924 名前:その冬の日 [sage] 投稿日:2010/01/26(火) 19:58:02 ID:YARNpUpE
925 名前:名無しさん@魔法少女 [sage] 投稿日:2010/01/26(火) 19:59:03 ID:YARNpUpE
926 名前:その冬の日 [sage] 投稿日:2010/01/26(火) 19:59:54 ID:YARNpUpE
927 名前:その冬の日 [sage] 投稿日:2010/01/26(火) 20:00:37 ID:YARNpUpE
928 名前:その冬の日 [sage] 投稿日:2010/01/26(火) 20:01:29 ID:YARNpUpE
929 名前:その冬の日 [sage] 投稿日:2010/01/26(火) 20:02:33 ID:YARNpUpE
930 名前:その冬の日 [sage] 投稿日:2010/01/26(火) 20:03:54 ID:YARNpUpE

 その冬の日、無限書庫の空調設備が壊れた。



「…………寒い…………寒い…………寒い…………寒い…………とにかく寒い」

 ぶっ壊れたテープレコーダーのようにぼそぼそ同じ単語を呟きながら、ユーノはいつもの三倍増しの速度で仕事
をこなしていた。
 朝からずっと部屋の中にご滞在中の寒気は、身が切られるほど厳しい寒さというわけではないが、しんしんとし
て重たく、皮膚から染みこみ骨にまで至ろうとしている。
 特にキーを打つため防寒のしようがない指先は、ぴりぴりとした痒さを感じつつあった。

「しもやけ、覚悟しといた方がいいかな……」

 あと、腹の回りにべたべた貼りつけたホッカイロによる低音火傷。
 とにかく一刻も早くこのシベリアもどきな書庫を出なければ、とかじかんだ指を必死で動かすユーノ。
 そこへ、まったく予期していなかった訪問者がやってきた。

「ユーノ君、寒いのにお仕事ご苦労様」
「なのは?」

 恋人の到来に、一瞬だけ寒さと帰宅への渇望を忘れてユーノは手を止めた。
 なのはの格好は教導官服ではなく私服。手にはバッグと魔法瓶を持っている。

「フェイトちゃんとメールしてたら無限書庫が大変なことになってるって聞いたから、差し入れ持ってきたの。ユー
ノ君達が帰っちゃったら意味ないから急いで、あんまり手の込んだ物は作れなかったけど……」

 言いながらなのはは魔法瓶を開け湯気の立つ中身をカップに注ぎ、バッグからはラップに包まれた物を出した。

「こっちはコンソメスープで、これはおにぎり。炊き立てのに保温魔法かけてきたからあったかいよ」
「わざわざ持ってきてくれてありがとう。すごく嬉しいよ」
「そんなたいしたものじゃないけど……。おにぎりは中身梅干のしかないし」

 寒中炊き出しそのままな差し入れである。
 なのはが言った通り、おにぎりだけでなくスープもあまり手の込んだではなかった。匂いからしておそらくイン
スタント。申し訳程度に具として葱が入っているだけ。
 それでも今の凍えきったユーノにしてみれば、フルコースのようにありがたい食べ物だった。
 口にしたスープは、冷たくなった唇には火傷しそうなぐらい熱く感じられたが、身体を暖めたいという欲求が勝っ
た。あっという間に一杯飲み干してしまう。
 飲み込んだばかりの液体が、腹の中でじわりと広がり芯から身体が温まり、強張ったからだがほぐれる。涙腺ま
で緩んで思わず涙が流れかけた。
 恋人が魔王でも般若でもなく菩薩で女神に見え、ユーノの頭は自然と下がった。

「本当にありがとう」
「ユーノ君、そんな頭まで下げなくても」
「約束するよ。来月は絶対にデートを仕事ですっぽかさない。残業もできるだけしない。デートのお金も全部僕が
持つ」
「…………そんなに寒かったんだ」

 あまりの感動っぷりに若干引き気味のなのはが、二杯目を注いでくれる。渡してもらう時に、ユーノの手がなの
はの指に一瞬だけ絡んだ。
 ここで好きな男の子の手が触れたことに驚いたなのはがカップを落として大騒ぎ、などという段階はとっくの昔
に卒業しているので何もハプニングは起こらなかったが、ユーノが触れた部分をなのははしげしげと眺めていた。

「本当に寒かったんだね。手が氷みたいに冷たかったよ」

 視線を自分の手からユーノの手に移すなのは。その指先が伸びてきて、ユーノの手をカップごと包んだ。
 なのはの身体は、指の一本一本までも柔らかい。その柔らかい指先が、手の甲を軽く擦るように動く。
 ユーノの持つカップに入っているのは熱々のスープ。一方なのはの手は体温以上の温度になるわけがない。温かさ
なら手の内側の方が上のはずなのに、触れていたいのは外側だった。

「なかなかあったまらないね」
「うん、まあ、その……」

 ギャラリーがいないとはいえ、さすがにユーノも恥ずかしくなってくる。かといって手を引くには惜しい温かさが
ある。終了の言葉が胸と喉の間を行ったり来たりで、いつまで経っても口から出ない。
 どのへんで切り上げたものかと視線を天井にさまよわせているうち、なのはの指が手の甲から手首に進んできた。
軽く握られ、なのはの方へ引かれる。
 なんだか目つきが怪しいと思いつつ、引かれるままに片手をカップから外すユーノ。

「……こうしたら、もっと温まるかな」

 言うが早いが、なのははユーノの指を口元へ運んだ。
 凍えて縮んだ人差し指が、桜色の唇に食まれる。
 スープよりもはるかに熱い液体が、にちゃりと指に絡みついた。

「ちょっ!? なのはっ!?」

 さすがにユーノは狼狽した。
 なのに、指は意思に反してなのはの口から出せない。恋人の口内の温かさを感じたいとばかりに、頑として口から
動こうとしない。
 それを承諾の顕れと見たのか、なのはの舌が指全体を包んだ。
 唾液を摩り込むように、舌がぬるぬると動く。
 ちゅぷり、ぴちゃりと、淫卑な音が静かな司書長室に響いた。
 人差し指が終われば次は中指。その次は薬指。小指に行くかと思いきや、また人差し指に戻る。
 指がふやけそうだと感じた頃、動きが変わった。
 ずるりと指がすぼめた唇から引き出される。
 一泊呼吸を置いたなのはがちろりと唇を湿すと、中指を付け根から指先までたらりと舐め上げた。そのまま爪と皮
膚の間をくすぐるように舐め回す。
 明らかに、指を別のものに見立てた口技だった。
 愛撫される指先に体中の神経が集まっていく。舌のくぼみ一つに到るまで感じられそうなぐらい、指の感覚が尖っ
ていく。
 いつのまにか、ユーノは自分から指を動かしていた。積極的になのはの舌へ指を巻きつけ、唾液を掬いとる。なの
はも応えて、いっそう情熱的に舐め立ててくる。
 乾いた喉が、無意識で音を立て唾を飲み込んだ。
 もう寒さなど、どこかに吹き飛んでいる。代わって熱いものがどくどくと心臓から全身に流れ出していた。

「ん……ぷはぁ……」

 息苦しくなったのか、なのはが一度口を離す。その目元がわずかに潤んでおり、頬が上気していた。
 そういえば、ここ二週間ほどはスケジュールが合わずご無沙汰だった。正直、相当溜まっている。なのはもだろう。
 どの辺りからなのはがその気になったのかユーノには見当つかないが、少なくとも今は完全にその気になっている。
それは、ユーノも同じだった。
 まだ唇に残っている指を引く。引いた分だけ、自分の唇を近づけた。

「んんっ……ユーノ、くぅん…………あぁん……」

 唇をさらに深く合わせ唾液の甘さに酔いしれていきながらも、ユーノは一瞬だけマルチタスクを展開させる。
 今日の残してある仕事を明日以降に回した場合のスケジュール変更を三秒で完了。
 あとはもう、ひたすら眼の前にいる恋人のことだけをユーノは頭は考え続けた。

          ※



「…………高町教導官、ちっとも出てこないですね」
「いつものことだけど、独り者には目の毒だよなぁ」
「ほんと、あんまり見せつけないでほしいですよね、この間、書庫の片隅でキスしてるの目撃した時の気まずさっ
たら……」
「まだましだ。俺なんかうっかり本番の最中に部屋入りかけたんだぞ」
「もうちょっと自重してくんないかな……」



「いや無理だろ」

 耳に入ってくる独身組司書達の愚痴に、アルフは小声で突っ込みを入れた。
 あの司書長と教導官は、時たま倫理観というやつがすっぽり頭から抜け落ちる。このあたり、大人びているよ
うでも若くて青くて熱い。

「まあ、自重してほしいってのは同感だけど」

 最近会えていない恋人のことを思い出し、少々センチな気分になりながらアルフは帰り支度を始めた。
 なのはの差し入れはアルフ達の分もあったが、量そのものは多くない。健啖家のアルフは食ったらかえって腹
が減った。さっさと帰って大盛りのあったかいご飯とやけくそに熱い風呂でも堪能して寝よう、と決めてアルフ
は席を立つ。

『はぁはぁ……ユーノ君、もうここに泊まっちゃっていい?』
『うん、なのはの着替えも用意してあるから、この間みたいに朝になって大慌てってことはないよ』
『だったらベッドに行って四回目……しよ?』

 司書長室からかすかに聞こえてくる声を全力で無視し、アルフは家路へと向かった。

          ※



 その冬の日、ハラオウン家周辺で大規模かつ長時間の停電が起きた。



「…………だからってこれはどうなんだ?」

 クロノは呆れ半分、諦め半分の気分で呟いた。
 独り言だったのだが、身体の上から返事が返ってくる。

「だってお風呂にも入れないし電気毛布も使えないんだから、こうするのが一番あったかいよ」
「いや、だけど……」
「クロノはいつも、体調管理も仕事のうちって言ってるよね。風邪引いちゃったりしたらだめだよ?」
「だからといって……」

 言いたいことは色々あるのだが、間近で囁かれる恋人の甘い声と、胸板に押し当てられた柔らかくふくよかな感
触のせいで、喉の辺りで霧散しうまく言葉になって出てくれない。
 冬の夜は七時過ぎの今現在、自分のベッドにいるクロノが身につけているものは衣服ゼロ、布団数枚、あと体の
上にフェイト。
 有体に言ってしまえば、クロノとフェイトは布団の中で全裸でくっつきあっているのだった。
 発案者はフェイト。食事を済ませた後にクロノの部屋へ来て、寒い時に暖まるにはこれがいいと言い出し、反論
する暇も与えず有言実行してきたわけである。
 肉布団、などという卑俗な言葉が頭をよぎり、顔と下半身に余計血が回る。

「こうしてても、ちょっと隙間風入ってきて寒いね」

 クロノの興奮を知ってから知らずか、寒そうに身震いしながらフェイトはいっそう身をくっつけてきた。
 顔のすぐ近くにきたフェイトの肌の匂いが、クロノの鼻腔に届く。
 風呂に入れなかった、というフェイトの言葉を思い出された。一日を過ごしたまま清められなかった身体からは、
いつもよりはっきりと甘やかな香りが匂い立っている。
 触覚だけでなく嗅覚にも強烈な刺激を受け、クロノの分身はもはや臨戦態勢となっていた。

「んっ!?」
「どうかしたの?」
「いや、なんでも……ない」

 実は大いになんでもあった。
 フェイトがちょっと身体をずらした拍子に、下半身で元気になっているものがフェイトの尻の割れ目にぴったり
と押し当てられたのだ。
 息遣いに合わせてフェイトの身体がわずかに揺れると、当てられた柔らかい尻肉がクロノのものを刺激してくる。
 愛撫というにはささやか過ぎる上下運動。それでもフェイトの裸を見た時から興奮していたクロノの性器は、もっ
と先が欲しいとひくひく痙攣するように動いていた。このままだと無様に暴発する恐れすらある。

「やっぱりどうかしたんじゃないかな?」

 どこかいたずらっぽい声と共に、フェイトの腰が大きく揺らされた。

「…………っ!!」

 いきなりの刺激にクロノはなんとか声は抑えたものの、腰が跳ね上がるのは止められなかった。
 そういう反応を愉しそうに眺めているフェイトは、どう見ても分かっていてやっている。
 気恥ずかしさに視線を外そうと横を向けば、頬に手を当てられ正面を向かされた。

「クロノずいぶん恥ずかしがってるけど、停電してなくても結局こういうことしたはずだよね」

 くすり、と笑って、フェイトの唇から舌が伸びてきた。
 暗がりでも鮮やかに赤い舌が、ぺろりとまつ毛の上を舐めた。

「顔もずいぶん冷たいね」

 布団から出ていて冷えた顔を、フェイトの舌が溶かしていく。
 耳から頬。顎へと下って喉をくすぐり、逆の耳へと上っていく。丹念な舌遣い。なのに、唇にだけは絶対に触れ
ようとはしてくれない。
 ずっと当たりっぱなしだった胸も、軽く持ち上げられてしまう。硬くなり出した先端だけが、つんつんと胸をつ
ついてくる。
 上から下まで生殺し状態とされたクロノはもう言葉もなく、完全にまな板の上の鯉だった。

「ちゃんと言ってくれたら、キスもその先もしてあげるけど、どうする?」

 真紅の瞳が、クロノの瞳の奥まで覗き込んでくる。そこにあるのは、フェイトにしては珍しい嗜虐の色。
 今夜は最初から最後までフェイトに遊ばれそうな予感を覚えつつ、クロノは欲情のままに流されることにした。

「…………したい」
「誰と? なにを?」
「君と…………セックスしたい」
「うん、よく言えたね」

 母親が子供を褒めるように、頭が撫でられる。しかし口元には、母性とは真逆の妖しい笑みが浮かんでいる。男
を手の中に収めた女だけが浮かべる笑み。
 その笑顔のまま、貪るような口づけが落ちてきた。



          ※



『んん…………だめだよクロノ、あったかいミルクは口じゃなくてこっちにくれないと……』

『つぅ……! 本当に、君の中はいつも熱くてきついな』

『ねえクロノ、次はお尻に温かいのちょうだい……』



「寝れるかちくしょう!!」

 一声吼えて、アルフは被っていた毛布を跳ね上げた。
 いつも寝る時は人間姿なのだが、今日は少しでも暖を取るべく毛皮の分だけ防寒度の高い狼姿になっていた。
 それが仇になった。なにしろ狼の聴覚は十メートル先に針が落ちた音でも楽勝で拾える。いわんや隣の部屋で
行われている情事ボイスなど、それこそ大音量スピーカーの如く聞こえてしまう。
 そしてアルフのことなどすっかり忘れているらしい二人に、自重の気配は欠片も見られない。いつものことだ
が。
 期待していた風呂には入れず、食事もインスタントで済まされたアルフのいらいらは頂点に達しかけていた。

(とりあえず、フェイトへの文句とクロノへのヤキ入れは明日するとして…………今晩どこで寝よっかね)

 一晩中家族のギシアン声を聞かされるのも、人間姿で寒さに震えながら寝るのも嫌だ。もうどこか違う家へ避
難しようとアルフは決心した。

(でもリンディとエイミィは温泉旅行中でいないし、なのはとユーノは無限書庫外泊コースだし。他に行ける家は
…………あ、なぁんだ)

 はたと気がついたアルフは、ぽんと手を打つ。
 たとえこういう事態になってなかったとしても、行きたい家が一軒あった。

          ※



 その冬の日、八神家の暖房器具が軒並み壊れた。



「そういうわけで宿借りに来ましたー。いいですよね?」
「まあ、そういうことでなくてもいいけどな」

 玄関口で説明を終えたはやての背後をゲンヤは見回した。
 よほどのことが無い限り彼女の傍らにいるはずのヴォルケンリッターが、一人も見当たらない。

「シグナム達はどうした?」
「あー……あの子達は留守が無用心にならへんようにって、家に残っててくれてます」
「全員が、か」
「全員が、です」

 はやてのちょっと気まずそうな顔で、だいたいのところをゲンヤは察した。

(こういうことに気を利かせてくれる家族がいるってのはありがたいな)

 はやてだけではなく、ゲンヤにとってもありがたい。
 今度八神家に行く時は土産を持っていこうと思いながら、はやてを家にあげてやる。
 リビングではやてがお泊りセットを解いている間に、ゲンヤは台所へ向かった。

「コーヒーかココアかどっちがいい? ああ、ホットカルピスもいけるぞ」
「あのですねゲンヤさん、もう私は子供ちゃうんですから、あったまりたい時はアルコールを勧めるもんでしょ
う?」
「三佐だろうが酒飲めるようになっていようが、お前はまだ子供みたいなもんだろ」
「そんなことありませんて。こないだだって服屋の店員さんに、お客様にはこういう大人っぽい衣装が似合われ
ると思いますって言われましたよ」
「そりゃ売れ残りの服押しつけたかっただけだろう」
「むぅ……ゲンヤさんがいじめるー」
「だいたいな、好きな男の家へ来るのに一々理由がいる時点で子供だ」

 うぐっ、と言葉に詰まり、そのままはやては静かになった。

(……まあ、娘ぐらいの年頃の女に手を出してるあたり、俺もまだまだ子供だけどな)

 愛に年齢差など関係ない、などと唇が火傷しそうなことをほざけるわけではないし、ええ歳した大人のとるべ
き行動でなかったことは確実である。もっとも、後悔は微塵もしていないが。

(なんとなくあいつをからかいたくなるあたりも、そうかもな)

 後で多少は機嫌をとっておかねば、と思いながらゲンヤは冷蔵庫の中を見繕う。
 ここで本当にホットカルピスなど持って行ったら確実にむくれられるため、燗をつけても大丈夫な酒を手にし
た時だった。
 下半身に、なにやらごそごそと触れるものがある。視線を下ろせば、リビングにいたはずのはやてが膝をつい
てゲンヤのズボンに手をかけていた。

「……なにやってんだお前」
「子供にはできないこと、やろうとしてるとこです」

 見上げてくるはやての顔を見た瞬間、ゲンヤはいじくりすぎたことをおもいっきり後悔した。

「おいこらちょっと待て八神。さすがにここはまずい」

 台所からだと、窓から隣の家へけっこう音が漏れる。
 はやてとの関係は、せめて結婚まではご近所へ秘密にしておきたい。ロリコン呼ばわりされるのは職場だけで
十分だった。

「子供やから大人の言うことなんて聞きませ〜ん」
「大人扱いされたいのか子ども扱いされたいのかどっちだ!?」

 制止も聞かず、はやてはゲンヤの股間をズボンの上から撫でてくる。
 やめさせようにも、ゲンヤの両手は酒とグラスで塞がっていた。
 寝所以外の場所ですることに興奮を覚えるような年は過ぎたが、愛している女が下半身に触れているという事
態にはさすがに反応せざるを得ない。

「あ、おっきなってきた」
「…………すまんかった。謝る。だからここでするのだけはやめてくれ」
「だったらもう子供扱いするのやめてください。それと八神じゃなくてベッドの中みたいにはやてっていつでも
呼んでくれたらやめたげます。ついでに布団までだっこして行ってください。あ、こないだ見つけたマフラー買っ
てくれるのも追加で」
「……要求多いぞ」
「じゃあこのままここで」
「分かった分かった。分かったからベルトを外そうとするな、はやて」

 特大のため息をついて、ゲンヤは恋人を持ち上げた。華奢な軽さと、人肌の温もりが腕に伝わってくる。
 お姫様だっこ状態がご満悦なのか、はやては相貌を崩す。
 その顔はまだまだ子供で、そのくせほんの少しだけ大人っぽかった。

(……なんだかんだで、こいつも女になってんだな)

 こちらは男というよりお父さんな顔になりながら、ゲンヤは寝室へ向かって歩み出した。



          ※



「ふえっくしょい!! おいシグナム、もっと火出せるだろ」
「鼻をかんでからしゃべれ。それと室内でこれ以上火力を強めたら危険だ」
「大丈夫、いざという時でもリインちゃんがぱぱっと消してくれるわ」
「はい、リイン頑張るです! でもシャマル、部屋の中で氷結魔法使ったりしたらもっと寒くならないですか?」
「…………シグナム、やっぱもうちょっと火力落としていいぞ」
「うう、やっぱり私達もついていけばよかったわ」
「主の恋路のためだ。耐えろ。…………しかし本当に今日はついてないな」



「あたしはあんたらよりもっとついてないよ……」

 隣の部屋から聞こえてくる声に、半ば独り言をアルフは返した。

「なんでこう、行く先全部が寒いんだか」
「災難だな」
「まあでも、運が完全に無かったってわけでもないし」

 今のアルフは、家にいた時と同じ狼姿。ただし大きさは子犬サイズで、身体をくるんでいるのは毛布ではなく、
同じく狼姿となった恋人であるザフィーラの毛皮だった。

「あんたの毛皮はぬくいねぇ……」

 恋人にすっぽり包まれる感触。人間姿の時に両腕で強く抱きしめられるのも好きだが、こういうのも身体と心が
ぽかぽかして良い。
 ザフィーラには窮屈な体勢だろうに、なるべくアルフに身体をくっつけようとしてくれているのも嬉しい。
 欲を言うならもっと濃密かつ性的に触れ合いたいところだが、もう夜も更けた。

「じゃおやすみ」
「ああ、いい夢を」

 一つあくびをすると、アルフは恋人のふかふかした毛に鼻先を突っ込み、幸せなまどろみに落ちていった。



          終わり


著者:サイヒ

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