※関連 5スパゲッティー 871-875(鞘師編) 6スパゲッティー 513-516(鈴木編) 7スパゲッティー 185-189(譜久村編) 7スパゲッティー 438-440(飯窪氏編) 9スパゲッティー 475−478(佐藤編) 11スパゲッティー 28-30(石田編) 12スパゲッティー 932‐937(小田編)


いつも、大きな仕事が終わると、緊張が解けて泣きたくなる。 
今回は、緊張がハンパじゃ無かったから、本当に泣き出してしまった。 
そして・・・優しい笑顔に吸い込まれるように道重さんに抱き付いた。 
抱き付いたら落ち着いたんだ。ふわあって柔らかくて温かい雰囲気で胸の中までポカポカしてくるのに、 
肌に触れる腕はヒンヤリしてるからポッポってしてる頭の芯がすうっと冷えてシアワセな気持ちで落ち着けるんだ。 

不意に、フッと思い出したことがある。 
あれは、やっぱり夢だったのかな? 


ファンの人達が凄く楽しみにしてくれるコンサートや、ファンの人ひとりひとりの顔が見える握手会やチェキ会は、 
もちろん大事な仕事だって自覚してる。 
だけど、いつも見る人たちばっかりじゃない販促イベントの握手会や、会社の主催じゃないライブやテレビ出演だって、 
チョー頑張らなきゃいけない仕事だってことも分かる。 
道重さんがよく言う「今のモーニング娘。を知ってもらう」ってことがどれだけ大事かって本当に身に沁みて分かるし、 
何よりもファンの人ばっかりじゃない場所だから“いつもどおり”だけじゃダメだってことなんだし、さ。 

だから、頑張らなきゃ、って考えが出過ぎたのかもしれない。 
めざましライブの野外でのリハが終わったとき、暑くて疲れて汗びっしょりで頭がボーっとしてた。 
だけど、リハで捌けた先輩が居たこともあって、余計に頑張らなきゃいけないって思った。 
汗をかいた分は飲み物を飲めば大丈夫だって思った。 
何だか頭が痛くて体がダルかったけど、気の所為だって思った。 

・・・人間の気持ちの力って凄いんだよね。 
ライブの間は、ダンスも結構激しいのに笑顔を作ってこなせたんだ。 
確かにたくさんある訳じゃないんだけど、歌割りもそれなりに歌えたんだ。 
たくさんのお客さんが笑顔になるのを見て、こっちまで嬉しくなったんだ。 
でも、もしかしたら、それで張り切り過ぎたのかな? 

ライブが終わって袖に捌ける瞬間、目の前がくらくらした。 
倒れる訳にはいかないな、って思って、急いで戻ったのまでは覚えてる。 
だけど・・・その後の記憶は曖昧なんだよね。 
急に、ぐぅって床板が目の前に迫ってきた気がした。 
誰かが大声で声を掛けてくれたような気もした。 
お腹から、胸から、気持ち悪い気分がぐあぁってせり上がってきた気がして・・・それから先は何も覚えてない。 


目を覚ましたのかどうかも分からなかった。 
日が差さない薄暗い場所で、ひとり、寝ていた様に思った。 
そんなことが無いなんて、分かってる筈なのに。 
壁の向こうに幾つもの眼が視えた気がした。 
天井裏や床の下から嘲笑う声が聴こえた気がした。 
「あれでアイドルだってよ」 
「みっともねーなー」 
「モーニング娘。つってたっけ」 
「○○の方が全然マシだな」 
「あんなんで“キテル”なんて詐欺だよな」 

うるさい!五月蠅い!!ウ・ル・サ・イ!!! 

怒鳴りつけようにも、声が出なかった。 
耳を塞ごうにも、体が動かなかった。 
体中がカラカラに乾き切ってるようで、涙も出てくれなかった・・・。 


突然、空気が変わった。 
嫌な眼が、嘲笑う声が、消えた。 
温かくってふんわりしたものが近付いてきて、ヒンヤリした何かが額に触れた。 

「熱は無いみたいだね」 
「よく寝てますね」 
「でも本当、良かったよ。落ち着いてくれて」 
「倒れたときにはびっくりしましたからね」 
「って言うかさ、よくライブ中頑張ってくれたよね」 
「確かに。ライブ中に倒れられたらどうにも・・・どぅーにもなりませんからね」 
「あぁ、“くどぅー”だけに。・・・って、寒っ!」 
「別に良いじゃ・・・」 
「叱っ!大声出したら起きちゃうでしょ」 

いやいや、もう聞こえてますから。 
そう言いたかったけど、やっぱり声が出なかった。 
口の中が痛いくらいにカラカラだったからかな? 

「楽しみにしてたファンの方には申し訳ないけどさ」 
え? 
「“モーニング娘。の握手会”だったら他のみんなで頑張れば良いんだから」 
あ、そうだ、明日も握手会あったっけ・・・って思った途端。 
コツン、って、拳が軽く頭に触れた。 
「明日、代わりに大阪行ってくるけんね。ゆっくり休んで、ミュージックステーション迄にはきっちり治しときいよ」 
「そうそう、生田も一応先輩なんだからさ、偶には偉そうにさせてやって」 
「それは酷いですよぉ、道重さん」 
「そうでも無きゃあんたも先輩ヅラ出来ないでしょーが」 
「そうですけどぉ」 

思わず笑っちゃいそうになったけど、やっぱり声が出なかった。 
それでも、ふたりの優しい声に抱き締められてる気がして、気持ちが落ち着いてきた。 
体中がふうわり温かくなって、今度こそ、本当に眠れた。 


ミュージックステーションでは、ハルなりに頑張れたと思う。 
ダンスも出来たし、歌も歌えたし。 
タモリさんの“年齢ネタ”にも、ちゃんと事前に考えてた台詞を言えたし。 
でも、ホントにホントに緊張して、終わったら泣いちゃったんだ・・・・・・。 

抱き合ったり泣いたり笑ったりしているメンバーを見ながら、不意に思い出した。 
ヒンヤリした掌と、コツンと感じた拳の感触。 
ねぇ、道重さん、生田さん。 
あれは、夢だったんですか?
タグ

どなたでも編集できます