2000年代の日米経済関係 
◆過去最大の「双子の赤字」
90年代末のアメリカは、ITバブルの追い風を受けて1998年には財政収支の黒字化を達成した。2001年にWブッシュ大統領が就任したが、公約であった減税(ブッシュ減税)の実施、対テロ戦争・イラク戦争の開始による軍事費の拡大、ITバブルの崩壊によって2003年に再び財政赤字に転じた。財政赤字額はレーガン政権を上回り、過去最大となった。貿易赤字においても2000年の時点で過去最大の4000億ドルを記録し、その後も拡大を続け、2008年の退任時には2倍の8000億ドルまで増加している。このように、ブッシュ大統領は就任中「双子の赤字」を抱えることとなった。
（参考：外交青書2011「日米経済関係」）
◆良好な日米関係
しかし90年代のように「衝突」は起こらず、2000年代を通じて日米は比較的良好な協力関係を維持した。
この理由はまず第一に、新保守主義である小泉首相がアメリカの世界戦略の積極的な支援者として振舞ったことである。小泉首相は対テロ戦争・イラク戦争への支持を表明したほか、アメリカの防衛負担要求にも応じた。また経済の分野でも、アメリカの要望のひとつである郵政公社の民営化を推進した。
第二に、アメリカにとって日本が最大の貿易赤字相手国でなくなったことである。アメリカの貿易赤字は2000年代を通じて拡大を続けたが、この増加分は主に対中赤字であった。日本は貿易赤字相手国第1位の座を2000年に中国に譲り、2002年には2位の座をEUにも譲った。2002年には米国通商代表部が「日本部」を廃止して「北アジア部」に統合している(「日本部」廃止については、関岡英之『拒否できない日本』文春新書、2004年)。
第三に、アメリカでは2004年から住宅バブルが起こり、財政赤字や貿易赤字が問題とならなかったことである。しかし2007年にはサブプライム・ローン問題が顕在化し、08年の金融危機へと繋がっていく。
90年代末のアメリカは、ITバブルの追い風を受けて1998年には財政収支の黒字化を達成した。2001年にWブッシュ大統領が就任したが、公約であった減税(ブッシュ減税)の実施、対テロ戦争・イラク戦争の開始による軍事費の拡大、ITバブルの崩壊によって2003年に再び財政赤字に転じた。財政赤字額はレーガン政権を上回り、過去最大となった。貿易赤字においても2000年の時点で過去最大の4000億ドルを記録し、その後も拡大を続け、2008年の退任時には2倍の8000億ドルまで増加している。このように、ブッシュ大統領は就任中「双子の赤字」を抱えることとなった。
（参考：外交青書2011「日米経済関係」）
◆良好な日米関係
しかし90年代のように「衝突」は起こらず、2000年代を通じて日米は比較的良好な協力関係を維持した。
この理由はまず第一に、新保守主義である小泉首相がアメリカの世界戦略の積極的な支援者として振舞ったことである。小泉首相は対テロ戦争・イラク戦争への支持を表明したほか、アメリカの防衛負担要求にも応じた。また経済の分野でも、アメリカの要望のひとつである郵政公社の民営化を推進した。
第二に、アメリカにとって日本が最大の貿易赤字相手国でなくなったことである。アメリカの貿易赤字は2000年代を通じて拡大を続けたが、この増加分は主に対中赤字であった。日本は貿易赤字相手国第1位の座を2000年に中国に譲り、2002年には2位の座をEUにも譲った。2002年には米国通商代表部が「日本部」を廃止して「北アジア部」に統合している(「日本部」廃止については、関岡英之『拒否できない日本』文春新書、2004年)。
第三に、アメリカでは2004年から住宅バブルが起こり、財政赤字や貿易赤字が問題とならなかったことである。しかし2007年にはサブプライム・ローン問題が顕在化し、08年の金融危機へと繋がっていく。
成長のための日米経済パートナーシップ
◆パートナーシップ共同声明
2001年6月30日、キャンプデービッドで小泉首相とブッシュ大統領の首脳会談が行われた。両首脳は「成長のための日米経済パートナーシップ」の立ち上げに合意し、同日の「強化されたイニシアティブ」第4回共同現状報告の発表と同時に発表された。パートナーシップは、日米間の対話を通じて持続可能な成長のために各種の政策分野で協調することを目的とし、次官級経済対話、官民会議、「規制改革及び競争政策イニシアティブ（規制改革イニシアティブ）」、財務金融対話、投資イニシアティブ、貿易フォーラムの6つの枠組みから構成されるものである。
このパートナーシップ構想は、ローラ・タイソン・グループが作成した『タイソン・レポート』と平沼通商産業大臣の「円卓会議構想」に求められる。
◆タイソン・レポート
『タイソン・レポート』とは、米国のシンクタンク「外交問題評議会(CFR)」が2000年10月24日に発表した「新政権のための対日経済指針(Future Directions for US economic Policy Toward Japan)」を指す。作成の中心となったのは、クリントン政権の経済諮問委員会(CEA)の初代委員長を務めた女性の経済学者、ローラ・タイソンである。
・今後の日米経済関係は、「衝突と競争」から「協議と協力」の関係にシフトすべき。
・対日市場開放アプローチは、二国間で貿易目標を設定するより、WTO、OECD、APECなどの多国間機構を活用するほうが効率的。
（参考：外交問題評議会「新政権のための対日経済指針」）
◆官民円卓会議構想
森内閣の平沼赳夫通商産業大臣は、ブッシュ新政権の発足に伴う新たな経済協議の枠組みとして、2000年11月27日に「円卓会議構想」を提唱した。構想は従来の次官級協議に加えて、摩擦の解消のために官民合同が特徴的な円卓会議を設置するものである。
2001年1月26日には平沼通産大臣が訪米し、エバンズ商務長官・リンゼー経済担当大統領補佐官と会談し、官民円卓会議のアイディアについて意見交換を行った。3月19日のワシントンでの日米首脳会談で日米間の対話強化で一致し、このプロセスに民間の声を取り入れていくことも合意した。
平沼通産大臣は、日米協議に民間企業を参加させることによって、日米経済協議の主導権を握ろうとしていたと考えられる。しかし米国政府から逆提案をされ、ほぼ米国側の要求が通る形でパートナーシップが結ばれた。円卓会議構想はパートナーシップの枠組みのひとつである「官民会議」として結実した。
（参考：経済産業省「成長のための日米経済パートナーシップ構築までの主な動き」）。
2001年6月30日、キャンプデービッドで小泉首相とブッシュ大統領の首脳会談が行われた。両首脳は「成長のための日米経済パートナーシップ」の立ち上げに合意し、同日の「強化されたイニシアティブ」第4回共同現状報告の発表と同時に発表された。パートナーシップは、日米間の対話を通じて持続可能な成長のために各種の政策分野で協調することを目的とし、次官級経済対話、官民会議、「規制改革及び競争政策イニシアティブ（規制改革イニシアティブ）」、財務金融対話、投資イニシアティブ、貿易フォーラムの6つの枠組みから構成されるものである。
このパートナーシップ構想は、ローラ・タイソン・グループが作成した『タイソン・レポート』と平沼通商産業大臣の「円卓会議構想」に求められる。
◆タイソン・レポート
『タイソン・レポート』とは、米国のシンクタンク「外交問題評議会(CFR)」が2000年10月24日に発表した「新政権のための対日経済指針(Future Directions for US economic Policy Toward Japan)」を指す。作成の中心となったのは、クリントン政権の経済諮問委員会(CEA)の初代委員長を務めた女性の経済学者、ローラ・タイソンである。
・今後の日米経済関係は、「衝突と競争」から「協議と協力」の関係にシフトすべき。
・対日市場開放アプローチは、二国間で貿易目標を設定するより、WTO、OECD、APECなどの多国間機構を活用するほうが効率的。
（参考：外交問題評議会「新政権のための対日経済指針」）
◆官民円卓会議構想
森内閣の平沼赳夫通商産業大臣は、ブッシュ新政権の発足に伴う新たな経済協議の枠組みとして、2000年11月27日に「円卓会議構想」を提唱した。構想は従来の次官級協議に加えて、摩擦の解消のために官民合同が特徴的な円卓会議を設置するものである。
2001年1月26日には平沼通産大臣が訪米し、エバンズ商務長官・リンゼー経済担当大統領補佐官と会談し、官民円卓会議のアイディアについて意見交換を行った。3月19日のワシントンでの日米首脳会談で日米間の対話強化で一致し、このプロセスに民間の声を取り入れていくことも合意した。
平沼通産大臣は、日米協議に民間企業を参加させることによって、日米経済協議の主導権を握ろうとしていたと考えられる。しかし米国政府から逆提案をされ、ほぼ米国側の要求が通る形でパートナーシップが結ばれた。円卓会議構想はパートナーシップの枠組みのひとつである「官民会議」として結実した。
（参考：経済産業省「成長のための日米経済パートナーシップ構築までの主な動き」）。
規制改革イニシアティブ
◆イニシアティブの内容
「規制改革及び競争政策に関するイニシアティブ(Regulatory Reform and Competition Policy Initiative)」は、「成長のための日米経済パートナーシップ」の枠組みのひとつである。規制改革イニシアティブは、上級会合と５つの作業部会から構成される。作業部会は、電気通信、情報技術、エネルギー、医療機器・医薬品の４分野を扱う分野別作業部会と、各分野の横断的な問題を扱う分野横断的部会がある。各作業部会では、日米双方の要望書(年次改革要望書)を元に議論される。議論された内容は上級会合でレビューされ、「年次報告」が提出される。
規制改革イニシアティブはクリントン時代の「規制緩和及び競争政策に関する強化されたイニシアティブ（強化されたイニシアティブ、外務省の呼称で日米規制緩和対話）」を発展改組した分野別の協議である。強化されたイニシアティブには住宅分野の作業部会があったが、98年に建築基準法の改正がなされたため規制改革イニシアティブでは設置されなかった。
◆小泉構造改革
◆日本側の要望事項
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ゼロイングとは、米国の輸入品のダンピング調査に用いられる計算方法。輸入製品の価格が不当に安いと、国内製品が売れなくなってしまう。そのため、米国は輸出国の国内価格と輸出価格の差額分（ダンピングマージン）を課税して、輸出国の国内価格と同じ値段にしている（アンチダンピング課税）。逆に、輸出国の国内価格より輸出価格が高い場合は、差額はマイナスになるはずであるが、ゼロイングはその差額をゼロとみなすため、ダンピングマージンが不当に高く算出される。
日本は2005年にWTOに提訴、2007年にWTO協定違反が確定し、同年の要望書でその勧告の履行を取り上げた。しかし期日の2007年12月が到来しても米国は完全に履行しなかったため、日本は2008年に再びWTOに提訴した。WTO履行確認パネルは2009年4年に最終報告書を発表し「米国が是正勧告を履行しておらず、また、履行のために採られた措置はWTO非整合であり、WTO協定に違反している 」と認定した。ゼロイングは2012年2月に日米両政府間で合意し、ようやく廃止された。
�� バード修正条項
バード修正条項とは、米国政府が外国企業から徴収したAD課税・相殺関税収入を、AD措置を提訴した米国内生産者に分配するもの。2000年10月に発効したが、日本・EUなど9か国・地域がWTOルールに違反するとして2001年2月に協議を開始した。バード修正条項は2003年にWTO紛争解決機関(DSB)によってWTO協定違反が確定したが、米国は改正を行わなかった。2004年には日本を含む8か国に対抗措置の実施を認める仲裁決定が出され、EU、カナダ、メキシコ、日本が対抗措置を発動した。また、日本は2005年の要望書でもバード修正条項の撤廃を要望している。米国は同条項を2006年に廃止したが、2011年8月現在も関税収入の分配を続けている。
（参考：経済産業省「バード修正条項に対する対抗措置の延長について」）
「規制改革及び競争政策に関するイニシアティブ(Regulatory Reform and Competition Policy Initiative)」は、「成長のための日米経済パートナーシップ」の枠組みのひとつである。規制改革イニシアティブは、上級会合と５つの作業部会から構成される。作業部会は、電気通信、情報技術、エネルギー、医療機器・医薬品の４分野を扱う分野別作業部会と、各分野の横断的な問題を扱う分野横断的部会がある。各作業部会では、日米双方の要望書(年次改革要望書)を元に議論される。議論された内容は上級会合でレビューされ、「年次報告」が提出される。
規制改革イニシアティブはクリントン時代の「規制緩和及び競争政策に関する強化されたイニシアティブ（強化されたイニシアティブ、外務省の呼称で日米規制緩和対話）」を発展改組した分野別の協議である。強化されたイニシアティブには住宅分野の作業部会があったが、98年に建築基準法の改正がなされたため規制改革イニシアティブでは設置されなかった。
◆小泉構造改革
◆日本側の要望事項
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ゼロイングとは、米国の輸入品のダンピング調査に用いられる計算方法。輸入製品の価格が不当に安いと、国内製品が売れなくなってしまう。そのため、米国は輸出国の国内価格と輸出価格の差額分（ダンピングマージン）を課税して、輸出国の国内価格と同じ値段にしている（アンチダンピング課税）。逆に、輸出国の国内価格より輸出価格が高い場合は、差額はマイナスになるはずであるが、ゼロイングはその差額をゼロとみなすため、ダンピングマージンが不当に高く算出される。
日本は2005年にWTOに提訴、2007年にWTO協定違反が確定し、同年の要望書でその勧告の履行を取り上げた。しかし期日の2007年12月が到来しても米国は完全に履行しなかったため、日本は2008年に再びWTOに提訴した。WTO履行確認パネルは2009年4年に最終報告書を発表し「米国が是正勧告を履行しておらず、また、履行のために採られた措置はWTO非整合であり、WTO協定に違反している 」と認定した。ゼロイングは2012年2月に日米両政府間で合意し、ようやく廃止された。
�� バード修正条項
バード修正条項とは、米国政府が外国企業から徴収したAD課税・相殺関税収入を、AD措置を提訴した米国内生産者に分配するもの。2000年10月に発効したが、日本・EUなど9か国・地域がWTOルールに違反するとして2001年2月に協議を開始した。バード修正条項は2003年にWTO紛争解決機関(DSB)によってWTO協定違反が確定したが、米国は改正を行わなかった。2004年には日本を含む8か国に対抗措置の実施を認める仲裁決定が出され、EU、カナダ、メキシコ、日本が対抗措置を発動した。また、日本は2005年の要望書でもバード修正条項の撤廃を要望している。米国は同条項を2006年に廃止したが、2011年8月現在も関税収入の分配を続けている。
（参考：経済産業省「バード修正条項に対する対抗措置の延長について」）
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