どうして、こんな所に私は居るのだろう。
今になってそんな考えが、砂嵐のようにぼやけ霞む脳内を巡る。

先程の銃声が耳鳴りとなって、頭の中で反響し続けている。巨大な鐘の中に閉じ込められた感覚だった。
そして何より息苦しい。痛みはほとんど無く、ただただ苦しい。耳鳴りと相まって、視界が墨流しのようにドロドロと蠢く。
重い呼吸のたびに、腹部から噴出る血。廃油を思い出させる赤黒い流血は、私の汚れた業の体現に思えた。

銃弾とともに撃ち込まれた猛毒が、私の身体を急速な勢いで蝕んでいくのが解る。
見えない手が、私の喉笛を握りつぶそうとするのだ。次いでその手は、私の身体の中から内臓という内臓を握りつぶそうとする。
細胞全てがペシャンコになるストレスを感じ、それを耐え凌ごうと、私は無意識に瞼を閉じてしまった。


・・・こうなっては・・・もう二度と、瞼を開くことは出来なくなると、気付いていたはずなのに。


運転席の彼女が何かを呟いた気がした。
だが私の耳では、その音を感じることはすでに叶わず・・・彼女の思いは理解できない。
残念だ・・・きっと、私が聞ける、最後の他人の声だったのだろうに。
例え恨み言でも、よかったのに・・・また心残りが出来てしまったか。

・・・とうとう、光も、音も、無くしてしまった。

いや、まだだ。
急ぐ車の振動と、火矢のように流れ飛ぶ街灯の明かりが、無機物のようになっていく私の身体に、かすかな刺激を与えてくれていた。
普段ならば、なんということもないその二つは、今の私にとって、言うならば神が与えてくれた、慈愛に満ちた光と音だった。
なんとも心地よい・・・とまでは言わないが、少し・・・、ほんの少しだけ、安らぎを感じる。
まだ、生きているということに、ほんの少しだけ安らぎを感じられる。
安らぎを感じるなど、久々だ。

いつからだろうか。私の心から、安らぎというものが消えてしまったのは。

・・・・・・いつ?・・・そもそも私に、心安らかな時なんてあったか?
とっさに思い返してみても、ソレは見つからない。その辺りに転がっていた、ここ最近の記憶を漁って見たが、まるで見つからない。
思い出すことが出来たのは・・・、焼けただれた瓦礫のような、殺伐とした記憶しか、ない。

私には・・・・・・まさか、元より無かったのだろうか?いいや、そんなはず無い。私にだって、あるはずだ。
修羅と化した私にだって、死に際に脳裏を巡らせる、清く美しい記憶が一つくらいはあるはずだ。


言い知れぬ不安と焦燥が沸き起こる中、私は自分自身の記憶を探索する。


身体はすでに動かせず、声も出せず、そんな満身創痍の身体から、急速にこぼれ落ち始めた命の砂を、
胸の内で独り呆然と眺めるだけで終わってしまうのは、嫌だった。
どうせなら、楽しかった記憶をリピートして、・・・せめて、心安らかに逝きたかった。


私の魂の中に存在する、幾多の人格達とその記憶。
そして、彼ら彼女らを分け住まわせている、幾多もの心の部屋・・・。
私は、爆撃された廃ビルを髣髴とさせる、荒れ果てた心の部屋全てを、片っ端から探していく。
扉を開け、血なまぐさい暗がりの中を、棚から、引き出しから、床の下からをひっくり返し、探す。
でも、ソレは見つからない。

人ごみで、はぐれてしまった母親を探す幼子のように、私は私の心を彷徨った。
どす黒く汚濁された部屋、真赤に染まっている部屋、凍えるほどに寒い部屋。残された時間は少ないと、涙ながらに一つずつ回っていく。
この脆い心にインストールされ続けた、魑魅魍魎の記憶たち。それらが荒れた精神のグロテスクさを、異様なまでに増幅させていた。
たかだが20年強生きた程度の精神に、この情報量は、少々多すぎるな。
挙句にどれもこれも・・・扉は開くには重く、部屋は探すには大きく、死に体の私を逐一疲弊させる。

もう、ソレは無いものとして、この贖罪の旅のような探索を止め、さっさと楽になってしまってもよかったのだろうが、
でもしかし、ここまでで止めようと考えることは無かった。次の部屋は、もしかしたら・・・という希望が、どうしても拭いきれなかった。
小さな胸から零れ落ちていく命の砂を、必死に手で抑えながら私は瓦礫の世界を彷徨う。

ここは、父が殺されて、怒りと憎しみを燃え上がらせた記憶。・・・違う。
これは、父を殺した男を、塵クズのごとく滅した記憶。・・・違う。
こっちは、ある女を死神へ、冷淡に売り渡した記憶。・・・違う。
あれは・・・ある少年に呼び止められた記憶。

・・・これは・・・。

ああそうだ。ここはあの時の・・・・・・いつだ・・・いつだったか・・・中学、違う、あれは、・・・ああそうだ、高校時代だ。
まだ幾年も経っていないのに、ずいぶんと懐かしく感じられる。そうだ、高校時代だ。

私の短い人生で、最も輝いていたであろう時代。


ようやく、見つけた・・・。


当時から、いいや、もっともっと・・・ずぅっと前から、自分がひどく捻くれた人間だったというのは、重々承知だ。
だが、学校のためにと走り回ったあの日。友と・・・友だった者達と、風に吹かれ光を浴びて過ごしたあの日。
挫折も落胆も失望も多々あったが、確かにそこは光に満ちた世界だった。闇が見えようとも、その先には光があると思える世界だった。
こんな私でも、未来は美しいものだと信じることができた。もしかしたら・・・明日は救われるかもしれない。
そんな希望が、私を動かしていた。私が、優しく綺麗な明日を作るんだと。

その、美しくなるはずと信じていた明日が真っ黒に呪われたものだと知った日から、
私の中から、希望の輝きは消えてしまった。

光を見据え歩いた日々は、闇を喰らう修羅の日々へと、突如として変わってしまった。

修羅とか言って、・・・こんな小さな身体と、小賢しい意志だけで世界を変えてやろうだなんて・・・
それが、出来そうになってしまったことが、出来ると信じてしまったことが、ただただ悔やまれる。
破滅の運命を止めるための、役割を担ってしまったことが、今は、ただただ悔やまれる。

そんな大層な言い回しをする私の役割・・・私の命は、使命は、こうもあっさりと終わってしまった。
いや違う、私だけではなかったな。
私の人格の一つとなっているあの男も、燃え損じの煙のように絶えて逝った。
時を超越し、この世の秩序も混沌も思うが侭のあの男も、人智を超えた力と邪念を持つあの女も、・・・きっと運転席の彼女も。
いずれ、今の私と同じように・・・、誤って毒を喰らい、弱りきった野良猫のように、孤独と悔恨に打ちひしがれながら死んでいくのだ。
ふふふ、まったく。噴出してしまう。

あぁ、なんで・・・どうして私は、こんな惨めに、終わっていくのだろう。
先刻、記憶の世界を彷徨って気付いたこと・・・、それは、私の人生、生き様はなんと空虚ものだ、ということだ。

私は、自分の居場所が欲しいが為に、自分の居られそうな場所を、ただうろうろしていただけだった。
心の奥底の「本当の私」が、混沌とした心の中と、そして、目を通して見る秩序無き外の世界を、
ただひたすらに、彷徨っているだけだった。


・・・。そうだ。ああ、そう、なんだ。そうか、そんだったんだ。


私は・・・迷い子だったんだ。


物心がついた頃から、ずっとずっと、朦朧とした世界を彷徨っている。
幼い頃から眉間にしわを寄せ、ずっとずっと彷徨っている。

自分自身を見つけたくて、自分自身を知りたくて、しかしどれが自分か解らなくて、迷い続けている。

迷いなど、あの時・・・。彼の手を振り払う道を選んだあの時から、これっぽっちも感じ得なかったのに。
自らの役割を見出し、世界の深淵に飛び込み、塗れ、そして呪われた未来を変えるという意志は揺らぎさえしなかったのに。

揺ぎない意志。・・・・・・。なにがどう揺るぎなかったのか。
常人が聞けば間違いなく噴出す、ずいぶんと大層な目的ひとつ。それを見定めていただけじゃないのか。
ふっ、それも自分で見つけた目的じゃない、与えられた目的だ。意志というには、語弊があるかもしれない。

人類の指導者、破滅の予言者、歴史の選定者、それらは私に課せられた役割なのだと、あの男は言った。
私も、それを受け入れ、この世界のどす黒いロジックを変える為に、この数年、闇を泳ぎ続けた。

遠い昔・・・桃の木の下で出逢った少女に語った、自分の想い。それすら、巨大な世界や歴史に与えられたものだったのかもしれない。

とにかく、何度思い返してみても、・・・特にこの数年・・・思い起こせるどの場面にも、「本当の私」は居なかった。

・・・結局、私はどうなりたかったのだろう。どこへ、行きたかったんだろう。
破滅の運命を止めた先?私はどうしている?使命を果たせばどうなってもいい?馬鹿、そもそもそれも志半ば、じゃないか。
いつもいつも中途半端だ。子どもの頃は大人ぶって、今になって自分がずっと「子ども」だったと思い返すなんて。
そんな見栄え格好だけの、不条理な人間じゃあ木の精に逢うなんてとんだ筋違いだったのだろうか。

・・・結局、私はどこに居たかったんだろう。
人を欺き、破壊も非道も躊躇わず、偽善偽悪に身心を染めて・・・それが今、口から血反吐を湧かしながら、何から何まで悔やんでいる。
やっとの思いで、申し訳程度の光の記憶を思い返しても、
心の底に溜まった真っ黒いタールのような闇が飲み込んでしまう。

冥い世界に身を投げてから、後悔などは一切しないと決めていたのに。
赤黒く塗りたくられた、氷のごとく冷たいシートでうなだれる私は、これから、たった一人ぼっちで、どこへ向かうのだろう。


・・・・・・


胸の臓器が緩やかに、その役割を終えていく。案外もってくれるものだ。
だが、同時に「死」という、単純で強力な一文字が、この痩せっぽっちの身体に満遍なく彫り刻まれていく。
嫌だな、終わってしまう。もう何も出来なくなるのか。死の世界はあるのだろうか。そこでもまた、彷徨い、悔やみ続けるのだろうか。

それは、・・・辛いな。少し、辛いな。

迷って、失って、そしてこうもあっけなく、重く冷たく死んでいくなんて。

私にろくな最期はないって、ずっと前から覚悟はしていたんだが



やっぱり、哀れだ。



もしもあの夜、あの手を取っていたならば。

どれほどに運命は変わったのだろうか。

もしも先程の、あの手を取っていたならば。

少しは、安らかに死ねただろうか。

もしや、生きながらえることもできたのだろうか。




バカな女。この期に及んで懲りもせずまた、悔やんでる。


歴史改変の主体は自分でなければいけないとか、死は知られてはいけないとか、格好をつけてほざいていたくせに。
最期の最後まで、強がって。苦しいのも、死ぬのが怖いのも、やせ我慢して。


世界のために、身も心も・・自分と自分の周囲全てを犠牲するなんて決意、そんなもの、正直に言えば、フェイクだったんじゃないか?
人類の未来なんてほんとはどうでもいいんだろう。ただ単に、自分の居場所や役割が欲しかったから・・・
自分に指名がきたから、飛びついただけじゃないのか?きっと、そうだよ。そんな女なんだ、私は。
どんな役でも、演じてる最中は、とっても気持ちが良いものだ。・・・まるで娼婦だな。






ほんとに、どこまでも哀れな女。







ふと、身体が軽くなった。
底なし沼に私を沈めていく、重い呪縛が消え失せる。
同時に、シートの冷たい感触も、車の振動音も、瞼を透すかすかな光も、感じなくなった。

そうか、ついに、止まってしまったのか。

不思議だ。死んだということが解るなんて。これが死んだということ。
真っ黒な宇宙をひゅうっと、延々落ちている感じの・・・。
うん?いや、逆にものすごい勢いで吹き上げられているようでもある。

すぅっと、身体中が爽やかな風圧に洗われる。黒々とした沼に、どっぷり首まで浸かってしまって汚れきった
身体と心が、一瞬のうちに洗浄されまっさらになるようだった。
尤も、身体など、もはや過去形の所有物で、もうすでに私から剥がれ落ちてしまった物なのだけれど。

つい先程まで悔恨の情に打ちひしがれていたのだが、何故だろう。
妙に清清しい。辺りは墨をぶちまけたような真っ暗闇なのに。

心が消滅する前の、禊(みそぎ)なのだろうか。
周囲の漆黒に反して真っ白になって行く心。


・・・これは・・・・・・もしや、もしかしたら、私は今、生まれ変わっているのではないだろうか。
・・・有り得ない。私ほどの罪人を、生まれ変わらせてやるなんて度量を持つ神はいないだろう。


でも、だけど。そんなことはわかっているのだけれど。


こんな、短絡的で都合よくて、何より子どもみたいに馬鹿馬鹿しい思考、したことなんてなかったけれど、
今は、無意識に考えてしまった。


生まれ変わることが出来たらいいなって。

もう一度、「私」を生きることができたらいいなって。


宗教など、人を欺き操る一つの手法程度にしか認識していなかったのだが、
もしも輪廻転生があるのなら、そしてまた、一人の女として生まれることが出来たなら、

今度は・・・、もっと素直な女になろう。とにかく普通の・・・うんと普通の女になろう。

使命も役割も、そんな重苦しい物、自分の居場所のために要することのない、
単純で簡単で、容易で明快で、どこにでも居る馬鹿な女になろう。
そうだ。もっと、心のままに、笑う女になろう。泣く女になろう。怒る女になろう。優しい女になろう。
わがままで純粋で、臆病で泣き虫で、照れ屋で寂しんぼで、一途で前向きな、呆れるくらい解りやすい女になろう。
何かを演じて、いちいち相手に応えるとかじゃあなくて、言うこともやることも全部、本当の私が曝け出す、素直な女になろう。

素直な女、か。
素直な女なら、やっぱりあの時・・・彼の手を取っていたのだろうな。

・・・そうだ、こんな偏屈で窮屈な私でも、見てくれる人が2人もいたんだ。
周囲に怖れや威圧しか振りまいてない女を見るなんて。ふふ、今思えば、変わった男もいたものだな。
あの男達は・・・実に素直で、単純で、素敵な人間だった。

あぁ、生まれ変わったら、そしてまた、あの二人のように私を見てくれる人がいるのならば、
今度はその差し出された手を、ぎゅっと思い切り握り返してやって、小難しいことなんて一切考えず、
そこを自分の居場所にして、そのまま単純で簡単な人生を送るんだ。
悲劇や混沌など知らない、例えそんなものが引き起こされても関係ないくらい、こじんまりとした人生を送ろう。

そうだな・・・、年相応の恋に溺れたり、友と全く意味の無い時間を過ごすのも、単純で馬鹿っぽくて、いいかもしれない。

もういっそ、自分の幸せを義務だと言い切ってやって、恥知らずの済まし顔でそれらを全部享受してしまおう。

取り留めの無い、だけど決して虚しくない記憶で心を満たそう。
毎日馬鹿な話をして、時間をとにかく無駄に使って、やかましい監督生に隠れて遊ぶ青春の日々はどうだろう。
こんな人間なら、精霊も釣られて私の前に現れてくれるかな。

適当な夢も、いい加減な将来も、堕落に見える生き方も、よくよく思えば素晴らしく素敵で、
これまで私が選んできたそれらよりも、ずいぶんと必然的に思える。

・・・そしてそのまま、意味の無い時を延々過ごして、
そうしていつのまにか、どこにでも居る馬鹿な大人になっていく。

疲れるだけの、生活するためだけの、つまらない仕事をする毎日を過ごせばいい。
誰にでも出来る、大した使命も役割もない、くだらない仕事をこなす毎日を過ごせばいい。
だけど、そうやって積み重ねられた日々はやっぱり空虚じゃない。

友や、愛する人と、相も変わらず、世界に何の影響も及ぼさない、無意味で素晴らしく素敵な時間を過ごしていくのだ。

友とは、子どもがするのとなんら変わらぬ下世話な話で暇を潰すのだ。
無駄に無意義な話で有意義な時間を過ごそう。

そしてたまの休みは、・・・愛する彼と朝から身体を重ね、想いを交え、燃え滾るような休日にしてしまうのがいい。
恋を薪に火を灯し、そこに情という情を投げ入れて、愛の炎を派手に燃やし続ける。
パズルピースを合わせたがごとく、相性ぴったりの肉体を粘ついた汗で繋ぎ、そのままひたすら心も擦り合わせ、
涙を流しながら果てた後、そのまま目を閉じ白昼の夢の中でも交わり続けよう。
夕頃、二人眼が覚めて、だらしなく腹を出した間抜けな彼の顔を見るなり抱きつきなおし、
またしつこく情交を求めたり、求められたりするのだ。

互いの体液が枯れ果てるまで貪りあって、せっかくの休日を棒に振ることは悔やんでもいい。
でも後悔あっても反省の色なしで、また次の休日も繰り返してしまうのだろう。

そう言った、もういっそのこと、情熱で溶け混ざってしまえばいいような日々を過ごしていくのだ。

外に出れば人目も憚らず抱き合ったり、口付けしたり・・・発情した猫みたいに、好きを好きな場所で好き放題してやろう・・・・・・

・・・馬鹿とか単純とかの話じゃなくなっているな。はは、これじゃあただのふしだらな女だ。

ああ、しかし、凄く楽しい。
私が選べなかった・・・・・・選ばなかった情景は、どこまでも甘美で、震える胸さえ亡くした今、私の全てである魂をどきどきと鼓動させる。
私だって、こういう人生を、自分自身で見出すことが出来るんだ。
・・・下らないと見向きもしなかった「ただの人間」を、心の奥底では羨望していたのかも知れない。
修羅の仮面をしていても、所詮私も人間・・・ただの人間だったということか。


・・・・・・・・・。


ふふ、ふふふふふ。
本当に、さっきまでくよくよしていたのが嘘みたい。死ぬということは存外忙しい。
心臓さえ止まれば、機械の電源が落ちるみたいに、一瞬でケリがつくものだと思っていたのだが。
神の慈悲とでもいうものなのかな。もしもそうならば、中々粋なことをする。
私みたいな咎人でも、否応無しに慙愧を洗い落として綺麗にしてやるなんて。なんと無駄に素晴らしいシステムなのだろう。




ほんと、良かった。


・・・・・・最期の最後で、安らぎを感じることが出来て。




意識・・・といって良いものだろうか。身体を亡くした今、魂だけの存在が意識というのは変だろうか。

私の意識がゴースト映像のように、一瞬ブレる。

時が来てしまった。この何も無い空間で独り、想にふけて悠久を過ごすのも良いと思えて来たんだけど。
そう都合よくはいかないか。
いよいよ、「完全な死」が私を無へと誘い始める。


「私」が、うっすらと溶けていく。


少し、切ない。


でも、満たされた。

最期の最後で、正直で素直な自分になれた気がする。

演じるとかじゃなくて、「私」そのものになれた気がする。

消え逝く魂となって、ようやく、私は――「私」になれた。

ようやっと、私は、「私」を見つめることが出来た 解ることが出来た。

良かった。悔いたまま、終わらなくて。

嬉しいな。迷ったまま、終わらなくて。



・・・・・・。



もう、これが、本当に最後になるのだろうが

私の全てが、消えてしまう前に、ひとつだけ




もしも、もう一度




もう一度私が、私に生まれ得ることが、許されるのならば




ついさっき、思いを馳せたとおりに




素直で、単純で、どうってことのない








「私」として、あるがままに







彷徨うことなく、・・・ただただ、あるがままに












生きてみたい






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