唐の歴史を書いた、資治通鑑の全訳に挑戦。古代史小説「勾玉の首飾り」の書き直しデータに使用する予定。
ネットで原文があるのでそれをもとに、約半年かけて、漢文再勉強。悪戦苦闘の末。中間報告。
資治通鑑 第125卷
■は宋、●は北魏の記事
【宋紀七】 起強圉大淵獻，盡上章攝提格，凡四年。
太祖文皇帝中之下元嘉二十四年（丁亥，公元447年）（魏の太平真君８年）
■春，正月，甲戌（２６日），大赦す。
●魏の吐京胡及び山胡の曹僕渾等が反く；二月，征東將軍の武昌王提等が之を討ち平らぐ。
●癸未（５日），魏主は中山に如く。
●魏人は定州丁零の三千家を平城に徙す。
●六月，魏の西征の諸將は風公と處真等八人を扶けて，坐して盜沒する軍資及び虜掠の贓は各千萬計り，並びて之を斬る。
■[宋の貨幣の改鋳]初め，上は貨の重物の輕を以て，改めて四銖錢を鑄す。民は多く古錢を翦鑿し，銅を取りて鑄を盗む。上之を患う。錄尚書事の江夏王義恭は建議して，以て大錢の一を兩に當てるを請う。右僕射の何尚之議して曰く：「夫れ泉貝之興は，估貨を以て本と為し，事は交易に存し，豈に多鑄に假らんや！數少なければ則ち幣は重く，數多ければ則ち物重し，多少異なると雖も，濟用は殊ならず。況んや復た以て一を兩に當てる，徒らに虛しく價を崇める者邪？若し今制を遂行するや，富人は之の貲を自ずと倍し，貧者は其の困を�瓩后で靴魘冱紊算箸爐觸螳福覆罎┐鵝砲鉾鵑兇襪鰒�る也。」上は義恭の議に從いて卒える。
■秋，八月，乙未（２０日），徐州刺史の衡陽文王義季が卒す。義季は彭城王義康之貶に自き，遂に酒に縱り不事を事とす。帝書を以て誚責し，且つ之を戒めるも，義季は猶を酣飲自若，以て疾と成るに至り終わりぬ。
●魏の樂安宣王范卒す。
■冬，十月，壬午（８日），胡籓之子の誕世は豫章太守の桓隆之を殺し，郡に據りて反し，前彭城王の義康を封じて主と為そうと欲す；前交州刺史の檀和之は官を去りて歸り，豫章を過ぎ，擊ちて之を斬る。
■十一月，甲寅（１０日），皇子渾を封じて汝陰王と為す。
●十二月，魏の晉王伏羅卒す。
●[楊文��の反乱]楊文��は葭蘆城に據りて，氐を招き誘い、羌，武都等五郡と氐は皆之に應ず。
太祖文皇帝中之下元嘉二十五年（戊子，公元448年）
●春，正月，魏の仇池の鎮將の皮豹子は諸軍を帥いて之を擊つ。文��の兵敗れ，城を棄てて漢中に奔る。豹子其の妻子を收め、僚屬、軍資及び楊保宗の所尚を魏公主に還す。
●初め，保宗が將に叛かんとするに，公主之を勸ぶ。或るひと曰く：「奈何をして父母之國に叛かんとすか？」公主曰く：「事成れば，一國之母と為る，豈に小縣の公主に比べる哉！」魏主之に死を賜う。
楊文��は坐して守りを失う，官を免じ，爵土を削る。
●二月，癸卯（３１日=二月閏朔日），魏主定州に如き，塞を圍む役の者を罷める；遂に上黨に如き，潞縣の叛民二千餘家を誅し，河西の離石の民五千餘家を平城に徙す。
■閏月，己酉（７日），帝は大蒐を宣武場に於いてなす。
■[宋の庾炳之失脚]初め，劉湛既に誅せられ，庾炳之は遂に見みえ寵任，累遷して吏部尚書となり，勢いは朝野を傾く。炳之に文學無く，性は強急で輕淺。既に選部に居し，好く賓客に詬（コウ、辱める）詈し，且つ多く貨賂を納め，士大夫は皆な之を惡む。
■炳之は令史二人を私宅に宿し留め，有司の糾する所と為る。上は其の過に薄く問わざらんと欲す。僕射の何尚之は因りて炳之に極陳して之を短く曰く：「炳之の人を見るに燭盤、佳驢有り，乞丐(きっかい、乞食)せざるなからん；選び用うるに平らかならず，一二は可ならず；朋黨と交わり結び，扇を構えて是非し，亂俗にして傷風，范曄（後漢書を著作した政治家）を過ぎるに，所少なく，一事を賊する耳(のみ)。縱に罪を加えず，故に宜しく之に出ず。」上は以って炳之を丹陽尹と為すを欲す。尚之曰く：「炳之の蹈む罪は恩に負け，方や復た尹京に赫赫たるの授有り，乃して更に其の形勢成る也。古人云く：『賞無くして罰無し，堯舜と雖も、治を為す能わず。』臣は昔の范曄に啟い，亦た顏を犯すを懼れ，苟しくも愚かな懷を曰ひ，九死に悔いず。古今を歷觀するに，未だ眾の藉藉を過ぎる有りて，貨數の百萬を受け，更に高官と厚祿を得るは炳之に如く者はなからん也。」上乃ち炳之の官を免じ，以って湛之を丹陽尹と為し徐す。彭城太守の王玄謨は上に言わく：「彭城（徐州）は水陸を兼ねるを要す，皇子を以て臨州を撫す事を請う。」夏，四月，乙卯（１４日），武陵王駿を以て安北將軍、徐州刺史と為す。
●五月，甲戌（４日），魏は交趾公韓拔を以て鄯善王と為し，鄯善を鎮め，其の民に賦役し，之の郡縣に比す。
■當兩の大錢を經に行う時，公私に便と為さず；己卯（９日），之を罷む。
■六月，丙寅（２４日），荊州刺史の南譙王義宣を進めて司空の位とす。
●辛酉（２１日），魏主は廣��宮に如く。
■秋，八月，甲子（２５日），皇子��を封じて淮陽王と為す。
●西域の般�Ｔ�(西域の一国家)は平城を去ること萬有餘里，遣使して魏に詣でる，魏に請うてともに東西から柔然を合い擊つことを。魏主之を許す，中も外も戒嚴す。
■九月，辛未（２日），尚書右僕射の何尚之を以て左僕射と為し，領軍將軍の沈演之を吏部尚書と為す。
●丙戌（１７日），魏主陰山に如く。
●[焉耆戦]魏の成周公の萬度歸は、焉耆を撃ち，大いに之を破り，焉耆王の鳩屍卑那は龜茲に奔る。魏主は詔して唐和と前部王の車伊洛に所部を師いて兵に會し度歸は西域を討たしむ。和して柳驢等六城を說き降す，因りて共に波居羅城を撃ち，之を拔く。
●冬，十月，辛丑，魏の弘農昭王の奚斤卒す，子の它觀襲う。魏主曰く：「斤の關西之敗は，罪は固く死に當たる；朕は斤を以て先朝を左命し，其の爵邑を復し，終に天年を得さ使め，君臣の分また足る矣。」乃して降った它觀に爵して公と為す。
●癸亥，魏大赦す。
●[焉耆戦]十二月，魏の萬度歸は焉耆より西の龜茲を討つ，唐和鎮を焉耆に留む。柳驢戍主の乙直伽は謀叛す，和い擊ちて之を斬る，是によりて諸胡は鹹（しお）を附け，西域復た平らぐ。
●[柔然戦]魏の太子朝は行宮に於いて，遂に從いて柔然を伐つ。至って降城を受け，柔然を見ず，因りて積糧は城內にあり，戍を置いて還る。
太祖文皇帝中之下元嘉二十六年（己丑，公元449年）
●[北魏の柔然戦]春，正月，戊辰朔（１日），魏主は群臣を漠南に於いて饗す。甲戌（７日），復た柔然を伐つ。高涼王那は東道に出，略陽王羯兒は西道に出，魏主と太子は涿邪山に出，行數千里。柔然の處羅可汗恐懼して，遠く遁る。
■二月，己亥（３日），上は丹徒の如く，京陵を謁す。三月，丁巳（朔日は丁卯、53-3+1=51で暦不適当），大赦す。諸州に募って移を樂とする者の數千家を以て京口に實す。
●庚寅（２４日），魏主は平城に還る。
■夏，五月，壬午（１７日），帝は建康に還る。
●庚寅（２６日），魏主は陰山に如く。
■[宋の北伐中止]帝は中原を經略せんと欲し，群臣は爭って獻策し迎合を以て寵を取る。彭城太守の王玄謨は尤（ユウ、とがめる、もっとも）好進言し，帝の侍臣に謂って曰く：「玄謨の觀る所を陳ず，人を令して狼の居の須（もとむ）意を封じる有り。」御史中丞の袁淑は上に言って曰く：「陛下は今當に趙、魏を席捲し岱宗を檢玉す；臣は千載之會に逢い，上に封禪書を願う。」上��ぶ。淑は，耽之曾孫也。秋，七月，辛未（７日），廣陵王誕を以て雍州刺史と為す。上は以って襄陽の外接の關、河，廣の其の資力を欲し，乃ち江州軍府を罷め，文武を悉く雍州に配す；湘州に入る台租稅は，悉く襄陽に給す。
●[北魏の柔然戦]九月，魏主柔然を伐つ。高涼王那は東道に出，略陽王羯兒は中道に出。柔然の處羅可汗は國中の精兵を悉くし那の數十里を圍む；那は塹を堀り堅守，相持つこと數日。處羅は數挑戰，輒（すなわ）ち那に敗るる所と為る。那の眾の少く堅きを以て，大軍が將に至らんと疑い，圍を解いて夜去る。那は兵を引いて之を追う，九日九夜。處羅は益懼れ，輜重を棄て，逾穹隆嶺の遠く遁る。那は其の輜重を収め，軍を引いて還り，廣澤に於いて魏主と會う。略陽王羯兒は柔然の民や畜の凡そ百餘萬を収む。是れより柔然は衰弱し，屏の跡を敢えて犯し魏の塞を犯さず。冬，十二月，戊申（１７日），魏主平城に還る。
■[宋の蠻討伐]沔北諸山の蠻（虫、反乱一揆）が雍州を寇す，建威將軍の沈慶之は後軍中兵參軍柳元景を帥いて、郡太守宗愨等二萬人を隨え之を討ち，八道俱に進む。是より先，諸將の討蠻者は皆山の下に營じ以て之に迫り，蠻は山に據りて矢石を發すを得以て擊ち，官軍多いに不利。慶之曰く：「去る歲に蠻は田大きく稔り，穀を積み重巖，之に曠日を與うべからず相守る也。其の不意に出てしかば，其の腹心を沖し，之を破るは必ず矣。」諸軍に命じて木を斬り山に登り，鼓を前で噪し，群蠻は震え恐る。因りて其の恐れに乗じて之を撃ち，向かう所奔らせ潰ぶす。
太祖文皇帝中之下元嘉二十七年（庚寅，公元450年）
●春，正月，乙酉（２４日），魏主洛陽に如く。
■[宋の蠻討伐]沈慶之は冬より春に至り，雍州の蠻を屢破す。因りて蠻の所の聚谷は以て軍食に充ち，前後斬首は三千級，二萬八千餘口を虜とし，降者は二萬五千餘戶。幸諸山の大羊蠻憑は險しい城を築き，守禦は甚だ固し。慶之は之を撃ち，諸軍に命じて山中に於いて連營し，門を開いて相通じ，各は池を營內に穿ち，朝夕外に汲まず。之の頃，風甚しく，蠻は兵を潛して夜來營を燒く。諸軍池水を以て火を沃し，多く弓弩を出して之を夾射し，蠻の兵は散じて走る。蠻の據する所は險固，攻める可からず，慶之は乃ち六戍を置いて以て之を守る。之久しく，蠻は食を盡し，稍稍降を請う；悉く建康に遷して以て營戶と為す。
●[北魏の南進]魏主將に入寇せんとす。二月，甲午（３日），梁川に於いて大獵す。■帝之を聞き，淮、泗の諸郡に敕するに：「若し魏寇が小さく至るなら，則ち各が堅く守り；大きく至るなら，則ち民を拔いて壽陽に歸すべし。」邊戍を偵候するも明らかならず，辛亥，魏主自ら將に步騎十萬至らんとす。南頓太守鄭琨、穎川太守郭道は隱れ並びて城を棄てて走る。
■是の時，豫州刺史南平王鑠は壽陽に鎮し，左軍行參軍の陳憲を遣わして汝南郡事に行き，懸瓠を守り，城中戰士の不滿千人，魏主之を圍む。
■三月，以て軍を興し，內外百官の俸を三分之一に減ず。
●[北魏の懸瓠攻略戦]魏人は晝夜となく懸瓠を攻め，多く高樓を作り，城に臨みて以て之を射ち，矢は下ちて雨の如し。城中の負戶は以て汲び，沖車の端に大鉤を施し以て樓と堞(ひめがき)を牽き，其の南城を壞す。陳憲は內に女牆を設け，外に木柵を立て以て之を拒む。魏人は塹を填ち，肉薄して城に登り，憲は將士を督�劼垢襪盒贐ァせ咾鮴僂鵑脳襪謀�しく。魏人もまた屍に乘りて城に上がる。短兵相い接し，憲の銳氣は愈奮し，戰士は一で百に當たらざるは無く，殺傷は萬計り，城中の死者また過半す。
●魏主は永昌王仁を遣して將に步騎萬餘，驅する所は六郡の生口を掠め北の汝陽に屯す。■時に徐州刺史の武陵王駿は彭城に鎮し，帝は間使を遣じて駿に騎を發するを命じ，繼けて三日之を糧を襲う。駿は百里內に發して馬千五百匹を得，分けて五軍と為し，參軍劉泰之を遣して安北騎兵行參軍の垣謙之、田曹行參軍の臧肇之、集曹行參軍の尹定、武陵左常侍の杜幼文、殿中將軍の程天祚等を帥いて之を將し，汝陽に直趨す。魏人は唯だ兵を虎救（虎を救う緊急性）するに壽陽より來りて，彭城に備えず。丁酉（３月朔日は申酉、33-57+1=37で暦不適合），泰之等潛んで進み之を撃ち，三千餘人を殺し，其の輜重を燒き，魏人奔り散り，諸生口悉く東に走るを得る。魏人は泰之等兵に後繼無しを偵知し，復た兵を引いて之を撃つ。垣謙之は先ず退き，士卒驚いて亂れ，仗を棄てて走る。泰之は魏人殺す所となり，肇之は溺死し，天祚は魏の擒うる所となり，謙之、定、幼文及士卒の免ずる者九百餘人，馬で還る者は四百匹。
●魏主は懸瓠を攻めること四十二日，■帝は南平內史の臧質を遣わして壽陽に詣り，安蠻司馬の劉康祖と共に將兵を懸瓠に救う。●魏主は殿中尚書任城公の乞地真を遣わして逆に之を拒む。質等は擊ちて乞地真を斬る。康祖は，道錫の從兄也。
●夏，四月，魏主（自陣を焼いて）兵を引いて還る。癸卯（１３日），平城に至る。
■壬子（２２日），安北將軍武陵王駿は降號鎮軍將軍，垣謙之を伏して誅し，尹定、杜幼文は尚方に付く；以て陳憲を龍驤將軍と為し、汝南、新蔡二郡の太守とす。
●[北魏の挑戦状]魏主は帝に書を遺して曰く：「前には蓋し吳は反逆し，關、隴を扇動す。彼は復た人を使わして就いて之を誘い，丈夫には弓矢を以て遺わし，婦人には環釧を以て遺わす；是曹は正に譎誑賂を取らんと欲し，豈に遠相服從の理有らんや！大丈夫と為す，何ぞ自ら來りて之を取らず，以て貨にて我が邊民を誘うか？募りて往く者復た七年を除く，是くの賞は奸也。我は今來たり此土に至りて得る所多少，孰と彼は前後して我がを民得る邪？ 」
「彼若し劉氏の血を食らう者存するを欲すならば，當に江を割きて北を以て之に輸し，攝（セツ、代わって）守りて南に渡らん。此くの如く，當に江南に使して彼の之に居るを釋さん。然らず，善しく敕して方鎮、剌史、守宰嚴に供に帳の具にす可く，來秋は當に往きて揚州を取らん。大勢は已に至り，終に相い縱はず。彼は往日北は蠕蠕に通じ，西は赫連、沮渠、吐谷渾と結び，東は馮私、高麗と連なる。凡そ此の數國，我は皆之を滅す。此を以て觀るに，彼は豈く獨立す能わんや！」
「蠕蠕は吳の提、吐賀真は皆已に死し，我は今北征し，先ず有足之寇を除く。彼が若し命に從わずば，來秋當に復た之を取りに往くべし；以て彼は足無く，故に先ず討つのみ。我れ往くの日，彼は何んぞ計を作り，塹を握り自ら守りと為し，垣を築きて以て自ら障わりと為す也？我は當に顯然往きて揚州を取らん，若からずんば彼は翳行竊步也。彼は來りて偵諜し，我は已に之を擒にし，復た縱いて還らん。其の人の目する所は盡く見え，委曲善く之を問わん。」
「彼は前に裴方明を使わして仇池を取り，既に之を得，疾く其の功を勇し，已に容れる能わず；臣此くの如く尚之を殺す有り，烏は與に我を校すを得ん邪！彼は我が敵に非ず也。彼は常に我と一交戰せんと欲し，我は亦た癡わず，復た苻堅に非ず，何時か彼と交戰せん？晝は則ち騎を遣わせて繞を圍み，夜は則ち彼の百里の外の宿に離れる；吳人は正に斫有りて伎を營む，彼は人を募りて以來，行きて五十里を過ぎず，天已に明かなる矣。彼の人を募る之首（首尾），豈に我有るを為さざるを得ん哉！」
「彼の公時に舊臣老いたりと雖も，猶を智策有り，知は今已に殺し盡し，豈に天の我を資さざる邪！彼を取りて亦た我が兵の刃に須べからず，此れ善く咒婆羅門有り，當に鬼縛せ使む以來のみ。」
■侍中、左衛將軍の江湛は吏部尚書に遷る。湛の性は公廉，僕射の徐湛之と並んで上の寵し信じる所と為る，時に稱して「江徐」。
●[魏の崔浩失脚と誅伐]魏の司徒崔浩，自ら才略に恃んで魏主の寵任する所に及び，專制朝權し，嘗つて冀、定、相、幽、并五州の士數十人を薦し，皆家を起こして郡守と為る。太守晃曰く：「先に征するの人，亦た州郡之を選ぶ也；職に在ること已に久しく，勤勞未だ答えず，宜しく先ず郡縣を補い，新征者を以て代わりて郎吏と為す。且つ令を守り民を治し，宜しく更に事を得る者なり。」浩は固く爭いて之を遣（のこ）す。中書侍郎、領著作郎の高允之を聞き，東宮博士の管恬に謂って曰く：「崔公は其の免ぜざる乎！苟しくも其の非を遂げ校して上に勝つ，將に之を堪ずる所以なり！」
●魏主は浩を以て秘書事を監し，高允等に《國記》を共撰せしめ，曰く：「實錄に從いて務む。」著作令史の閔湛、郗標，性は巧佞，浩の寵し信じる所と為る。浩は嘗て《易》及《論語》、《詩》、《書》を注（注釈）し，湛、標は上に疏（事柄の筋を分けていちいち説明する）して言く：「馬、鄭、王、賈は浩の精微に如かず，境內に諸書を収めて，浩に所注を班し，天下に令して業を習わしむを乞う。並に敕して浩の注《禮傳》，後生に令して正義を觀るを得を求む。」浩は亦た湛を薦し、標は著述の才有り。湛、標は又浩に撰ずる所の《國史》を石に刊し，以って直筆を彰にすを勸む。高允は之を聞き，著作郎の宗欽に謂って曰く：「湛、標の營ずる所，分寸之間，崔門の萬世之禍と為るを恐れ，吾徒らに亦た無□類矣！」浩竟用湛だしく、標は議し，刊して郊の壇東に石を立て，方百步，功三百萬を用う。浩は魏之先世を書き，事皆な實に詳し，衢路に列し，往來を見る者以って言を為すを鹹す。北人は忿恚せざるは無く，相與に帝に浩を譖し，以って暴揚國惡と為す。帝大いに怒り，有司を使い浩及び秘書郎吏等の罪狀を案ぜしむ。
●初め，遼東公の翟�郢劼歪襪涼�有り，奉じて并州に使いし，布千匹を受く。事が覺わり，�郢劼蝋皸瑤頬鼎蠅遁�く：「主上我に問う，實告を以て當たり，之を諱に當たるを為すか？」允は曰く：「公は帷幄の寵臣，罪有り首實（首実検）され，庶は或いは原を見るとも，重ねて欺罔を為す可らず也。」中書侍郎の崔覽、公孫に質して曰く：「若し首實すれども，罪は測る可らず，之を諱に如かず」�郢劼楼瑤魃紊澆遁�く：「君は奈何（なぜ）人を誘いて死地に就かすか！」入りて帝に見みえ，以って實を對えず，帝は怒り，之を殺す。帝は允に太子經を授けて使いす。及ち崔浩收め被（ら）れ，太子は允を召き東宮に至り，因って留め宿す。明旦，與俱（とも）に入朝し，宮門に至り，允に謂って曰く：「入りて至尊に見みえ，吾は自ら卿を導く；至尊を脫して問有り，但だ吾が語に依るべし。」允曰く：「何等の事に為す也？」太子曰く：「人自ずと之を知る。」太子は帝に見みえて言わく「高允は小心で真密だが旦し微賤；崔浩の由を制して，其の死を赦すを請う。」帝は允を召し，問いて曰く：「《國書》皆な浩の為する所乎？」對えて曰く：「《太祖記》は，前著作郎の��淵の所為なり；《先帝記》及《今記》は，臣と浩の共に之を為す。然るに浩の所領する事多く，總裁する已；著述に至れば，臣浩より多し。」帝怒りて曰く：「允の罪は浩より甚し，何を以って生きるを得るや！」太子懼れて，曰く：「天威は嚴重にして，允は小臣，迷亂し次を失うのみ。臣は向いて問う，皆浩の所為に雲く。」帝は允に問う：「東官の言う所の如く信ずる乎？」對えて曰く：「臣の罪は滅族に當たるも，敢えて虛妄せず。殿下は臣を以て侍講の日久しく，臣を哀れみ，其の生のみを丐かんと欲し，實を臣に問わず，臣は亦た此言無く，敢えて迷亂せず。」帝顧みて太子に謂って曰く：「直なる哉！此の人は情する所難く，而して允は能く之を為す！死に臨みて辭は易からず，信ずる也：臣の為に君を欺かず，貞也。宜しく特に其の罪の旌之を以て除くべし。」遂に之を赦す。
●是に於いて浩を召すの前，臨みて之を詰む。浩は惶惑して對うること能わず。允は事事申明し，皆條理有り。帝は允に詔を為すを命じ，浩を誅し及び僚屬の宗欽、段承根等，下は僮吏に至る，凡百二十八人，皆な五族を夷（ころ）すと；允は疑いを持ち（勅を）為さず。帝は頻りに催を切ら使め，允は更に一見を乞い，然かる後に詔を為す。帝引いて使いを前に引いて，允曰わく：「浩之坐する所，若し更に餘釁(きん、兆し・傷)あれば，臣敢えて知るに非ず；若し直ちに以て觸（さわ）り犯すならば，罪は死に至らず。」帝怒り，武士に命じて允を執る。太子は之の為に拜して請い，帝は意を解し，乃曰く：「斯の人無ければ，當に更に數千口の死有る矣。」
●六月，己亥（１０日），詔して浩とその同宗者の清河の崔氏を遠近無く誅し，及び浩の姻家の范陽の盧氏、太原の郭氏、河東の柳氏，並に夷の其族，餘は皆な其身を誅するを止む。浩を執りて檻內に置き，城南に送り，衛士數十人を其上に溲し，呼聲は嗷嗷，行路に於いて聞く。宗欽は刑に臨みて歎じて曰く：「高允は其の殆ど聖なる乎！」
●它日，太子讓は允に曰く：「人亦た當に機を知る。吾は卿の死を脫かるると為るを欲し，既に端緒を聞き，卿終に從わず，激怒す帝此くの如し。每に之を念じ，人の心悸を使う。」允は曰く：「夫れ史者は，記人の主の善惡を記する人が所以，將來の為に戒めて勸め，故に人は主有る所を畏れ忌み，其の舉措を慎む。崔浩は孤り聖恩に負け，私慾を以って其の廉潔を沒し，愛憎其の公直を蔽ひ，此れが浩の責也。朝廷の起居を書くに至り，國家の得失を言い，此く史の大體を為し，未だ多く違うと為さず。臣は浩と實に其の事は同じく，死生は榮辱，義は獨り殊なる無し。誠に殿下に荷して再び之を慈しむを造り，違心苟（まこと）に免ずるは，臣の願わざる所也。」太子動容し稱歎す。允退き，人に謂って曰く：「我は東宮の指導者を奉じず，翟�郢劼防蕕韻襪魘欧譴觚量蕁�」
●初め，冀州刺史の崔賾，武城の男崔模，浩と同宗の別族；浩常に之を輕侮し，由に是睦まず。浩誅さるるに及び，二家獨り免かるるを得る。賾，逞の子也。
●辛丑（１２日），魏主は北の陰山を巡る。魏主は既に崔浩を誅して之を悔やみ，北部尚書の宣城公の李孝伯が病篤いのに會し，或いは已に卒すと傳わり，魏主は之を悼みて曰く：「李宣城惜しむ可きかな！」既に曰く：「朕は言を失う，崔司徒は惜しむ可く，李宣城は哀しむ可しか！」孝伯は，順之從父弟也，浩の誅せらるるより，軍國の謀議は皆孝伯が出て，寵は浩よりも眷亞なり。
●[車師国と沮渠国の争い]初め，車師大帥の車伊洛の世は魏に服し，魏は伊洛を拜して平西將軍とし，前部王に封じる。伊洛は將に入朝せんとす，沮渠の無諱は其の路を斷ち，伊洛は屢(しばしば)無諱と戰い，之を破る。無諱が卒し，弟の安周は其の子の乾壽の兵を奪い，伊洛は人を遣わして乾壽を說き，乾壽は遂に其の民五百餘家を帥いて魏に奔る；伊洛はまた李寶の弟の欽等五十餘人を說いて之を下し，皆魏に送る。伊洛は西の焉耆を擊ち，其の子の歇を留めて城を守る。沮渠の安周は柔然の兵を引いて間道から之を襲い，攻めて其の城を拔く。歇は走りて伊洛に就き，共に餘の眾を收めて，焉耆の鎮を保ち，使いを遣わして魏主に上書して，言わく：「沮渠氏の攻める所と為り，首尾八年，百姓は饑窮し，以って自から存する無し。臣は今國を棄て出奔し，免かるる者の三分の一を才するを得，已に焉耆の東境に至り，賑いを垂れて救うを乞う！」魏主は詔して焉耆の倉を開き以って之を賑にする。
●吐谷渾王の慕利延は魏の逼する所と為り，上表して入りて越巂（えつすい郡）を保つを求め，上は之を許す；慕利は延竟するも至らず。
■［宋の北伐作戦計画］上は魏を伐たんと欲し，丹楊の尹の徐湛之、吏部尚書の江湛、彭城太守の王玄謨等並びて之を勸む；左軍將軍劉康祖を以て為す「歲月已に晚，明年を待たんと請う。」上曰く：「北方は虐政に苦虜し，義徒は並び起つ。兵を頓して一週，義之心に沮（はば）み向かう，可からず。」
■太子の步兵校尉の沈慶之は諫めて曰く：「我は步彼は騎，其の勢には敵わず。檀道濟が再び行くも功無し，彥（ゲン、立派な男子）之失利を返すに到る。今王玄謨等を料るに，未だ兩將は逾かず，六軍之盛は，往時を過ぎず，重ねて王師を辱かしむるを恐る。」上曰く：「王師の再び屈するは，由有りより別れ，道濟は美しく寇して自ら資し，彥之中を塗りて動き疾し。恃する所の者を虜するは唯馬のみ；今夏の水は浩く汗し，河道は流れ通り，泛（ハン、ホウ、浮かぶ）舟は北下，碻磝は必ず走り，滑台は小さく戍(まも)り、覆い抜く可くは易し。此の二城に克ち、谷に館(た)ち民を弔う，虎牢、洛陽，自然に固まらず。比べて冬の初めに及び，城の守りは相接し，馬を虜にし河を過ぎ，即ち擒と成る也。」慶之又固く陳ず可からず。上は徐港之を使わし、江湛之を難じる。慶之曰く：「國を治めるは譬えば家を治める如し，耕は奴を問うに當たり，織は婢を訪ねるに當たる。陛下は今國を伐たんと欲し，而して白面の書生の輩と之を謀る，事何の由か濟まん！」上大いに笑う。太子劭及び護軍將軍蕭思話はまた諫め，上皆從わず。
●魏主は上が將に北伐せんと聞く，復た上書を與えて曰く：「彼は此の和の好き日久しく，而して彼の志は厭（いとい）無く，我が邊民を誘う。今春南を巡り，聊（いささ）か我が民を省み，驅して之に使いして還る。今彼が自ら來んと欲すと聞き，能く中山から桑干川に及び至りて設け，隨意行きて，來りてまた迎えず，去りてまた送らず。若し其の宇(のき、いえ)を區ぎる者と厭も，平城の居に來る可く，我また揚州に往くは，相與に易し。彼年は已に五十，未だ嘗て戶を出ず，自力と雖も來たりて，三歲の嬰兒の如く，我と鮮卑は馬上に長く生きる者果たして如何(いかん)哉！更に以て相與にす可く餘物は無く，今獵馬十二匹並に氈と藥等の物を送る。彼の來る道は遠く，乘る可く馬力は不足す；或は水土に服さず，藥は自ら療す可き也。」
■［宋の北伐作戦開始４５０年］秋，七月，庚午（１２日），詔して曰く：「虜（てき）は近くと雖も摧（くだ）き挫き，獸心は革に靡く。比(なら)べて河を朔るを得、秦、雍の華(色々な)戎は表に疏(とお)り，歸りて困棘(キョク、いばら)を訴え，跂（つまさきだつ）て望み綏拯（やすらかに助ける），潛んで相糾結して以て候王を師いる；芮芮（ぜんぜん、柔然）また間使を遣して遠く誠款を輸(はこ)び，誓いて掎（ひきとめる）角と為す；經略之會，實に茲(ジ、ここ)日に在り。寧朔將軍王玄謨と太子の步兵校尉の沈慶之、鎮軍咨議參軍の申坦の水軍を帥いて河に入り，受けて青、冀二州刺史の蕭斌を督し遣す可し；太子の左衛率の臧質、驍騎將軍の王方は回りて徑を許り、洛に造(いた)る；徐、兗二州刺史の武陵王駿、豫州刺史の南平王鑠は各所部を勒して，東西齊に舉ぐ；梁、南、北秦三州の刺史劉秀之は汧、隴を震盪す；太尉の江夏王義恭は彭城を出次し，眾軍節度と為す。」坦は，鐘の曾孫也。
■是の時軍旅を大いに起こし，王公、妃主及朝士、牧守，下は富民に至り，各金帛を獻じ、雜物を以て國の用を助く。又以て兵力は不足し，青、冀、徐、豫、二兗六州の悉く三五民丁を發し，倩って使い暫く行く，符して十日に至り裝束す；緣江の五郡は廣陵（揚州市）に集まり，緣淮の三郡は盱眙に集まる。又中外の馬步有り眾藝の武力之士を募り科に應ずる者，皆な厚き賞を加う。有司又軍用充たさずと奏し，揚、南徐、兗、江四州の富民家の貲滿五十萬，僧尼滿二十萬，並に四分に一を借り，事の息即ち還る。
■建武司馬の申元吉は兵を引いて碻磝に趨く。乙亥，魏の濟州刺史の王買��は城を棄てて走る。蕭斌は將軍崔猛を遣して樂安（江西省撫州？）を攻め，魏の青州刺史の張淮之も亦城を棄てて走る。斌と沈慶之は碻磝を留め守り，王玄謨をして進めて滑台を圍ましむ。雍州刺史の隨王誕は中兵參軍の柳元景、振威將軍の尹顯祖、奮武將軍の曾方平、建武將軍の薛安都、略陽太守の龐法起の將兵を(派)遣して弘農に出んとす。後軍外兵參軍の龐季明，年七十餘，自ら以て關中により豪右となし，長安に入りて夷、夏を招會すを請い，誕之を許す；乃ち貲谷より盧氏に入る，盧氏の民趙よ難く之を納む。季明遂に士民を誘說し，應ずる者甚だ眾く，安都等之に因りて，自ら熊耳山に出る；元景は兵を引いて繼き進む。豫州刺史の南平王鑠は中兵參軍の胡盛之を遣して汝南を出，梁坦は上蔡を出て長社に向かう。魏の荊州刺史の魯爽は長社に鎮し，城を棄てて走る。爽は，軌の子也。幢主の王陽兒は魏の豫州刺史の僕蘭を擊ち，之を破り，僕蘭は虎牢に奔る；鑠は又安蠻司馬の劉康祖の将兵を遣して坦を助けんとし，虎牢に進逼す。
●［北魏の反撃開始］魏の群臣初めて宋の師有るを聞き，魏主に言い，兵を遣して(黄)河の緣の谷帛を救わんと請う。魏主曰く：「馬は今は未だ肥えず，天の時は尚熱し，速に出でて必ず功無し。若し兵の來る止まずば，且つ陰山に還りて之を避く。國人は羊皮褲を本著す，何の綿帛を用すか！展べて十月に至り，吾憂うる無し矣。」
●九月，辛卯（３４日不適合），魏主は兵を引いて南滑台を救い，太子晃に命じて漠南に屯し以て柔然に備え，吳王余は平城を守る。庚子（４３日不適合），魏州郡兵五萬分を發して諸軍に給す。
■王玄謨の士眾は甚だ盛にして，器械は精嚴なり；而して玄謨貪して愎た好く殺す。初め滑台を圍み，城中に茅屋多く，眾は火箭を以て之を燒くを請う。玄謨曰く：「彼は吾が財也，何んぞ遽きて之を燒かん！」城中は即ち屋を撤し處を穴とする。時に河、洛之民は競いて租谷を出、兵を操り來赴する者日に以って千數，玄謨其の長帥に即ならず而して配を以て私に暱す；家に付匹布，大梨八百を責とす；是れに由りて眾心は失望す。攻城數月も下らず，魏の救い(救援)將に至らんとを聞き，眾は車を發して營と為さんと請うも，玄謨從はず。
■[垣護之の百舸の逃走]是より先，玄謨は鐘離太守の垣護之を遣わし百舸を以て前鋒と為し，石濟に據く，滑台の西南百二十里に在り。護之魏兵の將に至らんとすを聞き，書を馳せ玄謨に急いで攻めるを勸めて曰く：「昔武皇の廣固を攻める，死沒者は甚だ眾し。況んや今事は曩日に迫る，豈士眾の傷つき疲れるを計り得んや！願くば屠城を以て急に為さん。」玄謨從はず。玄謨敗退するに及び，護之に報せる暇なし。魏人は以て玄謨の戰艦を所得し，鐵鎖の三重を以て連ね，河を斷ち以て護之の還る路を断つ。河水は迅急，護之は中流を下る。鐵鎖に至る毎に，長柯の斧を以て之を斷ち，魏は禁ずる能わず；唯だ一舸を失い，餘は皆な完備して返る。
●[蕭斌と沈慶之と玄謨の遭遇]蕭斌は沈慶之の將五千人を遣わして玄謨を救わんとし，慶之曰く：「玄謨の士眾は疲老し，寇虜已に逼まり，數萬人を得れば乃ち進む可し。小軍で輕く往くは，無益也。」斌は固く之を遣わす。玄謨の遁り還るに會いて，斌は將に之を斬らんとし，慶之固く諫めて曰く：「佛狸の威は天下を震わし，控弦は百萬，豈に玄謨の能く當たらんとする所や！且つ戰將を殺すは以って自ら弱める，良計に非ざる也。」斌乃ち止む。
■斌は固く碻磝を守らんと欲し，慶之曰く：「今青、冀は虛弱，而して坐して窮城を守り，若し虜眾東を過ぎれば，清東は國家に有らざる也。碻敖は磝(小石のように)孤絕し，復た未だ修ならず之滑台のみ作る。」會して詔使至り，斌等は退師を聽かず。斌復た諸將を召いて之を議し，江に並んで宜しく留まるを謂う。慶之曰く：「閫外之事は，將軍以て之を專すを得。詔に從いて遠來，事勢を知らず。節下（旗の下）に一有り范�瓩鰺僂い詛修錣此ざ�議何を施すか！」斌及び坐る者は並びて笑いて曰く：「沈公は乃ち更らに學問すか！」慶之は�吩瓩靴遁�く：「眾人は古今を知ると雖も，下官の耳學(問)に如かず也。」斌は乃ち王玄謨を碻磝申坦に戍かし，垣護之は清口に據きしめ，自ら諸軍を帥いて歷城（山東省済南市歴城区）に還る。
■[龐法起等は盧氏・弘農に侵攻]（十月）閏月，龐法起等の諸軍は盧氏に入り，縣令の李封を斬り，以て趙難を盧氏の令と為し，其の眾を帥いて鄉導と為さしむ。柳元景は盧氏の諸軍を從えて百丈の崖に自(よ)る。法起等は弘農に進攻し，辛未（１５日），之を拔き，魏の弘農太守の李初古拔を擒にす。薛安都は弘農（洛陽西方）に留屯す。丙戌（３０日?），龐法起は潼關に進み向う。
●［北魏の本格的侵攻］魏主は諸將に命じて分道して並進す：永昌王仁は洛陽より壽陽に趨き，尚書の長孫真は馬頭に趣き，楚王建は鐘離に趣き，高涼王那は青州より下邳に趣き，魏主は東平より鄒山に趣く。
●十一月，辛卯（５日），魏主は鄒山に至る，魯郡の太守の崔邪利は魏の擒とする所と為る。魏主は秦始皇の石刻を見，人を使わして排して之を僕し，太牢を以て孔子を祠る。
■楚王建は清より西進して，蕭城に屯す；步尼公は清より東進して，留城に屯す。武陵王駿は參軍の馬文恭の將兵を遣わして蕭城に向かい，江夏王義恭は軍主の嵇玄敬の將兵を遣わして留城に向かう。文恭は魏の敗るる所と為る。步尼公は玄敬に遇い，兵を引いて苞橋に趣き，清西に渡らんと欲す；沛縣の民は苞橋を燒き，夜林中に於いて鼓を擊き，魏は宋兵大いに至る以為(せい)にて，爭って苞水を渡り，溺死者は殆半ばとなる。
■［弘農と陝城の戦い］詔して柳元景を以て弘農太守と為す。元景は薛安都に使いし、尹顯祖は先ず兵を引いて龐法起等に陝において就き，元景は後において租を督す。陝城は險固，諸軍は之を攻めて拔けず。魏の洛州刺吏の張是連提は眾二萬を帥いて度崤(函谷關あたり)と陝を救い，安都等と城南に於いて戦い，魏人は縱に突騎し，諸軍敵する能わず；安都は怒り，兜鍪を脫ぎ，鎧を解き，唯だ絳納の兩當衫を著し，馬もまた具裝を去り，目を瞋(シン、いから)して矛を横にし，單騎で突陳す；向かう所前無く，魏人は夾射中(あ)たる能わず。是くの如く數四，殺傷の勝に數う可からず。日暮に會し，別將の魯元保は兵を引いて函谷關より至り，魏兵は乃ち退く。元景は軍副の柳元怙の將と步騎二千を遣わして安都等を救い，夜に至るも，魏人之を知らず。明くる日，安都等は城の西南に於いて陳(つら)ねる。曾方平は安都に謂って曰く：「今勍(つよ)い敵は前に在り，堅城は後に在り，是れ吾の死を取るの日。卿若し進まずば，我は當に卿を斬らん；我若し進まずば，卿我を斬る也！」安都曰く：「善し，卿の言は是れ也！」遂に合戰す。元怙は兵を引いて南門自り鼓噪して直に出，旌旗は甚く盛ん，魏の眾は驚駭す。安都は身を挺して奮擊し，流血は肘に凝り，矛は折れ，之更に入るは易く，諸軍は齊び奮う。旦自り日昃に至る，魏の眾は大潰し，張是連提及び將卒三千餘級を斬る。其の餘は河に赴き塹死者甚く眾，生きて降る二千餘人。明くる日，元景は至り，降者に讓りて曰く：「汝輩は本の中國民，今虜と為り力盡き，力屈乃降，何かん也？」皆曰く：「虜驅の民を戰いに使い，後出者は族を滅し，騎を以て蹙(シュク、ける)步，未だ戰わざるに先ず死し，此の將軍を親しく見る所となる。」諸將は盡く之を殺さんと欲し，元景曰く：「今王旗は北を指し，令に當たりて仁聲が先路。」盡く釋して之を遣り，皆萬歲を稱して去る。甲午（８日），陝城に克つ。
■龐法起等は潼關に進攻し，魏の戍主婁須は城を棄てて走り，法起等之に據る。關中の豪桀の在する所蜂起し，四山の羌、胡に及び皆な來りて送款す。
■［宋の前線縮小］上は王玄謨を以て敗退し，魏兵は深く入り，柳元景等は獨り進む宜からず，皆召還す。元景は薛安都に使いして後を斷ち，兵を引いて襄陽に歸る。詔して元景を以て襄陽太守と為す。
■南平王鑠は左軍行參軍の王羅漢を三百人を以て尉武に戍かしむ。魏兵至り，眾は南の卑林に依りて以って自ら固めんと欲し，羅漢は命を受けるを以て此に居り，去らず。魏人は攻めて之を擒にし，其の頸に鎖し，三郎將をして之を掌にさす；羅漢は夜に三郎將の首を斷ち，鎖を抱いて盱眙に亡奔す。
●魏の永昌王仁は壽陽に進逼し，馬頭、鐘離を焚掠し、，南平王鑠は嬰城を固守す。
●［江夏王義恭の彭城放棄］魏軍は蕭城に在り，彭城に支する十餘里。彭城の兵多いと雖も，食少く，太尉の江夏王義恭は彭城を棄てて南歸せんと欲す。安北中兵參軍の沈慶之は歷城の兵少なく食多しの以為にして，函を為して箱車を陳（の）べんと欲し，精兵を以て外翼と為し，二王及び妃女を奉じて歷城に直趨す；兵を分けて護軍蕭思話を配し，留守の彭城に使いす。太尉長史の何勖は郁洲を奔り席捲し，海道より京師に還らんと欲す。義恭は意を去りて已に判ず。唯だ二議すること彌日未だ決せず。安北長史の沛郡太守の張暢は曰く：「若し歷城、郁洲至る之理有るべく，下官敢えて高贊せず！今城中に食乏しく，百姓の走る志有るを鹹し，但だ關扃(ケイ、かんぬき)を以て嚴固にし，去りて從わう莫かれと欲すのみ。一旦足を動かせば，則ち各自逃散し，在る所に至らんと欲す，何に由りて得る可くんや！今軍食は是れ寡(すく)なく，朝夕猶お未だ窘罄(キンケイ、せまる空)せず；豈に萬安の術を捨てて危亡の道に就く有らざらんや？若し此の計を必ず行わば，下官は頸血を以て污公を馬蹄すを請う。」武陵王の駿は義恭に謂いて曰く：「阿父は既に總統と為り，留むるに非ざる所敢て干して去り，道民は忝(かたじけな)くも城主となり，而して鎮に委ねて逃げ奔り，實に復た朝廷を報ずるに顔無し。必ず此城と共に其の存沒し，張長史の言は異なる可からず也。」義恭は乃ち止む。
●[魏主彭城を臨む]壬子（２６日），魏主は彭城に至り，戲馬台の氈屋に立ちて以て城中を望む。
●馬文恭之敗する也，隊主蒯應は魏に於いて沒す。魏主は應に遣して小市門に至り酒及甘蔗を求める；武陵王駿は之と，仍(かさ)ねて就けて橐駝(らくだ)を求める。明くる日，魏主は尚書の李孝伯を使いして南門に至り，義恭に貂裘(チョウキョウ、てんの皮衣)を餉（しょう、贈る）り，駿に橐駝及騾(ラ、ろば)を餉り，且つ曰く：「魏主は安北に意至り，暫(しばら)く出でて我を見る可し；我亦た此城を攻めず，何の為か將士を勞苦させ，此くの如く備守せんや！」駿は張暢に開門し出でさせて之を見て，曰く：「魏主の意は安北に至り，常に面を寫(写)すに遲れ，但だ人臣を以て境外之交無く，恨みて悉く暫ならず。備守は乃ち邊鎮之常，��びて以て之に使いし，則ち勞して怨むことなきのみ。」魏主は甘橘を及び博具を借りるを求め，皆之を與う；復た氈及九種の鹽胡豉を餉る。又樂器を借り，義恭之に應じて曰く：「任を受けて戎め行い，樂具を繼がず。」孝伯は暢に問いて：「何為んぞ匆匆と閉門し橋を絕つか？」暢曰く：「二王は魏主の營壘未だ立たず以て，將士は疲勞す。此の精甲は十萬，輕相陵踐を恐れ，故に城を閉じるのみ。待ちて士馬を休息し，然る後共に戰場に治し，日を刻して交戲する。」孝伯曰く：「賓に禮(礼)有り，主は則ち之を擇す。」暢曰く：「昨は眾賓の門に至るを見，未だ禮有りと為さず。」魏主は人を使いして來りて言って曰く：「太尉、安北の意に致り、，何んぞ人を遣して我の所に至り來ざらんや？彼の此之情は，雖(た)だ盡くす可からず。要須（必要）とするは我の小大を見，我の老小を知り，我人と為すを觀る。若し諸の佐遣す可からざれば，亦た僮幹の來らしむ可し。」暢は以て二王に命じて對えて曰く：「魏主の形狀才力は，久しく所具の來往と為る。李は尚書して親しく自ら命を銜（ふくみ、轡）み，彼と此の不盡を患わさず，故に復た遣使せず。」孝伯は又曰く：「王玄謨は亦た常に才のみ，南國何意か此の如く任使を作り，以て奔敗に致るか？自ら此境七百餘里に入りて，主人の竟は一相拒逆に能わず。鄒山之險，君の家の所の憑(馮氏の残党の意味か)，前鋒は始め接し，崔邪利(崔浩の意味か?)は遽藏し穴に入り，諸將は倒れ曳きて之を出す。魏主は其の餘生を賜わり，今此に在りて從う。」暢曰く：「王玄謨は南土の偏將，才と為すと謂わず，但だ以て之の前驅と為し，大軍至らず，河冰は向い合い，玄謨は因って夜軍を還し，戎馬の小亂に致るのみ。崔邪利は陷沒し，何んの國の損するか！魏主は自ら數十萬の眾を以て一崔邪利を制し，乃ち言足りる邪！入境七百里相拒む者無きを知り，此によりて太尉は神算，鎮軍は聖略，用兵は機を有し，相語は用いず。」孝伯曰く：「魏主當に此の城を圍まず，自ら眾軍を帥いて直に瓜步に造（いた）る。南の事を若し辦ずれば，彭城は圍むを待たず；若し其の捷たざれば，彭城は亦た須する所にあらず也。我は今當に南は江湖を飲み以て渴を療するのみ。」暢曰く：「去留之事，自ら彼の懷に適す。若し虜馬遂に江を飲むを得るや，復た天道無しと為すの便。」是より先童謠に云ふ：「虜馬は江水を飲み，佛狸は卯年に死す。」故に暢は云うは然り。暢の音容は雅麗にして，孝伯左右は皆と歎息す。孝伯はまた辯じて贍（足す）し，且つ去り，暢に謂って曰く：「長史は深く自らを愛し，相い去る步武，恨みて手を執らず。」暢曰く：「君は善く自らを愛し，冀の蕩の期有るを定める，相い見るに遠無し。君若し宋に還る期を得んや，今相い識る之始めと為す」。
■上は楊文��を輔國將軍と為して起ち，兵を引いて自ら漢中に西入し，汧、隴を搖動す。文��の宗人楊高は陰平に帥き、平武の群氐は之を拒む。文��は擊高し，之を斬り，陰平、平武悉く平らぐ。梁、南秦二州の刺史劉秀之は文��に遣して啖提氐を伐つも，克たず，執りて荊州に送る；(上は)文��の從祖兄頭をして葭蘆に戍せ使む。
■丁未（２１日），大赦す。
●[北魏軍は彭城を残して南下す]魏主は彭城を攻め，克たず。十二月，丙辰朔（１日），兵を引いて南下，中書郎の魯秀を使いし廣陵に出，高涼王那は山陽に出，永昌王仁は�垤召暴个気靴瓠げ瓩阿觸袤面任擦兇襪鰐気�，城邑は皆な風を望んで奔潰（潰れ奔る）す。戊午，建康は纂嚴（集めて厳しい）なり。己未，魏兵淮（河の）上に至る。
■上は輔國將軍の臧質を使わせて將に萬人を彭城にて救わんとす。盱眙に至るも，魏主は已に淮を過ぎたり。質は冗從僕射の胡崇之を使とし、弩將軍の臧澄の營を東山に積み，建威將軍の毛熙祚を前浦に據かしめ，質の營を城南にす。乙丑（１０日），魏の燕王譚は崇之等の三營を攻め，皆敗沒し，質は兵を敢えて救わずと案ず。澄（崇）之は，��之の孫なり；熙祚は，修之之兄子也。是の夕，質の軍はまた潰れ，質は輜重器械を棄て，單將七百人にて城に赴く。
■[盱眙太守の沈璞の死守で魏軍食糧不足]初め，盱眙太守の沈璞が（盱眙の）官に到り，王玄謨はなお滑台に在りて，（揚子）江と淮（河）には警（戒）無し。璞は郡を以って衝要（衝きあたる要地）に當て，乃ち城を繕いて隍を浚え，財を谷に積み，矢石を儲け，城の守備を為す。僚屬は皆な之に非ず，朝廷は亦た以って過ちを為す。魏兵の南に向かうに及び，守宰（守備隊長）は多く城を棄てて走る。或（人）は璞に宜しく建康に還らんと勸め，璞は曰く：「虜が若し城小なるを以て顧みざれば，夫れ復た何んぞ懼れんや！若し肉薄來攻すれば，此れ乃ち吾は報國之秋，諸君は封侯之日也，奈何んぞ之を去らんや！諸君は嘗て數十萬人の聚を小城之下に見て敗れざる者乎？昆陽、合肥は，前事之明かなる（経）驗也。」眾の心は稍定まる。璞は收集して二千の精兵を得て，曰く：「足る矣！」臧質が城に向かうに及び，眾は璞に謂いて曰く：「虜が若し城を攻めざれば，則ち眾の事する所無し；若し其れ（虜）が城を攻めれば，則ち城は見力の可容を中止するのみ。地狹に人多く，鮮（くっきりとは）かに患と為さず。且つ敵は眾（おお）く我は寡（すく）ないのは，人は共に知る所，若し質の眾を以って能く敵を退け完城する者ならば，則ち全功は我に在らず；若し罪を避けて都に歸れば，舟楫に會いて資（たす）け，必ず更に相い蹂踐（ふみにじる）す。正に足るは患いと為り，門を閉じて受くる勿かれに若かず。」璞は歎じて曰く：「虜は必ず城に登る能わず，敢えて諸君の之を保つと為す。舟楫之計は，固く已に久しく息（や）み，虜之殘害は，古今有らず，屠（切り裂く）剝の苦は，眾の共に見る所，其の中の幸者は，驅して北國に還り奴婢を作るを得るに過ぎざるのみ。彼は烏合と雖も，寧ろ此を憚れざらん邪！所謂『同舟すれば濟，胡、越は一心』の者也。今兵多ければ則ち虜は速く退き，少ければ則ち緩かに退く。吾は寧ろ功めに專じ虜を留めんと欲す可ならん乎！」乃ち開門して質を納める。質は城中を見るに豐實（豊かに実り），大喜，眾は皆な萬歲を稱し，因って璞と共に守る。魏人の南寇する也，糧用は繼がず，唯だ以って抄（そのもの）掠を資（本）と為す。淮（河）を過ぎるに及び，民多く竄（のように）匿し，抄掠して得る所無く，人馬は饑えて乏し；盱眙に積粟が有りと聞き，以て北に歸るの資（本）と為さんと欲す。既に崇之等を破り，一攻して城拔かず，即ち其の將韓元興を留め以って數千人で盱眙を守り，自ら大眾を帥いて南に向う。是に由りて盱眙は益守備を完ずを得る。
●[魏主瓜步に至る]庚午（１５日），魏主瓜步に至り，民の廬舍を壞し，及び葦を伐りて筏となし，江を渡らんと欲すと聲言す。建康は震え懼れ，民は皆な荷を擔いで立つ。壬午（２７日），內外戒嚴し，丹陽の統內は盡く戶丁を發し，王公以下子弟は皆な役に從う。領軍將軍の劉遵考等に命じて將兵を分けて津と要を守らせ，游邏して上は湖に接し，下は蔡洲に至り，艦を陳し營を列にし，（揚子）江の濱を周亙す。自ら石を採りて暨陽に至る，六七百里。太子劭は石頭に出鎮し，水軍を總統し，丹楊尹の徐湛之は石頭倉城を守る，吏部尚書の江湛は領軍を兼ね，軍事の處置悉く以って委焉す。
■[檀道濟若し在ればと上嘆く]上は石頭城に登り，憂色有り，江湛に謂って曰：「北伐之計，同議する者少し。今日士民は勞れ怒り，慚（はじ）無しを得ず。貽の大夫の憂いは，予の過ち也。」又曰く：「檀道濟若し在れば，豈に胡馬の此に至ら使めざらんや？」上は又莫府山に上り，形勢を觀望し，魏主及王公首に，封爵を許し、金帛を購う。又た人を募って野葛酒を繼ぎて空村の中に置き，以て魏人を毒さんと欲するが，竟（つい）に傷つく能わず。
●魏主は瓜步山を鑿ちて蟠道を為し，其上に氈屋を設く。魏主は河南の水を飲まず，橐駝（ラクダ）を以て河北の水を負わせて自ら隨う。上に橐駝、名馬を餉（おく）り，並に和を求め，婚を請う。上は奉朝請田を遣して奇しくも珍羞の異味を以て餉る。魏主は黃甘を得て，即ち之を啖（く）らい，並に大いに酃酒（三国時代の名酒・長沙の酃湖の水で作った酒）を進む。左右に耳を附けて（耳打）語る者有り，食中に毒有るを疑う。魏主應じず，手を舉げて天を指し，以て其の孫に示奇（偏执于稀少为贵的原则，盲目出新）して曰く：「吾は遠く來て此に至り，功名を為さんと欲すに非ず，實に民を息させ好く繼かさんと欲し，永に姻援を結ばん。宋が若し能く此の孫に女妻を以てせば，我は女妻を武陵王に以てし，今より匹馬復た南を顧みず。」
■[江湛殺害]奇しくも還り，上は太子劭及び群臣を召して之を議す。眾は並びて宜しく許さんと謂い，江湛は曰く：「戎狄に親無く，之を許すは無益なり。」劭は怒り，湛に謂って曰く：「今三王に厄在り，詎を宜く苟くも異議を執らん！」聲色は甚だ�辧淵譽ぁ�厳しい）。坐して散じ，俱に出で，劭は劍を班（組み分け）し及左右に湛を排せ使め，湛は幾（ばくもなく）僵仆（キョウフ、倒れる・死ぬ）に至る。
■劭は又た上に言って曰く：「北伐は敗辱，數州は淪（ほろ）び破れ，獨り江湛を斬るる有り、徐湛之は以て天下に謝す可し。」上は曰く：「北伐は是我が意なり，江、徐但だ異ならずのみ。」是に由りて太子は江、徐とは平らかならず，魏はまた竟に婚成らず。
ネットで原文があるのでそれをもとに、約半年かけて、漢文再勉強。悪戦苦闘の末。中間報告。
資治通鑑 第125卷
■は宋、●は北魏の記事
【宋紀七】 起強圉大淵獻，盡上章攝提格，凡四年。
太祖文皇帝中之下元嘉二十四年（丁亥，公元447年）（魏の太平真君８年）
■春，正月，甲戌（２６日），大赦す。
●魏の吐京胡及び山胡の曹僕渾等が反く；二月，征東將軍の武昌王提等が之を討ち平らぐ。
●癸未（５日），魏主は中山に如く。
●［北涼の沮渠牧犍賜死］魏は之を師いて敦煌に克つ也，沮渠牧犍（北涼３代目）は人を使わして府庫を斫（き）り開け，金玉及び寶器を取り，因りて復た閉めず。小民爭って之に入り盜み取り，有司は索盜を獲ず。是に至りて，牧犍の親しい所及び守藏者が之を告げ，且つ牧犍父子は多く毒藥を蓄え，潛かに人を殺すこと前後に以て百數と言う；姊妹皆な左道に學ぶ。有司が牧犍の家を索し，匿くす所の物を得る。魏主大いに怒り，沮渠昭儀（後宮の興平公主）に死を賜わり，並びに其の宗族を誅し，唯だ沮渠の祖の先を以て降るを免ずるを得る。又牧犍に告げて猶を故（ふる）き臣民の交通し謀反する者有りと，三月，魏主は崔浩を遣わして第に就きて牧犍に死を賜わって，謚して哀王と曰う。
●魏人は定州丁零の三千家を平城に徙す。
●六月，魏の西征の諸將は風公と處真等八人を扶けて，坐して盜沒する軍資及び虜掠の贓は各千萬計り，並びて之を斬る。
■[宋の貨幣の改鋳]初め，上は貨の重物の輕を以て，改めて四銖錢を鑄す。民は多く古錢を翦鑿し，銅を取りて鑄を盗む。上之を患う。錄尚書事の江夏王義恭は建議して，以て大錢の一を兩に當てるを請う。右僕射の何尚之議して曰く：「夫れ泉貝之興は，估貨を以て本と為し，事は交易に存し，豈に多鑄に假らんや！數少なければ則ち幣は重く，數多ければ則ち物重し，多少異なると雖も，濟用は殊ならず。況んや復た以て一を兩に當てる，徒らに虛しく價を崇める者邪？若し今制を遂行するや，富人は之の貲を自ずと倍し，貧者は其の困を�瓩后で靴魘冱紊算箸爐觸螳福覆罎┐鵝砲鉾鵑兇襪鰒�る也。」上は義恭の議に從いて卒える。
■秋，八月，乙未（２０日），徐州刺史の衡陽文王義季が卒す。義季は彭城王義康之貶に自き，遂に酒に縱り不事を事とす。帝書を以て誚責し，且つ之を戒めるも，義季は猶を酣飲自若，以て疾と成るに至り終わりぬ。
●魏の樂安宣王范卒す。
■冬，十月，壬午（８日），胡籓之子の誕世は豫章太守の桓隆之を殺し，郡に據りて反し，前彭城王の義康を封じて主と為そうと欲す；前交州刺史の檀和之は官を去りて歸り，豫章を過ぎ，擊ちて之を斬る。
■十一月，甲寅（１０日），皇子渾を封じて汝陰王と為す。
●十二月，魏の晉王伏羅卒す。
●[楊文��の反乱]楊文��は葭蘆城に據りて，氐を招き誘い、羌，武都等五郡と氐は皆之に應ず。
太祖文皇帝中之下元嘉二十五年（戊子，公元448年）
●春，正月，魏の仇池の鎮將の皮豹子は諸軍を帥いて之を擊つ。文��の兵敗れ，城を棄てて漢中に奔る。豹子其の妻子を收め、僚屬、軍資及び楊保宗の所尚を魏公主に還す。
●初め，保宗が將に叛かんとするに，公主之を勸ぶ。或るひと曰く：「奈何をして父母之國に叛かんとすか？」公主曰く：「事成れば，一國之母と為る，豈に小縣の公主に比べる哉！」魏主之に死を賜う。
楊文��は坐して守りを失う，官を免じ，爵土を削る。
●二月，癸卯（３１日=二月閏朔日），魏主定州に如き，塞を圍む役の者を罷める；遂に上黨に如き，潞縣の叛民二千餘家を誅し，河西の離石の民五千餘家を平城に徙す。
■閏月，己酉（７日），帝は大蒐を宣武場に於いてなす。
■[宋の庾炳之失脚]初め，劉湛既に誅せられ，庾炳之は遂に見みえ寵任，累遷して吏部尚書となり，勢いは朝野を傾く。炳之に文學無く，性は強急で輕淺。既に選部に居し，好く賓客に詬（コウ、辱める）詈し，且つ多く貨賂を納め，士大夫は皆な之を惡む。
■炳之は令史二人を私宅に宿し留め，有司の糾する所と為る。上は其の過に薄く問わざらんと欲す。僕射の何尚之は因りて炳之に極陳して之を短く曰く：「炳之の人を見るに燭盤、佳驢有り，乞丐(きっかい、乞食)せざるなからん；選び用うるに平らかならず，一二は可ならず；朋黨と交わり結び，扇を構えて是非し，亂俗にして傷風，范曄（後漢書を著作した政治家）を過ぎるに，所少なく，一事を賊する耳(のみ)。縱に罪を加えず，故に宜しく之に出ず。」上は以って炳之を丹陽尹と為すを欲す。尚之曰く：「炳之の蹈む罪は恩に負け，方や復た尹京に赫赫たるの授有り，乃して更に其の形勢成る也。古人云く：『賞無くして罰無し，堯舜と雖も、治を為す能わず。』臣は昔の范曄に啟い，亦た顏を犯すを懼れ，苟しくも愚かな懷を曰ひ，九死に悔いず。古今を歷觀するに，未だ眾の藉藉を過ぎる有りて，貨數の百萬を受け，更に高官と厚祿を得るは炳之に如く者はなからん也。」上乃ち炳之の官を免じ，以って湛之を丹陽尹と為し徐す。彭城太守の王玄謨は上に言わく：「彭城（徐州）は水陸を兼ねるを要す，皇子を以て臨州を撫す事を請う。」夏，四月，乙卯（１４日），武陵王駿を以て安北將軍、徐州刺史と為す。
●五月，甲戌（４日），魏は交趾公韓拔を以て鄯善王と為し，鄯善を鎮め，其の民に賦役し，之の郡縣に比す。
■當兩の大錢を經に行う時，公私に便と為さず；己卯（９日），之を罷む。
■六月，丙寅（２４日），荊州刺史の南譙王義宣を進めて司空の位とす。
●辛酉（２１日），魏主は廣��宮に如く。
■秋，八月，甲子（２５日），皇子��を封じて淮陽王と為す。
●西域の般�Ｔ�(西域の一国家)は平城を去ること萬有餘里，遣使して魏に詣でる，魏に請うてともに東西から柔然を合い擊つことを。魏主之を許す，中も外も戒嚴す。
■九月，辛未（２日），尚書右僕射の何尚之を以て左僕射と為し，領軍將軍の沈演之を吏部尚書と為す。
●丙戌（１７日），魏主陰山に如く。
●[焉耆戦]魏の成周公の萬度歸は、焉耆を撃ち，大いに之を破り，焉耆王の鳩屍卑那は龜茲に奔る。魏主は詔して唐和と前部王の車伊洛に所部を師いて兵に會し度歸は西域を討たしむ。和して柳驢等六城を說き降す，因りて共に波居羅城を撃ち，之を拔く。
●冬，十月，辛丑，魏の弘農昭王の奚斤卒す，子の它觀襲う。魏主曰く：「斤の關西之敗は，罪は固く死に當たる；朕は斤を以て先朝を左命し，其の爵邑を復し，終に天年を得さ使め，君臣の分また足る矣。」乃して降った它觀に爵して公と為す。
●癸亥，魏大赦す。
●[焉耆戦]十二月，魏の萬度歸は焉耆より西の龜茲を討つ，唐和鎮を焉耆に留む。柳驢戍主の乙直伽は謀叛す，和い擊ちて之を斬る，是によりて諸胡は鹹（しお）を附け，西域復た平らぐ。
●[柔然戦]魏の太子朝は行宮に於いて，遂に從いて柔然を伐つ。至って降城を受け，柔然を見ず，因りて積糧は城內にあり，戍を置いて還る。
太祖文皇帝中之下元嘉二十六年（己丑，公元449年）
●[北魏の柔然戦]春，正月，戊辰朔（１日），魏主は群臣を漠南に於いて饗す。甲戌（７日），復た柔然を伐つ。高涼王那は東道に出，略陽王羯兒は西道に出，魏主と太子は涿邪山に出，行數千里。柔然の處羅可汗恐懼して，遠く遁る。
■二月，己亥（３日），上は丹徒の如く，京陵を謁す。三月，丁巳（朔日は丁卯、53-3+1=51で暦不適当），大赦す。諸州に募って移を樂とする者の數千家を以て京口に實す。
●庚寅（２４日），魏主は平城に還る。
■夏，五月，壬午（１７日），帝は建康に還る。
●庚寅（２６日），魏主は陰山に如く。
■[宋の北伐中止]帝は中原を經略せんと欲し，群臣は爭って獻策し迎合を以て寵を取る。彭城太守の王玄謨は尤（ユウ、とがめる、もっとも）好進言し，帝の侍臣に謂って曰く：「玄謨の觀る所を陳ず，人を令して狼の居の須（もとむ）意を封じる有り。」御史中丞の袁淑は上に言って曰く：「陛下は今當に趙、魏を席捲し岱宗を檢玉す；臣は千載之會に逢い，上に封禪書を願う。」上��ぶ。淑は，耽之曾孫也。秋，七月，辛未（７日），廣陵王誕を以て雍州刺史と為す。上は以って襄陽の外接の關、河，廣の其の資力を欲し，乃ち江州軍府を罷め，文武を悉く雍州に配す；湘州に入る台租稅は，悉く襄陽に給す。
●[北魏の柔然戦]九月，魏主柔然を伐つ。高涼王那は東道に出，略陽王羯兒は中道に出。柔然の處羅可汗は國中の精兵を悉くし那の數十里を圍む；那は塹を堀り堅守，相持つこと數日。處羅は數挑戰，輒（すなわ）ち那に敗るる所と為る。那の眾の少く堅きを以て，大軍が將に至らんと疑い，圍を解いて夜去る。那は兵を引いて之を追う，九日九夜。處羅は益懼れ，輜重を棄て，逾穹隆嶺の遠く遁る。那は其の輜重を収め，軍を引いて還り，廣澤に於いて魏主と會う。略陽王羯兒は柔然の民や畜の凡そ百餘萬を収む。是れより柔然は衰弱し，屏の跡を敢えて犯し魏の塞を犯さず。冬，十二月，戊申（１７日），魏主平城に還る。
■[宋の蠻討伐]沔北諸山の蠻（虫、反乱一揆）が雍州を寇す，建威將軍の沈慶之は後軍中兵參軍柳元景を帥いて、郡太守宗愨等二萬人を隨え之を討ち，八道俱に進む。是より先，諸將の討蠻者は皆山の下に營じ以て之に迫り，蠻は山に據りて矢石を發すを得以て擊ち，官軍多いに不利。慶之曰く：「去る歲に蠻は田大きく稔り，穀を積み重巖，之に曠日を與うべからず相守る也。其の不意に出てしかば，其の腹心を沖し，之を破るは必ず矣。」諸軍に命じて木を斬り山に登り，鼓を前で噪し，群蠻は震え恐る。因りて其の恐れに乗じて之を撃ち，向かう所奔らせ潰ぶす。
太祖文皇帝中之下元嘉二十七年（庚寅，公元450年）
●春，正月，乙酉（２４日），魏主洛陽に如く。
■[宋の蠻討伐]沈慶之は冬より春に至り，雍州の蠻を屢破す。因りて蠻の所の聚谷は以て軍食に充ち，前後斬首は三千級，二萬八千餘口を虜とし，降者は二萬五千餘戶。幸諸山の大羊蠻憑は險しい城を築き，守禦は甚だ固し。慶之は之を撃ち，諸軍に命じて山中に於いて連營し，門を開いて相通じ，各は池を營內に穿ち，朝夕外に汲まず。之の頃，風甚しく，蠻は兵を潛して夜來營を燒く。諸軍池水を以て火を沃し，多く弓弩を出して之を夾射し，蠻の兵は散じて走る。蠻の據する所は險固，攻める可からず，慶之は乃ち六戍を置いて以て之を守る。之久しく，蠻は食を盡し，稍稍降を請う；悉く建康に遷して以て營戶と為す。
●[北魏の南進]魏主將に入寇せんとす。二月，甲午（３日），梁川に於いて大獵す。■帝之を聞き，淮、泗の諸郡に敕するに：「若し魏寇が小さく至るなら，則ち各が堅く守り；大きく至るなら，則ち民を拔いて壽陽に歸すべし。」邊戍を偵候するも明らかならず，辛亥，魏主自ら將に步騎十萬至らんとす。南頓太守鄭琨、穎川太守郭道は隱れ並びて城を棄てて走る。
■是の時，豫州刺史南平王鑠は壽陽に鎮し，左軍行參軍の陳憲を遣わして汝南郡事に行き，懸瓠を守り，城中戰士の不滿千人，魏主之を圍む。
■三月，以て軍を興し，內外百官の俸を三分之一に減ず。
●[北魏の懸瓠攻略戦]魏人は晝夜となく懸瓠を攻め，多く高樓を作り，城に臨みて以て之を射ち，矢は下ちて雨の如し。城中の負戶は以て汲び，沖車の端に大鉤を施し以て樓と堞(ひめがき)を牽き，其の南城を壞す。陳憲は內に女牆を設け，外に木柵を立て以て之を拒む。魏人は塹を填ち，肉薄して城に登り，憲は將士を督�劼垢襪盒贐ァせ咾鮴僂鵑脳襪謀�しく。魏人もまた屍に乘りて城に上がる。短兵相い接し，憲の銳氣は愈奮し，戰士は一で百に當たらざるは無く，殺傷は萬計り，城中の死者また過半す。
●魏主は永昌王仁を遣して將に步騎萬餘，驅する所は六郡の生口を掠め北の汝陽に屯す。■時に徐州刺史の武陵王駿は彭城に鎮し，帝は間使を遣じて駿に騎を發するを命じ，繼けて三日之を糧を襲う。駿は百里內に發して馬千五百匹を得，分けて五軍と為し，參軍劉泰之を遣して安北騎兵行參軍の垣謙之、田曹行參軍の臧肇之、集曹行參軍の尹定、武陵左常侍の杜幼文、殿中將軍の程天祚等を帥いて之を將し，汝陽に直趨す。魏人は唯だ兵を虎救（虎を救う緊急性）するに壽陽より來りて，彭城に備えず。丁酉（３月朔日は申酉、33-57+1=37で暦不適合），泰之等潛んで進み之を撃ち，三千餘人を殺し，其の輜重を燒き，魏人奔り散り，諸生口悉く東に走るを得る。魏人は泰之等兵に後繼無しを偵知し，復た兵を引いて之を撃つ。垣謙之は先ず退き，士卒驚いて亂れ，仗を棄てて走る。泰之は魏人殺す所となり，肇之は溺死し，天祚は魏の擒うる所となり，謙之、定、幼文及士卒の免ずる者九百餘人，馬で還る者は四百匹。
●魏主は懸瓠を攻めること四十二日，■帝は南平內史の臧質を遣わして壽陽に詣り，安蠻司馬の劉康祖と共に將兵を懸瓠に救う。●魏主は殿中尚書任城公の乞地真を遣わして逆に之を拒む。質等は擊ちて乞地真を斬る。康祖は，道錫の從兄也。
●夏，四月，魏主（自陣を焼いて）兵を引いて還る。癸卯（１３日），平城に至る。
■壬子（２２日），安北將軍武陵王駿は降號鎮軍將軍，垣謙之を伏して誅し，尹定、杜幼文は尚方に付く；以て陳憲を龍驤將軍と為し、汝南、新蔡二郡の太守とす。
●[北魏の挑戦状]魏主は帝に書を遺して曰く：「前には蓋し吳は反逆し，關、隴を扇動す。彼は復た人を使わして就いて之を誘い，丈夫には弓矢を以て遺わし，婦人には環釧を以て遺わす；是曹は正に譎誑賂を取らんと欲し，豈に遠相服從の理有らんや！大丈夫と為す，何ぞ自ら來りて之を取らず，以て貨にて我が邊民を誘うか？募りて往く者復た七年を除く，是くの賞は奸也。我は今來たり此土に至りて得る所多少，孰と彼は前後して我がを民得る邪？ 」
「彼若し劉氏の血を食らう者存するを欲すならば，當に江を割きて北を以て之に輸し，攝（セツ、代わって）守りて南に渡らん。此くの如く，當に江南に使して彼の之に居るを釋さん。然らず，善しく敕して方鎮、剌史、守宰嚴に供に帳の具にす可く，來秋は當に往きて揚州を取らん。大勢は已に至り，終に相い縱はず。彼は往日北は蠕蠕に通じ，西は赫連、沮渠、吐谷渾と結び，東は馮私、高麗と連なる。凡そ此の數國，我は皆之を滅す。此を以て觀るに，彼は豈く獨立す能わんや！」
「蠕蠕は吳の提、吐賀真は皆已に死し，我は今北征し，先ず有足之寇を除く。彼が若し命に從わずば，來秋當に復た之を取りに往くべし；以て彼は足無く，故に先ず討つのみ。我れ往くの日，彼は何んぞ計を作り，塹を握り自ら守りと為し，垣を築きて以て自ら障わりと為す也？我は當に顯然往きて揚州を取らん，若からずんば彼は翳行竊步也。彼は來りて偵諜し，我は已に之を擒にし，復た縱いて還らん。其の人の目する所は盡く見え，委曲善く之を問わん。」
「彼は前に裴方明を使わして仇池を取り，既に之を得，疾く其の功を勇し，已に容れる能わず；臣此くの如く尚之を殺す有り，烏は與に我を校すを得ん邪！彼は我が敵に非ず也。彼は常に我と一交戰せんと欲し，我は亦た癡わず，復た苻堅に非ず，何時か彼と交戰せん？晝は則ち騎を遣わせて繞を圍み，夜は則ち彼の百里の外の宿に離れる；吳人は正に斫有りて伎を營む，彼は人を募りて以來，行きて五十里を過ぎず，天已に明かなる矣。彼の人を募る之首（首尾），豈に我有るを為さざるを得ん哉！」
「彼の公時に舊臣老いたりと雖も，猶を智策有り，知は今已に殺し盡し，豈に天の我を資さざる邪！彼を取りて亦た我が兵の刃に須べからず，此れ善く咒婆羅門有り，當に鬼縛せ使む以來のみ。」
■侍中、左衛將軍の江湛は吏部尚書に遷る。湛の性は公廉，僕射の徐湛之と並んで上の寵し信じる所と為る，時に稱して「江徐」。
●[魏の崔浩失脚と誅伐]魏の司徒崔浩，自ら才略に恃んで魏主の寵任する所に及び，專制朝權し，嘗つて冀、定、相、幽、并五州の士數十人を薦し，皆家を起こして郡守と為る。太守晃曰く：「先に征するの人，亦た州郡之を選ぶ也；職に在ること已に久しく，勤勞未だ答えず，宜しく先ず郡縣を補い，新征者を以て代わりて郎吏と為す。且つ令を守り民を治し，宜しく更に事を得る者なり。」浩は固く爭いて之を遣（のこ）す。中書侍郎、領著作郎の高允之を聞き，東宮博士の管恬に謂って曰く：「崔公は其の免ぜざる乎！苟しくも其の非を遂げ校して上に勝つ，將に之を堪ずる所以なり！」
●魏主は浩を以て秘書事を監し，高允等に《國記》を共撰せしめ，曰く：「實錄に從いて務む。」著作令史の閔湛、郗標，性は巧佞，浩の寵し信じる所と為る。浩は嘗て《易》及《論語》、《詩》、《書》を注（注釈）し，湛、標は上に疏（事柄の筋を分けていちいち説明する）して言く：「馬、鄭、王、賈は浩の精微に如かず，境內に諸書を収めて，浩に所注を班し，天下に令して業を習わしむを乞う。並に敕して浩の注《禮傳》，後生に令して正義を觀るを得を求む。」浩は亦た湛を薦し、標は著述の才有り。湛、標は又浩に撰ずる所の《國史》を石に刊し，以って直筆を彰にすを勸む。高允は之を聞き，著作郎の宗欽に謂って曰く：「湛、標の營ずる所，分寸之間，崔門の萬世之禍と為るを恐れ，吾徒らに亦た無□類矣！」浩竟用湛だしく、標は議し，刊して郊の壇東に石を立て，方百步，功三百萬を用う。浩は魏之先世を書き，事皆な實に詳し，衢路に列し，往來を見る者以って言を為すを鹹す。北人は忿恚せざるは無く，相與に帝に浩を譖し，以って暴揚國惡と為す。帝大いに怒り，有司を使い浩及び秘書郎吏等の罪狀を案ぜしむ。
●初め，遼東公の翟�郢劼歪襪涼�有り，奉じて并州に使いし，布千匹を受く。事が覺わり，�郢劼蝋皸瑤頬鼎蠅遁�く：「主上我に問う，實告を以て當たり，之を諱に當たるを為すか？」允は曰く：「公は帷幄の寵臣，罪有り首實（首実検）され，庶は或いは原を見るとも，重ねて欺罔を為す可らず也。」中書侍郎の崔覽、公孫に質して曰く：「若し首實すれども，罪は測る可らず，之を諱に如かず」�郢劼楼瑤魃紊澆遁�く：「君は奈何（なぜ）人を誘いて死地に就かすか！」入りて帝に見みえ，以って實を對えず，帝は怒り，之を殺す。帝は允に太子經を授けて使いす。及ち崔浩收め被（ら）れ，太子は允を召き東宮に至り，因って留め宿す。明旦，與俱（とも）に入朝し，宮門に至り，允に謂って曰く：「入りて至尊に見みえ，吾は自ら卿を導く；至尊を脫して問有り，但だ吾が語に依るべし。」允曰く：「何等の事に為す也？」太子曰く：「人自ずと之を知る。」太子は帝に見みえて言わく「高允は小心で真密だが旦し微賤；崔浩の由を制して，其の死を赦すを請う。」帝は允を召し，問いて曰く：「《國書》皆な浩の為する所乎？」對えて曰く：「《太祖記》は，前著作郎の��淵の所為なり；《先帝記》及《今記》は，臣と浩の共に之を為す。然るに浩の所領する事多く，總裁する已；著述に至れば，臣浩より多し。」帝怒りて曰く：「允の罪は浩より甚し，何を以って生きるを得るや！」太子懼れて，曰く：「天威は嚴重にして，允は小臣，迷亂し次を失うのみ。臣は向いて問う，皆浩の所為に雲く。」帝は允に問う：「東官の言う所の如く信ずる乎？」對えて曰く：「臣の罪は滅族に當たるも，敢えて虛妄せず。殿下は臣を以て侍講の日久しく，臣を哀れみ，其の生のみを丐かんと欲し，實を臣に問わず，臣は亦た此言無く，敢えて迷亂せず。」帝顧みて太子に謂って曰く：「直なる哉！此の人は情する所難く，而して允は能く之を為す！死に臨みて辭は易からず，信ずる也：臣の為に君を欺かず，貞也。宜しく特に其の罪の旌之を以て除くべし。」遂に之を赦す。
●是に於いて浩を召すの前，臨みて之を詰む。浩は惶惑して對うること能わず。允は事事申明し，皆條理有り。帝は允に詔を為すを命じ，浩を誅し及び僚屬の宗欽、段承根等，下は僮吏に至る，凡百二十八人，皆な五族を夷（ころ）すと；允は疑いを持ち（勅を）為さず。帝は頻りに催を切ら使め，允は更に一見を乞い，然かる後に詔を為す。帝引いて使いを前に引いて，允曰わく：「浩之坐する所，若し更に餘釁(きん、兆し・傷)あれば，臣敢えて知るに非ず；若し直ちに以て觸（さわ）り犯すならば，罪は死に至らず。」帝怒り，武士に命じて允を執る。太子は之の為に拜して請い，帝は意を解し，乃曰く：「斯の人無ければ，當に更に數千口の死有る矣。」
●六月，己亥（１０日），詔して浩とその同宗者の清河の崔氏を遠近無く誅し，及び浩の姻家の范陽の盧氏、太原の郭氏、河東の柳氏，並に夷の其族，餘は皆な其身を誅するを止む。浩を執りて檻內に置き，城南に送り，衛士數十人を其上に溲し，呼聲は嗷嗷，行路に於いて聞く。宗欽は刑に臨みて歎じて曰く：「高允は其の殆ど聖なる乎！」
●它日，太子讓は允に曰く：「人亦た當に機を知る。吾は卿の死を脫かるると為るを欲し，既に端緒を聞き，卿終に從わず，激怒す帝此くの如し。每に之を念じ，人の心悸を使う。」允は曰く：「夫れ史者は，記人の主の善惡を記する人が所以，將來の為に戒めて勸め，故に人は主有る所を畏れ忌み，其の舉措を慎む。崔浩は孤り聖恩に負け，私慾を以って其の廉潔を沒し，愛憎其の公直を蔽ひ，此れが浩の責也。朝廷の起居を書くに至り，國家の得失を言い，此く史の大體を為し，未だ多く違うと為さず。臣は浩と實に其の事は同じく，死生は榮辱，義は獨り殊なる無し。誠に殿下に荷して再び之を慈しむを造り，違心苟（まこと）に免ずるは，臣の願わざる所也。」太子動容し稱歎す。允退き，人に謂って曰く：「我は東宮の指導者を奉じず，翟�郢劼防蕕韻襪魘欧譴觚量蕁�」
●初め，冀州刺史の崔賾，武城の男崔模，浩と同宗の別族；浩常に之を輕侮し，由に是睦まず。浩誅さるるに及び，二家獨り免かるるを得る。賾，逞の子也。
●辛丑（１２日），魏主は北の陰山を巡る。魏主は既に崔浩を誅して之を悔やみ，北部尚書の宣城公の李孝伯が病篤いのに會し，或いは已に卒すと傳わり，魏主は之を悼みて曰く：「李宣城惜しむ可きかな！」既に曰く：「朕は言を失う，崔司徒は惜しむ可く，李宣城は哀しむ可しか！」孝伯は，順之從父弟也，浩の誅せらるるより，軍國の謀議は皆孝伯が出て，寵は浩よりも眷亞なり。
●[車師国と沮渠国の争い]初め，車師大帥の車伊洛の世は魏に服し，魏は伊洛を拜して平西將軍とし，前部王に封じる。伊洛は將に入朝せんとす，沮渠の無諱は其の路を斷ち，伊洛は屢(しばしば)無諱と戰い，之を破る。無諱が卒し，弟の安周は其の子の乾壽の兵を奪い，伊洛は人を遣わして乾壽を說き，乾壽は遂に其の民五百餘家を帥いて魏に奔る；伊洛はまた李寶の弟の欽等五十餘人を說いて之を下し，皆魏に送る。伊洛は西の焉耆を擊ち，其の子の歇を留めて城を守る。沮渠の安周は柔然の兵を引いて間道から之を襲い，攻めて其の城を拔く。歇は走りて伊洛に就き，共に餘の眾を收めて，焉耆の鎮を保ち，使いを遣わして魏主に上書して，言わく：「沮渠氏の攻める所と為り，首尾八年，百姓は饑窮し，以って自から存する無し。臣は今國を棄て出奔し，免かるる者の三分の一を才するを得，已に焉耆の東境に至り，賑いを垂れて救うを乞う！」魏主は詔して焉耆の倉を開き以って之を賑にする。
●吐谷渾王の慕利延は魏の逼する所と為り，上表して入りて越巂（えつすい郡）を保つを求め，上は之を許す；慕利は延竟するも至らず。
■［宋の北伐作戦計画］上は魏を伐たんと欲し，丹楊の尹の徐湛之、吏部尚書の江湛、彭城太守の王玄謨等並びて之を勸む；左軍將軍劉康祖を以て為す「歲月已に晚，明年を待たんと請う。」上曰く：「北方は虐政に苦虜し，義徒は並び起つ。兵を頓して一週，義之心に沮（はば）み向かう，可からず。」
■太子の步兵校尉の沈慶之は諫めて曰く：「我は步彼は騎，其の勢には敵わず。檀道濟が再び行くも功無し，彥（ゲン、立派な男子）之失利を返すに到る。今王玄謨等を料るに，未だ兩將は逾かず，六軍之盛は，往時を過ぎず，重ねて王師を辱かしむるを恐る。」上曰く：「王師の再び屈するは，由有りより別れ，道濟は美しく寇して自ら資し，彥之中を塗りて動き疾し。恃する所の者を虜するは唯馬のみ；今夏の水は浩く汗し，河道は流れ通り，泛（ハン、ホウ、浮かぶ）舟は北下，碻磝は必ず走り，滑台は小さく戍(まも)り、覆い抜く可くは易し。此の二城に克ち、谷に館(た)ち民を弔う，虎牢、洛陽，自然に固まらず。比べて冬の初めに及び，城の守りは相接し，馬を虜にし河を過ぎ，即ち擒と成る也。」慶之又固く陳ず可からず。上は徐港之を使わし、江湛之を難じる。慶之曰く：「國を治めるは譬えば家を治める如し，耕は奴を問うに當たり，織は婢を訪ねるに當たる。陛下は今國を伐たんと欲し，而して白面の書生の輩と之を謀る，事何の由か濟まん！」上大いに笑う。太子劭及び護軍將軍蕭思話はまた諫め，上皆從わず。
●魏主は上が將に北伐せんと聞く，復た上書を與えて曰く：「彼は此の和の好き日久しく，而して彼の志は厭（いとい）無く，我が邊民を誘う。今春南を巡り，聊（いささ）か我が民を省み，驅して之に使いして還る。今彼が自ら來んと欲すと聞き，能く中山から桑干川に及び至りて設け，隨意行きて，來りてまた迎えず，去りてまた送らず。若し其の宇(のき、いえ)を區ぎる者と厭も，平城の居に來る可く，我また揚州に往くは，相與に易し。彼年は已に五十，未だ嘗て戶を出ず，自力と雖も來たりて，三歲の嬰兒の如く，我と鮮卑は馬上に長く生きる者果たして如何(いかん)哉！更に以て相與にす可く餘物は無く，今獵馬十二匹並に氈と藥等の物を送る。彼の來る道は遠く，乘る可く馬力は不足す；或は水土に服さず，藥は自ら療す可き也。」
■［宋の北伐作戦開始４５０年］秋，七月，庚午（１２日），詔して曰く：「虜（てき）は近くと雖も摧（くだ）き挫き，獸心は革に靡く。比(なら)べて河を朔るを得、秦、雍の華(色々な)戎は表に疏(とお)り，歸りて困棘(キョク、いばら)を訴え，跂（つまさきだつ）て望み綏拯（やすらかに助ける），潛んで相糾結して以て候王を師いる；芮芮（ぜんぜん、柔然）また間使を遣して遠く誠款を輸(はこ)び，誓いて掎（ひきとめる）角と為す；經略之會，實に茲(ジ、ここ)日に在り。寧朔將軍王玄謨と太子の步兵校尉の沈慶之、鎮軍咨議參軍の申坦の水軍を帥いて河に入り，受けて青、冀二州刺史の蕭斌を督し遣す可し；太子の左衛率の臧質、驍騎將軍の王方は回りて徑を許り、洛に造(いた)る；徐、兗二州刺史の武陵王駿、豫州刺史の南平王鑠は各所部を勒して，東西齊に舉ぐ；梁、南、北秦三州の刺史劉秀之は汧、隴を震盪す；太尉の江夏王義恭は彭城を出次し，眾軍節度と為す。」坦は，鐘の曾孫也。
■是の時軍旅を大いに起こし，王公、妃主及朝士、牧守，下は富民に至り，各金帛を獻じ、雜物を以て國の用を助く。又以て兵力は不足し，青、冀、徐、豫、二兗六州の悉く三五民丁を發し，倩って使い暫く行く，符して十日に至り裝束す；緣江の五郡は廣陵（揚州市）に集まり，緣淮の三郡は盱眙に集まる。又中外の馬步有り眾藝の武力之士を募り科に應ずる者，皆な厚き賞を加う。有司又軍用充たさずと奏し，揚、南徐、兗、江四州の富民家の貲滿五十萬，僧尼滿二十萬，並に四分に一を借り，事の息即ち還る。
■建武司馬の申元吉は兵を引いて碻磝に趨く。乙亥，魏の濟州刺史の王買��は城を棄てて走る。蕭斌は將軍崔猛を遣して樂安（江西省撫州？）を攻め，魏の青州刺史の張淮之も亦城を棄てて走る。斌と沈慶之は碻磝を留め守り，王玄謨をして進めて滑台を圍ましむ。雍州刺史の隨王誕は中兵參軍の柳元景、振威將軍の尹顯祖、奮武將軍の曾方平、建武將軍の薛安都、略陽太守の龐法起の將兵を(派)遣して弘農に出んとす。後軍外兵參軍の龐季明，年七十餘，自ら以て關中により豪右となし，長安に入りて夷、夏を招會すを請い，誕之を許す；乃ち貲谷より盧氏に入る，盧氏の民趙よ難く之を納む。季明遂に士民を誘說し，應ずる者甚だ眾く，安都等之に因りて，自ら熊耳山に出る；元景は兵を引いて繼き進む。豫州刺史の南平王鑠は中兵參軍の胡盛之を遣して汝南を出，梁坦は上蔡を出て長社に向かう。魏の荊州刺史の魯爽は長社に鎮し，城を棄てて走る。爽は，軌の子也。幢主の王陽兒は魏の豫州刺史の僕蘭を擊ち，之を破り，僕蘭は虎牢に奔る；鑠は又安蠻司馬の劉康祖の将兵を遣して坦を助けんとし，虎牢に進逼す。
●［北魏の反撃開始］魏の群臣初めて宋の師有るを聞き，魏主に言い，兵を遣して(黄)河の緣の谷帛を救わんと請う。魏主曰く：「馬は今は未だ肥えず，天の時は尚熱し，速に出でて必ず功無し。若し兵の來る止まずば，且つ陰山に還りて之を避く。國人は羊皮褲を本著す，何の綿帛を用すか！展べて十月に至り，吾憂うる無し矣。」
●九月，辛卯（３４日不適合），魏主は兵を引いて南滑台を救い，太子晃に命じて漠南に屯し以て柔然に備え，吳王余は平城を守る。庚子（４３日不適合），魏州郡兵五萬分を發して諸軍に給す。
■王玄謨の士眾は甚だ盛にして，器械は精嚴なり；而して玄謨貪して愎た好く殺す。初め滑台を圍み，城中に茅屋多く，眾は火箭を以て之を燒くを請う。玄謨曰く：「彼は吾が財也，何んぞ遽きて之を燒かん！」城中は即ち屋を撤し處を穴とする。時に河、洛之民は競いて租谷を出、兵を操り來赴する者日に以って千數，玄謨其の長帥に即ならず而して配を以て私に暱す；家に付匹布，大梨八百を責とす；是れに由りて眾心は失望す。攻城數月も下らず，魏の救い(救援)將に至らんとを聞き，眾は車を發して營と為さんと請うも，玄謨從はず。
●［４５０年１０月滑台攻防戦、王玄謨敗走］冬，十月，癸亥（３６日不適合），魏主は枋頭に至り，關內侯の代人陸真をして夜に數人と圍を犯しめ，滑台に潛入し，城中を撫慰し，且つ城に登りて玄謨の營の曲折を視て還り報らす。乙丑，魏主は河を渡り，眾百萬と號し，鞞鼓之聲は，天地を震動させる；玄謨は懼れ，退いて走る。魏人は之を追擊し，死者萬餘人，麾下は散じ亡略し盡し，委棄する軍資や器械は山に積む。
■[垣護之の百舸の逃走]是より先，玄謨は鐘離太守の垣護之を遣わし百舸を以て前鋒と為し，石濟に據く，滑台の西南百二十里に在り。護之魏兵の將に至らんとすを聞き，書を馳せ玄謨に急いで攻めるを勸めて曰く：「昔武皇の廣固を攻める，死沒者は甚だ眾し。況んや今事は曩日に迫る，豈士眾の傷つき疲れるを計り得んや！願くば屠城を以て急に為さん。」玄謨從はず。玄謨敗退するに及び，護之に報せる暇なし。魏人は以て玄謨の戰艦を所得し，鐵鎖の三重を以て連ね，河を斷ち以て護之の還る路を断つ。河水は迅急，護之は中流を下る。鐵鎖に至る毎に，長柯の斧を以て之を斷ち，魏は禁ずる能わず；唯だ一舸を失い，餘は皆な完備して返る。
●[蕭斌と沈慶之と玄謨の遭遇]蕭斌は沈慶之の將五千人を遣わして玄謨を救わんとし，慶之曰く：「玄謨の士眾は疲老し，寇虜已に逼まり，數萬人を得れば乃ち進む可し。小軍で輕く往くは，無益也。」斌は固く之を遣わす。玄謨の遁り還るに會いて，斌は將に之を斬らんとし，慶之固く諫めて曰く：「佛狸の威は天下を震わし，控弦は百萬，豈に玄謨の能く當たらんとする所や！且つ戰將を殺すは以って自ら弱める，良計に非ざる也。」斌乃ち止む。
■斌は固く碻磝を守らんと欲し，慶之曰く：「今青、冀は虛弱，而して坐して窮城を守り，若し虜眾東を過ぎれば，清東は國家に有らざる也。碻敖は磝(小石のように)孤絕し，復た未だ修ならず之滑台のみ作る。」會して詔使至り，斌等は退師を聽かず。斌復た諸將を召いて之を議し，江に並んで宜しく留まるを謂う。慶之曰く：「閫外之事は，將軍以て之を專すを得。詔に從いて遠來，事勢を知らず。節下（旗の下）に一有り范�瓩鰺僂い詛修錣此ざ�議何を施すか！」斌及び坐る者は並びて笑いて曰く：「沈公は乃ち更らに學問すか！」慶之は�吩瓩靴遁�く：「眾人は古今を知ると雖も，下官の耳學(問)に如かず也。」斌は乃ち王玄謨を碻磝申坦に戍かし，垣護之は清口に據きしめ，自ら諸軍を帥いて歷城（山東省済南市歴城区）に還る。
■[龐法起等は盧氏・弘農に侵攻]（十月）閏月，龐法起等の諸軍は盧氏に入り，縣令の李封を斬り，以て趙難を盧氏の令と為し，其の眾を帥いて鄉導と為さしむ。柳元景は盧氏の諸軍を從えて百丈の崖に自(よ)る。法起等は弘農に進攻し，辛未（１５日），之を拔き，魏の弘農太守の李初古拔を擒にす。薛安都は弘農（洛陽西方）に留屯す。丙戌（３０日?），龐法起は潼關に進み向う。
●［北魏の本格的侵攻］魏主は諸將に命じて分道して並進す：永昌王仁は洛陽より壽陽に趨き，尚書の長孫真は馬頭に趣き，楚王建は鐘離に趣き，高涼王那は青州より下邳に趣き，魏主は東平より鄒山に趣く。
●十一月，辛卯（５日），魏主は鄒山に至る，魯郡の太守の崔邪利は魏の擒とする所と為る。魏主は秦始皇の石刻を見，人を使わして排して之を僕し，太牢を以て孔子を祠る。
■楚王建は清より西進して，蕭城に屯す；步尼公は清より東進して，留城に屯す。武陵王駿は參軍の馬文恭の將兵を遣わして蕭城に向かい，江夏王義恭は軍主の嵇玄敬の將兵を遣わして留城に向かう。文恭は魏の敗るる所と為る。步尼公は玄敬に遇い，兵を引いて苞橋に趣き，清西に渡らんと欲す；沛縣の民は苞橋を燒き，夜林中に於いて鼓を擊き，魏は宋兵大いに至る以為(せい)にて，爭って苞水を渡り，溺死者は殆半ばとなる。
■［弘農と陝城の戦い］詔して柳元景を以て弘農太守と為す。元景は薛安都に使いし、尹顯祖は先ず兵を引いて龐法起等に陝において就き，元景は後において租を督す。陝城は險固，諸軍は之を攻めて拔けず。魏の洛州刺吏の張是連提は眾二萬を帥いて度崤(函谷關あたり)と陝を救い，安都等と城南に於いて戦い，魏人は縱に突騎し，諸軍敵する能わず；安都は怒り，兜鍪を脫ぎ，鎧を解き，唯だ絳納の兩當衫を著し，馬もまた具裝を去り，目を瞋(シン、いから)して矛を横にし，單騎で突陳す；向かう所前無く，魏人は夾射中(あ)たる能わず。是くの如く數四，殺傷の勝に數う可からず。日暮に會し，別將の魯元保は兵を引いて函谷關より至り，魏兵は乃ち退く。元景は軍副の柳元怙の將と步騎二千を遣わして安都等を救い，夜に至るも，魏人之を知らず。明くる日，安都等は城の西南に於いて陳(つら)ねる。曾方平は安都に謂って曰く：「今勍(つよ)い敵は前に在り，堅城は後に在り，是れ吾の死を取るの日。卿若し進まずば，我は當に卿を斬らん；我若し進まずば，卿我を斬る也！」安都曰く：「善し，卿の言は是れ也！」遂に合戰す。元怙は兵を引いて南門自り鼓噪して直に出，旌旗は甚く盛ん，魏の眾は驚駭す。安都は身を挺して奮擊し，流血は肘に凝り，矛は折れ，之更に入るは易く，諸軍は齊び奮う。旦自り日昃に至る，魏の眾は大潰し，張是連提及び將卒三千餘級を斬る。其の餘は河に赴き塹死者甚く眾，生きて降る二千餘人。明くる日，元景は至り，降者に讓りて曰く：「汝輩は本の中國民，今虜と為り力盡き，力屈乃降，何かん也？」皆曰く：「虜驅の民を戰いに使い，後出者は族を滅し，騎を以て蹙(シュク、ける)步，未だ戰わざるに先ず死し，此の將軍を親しく見る所となる。」諸將は盡く之を殺さんと欲し，元景曰く：「今王旗は北を指し，令に當たりて仁聲が先路。」盡く釋して之を遣り，皆萬歲を稱して去る。甲午（８日），陝城に克つ。
■龐法起等は潼關に進攻し，魏の戍主婁須は城を棄てて走り，法起等之に據る。關中の豪桀の在する所蜂起し，四山の羌、胡に及び皆な來りて送款す。
■［宋の前線縮小］上は王玄謨を以て敗退し，魏兵は深く入り，柳元景等は獨り進む宜からず，皆召還す。元景は薛安都に使いして後を斷ち，兵を引いて襄陽に歸る。詔して元景を以て襄陽太守と為す。
●[魏の懸瓠攻略作戦、劉康祖の戦死]魏の永昌王仁は懸瓠を攻め、城を項め，之を拔く。帝は魏兵の壽陽に至るを恐れ，劉康祖を召して還さしむ。癸卯（１７日），仁将の八萬騎は康祖を尉武に於いて追及す。康祖の眾は八千人有り，軍副の胡盛之は山に依りて險間を行き取りて至らんと欲し，康祖は怒りて曰く：「河に臨みて敵を求め，遂に見る所無し；幸に其の自ら送る，奈何之を避けんや！」乃ち車營を結びて進み，軍中に下令して曰く：「顧みて望む者は斬首，轉び步く者は斬足！」魏人は四面から之を攻め，將に士は皆な殊に死戰すと。旦より晡に至る，魏兵萬餘人を殺し，流血は踝(カ、くるぶし)を沒す，康祖は身に十創を被り，意氣は彌�辧ｒ欧和兇�眾を分けて三と為し，且つ休み且つ戰う。日に會いて暮には風は急，魏は草を負った騎を以て車營を燒き，康祖は随いて其の闕を補う。流矢有り康祖の頸を貫き，馬から墜ちて死に，餘の眾は戰う能わず，遂に潰し，魏人は掩殺殆く盡す。（魏軍は康祖の首級を彭城に送った。451年元嘉28年、益州刺史の位を追贈された。諡は壮男といった。）
■南平王鑠は左軍行參軍の王羅漢を三百人を以て尉武に戍かしむ。魏兵至り，眾は南の卑林に依りて以って自ら固めんと欲し，羅漢は命を受けるを以て此に居り，去らず。魏人は攻めて之を擒にし，其の頸に鎖し，三郎將をして之を掌にさす；羅漢は夜に三郎將の首を斷ち，鎖を抱いて盱眙に亡奔す。
●魏の永昌王仁は壽陽に進逼し，馬頭、鐘離を焚掠し、，南平王鑠は嬰城を固守す。
●［江夏王義恭の彭城放棄］魏軍は蕭城に在り，彭城に支する十餘里。彭城の兵多いと雖も，食少く，太尉の江夏王義恭は彭城を棄てて南歸せんと欲す。安北中兵參軍の沈慶之は歷城の兵少なく食多しの以為にして，函を為して箱車を陳（の）べんと欲し，精兵を以て外翼と為し，二王及び妃女を奉じて歷城に直趨す；兵を分けて護軍蕭思話を配し，留守の彭城に使いす。太尉長史の何勖は郁洲を奔り席捲し，海道より京師に還らんと欲す。義恭は意を去りて已に判ず。唯だ二議すること彌日未だ決せず。安北長史の沛郡太守の張暢は曰く：「若し歷城、郁洲至る之理有るべく，下官敢えて高贊せず！今城中に食乏しく，百姓の走る志有るを鹹し，但だ關扃(ケイ、かんぬき)を以て嚴固にし，去りて從わう莫かれと欲すのみ。一旦足を動かせば，則ち各自逃散し，在る所に至らんと欲す，何に由りて得る可くんや！今軍食は是れ寡(すく)なく，朝夕猶お未だ窘罄(キンケイ、せまる空)せず；豈に萬安の術を捨てて危亡の道に就く有らざらんや？若し此の計を必ず行わば，下官は頸血を以て污公を馬蹄すを請う。」武陵王の駿は義恭に謂いて曰く：「阿父は既に總統と為り，留むるに非ざる所敢て干して去り，道民は忝(かたじけな)くも城主となり，而して鎮に委ねて逃げ奔り，實に復た朝廷を報ずるに顔無し。必ず此城と共に其の存沒し，張長史の言は異なる可からず也。」義恭は乃ち止む。
●[魏主彭城を臨む]壬子（２６日），魏主は彭城に至り，戲馬台の氈屋に立ちて以て城中を望む。
●馬文恭之敗する也，隊主蒯應は魏に於いて沒す。魏主は應に遣して小市門に至り酒及甘蔗を求める；武陵王駿は之と，仍(かさ)ねて就けて橐駝(らくだ)を求める。明くる日，魏主は尚書の李孝伯を使いして南門に至り，義恭に貂裘(チョウキョウ、てんの皮衣)を餉（しょう、贈る）り，駿に橐駝及騾(ラ、ろば)を餉り，且つ曰く：「魏主は安北に意至り，暫(しばら)く出でて我を見る可し；我亦た此城を攻めず，何の為か將士を勞苦させ，此くの如く備守せんや！」駿は張暢に開門し出でさせて之を見て，曰く：「魏主の意は安北に至り，常に面を寫(写)すに遲れ，但だ人臣を以て境外之交無く，恨みて悉く暫ならず。備守は乃ち邊鎮之常，��びて以て之に使いし，則ち勞して怨むことなきのみ。」魏主は甘橘を及び博具を借りるを求め，皆之を與う；復た氈及九種の鹽胡豉を餉る。又樂器を借り，義恭之に應じて曰く：「任を受けて戎め行い，樂具を繼がず。」孝伯は暢に問いて：「何為んぞ匆匆と閉門し橋を絕つか？」暢曰く：「二王は魏主の營壘未だ立たず以て，將士は疲勞す。此の精甲は十萬，輕相陵踐を恐れ，故に城を閉じるのみ。待ちて士馬を休息し，然る後共に戰場に治し，日を刻して交戲する。」孝伯曰く：「賓に禮(礼)有り，主は則ち之を擇す。」暢曰く：「昨は眾賓の門に至るを見，未だ禮有りと為さず。」魏主は人を使いして來りて言って曰く：「太尉、安北の意に致り、，何んぞ人を遣して我の所に至り來ざらんや？彼の此之情は，雖(た)だ盡くす可からず。要須（必要）とするは我の小大を見，我の老小を知り，我人と為すを觀る。若し諸の佐遣す可からざれば，亦た僮幹の來らしむ可し。」暢は以て二王に命じて對えて曰く：「魏主の形狀才力は，久しく所具の來往と為る。李は尚書して親しく自ら命を銜（ふくみ、轡）み，彼と此の不盡を患わさず，故に復た遣使せず。」孝伯は又曰く：「王玄謨は亦た常に才のみ，南國何意か此の如く任使を作り，以て奔敗に致るか？自ら此境七百餘里に入りて，主人の竟は一相拒逆に能わず。鄒山之險，君の家の所の憑(馮氏の残党の意味か)，前鋒は始め接し，崔邪利(崔浩の意味か?)は遽藏し穴に入り，諸將は倒れ曳きて之を出す。魏主は其の餘生を賜わり，今此に在りて從う。」暢曰く：「王玄謨は南土の偏將，才と為すと謂わず，但だ以て之の前驅と為し，大軍至らず，河冰は向い合い，玄謨は因って夜軍を還し，戎馬の小亂に致るのみ。崔邪利は陷沒し，何んの國の損するか！魏主は自ら數十萬の眾を以て一崔邪利を制し，乃ち言足りる邪！入境七百里相拒む者無きを知り，此によりて太尉は神算，鎮軍は聖略，用兵は機を有し，相語は用いず。」孝伯曰く：「魏主當に此の城を圍まず，自ら眾軍を帥いて直に瓜步に造（いた）る。南の事を若し辦ずれば，彭城は圍むを待たず；若し其の捷たざれば，彭城は亦た須する所にあらず也。我は今當に南は江湖を飲み以て渴を療するのみ。」暢曰く：「去留之事，自ら彼の懷に適す。若し虜馬遂に江を飲むを得るや，復た天道無しと為すの便。」是より先童謠に云ふ：「虜馬は江水を飲み，佛狸は卯年に死す。」故に暢は云うは然り。暢の音容は雅麗にして，孝伯左右は皆と歎息す。孝伯はまた辯じて贍（足す）し，且つ去り，暢に謂って曰く：「長史は深く自らを愛し，相い去る步武，恨みて手を執らず。」暢曰く：「君は善く自らを愛し，冀の蕩の期有るを定める，相い見るに遠無し。君若し宋に還る期を得んや，今相い識る之始めと為す」。
■上は楊文��を輔國將軍と為して起ち，兵を引いて自ら漢中に西入し，汧、隴を搖動す。文��の宗人楊高は陰平に帥き、平武の群氐は之を拒む。文��は擊高し，之を斬り，陰平、平武悉く平らぐ。梁、南秦二州の刺史劉秀之は文��に遣して啖提氐を伐つも，克たず，執りて荊州に送る；(上は)文��の從祖兄頭をして葭蘆に戍せ使む。
■丁未（２１日），大赦す。
●[北魏軍は彭城を残して南下す]魏主は彭城を攻め，克たず。十二月，丙辰朔（１日），兵を引いて南下，中書郎の魯秀を使いし廣陵に出，高涼王那は山陽に出，永昌王仁は�垤召暴个気靴瓠げ瓩阿觸袤面任擦兇襪鰐気�，城邑は皆な風を望んで奔潰（潰れ奔る）す。戊午，建康は纂嚴（集めて厳しい）なり。己未，魏兵淮（河の）上に至る。
■上は輔國將軍の臧質を使わせて將に萬人を彭城にて救わんとす。盱眙に至るも，魏主は已に淮を過ぎたり。質は冗從僕射の胡崇之を使とし、弩將軍の臧澄の營を東山に積み，建威將軍の毛熙祚を前浦に據かしめ，質の營を城南にす。乙丑（１０日），魏の燕王譚は崇之等の三營を攻め，皆敗沒し，質は兵を敢えて救わずと案ず。澄（崇）之は，��之の孫なり；熙祚は，修之之兄子也。是の夕，質の軍はまた潰れ，質は輜重器械を棄て，單將七百人にて城に赴く。
■[盱眙太守の沈璞の死守で魏軍食糧不足]初め，盱眙太守の沈璞が（盱眙の）官に到り，王玄謨はなお滑台に在りて，（揚子）江と淮（河）には警（戒）無し。璞は郡を以って衝要（衝きあたる要地）に當て，乃ち城を繕いて隍を浚え，財を谷に積み，矢石を儲け，城の守備を為す。僚屬は皆な之に非ず，朝廷は亦た以って過ちを為す。魏兵の南に向かうに及び，守宰（守備隊長）は多く城を棄てて走る。或（人）は璞に宜しく建康に還らんと勸め，璞は曰く：「虜が若し城小なるを以て顧みざれば，夫れ復た何んぞ懼れんや！若し肉薄來攻すれば，此れ乃ち吾は報國之秋，諸君は封侯之日也，奈何んぞ之を去らんや！諸君は嘗て數十萬人の聚を小城之下に見て敗れざる者乎？昆陽、合肥は，前事之明かなる（経）驗也。」眾の心は稍定まる。璞は收集して二千の精兵を得て，曰く：「足る矣！」臧質が城に向かうに及び，眾は璞に謂いて曰く：「虜が若し城を攻めざれば，則ち眾の事する所無し；若し其れ（虜）が城を攻めれば，則ち城は見力の可容を中止するのみ。地狹に人多く，鮮（くっきりとは）かに患と為さず。且つ敵は眾（おお）く我は寡（すく）ないのは，人は共に知る所，若し質の眾を以って能く敵を退け完城する者ならば，則ち全功は我に在らず；若し罪を避けて都に歸れば，舟楫に會いて資（たす）け，必ず更に相い蹂踐（ふみにじる）す。正に足るは患いと為り，門を閉じて受くる勿かれに若かず。」璞は歎じて曰く：「虜は必ず城に登る能わず，敢えて諸君の之を保つと為す。舟楫之計は，固く已に久しく息（や）み，虜之殘害は，古今有らず，屠（切り裂く）剝の苦は，眾の共に見る所，其の中の幸者は，驅して北國に還り奴婢を作るを得るに過ぎざるのみ。彼は烏合と雖も，寧ろ此を憚れざらん邪！所謂『同舟すれば濟，胡、越は一心』の者也。今兵多ければ則ち虜は速く退き，少ければ則ち緩かに退く。吾は寧ろ功めに專じ虜を留めんと欲す可ならん乎！」乃ち開門して質を納める。質は城中を見るに豐實（豊かに実り），大喜，眾は皆な萬歲を稱し，因って璞と共に守る。魏人の南寇する也，糧用は繼がず，唯だ以って抄（そのもの）掠を資（本）と為す。淮（河）を過ぎるに及び，民多く竄（のように）匿し，抄掠して得る所無く，人馬は饑えて乏し；盱眙に積粟が有りと聞き，以て北に歸るの資（本）と為さんと欲す。既に崇之等を破り，一攻して城拔かず，即ち其の將韓元興を留め以って數千人で盱眙を守り，自ら大眾を帥いて南に向う。是に由りて盱眙は益守備を完ずを得る。
●[魏主瓜步に至る]庚午（１５日），魏主瓜步に至り，民の廬舍を壞し，及び葦を伐りて筏となし，江を渡らんと欲すと聲言す。建康は震え懼れ，民は皆な荷を擔いで立つ。壬午（２７日），內外戒嚴し，丹陽の統內は盡く戶丁を發し，王公以下子弟は皆な役に從う。領軍將軍の劉遵考等に命じて將兵を分けて津と要を守らせ，游邏して上は湖に接し，下は蔡洲に至り，艦を陳し營を列にし，（揚子）江の濱を周亙す。自ら石を採りて暨陽に至る，六七百里。太子劭は石頭に出鎮し，水軍を總統し，丹楊尹の徐湛之は石頭倉城を守る，吏部尚書の江湛は領軍を兼ね，軍事の處置悉く以って委焉す。
■[檀道濟若し在ればと上嘆く]上は石頭城に登り，憂色有り，江湛に謂って曰：「北伐之計，同議する者少し。今日士民は勞れ怒り，慚（はじ）無しを得ず。貽の大夫の憂いは，予の過ち也。」又曰く：「檀道濟若し在れば，豈に胡馬の此に至ら使めざらんや？」上は又莫府山に上り，形勢を觀望し，魏主及王公首に，封爵を許し、金帛を購う。又た人を募って野葛酒を繼ぎて空村の中に置き，以て魏人を毒さんと欲するが，竟（つい）に傷つく能わず。
●魏主は瓜步山を鑿ちて蟠道を為し，其上に氈屋を設く。魏主は河南の水を飲まず，橐駝（ラクダ）を以て河北の水を負わせて自ら隨う。上に橐駝、名馬を餉（おく）り，並に和を求め，婚を請う。上は奉朝請田を遣して奇しくも珍羞の異味を以て餉る。魏主は黃甘を得て，即ち之を啖（く）らい，並に大いに酃酒（三国時代の名酒・長沙の酃湖の水で作った酒）を進む。左右に耳を附けて（耳打）語る者有り，食中に毒有るを疑う。魏主應じず，手を舉げて天を指し，以て其の孫に示奇（偏执于稀少为贵的原则，盲目出新）して曰く：「吾は遠く來て此に至り，功名を為さんと欲すに非ず，實に民を息させ好く繼かさんと欲し，永に姻援を結ばん。宋が若し能く此の孫に女妻を以てせば，我は女妻を武陵王に以てし，今より匹馬復た南を顧みず。」
■[江湛殺害]奇しくも還り，上は太子劭及び群臣を召して之を議す。眾は並びて宜しく許さんと謂い，江湛は曰く：「戎狄に親無く，之を許すは無益なり。」劭は怒り，湛に謂って曰く：「今三王に厄在り，詎を宜く苟くも異議を執らん！」聲色は甚だ�辧淵譽ぁ�厳しい）。坐して散じ，俱に出で，劭は劍を班（組み分け）し及左右に湛を排せ使め，湛は幾（ばくもなく）僵仆（キョウフ、倒れる・死ぬ）に至る。
■劭は又た上に言って曰く：「北伐は敗辱，數州は淪（ほろ）び破れ，獨り江湛を斬るる有り、徐湛之は以て天下に謝す可し。」上は曰く：「北伐は是我が意なり，江、徐但だ異ならずのみ。」是に由りて太子は江、徐とは平らかならず，魏はまた竟に婚成らず。
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