さて、前回は、ソーシャル メディア マーケティングにおいて、ある意味もっとも難しく、捉えどころが無いように思われる “Measurement” に関して、その基本概念をしっかり解説してみた。
前回の重要なポイントをおさらいすると、
-「費用対効果 (ROAC)」と「投資対効果 (ROMI)」は違う
-ソーシャル メディア マーケティング施策の効果測定は “ROMI” で考える
-そのため、独自で指標を作り、関係者間で徹底的に共有する
という感じなのだけれども、では ROMI を意識した上で、実際に効果測定指標を、どのように考えていけばよいのかを、今日のテーマにしていこうと思う。
で、いきなり身も蓋も無い結論のように思われるかもしれないのだけれども、実際、とくに中長期的な取り組みの中、いきなり一番最初に全ての効果測定指標が完璧に揃った状態で施策を走らせるコトは、ほぼほぼ不可能だと思った方が良い。ソレは、以下の理由による。
1.そもそも独自で指標を作る必要がある
前回のエントリーにも記したのだけれども、いわゆる “ROAC 的な共通指標” が存在しない以上、自分たちの目的に対して適切な指標を、自分たちで設定しなくてはならないし、しかも、その目的や指標は、市場環境、競合環境、マーケット ポジション、商品やサービスの特性によって異なるため
2.“前例” がほとんど無い上に、あったとしても適用できるかどうか不明
おそらく、こういったカタチで、自分たちの施策の目的に合わせて、独自の指標を設定して施策をドライブしているケースはほとんど無いであろうし、仮にあったとしても、上記のように、目的や指標は千差万別なため、その前例をそのまま適用できるような可能性はきわめて低いと考えられるため
つまり、中長期的な取り組みで、ROMI を意識した効果測定指標を考えるにあたって、まず一番最初に理解しておきたいのは “少なくともスタート時点では完璧な効果測定指標は無い (かもしれない) コトを前提に考える” という点だったりする。
でも、ソレでは、いつまでたってもクオリティの高いソーシャル メディア マーケティングは展開できないので、以下の点をしっかりと押さえていくコトをお勧めする。
- 中長期的な検証による指標化を、しっかりとプランニングしておく
- 中長期的に展開していく中で、その指標の精度を向上させるコトを考える
この 2 点が非常に重要になる。
では、実際に自分たちで指標を作っていく際に、何をどのように考えていけばいいのだろうか? コレも池田さんと散々悩んだ部分ではあるのだけれども、KPI (Key Performance Indicator) と KCI (Key Communication Indicator) の両者を連動させるという方法を、“バイブル” では提唱している。
この KCI なのだけれども、例えば、以下のような感じで導き出されると思う。
- 会話の量的推移
- 感情・高感度 (いわゆる “ポジネガ”)
- 男女比
- 会話のトピック
- 会話の場所 (ブログなのか、Twitter なのか、あるいはコミュニティ等なのか…)
- 会話の関連語
- 評判・レビュー
- レコメンデーション状況
などになってくる。
もちろん、こういった KCI をしっかりと導き出すためには、専門のツールが欠かせないモノになってくるだろう。コレは以前 “Budgeting” についてのハナシでも触れたけれども、どんなソーシャル メディア マーケティング施策をドライブしていく場合でも、必ず押さえておかなくてはならない “ソーシャル メディア リサーチ/モニタリング コスト” は、この KCI をしっかりと把握しておくためにも必要だ。
たとえば、ブログ及び 2 ちゃんねるにおける分析であれば、クチコミ評判分析エンジン “Boom Research” などがあげられる (個人的には、コスト パフォーマンスも良く、非常に使えると思う) 。ただ、こういったツールが入り込めない (たとえば mixi 等のような) クローズド コミュニティや、kakaku.com に代表されるレビューサイト、そして (現時点では) Twitter でつぶやかれているコメントなどは、それぞれ個別に巡回し、目視・手作業による集計・分析が必要となってくるのは否めない。
もちろん、こういった集計・分析は、非常に手間がかかるため、実際のところ、その全てに対応することは困難だと思う。ただ、影響度や関連性の強いサイトやプラットフォームの状況は、できる限り定期的に分析・把握するよう努めていった方が良い。
また、これら KCI として定義した項目の他に、以前も少しふれたのだけれども、競合他社との関係を測定する必要も、当然出てくる。マス広告の場合は、コレを SOV (Share Of Voice) という評価指標で考えるコトができるのだけれども、ソーシャル メディア マーケティングの場合は、SOSV (Share Of Social Voice) という指標を用いるコトになる。こういった SOSV の分析にあたっても、上記のとおり、専門のツールが不可欠になってくるので、こういった点でも、ちゃんとツールをしっかりと使いこなせるだけの環境は用意しておいた方が良いだろう。
さて、こういった KCI を用意できたら、次は、これらを KPI と連動させるといった作業に移る。この作業は、それほど難しいというわけではないけれども、正直なトコロ時間はかかると思っていいだろう。
要は、上記の KCI の反応が、自分たちの施策にとって重要な KPI (売上や販売機会の獲得) に対して、どのようなフィードバックをもたらしているのか (KCIとKPIの関連) を把握するのである。
コレが、先ほどの “少なくともスタート時点では完璧な効果測定指標は無い (かもしれない) コトを前提に考える” 必要がある理由なのだけれども、この KCI と KPI の相関関係は、当たり前だが、各製品やサービスによって大きく異なってくるはずだ。そして、コレは自分たちで常に考えていく中で始めて生まれるし、見出されてくる。具体的には、こんな感じで考えていくといいだろう。
- 売上や問合せ数 (KPI) の変動と同期して動く KCI は何か?
- KPI が好調 (不調) なときに現れている KCI の変化は何か?
- KPI が上昇(下降) に転じる直前に KCI に何らかの変化は見られるか?
- 競合の動きと KPI と KCI の関連は?
- マス広告、イベントなどによる KPI 及び KCI の変化や関連は?
こうやって考えていくことで、ようやく KCI と KPI の相関性を見出すコトができるようになってくるだろう。
実際、コレまで (とくに US では) ソーシャル メディア マーケティング施策において、様々なカタチで、その効果測定を考えていく方法が出てきている。たとえば、先日イケダハヤトさん (最近カタカナに改名?) がブログにまとめられているモノなどが、その最たる例だ。
(要約記事)ソーシャルメディアマーケティングの効果測定指標、100項目 (by “日本にソーシャルメディアの風を!” )
コレは非常に素晴らしくまとまっているのだけれども、コレを見るときに注意しなくてはならないのは、この 100 項目は “KCI と KPI が混ざった形でリスト化されている” という点だったりする。コレを巧く使うのであれば、ココにリストされている 100 項目を、まず KCI と KPI に分け、特定の KCI と連動する、特定の KPI の動きを注意深く見ていくと良いかもしれない。たとえば、“9. 購買ファネルの中にいる消費者のクチコミ (KCI) ” と、“84. オンライン売上げへの影響度 (KPI)” の相関性を見る、というような感じである。
何度も繰り返しになってしまうが、ソーシャル メディア マーケティングを実践していく際に、もっとも重要なモノは、その効果測定ではあるものの、実際には (ROAC 的な共通指標が無いがゆえに) 非常に難しく考えられているのが現状だったりする。また、実際、こういったカタチで KCI と KPI を連動させるのは、非常に手間だったりもする。こういった手間をいとわず、しっかりと分析、そして、その後の “Optimization” につなげられる企業が、今後、ソーシャル メディア マーケティングの世界において、中心的な位置づけを担っていくトコロになるかもしれないわけで。
というわけで、今回は “ソーシャル メディア マーケティングにおける効果測定の本質” というようなテーマで、“KCI と KPI を連動させる” というコトをテーマに解説してみた。
で、次回なのだけれども、次の “Optimization” に移る前に、もう 1 回 “Measurement” について解説してみようと思う。今回解説した効果測定方法は、非常に有効だと思うのだけれども、実際のトコロ、指標として確立するまでには、非常に時間がかかるのは事実なわけで。そこで、KCI と KPI が、しっかりと連動し、一貫した効果測定ができるようになるまでに考えておくべき効果測定方法をメインに語ってみようと思う。