３式戦闘爆撃機
３式戦闘爆撃機『飛鷹』
３式戦闘機爆撃機は第二次世界大戦において用いられた帝国空軍の戦闘爆撃機である。紀元２６０３年（１９４３年）制式採用により３式戦闘爆撃機と称した。開発、製造は川崎。愛称は飛鷹である。なお、この愛称は帝国空軍が初めて一般公募した愛称である。しかし、現場のパイロットからは不評で、殆ど用いられなかったのは２式戦と同様である。多くの場合、「さんしき」「３号さん」「さんしきせんばく」で通用する。
開発までの経緯
帝国空軍は１００式戦以降の戦闘機は全て重戦闘機とし、なおかつ高速化のために前面投影面積の小さい液冷エンジンを戦闘機用発動機としてドイツから輸入、国産化する方針を打ち出した。
この方針を決定づけたのはノモンハン航空戦でのソ連製重戦闘機Ｉ−１６に対する軽戦闘機９７式戦闘機の惨敗であり、スペイン内戦で大活躍したＭｅ１０９の存在である。
そうした経緯からドイツから技術導入を行い、ｊｕｍｏ２１１やＤＢ６０１を国産化して高速戦闘機を開発しようとするのは実にシンプルで分かりやすい発想である。ｊｕｍｏ２１１は三菱で国産化して１４試作戦闘機（後の２式戦闘機）に搭載され、ＤＢ６０１は川崎で国産化され１５試作戦闘機に搭載されることが決定した。
当時、欧州で流行していた重戦闘機、Ｍｅ１０９や英国のスピットファイア等も全て液冷エンジンを搭載した高速戦闘機であることを考えればこうした方針決定は必ずしも合理性を欠いているとはいえない。しかし、液冷エンジンを戦闘機用発動機とし、空冷エンジンを爆撃機、攻撃機と限定してしまったのは官僚主義的な硬直を疑われても仕方がない。
しかし、当時の日本で開発できる大馬力空冷発動機は技術的な必然性から大直径、大型化するために戦闘機に用いるのは不適であるという事情が存在する。これは排気量の増大（＝馬力向上）を圧縮比の変更や高回転化、あるいは高ブーストによって達成しようとする場合、技術的なハードルが著しく高いものになってしまい開発リスクの増大や、生産性の悪化につながる恐れがあるためだった。必然的に低リスクの大馬力発動機開発はシリンダーの大型化という技術的なレベルの低い方式に頼らざるえず、三菱の火星エンジン、あるいはその１８気筒版の土星エンジンのような大直径、大重量なものになる。そうした発動機は前面投影面積が大きく、高速発揮は不可能と考えられていた。
とはいえ、こうした発想から中島飛行機が開発を進めていた１８気筒版栄発動機（１０００馬力空冷エンジン並の前面投影面積で２０００馬力発動機＊どう考えても達成不可能）の開発が停滞、葬りさられたのはやはり官僚主義の硬直した発想といえなくもない。中島の発動機開発部門は現在でもこの奇跡の２０００馬力発動機を死んだ子供の歳を数えるようにして、その開発中止を悔やんでいる。
Ｍｅ１０９に対するＦｗ１９０やＰ−５１に対するＰ−４７といった具合に空冷エンジンでも高速戦闘機の開発は可能であり、戦闘機のエンジンを全て液冷化するというのはやはり帝国空軍の壮大な勇み足いうべきだろう。
３式戦爆はそうした帝国空軍の壮大な勇み足に翻弄されて数奇な運命をたどった戦闘機といえる。
設計
１５試作戦闘機は当初から帝国空軍の主力重戦闘機であることを宿命づけられており、帝国空軍の期待を一身に背負って開発が進められた。
１５試作戦闘機の開発は帝国空軍の航空本部の全面的なバックアップを受けており、必要な予算と機材は最優先に与えられていた。１４試作戦闘機は１５試作戦闘機が失敗した場合の保険的な意味合いが強く、必ずしも大きな期待はされていなかった。１００式戦の高性能により暫く制空権は安泰であるという認識（楽観）もあり、１４試作戦闘機に対する期待はあまり高くなかった。
その証拠として、ドイツでＭｅ１０９Ｅに搭載されて実績を上げていたＤＢ６０１は１５試作戦闘専用とされ、ドイツでは爆撃用に採用されていたｊｕｍｏ２１１が１４試作戦闘機に回されている。また、要求仕様も１５試作戦闘機は非常にことこまかく設定されており、１００式戦の開発を混乱させた軍の指示、指導こそ控えめだったものの、過剰な機密保護措置をとられていたので開発環境は１４試作戦闘機に比べて非常にストレスの強いものだった。
ドイツのフォークト技師に学んだＤ技師を設計部長として開始された１５試作戦闘機の開発は１４試作戦闘機から遅れること２ヶ月であり、発注年度は違うもののほぼ同時期に設計は始まっている。
なお、１５試戦には軽戦と重戦という二つの仕様があったという真偽不明な情報があるが、１５試戦の開発は当初から重戦仕様のみであり、軽戦案は存在しない。
ＤＢ６０１を搭載すること前提とした胴体は空冷の１００式戦に比べてスマートにまとめられた一体構造であり、軽量化と強度確保に力点が置かれていた。しかし、胴体の上下幅は無駄に広いことが後に明らかになっており、外見からして明らかに野暮ったい印象である。２式戦に比べても寸同で、胴体の設計は当初から疑問の声が上がっていた。Ｄ技師はより細い断面の胴体を使いたがっていたが、機体の小型化によって成功した１００式戦の前例から空軍から出向してきた技官が胴体の短縮と方向安定性の確保ために上下の幅が広い胴体の採用を強行に主張したためにこのようなことになったのである。
主翼もごくごく薄翼化し、高速発揮のために高翼面荷重の小さな主翼を採用している。また左右の主翼は一体構造になっており、胴体と同様に強度と軽量化を両立したものとなっている。このために急降下制限速度は時速８５０ｋｍに達するが、離着陸速度は１００式戦よりさらに早く、試験飛行時において着陸事故を起こす原因ともなっている。しかしそうした主翼を用いても、試作機の最大速度が時速５６０ｋｍを越えていないことを考えると主翼形状にも疑問の余地がある。
さらに１５試戦において最大の難問となったのがラジエーターの配置だった。１４試作戦闘機が主翼に開口部を設けてラジエーターとオイルクーラーを合理的に配置したのに対して、１５試戦はオイルクーラーとラジエーターをまとめて胴体下面、操縦席の真下に配置していた。しかし、ラジエーターやオイルクーラーの配管は洗練されているとはいえず、ラジエーターとオイルクーラーを隠す大型のカバーも大きな空気抵抗の発生要因になっていた。
結果として、ほぼ同時に完成した１４試作戦闘機、及び１５試作戦闘機を使った試験、あるいは模擬戦闘において、１５試戦は１４試戦に手も足もでないという異常事態となった。本家の長男が２号の生んだ隠し子に母屋を乗っ取られたといえば分かりやすいだろうか？もちろん、性能は要求仕様に遠く及ばなかった。
１５試戦は１００式戦との模擬戦闘においてもほぼ同程度の性能、急降下速度や加速についても１００式戦に勝るところがないと判定され、この時点で戦闘機としての命運は殆ど絶たれたも同然となっていた。
川崎は試作機で得られたデーターを使って再設計を行い、またエンジンの過給圧を上げて１５００馬力としたＤＢ６０１の改良型を用いれば要求仕様の達成は可能と主張したが、１００式戦との模擬戦闘が行われた１９４１年の７月に日本はソ連と全面戦争に突入しており、１５試作戦闘機の再設計を待っている余裕は全くなくなっていた。
結局、１５試戦の開発は中止。試作機は他の用途、つまり軽爆、襲撃機へと用途変更されることとなり、１５試戦は未来の主力戦闘機から一転して地味な対地攻撃機へ転落することになったのである。
１５試戦の受難はこれだけにとどまらず、エンジンをＤＢ６０１から空冷エンジンに換装することを要求された。液冷エンジンは戦闘機用であり、軽爆や襲撃機は空冷エンジンを充てる空軍の方針は全く徹底したものだった。
液冷エンジン搭載機を空冷化することは事実上不可能だと考えられていたので、この時点で１５試戦は全く死んだも同然といえた。
なお、川崎のＤＢ６０１は試験飛行時からすでに整備性の悪いさが指摘されるようになっており、次いで生産性についても疑問の声が上がるようになったためにＤＢ６０１は新司偵（１００式司令部偵察機）用のエンジンとして少量生産されることになった。これは川崎への救済措置的な意味が強い。しかし、ＤＢ６０１を搭載した１００式司令部偵察機�況燭六�速６５０ｋｍを発揮し、あらゆるソ連製戦闘機を振り切って強行偵察を何度も成功させており、この選定は必ずしも政治的な意味合いだけのものでなかったことは明らかである。
空冷化
未来の主力戦闘機から一転して地味な対地攻撃機に転落した１５試作戦闘機の最初の試練はエンジンの空冷化だった。
発動機の選定は空冷化の作業を優先するために機体にはできるだけ手を付けずに済むことを基準にして選定を行い、三菱の金星エンジンが殆ど機体の改造なしで搭載可能であることが判明したことでエンジンの選定はほぼ確定した。
さらに都合がいいことに三菱の金星エンジンの改良型は司令部偵察機に川崎のＤＢ６０１が採用されることになったために搭載する機体がなくなっているという、ある意味皮肉なことになっており、エンジンの選定には何の問題も生じなかった。
既に空軍の認識では１５試戦はなかったことになっており、川崎に出向していた空軍の技官なども全て引き上げた後だったので空冷化の作業は全て川崎の職員によって行われている。
エンジンが空冷の金星に変わったことでエンジンそのものが軽くなり、これまで重心を調整するために必要だった機体後部のバラストを撤去することができ、またラジエーター関連の装備が全て撤去したことで機体重量は大幅に軽減された。
胴体や主翼形状に一切手を加えていないにもかかわらず、重量軽減により翼面荷重が下がったことから危険すぎるほど速かった離着陸速度も１００式戦と同程度まで低下しており、離着陸に関する苦情もほぼ聞かれなくなったのも空冷化の恩恵といえるだろう。
しかし、液冷エンジン用の細い（上下幅は相変わらず無駄に太かったが）胴体に空冷エンジンを搭載したことから左右に段差が生じており、この部分をどうにかしなければそこで空気の渦が発生し、著しく空気抵抗が増えてしまうことになる。
結局、簡単なフィレットを装着し、日本機としては初めて推力排気管を採用し、左右にまとめて配置することで発生する渦を高速のエンジン排気で吹き飛ばすという画期的な方法によってこの問題は解決されている。
また、オイルクーラーは当初の位置から前進させエンジンカウリングの直後に配置され、エンジンカウリング下面にダクトは配置し、そこから空気を導くことで空気抵抗を最小限にしつつ、効果的なオイル冷却を可能とした。また、オイルクーラーの位置がエンジンに近くなったのでオイルパイプの短くなり、この部分からのオイル漏れは劇的に減少した。この方式は米軍のＦ６Ｆにも用いられた単純だが効果的なオイルクーラーの配置だった。
これらのエンジン換装に伴う改造によって重量軽減を図った１５試戦は試験飛行において時速５８０ｋｍと原作に比べて２０ｋｍ／ｈ近い速度の向上が図られ、運動性や上昇性能は大幅に改善された。しかし、それでもなお２式戦に比べた場合、水平速度で４０ｋｍ／ｈ近い劣速だった。
ここに至って１５試戦は既に戦闘機としての命脈は絶たれており、川崎側も当初の目論見を放棄せざるえなくなっていた。
この時点で既にシベリア戦役は２年目に突入しており、強力なソ連軍戦車隊、Ｔ−３４を効果的に撃破できる兵器は高射砲の水平射撃か歩兵の肉弾攻撃しかないという悲惨な状況が続いており、戦車を狩る対戦車攻撃機の拡充は切に求められていた。
そこで１５試作戦闘機を本格的な対地攻撃機に改造が行われた。エンジンからは１段２速式過給器が取り外された。過給機は高度変化の激しい戦闘機には必須の装備だが、低空飛行のみに特化した襲撃機にはさして意味のない装備である。過給器に回されるエネルギーロスは発動機の生み出すパワーの１０％を超えることもあることから、これだけでエンジンの馬力向上が見込まれた。
地上からの対空砲火に耐えるために操縦席の後部の防弾鋼板に加えて左右と機体下面の防御が施され、被弾に弱い翼内燃料タンクも撤去された。これによって航続能力は大幅に低下を余儀なくされたものの、胴体内タンクに集中防御を施すことで生存性は飛躍的に高まっている。基本的に対戦車攻撃機は前線の草を刈り取っただけの仮設飛行場に待機し、前線から救援要請にしたがって出動するものであるから、航続能力の低下は問題にはならない。また、そうした前線飛行場での運用を考慮して主脚や降着装置の強化が行われている。フラップもより大面積のファウラー式に変更されて低速飛行性能を改善していた。
こうした改造で低下した速力や運動性を補うように、完成した機体には金星エンジンの最終型（１５００馬力）が搭載されている。３式戦爆の成功はこの１５００馬力エンジンによるところが大きく、ガソリンとオイルさえ入っていれば一発でエンジンがかかるという奇跡のような高稼働率を実現したこのエンジンは過酷な前線飛行場でも確実にカウントできる戦力としての３式戦爆の地位を不動のものとしている。
空軍に納入された試作機は戦闘機並みの運動性と海面高度での高速飛行能力（時速５７８ｋｍ）を備えながら、強固な防弾装備と爆弾搭載量５００ｋｇという双発軽爆撃機に匹敵する対地攻撃能力を持つ空軍の注文どおりの対地攻撃機だった。
低空戦闘なら２式戦や１００式戦を敵に回しても十分戦えるその素質は空軍の一部に生き残っていた１５試戦のシンパを勢いづかせ、完成した試作機は襲撃機ではなく、戦闘機と爆撃機を兼ねた戦闘爆撃機として採用されることになった。
火力
３式戦爆の第一義は対地攻撃機であり、速度低下（−３０ｋｍ/ｈ）を忍んで対地攻撃兵装を懸架する爆弾架を主翼下に複数装備している。
対地攻撃においては大型爆弾（２５０ｋｇ〜）よりも小型ながら炸薬量も多い６０ｋｇ爆弾や３０ｋｇ爆弾が多用されるため３式戦爆の写真は小型爆弾を鈴なりにしている絵が多い。
しかし、３式戦爆が投下した爆発物の中でもっとも多いのがソ連製のＭ−８、８２ｍｍロケット弾をコピーした３式８糎噴進爆弾である。
１９４１年７月のシベリア侵攻時に鹵獲されたＭ−８はその他の陸戦兵器と共に日本本土に送られ、テストに供された後にその生産性と性能から直ちに制式兵器としてコピー生産されて帝国陸軍に広く装備された。
これは火砲の生産力に限界のある帝国陸軍において、簡単な発射レールと大量生産が可能な単純構造のＭ−８ロケット弾の組み合わせが砲兵力の劣勢を補うために必要という貧乏臭い事情が存在していた。
なお、３式戦爆に装備された３式８糎噴進爆弾はＭ−８のフルコピーではなく、空中発射のために全長を切り詰めたタイプで、射程距離は短くなっているものの、弾頭は大型化しているので面制圧能力は向上している。
また、海軍の２５ｍｍ対空機銃を改造した対戦車攻撃用のガンポッドが存在する。海軍の対空機銃を改造したこの対戦車機関砲はドラム給弾式で左右に各1門、１２発の２５ｍｍ徹甲弾を搭載し、ベテランパイロットなら一連射でＴ−３４を撃破することが可能だった。海軍向けの対空機銃の生産を抑制して、大量配備された２５ｍｍ対戦車機関砲はシベリア戦役に送られて、戦車狩りに大量使用されている。
ちなみに、こうした対地攻撃兵装の他に自衛用として機首１３ｍｍ機銃を２門装備している。これは完全な自衛用であるが、機首集中装備により命中精度は高く、発射速度も高いために戦闘機を相手にするならばそれなりの攻撃力を発揮する。
鈍重な攻撃機だと考えて不用意に接近したソ連軍戦闘機が爆装を放棄して逆襲に転じた３式戦爆に撃墜された例は数多い。
なお、９９式１３ｍｍ機銃は海軍の対空機銃をベースにしたもので弾薬には互換性があり、現在でも拠点防御用の重機関銃として陸海空軍に広く配備されている息の長い機銃でもある。
防御
３式戦爆は対地攻撃機の常として地上からの対空砲火に対抗するため、操縦性と燃料タンクに防弾装甲を施している。当然ながら防漏装備も施されている。
なお、燃料タンクは胴体のみとし、操縦席前の胴体タンクのみとなっているので航続能力は短い。しかし、胴体タンクに集中防御を施し防漏装備を施すことできわめて燃えにくい戦闘機に仕上がっている。
戦歴
１９４２年末に配備が開始された３式戦爆は主に軽爆部隊を中心に配備された。旧式で低速な９９式双発軽爆機や９７式軽爆撃機で戦ってきた軽爆部隊にとって、戦闘機と限定的な状況ながらも対等に戦える３式戦爆の登場は大きな励みとなった。
また、戦力拡大期にあった帝国空軍にとって1機の双発軽爆を解体することで３式戦爆４機分のパイロットが得られる利点は大きく、それでいて双発軽爆と同等かそれ以上の火力を発揮する３式戦爆の価値は非常に高かった。
なお、３式戦爆の対戦車攻撃機としての最大のハイライトは１９４３年夏の枢軸最終攻勢で、２４機の２５ｍｍ対戦車機関砲装備の３式戦爆を投入した戦車狩り作戦で、升目状に区切ったキルゾーンを虱潰しする集中攻撃作戦により３日間の戦闘で４００両以上の各種装甲戦闘車両を撃破している。
また、防弾鋼板を一部下ろし、爆弾架を取り除いた軽戦闘機型も現地改造という形で大量に使用され、前線防空に威力を発揮している。
エンジンにデリケートな面のある２式戦よりも確実に動作する３式戦爆の配備を熱望する部隊は数多く、その声に押されて一部の戦闘機部隊にも３式戦爆が供給されている。
低空戦闘に特化していた３式戦爆は同じ低空戦闘に特化していたソ連機との素質に似ているところがあり、低空戦闘でしばしば逆襲にあうことがある２式戦に比べてベテランが乗っている３式戦爆の方が技量で優越がある分だけ優位に戦える場合があった。
なお、３式戦爆は極端に航続能力が短いことから洋上進出は全く無謀だったために沖縄戦にはおいてはもっぱら飛行場防空に用いられ、米艦載機部隊との空中戦で大戦果を引き換えに大損害を蒙っている。
３式戦闘機爆撃機は第二次世界大戦において用いられた帝国空軍の戦闘爆撃機である。紀元２６０３年（１９４３年）制式採用により３式戦闘爆撃機と称した。開発、製造は川崎。愛称は飛鷹である。なお、この愛称は帝国空軍が初めて一般公募した愛称である。しかし、現場のパイロットからは不評で、殆ど用いられなかったのは２式戦と同様である。多くの場合、「さんしき」「３号さん」「さんしきせんばく」で通用する。
開発までの経緯
帝国空軍は１００式戦以降の戦闘機は全て重戦闘機とし、なおかつ高速化のために前面投影面積の小さい液冷エンジンを戦闘機用発動機としてドイツから輸入、国産化する方針を打ち出した。
この方針を決定づけたのはノモンハン航空戦でのソ連製重戦闘機Ｉ−１６に対する軽戦闘機９７式戦闘機の惨敗であり、スペイン内戦で大活躍したＭｅ１０９の存在である。
そうした経緯からドイツから技術導入を行い、ｊｕｍｏ２１１やＤＢ６０１を国産化して高速戦闘機を開発しようとするのは実にシンプルで分かりやすい発想である。ｊｕｍｏ２１１は三菱で国産化して１４試作戦闘機（後の２式戦闘機）に搭載され、ＤＢ６０１は川崎で国産化され１５試作戦闘機に搭載されることが決定した。
当時、欧州で流行していた重戦闘機、Ｍｅ１０９や英国のスピットファイア等も全て液冷エンジンを搭載した高速戦闘機であることを考えればこうした方針決定は必ずしも合理性を欠いているとはいえない。しかし、液冷エンジンを戦闘機用発動機とし、空冷エンジンを爆撃機、攻撃機と限定してしまったのは官僚主義的な硬直を疑われても仕方がない。
しかし、当時の日本で開発できる大馬力空冷発動機は技術的な必然性から大直径、大型化するために戦闘機に用いるのは不適であるという事情が存在する。これは排気量の増大（＝馬力向上）を圧縮比の変更や高回転化、あるいは高ブーストによって達成しようとする場合、技術的なハードルが著しく高いものになってしまい開発リスクの増大や、生産性の悪化につながる恐れがあるためだった。必然的に低リスクの大馬力発動機開発はシリンダーの大型化という技術的なレベルの低い方式に頼らざるえず、三菱の火星エンジン、あるいはその１８気筒版の土星エンジンのような大直径、大重量なものになる。そうした発動機は前面投影面積が大きく、高速発揮は不可能と考えられていた。
とはいえ、こうした発想から中島飛行機が開発を進めていた１８気筒版栄発動機（１０００馬力空冷エンジン並の前面投影面積で２０００馬力発動機＊どう考えても達成不可能）の開発が停滞、葬りさられたのはやはり官僚主義の硬直した発想といえなくもない。中島の発動機開発部門は現在でもこの奇跡の２０００馬力発動機を死んだ子供の歳を数えるようにして、その開発中止を悔やんでいる。
Ｍｅ１０９に対するＦｗ１９０やＰ−５１に対するＰ−４７といった具合に空冷エンジンでも高速戦闘機の開発は可能であり、戦闘機のエンジンを全て液冷化するというのはやはり帝国空軍の壮大な勇み足いうべきだろう。
３式戦爆はそうした帝国空軍の壮大な勇み足に翻弄されて数奇な運命をたどった戦闘機といえる。
設計
１５試作戦闘機は当初から帝国空軍の主力重戦闘機であることを宿命づけられており、帝国空軍の期待を一身に背負って開発が進められた。
１５試作戦闘機の開発は帝国空軍の航空本部の全面的なバックアップを受けており、必要な予算と機材は最優先に与えられていた。１４試作戦闘機は１５試作戦闘機が失敗した場合の保険的な意味合いが強く、必ずしも大きな期待はされていなかった。１００式戦の高性能により暫く制空権は安泰であるという認識（楽観）もあり、１４試作戦闘機に対する期待はあまり高くなかった。
その証拠として、ドイツでＭｅ１０９Ｅに搭載されて実績を上げていたＤＢ６０１は１５試作戦闘専用とされ、ドイツでは爆撃用に採用されていたｊｕｍｏ２１１が１４試作戦闘機に回されている。また、要求仕様も１５試作戦闘機は非常にことこまかく設定されており、１００式戦の開発を混乱させた軍の指示、指導こそ控えめだったものの、過剰な機密保護措置をとられていたので開発環境は１４試作戦闘機に比べて非常にストレスの強いものだった。
ドイツのフォークト技師に学んだＤ技師を設計部長として開始された１５試作戦闘機の開発は１４試作戦闘機から遅れること２ヶ月であり、発注年度は違うもののほぼ同時期に設計は始まっている。
なお、１５試戦には軽戦と重戦という二つの仕様があったという真偽不明な情報があるが、１５試戦の開発は当初から重戦仕様のみであり、軽戦案は存在しない。
ＤＢ６０１を搭載すること前提とした胴体は空冷の１００式戦に比べてスマートにまとめられた一体構造であり、軽量化と強度確保に力点が置かれていた。しかし、胴体の上下幅は無駄に広いことが後に明らかになっており、外見からして明らかに野暮ったい印象である。２式戦に比べても寸同で、胴体の設計は当初から疑問の声が上がっていた。Ｄ技師はより細い断面の胴体を使いたがっていたが、機体の小型化によって成功した１００式戦の前例から空軍から出向してきた技官が胴体の短縮と方向安定性の確保ために上下の幅が広い胴体の採用を強行に主張したためにこのようなことになったのである。
主翼もごくごく薄翼化し、高速発揮のために高翼面荷重の小さな主翼を採用している。また左右の主翼は一体構造になっており、胴体と同様に強度と軽量化を両立したものとなっている。このために急降下制限速度は時速８５０ｋｍに達するが、離着陸速度は１００式戦よりさらに早く、試験飛行時において着陸事故を起こす原因ともなっている。しかしそうした主翼を用いても、試作機の最大速度が時速５６０ｋｍを越えていないことを考えると主翼形状にも疑問の余地がある。
さらに１５試戦において最大の難問となったのがラジエーターの配置だった。１４試作戦闘機が主翼に開口部を設けてラジエーターとオイルクーラーを合理的に配置したのに対して、１５試戦はオイルクーラーとラジエーターをまとめて胴体下面、操縦席の真下に配置していた。しかし、ラジエーターやオイルクーラーの配管は洗練されているとはいえず、ラジエーターとオイルクーラーを隠す大型のカバーも大きな空気抵抗の発生要因になっていた。
結果として、ほぼ同時に完成した１４試作戦闘機、及び１５試作戦闘機を使った試験、あるいは模擬戦闘において、１５試戦は１４試戦に手も足もでないという異常事態となった。本家の長男が２号の生んだ隠し子に母屋を乗っ取られたといえば分かりやすいだろうか？もちろん、性能は要求仕様に遠く及ばなかった。
１５試戦は１００式戦との模擬戦闘においてもほぼ同程度の性能、急降下速度や加速についても１００式戦に勝るところがないと判定され、この時点で戦闘機としての命運は殆ど絶たれたも同然となっていた。
川崎は試作機で得られたデーターを使って再設計を行い、またエンジンの過給圧を上げて１５００馬力としたＤＢ６０１の改良型を用いれば要求仕様の達成は可能と主張したが、１００式戦との模擬戦闘が行われた１９４１年の７月に日本はソ連と全面戦争に突入しており、１５試作戦闘機の再設計を待っている余裕は全くなくなっていた。
結局、１５試戦の開発は中止。試作機は他の用途、つまり軽爆、襲撃機へと用途変更されることとなり、１５試戦は未来の主力戦闘機から一転して地味な対地攻撃機へ転落することになったのである。
１５試戦の受難はこれだけにとどまらず、エンジンをＤＢ６０１から空冷エンジンに換装することを要求された。液冷エンジンは戦闘機用であり、軽爆や襲撃機は空冷エンジンを充てる空軍の方針は全く徹底したものだった。
液冷エンジン搭載機を空冷化することは事実上不可能だと考えられていたので、この時点で１５試戦は全く死んだも同然といえた。
なお、川崎のＤＢ６０１は試験飛行時からすでに整備性の悪いさが指摘されるようになっており、次いで生産性についても疑問の声が上がるようになったためにＤＢ６０１は新司偵（１００式司令部偵察機）用のエンジンとして少量生産されることになった。これは川崎への救済措置的な意味が強い。しかし、ＤＢ６０１を搭載した１００式司令部偵察機�況燭六�速６５０ｋｍを発揮し、あらゆるソ連製戦闘機を振り切って強行偵察を何度も成功させており、この選定は必ずしも政治的な意味合いだけのものでなかったことは明らかである。
空冷化
未来の主力戦闘機から一転して地味な対地攻撃機に転落した１５試作戦闘機の最初の試練はエンジンの空冷化だった。
発動機の選定は空冷化の作業を優先するために機体にはできるだけ手を付けずに済むことを基準にして選定を行い、三菱の金星エンジンが殆ど機体の改造なしで搭載可能であることが判明したことでエンジンの選定はほぼ確定した。
さらに都合がいいことに三菱の金星エンジンの改良型は司令部偵察機に川崎のＤＢ６０１が採用されることになったために搭載する機体がなくなっているという、ある意味皮肉なことになっており、エンジンの選定には何の問題も生じなかった。
既に空軍の認識では１５試戦はなかったことになっており、川崎に出向していた空軍の技官なども全て引き上げた後だったので空冷化の作業は全て川崎の職員によって行われている。
エンジンが空冷の金星に変わったことでエンジンそのものが軽くなり、これまで重心を調整するために必要だった機体後部のバラストを撤去することができ、またラジエーター関連の装備が全て撤去したことで機体重量は大幅に軽減された。
胴体や主翼形状に一切手を加えていないにもかかわらず、重量軽減により翼面荷重が下がったことから危険すぎるほど速かった離着陸速度も１００式戦と同程度まで低下しており、離着陸に関する苦情もほぼ聞かれなくなったのも空冷化の恩恵といえるだろう。
しかし、液冷エンジン用の細い（上下幅は相変わらず無駄に太かったが）胴体に空冷エンジンを搭載したことから左右に段差が生じており、この部分をどうにかしなければそこで空気の渦が発生し、著しく空気抵抗が増えてしまうことになる。
結局、簡単なフィレットを装着し、日本機としては初めて推力排気管を採用し、左右にまとめて配置することで発生する渦を高速のエンジン排気で吹き飛ばすという画期的な方法によってこの問題は解決されている。
また、オイルクーラーは当初の位置から前進させエンジンカウリングの直後に配置され、エンジンカウリング下面にダクトは配置し、そこから空気を導くことで空気抵抗を最小限にしつつ、効果的なオイル冷却を可能とした。また、オイルクーラーの位置がエンジンに近くなったのでオイルパイプの短くなり、この部分からのオイル漏れは劇的に減少した。この方式は米軍のＦ６Ｆにも用いられた単純だが効果的なオイルクーラーの配置だった。
これらのエンジン換装に伴う改造によって重量軽減を図った１５試戦は試験飛行において時速５８０ｋｍと原作に比べて２０ｋｍ／ｈ近い速度の向上が図られ、運動性や上昇性能は大幅に改善された。しかし、それでもなお２式戦に比べた場合、水平速度で４０ｋｍ／ｈ近い劣速だった。
ここに至って１５試戦は既に戦闘機としての命脈は絶たれており、川崎側も当初の目論見を放棄せざるえなくなっていた。
この時点で既にシベリア戦役は２年目に突入しており、強力なソ連軍戦車隊、Ｔ−３４を効果的に撃破できる兵器は高射砲の水平射撃か歩兵の肉弾攻撃しかないという悲惨な状況が続いており、戦車を狩る対戦車攻撃機の拡充は切に求められていた。
そこで１５試作戦闘機を本格的な対地攻撃機に改造が行われた。エンジンからは１段２速式過給器が取り外された。過給機は高度変化の激しい戦闘機には必須の装備だが、低空飛行のみに特化した襲撃機にはさして意味のない装備である。過給器に回されるエネルギーロスは発動機の生み出すパワーの１０％を超えることもあることから、これだけでエンジンの馬力向上が見込まれた。
地上からの対空砲火に耐えるために操縦席の後部の防弾鋼板に加えて左右と機体下面の防御が施され、被弾に弱い翼内燃料タンクも撤去された。これによって航続能力は大幅に低下を余儀なくされたものの、胴体内タンクに集中防御を施すことで生存性は飛躍的に高まっている。基本的に対戦車攻撃機は前線の草を刈り取っただけの仮設飛行場に待機し、前線から救援要請にしたがって出動するものであるから、航続能力の低下は問題にはならない。また、そうした前線飛行場での運用を考慮して主脚や降着装置の強化が行われている。フラップもより大面積のファウラー式に変更されて低速飛行性能を改善していた。
こうした改造で低下した速力や運動性を補うように、完成した機体には金星エンジンの最終型（１５００馬力）が搭載されている。３式戦爆の成功はこの１５００馬力エンジンによるところが大きく、ガソリンとオイルさえ入っていれば一発でエンジンがかかるという奇跡のような高稼働率を実現したこのエンジンは過酷な前線飛行場でも確実にカウントできる戦力としての３式戦爆の地位を不動のものとしている。
空軍に納入された試作機は戦闘機並みの運動性と海面高度での高速飛行能力（時速５７８ｋｍ）を備えながら、強固な防弾装備と爆弾搭載量５００ｋｇという双発軽爆撃機に匹敵する対地攻撃能力を持つ空軍の注文どおりの対地攻撃機だった。
低空戦闘なら２式戦や１００式戦を敵に回しても十分戦えるその素質は空軍の一部に生き残っていた１５試戦のシンパを勢いづかせ、完成した試作機は襲撃機ではなく、戦闘機と爆撃機を兼ねた戦闘爆撃機として採用されることになった。
火力
３式戦爆の第一義は対地攻撃機であり、速度低下（−３０ｋｍ/ｈ）を忍んで対地攻撃兵装を懸架する爆弾架を主翼下に複数装備している。
対地攻撃においては大型爆弾（２５０ｋｇ〜）よりも小型ながら炸薬量も多い６０ｋｇ爆弾や３０ｋｇ爆弾が多用されるため３式戦爆の写真は小型爆弾を鈴なりにしている絵が多い。
しかし、３式戦爆が投下した爆発物の中でもっとも多いのがソ連製のＭ−８、８２ｍｍロケット弾をコピーした３式８糎噴進爆弾である。
１９４１年７月のシベリア侵攻時に鹵獲されたＭ−８はその他の陸戦兵器と共に日本本土に送られ、テストに供された後にその生産性と性能から直ちに制式兵器としてコピー生産されて帝国陸軍に広く装備された。
これは火砲の生産力に限界のある帝国陸軍において、簡単な発射レールと大量生産が可能な単純構造のＭ−８ロケット弾の組み合わせが砲兵力の劣勢を補うために必要という貧乏臭い事情が存在していた。
なお、３式戦爆に装備された３式８糎噴進爆弾はＭ−８のフルコピーではなく、空中発射のために全長を切り詰めたタイプで、射程距離は短くなっているものの、弾頭は大型化しているので面制圧能力は向上している。
また、海軍の２５ｍｍ対空機銃を改造した対戦車攻撃用のガンポッドが存在する。海軍の対空機銃を改造したこの対戦車機関砲はドラム給弾式で左右に各1門、１２発の２５ｍｍ徹甲弾を搭載し、ベテランパイロットなら一連射でＴ−３４を撃破することが可能だった。海軍向けの対空機銃の生産を抑制して、大量配備された２５ｍｍ対戦車機関砲はシベリア戦役に送られて、戦車狩りに大量使用されている。
ちなみに、こうした対地攻撃兵装の他に自衛用として機首１３ｍｍ機銃を２門装備している。これは完全な自衛用であるが、機首集中装備により命中精度は高く、発射速度も高いために戦闘機を相手にするならばそれなりの攻撃力を発揮する。
鈍重な攻撃機だと考えて不用意に接近したソ連軍戦闘機が爆装を放棄して逆襲に転じた３式戦爆に撃墜された例は数多い。
なお、９９式１３ｍｍ機銃は海軍の対空機銃をベースにしたもので弾薬には互換性があり、現在でも拠点防御用の重機関銃として陸海空軍に広く配備されている息の長い機銃でもある。
防御
３式戦爆は対地攻撃機の常として地上からの対空砲火に対抗するため、操縦性と燃料タンクに防弾装甲を施している。当然ながら防漏装備も施されている。
なお、燃料タンクは胴体のみとし、操縦席前の胴体タンクのみとなっているので航続能力は短い。しかし、胴体タンクに集中防御を施し防漏装備を施すことできわめて燃えにくい戦闘機に仕上がっている。
戦歴
１９４２年末に配備が開始された３式戦爆は主に軽爆部隊を中心に配備された。旧式で低速な９９式双発軽爆機や９７式軽爆撃機で戦ってきた軽爆部隊にとって、戦闘機と限定的な状況ながらも対等に戦える３式戦爆の登場は大きな励みとなった。
また、戦力拡大期にあった帝国空軍にとって1機の双発軽爆を解体することで３式戦爆４機分のパイロットが得られる利点は大きく、それでいて双発軽爆と同等かそれ以上の火力を発揮する３式戦爆の価値は非常に高かった。
なお、３式戦爆の対戦車攻撃機としての最大のハイライトは１９４３年夏の枢軸最終攻勢で、２４機の２５ｍｍ対戦車機関砲装備の３式戦爆を投入した戦車狩り作戦で、升目状に区切ったキルゾーンを虱潰しする集中攻撃作戦により３日間の戦闘で４００両以上の各種装甲戦闘車両を撃破している。
また、防弾鋼板を一部下ろし、爆弾架を取り除いた軽戦闘機型も現地改造という形で大量に使用され、前線防空に威力を発揮している。
エンジンにデリケートな面のある２式戦よりも確実に動作する３式戦爆の配備を熱望する部隊は数多く、その声に押されて一部の戦闘機部隊にも３式戦爆が供給されている。
低空戦闘に特化していた３式戦爆は同じ低空戦闘に特化していたソ連機との素質に似ているところがあり、低空戦闘でしばしば逆襲にあうことがある２式戦に比べてベテランが乗っている３式戦爆の方が技量で優越がある分だけ優位に戦える場合があった。
なお、３式戦爆は極端に航続能力が短いことから洋上進出は全く無謀だったために沖縄戦にはおいてはもっぱら飛行場防空に用いられ、米艦載機部隊との空中戦で大戦果を引き換えに大損害を蒙っている。
2007年11月03日(土) 21:14:12 Modified by suzukitomio2001