ちゃんと洗おうね

「ちゃんと洗おうね」

ぬるいお湯に手をひたし
灰汁にしぼんだ表情と
心臓がきゅっとちぢむ想いを
タイルの隙間に感じている。
小さな哀しみがすらりとした
長身の湯気にのまれていくのだ。
ごしごし垢をこする音が聞こえる。
私の皮膚をつたうこの石鹸の泡たちの願いが
やかましく濡れた浴室に響く。
うるさい。
ざばっとお湯を浴びると
誰にも知られなかった傷あとが
うずずとうめいて私を見上げた。
「チャント キレイニシテホシイ」
ちゃぽんと浴槽につかってしまえば
そんな声達も聞こえなくなるような気がして。
ひたひたと冷たい外の廊下を
なみだがうごめく。
湯おもてにうつった私の顔を
そっと漂うお父さんのちぢれ毛だけが、
この地上であたたかだった。


スレNO.26
レスNO.517
投稿者: 名前はいらない
ID:jQjeGcdq



この作品への批評

577 :清掃局の者 ◆6P3vWUZtcI :2005/05/18(水) 01:13:22 ID:qIfTlar/
みなさんおばんですよ。
今日は一つだけ。

>517
B-
 まずは悪口から。
オノマトペに頼りすぎた部分があるのでは?
13行目「うずず」15行目「ちゃぽん」とか、コミカルな柔らかさを出したかったんだろうけど、
他の部分の詩的な奥行きと衝突してる。ニヤリとするのは最後の「お父さんのちぢれ毛」だけで十分だな。
んで最終行は、筆が滑った感じがする。作品前半にあった、視覚と感情の混ぜ合わせが無いよ。
 んでんで、そこ以外はとても素敵でした。シャワーばっかで長らく湯船に浸かってない俺にも、
充満する湯気の向こうのあれこれが肌に感じられたよ。
どこの描写も素晴らしくて取り上げ切れないんで、特に作品の深みを出してると思う部分だけ挙げてみる。
「うるさい」・・・切れ目が無くてぶよぶよしがちな作品を上手に締め上げている。
「チャント キレイニシテホシイ」・・・体と心にある傷を想像させてくれる言葉。
「ひたひたと冷たい外の廊下を/なみだがうごめく。 」・・・これも読者に想像させる文章だね。涙って、自分と切り離して描写したほうが心に響くのは何故だろう?
最近どこかで読んだ詩に
 歎息が起き上がって 微笑のヴィオラを弾きはじめた
 泪が黙ってその音を聴いてゐた
って一節があったんだけど、517の詩を読んで思い出したよ。

んじゃノシ
2005年10月10日(月) 15:47:40 Modified by hon_gwhnf6




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