スティッフパーソン症候群(stiff-person syndrome:SPS)[別名:スティッフマン症候群(stiff-man syndrome:SMS)、全身硬直症候群、全身強直症候群]という病気のまとめwikiです。

このページの目次


はじめに

この病気は、抑制性の神経伝達が損なわれるために発症すると考えられている。
抑制性神経伝達物質には、GABAグリシンがあり、伝達物質を受けとる受容体とそれぞれセットになって、神経細胞間の伝達を担っている。(つまり抑制性の神経伝達経路は2種類ある)
SPSは、神経伝達物質と受容体に関わる体内の物質が、自己抗体によって失われる病気(自己免疫疾患)と考えられている。

SPSに関係があるとされる自己抗体は、複数あり、GABAの生成・放出、GABA受容体の生成、グリシン受容体の生成に関わる物質を目標としている。
現在、抗GAD抗体、抗GABARAP抗体、抗アンフィフィシン抗体、抗ゲフィリン抗体、抗GLRA1抗体が見つかっている。

多くの場合、自己抗体がつくられる原因は不明である。
一部の症例として、傍腫瘍性疾患の場合は腫瘍が原因と考えられる。
さらにわずかな症例として、ウイルスが原因と考えられるものがいくつかある。


自己抗体について

抗体とは、本来体内に悪影響を及ぼす物質を壊したり、活動できなくさせるための、防御システム(免疫)の一つである。
このシステムが過剰に反応すると、体内の活動に必要な物質を目標とした抗体、自己抗体がつくられる。
わずかな自己抗体は、健康な体の人からも検出されるが、SPSを発症した人からは、非常に高い値の自己抗体が検出される。
ただし、SPSに関係があるとされる既知の自己抗体が、全くみつからない(陰性)のSPS患者もある程度存在する。

抗GAD抗体が陽性である

抑制性神経伝達物質(GABA)はGADという酵素により合成される。
この酵素に対する抗体、抗GAD抗体が発生し、GADが抗体と反応することでGADが減少する=免疫作用。
その結果、GABAの生成が減少し、筋肉の正常な動作が阻害されて筋肉の収縮を引き起こす。

現在はGAD65抗体がどのようにして生産されるか判明していないが、
GAD65抗体の髄腔内生産について、GAD65に固有のT細胞(GAD65-specific T cells)と
クローンB細胞(clonally expanded GAD65-specific B cells)が関与しているとの研究もある。
(参考:Cerebrospinal fluid T cell responses against glutamic acid decarboxylase 65 in patients with stiff person syndrome.

抗GABARAP抗体が陽性である

GABARAPとは、GABAAレセプター(受容体)に関連した物質。抗GABARAP抗体の働きにより、GABARAPが減少することでGABAAレセプターが減少すると考えられている。下記文献では抗GAD抗体が陽性のSPS患者で抗GABARAP抗体の検査を行い、70%の患者が対照標準の平均2倍となる抗体価を検出した。
抗GAD抗体が陰性で、抗GABARAP抗体が陽性となるかどうかは不明。
(参考:Autoimmunity to GABAA-receptor-associated protein in stiff-person syndrome

抗アンフィフィシン抗体が陽性である

抗アンフィフィシン抗体が陽性の場合も、GABAが減少すると考えられている。
抗アンフィフィシン抗体は、乳ガン、胸腺腫などと密接な関係があり、この抗体が陽性のSPSは、傍腫瘍性疾患(腫瘍によって引き起こされる病気)と考えられている。
病巣となる腫瘍を取り除くことで、抗アンフィフィシン抗体が消え、SPSも治る場合が多い。

抗ゲフィリン抗体が陽性である

抗ゲフィリン抗体は、ただ一つのSPS症例で検出された。
抗ゲフィリン抗体が陽性の場合は、GABAの他、グリシンによる抑制性神経伝達にも関わっていると考えられている。
抗アンフィフィシン抗体同様、抗ゲフィリン抗体が陽性のSPSは傍腫瘍性疾患の一種とされている。

抗GLRA1抗体が陽性である

GLRA1グリシンを受け取る細胞の一部。当初PERM(進行性脳脊髄炎)の患者で発見され、後にSPS(SMS)でも検出された。グリシンによる抑制性神経伝達に異常が起きることで、PERMやSPSの症状が出ると考えられる。

参考:OMIMのSPS解説ページ
OMIMで参照された文献:Progressive encephalomyelitis, rigidity, and myoclonus: a novel glycine receptor antibody.
(進行性の脳脊髄炎、強直とミオクローヌス:新しいグリシン受容体抗体)Neurology. 2008 Oct 14;71(16):1291-2.
上記文献の調査ではSPS患者から抗GLRA1抗体は発見されなかった。今後調査する病院が増えれば、SPS患者で発見されるかもしれないとのこと。

Glycine receptor autoimmune spectrum with stiff-man syndrome phenotype.
(スティッフマン症候群表現型を伴うグリシン受容体自己免疫病の範囲)Archives of Neurology. 2013:70(1),44-50.
この文献では、調査対象に含まれたSMS表現型(SMSとPERMなどの亜型)患者81人のうち、10人(SMS9人、PERM1人。12%)が抗GLRA1抗体血清陽性だったとのこと。

ウイルスの関与

サイトメガロウイルス、ウエストナイルウイルス、EBウイルスによって引き起こされたと考えられるSPSが報告されている。
ウイルスを治療することでSPSが治るのか、単にSPS発症のきっかけにすぎず、ウイルスが消えてもSPSはそのままなのかは不明。

サイトメガロウイルス(hCMV - human cytomegalovirus)

Cytomegalovirus in autoimmunity: T cell crossreactivity to viral antigen and autoantigen glutamic acid decarboxylase
抗GAD抗体が陽性のケース。hCMVは、GAD65反応性T細胞クローンと交差反応があったとのこと。
hCMVを治療したことでSPSがどうなったかは不明。

ウエストナイルウイルス(West nile virus)

Stiff-Person Syndrome Following West Nile Fever
抗GAD抗体が陽性のケース。ウエストナイル熱がある程度治療されても、SPSの症状自体は回復せず、SPSの通常の治療が行われたようだ。

EBウイルス(Epstein-Barr virus)

抗EBウイルス抗体価の上昇をともなったstiff-person症候群
抗GAD抗体が陰性のケース。SPSについて投薬治療(ジアゼパム)を中断するも軽快のままだった。自然治癒したと考えられるらしい。
入院時EBウイルスが陽性とのことだが、その後どうなったなど具体的に関連を表す記述はない。
文献には「ウイルスの直接感染による障害も否定はできない」とある。


疾患の重症度との関係

GABAの減少と重症度との関係(抗GAD抗体陽性の場合)

OMIMのSPS解説ページで、車椅子生活や、寝たきりである重度の患者においては、他の軽中度の患者よりも、より著しいGABAの減少があったことが報告されている。
そのため、抑制性の神経伝達物質であるGABAと症状は比例すると考えられる。

2文献からわかったこと(詳しい引用は「原因/GABAの減少」に記載)
  • GABAの減少とSPSの重症度は相関しているかもしれない
  • 抗GABARAP抗体の量とSPSの重症度は相関しているかもしれない
    (抗GABARAP抗体はGABAAレセプターを減少させる)
  • GABAが関わる抑制系神経伝達の減少には抗GAD抗体だけでなく抗GABARAP抗体が関わっている
GABAとGABAAレセプターの減少(抑制系神経伝達の減少)が、SPSの症状の重さと相関しているかもしれない。
けれども、特定の患者について症状の重さを診断するのに必要な、はっきりとしたデータや指標はない。

抗GAD抗体値と重症度との関係

Stiff-man syndrome and variants: clinical course, treatments, and outcomes.
(スティッフマン症候群と亜型:臨床経過、治療、ならびに予後) Archives of neurology. 2012 Feb;69(2):230-8.
上記によると、初期に検査した血清中の抗GAD抗体の値と、最終的なランキンスコア(重症度を表す指標)との間に相関があった。
(つまり抗体値が高いとランキンスコアが高く(悪く)なる)。
これは、治療によって抗GAD抗体が減少したとしても、最終的な重症度はあまり変わらないということを意味する。
ただし、脊髄液(CSF)内のGAD抗体については記載がないため、実際に抗体の減少が疾患の重症度を左右しないのかは不明である。

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