1980年代の日米経済関係 
◆レーガノミクス
1979年にソ連がアフガニスタン内戦に介入し、米ソ関係が悪化した。1981年に就任したレーガン大統領はソ連を「悪の帝国」と非難し「戦略防衛構想(SDI)」を打ち出して軍拡を始めた。レーガン政権は拡大する軍事費を確保するため、減税、規制緩和、社会保障削減、高金利政策などの経済政策「レーガノミクス」を実施した。減税と軍事支出の拡大は大幅な財政赤字を生んだ。財政赤字による資金不足を高金利政策と国債の発行によって埋めようとしたため、ドル高となり米国企業の国際競争力が低下した。その結果輸出が縮小し貿易赤字が拡大した。レーガン政権のレーガノミクスは財政赤字と貿易赤字の「双子の赤字」を発生させる結果となった。
1985年には貿易赤字が1000億ドルを超え、アメリカはWWI以来初めて純債務国へ転落した。一方、80年代前半の円安ドル高を背景に日本企業は国際競争力を強め、日本は継続的な米国債購入から85年には世界最大の債権国となった。
◆日本異質論
1970年代を経て日本は石油危機を乗り切り、経済大国となった。79年にはヴォーゲルの『ジャパン・アズ・ナンバーワン』が出版され、日本式経営などの「日本モデル」が礼賛された。
しかし1980年代前半に日本のひとり勝ちが明らかになると、米国は日本への輸出を拡大させるため円安の是正を要求した。当時、米国の貿易赤字に占める日本の割合は40%前後を推移していた。また同年のゴルバチョフの登場により米ソ関係が改善したこともあり、議会が保護主義化し、主要な貿易相手国であるヨーロッパや日本に農産物や半導体の市場開放を要求していった。
1985年のプラザ合意の結果、円高が進み日本では円高不況となった。日銀は金融緩和を行ったが、投機先が不動産となりバブル景気となった。日本企業は円高を背景に米国企業や不動産の買収を進め、米国内では「日本脅威論」が起こり、ジャパンバッシングが高まっていった。
これまで個別品目ごとの対米輸出の自主規制や、円ドル為替調整によって日米間の貿易不均衡を是正してきたが、むしろ悪化する一方であった。その背景には、日本産業の国際競争力の強化と、米国産業の国際競争力の低下があった。米国内では、日本の経済成長の理由は対外的には閉鎖的システムを構築し、内では民主主義を伴わない近代化を達成したに過ぎないとし、日本モデルの普遍性を疑う「日本異質論」が台頭した。アメリカ政府は、貿易不均衡の原因は「排他的取引慣行」や「日本市場の閉鎖性」という日本側の経済構造にあるとし、市場開放や規制緩和に加えて構造改革を要求していった。
1979年にソ連がアフガニスタン内戦に介入し、米ソ関係が悪化した。1981年に就任したレーガン大統領はソ連を「悪の帝国」と非難し「戦略防衛構想(SDI)」を打ち出して軍拡を始めた。レーガン政権は拡大する軍事費を確保するため、減税、規制緩和、社会保障削減、高金利政策などの経済政策「レーガノミクス」を実施した。減税と軍事支出の拡大は大幅な財政赤字を生んだ。財政赤字による資金不足を高金利政策と国債の発行によって埋めようとしたため、ドル高となり米国企業の国際競争力が低下した。その結果輸出が縮小し貿易赤字が拡大した。レーガン政権のレーガノミクスは財政赤字と貿易赤字の「双子の赤字」を発生させる結果となった。
1985年には貿易赤字が1000億ドルを超え、アメリカはWWI以来初めて純債務国へ転落した。一方、80年代前半の円安ドル高を背景に日本企業は国際競争力を強め、日本は継続的な米国債購入から85年には世界最大の債権国となった。
◆日本異質論
1970年代を経て日本は石油危機を乗り切り、経済大国となった。79年にはヴォーゲルの『ジャパン・アズ・ナンバーワン』が出版され、日本式経営などの「日本モデル」が礼賛された。
しかし1980年代前半に日本のひとり勝ちが明らかになると、米国は日本への輸出を拡大させるため円安の是正を要求した。当時、米国の貿易赤字に占める日本の割合は40%前後を推移していた。また同年のゴルバチョフの登場により米ソ関係が改善したこともあり、議会が保護主義化し、主要な貿易相手国であるヨーロッパや日本に農産物や半導体の市場開放を要求していった。
1985年のプラザ合意の結果、円高が進み日本では円高不況となった。日銀は金融緩和を行ったが、投機先が不動産となりバブル景気となった。日本企業は円高を背景に米国企業や不動産の買収を進め、米国内では「日本脅威論」が起こり、ジャパンバッシングが高まっていった。
これまで個別品目ごとの対米輸出の自主規制や、円ドル為替調整によって日米間の貿易不均衡を是正してきたが、むしろ悪化する一方であった。その背景には、日本産業の国際競争力の強化と、米国産業の国際競争力の低下があった。米国内では、日本の経済成長の理由は対外的には閉鎖的システムを構築し、内では民主主義を伴わない近代化を達成したに過ぎないとし、日本モデルの普遍性を疑う「日本異質論」が台頭した。アメリカ政府は、貿易不均衡の原因は「排他的取引慣行」や「日本市場の閉鎖性」という日本側の経済構造にあるとし、市場開放や規制緩和に加えて構造改革を要求していった。
プラザ合意 1985
◆プラザ合意
1985年9月の主要先進5ヵ国蔵相・中央銀行総裁会議(G5)において、先進国間の貿易不均衡の是正に合意した（プラザ合意）。主に日本の円を標的にしたものであったが、その背景には米国の純債務国への転落によるドルの国際的信用の低下、米国の輸出不振があった。
プラザ合意によって円高ドル安となり、日本では輸出産業を中心に深刻な不況となり円高不況へ突入した。日米貿易摩擦による米国の圧力や円高を背景に対米直接投資が増加し、自動車や電子産業の工場を進出させた。これにより日本では産業の空洞化が問題となった。また、日本企業による米国の不動産・金融などの買収が進み、ロックフェラー・センターやCBSレコード、コロンビア映画などが日本企業に買収され、「日本脅威論」が高まり対日感情が悪化していった。
◆MOSS協議 1985~86
米国内では円安是正とともに日本市場の開放を要求する声が高まり、プラザ合意とほぼ同時期の1985年に中曽根首相とレーガン大統領の下で「市場重視型個別協議(Market Oriented Sector Selective talks :MOSS)」を開始した。MOSS協議では、電気通信、医薬品・医療機器、エレクトロニクス、林産物の４分野における日本市場アクセスに対する障害を除去することを目的とした。MOSS協議に基
き、日本は電気通信サービスの外資規制の撤廃、医薬品・医療機器の審査の迅速化、エレクトロニクス製品・木材・紙製品の関税引き下げなどを実施した
（参考：東京大学東洋文化研究所 田中明彦研究室 MOSS討議に関する日米最終報告）。
◆前川レポート
また、中曽根首相は貿易摩擦回避のために「国際協調のための経済構造調整研究会」を設置した。報告書（前川レポート）では、日本市場の開放と規制緩和、経済構造の是正を基本とし、具体策として�―斬霎鞍�と都市再開発、週休２日制の完全実施による内需拡大、��農産物の輸入、海外直接投資による産業構造の転換、�Ｎ�通・販売規制の見直しなどによる市場開放、�す餾欷鯲�の推進と世界経済への貢献が提案された
（参考：東京大学東洋文化研究所 田中明彦研究室 前川レポート）。
1985年9月の主要先進5ヵ国蔵相・中央銀行総裁会議(G5)において、先進国間の貿易不均衡の是正に合意した（プラザ合意）。主に日本の円を標的にしたものであったが、その背景には米国の純債務国への転落によるドルの国際的信用の低下、米国の輸出不振があった。
プラザ合意によって円高ドル安となり、日本では輸出産業を中心に深刻な不況となり円高不況へ突入した。日米貿易摩擦による米国の圧力や円高を背景に対米直接投資が増加し、自動車や電子産業の工場を進出させた。これにより日本では産業の空洞化が問題となった。また、日本企業による米国の不動産・金融などの買収が進み、ロックフェラー・センターやCBSレコード、コロンビア映画などが日本企業に買収され、「日本脅威論」が高まり対日感情が悪化していった。
◆MOSS協議 1985~86
米国内では円安是正とともに日本市場の開放を要求する声が高まり、プラザ合意とほぼ同時期の1985年に中曽根首相とレーガン大統領の下で「市場重視型個別協議(Market Oriented Sector Selective talks :MOSS)」を開始した。MOSS協議では、電気通信、医薬品・医療機器、エレクトロニクス、林産物の４分野における日本市場アクセスに対する障害を除去することを目的とした。MOSS協議に基
き、日本は電気通信サービスの外資規制の撤廃、医薬品・医療機器の審査の迅速化、エレクトロニクス製品・木材・紙製品の関税引き下げなどを実施した
（参考：東京大学東洋文化研究所 田中明彦研究室 MOSS討議に関する日米最終報告）。
◆前川レポート
また、中曽根首相は貿易摩擦回避のために「国際協調のための経済構造調整研究会」を設置した。報告書（前川レポート）では、日本市場の開放と規制緩和、経済構造の是正を基本とし、具体策として�―斬霎鞍�と都市再開発、週休２日制の完全実施による内需拡大、��農産物の輸入、海外直接投資による産業構造の転換、�Ｎ�通・販売規制の見直しなどによる市場開放、�す餾欷鯲�の推進と世界経済への貢献が提案された
（参考：東京大学東洋文化研究所 田中明彦研究室 前川レポート）。
貿易摩擦の激化 1987~89
◆半導体摩擦
半導体産業では、1960年代までは米国企業が中心であった。やがて特にDRAMを中心とするメモリ分野において日本企業のシェアが拡大する一方、米国企業の撤退が相次いだ。1984年に半導体産業がピークを迎えたが、その反動で1985年には不況に見舞われ、米国企業は経営不振に陥った。
1985年6月、米国半導体工業会(SIA)は、1974年通商法301条に基いて日本を提訴した。これを受けて米国通商代表部(USTR)が301条に基く調査を開始し、これ以降日米半導体協議を行うこととなった。米国半導体メーカーによる日本企業の提訴が相次ぐなか、協議では対日市場アクセス問題と価格問題を解決するべく議論が行われ、1986年7月末に日米間で半導体協定が締結された。協定により、日本は外国系半導体企業の日本市場への参入機会の拡大、日本企業による半導体ダンピングの防止という義務を負った。しかし1987年4月には、協定が遵守されていないとしてレーガン政権は対日経済制裁を発動した。日本製半導体の価格が依然低く、対日市場アクセスに改善が見られないなどとして米国上下両院が対日非難決議を背景としたもので、日本性電子工業製品に対して100%の報復関税を課すものであった。米国による対日経済制裁はこれが初めてとなり、日本は動揺した。中曽根首相は訪米し、5兆円規模の内需拡大を約束するなどして対日制裁の緩和に努めた。
◆スーパー301条
米国では、貿易相手国の市場保護政策への対応について、反ダンピングなどGATTで認められている対抗措置だけでは不十分とし「1974年通商法」が制定されていた。米国産業界や議会の要請に基き、アメリカ合衆国通商代表部(USTR)が独自の判断で市場開放交渉を行い、それが不調である場合は相手国からの輸入品に報復関税をかけるなどの制裁措置をとることができるとされた。通商法301条には不公正貿易慣行国に対する制裁措置が規定され、一方的な制裁をとることができた。
1980年代後半、米国内では議会を中心に保護主義が台頭し、レーガン政権は日本やECに国内市場拡大と貿易障壁の撤廃を強く要求した。1988年8月には「包括通商・競争力強化法」を成立させた。包括通商法では、大統領の承認がなくともUSTRの裁量によって制裁を発動する「スーパー301条」が挿入された。スーパー301条は、発表される「外国貿易障壁報告書(NTEレポート)」の中の不公正慣行や輸入障壁のある「優先交渉国」について通商法301条が自動的に発動され、USTRが1年〜1年半の交渉を行い、それでも改善されない場合は3年以内に制裁を行うとされた。レーガン政権は強化された「スーパー301条」によってさらなる市場開放を要求していった。
米国内では「日本市場の閉鎖性」が指摘されたが、実際は日本の国際競争力が伸びた一方、米国の国内産業の競争力の低下が原因であった。日本の対米輸出入は、アメリカから原料や食糧を輸入し、アメリカへ機械や重化学の工業製品を輸出するというものであった。1980年代に日本の貿易黒字が大幅に拡大し、その大部分を対米黒字が占めており、アメリカにとっても貿易赤字の30%が対日赤字であったため、非難の対象とされたのであった。
◆FSX問題
1987年10月、防衛庁は次期支援戦闘機(FSX)として、F16戦闘機を日米共同で改良することを決定した。88年11月、日米両政府はFSX開発に伴う新技術の所有権は防衛庁に属し、米国にはその使用権が認められる取り決めを行った。しかし89年に誕生したブッシュ政権は、FSX開発で日本側に提供される技術情報を再調査する決定を行い、米議会で「共同開発の結果、米国産業が打撃を避けることを求める法案」が提出された。結局、日本の独自技術を米国に提供するという大幅な日本側の譲歩で決着した。
（参考：川上高司『米国の対日政策 覇権システムと日米関係』同文舘出版、2001年、173~174頁）
半導体産業では、1960年代までは米国企業が中心であった。やがて特にDRAMを中心とするメモリ分野において日本企業のシェアが拡大する一方、米国企業の撤退が相次いだ。1984年に半導体産業がピークを迎えたが、その反動で1985年には不況に見舞われ、米国企業は経営不振に陥った。
1985年6月、米国半導体工業会(SIA)は、1974年通商法301条に基いて日本を提訴した。これを受けて米国通商代表部(USTR)が301条に基く調査を開始し、これ以降日米半導体協議を行うこととなった。米国半導体メーカーによる日本企業の提訴が相次ぐなか、協議では対日市場アクセス問題と価格問題を解決するべく議論が行われ、1986年7月末に日米間で半導体協定が締結された。協定により、日本は外国系半導体企業の日本市場への参入機会の拡大、日本企業による半導体ダンピングの防止という義務を負った。しかし1987年4月には、協定が遵守されていないとしてレーガン政権は対日経済制裁を発動した。日本製半導体の価格が依然低く、対日市場アクセスに改善が見られないなどとして米国上下両院が対日非難決議を背景としたもので、日本性電子工業製品に対して100%の報復関税を課すものであった。米国による対日経済制裁はこれが初めてとなり、日本は動揺した。中曽根首相は訪米し、5兆円規模の内需拡大を約束するなどして対日制裁の緩和に努めた。
◆スーパー301条
米国では、貿易相手国の市場保護政策への対応について、反ダンピングなどGATTで認められている対抗措置だけでは不十分とし「1974年通商法」が制定されていた。米国産業界や議会の要請に基き、アメリカ合衆国通商代表部(USTR)が独自の判断で市場開放交渉を行い、それが不調である場合は相手国からの輸入品に報復関税をかけるなどの制裁措置をとることができるとされた。通商法301条には不公正貿易慣行国に対する制裁措置が規定され、一方的な制裁をとることができた。
1980年代後半、米国内では議会を中心に保護主義が台頭し、レーガン政権は日本やECに国内市場拡大と貿易障壁の撤廃を強く要求した。1988年8月には「包括通商・競争力強化法」を成立させた。包括通商法では、大統領の承認がなくともUSTRの裁量によって制裁を発動する「スーパー301条」が挿入された。スーパー301条は、発表される「外国貿易障壁報告書(NTEレポート)」の中の不公正慣行や輸入障壁のある「優先交渉国」について通商法301条が自動的に発動され、USTRが1年〜1年半の交渉を行い、それでも改善されない場合は3年以内に制裁を行うとされた。レーガン政権は強化された「スーパー301条」によってさらなる市場開放を要求していった。
米国内では「日本市場の閉鎖性」が指摘されたが、実際は日本の国際競争力が伸びた一方、米国の国内産業の競争力の低下が原因であった。日本の対米輸出入は、アメリカから原料や食糧を輸入し、アメリカへ機械や重化学の工業製品を輸出するというものであった。1980年代に日本の貿易黒字が大幅に拡大し、その大部分を対米黒字が占めており、アメリカにとっても貿易赤字の30%が対日赤字であったため、非難の対象とされたのであった。
◆FSX問題
1987年10月、防衛庁は次期支援戦闘機(FSX)として、F16戦闘機を日米共同で改良することを決定した。88年11月、日米両政府はFSX開発に伴う新技術の所有権は防衛庁に属し、米国にはその使用権が認められる取り決めを行った。しかし89年に誕生したブッシュ政権は、FSX開発で日本側に提供される技術情報を再調査する決定を行い、米議会で「共同開発の結果、米国産業が打撃を避けることを求める法案」が提出された。結局、日本の独自技術を米国に提供するという大幅な日本側の譲歩で決着した。
（参考：川上高司『米国の対日政策 覇権システムと日米関係』同文舘出版、2001年、173~174頁）
日米構造協議 1989~90
89年から90年前半にかけての日米関係は、幾つかの試練に直面した。
第1に、大幅な貿易不均衡の継続を背景に、米議会を中心に、より強硬な対日政策を求める圧力が強まり、包括貿易法「スーパー301条」関連品目(衛星、スーパーコンピューター、林産物)の解決と、構造問題協議の取り扱いが、大きな政治的問題となった。
第2に、米ソ関係の変化に伴い米国における対ソ脅威認識が急速に低下する一方で、対米直接投資の増大やハイテク分野での競争を背景に、わが国の経済・技術力に対する脅威感が米国民の間に高まる傾向が見られた。
第3に、日本は、経済、社会、人間関係のあり方すべてについて、基本的に異質の国であり、日本に対しては異なったルールを適用するしかないといった米国における「対日政策見直し論」が注目を集め、日米両国のお互いに対する理解と認識のあり方を改めて問い直すこととなった。 −外交青書(平成2年度版)
第1に、大幅な貿易不均衡の継続を背景に、米議会を中心に、より強硬な対日政策を求める圧力が強まり、包括貿易法「スーパー301条」関連品目(衛星、スーパーコンピューター、林産物)の解決と、構造問題協議の取り扱いが、大きな政治的問題となった。
第2に、米ソ関係の変化に伴い米国における対ソ脅威認識が急速に低下する一方で、対米直接投資の増大やハイテク分野での競争を背景に、わが国の経済・技術力に対する脅威感が米国民の間に高まる傾向が見られた。
第3に、日本は、経済、社会、人間関係のあり方すべてについて、基本的に異質の国であり、日本に対しては異なったルールを適用するしかないといった米国における「対日政策見直し論」が注目を集め、日米両国のお互いに対する理解と認識のあり方を改めて問い直すこととなった。 −外交青書(平成2年度版)
◆日米構造協議
1989年5月26日、ブッシュ大統領は1988年包括通商法301条に基づき日本を「不公正貿易国」に指定すると同時に、日米構造協議(SII :Structural Impediments Initiative)を発表した。ウルグアイラウンド交渉、スーパー301条交渉とは別の枠組みで議論し、日米間の経常収支の不均衡を是正することが目的であった。日米構造協議は、双方向の対話のもと不均衡の是正を阻害する両国の構造問題を解決するとされ、宇野首相は協議の設置に応じた。しかし、米国の対日輸出が伸びない原因は専ら「日本市場の閉鎖性」にあるとされていたことから、協議では米国企業が日本市場の参入しようとする時に障害となる日本経済の構造を変革することが主とされた。
日米構造協議は1989年9月から5回の会合が行われ、1990年6月28日に最終報告が発表された。海部首相は、国民生活の質の向上、消費者利益の増進、世界経済との調和に貢献するとして、協議に基いてインフレなき内需主導型の成長、公共投資の拡大（関西国際空港や東京臨海部の開発）、規制緩和（大規模小売店舗規制の緩和など）、輸入手続きの迅速化、独占禁止法の運用強化、談合の禁止などを実施していった。海部首相は「公共投資基本計画」を策定し、91~00年の10年間で430兆円の公共投資を決定したが、米国の狙いは産業分野への投資を縮小させ日本の国際競争力を低下させることや、日本の大規模公共事業へ米企業を参入させることであったという見方もある。
(参考：東京大学東洋文化研究所 田中明彦研究室 日米構造問題協議最終報告)
なお、SIIにおいては、当初より米国においては財政赤字の削減、労働力の教育・訓練等を通じた競争力強化が、また日本においては系列・排他的取引慣行や政府規制の分野で日本市場の透明性や公正性、競争環境の整備を一層進めていくことが重要な課題となってきたが、日本側が措置の進展において具体的な成果を挙げているのに比べ、米国側では92年度の財政赤字が史上最高を記録するなど、必ずしも措置が実施されていないのではないかという指摘もなされている。かかる観点から今後一層の米国の努力が望まれている。
−外交青書(平成4年度版)
−外交青書(平成4年度版)
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