324 :名無し募集中。。。:13/09/01 01:13:53
虚ろな心を埋めるためには、仕事を続けるしかなかった。 
心は渇き切っているというのに、それに背を向けるように、はしゃいで、笑って・・・。 
家に帰って、独りきりになって、我に返るのが恐かった。 
だから、あの日以来、付き合いでたくさんの人と会ったり、夜の街へ繰り出したり。 
何時まで経っても慣れないお酒を浴びるように飲んだりもした。 
それが、皮肉にも次の仕事を呼び、忙しさが更に増していった。 
次々と変わるマネージャーさんが「道重に来た仕事の断り方」をマニュアルにして、ファイルを増やしながら引き継ぐように迄なっていた。 

それでも、心は渇いたままだった。 
明かりが点いていない暗い部屋に帰る度に、生田の笑顔が浮かんできて、泣いていた。 
いつまでこんな思いで仕事をしなければならないの? 
アンチエイジングから解放されて、生田と同じ眠りにつくことも許されないの? 

・・・それがもう不可能なことは、誰よりも解っていた。 
ハロー!プロジェクトが増員に増員を重ねて、大所帯になり過ぎたこと。 
本社が不動産事業に失敗して、巨額の負債を抱えたこと。 
だから、さゆみ達が、必死になって仕事をしなければ多くの人が路頭に迷うこと。 
それだけは防がなければならないと、会社の偉い人が取った対策は、もう笑うしかないものだった。 
発言権もほとんど無いくせに責任だけを被せる役職をさゆみに与えることが対策だなんて。 
本当に、くだらない。 
だけど・・・必死になっている会社の人を見る度に、そして、他ならぬ生田から来た空間通信の 
「生きていてくださいね」 
の言葉が、さゆみを今の立場に縛り付けていた。 

本心の感情を見失ったまま、何年が過ぎたんだろう・・・? 
気付いたら、次のアンチエイジング処置をするための、長期の休暇が間近に迫っていた。 

325 :名無し募集中。。。:13/09/01 01:15:25
アンチエイジング処置は、体の細胞の活性化・・・と言うと聞こえはいいが、体を細胞毎作り変えるようなものだ。 
だから、心身のコンディションを整えてからでないと処置が出来ないので、準備に相当な時間が掛かる。 
当然費用もかさむので、会社の上部は準備期間無しで処置を行うよう指示してきたが、とっくに意識をデータ化されたつんくさんや 
マネージャーさん達が頑張ってくれて、半年の休暇を貰うことが出来た。 
ハロプロのみんなも、自分達が頑張るから、と、ためらうさゆみを送り出してくれた。 

ホスピスの一角を借りて、アンチエイジング処置の準備を始めてから数日たった、あの日。 
ロビーのテレビが、とあるニュースを報じた。 
それは、生田が事故に遭ったときに乗っていた移民船の残骸が、銀河の端っこの惑星で発見されたというものだった。 


迷惑をかけることは判っていた。 
でも、行きたいという気持ちを抑えることは出来なかった。 
今回のアンチエイジング処置の最大の障害は、さゆみの精神状態が不安定だということ。 
それを除く為に、行って気持ちを整理するのが良いと、お医者様も賛成してくれた。 

もう、生田はいない。 
それは判っている。 
今回は、サヨナラを探すための旅だ。 
それだけは、肝に銘じておかないと。 

自分に言い聞かせながら、それでも、小さな荷物の中に折り畳みのバッグをそっと忍ばせた。 
行き先の惑星は“地球化形成(テラ・フォーミング)”済みだったので、無重力対策の訓練が要らなかったのも幸運だった。 

さゆみ、運動苦手だから、無重力状態じゃ歩けないかもしれないし。 
何より、宇宙服で顔が隠れてしまうなんて可愛くないもんね・・・ 
そんなことを考えたのに気付いて、思わず苦笑した。 
アンチエイジング処置をしていなければ、もう自分だって皺くちゃのお婆ちゃんの筈なのにね。 

326 :名無し募集中。。。:13/09/01 01:16:35
それは兎も角。 

移民船の残骸に何か生田のものが見つかったら形見に貰えないかな? 
それで“今”を受け入れる為に気持ちの整理をしなきゃな。 
そう思いながら、調査の為にチャーターされた高速宇宙船に乗り込んだ。 


技術の進歩は本当に早いと実感した。 
銀河の端っこまで行くのに、地球時間で5日間しか掛からなかった。 
その惑星は、地球化形成はされているが、当然ながら大気の状態は地球よりも安定していない。 
だから、さゆみが上陸出来るのは、1日6時間と決められていた。 
そして、調査期間は、1週間しか無い。 
雲をつかむような“さゆみの調査”が始まった。 

残骸の間には、生田のものは何も見つからなかった。 
けど、不思議なことに、残骸のそこここに有機反応が発見され、子どもの持ち物であろうぬいぐるみや、皿に乗った料理が 
氷塊の中から無傷で発見されていた。 
調査員さん達によると、隕石に巻き込まれてここに衝突するまでに、宇宙の冷気で冷凍状態になった為に 
こんなに良い状態で保存されていたという。 
それなら、生田が被っていたキャップのひとつも見つかるかもしれない。 
そう思いながら、残骸の間を巡るうちに、4日が経過した。 

327 :名無し募集中。。。:13/09/01 01:17:56
さゆみは、移民船の残骸の近くに岩棚があるのを見つけていた。 
期待したものが何も見つからず、疲れていたのかもしれない。 
上陸時間は決まっているので時間を無駄にするような気もして心がチクリと痛んだが、ふらふらと吸い寄せられるように 
岩棚へと足を運んでいた。 

岩棚から見える風景は美しかった。 
地球化形成されたばかりで未だ荒れ地が多かったけれど、そこかしこに若草が萌え始めている。 
若草を近くで見ようと、岩棚から降りて歩き始めたときだった。 

ピーピーピーピーピー 

さゆみのリスト・コムがけたたましい音を発した。 
慌てて見ると、何か文字がパネルに表示されている。
 
【ユウキハンノウカクニン】 

え? 
未だここには草は生えていないよ? 

・・・!! 

急いで辺りを見回すと、残骸の間にあったような・・・ううん、それよりももっと大きな氷塊が半ば地面に埋まるようにして 
近くにあるのが見つかった。 
思わずそっちに向けて歩き出す。 

ビーッビーッビーッビーッビーッ 

リスト・コムの音が変わった。 
パネルを見る。 

【セイゾンハンノウカクニン】 

氷塊に駆け寄る。 
「・・・嘘でしょ?」 
氷塊の中に居たのは、生田だった。 

328 :名無し募集中。。。:13/09/01 01:19:05
その後は大騒ぎだった。 
調査は即座に打ち切られ、高速船の性能限界までワープに次ぐワープを駆使し、3日で地球に帰還した。 
生田の解凍が慎重に始まる。 
さゆみが受けるアンチエイジング処置よりも難しかったと、お医者様から、後から聞いた。 
1ヶ月後、生田の心電図と脳波が正常値に戻り、短時間の面会が許された。 

「生田・・・」 
言葉が出て来なかった。 
「道重さん・・・」 
動こうとした生田を制す。 
涙を流しながら、マスク越しに、短い口付けを交わした。 


・・・・・・その後元気になった生田をアンチエイジングに成功したさゆみが役員権限でこき使ったのは言うまでも無い・・・・・・ 

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