帝国の竜神様66

竜州 撫子三角州 港湾内

 竜州艦隊司令部にて冒険者の一行と話をした次の日に、もう一方の冒険者達にも話を聞く為に俺達は港に出向く事になった。
 友好的というか、理性的というか、とにかく話ができた成金趣味の冒険者達と違い、もう一方の男一人と女ばかりの冒険者の方はどうも話がかみ合わない。
 で、港での押し問答が揉め事になっているので、彼らの船から出す事ができずこうして出向くはめに。
 港までの道、見渡す空や河口部から広がる海が地球と同じように青く、隣にあるグウィネヴィアの森から鳥達の囀りが波音と絡んで心を軽やかにさせる。

「○○○×××▲▲▲!!!」

 そんな音楽をぶち壊す罵倒らしき言葉が聞こえてきたのは、港に入って彼らの船が繋がれている桟橋に着いてからの事。
 俺の耳が聞いたのは、己が習ったのとはまったく違う言語だった。
「???」
「何かやりあっているようじゃのぉ」
「派手に揉めていますね」
「まぁ、殺し合いになっていないだけましと思いましょう」
 海軍陸戦隊の兵士達が銃を構えたまま自らの体で桟橋を塞ぐ壁を作り、黒長耳族の娘が通訳なのだろう、必死に話しかけるのに相手は無視して兵士達に何か語りかけている。
 こんな状況なので、下手に彼らの船の外から出せずにこうして出向いた訳なのだが。
 で、俺以外の連中がこうしてぞろぞろやってくる訳は、
「女ばかりでやってくる男に博之の男ぶりを見せてやるのじゃ!」
 ……最近悟りつつある事なのだが、厄介事ってのは大体この馬鹿竜のせいだと気づいた異世界でのとある日の事。
「撫子さんはいいかげんに常識というものを学んでください!
 あ、私は帝国の女性の地位を異世界人に見せるという理由でついていきますので」
 綾子さん、綾子さん。貴方やっている事が結果的にあの馬鹿竜と同じなのですが?
「私は、行かないと通訳できませんし」
 分かりきっている事を真顔でアピールしないでください。メイヴさん。
 貴方、さりげなく綾子や馬鹿竜の火に油注いで楽しんでいるでしょう?
「博之よ。
 わらわを馬鹿にするでない。
 わらわとて少しは考えておるのだ。
 博之の雄たる権威を見せ付ける為に女を大量に引き連れ……きゃんっ!」
 馬鹿竜の口が途中で止まったのは俺の拳骨が撫子の頭に直撃したからに他ならない。
「痛いのじゃ!
 そんなにぽこぽこ叩くでない!!
 わらわが馬鹿になったらどうなるのじゃ!!」
 頭に両手を置いて涙目で抗議する撫子に、綾子が容赦なく一言。
「今とさして変わらないのでは?」
「たしかに」
 おい、頷くのはいいが竜の眷属だろうに。メイヴよ。
 俺も同意見なのだが。
「みんなひどいのじゃ!」
 まぁ、そんな一幕があり、向こうへの文化的な見せつけも兼ねようと茶菓子を持って訪問という事と相成った。

「異世界人にスコーンですって?
 はっ。
 これだから英国人は。
 他に誇る物が無いからって同じものしか出せないって何て哀れなんでしょう」
「あら、大陸の未開人はこれだから砂糖漬けの茶菓子という虫歯になるようなものしか作れないんですわ。
 砂糖の取りすぎで、歯だけでなく頭も虫歯になりましたか?」

 ……茶菓子を巡って英独メイド大戦が勃発しかかったので、両方連れて行く事にしたのは既に撫子や綾子やメイヴの一件で面倒くさくなったからではない。多分。
 かくして、撫子の当初の目的たる女を連れての男ぶりアピールをする羽目に。

 和服(撫子)・巫女(メイヴ)・巫女(綾子)・メイド(アンナ)・メイド(ナタリー)・俺。

 目的地に向かう途中のみんなの視線の痛い事といったら。
 俺達が見えたのだろう。
 喚いていた女冒険者達がぴたりと静まる。
 現場の当直が俺の方に駆けて来て敬礼する。

「お待ちしておりました。真田少佐」
「拝見していましたが、あれはずっとあのように?」
「はい。
 魔法とやらで彼女達も話しかけてはいるのですが、『この国の王か宰相に合わせろ』の一点張りで正直困っていた所です」
 当直士官がため息をつく。
 なお、彼女達の船の隣に昨日話を聞いた成金趣味の連中の船も停泊しているのだが、その友好ぶりゆえに警戒の兵も少なく無く明らかに待遇に差が出ていたりする。
 自業自得なのだが、さて、それを今まくし立てていた彼女達が理解できるかどうか。
 何だかえらく刺々しいというか、憎悪の視線を向けられてるのだが。
(それはそうじゃろう。
 人にとってわらわは支配せねばならぬものなのに、こうしてふらふら出歩いているのじゃからな)
 テレパスで伝えてくれるのはいいのだが、撫子が彼女らに向ける倣岸不遜な笑みが全てをぶち壊しているのは絶対わざとだよな。
 まずは自己紹介を西方世界語で話してみるが伝わらない。
 仕方がないので、メイヴを介して彼らの言葉である中央世界語で語りかけてみる。
『大日本帝国の真田少佐だ。
 諸君らの件について任されている。
 代表者と話がしたい』
 メイヴの口から通訳された俺の言葉に、彼女達は互いに顔を向けてそのまま頷く。
 きっとこっちと同じ様にテレパスで会話しているのだろう。
(博之様ご注意を。
 剣士の女性が斬る間合いを取りました)
 テレパスで伝わるメイヴの警告に、伝えられたアンナとナタリーがエプロンの隠しポケットから銃を取る姿勢を取る。 
 綾子の前にメイヴがさり気なく動き、俺も当直士官に目配せして不測の事態に備える。
(あなたはこの国の勇者か?)
 ローブを着た女性が、テレパスで警戒心を露にした第一声を出したのはこの後のことだった。
(博之様。
 テレパスを皆に伝えるようにしますか?)
(頼む)
 テレパスというのは電波ににて指向性が強く、特に個人間においては当人間の了解がないとそのテレパスは伝わらない。
 だから、俺の了解でみんなに今の会話をメイヴや撫子経由で伝える事はできても、たとえば綾子あたりの意見は俺止まりとなるそうだ。
 もちろん、強引にテレパスで割り込みをかけたり、テレパスを遮断したりもできるとか。
 ここまでくると、もう素直に頷くしかできない。
 俺は魔法が仕えない事をアピールすべく、自らの口で話、それをメイヴに通訳してもらう。
「勇者ではない。
 ただの一介の軍人だ」
 俺の回答にローブの女性が詰問口調になる。
(では、何故貴方の後ろに竜が控えているのですか!
 それこそ、勇者の証ではありませぬか!)
 テレパスでの会話から、彼女は俺以外とは話をしたくないらしい。
 言葉以上に明確な敵意まで伝わってくる。
「我々はこことは違う世界から来た。
 だから、この世界とは異なる習慣を持つ。
 君達がゆう勇者ではないのはそれが理由だ」
(では、貴方はこちらの世界を知らないという事で教えてさしあげます。
 竜を隷属させ、支配し、我らと共に歩むのです!)
 その傲慢かつ高圧的なテレパスに腹が立つが、一応我々は国の看板を背負っているわけで。
 とはいえ、俺を含め皆の顔に嫌悪感が浮かぶのをどうして止める事ができよう。
(我々人類は、竜やエルフが引き起こした『大崩壊』によってどれだけ多くの命を失ったか!
 そもそも、そんな竜やエルフと組んでいる事自体許されないことなのですが、そのような事も知らぬ蛮族であるならばそれも仕方ありません。
 我々が、啓蒙し導くので勇者として正しき道をともに歩むのです!)
 こっちの嫌悪感など全然気づいていない、というか眼中に無いらしい。
(博之様。
 今、彼女洗脳魔法を使いましたよ)
「え?」
 メイヴのテレパスに思わず声が漏れ、気づいたローブの女性が憎々し気にメイヴを睨みつける。
「お聞きするが、これが貴方達の流儀か?」
 怒気をこめて俺は彼女に尋ねるが、その答えはまったく別の所から返ってきた。
「流儀も何も、この世界じゃ、あんたらが間違っているんだ。
 間違いは正すのが当然だろう?」
 マストに隠れていたのだろう。
 不意に現れた身軽そうな女が甲板に飛び降り、手にナイフを弄びながらふざけた笑みを俺たちに返した。
「わかった。
 そのように上に報告するので」
 警戒しながら引き返す俺たちの後ろで、嘲るような声でナイフを持った女が笑い声と共に言い捨てたのだった。

「報告するなら早くしな。
 でないと、世界があんたらを滅ぼしちまうよ」

 撫子は彼女達に会った後、その日一日は無言のままだった。


帝国の竜神様 066

 次帝国の竜神様67
2010年10月14日(木) 23:22:43 Modified by nadesikononakanohito




スマートフォン版で見る

×

この広告は60日間更新がないwikiに表示されております。