このように、サブプライム・ローン問題に端を発する危機は、投資ヴィークル、住宅金融機関、大手証券会社などに広がるも、基本的には
金融機関の範囲内だった。
しかし、経済状況の悪化のなか、消費の冷え込みで打撃を受けていた業種があった。
2008年10月、
米自動車メーカーのGM(ゼネラル・モーターズ)は、新車販売台数が前年同月比で45%減になる状況の中、GMがクライスラーとの合併に必要なリストラ費用100億ドルを、先に成立していた緊急経済安定化法案から支出することを求めたが、米財務相はこれを拒否した。
そもそもこの法案は
金融機関が対象であったので、これを自動車業界まで広げることは考えていなかったためだ。
GMはクライスラーとの合併協議を中断、格付け会社のS&Pは、GMの格付けを「B-」から「CCC+」へ格下げした。
GMの株価は下落し、11月11日には、65年ぶりの安値2.75ドルを付ける。GMの11月新車販売は2ヶ月連続の4割減となり、GMはフォード、クライスラーと共に、米連邦政府に、金融支援を含む
自動車業界救済法案の採決を求めた。
が、議会は、金融支援を受けるのに必要な経営再建策に具体性が無いとして採決を行わなかった。
GMら3社は12月1日に経営再建策を議会に提出、公聴会が開かれた。米下院は自動車業界救済法案を本会議で可決したが、米上院では採決のための票が取れず、廃案となる。
これを受けてついに
米大統領が介入。12月19日には、先に成立していた緊急経済安定化法案で運用が始まっていた「
不良資産救済プログラム(TARP)」の7000億ドルのうち、議会承認済みの半分の中から
150億ドルを活用して、GMとクライスラーにつなぎ融資の実施を決めた。
(なお、GM子会社のサーブは、スウェーデン政府から公的支援を拒まれ、2009年2月20日に事実上の経営破綻となった)
しかし、GMなど自動車業界の回復は思わしくなく、度重なる資金融資を受けながら、結局破綻への道を歩んでいるようだ。自動車の販売といえば、安くはない自動車を、消費者に売らなければならない。が、消費者も経済危機の影響でとても自動車など買っている状態ではないはずで、とりわけ信用低下でローンも組めない以上、買える状態にない。そのような中で、自動車業界に融資を行っても、その自動車を買う方に融資がなければ、売れないのは目に見えて分かっている。
こうして、現在、金融危機は金融業会を超えて、米国を代表する自動車業界にまで拡がったのである。
(
※GM関連は一部Wikipediaからの引用を含む)
が、最近、グリーンスパン前FRB議長がインタビューで指摘したように、
「銀行の資本不足は解消されておらず、また、住宅価格が下落する限り
深刻な住宅ローン危機の可能性はまだあり、金融危機は終わっていない」
ということだ。
次々と対象が大きなものに替わりながら破綻してきたが、源流にある危機は依然、深刻なままだ。
※本投稿後の2009年6月1日、GMは米連邦破産法11章(Chapter 11)の適用を申請し、経営破綻した。負債総額16兆円超(製造業として世界最大)。今後は実質的に米政府による国有化で再建を目指すこととなった。翌6月2日、ニューヨーク証券取引所(NYSE)はGMを上場廃止とした。これを受け、ダウ・ジョーンズ社はダウ工業株30種平均(いわゆるNYダウ)の構成銘柄からGMを除外した。
なお、構成銘柄の入れ替えとしては、GMの代替にシスコ・システムズ社(Cisco Systems, Inc.、情報通信業)が、シティグループ社(Citigroup, Inc.)の代替にトラベラーズ社(The Travelers Companies、保険業種)がそれぞれ加えられて新しい30種平均となっている(6月8日)。
←
トップページ ←
第二十九夜 第三十一夜→