクロスするような体勢に移る。
火のような朱い陰毛の下に、先ほどの紅葉を思い出させる真赤な膣。出逢った時からちょっと地味目な印象の彼女だが、
“女性”としてはかなり派手であった。巨乳に名器と、なかなか強力なコンビネーションを標準装備している。
その淫らな性器をまじまじと見られ、彼女自身の興奮もさらに昂ぶる。

「じゃあ、挿れるよ、美咲」
「・・・はい、お願い、します」

ペニスの首を掴み、狙いを定めるようにヴァギナにあてがう。そして挿入。
ずにゅ、という音と共に亀頭に粘ついた刺激が襲い掛かる。突き進めると膣道のヒダヒダがペニス本体を強くこする。
強烈な摩擦。小波の下半身は握り締められるような快感に包まれる。

「はぁああー・・・。こんなに気持ちよかったっけ?美咲のナカ・・・すっごい締め付け」
「うふふ、小波さんもすっごく、大きいですね。さっきあんなに出したのに。お腹の中、きつきつですよ?」
「きつい?・・・じゃ、抜いちゃお」

ずるっ、と腰を引く。同時に後退するペニスを離すまいと吸い付くヒダを感じる。あぁん、と残念そうによがる美咲。

「嘘嘘。それっ」

カリ首が見えるくらいまで引いた後、再び腰を押し付けて挿入感を貪る。美咲も嬌声をあげて強烈な異物感を貪る。
そして次第に小波の腰の動きも激しくなっていき、激しい運動に変わる。腰をパンパンと叩きつけられ、
彼女のたわわな乳房も激しく揺れだす。より快感を感じたいのか、美咲は小波の空いている右手を取り、自分の乳房に
持って行く。促されるまま彼女の乳房を揉みしだく小波。元野球選手の大きな手でも掴みきれない乳房。
握力のトレーニングのように大きく力強い動きでその弾力を楽しむ。まさしく肉欲。性欲よりもさらに淫らなものに没頭していた。

「ううぅ、美咲、美咲、美咲ぃ!」
「はぁあん、あん、あ、ああんっ、もとっ、もっと!小波さんっ、もっとぉ!」

要望に答えるように、さらに強く激しく腰を振る。口を目いっぱい開いて喘ぐ美咲。淫乱すぎる表情に小波は思わず目をぐっと伏せる。
しっかりと見てしまうとそれだけで達してしまいそうだからだ。・・・結局は遅いか早いかなのだが、一回でも多く腰を振りたかった。

「もうだめっ、いくっ、いくっ!小波さんっ、わたしっ」
「あぁーっ俺も、もう、だめだっ、でるっだすよっ!」

彼女の絶頂とほぼ同時に小波も達し、射精する。彼女の胎内に脈動しながら吐き出される精。
ペニスに力を入れているわけでも無いのに、びん、びんと跳ね上がる。その都度、彼女の膣内に精液が放たれている。

「うぉー・・・はぁ、でた・・・。ははは、ナカに、出しちゃったね」
「はぁー、はぁー、はぁー」

放心した眼で息を整える美咲。射精を終えにゅるんとペニスを引き抜く。同時にこぽこぽと白い液体が膣口からとろけ出る。
彼女の上げられていた足を下ろし、汗まみれになっている彼女を視下ろす。汗でテラテラと光る、大きな乳房や腹部が
ひたすら肉感的で美しい。これほどまでにエロティックな女体はそのテの写真集でも早々無い。

「美咲、大丈夫?」
「あぁー・・・、はぁ、ふぅ、気持ち、よかった・・・。小波さん・・・気持ち、よかった・・・」
「美咲・・・満足、しちゃった?」

彼女の上げていたほうの太ももに手を当て優しく滑らせる。

「え・・・?んー・・・。まだ、時間、大丈夫ですよね・・・」
「はは、まだ、する?」
「いいですか・・・?じゃ、次は、ちがうので、したいです・・・」

荒い呼吸で上下するお腹に手を当てさする。そして光悦の表情で再び行為を懇願する美咲。
視覚的にも聴覚的にも、とにかく扇情的だった。豊満な乳房を揉みこもうか、汗ばんだ身体中を舐めるようにキスしようか、
いやそれとも先程のように口でしてもらおうか。多数の選択肢が煮えるような小波の頭の中を巡る。
そういえば、風呂場で彼女の肉体をヌルヌルと物色した際、彼女の臀部が一段際立つように官能的であった。
乳房も唇も陰部も一応に楽しんだし、次はそこを楽しもうと決める。

「じゃ、美咲、四つんばいになろっか。俺、美咲のお尻揉みたい」
「んふ・・・ばっく・・・ですか?いいですよ・・・」

ままならぬ呼吸のまま、身体を転がしてうつぶせになり、そのまま膝を立てて小波のほうに尻を突き出す体勢をとる。
小波は、艶かしく突き出されたまんまるい尻に手を当て、乳房にしたように揉み込む。
体重を少しかけて、身体全体を使うように、波状的な動きで楽しむ。張りのある尻肉が圧力に敏感に反応し、その弾力を誇示しかえす。

「はぁぁ、美咲のお尻、めっちゃくちゃ、エロいよね・・・。変なお客さんに気をつけないと」
「ぅん、んもう、私のお尻なんて好きになって触る人、小波さんくらいですよ。・・・本当、おじさんなんですから」

シーツに顔を突っ伏して云う。23歳とは思えない、官能的な臀部。顔をうずめたり頬ずりしてみたりしたいが、流石に変態すぎるか。
親指で尻肉の割れを引き伸ばして、精液で白く汚れた膣や肛門を丸見えにしてみたり、そのまま指でそれらを
優しくこちょこちょ掻いてみたりする。そうやって揉み、弄るごとに、萎えだしていたペニスが段階を踏むように硬くなっていく。


「美咲・・・、また、いけるよ。また、硬くなった」
「はぁ、いけそうです?ん、ふ、じゃ、また、お願いします」

再び硬化したペニスを彼女の性器にあてがう。巣穴を探す蛇のような動きで、くにくにと出入り口をつつく。

「ん、腰の位置、これくらいでいいですか?久しぶりだから・・・按配が」
「うん、このくらいでちょうどいいよ」
「んあ、あそこ、指で、広げたほうが、いいです?」
「あは、大丈夫。ぐちゅぐちゅになってるから。どんなモノだってつるんて、入っちゃう、よっ」

標準を定め、そのまま一気に滑り込ませる。精液と愛液でずぶずぶになっている膣道が
先ほどの刺激とはまた一味違う、滑らかな摩擦で小波を包む。そして早速激しめのストロークでピストンをしはじめる。
液体まみれの場所を力強く摩擦。当然、水音もぐちゅぐちゅと騒がしい。
ペニスのカリ首にひっかかって、先ほど出した精液が掻きだされていく。これから出すのと古い精とを交換をするといわんばかりだ。

「うぅ、気持ちいい、美咲、美咲、やばい、よぉ」
「あん、あん、あぁ、あ、あん、私も、気持、ち、いいですよ、小波さん、お腹、裏、返っちゃいそう」

少し小波のほうを振り返り云う。とろんとした大きな眼が可愛くもいやらしかった。小波はたまらず彼女の背中にのしかかる。
そして後ろから抱きしめるようにし、彼女の横髪を掻き分けてキスをする。美咲も首を限界まで後ろに回し、ちゅ、ちゅと唇を合わせる。

「んは、んちゅ、ちゅる、ちゅ、ちゅ、むちゅ、こなみさん、ちゅ」

キスを続けながら、小波は四足獣の交尾のように腰を振る。腰が尻にぶつかり、先程のとは段違いにはっきりした打撃音が部屋に響く。
抱きついた手で乳房を再び包み、腰を揉み、腹をさする。キスもピストンも愛撫も一度にこなし、性の全てを一口に楽しむ。
先ほどの射精でペニスの感覚が少し麻痺しているのか、がむしゃらといっていいほどの激しい性運動。
ペニスだけではない、脳みそも心臓も、麻酔薬を打たれたようにビリビリしびれている。きっと彼女も同じ。
二人の動きに合わせ、ベッドも激しく振動している。断続的な、ギシギシという軋んだ音。

「はぁー、あぁ、あん、ん、ふぅ、ふぅ」

美咲が瞳に少し涙を浮かべて小波の顔を見つめる。開かれた口の上下を唾液の糸がうっすら繋ぎ、そのまま熱い息を犬のように発して
これでもかというほどに小波の劣情を煽る。小波もそれに応えるように、結合部を摩擦でオーバーヒートさせるがごとく運動量を上げる。
腰を振るというよりも、もはやただ震動させているといったほうが妥当だった。一気にラストスパートをかける。

「うぉ、みさき、でるっ、でるっ、また、でるよっ、みさきっ」
「んぁぁ、ふぅ、ふぅあ、こな、こな、さん、だしてっ、だしてっいちばん、おくでっ!だしてっ!いっぱいっ!」

限界まで腰を押し付ける。尻肉が邪魔してペニス自体は最奥までとは行かなかったが、勢いよく飛び出した精液は最奥まで届いただろう。
彼女を抱きしめたまま、共にゆっくりと横に倒れ、射精を続ける。激しく長い有酸素運動によって、二人とも眼を開けているのに
視点は定まっていない。ぼやけた視線の先にある時計は、すでに夕暮れの時刻をさしていた。あぁ、もう帰らないと遅くなる。
そんな思考が脳裏によぎるが、行動を起こす気にはなれない。だが帰る前にはシャワーも浴びないと。
・・・いや、その前にこの余韻をじっくり味わわなければもったいない。
全く同じことを、普段時間に厳しい美咲も放心しながら考えていた。どうやら帰路につくまで、まだ一時間はかかるようだ。
自分の身体を抱く大きな手。その彼の左手薬指に付けられている結婚指輪に、自分の持つ対となる指輪をそっと合わせる。

「小波さん・・・あの、ぎゅって抱いて・・・キス、ください」
「うん、こっち・・・向ける?」
「ん、はい・・・うん、しょ・・・」
「美咲。明日からまたがんばろうね。ちゅ」

身体をぴったりとくっつけてまたキス。彼女の朱色の髪を撫でてあげる。明日からはまた旅館を慌しく走り回る日々。
もうすぐ晩秋の行楽シーズンが始まる。さぁいつも以上に本腰を入れないと。そして紅葉が終わればすぐ冬休み、温泉旅館最大の繁忙期。
次にこういう風に甘える彼女を見られるのは、正月休みが完全に終わった頃になるのだろうか。
・・・今は時間が許す限り、この彼女を抱きしめていよう。
朝焼けや紅葉のように、風雅に華やぐ彼女を、小波は優しく包み込んだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「長旅、お疲れ様です。ようこそ、お待ちしておりました」
『お待ちしておりました』

美咲の挨拶を皮切りに仲居さんたちが、ぞろぞろとバスから降りてくるお客さんに挨拶していく。
ああ、とうとう来ちゃった慰安旅行の第一波。
何度聞いても息を呑む、正直なところ、日本一決定戦の“プレイボール”より緊張するその掛け声。
夕飯、宴会の段取りは大丈夫かな。うーん、厨房を見てこようか。ううむ、武者震い。

(ヴー、ヴー)

「わ、はい、小波です」
『あ、だんなさん!?ちょっと今日のドンデンについて確認があるんです!悪いけど宴会場すぐ来れる!?』
「わ、わかった今行きます」

(ヴー、ヴー)

「はいっ」
『あ、安達さんっ!?今日の女子大の12名さんなんだけど、道が雪で遅れるかも知れないって電話がさっきフロントに』
「わ、わかりました、なんとかします(←?)!」

(ヴー、ヴー)

「は、はいぃ!」
『お、だんなさん?厨房だけど。今構わんか?ちょっと明日の仕入れのことなんじゃけどな・・・』
「う、うおおおおお!」
『おぅ!?だんなさん!?どうしたん!?』

(あ、女将さんアレ・・・。だんなさんがなんかタイヘン・・・)
(・・・ふふ、あれはタイヘンなようで大丈夫なんですよ。さ、私達はお客様をお部屋にご案内しましょう・・・)

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