ゆうなぎ鉄道社長のページ - 津山線崩落脱線事故について
津山線崩落脱線事故について

JRの現状
 11月19日のJR津山線の落石脱線事故の復旧に関しては、LRT法や総合交通戦略法の検討経緯と深く関わるものなのである。このままだと津山線は抜本的安全対策がなされないまま、廃線にさえ追い込まれる可能性もあり、同様の問題を抱えるJR赤字ローカル線すべての廃線につながることさえ想定しなければならない。

 私の交通権学会での論文「福知山線児子と地方鉄道廃止の政策的背景」に述べたように、JR西日本では、阪神大震災以後、赤字ローカル線については、保守費用のでない路線は廃止縮小せざるをえない状況にあり、特に完全民営化で外国人株主が30%を越える現状では、その速度は速まっている。また福知山線事故で高まった安全性論議の中、新型ATSの導入などで多額の安全対策の設備投資を必要としており、地方赤字ローカル線のまわす資金は減少している。
 そのような中で、都市部の鉄橋やトンネル、崖の少ない、つまり保守費用のかからない路線については、新幹線駅に乗客を運ぶというメリットがあるため、LRT化によって活性化を図るという方式があみだされ、新幹線からみで待ったのない富山港線については、富山市などが三セクをこしらえて、富山ライトレールが設立され、岡山の吉備線においてもLRT化が計画されはじめたのである。

 JRとしては、津山線などの都市間輸送は、新幹線を支えるネットワークとして維持する意志を持っていたが、岡山でも姫新線、芸備線、因美線などの山間地域の路線については、便数も減らし、保守も毎月第三日曜の昼間を運休にして行うなど、廃止予備軍のような扱いになっている。
 こうした中、広島のJR可部線の廃止はJRとしての廃止のサンプルのような存在だが、要は鉄橋やトンネル、崖が多く、十分な安全対策が資金的にむずかしいから廃止されたのである。

鉄道復活の事例
 さて福井の京福電鉄では、2000年に2度の死亡事故を起こしたことから、一旦廃止されたが、これは十分な車輌投資がなされなかったからである。それ以来各地の地方鉄道で同様の設備投資、安全投資不足が顕在化し、廃止に追い込まれたところが多い。
 そうした中、福井では郊外の勝山市が中心となって京福電鉄復活をめざし、ついには「えちぜん鉄道」として再生を果たした。雪の降る地域だけに、高校生の通学問題は大変であり、自動車を買って送り迎えしなければならなくなった家庭も多かった。
 2003年の再生は、県が中心になった3セクで行われ、この経験から和歌山の南海貴志川線が再生されることになった。すなわちこの時のノウハウが、市民グループを通じて岡山電気軌道や和歌山市、和歌山県を動かしたのである。

 津山線の場合、崖の上部は民有地で、JRが直接タッチできない。しかしそこに手を入れなければ安全は確保できない。この場合、地域が鉄道を絶対必要だという強い意思を表明し、財政的にも十分に支援しなければならない。おざなりの対策でもしもう一度人身事故を起こしたならば、中国運輸局としては、運行停止を命じざるをえなくなるのである。こうした認識を少なくとも岡山市、岡山県、地域住民は持たなければならないし、関係のないような県北赤字ローカル線さえも、決して無関係ではない、むしろ廃止のムードは高まっているのはそちらかもしれない。

 LRTも地方赤字ローカル線もおなじような収益構造にある。一番大きい運行コストは人件費で、人件費をまかなう事がまずむずかしい。次に車輌費だが、車輌の減価償却もままならない。まして十分な保守安全対策の費用は、車輌もインフラもできない。まして新線建設の莫大なコストを運賃でまかなうことなどほぼ不可能だ。
今後の方向づけ
 しかし一方、地球温暖化対策の観点から、こうした一見大赤字の路線も、また別の価値を持つ。またさらには人生80年まのうち、最初の20年と最後の10年は自動車に自分で乗れないのだから、公共交通の必要性は減るわけではない。いわゆるユニバーサルデザインの観点から公共交通の税金での維持は必要不可欠なのである。

 JR津山線の事故の背景を考えれば、単にJRに責任を回帰させるのでなく、社会構造的に津山線を支える方向を見出さなければならないし、それは岡山だけのことではない、全国的な問題なのである。