帝国の竜神様55

1942年 6月4日 マリアナ諸島 昼過ぎ サイパン 愛国丸貴賓室 

 その日は雨が降っていた。
 まぁ、雨が降るに足る理由があったからなのだが、その理由の発見者らしい綾子は呆然とした顔のまま洗面所に行く所だった。
「あ、お兄様。どうも私寝ぼけているみたいなので顔を洗ってまいりますわ」
 と、浮ついた言葉を残して頼りなさげな足取りで消えていった。
 あのしっかり者の綾子が呆然として「寝ぼけている」?
 雨も降るはずだ。
 そんな事を思いながらいつものように貴賓室に行くと、何故か知らないが貴賓室の周りにいる人だかり。
 俺に気づいた一同が無言かつ一斉に「何やらかした?」と目で訴えてくるのがとても怖い。
 何をやらかしたいうか多分撫子がらみなのだろう。
 あの馬鹿竜今度は何をやらかしたというのかとため息をつきつつ、意を決して貴賓室に入ると……
「ですから、『太平洋宣言』は『大西洋宣言』と違って多国間条約の扱いに……」
「うむ。良く分からないのじゃ」
 なんと、我らが馬鹿竜もとい撫子様は、メイヴを教師に勉強していたのだった。
 …………
 真顔で固まったままその光景を三十秒ばかり見つめ続け、やっと思考が体に追いついてくる。
 おーけー落ち着け。俺。
 まず自分の名前を言ってみよう。真田博之。うん。問題ない。
 今日は昭和17年、皇紀2602年、ついでに西暦1942年の6月4日で、ここはサイパンで愛国丸の貴賓室だ。
 うむ。ちゃんと分かっているじゃないか。
 で、あそこで眼鏡をかけてメイヴ(メイヴも眼鏡装備)に質問しているのが竜神様の撫子。
 あれ?
 目をこすって、頬をつねり、痛いのでどうやら夢じゃなさそうだが、空飛ぶ竜がいる世の中だ。
 覚めない夢にかかっているのかもしれない。
 くるりとUターンしてゆっくりと扉を閉め、「ぱたん」という扉の音と同時に外に居た人だかりの群れといやでも視線があってしまう。

 ( ゚д゚ )( ゚д゚ )( ゚д゚ )

 いや、こっち見るなよ。
 分からないから。俺にも。

 貴賓室から出て綾子の後を追うように顔を洗った。
 洗いながら隣で顔を拭いている綾子に語りかける。
「あれは何だ?」
「聞きたいのはこっちです!
 お兄様、何を吹き込んだのですか!」
 言葉でもはや語れぬ感情を込めて綾子に向けて思いっきり首を左右に振って知らない意思表示をする。
 大体昨日もいつもの撫子で、馬鹿なことを言いながら甘えてきて朝まで寝かせてもらえずに今起きてきた俺が何をしたというのか?いや、何もしていない!
「本当に覚えは無いのだな?真田よ?」
 いつの間にかやはり顔を洗っていた遠藤にも改めて知らない旨を伝える。
 というか、信じられないというか信じたくない。
 あの問題ばかり起す撫子が勉強。
 そりゃ、顔を洗って自分が夢を見ていると疑いたくもなる。
「何か悪い物でも食べたとか?」
「お菓子にご飯に体重などどうにでもできるから食い散らかしていたじゃないか。あれ」
「くっ!」
 遠藤のあれの推察その1に否定的理由を述べたが何故綾子さんは握りこぶしを作って鏡をお睨みつけるので?
「じゃあ、あれのやりすぎで頭がおかしくなったとか」
「普通逆だろう。まぁ、やり過ぎなのは否定しないが」
(ごすっ!)
 遠藤のあれの考察その2に否定的理由を述べたが何故綾子さんは洗面台にその握りこぶしを打ち付けるので?
「とにかく落ち着こう。真田。
 こういう時は素数を数えるといいらしいぞ」
 一番混乱している遠藤が落ち着く為に素数を数えだすあたり何処から突っ込めばいいのだろう?
「何で素数なんだよ?」
「何でも孤独な数字は勇気を与えてくれるらしい。
 1…2…3……」
「遠藤さん。
 1は素数じゃないのですが……」
 そうだったのか。綾子。
 そんな混乱の後、再度俺と遠藤に綾子と連れ添って貴賓室の前に。
 ごくりとつばを飲み込んでゆっくりとドアを開ける。
「マリアナの竜に領海を与える為に……」
「うむ。良く分からないのじゃ」
 鏡を見なくても分かる。
 俺達三人の顔はこんな感じだ。

(Д) ゜ ゜(Д) ゜ ゜(Д) ゜ ゜

 ばたんとドアを閉めた。
 そのまま三人固まったままぎこちなく180度Uターン。
「俺、疲れたから寝るわ」
「私も今日は休ませてもらいます」
「医務室に行って幻覚覚ましの薬があったか聞いてくるわ」
「お主ら!わらわが勉学に励んでいるのがそんなに不思議かっ!!!!」
 ドアを開け放って咆える竜神様の抗議の声を無視しつつ、俺たち一同は見るはずも無い現実に折り合いをつけるべく時間を浪費したのである。


「まったく失礼なのじゃ。
 わらわを何だと心得ているのじゃ」
 見事なまでにご機嫌を崩した撫子に紅茶を注ぎながらメイヴが宥める。
「そもそも、いつもおしとやかに勉学をしていればこんなに皆様が驚かないのです」
 なお、二人がつけていた眼鏡はフレームのみでレンズは入っていなかった。
 度つきは「目がくらくらするのじゃ〜」という理由でレンズは外したという。
 更にそもそも何で眼鏡なのかというと、「知的女性がつけるもの」というメイヴの男漁り中の男性アンケートによる所が大きく、配下の黒長耳族娘に探させたという。
 何だか、いろんな所で間違っているがその間違いぶりがなんとも撫子とメイヴらしくてかえって落ち着く。
「で、一体何の勉強をしていたのですか?」
「うむ。これじゃ」
 と言って撫子は一枚の英文の用紙を綾子に渡す。
「これ、先に締結された『太平洋宣言』じゃないですか!」
 びっくりした俺たちに撫子は胸をゆらしてえっへんと威張って見せた。
「そうじゃ。
 わらわは六者協議でがんばったのに、博之に『弩級』馬鹿竜と罵られてとても傷ついたのじゃ。
 見返す為に太平洋宣言を見直して、わらわが何をしたのか理解しようとしたのじゃ」
「……」
「……」
「……」
 つまり何だ。この『超』弩級馬鹿竜様は自分が何をしたのか今の今まで分かっていなかったと。
「博之ひどいのじゃ!
 ちゃんと勉強しているわらわに超までつけて弩級馬鹿竜と罵ったのじゃ!」
 ええい。テレパスで心を読むんじゃない。
「で、勉強して何か分かったの?撫子ちゃん?」
 遠藤の問いかけに「良くぞ聞いてくれた」とばかりにバンとテーブルを叩く。
「うむ。わらわががんばったのに、この国が儲かっていないのじゃ」
 その撫子の物言いに三人揃って本当に勉強していたんだという空気が流れる。
 太平洋宣言は太平洋における竜の扱いを決めた宣言であり、実質的な外交において日米間で何か進展があったかといえば実はなかったりする。
 とはいえ、米国が出してきたハルノートケネディ私案を見るように、竜というこれまでと違う方向性が外交交渉に出てくるようになり、国家間で竜というものがどういうものでそれが国際政治に影響を与えるという事を国家が認めたという点にこそ評価がされるべきだろう。
 撫子が成した太平洋宣言はその最初の一歩なのだと伝えるべきなのか微妙に迷う。
「ふむ。そう考えるとまだまだわらわの働きが足りない事になるではないか」
 しっかりテレパスで俺の思考を読んでいた撫子はしょんぼりとした顔になる。
「いや、撫子はよくやったよ。多分……」
「そうですわ。開戦寸前の日米間に雪解けを演出する外交的成果を出したと思いますわ」
「そうそう。石頭の外務省の連中ができなかった事をやっただけで、帝国は撫子ちゃんに感謝しているって」
 俺たち三人が慌ててフォローした事も事実である。
 開戦寸前まで関係が悪化していた日米間は英国仲介があるとはいえ、この太平洋宣言で一つの成果を出す事によって日米交渉継続という外交的アピールを図らずもする事になった。
 何故なら、ここで日米開戦となった場合太平洋宣言も無かった事になり、多国間条約である為に破棄した時の信用の失墜は無視ができないものになる。
 もちろん、米国や英国がこれを破棄して戦争になっても勝てば問題はないだろう。
 だが、事が竜であり、しかもアトランティスを沈めたとほざく竜達を戦争に参加させて勝つ事ができるかといえば分からず、ましてハワイで痛い目を見ている米国や本土が戦争中の英国は新たなる敵であるマリアナの竜や撫子を敵にする事が現政権交代になりかねない。
 そしてそれは帝国にもあてはまる。
 この太平洋宣言で撫子やマリアナの竜を取り込んだ(と諸外国は見る)結果、彼女達の意向をもはや帝国は絶対に無視できない。
 対ソ戦にせよ、対英戦にせよ、対米戦にせよ、彼女達が反対をした場合帝国はその反対に対する手を何も持っていないのだ。
 太平洋宣言は大西洋宣言と同じく日・米・英にかせられた枷なのだ。
 その枷はたしかに不自由ではあるが、その枷があるおかげで少なくとも危険には晒されない。そんなものである。
 それを一歩とはいえ結びなおした。それは十分誇っていい事だと思う。
「なんというかまどろっこしいのじゃ。
 わらわとて恩を受けている身だから、その恩を返したいとは思っているのじゃ。
 こう、ずばっと、どかっと、どーんと」
 ああ、ようやく理解した。
 なまじ力があってそれが実行できる存在だから、その過程にではなく結果に思考が行くのか。撫子は。
「もしかして、金銀宝石とか美女とか、領土とか、そんなのを帝国に渡そうと考えていたのか?」
「うむ。そうなのじゃ。
 だから、この紙一枚が成果であるというのが、わらわは納得できないのじゃ。
 六者協議の席で吉田副代表がチョコレートを食わしてくれた話が真実ならば、わらわとすればこの国の民が豊かになるぐらいの金銀宝石や領土ぐらい用意せねば。
 竜の沽券に関わるというものじゃ」
 竜神様の熱い主張が理解されるにつれ生暖かい顔になる俺達人間三組。
 これはもう仕方ないといえば仕方ない。
 産業革命以降発生した社会とそれ以前の社会では富の概念が決定的に違う。
 例え撫子が今、この場で金銀宝石を帝国全ての人間豊かになる量出したとしても今の帝国はそれを使う事ができない。
 金銀宝石が所詮換金できる物でしかないのであり、真に必要な資源や物資などの輸入品を今の帝国はその金があっても買えない、正確には売ってくれないという所が理解できないのだろう。
「そういえば、以前満州とやらで石油というものを見つけたときも不思議に思っておったのじゃ。
 あんな燃える泥水程度がなんで必要なのか今でもわらわは良く分からぬ」
 ああ、そういう事もあった。
 あの時、戦争は無くなったが大陸はきな臭かったし、英米とは戦争寸前だし、そのくせ油だけはどんどん減ってゆくと愚痴っていたのを横からこいつが突っ込んだのだった。
 多分、こいつにこれが必要だという資源を認識させる事が帝国にとって早急ではなかろうかといまさら思ったりもする。
「まぁ、いいや。
 撫子ちゃんの思うとおりにやってみたらどうだい?」
「待て。遠藤。
 いままで、こいつにそうやって任せて、何かいい目があったか?」
 気楽に言ってのけた遠藤の言葉に慌てて封じ込めようと俺が口を挟む。
「う〜。
 博之ひどいのじゃ……」
 涙目でこっちを見るんじゃない。
 何もいえないじゃないか。
「いいじゃないですか。
 何かあったら、お兄様が責任をお取りになるのでしょうから」
 綾子よ。何故俺の責任を強調するので?   
「博之さま。
 こういう時は殿方なりの責任の取り方があると思うのですが?」
 メイヴにまで突き放されて、
「分かったよ。
 手伝ってやるから」
 と言わざるを得なかったのである。


 一時間後 アメリカ合衆国 太平洋艦隊所属 巡洋艦アトランタ

「で、今日の訪問は何用ですかな?ミス撫子。
 その眼鏡とても似合っていますよ」
 マリアナを去る準備で忙しいアトランタに不意打ち同然に乗り込んでくる撫子も撫子だが、そんなしぐさを一つも見せずにレンズの無い眼鏡を褒めるフレッチャー提督は俺たちを歓待したのだった。
 しかし、「今日のわらわは一味違うのじゃ」で眼鏡装備はそのままですか。
 知的雰囲気ってのは外見からじゃなくて会話の節々に出て醸しだされる知性にこそ価値があるのであって……
(うるさいのじゃ!
 黙って一味違うわらわを見ているがよい!)
 はいはい。わかりました。撫子様と考えるのを止めると撫子は落ち着いた声でフレッチャーに用件を伝えたのだった。
「何、ちと物入りでな。
 お主等の国は金持ちだと聞いたから、わらわに貢いでくれたお菓子の礼を兼ねて物を売りに来たのじゃ。
 高く買い取ってくれると思っての」
 お、こんな落ち着いた声も出せるのか。やるじゃないか。
(ふふん。どうじゃ)
 テレパスでそんな事言い合っているとは知らず、フレッチャー提督はぴくりと持っていたコーヒーカップを揺らし、中のコーヒーが波紋を浮べるのが見えた。
 異世界の文明、しかも同族の竜と敵対している米国にとってこういう時の売り物が安いものではないと気づいただろう。
「少し、時間をくれませんか?
 私にそれを買うだけの権限がないのです。ミス撫子」
 申し訳なさそうな顔をして告げたフレッチャーに撫子は意外そうな顔をする。
「けんげん?ってなんじゃ??」
 前言撤回。そこから話さないといけないのですね。馬鹿竜の撫子様。 
(だから、今日のわらわは知的なのじゃ!)
 はいはい。確かに知的でしたと馬鹿竜を宥めながら、このままじゃ話が進まないので途中から口を出す。
「時間はどれぐらい必要ですか?」
「二時間もあれば。
 ケネディ大使がまだグアムに居ますので大使と共に愛国丸に参りましょう。
 ちなみに、売り物というのはどのようなものですか?」
 多分最初からやるつもりだったのだろう。
 眼鏡のフレームを摘んで上に軽く持ち上げながら、落ち着いた声でゆっくりと売り物を口にした。
「うむ。
 今、ハワイとやらで戦っているあいつに関するものじゃ」
 ケネディ大使はフレッチャーとダレスを伴って、一時間後に愛国丸に乗り込んできたのである。


 愛国丸 貴賓室

「こ、これは……」
「こんなもの見た事無い……」
「すばらしい……」
 テーブルの上に置かれたそれに三人の視線は釘付けで、次々と出る賛辞の言葉に俺は脂汗だらだら。
「凄いであろう。
 向こうの世界でもこれ一つで国が買えると言われる貴重品。魔竜石じゃ」 
 何からできているのか知らないのは幸せであるという事を今日、俺は思いっきり思い知っている最中だったりする。
 テーブルの上で七色の光を輝かせている、子供の頭ぐらいのこの宝玉は毎夜毎夜の逢瀬で撫子が生んでいた卵だったりする。
 そりゃ、貴重ではあろうがそれを作る俺がどれだけ……
 ……やめよう。うん。思い出すのは。
(なんじゃ?
 したいなら言うが良い。
 お客はメイヴに任せて魔竜石作りをするのならばわらわは大歓迎じゃぞ)
 だからテレパスで読むんじゃない。馬鹿竜!
 きちっと売り物の説明でもしておけ。
 あ、ちらりと撫子が俺の方を見て鼻で笑いやがった。
 かけている眼鏡と相まって憎らしさ倍増なのがなんとも。
(わかったのじゃ。
 この卵はわらわと博之の愛と欲望の結晶であると伝えて)
 わたしが悪うございました。竜神様。
(分かればよいのじゃ。
 今日はこの分がんばって卵作りに精を出してもらうからのぉ)
 うわ。あの撫子の勝ち誇った視線がムカついてたまらない。
 今晩、卵作り時に意地悪してやる。
(ふふ。わらわは意地悪されるのも大好きじゃぞ。
 眼鏡をつけた知的なわらわをたっぷりいじめて喜ばせてほしいのじゃ)
 あ、墓穴掘った……
「ミス撫子、この宝石とハワイの竜の事についてお聞きしたいのですが?」
 俺と撫子がこんなたわけたテレパスをやり取りしているとは知らずにケネディ大使は真剣な表情で撫子に尋ねた。
「論より証拠じゃ。
 メイヴ、見せてやると良い」
 撫子の後ろに佇んでいたメイヴ(やはり眼鏡装備)が少し離れて何か意味不明な言葉を唱えるとメイヴの周囲に数本の光の矢が現れる。
 ぱちんと指を鳴らしたメイヴの指の音がこちらに聞こえる前に光の矢達は魔竜石に向かって突き進み、その一メートル手前で見えない壁によって阻まれ四散。
 光の粒子を床にばら撒いてとけていった。
 はっきりとした驚愕の顔を作っていた三人に対して撫子が勝ち誇ったように口を開く。
「いかがじゃ?
 西 海 岸 と や ら で お 主 等 の 飛 行 機 を 全 て 叩 き 落 し た
光の矢を、これは弾くのじゃ!」
 実にわざとらしくわざわざ大事な所を区切って言うあたりいい性格してやがる。
 って、まて!
 今、撫子は何て言った?
 西海岸で米軍飛行機を『全て』叩き落した?
 以前、ダレスがくれた新聞にそんな記事があったことを思い出す。
(簡単な事です。
 ハワイの竜が何で攻撃をしたかを推測すれば、おおよそ相手の手は見えます。
 何しろよく知る撫子様と同じ竜なので)  
 メイヴの解説テレパスに納得。
 メイヴの説明テレパスをまとめると、この光の矢は異世界では「マジックミサイル」と呼ばれており、対象の人間に向けて放ち、当たると命中部に矢が命中した程度の衝撃を与えるという初歩の攻撃呪文だという。
 人間の持つオーラに向かって自動的に追尾するので放たれるとまず避けられないが、今のように簡単な魔法障壁で弾かれたりと対処手段が異世界では完成されている呪文でもある。
 元々はペガサスやグリフォン、俺はまだ見た事無いがワイバーンに乗る騎士を狙い打ちにする為に開発された呪文だという。
 だが対処手段が完成しており、呪文を放つ力も対抗手段を打破する為、余分に使うので割が合わないと廃れたそうだ。
 おそらく米軍のハワイ奪還作戦あたりで気づいたのだろう。
「こいつら、魔法を使ってこない」って事に。
 それを踏まえると西海岸爆撃は違った見方も見えてくる。
(そのとおりです。博之様。
 おそらく、あの方は確認したかったのでしょう。
 こちらの人間が魔法を使わない、または使えないという事を) 
 メイヴの予測だと西海岸で行われた虐殺はこうだ。
 敵編隊を目視後、このマジックミサイルを一斉発射。
 竜の絶大な魔力と、対抗魔術式の排除によって距離を伸ばした数十本の光の矢が全て敵編隊の搭乗員に命中し死亡もしくは瀕死。
 生きていたとしてもそんな情況で操縦などできるわけも無いから、機体は墜落。
 かくしてハワイの竜は悠々とサンフランシスコを爆撃して帰ったという事らしい。
 メイヴのテレパスを聞けば聞くほど自分の血の気が引いてゆくのが分かる。
 これをやられると地球上のいかなる飛行機でも竜には勝てない。
「そのとおりですわ。博之様。
 今、現在、この星のいかな飛行機でもあのお方を落とす事はできません。
 そして、それをサンフランシスコ爆撃で確認した今、あのお方がハワイ近隣の島々の米軍基地をほおっておく訳がありません」   
 この部分だけは米側お客人にも聞かせたいらしく、口を開けてわざわざ英語で言うあたりメイヴも人が悪い。
「で、じゃ。
 この魔竜石じゃ。
 お主等米国の人間は魔法を使えないようじゃから、この中に島ひとつ丸ごと守る魔法障壁の呪文を入れてある。
 お主等の言葉で鍵となる言葉を設定してやるので、この石を持ってその言葉を言えば魔法が発動するようにしておこう。
 ただし、一回きりじゃ。
 わらわの魔法もあれの全力攻撃を想定するとそれしかもたぬ。
 いかがじゃ?
 お菓子の礼にしては中々いい品物じゃろ?」
 軽く魔竜石をこづきながらレンズの無い眼鏡越しに撫子が嬉しそうにケネディを見つめる。
 その姿、かえるを見つけた蛇の如し。
「で、それはおいくらなのですか?」
 ケネディーの搾り出すような声に、歌うように言い放ったのだった。
「お菓子の礼も兼ねておると言ったではないか。
 これ一つごときで値段をどうこう言うつもりはないぞ。
 まぁ、どうしても支払いたいというのなら、誠意じゃ。
 あと、支払いは追加注文も兼ねて後払いでいいぞ。
 何しろ、効果を確かめてからの方が支払い安いし、これ一つでは足りんじゃろうからのぉ。
 あれが周りの島を焼きだすのはそんなに長くはかからんしの」 


 この話の後日談を少しだけ。
 この魔竜石の代金支払いはミットウェー島がこの卵によって地獄の業火から免れた後に大量注文と共に即座に通知されたのだがその話はまたの機会に。
 

 帝国の竜神様 55

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2008年08月27日(水) 20:31:37 Modified by nadesikononakanohito




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