ちまたでは、よく、FX個人投資家の勝ち組は「
6%」だという説がある。
この数値は、情報源により、5%だったり、1割だったり、2割だったりするが、どんなに多くても2割止まり。残りは残念ながら負け組ということになっている。
なお、言い方によっては「3年後に6%が勝ち組」という説もあるが、概ね似たようなものだ。言いたい内容は、「一握りの人しか、勝ち組になれない」という趣旨に変わりない。だから、それが5%だろうが6%だろうが10%だろうが、関係ない。
ここでいう勝ち組はもちろん、「累積損益がプラスである」という意味だ。
「3年後に6%」が勝ち組に生き残れたとしても、そのまま勝ち組であることを保証されたわけではない。というのも、もしそうであれば、年々勝ち組が蓄積されていってしまう。つまり、3年後に6%の勝ち組に生き残れても、その後その中からまた資金を失う負け組が出るだろう、ということだ。大変厳しい世界だ。
ここで、この1年間の個人投資家の推移を考えてみたい。
「FXの脱税事件(FXで4億円稼ぎながら脱税をした主婦)」の一件や、2008年3月の10数年ぶりの円高局面で、一般人にも馴染み深いものとなったFX(外国為替証拠金取引)であるが、やはり2008年3月〜5月にFXの口座数はかなり増えたようだ。
まず、銀行の外貨預金の取引数が増えて、その後FXの口座取引数が増えたようである。
この図式は、とても簡単だ。日本人は、外貨預金が基本的にロングでしか参戦できないのと同じように、まず「ロング」で参戦する発想を持っている、ということだ(ロングが好きという意味ではない)。そして、2008年4月〜8月までは、ドル円もクロス円も概ねゆるやかな円安傾向を示していた。そのため、初心者でも、ドル円・クロス円でロングしていれば、だいたい勝てていたようだ。
そのため、おそらくであるが、去年春の円高局面からスタートしたような新人は、そこから8月までの間は、ちまたで言われる6%説に当てはまらないほど勝てていた可能性はある。
が、8月以降のクロス円大暴落、及び、リーマンショックの9月以降のドル円・クロス円暴落の「円買い一辺倒相場」で、個人投資家の資金は相当傷んだようだ。
そのことは、FXの口座総数と預託証拠金推移を公開している会社のデータを見れば良く分かる。
口座総数と預託証拠金総額の推移を公表しているセントラル短資、外為どっとコム、マネーパートナーズ、サイバーエージェント、およびくりっく365各社合計(東京金融取引所預り)の2008年3月〜2009年3月の口座総数と預託証拠金総額を見ると、口座数は順調に単調に伸びているのに対し、預託証拠金は、月別では、どのFX会社のものも2008年9〜11月に
証拠金総額が2、3割激減した。
これは、ちょうど、クロス円・ドル円大暴落の時期にあたる。
もし相場がどのように動こうとも、日本人が「ロングもショートも等しく出来るのなら」これほどの証拠金の激減は無かったはずだ。
しかし、これほどの証拠金の激減を招いたのは、とりもなおさず「日本人の“多く”がロングで参戦し続けた」ことの証だろう。
実は、2008年秋の時、既に先物ポジションは完全に「円ロング」(=ドル円で言えばショート)に傾いており、また、それまで行われていた「円キャリートレード」(金利の低い円を借りてこれを売って金利の高い通貨を買い、運用すること)が急速に解消され始めた時期だった。
円キャリートレードというと、何か特殊な取引に見えるかも知れないが、我々FX参加者がドル円やクロス円のロングポジションを持つことそのものが、円キャリートレードだ。
世界的には、先物が円買いに走り、円キャリートレードも急速に解消したにもかかわらず、最後まで円キャリートレードをし続けていたのは、ある意味、日本人自身だった。
結果、預託証拠金推移のデータが示すとおり、かなりの含み損を抱え、場合によってはロスカットに遭い、あるいは遭わなくても元金の回復が困難なほどの損失をこうむったと考えられる。
その後、冬の円高局面では、口座数も証拠金もゆるやかな伸びを示しているようで、どうやら冬以降、日本人もショートとロングの使い分けをし始めたようだ・・・とも言われている。
実際、為替相場は上にも下にも動くのだから、どちらかの局面にしか対応できないトレードではとても勝っていくことなど出来ない。ショートもロングも、どちらも等しく使っていくこと、これは基本的なスキルとして求められるだろう。
さて、話を「6%」に戻そう。
為替相場は、ゼロサムゲームであった。つまり、誰かの得は、誰かの損。
そして、ある時点で市場でレートが出会ったとき(=相場が形成されたとき)、その時点で出会った「売り数」と「買い数」は、同数だ。そのどちらかが正しく、どちらかがそうではない、ということだが、こう考えると損得は五分五分のように見えるが、なぜ6%になってしまうのだろうか? ここは幾分疑問である。
これは、勝つ方はいくらでも勝って利益を蓄積できるのに対し、負ける方はいくらでも負けられるわけではなく、ロスカットや資金不足で、ある水準で「市場から撤退(退場とも)」を余儀なくされる点もあるかも知れない。
先程紹介した、FXの口座数と預託証拠金総額の推移のデータを総合すると、調べた範囲の平均で、2008年3月〜9月までの口座あたりの平均証拠金は50〜55万円程度だ。
2008年12月〜2009年3月の平均証拠金は30〜35万円程度。
平均証拠額自体はFX会社間で2〜3倍程度開きはあるものの、概ね資金が「数10万円」というのが平均的な姿のようだ。
そこで、仮定として、6%の勝ち組の構成を考えてみよう。よく「1億稼いだ」という話を聞くが、誰もがそんなうまくいくわけではないにしても、ごく一握りの人間がそのくらい稼いでいる可能性は無くはない。そういった感じで、まったく大雑把だが、以下のように仮定してみる。
6%のうち・・
0.1% 1億円以上
0.4% 1000万円〜1億円 (つまり上位0.5%が1000万円以上)
1.5% 100万円〜1000万円 (つまり上位2%が100万円以上)
2% 数万円〜100万円
2% 0〜普通預金並み (マイナスで無い、という程度の勝ち方)
本当に凄く稼いでいるのはごく一部とする。6%の中にはマイナスで無いというだけの人もいるかも知れない。
一方の負け組のほうはいくらでも負けられるわけではなく、基本的に準備できる資金が限界だから、勝ち組のような千万・億単位の負け方をする割合は低いと仮定する。とすると、
94%のうち・・
4% ちょいマイナス〜数万 (ちょうど、勝ち組の0〜普通預金並みと相殺)
90% 残り
で、90%の負け方は勝ち組との相殺で言えば、概ね
(1億×0.1%+3000万×0.4%+300万×1.5%+10万×2%)÷90%=30万
つまり超ざっくりと、平均的には30万円ほど資金を減らした形となる。
これは奇しくも、先程の「1口座あたりの証拠金30〜50万円」に近い。
つまり、新規参入する個人投資家の平均資金が数10万円だから、その資金分を失えば、平均的には撤退せざるを得ない、ということだ。
こうして、ある一定水準の負け方をする94%と、「とんでもない勝ち方を含む」6%とに分かれてしまう・・・
ここら辺、非常に適当な推論と、ややロジックさに欠ける展開ではあるが、可能な勝ち方、可能な負け方を考えれば、概ね似たような事情になっているのではなかろうか・・・
少なくともFXは、大きさの決まったパイの奪い合い。プロも一緒に参加するこの市場で、誰かのパイを奪わなければ、自分のパイを増やすことは出来ない世界だ。
たとえゼロサムと言っても、プロも参加していることや、スプレッドや税金まで考えれば、個人投資家は平均的には損をしていて当たり前の世界だ。
そのような世界に、FXの初心者がテクニカルもファンダメンタルも相場観もなく無防備に飛び込んでも、どうなるかは明らかだ。まさに鴨ネギ。プロたちに根こそぎ資金を持っていかれるのを待つばかりとなってしまう。
だからこそ、しっかりと武器を持ってトレードに取り組まなければ「負けないトレード」にはならない、といえるだろう。FXという世界を考える上では避けて通れないという点は自戒の意味もこめて強調しておきたい。
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