リフレ政策ポータルWiki - イングランド銀行パンフレット「量的緩和とは何か」
注意:この文章はイギリスの中央銀行であるイングランド銀行が自身の政策を一般向けに説明するために作成したパンフレットを翻訳したものです。現在イギリスでは2%のインフレーションターゲットを設定しており、このターゲットを実現するために量的緩和が必要となっていることを説明している点に留意して下さい。

PDF版のパンフレットは右のページからごらんになれます:イングランド銀行発行 解説!量的緩和 日本語版 プレビュー



安定的な物価上昇は経済の健康を増進させる


低く安定した物価上昇は経済の発展と繁栄にとって不可欠です。イングランド銀行は政府によって決定された2%の物価上昇を維持することを目的としています。

イングランド銀行は物価上昇を制御するために名目金利を使います。イングランド銀行は金融機関への貸し出し金利を決定します。これは公定歩合と呼ばれます。公定歩合は預金者や資金の借り手が利用する多くの様々な金利に影響を与えます。ですから公定歩合の動きは企業や消費者の、そして結果的に物価上昇率に影響を与えます。

公定歩合の変化が物価上昇に与えるインパクトが完全に現れるのには最大で2年かかります。ですから、イングランド銀行には適切な金融政策の決定にあたり先見の明が求められるのです。

ターゲットを超える物価上昇が予測される場合、イングランド銀行は支出を減速させ、物価上昇を抑えるために公定歩合を上げます。同様にして物価上昇率が2%を下回ると予測される場合には公定歩合を下げて支出と物価上昇を促進させます。


Q. なぜ低く安定した物価上昇が望ましいのですか?

A. 不安定な物価上昇率は家計や企業にとって負担を強いるものです。物価上昇が不安定になると個々の商品の値段が互いにどのように変化しているのかが分からなくなります。そして将来の価格に対する不確実性が高まると長期の契約を結ぶことが難しくなります。経験的に高い物価上昇はより不安定になる傾向があると考えられています。

変わらぬターゲット 新しい道具


極めて低い物価上昇のリスクにさらされる時、イングランド銀行は公定歩合を引き下げます。これは中央銀行が発行する貨幣のの価格を減少させるということです。しかし、名目金利はゼロ以下にはなりません。

ですから、名目金利がほとんどゼロで、非常に低い物価上昇のリスクが重大である時にはイングランド銀行は、貨幣の量を増加させます。つまり、経済に直接的に貨幣を流入させるのです。このプロセスはしばしば「量的緩和」と呼ばれます。

イングランド銀行の金融政策委員会(MPC)は月例の会議を開き経済の発展と物価上昇の状況について議論します。月例会議で MPC は公定歩合を決定します。また、量的緩和を実行するか否かの判断をし、すると判断した場合にはどの程度の量かを決定します。MPC は政府とは独立にこのような決定を行っています。


Q. MPC とは何ですか?

A. MPC は9名の専門家からなる委員会で、月に一度イングランド銀行で会議を開きます。2%のインフレーションターゲットを達成するためにどのように金融政策を運営するかを議論します。

貨幣のさらなる供給/何故必要なの?


現代の経済において貨幣とは現金と銀行預金の合計のことです。普段であれば貨幣の量は毎年増加します。過去において貨幣の増加が急速すぎることが幾度とありました。過剰な貨幣の流通は高すぎる物価上昇を招きます。

しかし、経済が急激に減速する時――2008年の終わり頃など――には事情は異なります。過剰な貨幣ではなく過小な貨幣の流通が問題が発生します。

貨幣供給量は経済の拡大に合わせて穏やかに増加していく必要があります。そして政府の決定した2%のインフレーションターゲットから実際の物価上昇率が乖離しないようにする必要があります。

貨幣のさらなる供給/いかにしてそれは起きるのだろうか?


金融政策委員会が経済に直に貨幣を流入させるといっても、イングランド銀行券を増刷するわけではありません。そうではなく、イングランド銀行が民間 ― 保険会社や年金基金、民間の銀行、金融機関ではない企業など ― から資産を買い入れ、彼らの口座にお金を振り込むという形で貨幣の量を増やすのです。すると、売り手の銀行口座では金額が増え、口座がある銀行はこの増額分に応じたイングランド銀行に対する債権を手にします(これが準備金/準備預金と呼ばれるものです)。このようにして、最終的には経済により多くのお金が出ていくことになります。

金融政策委員会の資産買い入れには色々な選択肢があります。2009年3月、委員会は2種類の資産 ― イギリス政府の債券(つまり英国債です)と民間の優良債券(訳注: コマーシャルペーパーや格付けの高い社債など、買い入れ対象には細かな条件がある。) ― を買い入れることにしました。この資産買い入れでは、内訳の多くを英国債にすると貨幣の量を迅速に増やすことができます。また、民間からの資産買い入れ量については、企業の信用市場が改善し、資金調達がより円滑かつより安価になるよう設定しなくてはなりません。この2本立てアプローチから分かるのは、支出は様々な方法で後押しすることができるということです。

お金の供給/その仕組み


主に証券を買ったりして,イングランド銀行が経済にお金を直接注入したとしましょう.すると,いろんな効果があらわれます.資産の売り手は,買い取ってもらった分だけ手持ちのお金が増えますから,そのお金を使おうとするかもしれません.すると,経済成長が促進されます.あるいは,彼らは他のひとたちの資産を買おうとするかもしれません.たとえば,株券だとか証券といった資産ですね.すると,そうした資産の値段はおしあげられます.これにより,そうした資産の持ち主は,直接的なかたちや年金基金をとおしたかたちで,より豊かになります.すると,彼らはそのお金をどこかで使おうとするかもしれません.また,資産の値段が上がったということは,利回りは下がるということですから,これで家計や事業のために借金するコストは下がってくれます.これにより,支出はいっそう促進されます.

これに加えて,銀行は手持ちの積立金が増えます.これにより,銀行は消費者や企業への貸し出しを大幅に増やすことができます.すると,またしても,借り入れは増え,支出が増えます.とはいえ,銀行がじぶんの経営状態を心配している場合,彼らは積立金がふえたところで貸し出しを増やさずに手元に置いてしまうでしょう.そこで,イングランド銀行は銀行だけからではなく,もっと幅広くから大半の資産を買い取っています.

こうして生まれたお金は経済のなかをまわり,支出を増加させ,その結果として経済成長をすすめます.

ふつう,中央銀行は民間部門の負債を買ったり売ったりして民間部門の資産市場に介入することはありません.しかし,例外的な状況においては,こうした介入をする正当な理由がでてきます.たとえば,2008年のおわりにかけて金融危機が深刻になり,信用市場が閉塞したとき,イングランド銀行は民間部門の負債を買い取って信用市場の閉塞をうちやぶりました.市場の参加者たちに,売りたいならちゃんと買い取るひとがいますよと請け合ったのです.このことは借り入れのコストをさげるのに一役買い,企業は資金を調達しやすくなります.資金をえた企業は,これをじぶんたちの事業に投資するでしょう.

もっと一般的に言いますと,イングランド銀行が政府と民間の証券を買い取ることはすなわちそうした種類の資産をもとめる総需要が増えることです.需要の増加で資産の価格は上がります.これもまた,イングランド銀行が企業の資金調達の費用を安くするもうひとつの方法です.

モニタリング/注視すべきこと


資産買い取りがうまく機能しているかどうか,どうすればわかるのでしょうか? MPC は,資産の売り手がそのお金をどう使い,そのことが支出とインフレにどう影響しているかを監視することができます.

決め手になる要点は,借金の契約条件に生じる影響です.「資産買い取りがなされなかった場合よりも,企業や家計はお金を安く借りやすくなっているだろうか? 企業は市場から直接に借金しやすくなっているだろうか?」という点が重要なのです.MPC はさまざまな資産価格を監視し,各地方の機関のネットワークがあつめた情報や金融市場の参加者たちからえた情報を参考にして,借り入れがほんとうに安く,より広く利用できるようになっているかどうかを判断できます.

しかし,借り入れのコストだけが成功をはかる尺度というわけはありません.MPC は銀行の貸し付けも含めて経済をまわるお金と信用の流れを監視しつづけます.つきつめれば,大事なのは,現金の注入により家計と企業がつかう支出とお金の成長が促進され,インフレが目標の値に確実に近づくようにしてやることです.


Q. 量的緩和がうまくいっているかどうか,どうやってわかるんですか?

A. 透明性こそ,金融政策が成功するためのカギです.
  • 毎月,MPC はその決定事項を公表し,その議論の詳細を出版しています.
  • 3ヶ月ごとに,MPC は『インフレーション・レポート』を出版し,より詳しい評価を示しています.
  • イングランド銀行はお金の供給と銀行の貸し出しについて定期的に統計を公表しています.そのプログラムのもとで購入された資産の量も同じく公開されています.

いつとめるか/どうやってとめるか


イングランド銀行は低く安定したインフレの維持にコミットしています.これにともない,公定歩合を大きく切り下げ量的緩和をおこなうことで経済に実質的な後押しを加え,インフレ率が 2% 目標を下回るリスクを減少させています.

他方で,イングランド銀行はインフレの暴走もゆるしません.

インフレ率が目標を下回らないように必要な手段をとると同時に,イングランド銀行はインフレ率が 2% を上回りそうなときにも行動を起こします.その場合,MPC は公定歩合を引き上げ,かつて購入した資産を売ることで余分なお金を回収し,支出とインフレに下向きの圧力を加えます.

経済状況はときとして急激に変化することがあります.MPC の仕事は,こうした変化のなかで舵をとりインフレ率を 2% 目標にちかづけるよう必要な手段をとることです.低く安定したインフレをもたらすことで,イングランド銀行はイギリス経済に不可欠な安定した経済の気候をもたらすための役割を果たします.