納豆wiki - 聞書き:日本最古の納豆屋=加藤敬太郎商店で七代目の話を聞く
創業、天明8 (1788)年。酒田で納豆を作り続けてきた日本最古の納豆製造者。
2018年の夏に酒田を訪問し、七代目の秋田俊明氏からお話をうかがいました。

私でちょうど7代目。縁があって納豆屋を継ぐことになった。

私はね、実は神戸出身なんです。
だから、子供の頃は納豆なんて食べたことなくて、甘納豆の仲間だろうなんて思ってました。

もともと、うちの母親が加藤敬太郎商店の家の出で、ご縁をいただいて6代目のあとを継ぐことになったんです。

この6代目はほんとすごい方で、私はこの方にくっついてあちこちご挨拶に行ったり、納豆作りをはじめるようになりました。でも先代から納豆作りを直接教わった記憶はありません。出来上がった納豆を食べて、ちょっと違うとか、大豆の声を聞いてるかとか、抽象的なことしか言われませんでした。

今思えば、それもムリはないかなって。
豆とか水とか季節が違うと作り方を変えないといけないわけだから、(そういう感覚を磨くためには)こういうやり方をするしかないと思います。
いまは、自分が教える立場ですから。


ご先祖さまが納豆作りを始めたのは(中心市街地の)中町のあたりだそうです。そうそう、今のト一屋のあたり。
天明年間っていってますけど、西暦でいうと1788年ですから、今年でちょうど230年目。

なんで加藤敬太郎商店かって?
敬太郎が代々の名前で、ちょっと前まではそれを名乗ってた。
4代目のおじいさままでがが敬太郎。
今は襲名で名前を変えることはできないから、5代目は総太郎で、6代目が英雄。

いえ、士族ではないです。
酒田ですから、町民でしょう。
天保年間(1841年)に亀ケ崎(新井田川向こうの鵜戸川原村亀ケ崎)に場所を移し、先代の時(1985年)にこの場所(十里塚)に新工場を作りました。

とにかくいい水が欲しかったからと聞いています。
ご存知だと思いますけど、納豆は豆と水で味が決まりますから。どんなに腕が良くても、素材以上においしくすることはできません。

もともとここは砂地で、この林の向こうは海なんです。

これ、防風林なんです。
このあたりの特産品は実はメロンとかイチゴなんですよ。

工場へ行きましょう。写真は撮らないでくださいね。

まずは工場を見に行きましょう。

長くつとキャップを身につけて、エアシャワーを浴びて工場の中に入ります。

右手の方に行きましょう。
そう言って案内されたのは大豆の倉庫です。
うちでは大豆が劣化しないよう低温で保管できる冷蔵倉庫を使ってます。ここから、その日に必要な分をとりだして、向こうの部屋へもっていくのですが、これがほんと大変なんです。

どの大豆を使うかは、季節ごとにかえます。仕入れる大豆も、ちゃんと毎年見直しますし。
今は、北海道のユキシズカとか白神のリュウホウとか。もちろん、地元の秘伝とかあやこがねも使ってます。

手前の部屋に戻りました。

この常温の部屋で大豆を洗って、ざーと流したら、このタンクからそのまま水流に乗せて浸漬タンクへ豆を流し込むんですよ。

隣の部屋へ行きましょう。

えっ。。これで浸漬してるんですか?
ここは、写真撮らないでくださいね。
うちは金物のタンクは使いません。浸漬が終わった後の手間がこっちの方が楽なので、いつの間にかこうなりました。
納豆屋って、どれだけたわしべらを使うかが仕事みたいなところがありますが、できるだけそれを減らしたくて。

次はこちらへ。
そのまま前へ進むと、そこには狭いところに回転釜と充填機がぎゅっと並んでいます。
七転さんには見慣れた風景だと思いますけど、こういうのはもうしっかり機械化してます。

容器はねぇ、PSPと紙カップが半々くらい。
美味しい納豆を作ろうと思うなら、何と言ってもPSPの方が楽。

納豆菌は高橋菌と成瀬菌のミックス。
どっちも液体のやつ。

こんな話は、聞けば聞くだけ全部教えてくれますが、製造プロセスにいろいろ秘密があるのでしょう。
基本、写真は撮らないでね。。と言われてしまいます。

だってね。
taiji141さん。
先日、S食品さんの工場の取材に行ってたじゃないですか。ああいう映像を見てると、そこんちの社長さんの工夫がわかっちゃうわけですよ。
そんなわけで、ほんとすごいなって思いながら、僕はあの番組見てたわけです。

うちの工場の秘密教えちゃいますね

ちょっと、こっちへ移動しようか。
ここの床。コンクリート打ちっ放しでしょ。
普通の工場だとリノリウムだったり、塗装したりするじゃないですか。

実は、これがうちの工場の秘密。
ここに工場を作るときに、工務店に相談して炭をたっぷり練り込んでもらったの。
炭を入れると工場内の雰囲気がしっとりして、雰囲気も安定して、豆にも良い効果があって、美味しい納豆を作りやすくなるから。。

あとね。
納豆作りで大切なのは豆の色を殺さないこと。

それって、色白な納豆に仕上げるってことですか?
実は、色白で柔らかでなめらかな煮豆がこちらの納豆の一大特徴。それと比べると、一般的な納豆ってけっこう茶色っぽいんですよね。

低圧で長時間蒸煮すると納豆が黒っぽくなっちゃう。だから、ちょっと勇気が必要なんだけど高圧で短時間で仕上げる。これがうちの秘訣。

苦味が少ないのも不思議なんですが。
大豆にはサポニンが含まれるためだと思うのですが、どうしても後味にほんのり苦味が残ります。でも、これが目立つもの、控えめなもの、感じないものがあるのが不思議でそんな質問をしてしまいました。

それは、たぶん水のせいかな。

あとね。おもしろいのが、うちの工場に小学校3年生くらいのが見学に来るんだけど、そこにいろんな納豆を食べさせてみるんだけど。。
室出しそのままの納豆とか、冷熟させた納豆とか食べ比べさせてみると、あいつらはおもしろいねぇ。

なんて。。話が次から次へと展開していきます。

taiji141さん。
これ見てくださいよ。
秋田社長が嬉しそうにこちらの道具を紹介してくれます。
糀の発酵タンク

これはね、塩納豆に使う糀の発酵タンクなんです。
マツコの後、塩納豆の発注がいっぱいきたけど、塩納豆ってそんな短期間で作れる商品じゃなくて、半年かかるからって説明させていただきました。

あっ。工場内の解説を端折っちゃいました。
工場棟の奥のどん詰まりが室で複数個設置されています。
ここで右側回って折り返したあたりに置かれてたのが、この発酵タンク。そして、このエリアが作業スペースとなっているわけです。

こんにちわ!

こちらは、カップ納豆を梱包中の社員の皆様。
お盆休みの真っ最中なんですけど、休み明けの納品の準備をされているのだとか。。日配商品ってほんと大変です。

秋田社長が補足の説明をしてくれました。

今までのカップ納豆って、よこに2連3連って並ぶでしょう。そうすると、冷ケースでのフェースが大きくなっちゃうから、スーパーだと嫌われることがあって。。じゃぁ、カップ納豆を縦に積めば問題が解消すると思って開発したのがカップ納豆の新シリーズ商品。
そう思って作ったんだけど、今のところ手作業でパッケージングしてるからちょっと失敗かもって思ってる。
工場長が、自動化できるように考えとくよって、ずいぶん前に言ってくれたけどまだできてなくて。。これが自動化できないと、ちょっと手間かかりすぎ。
工場長も今忙しすぎるからしょうがないんだけど。

そんなセリフに、社長ならではの思惑が見え隠れします。

ところで、冷熟庫はどちらにあるんですか。
私の常識では、室のすぐ隣にあるはずの冷蔵倉庫が見当たらず、思わず質問してしまったのですが。。

じゃぁ、ご案内しますね。

みなさんご安心ください。工場の規模からするとかなり大きめの冷蔵倉庫が入り口側の方に設置されていました。
チルド帯というよりは冷蔵庫内温度な感じ。
半ズボンでうかがった私にはちょっと寒すぎるけど、カートに乗せられたまま冷やされている各種納豆の姿が楽しかったです。

この部屋なら写真を撮っても良かったのでしょうが、とにかく説明を聞いてるだけで忙しい七転納豆探検隊をお許しください。

きっかけはサライのおかげ

酒田の塩納豆は、会津のひしょ納豆とか、各地にある糀納豆とは違うんです。

庄内では、もともと自分の家で納豆を作るのがあたりまえで、その納豆を長期間保存するために作っていたのが塩納豆。納豆に塩をたっぷり混ぜてかめに入れて漬け込んで、確かに長持ちするけど、すごいしょっぱくて、チロシンじゃりじゃりで、僕は関西出身だったからとても食べられなかった。

実は、5代目の奥さんのよしこばあちゃんが、このしょっぱいのをなんとかしたくて米麹を入れたって聞いて。。
じゃぁ、甘酒を入れたらどうなるんだろうって。
そこから工夫が始まった。
塩はどうしよう。何を混ぜよう。
沖縄の塩とか伯方の塩とか有名どころをいっぱい試して、そんなときにすごい美味しいソーセージと出会って、その塩を分けていただいて試作してみたらこれがいい感じ。
楽しかったよ。新商品を開発するのは。

そうやって販売を始めたけど、塩納豆がブレークするきっかけは実は(雑誌の)サライのおかげ。
サライ97年11月6日号
サライのフードライターをされていたムツダさんって方にご縁をいただいて、その取材をきっかけにサライの通販ショップで売ることになりました。
一本200gで600円。
これがね、売れたんです。

その後、サライにはもうご恩をじゅうぶん返したろうって言って、京急の納豆フェアに出展したんです。
このイベント、今もつづいてますよね。日本全国の納豆屋さんが出店してる納豆の日の前後で開催してるあのイベント。そこで、バゲットに塩納豆をのせ白ワインと合わせて食べる提案をしたところ、これがすごい反響で。
おかげさまで、いまや塩納豆は全国各地で購入していただける商品になりました。

taiji141さんね。
この商品、つくるのはほんと手間がかかるんです。

まずは、庄内産の米を仕込んで糀にして、時間をかけて甘酒にするじゃないですか。納豆も手間がかかるんです。良い大豆で作った納豆をこんどはを塩漬けにして、ゆっくり慣らして、まずは昔ながらの塩納豆を作ります。
納豆と甘酒と昆布とまぜて、さらに熟成させて美味しい塩納豆をつくるイメージです。


200gのパッケージだと量が多いという声もあり開発したのが透明テトラッパク入りのちょっとプレミアムな塩納豆。
加藤敬太郎商店の納豆汁の素と塩納豆
200gパックは「酒田納豆」を使用してますが、120gはといえば天明納豆を使っていますので、ちょっとばかり贅沢な気配が漂います。

酒田納豆こぼれ話

さて、席をあらためて夜の部となりました。

何はともあれで、だだちゃ豆と納豆オムレツをいただきます。
もちろん酒田納豆使用のオムレツです
もちろん、納豆は酒田納豆。
この色白な納豆はもう見間違いしようがありません。

しかし、話は尽きません。
大豆の話。先代がもやしの製造をしていた話。酒田駅のしょいこさんの話など。秋田社長の話は話題を変え品を変え次から次へと続きます。
奥様との馴れ初めの話なんかも聞かされてしまいます。

大学時代。ユースホステルが。旅行が。。まぁ、このくらいのお話は書いても良いでしょう。
ちなみに、社長の右側で腕がちょっぴり写っておられるのがその奥様。

話題が納豆汁の話になりました。
酒田では、お正月ではなく、12月9日の大黒さんの時に納豆汁をいただくのだとか。よそでは大黒さんの年越しとか、大黒さんのお正月言われる行事に近いのでしょうか。
その時に並ぶ料理はハタハタと味噌田楽と納豆汁。
雰囲気からして、かなり大事な催事行事であることがわかります。

この大黒様に加え、年越しの際にも納豆と納豆汁は欠かせないと言います。
もっとも五日納豆の習慣はないとのことですが。。

話題はそのまま加藤敬太郎商店の納豆汁の素の話に移ります。
これって、実は七転家の愛用品。
興味津々でお話をうかがいます。
これまた豆の話に始まって、12月は(行事食のせいもあり)超繁忙期で室は全部使い切らないと間に合わないとか、話は尽きません。

うちの納豆汁の素って納豆だけで味噌を入れてないんですよ。
手前味噌っていうくらいで、庄内では味噌を自家製で作ってるうちが多くて、納豆汁の素に味噌を入れてしまうとそれだけ味が変わってしまうじゃないですか。
それぞれの家の味を大事にしたいって僕は思っているんです。

そんなところにも、秋田社長の思いが込められています。

そうそう、だだ茶豆の登録商標の権利って加藤敬太郎商店でお持ちだと聞きましたが。。
ここからまた、秋田社長の話は止まりません。

長い長い夜はどこまでも続くのでした。