資治通鑑１２６
■は宋、●は北魏の記事
【宋紀八】 起重光單閼，盡玄黓執徐，凡二年。
太祖文皇帝下之上元嘉二十八年（辛卯，公元451年）
●[魏主瓜步山上大會]春，正月，丙戌朔（１日），魏主は群臣と瓜步山の上にて大會し，爵行賞の有差（有無や差）を班（分ける、順を付ける）ず。魏人は（揚子）江の緣に火を舉ぐ；太子石衛は尹弘を率いて上に言いて曰く：「六夷は此くの如く，必ず走る。」丁亥（２日），魏は居民を掠し、廬舍を焚いて去る。
■[彭城王義康殺害]誕世の反する故也，江夏王義恭等は彭城王義康數怨み言有りと奏して，民聽を搖動し，不逞之族は因りて以て（反乱の）心を生じる故に，義康を廣州に徙（うつ）すを請う。上は將に義康を徙すや，先ず遣使して之に語り，義康曰く：「人生死に會し，吾れ豈に生を愛さんや！必ず亂階（乱れるきざはし）を為し，遠しと雖も何の益あるや！此に死すを請い，恥復た屢（しばしば）遷らず。」竟未だ往くに及ばず。魏師の瓜步は，人情忷み懼る。上は不逞之人を慮って復た義康の亂と為すを奉じる；太子劭及び武陵王駿、尚書左僕射の何尚之は屢（しばしば）宜しく早く為（処分する）すの所を啟（さと）す；上は乃ち中書舍人を遣わして嚴しく龍繼藥にて義康に死を賜る。義康は服するを肯ぜず，曰く：「佛教は自殺を許さず；願はくは宜しく處分に隨わん。」使者を以って掩（エン、不意に）殺させる。
■江夏王義恭以て碻磝を守る可からず，王玄謨を召して歷城に還る；魏人は追擊して之を敗り，遂に碻磝を取る。
■初め，上は魏將の入寇を聞き，廣陵太守の劉懷之に命じて逆に城府を燒き、船に乘り，盡く其民を帥いて江を渡る。山陽太守の蕭僧珍は悉く其民を斂（あつ）めて城に入り，台に糧仗を送る盱眙及び滑台に詣ぜる者，路を以て通じず，皆山陽に留まる；陂（つつみ）水を蓄めて滿た令（し）め，須らく魏人至れば，決して以て之を灌（灌漑）せん。魏人山陽を過ぎ，敢えて留まらず，因りて盱眙を攻める。
●魏人は鉤車を以て城樓を鉤し，城內は驅緪（クコウ、馬で引く太縄）を以て系かり，數百人が唱呼して之を引き，車は退く能わず。既に夜にして，桶に縋（す）がり懸卒出，其の鉤を截せ，之を獲る。明くる日，又た沖車を以て城を攻め，城の土は堅密，至る毎に，頹落（タイラク）は數升を過ぎず。魏人の肉薄城に登り，番を分け相い代え，墜ちて復た昇（?升）り，退く者有る莫かれ，殺傷は萬を計り，屍は城と平す。凡そ攻の三旬（十日），拔かず。魏軍中は多くの疾疫に會い，或いは建康に以て告げて水軍を遣じて海より淮に入り，又た彭城に敕して其の歸路を斷たんと；二月，丙辰朔（２日?），魏主は攻具を燒きて退き走る。盱眙の人は之を追わんと欲し，沈璞は曰く：「今兵は不多からず，固く守る可くと雖も，出でて戰う可からず；但だ舟楫を整え，若し北に渡らんと欲する者に示して，以て其の走を速くし，須らく實行せずを計るる也。」
■臧質は以て璞を城主とし，之に使して上の板を露わし，璞は固辭し，功（績）を質に歸す。上聞きて，益す之を嘉ぶ。
●[魏軍の退却戦]魏師は彭城を過ぎ，江夏王義恭は震え懼れて敢て擊たず。或（人は）告げて「虜（てき）は驅して南の口に萬餘，夕には應じて安王陂に宿し，城の數十里に去り，今之を追う，悉く得る可し。」諸將は皆な行くを請い，義恭は禁じて許さず。明くる日，驛使至り，上は義恭に敕して悉くの力で急追せんとす。魏師は已に遠く，義恭の遣わした鎮軍司馬の檀和之は蕭城に向かう。魏人先ず已に之を聞く。驅する所の者去るを盡く殺す。程天祚逃げ歸る。
●魏人凡そ南兗、徐、兗、豫、青、冀の六州を破り，殺掠は勝に計する可からず，丁壯者は即ち斬截（セツ）を加え，嬰兒は槊（サク、ほこ）上に貫き，盤舞して以て戲れと為す。過ぐる所の郡縣は，赤い地に餘無く、春に燕歸るに，巢の林木無し。魏の士馬の死傷は亦た過半，國人は皆な之を尤もとす。
■上は將に出師を命ずる毎に，常に成律，交戰の日時，また待中の詔を以て授け，是を以て將帥は趑趄（シショ、進まず），敢えて自ら決す莫し。又た江南の白丁，輕く進み易く退き，此くは其の敗れる所以（ゆえん）也。是れより邑（ユウ、むら）裡（リ、裏）蕭（ショウ、もの悲しい）條（ジョウ、筋），元嘉の政（まつりごと）衰える矣。
■癸酉（１９日），賑恤郡の縣民の遭寇に遭う者に詔して，其の稅調を蠲（ケン、取り除く）す。
■甲戌（２０日），降して太尉義恭を降（格）して驃騎將軍、開府儀同三司と為す。
●戊寅（２４日），魏主河を濟る。
■辛巳（２７日），鎮軍將軍の武陵王駿を降（格）して北中郎將と為す。
■壬午（２８日），上は瓜步に如く。是日，（戒）嚴を解く。
●[鄭羆の子の徳]初め，魏中書學生の盧度世，玄之子也，崔浩の事に坐して亡命して高陽の鄭羆の家に匿る。吏は羆の子を囚え，之の治を掠す。羆は其子を戒めて曰く：「君子は身を殺して仁を成し，死すると雖も言う可からず。」其の子は父の命を奉じて，吏は火を以って其の體を爇し，終に言わず而して死す。魏主の（揚子）江を臨むに及び，上は殿上將軍の黃延年を魏に遣使し，魏主は問って曰く：「盧度世の亡命，已に應じて彼に至るか。」延年曰く：「都下に度世の有るを聞かず也。」魏主は乃ち度世及び其の族の逃亡籍沒者を赦す。度世自ら出，魏主は以って中書侍郎と為す。度世は其の弟の為に鄭羆の妹を娶り以って��に報いる。
■三月，乙酉（朔１日），帝は宮に還る。
●己亥（１５日），魏主は平城に還り，飲みて告廟に至り，以て降民の五萬餘家を分けて近畿に置く。
●[芟麥移民]初め，魏主は彭城を過ぎ，人を遣して城中に語りて曰く：「食盡きて且つ去り，須らく麥熟して更に來ん。」期に及んで，江夏王義恭は議して麥を芟（か）り苗を翦（き）り，堡聚に民を移さんと欲す。鎮軍の錄事參軍の王孝孫曰く：「虜（てき）復た來る能わず，既に自ら保つ可し；其の更に至る如きは，此の議は亦た立つ可からず。百姓は閉じて內城に在り，饑饉の日久しく，方春の月，野采は自ら資する；一に堡聚に入り，餓死立つに至り，民は必死を知り，何の制する可けん邪！虜若し必ず來れば，麥を芟る晚無し。」四坐は默然とし，之に敢えて對える莫し。長史の張暢曰く：「孝孫の議，實に尋（たず）ねる可く有り。」鎮軍府典簽の董元嗣は武陵王駿の側に侍して，進みて曰く：「王錄事の議奪う可からず。」別駕王子夏は曰く：「此の論は誠に然り。」暢は斂板（死者を葬る時に、棺の中に収める札）を白くして駿に曰く：「下官は孝孫に子夏を彈くを命ずるを欲す。」駿曰く：「王別駕何の事有る邪？」暢曰く：「芟麥移民は，大議と謂う可く，一方安危は，事は此に繫がる。子夏親しく州端を為し，曾て同異無し；元嗣之言を聞くに及び，則ち歡笑（ほほえんで）して酬答す。（態度が悪い、ふざけるなの意味か）阿意を左右にし，何を以て君の事とすか！」子夏、元嗣皆な大いに慚（心に深く恥じる），義恭之議は遂に寢（や）む。
■[青州民の司馬順則の反乱]青州民の司馬順則は晉室の近屬と自稱し，聚眾齊王と號す。梁鄒の戍主の崔勳之は州に詣り，五月，乙酉（２日），順則は虛に乘り襲いて梁鄒城に據く。又た沙門有り司馬百年と自稱し，また聚眾安定王と號し以て之に應ず。
●壬寅（１９日），魏大赦す。
■己巳（４６日不適合），江夏王義恭を以て領南兗州刺史とし，徙（うつ）して盱眙に鎮す。督十二州諸軍事を�瓩后�
■[何尚之と徐湛之の重用]戊申，尚書左僕射の何尚之を以て尚書令と為し，太子�藥�の徐湛之を僕射、護軍將軍と為す。尚之は以て湛之の國戚，任は隆重に遇い，事ある每に之を推す。湛之と尚之に詔して並びて辭訴を受く。尚之は令と為すと雖も，朝事は悉く湛之に歸す。
●六月，壬戌（９日），魏は正平と改元す。
●魏主は太子少傅の游雅、中書侍郎の胡方回等に律令の更定を命じ，多く�畭擦垢觸蝓に泙住杏感綵衆贓蝓�
●[魏の太子晃の憂卒]魏の太子晃は監國，左右に頗る信任され，又た園田を營じ，其の利を収む。高允は諫めて曰く：「天地は無私，故に能く覆載し，王者は無私，故に能く容養す。今殿下の國の儲貳は，萬方則とする所，而して私田を營立し，雞犬を畜養し，乃ち市廛の酤（即席の酒販）販に至り，民と利を爭う（民業圧迫）；謗りの聲は流布し，掩（エン、覆い隠す）を追う可からず。夫れ天下の者，殿下の天下，富は四海に有り，何んぞ求める無くして，乃ち販夫販婦と此の尺寸の利を競う乎！昔虢（かく、河南省三門峡市上村嶺にある西周時代後期から春秋時代前期の虢国貴族の墓群）の將亡，神は之に土田を賜い，漢の靈帝は私に府藏を立て，皆な顛覆の禍有り；前鑒（かがみ）此くの若く，甚だ畏る可き也。武王は國、邵、齊、華を愛し，天下の王となる所以なり；殷の紂は飛廉、惡來を受け，其の國を喪う所以なり。今東宮に俊乂少なからず，頃來たりて侍御する左右の者に，朝の選在ら非らざるを恐れる。殿下は佞邪を斥去し，忠良を親近し，田園を所在し，分けて貧下に販賣の物を給し、時を以て收散すを願う；此くの如くすれば，則ち日に至りて聲は休み，謗しる議は除く可く矣。」聽かず。
●太子は政の精察を為し，而して中常侍の宗愛，性は險暴，不法多く，太子之を惡む。給事中仇尼道盛、侍郎任平城は太子の寵有るを恐れ，頗る事を用し，皆な愛と不協なり。愛は道盛等の糾する所と為すを恐れ，遂に其の罪を告するを構え，魏主は怒り，道盛等を都街にて斬り，東宮の官屬多く坐死し，帝の怒り甚し。戊辰，太子は以て憂えて卒す。壬申，金陵に葬り，謚曰して景穆となす。帝は徐（おもむろ）に太子の無罪を知りて，甚しく之を悔やむ。
●秋，七月，丁亥（５日），魏主は陰山に如く。
★★★二十八年（七月）、使持節都督倭・新羅・任那・加羅・秦韓・慕韓六国諸軍事を加ふ。安東将軍は故の如し。ならびに上る所の二十三人を軍郡に除す。（「宋書」倭国伝、倭王済の遣使）
■青、冀二州の刺史蕭斌は振武將軍の劉武之等を遣して司馬順則、司馬百年を擊ち，皆な之を斬す。（八月?）癸亥（１１日?），梁鄒を平らぐ。
■蕭斌、王玄謨は皆な坐して退敗し官を免ず。上は沈慶之に問いて曰く：「斌は玄謨を斬らんと欲して卿之を止む，何んぞ也？」對えて曰く：「諸將は奔り退く，罪を懼れざる莫かれ；自ら歸りて死し，將に逃散に至り，故に之を止む。」 と。
●九月，癸巳（１２日），魏主平城に還る；冬，十月（９日），庚申，復た陰山に如く。
■上の遣使は魏に至り，魏は殿中將軍郎の法祐來を遣わして修好す。
●己巳（１８日），魏の上黨靖王の長孫道生は卒す。
●[魏主の孫濬を封じて高陽王]十二月，丁丑（２７日），魏主は景穆太子の子濬を封じて高陽王と為す；既に皇孫の世嫡を以て，籓王と為す當わず，乃ち止む。時に濬は生四年，人に過ぎて達すと聰き，魏主之を愛し，常に左右に置く。秦王翰を東平王と為し，燕王譚を臨淮王と為し，楚王建を廣陽王と為し，吳王余を南安王と為して徙す。
■帝は沈慶之をして瓜步の流民數千家を彭城に徙しめ，征北參軍の程天祚に姑孰の流民數千家を江西に徙しむ。 12/12ここまで
■[王僧綽侍中となる]帝は吏部郎の王僧綽を以て侍中と為す。僧綽，曇首之子也，幼くして大成の度有り，眾は皆な以て國の器と之を許す。學を好み，思理有り，悉く朝典を練ず。なお帝は女の東陽を公主として獻ず。吏部に在るや，悉くの人物を諳（そらん）じ，舉拔して其の分を鹹（カン、辛い）得す。侍中に為すに及び，年二十九，深く沉（しず）めて局めて度（量）有り，才能高き人を以てせず。帝は頗る以後事念と為し，以て其の年の少くも，大きく相を付託せんと欲し，朝政の小大，皆な與に參す。帝の始め親政する事也，委任するに王華、王曇首、殷景仁、謝弘微、劉湛，次に則ち范曄、沈演之、庾炳之，最後に江湛、徐湛之、何瑀之及び僧綽，凡そ十二人。
●康和は魏に入朝し，魏主は厚く之を禮す。
●春，正月，魏の得る所の宋民の五千餘家で中山に在る者が謀叛し，州軍は之を討誅す。冀州刺史で張掖王の沮渠萬年は叛者と通謀して坐す。死を賜わる。
●[魏の中常侍宋愛が魏主殺害]魏の世祖は景穆太子を追って已まず，中常侍の宗愛は誅せらるるを懼れ，二月，甲寅（５日），帝を弒し，尚書左僕射の蘭延、侍中の和疋、薛提等は秘して喪を發せず。延、疋は皇孫の濬沖の幼なきを以て，（年）長き君を立てんと欲し，秦王翰に征きて，之に秘室を置く；提は濬の嫡皇孫を以て，廢す可からず。議は久しく決まらず。宗愛は之を知り，自ら景穆太子（殺害の）罪を得るを以て，（しかも）素より秦王翰と惡く，南安王余と善しとして，乃ち密かに中宮の便門より余を禁中に迎え入れ，赫連皇后が延等を召せ令むと矯(偽り)稱す。延等は素より愛を賤しむを以て，以て疑いを為さず，皆隨いて入る。愛は先ず宦者三十人をして禁中に持兵を伏せ使め，延等が入るに，以て次に收縛し，之を斬る；秦王翰を永巷にて殺し余を立つ。大赦し，改元して承平とし，皇后を皇太后と為して尊し，愛を以て大司馬、大將軍、太師、都督中外諸軍事、領中秘書と為し，馮翊王に封ず。庚午（２１日），皇子休仁を立てて建安王と為す。
●三月，辛卯（１３日），魏は太武皇帝を金陵に葬し，廟號を世祖となす。
■[北伐計画]上は魏の世祖の殂を聞き，更に北伐を謀り，魯爽等は復た之を勸む。上は群臣を訪ね，太子中庶子の何偃以って為す：「淮、泗の數州は瘡痍未だ復さず，宜しく輕動せざらん。」上は從わず。偃，尚之の子也。
■夏，五月，丙申（１９日），詔して曰く：「虐虜は窮めて凶，昔より著（あき）らかなり；未だ資斧を勞せず，已に伏して天誅す。拯溺蕩穢（ショウデキトウワイ、溺れるを救い穢れを流す），今は其の會（機会）也。驃騎（臨時の大将軍）を符す可く、司空は二府，各部分の統べる所，東西は應接。歸義（義に帰る）し建績（功績を立てる）する者，勞に隨いて酬獎（報奨）す。」是において撫軍將軍の蕭思話を遣わし督して冀州刺史の張永等を碻磝に向かわせ，魯爽、魯秀、程天祚將に荊州の甲士四萬を出し、許、洛，雍州刺史の臧質の所領を帥いて潼關に趣く。永は，茂度龍城の子也。沈慶之は固く北伐を諫む；上は其の異議を以って，行はしめず。
■青州刺史の劉興祖は上に言いて，以て為す：「河南は饑を阻み，野は掠する所無し；諸城を脫して固く守り，旬月も非ずして拔く可し。大眾は稽（セキ、とどまる）留し，勞する方は轉輸す；機に應じて勢に乘り，事は急速に存す。今偽帥（魏主のこと）は始めて死し，兼て逼暑の時，國內は猜擾（猜疑而擾攘），遠く赴く暇あらず。愚かにも謂うは宜しく中山に長驅し，其の關の要に據るべし。冀州以北は，民人は尚お豐か，兼ねて麥は已に熟に向かい，因りて資は易と為り，義に向うの徒，必ず應じて響き赴く。若し中州震動すれば，黃河以南は，自ら當りて消潰す。臣は青、冀の七千兵を發して，將に之を領せしめて，直に其の心腹（中心部）に入らんを請う。若し前驅が克勝すれば，張永及び河南の眾軍は宜しく一時に河を濟（わた）り，聲實兼舉せ使め，並に司牧（支配する長官・官吏）を建て，初附を撫で柔め，西は太行を拒み，北は軍都を塞ぎ，因りて事を指麾（指図）し，隨いて宜しき授を加え，威を畏れ寵を欣び，人百を其の懷にす。若し能く成功すれば，清壹に待つ可し；若し克捷（勝利）せざれば，大傷と為さず。並に裝束を催促し，伏して敕旨を聽く。」上意は河南に存するを止め，また從わず。上はまた員外の散騎侍郎の琅邪徐爰に軍を隨いて碻磝に向かわ使め，銜中に旨して諸將に方略を授け，臨時に宣示す。
■尚書令の何尚之は老を以って致仕を請い，方山に退居す。議者は鹹（から）く謂うに尚之は固い志に能わずと。既に詔書して敦く諭すること數四，六月，戊申朔（１月），尚之は復た起ちて事を視る。御史中丞の袁涉、古よりの隱士の有跡や無名者を錄して《真隱傳》を為すは以て之を嗤う。
■秋，七月，張永等は碻磝に至り，兵を引いて之を圍む。
■壬辰（１６日），汝陽王渾を武昌王とし，淮陽王��を湘東王と為して徙かす。
■[宋王室の乱れ、道育と王鸚鵡]初め，潘淑妃は始興王濬を生む。元皇后の性は妒，淑妃に上の寵有りを以て，恚（イ、恨む）恨して而して殂（ソ、死ぬ）し，淑妃は內政を專總す。是に由りて太子劭は深く淑妃及び濬を惡む。濬は將來の禍と為るを懼れ，乃ち劭は意を曲げて事とし，劭は更に之と善し。
■吳興の巫嚴の道育は，自ら辟谷服食を能くすと言い，鬼の物を役使す；因りて東陽公主の婢の王鸚鵡は主の家に出入りす。道育は主に謂いて曰く：「神は將に符有り主に賜う。」主は夜臥し，光の流れるを見て螢の若（ごと）し，飛びて書笥に入り，開いて視れば，二青珠を得る；是に由りて主と劭、濬は皆な信じて之に惑う。劭、濬並びて過失多く，數は上の詰め責る所と為る；道育をして訴え請わしめ，上が聞かずに過ぎら令まんと欲す。道育曰く：「我は已に上を天陳と為すを請う，必ず露も洩らさず。」劭等は之の事を敬い，號して曰く：「天師」。其の後遂に道育と、鸚鵡及び東陽主は陳天與を奴とし、黃門の陳慶國は共に巫蠱と為し，琢玉を上形像と為し，含章殿の前に埋める；劭は天與を補って隊主と為す。
■東陽主卒す，鸚鵡は嫁に出るに應じ，劭、濬は語洩れるを慮り，濬は吳興の沈懷遠を府佐す；素より濬の厚い所と為し，鸚鵡を以て之に嫁し妾と為す。
■上は天與が隊を領すと聞き，讓を以て劭に曰く：「汝の用ずる所の隊の主副は，並びて是れ奴か邪？」劭懼れ，書を以って濬に告ぐ。濬は復た書して曰く：「彼人若し為す所已まざれば，正に其の餘命を促す（殺す）可く，或は是れ大慶之漸のみ。」劭、濬は相い與に書疏を往來し，常に謂って上を「彼人」と為し，或は曰く「其人」，江夏王義恭を謂って「佞人」と為す。
■鸚鵡は先ず天與と私通し，既に懷遠に適し，事洩れるを恐れ，劭は密かに之を殺さ使むを白（ありのままに言う）す。陳慶國は懼れ，曰く：「巫蠱の事，唯だ我れ天與と宣傳し往來す。今天與死し，我は其の危ならん哉！」乃ち具（つぶさ）に以て其の事を上に（自）白す。上は大いに驚いて，即ち遣して鸚鵡を収める；其の家の籍を封じ，劭、濬の書數百紙を得て，皆な咒詛巫蠱の言なり；又埋める所の玉人を得，有司に命じて其の事を窮め治める。道育亡命し，之を（逮）捕すを獲ず。 12/13ここまで
■是より先，濬は揚州剌史より出でて京口に鎮し，廬陵王紹は疾を以て揚州を解くに及び，意は己に必ず復た之（揚州剌史?）を得んと謂う。既ち上は南譙王義宣を用い，濬は殊に樂しまず，乃ち江陵の鎮を求む；上は之を許す。濬は朝に入り，遣して京口に還り，行き留まりて處分を為し，京口に至り數日而して巫蠱の事發す。上は惋歎して彌日，潘淑妃は謂いて曰く：「太子富貴を圖り，更に是れ一理，虎頭は復た此くの如く、復た思慮の及ぶ所に非らず。汝母子は豈に一日我れ無く可けん邪！」中使を遣して劭、濬を切責し、劭、濬惶（おそ）れ懼れて辭ずる無く，惟だ陳謝して已む。上は怒り甚しと雖も，猶を未だ罪を忍ばず也。
■（宋の碻磝攻め失敗）諸軍碻磝を攻め，三つの攻道を治す：張永等は東道に當たり，濟南太守申坦等は西道に當たり，揚武司馬崔訓は南道に當たる。攻之累旬に，拔かず。八月，辛亥（５日）夜，魏人は地道より潛り出，崔訓の營及び攻具を燒く；癸丑（７日）夜，また東圍及び攻具を燒く；尋ねて復た崔訓の攻道を毀す。張永は夜を撤して退軍を圍み，諸將に告げず，士卒は驚きて擾う；魏人は之に乘り，死傷は地を塗る。蕭思話自ら往きて，兵力を�瓩傾兇瓩襪海判橸院塀銃�余り），拔かず。是の時，青、徐は稔らず，軍食乏し。丁卯（２１日），思話は諸軍に命じて皆な歷城に退屯させ，崔訓を斬り，張永を系し、申坦を獄す。
●魯爽は長社に至り，魏の戍主の禿髡幡は城を棄てて走る。臧質は近郊に頓兵し，時を以て發せず，獨り後軍行參軍の薛安都等を帥いて冠軍司馬の柳元景を潼關に向かわ遣め，元景等は進みて洪關に據く。梁州刺史の劉秀之は司馬馬汪と左軍中兵參軍蕭道成（次の済の皇帝）を遣わせて，將に兵を長安に向かわせる。道成は，承之の子也。魏の冠軍將軍の封禮は浢津より南に渡り，弘農に赴く。九月，司空高平公の兒烏干は潼關に屯し，平南將軍の黎公遼は河內に屯す。
■庚寅（１４日），魯爽は魏の豫州刺史の拓跋僕蘭と大索に於いて戦い，之を破り，虎牢に進攻す。碻磝の敗退を聞き，柳元景と皆な兵を引いて還る。蕭道成、馬汪等は魏の救兵將に至らんと聞き，還りて仇池に趣く。己丑（１３日），詔して蕭思話の徐州を解き，更に冀州刺史を領し，歷城に鎮す。
■上は諸將を以て屢出るに功無く，張永等に專責可からず，思話に賜いて詔して曰く：「虜は既に利に乘り，方は盛冬に向かい，若し脫敢送死，兄弟父子は自ら共に之に當たるのみ。言は憤を�瓩垢傍擇屐�以て張永、申坦に示す可し。」又た江夏王義恭と與えて書いて曰く：「諸將輩が此くの如きを早く知れば，恨んで白刃の之を驅するを以てせず。今悔やむこと何の所に及ぶ者や！」義恭は思話の官を免ずるを奏すを尋ね，之に從う。
●（北魏の宗愛を誅殺す）魏の南安隱王余は違次より以て立ち，厚く群下を賜り，以て眾心を収むを欲す；旬月の間，府の藏は虛竭。又た酣飲及び聲樂、畋獵を好み，政事を恤せず。宗愛は宰相と為り，三省を錄し，宿衛を總し，坐して公卿を召し，專恣（欲しいまま）日に甚す。余は之を患い，其の權を奪わんと謀る；愛は憤怒す。冬，十月，丙午朔（１日），余は夜東廟に祭り，愛は小黃門の賈周等をして就いて余を弒せ使め，之を秘し，唯だ羽林郎中の代人の劉尼のみ之を知る。尼は皇孫の濬を立てるを愛に勸め，愛は驚いて曰く：「君は大に人を癡うや！皇孫若くして立てば，豈に正平の時事を忘れる乎！」尼は曰く：「若爾，今當に誰を立てん？」愛は曰く：「宮の還るを待ち，當に諸王賢者の擇すを之立てん。」
●尼は愛の變を為すを恐れ，密かに狀を以って殿中尚書の源賀に告げる。賀は時に尼と典兵宿衛に俱し，乃ち南部尚書の陸麗と謀りて曰く：「宗愛は既に南安を立て，還りて復た之を殺す。今又た皇孫を立てずば，將に社稷に利あらずや。」遂に麗と謀るを定め，共に皇孫を立てる。麗，俟の子也。戊申（３日），賀は尚書の長孫渴侯と兵を嚴かに宮禁を守衛し，尼を使い、麗は皇孫を苑中に迎える。麗は皇孫を馬上に抱き，平城に入り，賀、渴侯は開門して之を納める。尼は東廟に馳せ還り，大呼して曰く：「宗愛は南安王を弒す，大逆不道なり，皇孫は已に大位に登り，詔有り，宿衛之士は皆な宮に還らん！」眾は鹹呼萬歲す。遂に宗愛、賈周等を執り，勒兵は入り，皇孫を奉じて即ち皇帝の位とす。永安殿に登り，大赦し，改元して興安とす。愛、周を殺して，皆な五刑を具え，夷は三族。
■西陽の五水群は蠻反し，淮より、汝から江、沔に至り，其の患を鹹（カン、しお）被す。太尉中兵參軍の沈慶之に詔して江、豫、荊、雍四州の兵を督して之を討つ。
●魏は驃騎大將軍の拓跋壽樂を以て太宰、都督中外諸軍、錄尚書事と為し，長孫渴侯を尚書令，加えて儀同三司と為す。十一月，壽樂、渴侯は爭權に坐して，並べて死を賜う。
●癸未（８日），魏の廣陽簡王建、臨淮宣王譚皆な卒す。
●甲申（９日），魏主の母閭氏卒す。
●魏の南安王余の立つ也，古弼を以て司徒と為し，張黎を太尉と為す。高宗の立つに及び，弼、黎議して合い旨とせず，黜（しりぞけ）て外都大官と為す；坐して怨言有り，且つ家人は其の巫蠱を為すを告げ，皆な誅せ被る。
■壬寅（２７日），廬陵昭王の紹卒す。
●魏は景穆太子を追尊して景穆皇帝と為し，皇の妣閭氏を恭皇后と為し，尊して乳母の常氏を保太后と為す。
●隴西の屠各王景文は魏に叛し，署して王侯を置く；魏の統萬鎮將の南陽王惠壽、洛の外都大官は四州之眾を拔き督して之を討ち平らげ，其の黨の三千餘家を趙、魏に徙す。
●十二月，戊申（４日），魏は恭皇后を金陵に葬す。
●（北魏の仏教復興）魏の世祖の晚年，佛の禁する稍弛み，民間は往往私に習う者有り。及高宗の即位に及び，群臣は多く之を復するを請う。乙卯（１１日），詔して州郡縣の眾居之所に，各に佛圖の一區を聽建させる；民の沙門に為らんと欲する者，出家を聽く。大州は五十人，小州は四十人。是に於いて佛圖の毀する所に向かいて，率いて皆な修復す。魏主は親しく沙門の師賢等五人を下髮と為し，以て師賢を道人統と為す。
●丁巳（１３日），魏は樂陵王擊忸を以て太尉と為し，南部尚書陸麗を司徒と為し，鎮西將軍杜元寶を司空と為す。麗は迎え立つの功を以て，受心膂（リョ、背骨）寄，朝臣で其の右に出る者は無く，爵の平原王を賜る。麗辭じて曰く：「陛下は，國の正統，當に基の緒を承わる；效順奉迎し，臣子は常職，敢えて慆天の功を以て大賞を干さざらん。」再三受けず，魏主は許さず。麗曰く：「臣の父は先朝に奉事し，忠勤は著效なり。今年逼た桑榆（桑や楡の木、桑榆暮景で老年の意味），願くば臣を以て爵之を授けん。」帝曰く：「朕は天下の主と為り，豈に卿の父子の二王と為ら使む能わざらん邪！」戊午（１４日），其の父を建業公に進め爵して東平王と為す。又た麗の妻に命じて妃と為し，其の子孫を復す。麗は力辭して受けず，帝は益之を嘉とす。
■東安公劉尼を以て尚書僕射と為し，西平公源賀を征北將軍と為し，並び進めて爵して王と為す。帝は班じて群臣に賜り，源賀謂いて曰く：「卿の任は意之を取る。」賀は辭じて曰く：「南北未だ賓ならず，府庫に虛可からず也。」之を固與し，乃ち戎馬の一匹を取る。
●高宗之立つ也，高允は其の謀に預かり，陸麗等皆な重賞を受け，允に及ばず，允は終身言わず。甲子（２０日），周忸の事に坐して死を賜る。時に魏の法は深峻，源賀は奏して：「謀反の家，男子十三以下は本に謀する者に預からず，宜しく死沒の官を免ずるべし。」之に從う。
■江夏王義恭は朝に還る。辛未（２７日），義恭を以て大將軍、南徐州刺史，錄尚書如故と為す。
●初め，魏は中原に入り，《景初曆》を用い，世祖は沮渠氏に克ち，趙匪文の《玄始曆》を得，時の人は以て密と為し，是歲，始めて之を行う。
平成30年8月26日本格翻訳開始
平成30年9月20日一応完了
平成30年10月2日再読終了29748文字（原文18525文字）
平成30年12月15日「日本書紀暦日原典」にて暦日調査、同日再々読終了32053文字
■は宋、●は北魏の記事
【宋紀八】 起重光單閼，盡玄黓執徐，凡二年。
太祖文皇帝下之上元嘉二十八年（辛卯，公元451年）
●[魏主瓜步山上大會]春，正月，丙戌朔（１日），魏主は群臣と瓜步山の上にて大會し，爵行賞の有差（有無や差）を班（分ける、順を付ける）ず。魏人は（揚子）江の緣に火を舉ぐ；太子石衛は尹弘を率いて上に言いて曰く：「六夷は此くの如く，必ず走る。」丁亥（２日），魏は居民を掠し、廬舍を焚いて去る。
■[彭城王義康殺害]誕世の反する故也，江夏王義恭等は彭城王義康數怨み言有りと奏して，民聽を搖動し，不逞之族は因りて以て（反乱の）心を生じる故に，義康を廣州に徙（うつ）すを請う。上は將に義康を徙すや，先ず遣使して之に語り，義康曰く：「人生死に會し，吾れ豈に生を愛さんや！必ず亂階（乱れるきざはし）を為し，遠しと雖も何の益あるや！此に死すを請い，恥復た屢（しばしば）遷らず。」竟未だ往くに及ばず。魏師の瓜步は，人情忷み懼る。上は不逞之人を慮って復た義康の亂と為すを奉じる；太子劭及び武陵王駿、尚書左僕射の何尚之は屢（しばしば）宜しく早く為（処分する）すの所を啟（さと）す；上は乃ち中書舍人を遣わして嚴しく龍繼藥にて義康に死を賜る。義康は服するを肯ぜず，曰く：「佛教は自殺を許さず；願はくは宜しく處分に隨わん。」使者を以って掩（エン、不意に）殺させる。
■江夏王義恭以て碻磝を守る可からず，王玄謨を召して歷城に還る；魏人は追擊して之を敗り，遂に碻磝を取る。
■初め，上は魏將の入寇を聞き，廣陵太守の劉懷之に命じて逆に城府を燒き、船に乘り，盡く其民を帥いて江を渡る。山陽太守の蕭僧珍は悉く其民を斂（あつ）めて城に入り，台に糧仗を送る盱眙及び滑台に詣ぜる者，路を以て通じず，皆山陽に留まる；陂（つつみ）水を蓄めて滿た令（し）め，須らく魏人至れば，決して以て之を灌（灌漑）せん。魏人山陽を過ぎ，敢えて留まらず，因りて盱眙を攻める。
●[盱眙守備戦、臧質の活躍]魏主は臧質に就（つ）いて酒を求め，質は溲（ソウ、小便）便を封じて之を與（あた）う；魏主は怒り，長い圍を築いて，一夕にて合す；東山の土石を運んで以て塹を填（つ）め，君山に浮橋を作って，水陸の道を絕つ。魏主は質に遺して書して曰く：「吾が今遣わす所の鬥兵，盡く我國人に非ず，城の東北は是れ丁零と胡，南は是れ氐、羌なり。設けて丁零を死なしめば，正に常山、趙郡の賊を減ず可し；胡死なば，并州の賊を減じる；氐、羌死なば，關中の賊を減じる。卿若し之を殺さば，所無く利あらず。」質は復書して曰く：「示すを省き，具（内容）は悉く奸（よこしま）懷なり。爾（なんじ）自ら四足（丁零、胡、氐、羌）を恃（たの）みて，屢（しばしば）邊境を犯す。王玄謨は東に退き，申坦は西に散ずる，爾（なんじ）其の知る所以（ゆえん）は然かる邪？爾獨り童謠之言を聞かず乎？蓋し卯年未だ至らず，故に二軍を以て江（の水）を飲む之路を開くのみ；冥（くらい）期は然らしめ，復た人事非ず。寡人は命を受けて相滅し，之を期して白登，師いて行くは未だ遠からず。爾自ら死を送り，豈に復た容れて爾の生を全くせしめ，饗は桑干に有らん哉！爾の有幸は亂兵の殺す所と為すを得，不幸は則ち生きて相い鎖縛し，一驢を以て載せ，直ちに都市に送るのみ。我が本より圖（カク、意図）を全くし，若し天地に靈無くば，力は爾に屈し，之を齏し，之を粉にし，之を屠し，之を裂く，猶未だ本朝に以て謝まるに足らざらん。爾の智識及び眾力は，豈に能く苻堅に勝たん邪！今春雨は已に降り，兵は方四から集まり，爾は但だ安意に城を攻め，遽き走る勿からんか！糧食の乏しき者語るを見る可く，當に廩（リン、扶持米）を出して相貽に相う。得る所の劍刀を送り，我をして之れ爾の身を揮（キ、振るう）わしめんと欲す邪！」魏主は大いに怒り，鐵床を作り，其の上に鐵鑱を施し，曰く：「城を破りて質を得，當に之を此の上に坐さん。」質は又魏眾に與えて書して曰く：「爾は虜中の諸士庶に語る：佛狸（北魏拓跋焘太武帝の小字）見て書を與え，相い待つこと此くの如し。爾等正朔（天子の統治に服する、臣下）の民，何為にか自ら縻（リン）を取りて滅し，豈に禍を轉じて福と為すを知らざる可きか邪！」寫台を並べ格（カク、正す、決まり）して以て之に與えて云う：「佛狸の首斬れば，萬戶侯に封じ，布、絹各萬匹を賜る。」
●魏人は鉤車を以て城樓を鉤し，城內は驅緪（クコウ、馬で引く太縄）を以て系かり，數百人が唱呼して之を引き，車は退く能わず。既に夜にして，桶に縋（す）がり懸卒出，其の鉤を截せ，之を獲る。明くる日，又た沖車を以て城を攻め，城の土は堅密，至る毎に，頹落（タイラク）は數升を過ぎず。魏人の肉薄城に登り，番を分け相い代え，墜ちて復た昇（?升）り，退く者有る莫かれ，殺傷は萬を計り，屍は城と平す。凡そ攻の三旬（十日），拔かず。魏軍中は多くの疾疫に會い，或いは建康に以て告げて水軍を遣じて海より淮に入り，又た彭城に敕して其の歸路を斷たんと；二月，丙辰朔（２日?），魏主は攻具を燒きて退き走る。盱眙の人は之を追わんと欲し，沈璞は曰く：「今兵は不多からず，固く守る可くと雖も，出でて戰う可からず；但だ舟楫を整え，若し北に渡らんと欲する者に示して，以て其の走を速くし，須らく實行せずを計るる也。」
■臧質は以て璞を城主とし，之に使して上の板を露わし，璞は固辭し，功（績）を質に歸す。上聞きて，益す之を嘉ぶ。
●[魏軍の退却戦]魏師は彭城を過ぎ，江夏王義恭は震え懼れて敢て擊たず。或（人は）告げて「虜（てき）は驅して南の口に萬餘，夕には應じて安王陂に宿し，城の數十里に去り，今之を追う，悉く得る可し。」諸將は皆な行くを請い，義恭は禁じて許さず。明くる日，驛使至り，上は義恭に敕して悉くの力で急追せんとす。魏師は已に遠く，義恭の遣わした鎮軍司馬の檀和之は蕭城に向かう。魏人先ず已に之を聞く。驅する所の者去るを盡く殺す。程天祚逃げ歸る。
●魏人凡そ南兗、徐、兗、豫、青、冀の六州を破り，殺掠は勝に計する可からず，丁壯者は即ち斬截（セツ）を加え，嬰兒は槊（サク、ほこ）上に貫き，盤舞して以て戲れと為す。過ぐる所の郡縣は，赤い地に餘無く、春に燕歸るに，巢の林木無し。魏の士馬の死傷は亦た過半，國人は皆な之を尤もとす。
■上は將に出師を命ずる毎に，常に成律，交戰の日時，また待中の詔を以て授け，是を以て將帥は趑趄（シショ、進まず），敢えて自ら決す莫し。又た江南の白丁，輕く進み易く退き，此くは其の敗れる所以（ゆえん）也。是れより邑（ユウ、むら）裡（リ、裏）蕭（ショウ、もの悲しい）條（ジョウ、筋），元嘉の政（まつりごと）衰える矣。
■癸酉（１９日），賑恤郡の縣民の遭寇に遭う者に詔して，其の稅調を蠲（ケン、取り除く）す。
■甲戌（２０日），降して太尉義恭を降（格）して驃騎將軍、開府儀同三司と為す。
●戊寅（２４日），魏主河を濟る。
■辛巳（２７日），鎮軍將軍の武陵王駿を降（格）して北中郎將と為す。
■壬午（２８日），上は瓜步に如く。是日，（戒）嚴を解く。
●[鄭羆の子の徳]初め，魏中書學生の盧度世，玄之子也，崔浩の事に坐して亡命して高陽の鄭羆の家に匿る。吏は羆の子を囚え，之の治を掠す。羆は其子を戒めて曰く：「君子は身を殺して仁を成し，死すると雖も言う可からず。」其の子は父の命を奉じて，吏は火を以って其の體を爇し，終に言わず而して死す。魏主の（揚子）江を臨むに及び，上は殿上將軍の黃延年を魏に遣使し，魏主は問って曰く：「盧度世の亡命，已に應じて彼に至るか。」延年曰く：「都下に度世の有るを聞かず也。」魏主は乃ち度世及び其の族の逃亡籍沒者を赦す。度世自ら出，魏主は以って中書侍郎と為す。度世は其の弟の為に鄭羆の妹を娶り以って��に報いる。
■三月，乙酉（朔１日），帝は宮に還る。
●己亥（１５日），魏主は平城に還り，飲みて告廟に至り，以て降民の五萬餘家を分けて近畿に置く。
●[芟麥移民]初め，魏主は彭城を過ぎ，人を遣して城中に語りて曰く：「食盡きて且つ去り，須らく麥熟して更に來ん。」期に及んで，江夏王義恭は議して麥を芟（か）り苗を翦（き）り，堡聚に民を移さんと欲す。鎮軍の錄事參軍の王孝孫曰く：「虜（てき）復た來る能わず，既に自ら保つ可し；其の更に至る如きは，此の議は亦た立つ可からず。百姓は閉じて內城に在り，饑饉の日久しく，方春の月，野采は自ら資する；一に堡聚に入り，餓死立つに至り，民は必死を知り，何の制する可けん邪！虜若し必ず來れば，麥を芟る晚無し。」四坐は默然とし，之に敢えて對える莫し。長史の張暢曰く：「孝孫の議，實に尋（たず）ねる可く有り。」鎮軍府典簽の董元嗣は武陵王駿の側に侍して，進みて曰く：「王錄事の議奪う可からず。」別駕王子夏は曰く：「此の論は誠に然り。」暢は斂板（死者を葬る時に、棺の中に収める札）を白くして駿に曰く：「下官は孝孫に子夏を彈くを命ずるを欲す。」駿曰く：「王別駕何の事有る邪？」暢曰く：「芟麥移民は，大議と謂う可く，一方安危は，事は此に繫がる。子夏親しく州端を為し，曾て同異無し；元嗣之言を聞くに及び，則ち歡笑（ほほえんで）して酬答す。（態度が悪い、ふざけるなの意味か）阿意を左右にし，何を以て君の事とすか！」子夏、元嗣皆な大いに慚（心に深く恥じる），義恭之議は遂に寢（や）む。
●[魯宗の孫の爽と秀の廟算遠圖]初め，魯宗の魏に奔るや，其の子の軌を魏は荊州刺史、襄陽公，鎮長社と為す。常に南歸を思うも，昔劉康祖及び徐湛之の父を殺すを以て，故に敢えて來らず。軌卒し，子の爽は父の官爵を襲う。爽は（年）少なれども武干を有し，弟の秀と皆な魏主の寵有り，秀は中書郎と為る。既にして兄弟は各罪有りて，魏主は之を責めて詰す。爽、秀は誅されるを懼れ，魏主に從いて瓜步より還り，湖陸に至り，請って曰く：「奴は南と仇有り，兵が來る毎に，常に禍が墳墓に及ぶを恐れる。共に喪を迎えて還りて平城に葬らんと乞う。」魏主之を許し，爽は長社に至り，魏の戍兵數百人を殺し，部曲及び願う從者千餘家を帥いて汝南に奔る。夏，四月，爽は秀を遣わして壽陽に詣り，南平王鑠に奉書して以て降るを請う。上は之を聞き，大いに喜び，爽を以て司州刺史と為し，義陽に鎮ぜしむ；秀を穎川太守と為し，餘の弟侄（姪）並びて官爵を授し，賞して甚だ厚く賜う。魏人は其の墳墓を毀す。徐湛之は以て廟算遠圖（廟を計算して遠く図る）と為し，特に獎納（奨励して納める）する所とし，敢て苟しくも私怨を申さず，屏居（閉じて外に出さない）田裡（田舎に住む?）と乞う；許さず。
■[青州民の司馬順則の反乱]青州民の司馬順則は晉室の近屬と自稱し，聚眾齊王と號す。梁鄒の戍主の崔勳之は州に詣り，五月，乙酉（２日），順則は虛に乘り襲いて梁鄒城に據く。又た沙門有り司馬百年と自稱し，また聚眾安定王と號し以て之に應ず。
●壬寅（１９日），魏大赦す。
■己巳（４６日不適合），江夏王義恭を以て領南兗州刺史とし，徙（うつ）して盱眙に鎮す。督十二州諸軍事を�瓩后�
■[何尚之と徐湛之の重用]戊申，尚書左僕射の何尚之を以て尚書令と為し，太子�藥�の徐湛之を僕射、護軍將軍と為す。尚之は以て湛之の國戚，任は隆重に遇い，事ある每に之を推す。湛之と尚之に詔して並びて辭訴を受く。尚之は令と為すと雖も，朝事は悉く湛之に歸す。
●六月，壬戌（９日），魏は正平と改元す。
●魏主は太子少傅の游雅、中書侍郎の胡方回等に律令の更定を命じ，多く�畭擦垢觸蝓に泙住杏感綵衆贓蝓�
●[魏の太子晃の憂卒]魏の太子晃は監國，左右に頗る信任され，又た園田を營じ，其の利を収む。高允は諫めて曰く：「天地は無私，故に能く覆載し，王者は無私，故に能く容養す。今殿下の國の儲貳は，萬方則とする所，而して私田を營立し，雞犬を畜養し，乃ち市廛の酤（即席の酒販）販に至り，民と利を爭う（民業圧迫）；謗りの聲は流布し，掩（エン、覆い隠す）を追う可からず。夫れ天下の者，殿下の天下，富は四海に有り，何んぞ求める無くして，乃ち販夫販婦と此の尺寸の利を競う乎！昔虢（かく、河南省三門峡市上村嶺にある西周時代後期から春秋時代前期の虢国貴族の墓群）の將亡，神は之に土田を賜い，漢の靈帝は私に府藏を立て，皆な顛覆の禍有り；前鑒（かがみ）此くの若く，甚だ畏る可き也。武王は國、邵、齊、華を愛し，天下の王となる所以なり；殷の紂は飛廉、惡來を受け，其の國を喪う所以なり。今東宮に俊乂少なからず，頃來たりて侍御する左右の者に，朝の選在ら非らざるを恐れる。殿下は佞邪を斥去し，忠良を親近し，田園を所在し，分けて貧下に販賣の物を給し、時を以て收散すを願う；此くの如くすれば，則ち日に至りて聲は休み，謗しる議は除く可く矣。」聽かず。
●太子は政の精察を為し，而して中常侍の宗愛，性は險暴，不法多く，太子之を惡む。給事中仇尼道盛、侍郎任平城は太子の寵有るを恐れ，頗る事を用し，皆な愛と不協なり。愛は道盛等の糾する所と為すを恐れ，遂に其の罪を告するを構え，魏主は怒り，道盛等を都街にて斬り，東宮の官屬多く坐死し，帝の怒り甚し。戊辰，太子は以て憂えて卒す。壬申，金陵に葬り，謚曰して景穆となす。帝は徐（おもむろ）に太子の無罪を知りて，甚しく之を悔やむ。
●秋，七月，丁亥（５日），魏主は陰山に如く。
★★★二十八年（七月）、使持節都督倭・新羅・任那・加羅・秦韓・慕韓六国諸軍事を加ふ。安東将軍は故の如し。ならびに上る所の二十三人を軍郡に除す。（「宋書」倭国伝、倭王済の遣使）
■青、冀二州の刺史蕭斌は振武將軍の劉武之等を遣して司馬順則、司馬百年を擊ち，皆な之を斬す。（八月?）癸亥（１１日?），梁鄒を平らぐ。
■蕭斌、王玄謨は皆な坐して退敗し官を免ず。上は沈慶之に問いて曰く：「斌は玄謨を斬らんと欲して卿之を止む，何んぞ也？」對えて曰く：「諸將は奔り退く，罪を懼れざる莫かれ；自ら歸りて死し，將に逃散に至り，故に之を止む。」 と。
●九月，癸巳（１２日），魏主平城に還る；冬，十月（９日），庚申，復た陰山に如く。
■上の遣使は魏に至り，魏は殿中將軍郎の法祐來を遣わして修好す。
●己巳（１８日），魏の上黨靖王の長孫道生は卒す。
●[魏主の孫濬を封じて高陽王]十二月，丁丑（２７日），魏主は景穆太子の子濬を封じて高陽王と為す；既に皇孫の世嫡を以て，籓王と為す當わず，乃ち止む。時に濬は生四年，人に過ぎて達すと聰き，魏主之を愛し，常に左右に置く。秦王翰を東平王と為し，燕王譚を臨淮王と為し，楚王建を廣陽王と為し，吳王余を南安王と為して徙す。
■帝は沈慶之をして瓜步の流民數千家を彭城に徙しめ，征北參軍の程天祚に姑孰の流民數千家を江西に徙しむ。 12/12ここまで
■[王僧綽侍中となる]帝は吏部郎の王僧綽を以て侍中と為す。僧綽，曇首之子也，幼くして大成の度有り，眾は皆な以て國の器と之を許す。學を好み，思理有り，悉く朝典を練ず。なお帝は女の東陽を公主として獻ず。吏部に在るや，悉くの人物を諳（そらん）じ，舉拔して其の分を鹹（カン、辛い）得す。侍中に為すに及び，年二十九，深く沉（しず）めて局めて度（量）有り，才能高き人を以てせず。帝は頗る以後事念と為し，以て其の年の少くも，大きく相を付託せんと欲し，朝政の小大，皆な與に參す。帝の始め親政する事也，委任するに王華、王曇首、殷景仁、謝弘微、劉湛，次に則ち范曄、沈演之、庾炳之，最後に江湛、徐湛之、何瑀之及び僧綽，凡そ十二人。
●康和は魏に入朝し，魏主は厚く之を禮す。
太祖文皇帝下之上元嘉二十九年（壬辰，公元452年）
●春，正月，魏の得る所の宋民の五千餘家で中山に在る者が謀叛し，州軍は之を討誅す。冀州刺史で張掖王の沮渠萬年は叛者と通謀して坐す。死を賜わる。
●[魏の中常侍宋愛が魏主殺害]魏の世祖は景穆太子を追って已まず，中常侍の宗愛は誅せらるるを懼れ，二月，甲寅（５日），帝を弒し，尚書左僕射の蘭延、侍中の和疋、薛提等は秘して喪を發せず。延、疋は皇孫の濬沖の幼なきを以て，（年）長き君を立てんと欲し，秦王翰に征きて，之に秘室を置く；提は濬の嫡皇孫を以て，廢す可からず。議は久しく決まらず。宗愛は之を知り，自ら景穆太子（殺害の）罪を得るを以て，（しかも）素より秦王翰と惡く，南安王余と善しとして，乃ち密かに中宮の便門より余を禁中に迎え入れ，赫連皇后が延等を召せ令むと矯(偽り)稱す。延等は素より愛を賤しむを以て，以て疑いを為さず，皆隨いて入る。愛は先ず宦者三十人をして禁中に持兵を伏せ使め，延等が入るに，以て次に收縛し，之を斬る；秦王翰を永巷にて殺し余を立つ。大赦し，改元して承平とし，皇后を皇太后と為して尊し，愛を以て大司馬、大將軍、太師、都督中外諸軍事、領中秘書と為し，馮翊王に封ず。庚午（２１日），皇子休仁を立てて建安王と為す。
●三月，辛卯（１３日），魏は太武皇帝を金陵に葬し，廟號を世祖となす。
■[北伐計画]上は魏の世祖の殂を聞き，更に北伐を謀り，魯爽等は復た之を勸む。上は群臣を訪ね，太子中庶子の何偃以って為す：「淮、泗の數州は瘡痍未だ復さず，宜しく輕動せざらん。」上は從わず。偃，尚之の子也。
■夏，五月，丙申（１９日），詔して曰く：「虐虜は窮めて凶，昔より著（あき）らかなり；未だ資斧を勞せず，已に伏して天誅す。拯溺蕩穢（ショウデキトウワイ、溺れるを救い穢れを流す），今は其の會（機会）也。驃騎（臨時の大将軍）を符す可く、司空は二府，各部分の統べる所，東西は應接。歸義（義に帰る）し建績（功績を立てる）する者，勞に隨いて酬獎（報奨）す。」是において撫軍將軍の蕭思話を遣わし督して冀州刺史の張永等を碻磝に向かわせ，魯爽、魯秀、程天祚將に荊州の甲士四萬を出し、許、洛，雍州刺史の臧質の所領を帥いて潼關に趣く。永は，茂度龍城の子也。沈慶之は固く北伐を諫む；上は其の異議を以って，行はしめず。
■青州刺史の劉興祖は上に言いて，以て為す：「河南は饑を阻み，野は掠する所無し；諸城を脫して固く守り，旬月も非ずして拔く可し。大眾は稽（セキ、とどまる）留し，勞する方は轉輸す；機に應じて勢に乘り，事は急速に存す。今偽帥（魏主のこと）は始めて死し，兼て逼暑の時，國內は猜擾（猜疑而擾攘），遠く赴く暇あらず。愚かにも謂うは宜しく中山に長驅し，其の關の要に據るべし。冀州以北は，民人は尚お豐か，兼ねて麥は已に熟に向かい，因りて資は易と為り，義に向うの徒，必ず應じて響き赴く。若し中州震動すれば，黃河以南は，自ら當りて消潰す。臣は青、冀の七千兵を發して，將に之を領せしめて，直に其の心腹（中心部）に入らんを請う。若し前驅が克勝すれば，張永及び河南の眾軍は宜しく一時に河を濟（わた）り，聲實兼舉せ使め，並に司牧（支配する長官・官吏）を建て，初附を撫で柔め，西は太行を拒み，北は軍都を塞ぎ，因りて事を指麾（指図）し，隨いて宜しき授を加え，威を畏れ寵を欣び，人百を其の懷にす。若し能く成功すれば，清壹に待つ可し；若し克捷（勝利）せざれば，大傷と為さず。並に裝束を催促し，伏して敕旨を聽く。」上意は河南に存するを止め，また從わず。上はまた員外の散騎侍郎の琅邪徐爰に軍を隨いて碻磝に向かわ使め，銜中に旨して諸將に方略を授け，臨時に宣示す。
■尚書令の何尚之は老を以って致仕を請い，方山に退居す。議者は鹹（から）く謂うに尚之は固い志に能わずと。既に詔書して敦く諭すること數四，六月，戊申朔（１月），尚之は復た起ちて事を視る。御史中丞の袁涉、古よりの隱士の有跡や無名者を錄して《真隱傳》を為すは以て之を嗤う。
■秋，七月，張永等は碻磝に至り，兵を引いて之を圍む。
■壬辰（１６日），汝陽王渾を武昌王とし，淮陽王��を湘東王と為して徙かす。
■[宋王室の乱れ、道育と王鸚鵡]初め，潘淑妃は始興王濬を生む。元皇后の性は妒，淑妃に上の寵有りを以て，恚（イ、恨む）恨して而して殂（ソ、死ぬ）し，淑妃は內政を專總す。是に由りて太子劭は深く淑妃及び濬を惡む。濬は將來の禍と為るを懼れ，乃ち劭は意を曲げて事とし，劭は更に之と善し。
■吳興の巫嚴の道育は，自ら辟谷服食を能くすと言い，鬼の物を役使す；因りて東陽公主の婢の王鸚鵡は主の家に出入りす。道育は主に謂いて曰く：「神は將に符有り主に賜う。」主は夜臥し，光の流れるを見て螢の若（ごと）し，飛びて書笥に入り，開いて視れば，二青珠を得る；是に由りて主と劭、濬は皆な信じて之に惑う。劭、濬並びて過失多く，數は上の詰め責る所と為る；道育をして訴え請わしめ，上が聞かずに過ぎら令まんと欲す。道育曰く：「我は已に上を天陳と為すを請う，必ず露も洩らさず。」劭等は之の事を敬い，號して曰く：「天師」。其の後遂に道育と、鸚鵡及び東陽主は陳天與を奴とし、黃門の陳慶國は共に巫蠱と為し，琢玉を上形像と為し，含章殿の前に埋める；劭は天與を補って隊主と為す。
■東陽主卒す，鸚鵡は嫁に出るに應じ，劭、濬は語洩れるを慮り，濬は吳興の沈懷遠を府佐す；素より濬の厚い所と為し，鸚鵡を以て之に嫁し妾と為す。
■上は天與が隊を領すと聞き，讓を以て劭に曰く：「汝の用ずる所の隊の主副は，並びて是れ奴か邪？」劭懼れ，書を以って濬に告ぐ。濬は復た書して曰く：「彼人若し為す所已まざれば，正に其の餘命を促す（殺す）可く，或は是れ大慶之漸のみ。」劭、濬は相い與に書疏を往來し，常に謂って上を「彼人」と為し，或は曰く「其人」，江夏王義恭を謂って「佞人」と為す。
■鸚鵡は先ず天與と私通し，既に懷遠に適し，事洩れるを恐れ，劭は密かに之を殺さ使むを白（ありのままに言う）す。陳慶國は懼れ，曰く：「巫蠱の事，唯だ我れ天與と宣傳し往來す。今天與死し，我は其の危ならん哉！」乃ち具（つぶさ）に以て其の事を上に（自）白す。上は大いに驚いて，即ち遣して鸚鵡を収める；其の家の籍を封じ，劭、濬の書數百紙を得て，皆な咒詛巫蠱の言なり；又埋める所の玉人を得，有司に命じて其の事を窮め治める。道育亡命し，之を（逮）捕すを獲ず。 12/13ここまで
■是より先，濬は揚州剌史より出でて京口に鎮し，廬陵王紹は疾を以て揚州を解くに及び，意は己に必ず復た之（揚州剌史?）を得んと謂う。既ち上は南譙王義宣を用い，濬は殊に樂しまず，乃ち江陵の鎮を求む；上は之を許す。濬は朝に入り，遣して京口に還り，行き留まりて處分を為し，京口に至り數日而して巫蠱の事發す。上は惋歎して彌日，潘淑妃は謂いて曰く：「太子富貴を圖り，更に是れ一理，虎頭は復た此くの如く、復た思慮の及ぶ所に非らず。汝母子は豈に一日我れ無く可けん邪！」中使を遣して劭、濬を切責し、劭、濬惶（おそ）れ懼れて辭ずる無く，惟だ陳謝して已む。上は怒り甚しと雖も，猶を未だ罪を忍ばず也。
■（宋の碻磝攻め失敗）諸軍碻磝を攻め，三つの攻道を治す：張永等は東道に當たり，濟南太守申坦等は西道に當たり，揚武司馬崔訓は南道に當たる。攻之累旬に，拔かず。八月，辛亥（５日）夜，魏人は地道より潛り出，崔訓の營及び攻具を燒く；癸丑（７日）夜，また東圍及び攻具を燒く；尋ねて復た崔訓の攻道を毀す。張永は夜を撤して退軍を圍み，諸將に告げず，士卒は驚きて擾う；魏人は之に乘り，死傷は地を塗る。蕭思話自ら往きて，兵力を�瓩傾兇瓩襪海判橸院塀銃�余り），拔かず。是の時，青、徐は稔らず，軍食乏し。丁卯（２１日），思話は諸軍に命じて皆な歷城に退屯させ，崔訓を斬り，張永を系し、申坦を獄す。
●魯爽は長社に至り，魏の戍主の禿髡幡は城を棄てて走る。臧質は近郊に頓兵し，時を以て發せず，獨り後軍行參軍の薛安都等を帥いて冠軍司馬の柳元景を潼關に向かわ遣め，元景等は進みて洪關に據く。梁州刺史の劉秀之は司馬馬汪と左軍中兵參軍蕭道成（次の済の皇帝）を遣わせて，將に兵を長安に向かわせる。道成は，承之の子也。魏の冠軍將軍の封禮は浢津より南に渡り，弘農に赴く。九月，司空高平公の兒烏干は潼關に屯し，平南將軍の黎公遼は河內に屯す。
■吐谷渾王の慕利延卒す，樹洛干之子拾寅立ち，始め羅川に居伏す；遣使して來りて命を請い，亦た魏にも命を請う。丁亥（１１日），拾寅を以て安西將軍、西秦、河、沙三州刺史、河南王と為す；魏は拾寅を以て鎮西大將軍、沙州刺史、西平王と為す。
■庚寅（１４日），魯爽は魏の豫州刺史の拓跋僕蘭と大索に於いて戦い，之を破り，虎牢に進攻す。碻磝の敗退を聞き，柳元景と皆な兵を引いて還る。蕭道成、馬汪等は魏の救兵將に至らんと聞き，還りて仇池に趣く。己丑（１３日），詔して蕭思話の徐州を解き，更に冀州刺史を領し，歷城に鎮す。
■上は諸將を以て屢出るに功無く，張永等に專責可からず，思話に賜いて詔して曰く：「虜は既に利に乘り，方は盛冬に向かい，若し脫敢送死，兄弟父子は自ら共に之に當たるのみ。言は憤を�瓩垢傍擇屐�以て張永、申坦に示す可し。」又た江夏王義恭と與えて書いて曰く：「諸將輩が此くの如きを早く知れば，恨んで白刃の之を驅するを以てせず。今悔やむこと何の所に及ぶ者や！」義恭は思話の官を免ずるを奏すを尋ね，之に從う。
●（北魏の宗愛を誅殺す）魏の南安隱王余は違次より以て立ち，厚く群下を賜り，以て眾心を収むを欲す；旬月の間，府の藏は虛竭。又た酣飲及び聲樂、畋獵を好み，政事を恤せず。宗愛は宰相と為り，三省を錄し，宿衛を總し，坐して公卿を召し，專恣（欲しいまま）日に甚す。余は之を患い，其の權を奪わんと謀る；愛は憤怒す。冬，十月，丙午朔（１日），余は夜東廟に祭り，愛は小黃門の賈周等をして就いて余を弒せ使め，之を秘し，唯だ羽林郎中の代人の劉尼のみ之を知る。尼は皇孫の濬を立てるを愛に勸め，愛は驚いて曰く：「君は大に人を癡うや！皇孫若くして立てば，豈に正平の時事を忘れる乎！」尼は曰く：「若爾，今當に誰を立てん？」愛は曰く：「宮の還るを待ち，當に諸王賢者の擇すを之立てん。」
●尼は愛の變を為すを恐れ，密かに狀を以って殿中尚書の源賀に告げる。賀は時に尼と典兵宿衛に俱し，乃ち南部尚書の陸麗と謀りて曰く：「宗愛は既に南安を立て，還りて復た之を殺す。今又た皇孫を立てずば，將に社稷に利あらずや。」遂に麗と謀るを定め，共に皇孫を立てる。麗，俟の子也。戊申（３日），賀は尚書の長孫渴侯と兵を嚴かに宮禁を守衛し，尼を使い、麗は皇孫を苑中に迎える。麗は皇孫を馬上に抱き，平城に入り，賀、渴侯は開門して之を納める。尼は東廟に馳せ還り，大呼して曰く：「宗愛は南安王を弒す，大逆不道なり，皇孫は已に大位に登り，詔有り，宿衛之士は皆な宮に還らん！」眾は鹹呼萬歲す。遂に宗愛、賈周等を執り，勒兵は入り，皇孫を奉じて即ち皇帝の位とす。永安殿に登り，大赦し，改元して興安とす。愛、周を殺して，皆な五刑を具え，夷は三族。
■西陽の五水群は蠻反し，淮より、汝から江、沔に至り，其の患を鹹（カン、しお）被す。太尉中兵參軍の沈慶之に詔して江、豫、荊、雍四州の兵を督して之を討つ。
●魏は驃騎大將軍の拓跋壽樂を以て太宰、都督中外諸軍、錄尚書事と為し，長孫渴侯を尚書令，加えて儀同三司と為す。十一月，壽樂、渴侯は爭權に坐して，並べて死を賜う。
●癸未（８日），魏の廣陽簡王建、臨淮宣王譚皆な卒す。
●甲申（９日），魏主の母閭氏卒す。
●魏の南安王余の立つ也，古弼を以て司徒と為し，張黎を太尉と為す。高宗の立つに及び，弼、黎議して合い旨とせず，黜（しりぞけ）て外都大官と為す；坐して怨言有り，且つ家人は其の巫蠱を為すを告げ，皆な誅せ被る。
■壬寅（２７日），廬陵昭王の紹卒す。
●魏は景穆太子を追尊して景穆皇帝と為し，皇の妣閭氏を恭皇后と為し，尊して乳母の常氏を保太后と為す。
●隴西の屠各王景文は魏に叛し，署して王侯を置く；魏の統萬鎮將の南陽王惠壽、洛の外都大官は四州之眾を拔き督して之を討ち平らげ，其の黨の三千餘家を趙、魏に徙す。
●十二月，戊申（４日），魏は恭皇后を金陵に葬す。
●（北魏の仏教復興）魏の世祖の晚年，佛の禁する稍弛み，民間は往往私に習う者有り。及高宗の即位に及び，群臣は多く之を復するを請う。乙卯（１１日），詔して州郡縣の眾居之所に，各に佛圖の一區を聽建させる；民の沙門に為らんと欲する者，出家を聽く。大州は五十人，小州は四十人。是に於いて佛圖の毀する所に向かいて，率いて皆な修復す。魏主は親しく沙門の師賢等五人を下髮と為し，以て師賢を道人統と為す。
●丁巳（１３日），魏は樂陵王擊忸を以て太尉と為し，南部尚書陸麗を司徒と為し，鎮西將軍杜元寶を司空と為す。麗は迎え立つの功を以て，受心膂（リョ、背骨）寄，朝臣で其の右に出る者は無く，爵の平原王を賜る。麗辭じて曰く：「陛下は，國の正統，當に基の緒を承わる；效順奉迎し，臣子は常職，敢えて慆天の功を以て大賞を干さざらん。」再三受けず，魏主は許さず。麗曰く：「臣の父は先朝に奉事し，忠勤は著效なり。今年逼た桑榆（桑や楡の木、桑榆暮景で老年の意味），願くば臣を以て爵之を授けん。」帝曰く：「朕は天下の主と為り，豈に卿の父子の二王と為ら使む能わざらん邪！」戊午（１４日），其の父を建業公に進め爵して東平王と為す。又た麗の妻に命じて妃と為し，其の子孫を復す。麗は力辭して受けず，帝は益之を嘉とす。
■東安公劉尼を以て尚書僕射と為し，西平公源賀を征北將軍と為し，並び進めて爵して王と為す。帝は班じて群臣に賜り，源賀謂いて曰く：「卿の任は意之を取る。」賀は辭じて曰く：「南北未だ賓ならず，府庫に虛可からず也。」之を固與し，乃ち戎馬の一匹を取る。
●高宗之立つ也，高允は其の謀に預かり，陸麗等皆な重賞を受け，允に及ばず，允は終身言わず。甲子（２０日），周忸の事に坐して死を賜る。時に魏の法は深峻，源賀は奏して：「謀反の家，男子十三以下は本に謀する者に預からず，宜しく死沒の官を免ずるべし。」之に從う。
■江夏王義恭は朝に還る。辛未（２７日），義恭を以て大將軍、南徐州刺史，錄尚書如故と為す。
●初め，魏は中原に入り，《景初曆》を用い，世祖は沮渠氏に克ち，趙匪文の《玄始曆》を得，時の人は以て密と為し，是歲，始めて之を行う。
平成30年8月26日本格翻訳開始
平成30年9月20日一応完了
平成30年10月2日再読終了29748文字（原文18525文字）
平成30年12月15日「日本書紀暦日原典」にて暦日調査、同日再々読終了32053文字
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