ラテン文字などの拡張補助文字や人工文字、ユニコード絵文字など特殊文字に関するウィキです。

拡張ラテン文字】及び【拡張ラテン化された別系統文字の字母】カテゴリです。
18〜19世紀における正書法制定前のマルタ語ラテン文字を取り上げます。

概要

マルタ語では正書法が決まる前の18世紀から19世紀にかけて、アラビア文字独立形《ﻕ،ﻍ،ﺵ،ﺡ》をラテン文字と同じサイズに合わせて表記する案や、新規に作成した特殊文字をラテン文字に追加する案などが多数存在した。

ヴァサッリ式ラテン文字

ヴァサッリ式ラテン文字(第1式)

http://www.archive.org/details/michaelisantoni01va...
・作成者: ミケーレ・アントニーオ・ヴァサッリ Michele Antonio Vassalli / Mikiel Anton Vassalli (作成年: 1790)
文法書でマルタ語を表記するために作成されたマルタ語の文字。
キリル文字から《Г》や《Ч》を取り入れたり、キリル文字Шから《ɰ》, Zから《Ʒ》という派生字を生み出した。

ヴァサッリ式ラテン文字(第2式)

・作成者: ミケーレ・アントニーオ・ヴァサッリ (作成年: 1827)
第1式アルファベットからさらに改良したマルタ語の文字。
第1式にあった《ɰ》と《Ʒ》を残し、他は新字母を作成したり、Гから《G》など既存のラテン文字に変更した。

アラビア文字を拡張ラテン文字に取り入れたアルファベット

カモーロ式ラテン文字

・作成者: ジュゼッペ・カモーロ Giuseppe Camolo (作成年: 1822)
イタリア語とマルタ語の対訳聖書のために作成されたマルタ語ラテン文字。
AIN系統のアラビア字母をそのままの字形で採用し、現代の正書法に採用されている《Ċ, Ġ》が見られ、発音はそれぞれチ[ʧ]とヂ[ʤ]と共通している。大文字はなく、文の先頭も小文字のままである。
現代の正書法に見られる《ħ》もあるが、大文字は〈HH〉という連字になっている。
現代正書法の《Q》に当たる“K WITH DIAERESIS”と現代正書法の《X》に当たる“S WITH THREE DOTS ABOVE”は、アラビア文字の《ﻕ》と《ﺵ》をヒントに得て、それを彷彿させるダイアクリティカルマークを関連する発音のラテン文字に付加させている。

E-M式ラテン文字

・作成者: ガエタノ・トラパーニ Gaetano Trapani (作成年: 1838)
Googleブック検索で登録されているアーカイブで使用された書籍では『A catalogue of the different kinds of fish of Malta and Gozo』(トラパーリ著、1838年)で確認できる。
その後、小学校用教科書『English-Maltese Read Book』(1839年)に採用されたマルタ語ラテン文字。
6種類のアラビア文字をほぼ同型でラテン文字化した。
アラビア文字は連字になっても独立形を2つ並べ、大文字・小文字に関係なく同じ位置になっている。
拡張文字として追加されたアラビア文字は次の通り。
・ARABIC HAH【ﺡ】[ħ] (現行ラテン文字では《Ħ》)
・ARABIC KHAH【ﺥ】[x] (現行ラテン文字では《Ħ》)
・ARABIC SHEEN【ﺵ】[ʃ] (現行ラテン文字では《X》)
・・シャッダがダイアクリティカルマークとして使用されているものも。
・ARABIC AIN【ﻉ】[ʕ] (現行ラテン文字では《GĦ》)
・ARABIC GHAIN【ﻍ】[ɣ] (現行ラテン文字では《GĦ》)
・ARABIC QAF【ﻕ】[q, ʔ] (現行ラテン文字では《Q》)

その他の拡張文字付きマルタ語ラテン文字

パンザベッキア式ラテン文字

・作成者: フォルトゥナート・パンザベッキア Fortunato Panzavecchia (作成年: 1845)
マルタ語初等教育用に作成されたラテン文字。
HENGやZ WITH SWASH TAIL《ɀ》など、ラテン文字の下部を変化させて作成した字母が多数作成された。
・《Z》が[ts]音, 《ɀ》が[z]音などというように区別されている。
・HENG字母系統は大文字は不明で必ず《G》が先頭に付加され、アラビア文字AINに相当する字母はキリル文字DJE小文字《ђ》から横線を抜いた丸みを帯びていない鋭い字母、GHAINに相当する字母はユニコード5.1.0に採用された小文字のもの(末尾に丸が付加されている字母)と同型である。

ヴェッラ式ラテン文字

・作成者: フランチェスコ・ヴェッラ Francesco Vella (作成年: 1831)
マルタ語・英語辞書用に作成されたラテン文字。
・セディラ付きC《Ç》英語CH[ʧ]音。
・ダイアクリティカルマーク付き大文字がベースに収まる形状になっているものが多い (例えば、ドットアバブ付きH《Ḣ》やコンマアバブ付きHは上部の隙間、ダイエレシス付きGは右側の隙間)。

ファルゾン式ラテン文字

・作成者: ジョバンニ・バティスタ・ファルゾン Giovanni Battista Falzon (作成年: 1845)
マルタ語-イタリア語-英語辞書用に作成されたラテン文字。
ドットアバブ付き字母や《Ħ》といった現代マルタ語に採用されている字母やヴァサッリ式ラテン文字から“TURNED U”を取り入れている。
・ドットアバブ付き字母は《Ḣ》[x]が現代マルタ語正書法に無く、《G》[ʤ]と《Ġ》[ɡ]が現代正書法と発音が入れ替わっている。《Ż》[z]は現代正書法同じ発音。

セム協会案

・作成者: Xirka Xemia (作成年: 1880)
現行の正書法(1934年に制定)に近いマルタ語ラテン文字表記法。
現在の正書法では《GĦ》と表記される字母は“G WITH MACRON”《Ḡ》[ʕ]と“G WITH MACRON AND DOT ABOVE”[ɣ]の2つに分かれていて、現行の正書法《Ġ》と表記される字母は《J》と書かれる。
他に現行正書法と同じ発音の拡張ラテン字母は《Ċ[ʧ], Ħ[ħ], Ż[z]》がある。

参考資料


Google ブック検索でPDFファイルとしてアーカイブ化されているマルタ語資料は【Gブック検索で見られる欧州言語系アーカイブ】を参照。

『言語学大辞典(4)』世界言語編〈下-2〉(三省堂, 1992)

【マルタ語】の項目で、詳しい字形が小文字のみ掲載。

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記号説明

  • [ ]…IPA発音表記及びフリガナ/意味
  • 【 】…特殊文字見出し
  • 《 》…特殊文字
  • 〈 〉…連字
  • 『 』…作品名
  • 〓…ユニコード未登録の字母
  • †…廃字, 携帯電話絵文字の代替テキスト
    • ‡…特殊な字母, 代用表記, 異体字


【略称】
  • IPA…国際音声記号
  • キルシェン…キルシェンバウム音声記号
  • i.t.a.…イニシャル・ティーチング・アルファベット
  • 大…大文字/小…小文字
  • 半…半角形/全…全角形

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