平成21年1月2日
箱根駅伝と親父
昨日は岡金三の話だったが、今日は親父のことを書こう。
ちょうどいま箱根駅伝をテレビでやっている。親父の岡正康は明治大学在籍時代の昭和２２年と２４年に箱根の山登りを走って優勝している。そのときの砂利道を登る映像が、毎年テレビに一瞬映る。ちょっとネット検索してみた。
昭和２２年
第２３回箱根駅伝。復活第１回大会の記念すべき大会に優勝。１８年ぶりに優勝旗を駿河台に持ち帰った。メンバーは、戸田省吾、溝部隆、沖田昭三、沢栗正夫、岡正康、湯浅儀一朗、牧野博、君野幸一、小林一郎、田中久夫。
昭和２３年
第２４回箱根駅伝、３位。
昭和２４年
第２５回箱根駅伝。中央が前回優勝メンバーの７人が残り優勝確実といわれていたが、打ち続くブレーキで、優勝争いは明早の対決となった。一進一退の手に汗を握るレースを沿道に繰り広げてファンを沸かせた。八つ山橋付近で早稲田を逆転し通算７度目の優勝をした。 メンバーは、島村和男、峯尾裕之助、田中久夫、久保晴良、岡正康、林和夫、乙倉英雄、槇野敦宣、安田正、木渓博志。
その他の記録
日本選手権5000m 1946年 岡 正康, 明治大, 16:06:00,
10000m 昭和21年(25回) 岡 正康 32分26秒4 ※道路・関東インカレ優勝
親父は大正１３年生まれ。倉敷商業時代から俊足で有名になり、戦前は日大へ、そして学徒動員の翌年昭和１９年に軍隊に入隊。足が速いというのは特技であり、随分優遇されたという。伝令やスパイには最適なんだよね。岡山の連隊の機関銃中隊にいたとき、岡山空襲に遭う。その後四男坊だからと、本当にスパイ養成学校に入れられる予定が、終戦となった。
実家は倉敷の醤油醸造業、戦後はいくら薄めた醤油でも売れたというほどヤミで大儲け。親父はその恩恵を蒙り、東京に出て明治大学に引っ張られて明治大学競走部の復活に寄与することになる。なんせ食糧を手に入れられるというのは大変にことだった。餓死者が出ようというときにマラソンをやろうというのだから。結構親父の下宿は合宿状態だったらしい。
昭和２２年の箱根駅伝は親父は山登り担当。全日本選手権も取っているから、まあ当時日本一のマラソン選手だった。栄養がまだ足りない時代だから、選手はしょっちょうブレーキを起こす。記録も戦前から比べたら随分悪くなっている。
親父はニュース映画のスターだったらしい。炎天下でいつも走るから、そうでなくとも真っ黒な体は黒光りするくらいに真っ黒に日焼けしていたという。「岡は醤油屋の息子だから、醤油で煮しめている」などと言われたらしい。結構スターはもてて、女の子のおっかけまでいたという。
昭和２３年、オリンピックロンドン大会があった。当然出られると思っていたら、いつまでたっても音沙汰がない。敗戦国にはオリンピックの招待状は来なかった。箱根駅伝のエースの瀬古も一番強いモスクワ大会の時に、政治的に理由で出場できなかったが、親父も４年後のヘルシンキ大会の時には、日本一ではなかった。オリンピックに出損ねた親父である。
当時は指導者としてでさえ、マラソンで飯は食えない。岡山に帰ってしばらくは中国食品として競技に出ていたという。僕は昭和２９年生まれ、幼稚園のころだから昭和３５年くらいに一度か二度、親父が走るのを見たことがある。岡山市の奥市グラウンドから西大寺までのロードレースだったよな。７位の賞状をもらってきた。残念そうだった。そりゃそうだよ、岡山の大会でも勝てない。
だから僕は小さい時から走りには興味があった。小学校時代、親父と何回か走ったことがある。だけど僕はそんなに向いていなかったようだ。それでも中学時代、学校では足は速い方だった、むしろ短距離が向いていたかもしれない。
親父はよく、レースの作戦について語っていた。かけひきのしかた、相手の余力のはかり方。抜いたら絶対に後ろを見るな、抜くなら５ｍは一気に離せ、そこの電信柱までと頑張れ。そして自宅に学生を合宿させて育てたいとも言っていた。だから天満屋陸上部が出来た時は本当に喜んで、訪ねていっていた。
マラソンには人生のドラマがある。努力して、努力して、それで最後には精神力の勝負。それでも才能というものもある。筋肉の柔らかい奴には勝てないという。親父も怪我との戦いだった。運動は体にいいなんていうのは素人の話、日本選手権を取るほどに練習すると、心臓は肥大し、スポーツ心臓といって脈拍は４０台になる。だから異常体質ということで、長く生命保険には加入できなかった。
僕はだから親父の体力を受け継いでいて、頑張ること、とくに肉体を鍛えたり酷使することには抵抗がない。ありがたいことだ、それからいま、ファジアーノ岡山のことなどに理解があるのも、スポーツへの思いがあるからだ。
親父はいま８４才、半分くらいは寝込んでいて、弱っている。今日の駅伝、明治が二区を終わったいま８位と頑張っているから、少しは元気が出るかな。
箱根駅伝と親父
昨日は岡金三の話だったが、今日は親父のことを書こう。
ちょうどいま箱根駅伝をテレビでやっている。親父の岡正康は明治大学在籍時代の昭和２２年と２４年に箱根の山登りを走って優勝している。そのときの砂利道を登る映像が、毎年テレビに一瞬映る。ちょっとネット検索してみた。
昭和２２年
第２３回箱根駅伝。復活第１回大会の記念すべき大会に優勝。１８年ぶりに優勝旗を駿河台に持ち帰った。メンバーは、戸田省吾、溝部隆、沖田昭三、沢栗正夫、岡正康、湯浅儀一朗、牧野博、君野幸一、小林一郎、田中久夫。
昭和２３年
第２４回箱根駅伝、３位。
昭和２４年
第２５回箱根駅伝。中央が前回優勝メンバーの７人が残り優勝確実といわれていたが、打ち続くブレーキで、優勝争いは明早の対決となった。一進一退の手に汗を握るレースを沿道に繰り広げてファンを沸かせた。八つ山橋付近で早稲田を逆転し通算７度目の優勝をした。 メンバーは、島村和男、峯尾裕之助、田中久夫、久保晴良、岡正康、林和夫、乙倉英雄、槇野敦宣、安田正、木渓博志。
その他の記録
日本選手権5000m 1946年 岡 正康, 明治大, 16:06:00,
10000m 昭和21年(25回) 岡 正康 32分26秒4 ※道路・関東インカレ優勝
親父は大正１３年生まれ。倉敷商業時代から俊足で有名になり、戦前は日大へ、そして学徒動員の翌年昭和１９年に軍隊に入隊。足が速いというのは特技であり、随分優遇されたという。伝令やスパイには最適なんだよね。岡山の連隊の機関銃中隊にいたとき、岡山空襲に遭う。その後四男坊だからと、本当にスパイ養成学校に入れられる予定が、終戦となった。
実家は倉敷の醤油醸造業、戦後はいくら薄めた醤油でも売れたというほどヤミで大儲け。親父はその恩恵を蒙り、東京に出て明治大学に引っ張られて明治大学競走部の復活に寄与することになる。なんせ食糧を手に入れられるというのは大変にことだった。餓死者が出ようというときにマラソンをやろうというのだから。結構親父の下宿は合宿状態だったらしい。
昭和２２年の箱根駅伝は親父は山登り担当。全日本選手権も取っているから、まあ当時日本一のマラソン選手だった。栄養がまだ足りない時代だから、選手はしょっちょうブレーキを起こす。記録も戦前から比べたら随分悪くなっている。
親父はニュース映画のスターだったらしい。炎天下でいつも走るから、そうでなくとも真っ黒な体は黒光りするくらいに真っ黒に日焼けしていたという。「岡は醤油屋の息子だから、醤油で煮しめている」などと言われたらしい。結構スターはもてて、女の子のおっかけまでいたという。
昭和２３年、オリンピックロンドン大会があった。当然出られると思っていたら、いつまでたっても音沙汰がない。敗戦国にはオリンピックの招待状は来なかった。箱根駅伝のエースの瀬古も一番強いモスクワ大会の時に、政治的に理由で出場できなかったが、親父も４年後のヘルシンキ大会の時には、日本一ではなかった。オリンピックに出損ねた親父である。
当時は指導者としてでさえ、マラソンで飯は食えない。岡山に帰ってしばらくは中国食品として競技に出ていたという。僕は昭和２９年生まれ、幼稚園のころだから昭和３５年くらいに一度か二度、親父が走るのを見たことがある。岡山市の奥市グラウンドから西大寺までのロードレースだったよな。７位の賞状をもらってきた。残念そうだった。そりゃそうだよ、岡山の大会でも勝てない。
だから僕は小さい時から走りには興味があった。小学校時代、親父と何回か走ったことがある。だけど僕はそんなに向いていなかったようだ。それでも中学時代、学校では足は速い方だった、むしろ短距離が向いていたかもしれない。
親父はよく、レースの作戦について語っていた。かけひきのしかた、相手の余力のはかり方。抜いたら絶対に後ろを見るな、抜くなら５ｍは一気に離せ、そこの電信柱までと頑張れ。そして自宅に学生を合宿させて育てたいとも言っていた。だから天満屋陸上部が出来た時は本当に喜んで、訪ねていっていた。
マラソンには人生のドラマがある。努力して、努力して、それで最後には精神力の勝負。それでも才能というものもある。筋肉の柔らかい奴には勝てないという。親父も怪我との戦いだった。運動は体にいいなんていうのは素人の話、日本選手権を取るほどに練習すると、心臓は肥大し、スポーツ心臓といって脈拍は４０台になる。だから異常体質ということで、長く生命保険には加入できなかった。
僕はだから親父の体力を受け継いでいて、頑張ること、とくに肉体を鍛えたり酷使することには抵抗がない。ありがたいことだ、それからいま、ファジアーノ岡山のことなどに理解があるのも、スポーツへの思いがあるからだ。
親父はいま８４才、半分くらいは寝込んでいて、弱っている。今日の駅伝、明治が二区を終わったいま８位と頑張っているから、少しは元気が出るかな。
このページへのコメント
初めまして、明治大学 競争部 田中 久夫の次男
田中義人と申します。
父の名前を入れて、パソコンで検索したところゆうなぎ鉄道の
サイトを発見いたしました。
私の父も昨年11月1日に他界しました。
生前、岡正康さんの事をよく聴かされました。
”学生では一番速かったよ”
”本当は彼が主将だったんだろうな”と聴かされました。
父は教諭引退後、北海道 岩見沢市 という小さな町で
陸協の理事長を務めておりました。
人口7万人ほどの小さな町ですが、全天候型陸上競技場を
構えており、これが父の最後の仕事だったんだなと思いを
馳せなが葬儀後に陸上競技場を見て廻りました。
父の名前を載せていただき有難うございます。
コメントありがとうございます。親父は一昨年７月２１日に亡くなりました。それで山陽新聞には「箱根駅伝優勝者」として死亡広告を出し、西阿知のお墓にも書き込みました。
お葬式には明治の陸上部の監督にも来ていただきました。親父も毎年の駅伝を見ていましたが、昨年、今年と６０年ぶりの往路優勝かと報道されますが、それは親父の時だったのですよね。
明けましてオメデトウございます。
箱根駅伝のＴＶ中継放送を見ながらパソコンで「岡正康」を検索したところ貴殿のご父君を回想される記事に出会いました。昭和１８年５月 明治神宮大会の岡山県予選で赤いランニングシャツを着て倉敷工業学校のグラウンドを颯爽と走られるご父君のお姿が今猶目に浮かびます。その後ご父君は大学に進まれて箱根駅伝で大活躍されたとのこと。私は縁あって昭和２５年４月から１０年間倉敷商業高校に勤務しました。毎年同窓会総会に出席しています。ご父君も参加されることを耳にしてお目にかかれることを期待していましたが「中国食品」の倒産に伴って残念ながらお目にかかる機会を失ってしまいました。私も８４歳を過ぎて今では走れなくなり若かりし頃を懐かしむのみになりました。思いつきでメールを差し上げる失礼をお許し下さい。