GD1942 プロローグ

プロローグ 1969年7月日22日

ケーニヒスベルク空軍基地は、ドイツが直轄する空軍基地としては最東端に位置していた。
この基地が持つ2本の4000m級滑走路と予備の2000m級滑走路が見渡せる管制塔で、2人の男は久々の再会を果たした。

「ここは私のような民間人が入ってもいい場所なのかね?」
少しニヤつきながら言った初老の男は、しかし民間人には無い雰囲気を放っていた。
「はい、ロシア人が見学出来るぐらいですよ。ああ、葉巻だけはご遠慮ください。」
エーリヒは照れたように、笑いながら答えた。
「閣下が軍を去られた後、重要な管制の大半はAWACSが行うようになリましたから。
 アー…機体の上に円盤型のレドームを乗せたアレです。」
説明を受けた初老の男 - アドルフ・ガランドは、すぐにいやいやと首を振った。
「閣下はやめてくれ、私はただのしがない退役軍人だ。」
謙遜しつつ、本題を切り出す。
「で、今日はなぜ私を招待してくれたんだ?ようやくあの時私の誘いを断った理由を利かせてくれる気になったのか?
 "他のスーパーエースにびびったから"なんてのは冗談なんだろう?」
恐縮したエーリヒがしみじみとしたように話し出した。
「私ももうすぐ退役する身です。以前から閣下とはもう一度お会いしたかったのですが、なかなか機会がありませんでした。
 今日は、初めて実戦部隊に配備されたメッサーの新型が飛行する日で、閣下と再会するには丁度良いと思ったのです。」
一瞬で、ガランドの表情が子供のような無邪気で好奇心に満ちたものに変わる。
「おお、アレか!あれなら私も知ってるぞ。確か愛称は…」
「「シュワルベII(ツヴァイ)」」

正式名称である「タイフーン」を無視した愛称を呼ぶ声が重なる。
そうこう言っているうちに、半円柱状の屋根を迷彩塗装した航空機用ブンカーから件の戦闘機が出てきた。
Me170タイフーンは久しぶりにメッサーシュミットから採用された戦闘機(マルチロールファイター)だった。
この戦闘機は、アメリカが1970年前半に配備するであろうF-15を、あらゆる面で圧倒出来ることを目標に開発されていた。
低バイパス比の大推力ターボファンエンジン2基を横並びに配置し、コクピットの下には大きな長方形のエアインテークがある。
このエンジン出力のおかげで、推力重量比は最大離陸重量時でも1を超えている。
つまり、燃料に爆弾・ミサイルを最大まで積み込んでも垂直に上昇できるということだ。
翼は、カナード付きのクロースカップルドデルタで、垂直尾翼は1枚がエンジンの間から上に伸びる。
殆どの計器は軍用の液晶画面を用いるグラスコクピット化が図られている。
照準等を行うシステムは依然としてHUDだったが、将来的にHMD - ヘルメットのバイザーに情報を投影し、
ヘルメットが向いている方向を飛んでいる目標をロックオンできる - への換装が予定されている。

この日は実戦部隊による初飛行ということもあり、武装は施していないようだった。
「アドラー1よりKBXコントロール、滑走路への進入許可を求める。」
「KBXコントロールよりアドラー1、第1滑走路への進入を許可する。」
「了解、コントロール。」
曲面と直線が混ざり合った、ドイツらしい機能美に満ちた機体が滑走路へ進入する。
「アドラー1よりコントロール、離陸許可を求める。」
「コントロールよりアドラー1、離陸を許可する。今日はサーカスの2代目団長がお目見えだ。」
「了解、コントロール。華麗な空中ブランコをお見せする。」
そう返答したアドラー1が、エンジン出力を離陸時出力まで上げた。
あっという間に機体が加速していく。
機体のサイズからは信じられないほどの短距離で地面から離れたと思うと、すぐに垂直上昇に移った。
空中ブランコとは違い、降りてくることは無かった。垂直上昇中ですら加速しているようだ。
「これではシュワルベというより…コメートだ。」
ガランドが大笑いしながら大昔の失敗機の名前を出した。
エーリヒは笑いながら、
「周辺住民への配慮という奴です。低空で頭の上を飛ぶとうるさいのですよ。」
と答えた。
「それは面倒だな。」
が、ガランドにはすぐに半分以上は冗談だと分かった。
第2次世界大戦から現在に至るまで、EU(数年前にPEUとなったが)にはいつも外敵が居ることを、
少なくともドイツ人だけは民間レベルで理解していたからだ。
「では、そろそろあの時JV44への誘いを断った真の理由を聞かせてもらうとしようか、ハルトマン。」
「あー…いや、とりあえずアドラー1のRTBまで別室へご案内しましょう。」
(これは生半可な嘘では、信じてもらえないかもしれない。)
エーリヒ・ハルトマンは覚悟を決めるしかないな、と思いながらガランドを別室へと案内した。
グロス・ドイッチュラント1942
2007年02月26日(月) 07:21:05 Modified by ID:1H4dmfbzzw




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