擬制の終焉
安保闘争は奇妙なたたかいであった。戦後一五年目に擬制はそこで終焉した。それにもかかわらず、真制は前衛運動から市民思想、労働運動のなかにまだ未成熟なままでたたかわれた。いま、わたしたちは、はげしい過渡期、はげしい混乱期、はげしい対立期にあしをふみこんでしる。そして情況は奇妙にみえる。終焉した擬制は、まるで無傷でもあるかのように膨張し、未来についてバラ色にかたっている。いや、バラ色にしか語りえなくなっている。安保過程を無傷でとおることによって、じっさいはすでに死滅し、死滅しているがゆえに、バラ色にしかかたりえないのだ。情況のしづかなしかし確実な転退に対応することができるか否かは、じつに真制の前衛、インテリゲンチャ、労働者、市民の運動の成長度にかかっている。
(「擬制の終焉」1960.9「民主主義の神話」現代思潮社に掲載 「擬制の終焉」1962.6.30現代思潮社に収録された)
隆明鈔--吉本隆明鈔集
(「擬制の終焉」1960.9「民主主義の神話」現代思潮社に掲載 「擬制の終焉」1962.6.30現代思潮社に収録された)
- 終焉した擬制はだがしかし、いまも私たちの前で踊り続けている。いったいあれは何なのだろうか。だからまだ言い続けなければならない。死滅した擬制の葬送の歌を唄え、死体である擬制の死水を取れ。
隆明鈔--吉本隆明鈔集
2006年12月04日(月) 23:22:01 Modified by shomon