さて、ランダムウォークで相場を作ると、だいたい実際の相場の雰囲気をかもしだすチャートになることが分かったが、ここからフラクタルの性質を確認するのは少々難しい。
そこで今度は、ダイレクトに
フラクタルな式を導入して、「相場を作り出して」しまおう。
次の式は、数学的にフラクタルな性格を帯びるよう作られた式である。
式の意味は難しいが、
sinは、サイン関数(正弦関数)で、周期成分を持つ関数だ。その中身に、
aのk乗というファクターが入っているが、これはkが大きくなるにしたがって
周期の速さがa倍に速くなる(
周期が短くなる)成分を表す。つまり、
徐々に細かくなる波を足し合わせている。さらに、徐々に細かい波は、
振動の幅も小さくなるので、それを割り算の分母に入れている。こうして、
ゆっくりで大きな波から、徐々に
速くて小さな波まで、一定の比率で速く・小さくなる波を次々と加算してゆく。こうすると、数式の上からもフラクタルな、部分を拡大すれば全体に相似なものになる。
なお、この式のままだと、中心値が
0 になってしまうので、実際の相場にあわせて中心値が
95円になるよう、95を加算しておこう。また、大きい波から小さい波まで加え合わせる数(
N)を、50にする。すると、この式は、
のようになる。
さらに、次の条件を加える。
- a=1.91、n=0.55(これらは、相場の雰囲気が丁度良くなるよう決めたもの)
- xは、0〜5.1839まで。0.0001刻み(データ数=51,840個)
- xの0.0001を、15秒とする(全体で9日間)
これで、1データ15秒、全体で9日間(51840個)なので、先程のランダムウォークの場合とデータ数や時間幅は一緒だ。
このようにして作られたチャートは、次のようになる。
フラクタルチャート
どうだろうか。こちらも、雰囲気としては実際の相場っぽい雰囲気をかもしだしている。だいたい、93.5円〜97円くらいで、概ね穏やかな相場運びだ。
途中の1/5〜1/6のところの24時間のところ(緑の縦線が入っている)を拡大してみよう。
フラクタルチャート ─ 拡大
細部は当然異なっているが、全体の雰囲気はさほど変わったように見えないだろう。これは、もともと数式が自己相似の性格を持つように作ってあるからだが、実際の相場も、時間足を拡大しても見た目の雰囲気が変わらないという点で、似ている。
さらに、先程の
フラクタルチャート(全体)を、
ローソク足に変換してみよう。ここでは雰囲気を味わうために、データ数400個を1つのローソクに押し込める。いわば「
100分足チャート」だ。(通常、100分足チャートというのは存在しないが)
フラクタルチャートをローソク足に(400本=100分足チャート)
こちらも、かなりリアルな感じだ。谷にあたるところの下ヒゲの出方、上昇中の何段階かの押し目の出来方、マイナーなダブルボトム2回、そして微妙にヘッド&ショルダーズ(三尊天井)の形成など、相場っぽい特徴が随所に見られる。
もう1つ、先程のフラクタルチャート(全体)を見てもらうと、
1/4に
高値95.85を付けており、翌
1/5に
安値93.47を付けている。この高安から作る
61.8%戻しの
フィボナッチ・リトレースメントは計算上
94.94だ。そして、実際、この高安の後、
1/6に
95.05で一旦反転する(10pips程度の誤差はあるが)。さらに、この高値95.85は、その後1/7に一旦レジスタンスとして機能したかのような押し目の戻り点にもなっており、また最高値から戻ってきた1/8にももみ合いポイントになっている。もちろん、そのようなことを意図して作ったわけではないのだが、いかにも実際の相場のチャートを見ているようで、面白いものだ。
これらはあくまで数学遊びだ。
だが、ランダムに生成したり、フラクタルを意識したりして相場を人工的に生成しても、案外リアルなものになってしまうのだ。
実際の相場は、ランダムウォークに近い確率論的動きをしつつ、全体としてフラクタルな性格を帯びる、というのを、初めからランダムウォーク、あるいはフラクタルで相場を人工的に作ったらリアルに見えるか?という点で遊んでみたものである。
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