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世の中ってのは、なかなか自分の思うようにはいかないものだ。
どんなにこっちが想ったって届かない恋心。
相手は自分を見てなんかいなくて、違う奴を見ている。
何とか気を惹きたくて行動してみたら、全てが裏目に出てしまう。
そして悪い方にばかり転がっていき、気付いた時にはジリ貧、そんな経験はあるかい?
ちなみに俺は、まさに今、そんな状況に陥っている。
俺はどうしたらいいんだ?
誰か教えてくれよ…。

[キミの瞳に恋してる(1)] ◆KARsW3gC4M

仲がそれなりによかった娘がいるんだ、その娘が自分の友達にモーションを掛けている様を見て、何故か腹ただしかった。
その時は気付か無かったんだけど、俺……その娘が好きなんだわ。
でも気付いたのなんて、ほんの数週間前……、それはその娘と険悪な雰囲気になって間もない頃だ。
喧嘩…寸前まで、言い争いしちまったのよ。
自覚するのが遅かったのが災いした、今では目が合おうものなら、射殺さんばかりに睨まれるくらいに関係が悪化してしまっている。
これは嫌われちゃったかもしれんね。は…、そいつの名前?
え、言わないといけない? い、いや別に隠す訳じゃ…………その、絶対、絶対に笑うなよ?

俺は……あぅ、きっ……きき、木原…木原麻耶が……す、す好きなんだよ。
ああ、そうだよ!木原だよ! き・は・らっ!
目の前で北村にあからさまに好意を示しているアイツが好きなんだよ!! ……うぅ、良いんだぜ、笑っても。
北村とタイガーをくっつけようと画策して、最後には怒らせちまった。
修学旅行の時に、木原が北村大先生に
『まるおー! 一緒にリフト乗ろーっ?』
って言ったんだわ。んで俺が
『木原はまたなんか企んでんのかよ』
と言って、ハッと鼻で笑ったら
『能登には関係ない』
と言い返され……こっちも言い返して、ヒートアップした…と。
その後の事をかいつまんで言うなら
『おめー私の事にしゃしゃってんじゃねぇ! 邪魔すんな、うざいんだよ!』
何でか言い返せなかった…。
そりゃあ誰だって恋路を邪魔されたら………今さらだけど。
結局、俺は言い負かされた。悔しかったよ。
『次に何かしたらマジ許さねぇ!! もしちゃちゃ入れてきたら………その時は解ってんなぁ!?』
最後にそう言われて…、俺に出来る事なんて俯いて唇を噛み締める事くらいだった。
ストックで雪を弾いてぶつけられ、茫然自失した。

今なら解る、俺がしてた事は、小学生が好きな女子にちょっかいを出している、まさにソレだと。
言い返せなかったのは、俺も必死、木原も必死、好きな異性に振り向いて欲しい、自分にも当てはまる事だと心の底では解っていたからだ。
ともかく早い話が自滅した…。
その日の晩から、彼女に謝ろうと試みた。
何でそうしたいのか、自分でも不思議だった。けど、しなければいけない、そう思った。
『高須の為』と大義明文を得て女子の部屋に乱入し、どさくさに紛れて、さり気なく謝ろう。そんな事を考えて…。
だけど失敗に終わった、その経緯は話したくない、ただ『昼ドラばりの修羅場』を目撃したり『恐ろしい事』が身に降り掛かったとだけ言っておくよ。女子って…怖い。
そして同時に木原への好意を自覚する事にも繋がった。
正直、話したくないけどさ…。事情を知る人以外には言えないような事をしてしまったわけ。
『色々な事』があって春田のアホに誘われるまま…俺、興奮して木原の『持ち物』に顔を埋めて、こう…グリグリって………ああああ。
抗ってもみた、でも無理で、情けないやら、恥かしいやら、楽しいやら……色んな感情に呑まれて、ね。うん…。

間違なく黒歴史だ、この事は誰にも喋れません。墓場まで持って逝こう。
その場に居た全員、同じ想いだったろうさ。
ま、本題に戻るけど、ともかく俺はその時に気付いたわけ。
春田が『ソレ』を見付けた時、俺は血が沸き上がるような興奮を覚えた。
『ソレ』を顔に埋めている時は天にも昇る恍惚感? ってのを感じた。
その時だ、あれ?って思ったのよ、俺なんで木原の『コレ』で悦んでんの ?って。
『北村とベタベタしたいからって変な工作していてムカつく、スタンドプレーしやがって、いやらしい…萎えるわ』
そう思ってたんじゃねぇのかよ?
その疑問の答はすぐに見付かった。
もしかして、俺は木原の事が好きなんじゃないか、いや………好きなんだ…と気付いた。
襖一枚を隔てた場所で繰り広げられていた修羅場が収束に向かう頃、俺はそれを受け入れた………。
そのキッカケになったのは、亜美ちゃんが櫛枝に対して言う言葉の中にヒントがあったからだ。
別にコレだってのじゃなくて、言葉の端々から感じた高須への愛情、それが心を揺さぶった。
いや高須だけじゃない、それは誰にでも当てはまる事で…。まあ実際は高須にしか向けられていないんだけどね。

どっちだよ? と言われたら俺も返答に困るわ、考えるな、感じろ。直感だ、フィーリングだ。
で、まあ…横槍を入れて邪魔するのは止めて、俺も素直に認めて…木原を振り向かせたくなった。
だってそうだろ?
あの出来事の後、みんなで高須を小一時間詳しく問詰めたら……誰だって。
半端なく愛されて、愛して、こいつら濃い青春してんな、……羨ましい。とか想っちゃうのは当然。
だが俺には高須とは決定的に違う縛りが存在する、溝を通り越して海溝が横たわっている。
木原との間に生じた亀裂がある…、それを上手に埋めて、最低でも文化祭の頃までの関係に修復してからじゃないと話にならない。
中学の時の友人が言っていた。
『縛りプレイは燃える』
あ、エロい意味じゃないよ? ゲームなんかで自分に制約をつけて難易度を上げるって事らしい。
俺は知らず知らずの内に、望んでいない『縛りプレイ』をし始めていたって事。
勘違いされたら嫌だから言うけど、ゲーム感覚で…って意味じゃないよ。例え話だよ、解りやすく言ったんよ。
俺はマジのマジ、大真面目なんだ。
まずは仲直り…てか、せめて会話が出来るようにしたい。
この前、勇気を振り絞って近付いたら、前述の射殺さんばかりの視線を送られて、すぐさま名誉の転身を行なった。
あくまで『撤退』じゃない『転身』な? ちょっと戦中の軍令部の心境を理解した。
木原の猫を彷彿させる瞳が細められ、殺意を発しながら睨まれたら、挫けそうになる。
まあ…冗談はさておき、つまりは前進出来ていない訳で、また、協力してくれそうな人もいない。
けど諦めたくないんだよ、だから精一杯の努力をしよう。
もし許してくれるなら、俺は木原の思うままの罰を受ける覚悟すらある。
卒業するまで、この関係なのは死にたくなる。自分の巻いた種だが。
はあ……憂鬱。
そんな事を三月の空の下、校舎外…非常階段の昇降口で六限目の授業をサボって考えていた。
..
.

壁にもたれ頬杖を付いて澄んだ青空を眺めながら、焦燥し自身のバカさ加減を呪っているのが現状だ。
昔の漫画よろしく、セブンスターでも煙らせて想いに耽ってたら、こんな俺でもちっとは絵になるかねぇ? 煙草なんか吸えねぇけど。
手にしたコーヒー缶を傾け、一気に飲み干す。
俺なんて甘ったるいコーヒーでも飲んでる方が御似合いさ、実際、今もこうして飲んでる。

成績優秀、スポーツ万能、性格良し、おしゃれすれば光る素材な北村……木原は気付いた訳だ、かなり高レベルな男だって。有能な雄だと。
対して俺は…成績並の上、運動は苦手でも得意でもなく、性格は人に言わせて『優しい』らしく、ファッションは試行錯誤しても決め手が無いし拘りもさほど無い。
つまりは『凡人』なのだ。特筆する部分が無い。
やんちゃにキメたくてB系に振ればワルさが感じられないと言われ、流行にノってお兄系を試せばミスマッチと言われ、拘ろうと裏原にすれば田舎者の背伸びと笑われる。
セレクトショップで店員に言われるままに無難な服を買わされるタイプさ。けっ!
せめて眼鏡だけでもセンス良くと思って、赤フレームにしたら春田に爆笑された。
AVの女教師が掛けてそうだから『エロメガネ』だとよ。
恋敵と自身を比べる内に自虐している気分になり鬱になる。
そして木原はお世辞無しに可愛く、ファッションもセンス良く拘りもある。
ティーンブランドをポイントで着こなし、嫌味たらしくない。
化粧は派手では無く、キュートに、さり気なく。締めに爽やか香水の香りで彩る。
そんな小悪魔的な可愛さを連想させるのが木原なのだ。

性格が自分勝手なのが玉に傷だが…それを差し引きしても失点にならない。
比べて、俺の唯一の売りは『どうでもいい無駄な雑学』を広く浅く知ってるくらい、地味っしょ? …ははっ。
ふぅ…こうやって羅列すると、俺は見向きされる可能性が無い、自信が無くなりかける、どうしたものかねぇ。
脳内会議は紛糾し始め、決議すらまとまらない。
と、ここで六限の終了を告げるチャイムが鳴り、静かだった校内がザワザワと騒がしくなる。
掃除する奴、帰宅する奴、部活の準備をする奴、友達と話す奴、そいつらのざわめきが耳に届く。
俺も帰るかなぁ、でも家に帰ってもする事が無い。しいて言うならネットくらいか。
高須は亜美ちゃんと帰るだろうし、春田ですら美大生の彼女が居るらしく、今日はデートだとか…。
北村は部活と生徒会活動、つまりは一緒に遊ぶ暇も無い奴等ばかり。みんな青春を謳歌してる、なのに俺ときたら…。
何か更にヘコんだ……もう少しここに居よう。
「はあ……」
長い溜息を吐いて、壁を背にして腰を降ろす。
空を見上げ、ボーッと流れる雲を眺め、誰かからメールでも送って来ないかな〜とか思いつつだらける。

近頃は勉強も手が付かず、何をしても半端。気付いたら木原を見ている日々……。
こんな風にサボったのは初めてだけど、気分転換にすらならなかった。
その時だ、女子特有の高い声が響いたのは。
「ま、まるおっっっ!!!」
気を抜いていた俺は、突然の呼び声にビクッと肩を震わせて驚く。
もちろん俺が呼ばれた訳じゃない、しかし、その呼び名の主が誰か知っているし、凜と響く高い声も聞き覚えがある。
『まるお』なんて呼ばれる奴は俺の知る限り二人だけ、そんな呼び方をする奴は一人しかいない。
前者は友人の北村と国民的アニメの登場人物、後者は…………木原麻耶だ。
ここ…校舎の中二階に位置する非常階段の昇降口から見て、校舎一階の外、その角に木原の後ろ姿が見えた。
その距離、約6メートル、ここからは北村の姿は見えない。
「わ、私っ!! まるおっ…北村くんの事が…す、す…好きっ!! ずっと見てた!
良かったら……付き合ってください!!」
そう木原が北村に告げる声が…俺にも聞こえ、耳や頬を真っ赤に染め、身体を震わせる様を見てしまう。
うわ……………俺、なんつうモンを見ちまったんだ………あ、あぅあああ!!!

俺にとっては、針の筵に座らされているようなモノ、展開によっては死刑宣告同然だ。
何より、人の告白シーンを覗きたくなんてない、でも見てしまう。
むしろ聞きたくない、だって木原が北村に…っ!でも聞耳を立ててしまう。
惨めだった…。
今からコッソリ逃げる事は不可能。
目の前の階段は見付かってしまうし、二階に続く階段は柵がしてあり、通用扉はボロくて開けば鉄の軋む音がする。
つまり退路は無い…。間が悪過ぎる、初っ端から詰んでる。
俺は後悔していた、こんな事になるなら速攻で帰っていれば良かった、と。
何が悲しくて、自分が好意を抱いた女子の…それも仲の良い友人に対しての告白を聞かねばならんの?
俺は想いを告げる機会も無く、手痛い失恋を迎えようとしている。
ははは…参ったぜ、俺……泣いてもいいですか?
「すまんっ!! 俺は木原の告白を受けれない!!」
真っ白に燃え尽きていく途中、聞こえたのは北村のそんな言葉。
「木原は魅力的な女子だと思う、だけど…学友以上には見れない。
俺は諦めきれない好きな人がいるんだ。
その人に認められたいから、目標があるからブレたくない、だから済まない…想いには応えれない」

北村がそう言ったのが聞こえ、暫くすると木原が喋り始める。
「あ、あはは! じょ、冗談だ、よ! 解ってる…うん! まるおはっ…兄貴が好きなんだよね?
ちょっとからかっただけ! それなのにマジにしちゃってウケ……るよ……」
無理した声で、支離滅裂な事を言って…、そう、思い付いた事を口走っているように聞こえた…。そして最後の方は抑揚の無い声で………、痛々しい。
「うわ…何やってんだよ」
俺は聞こえないように小さな声で呟き、天を仰いで右手で目元を隠す。
俺にとっては僥倖とも言える瞬間なのに、晴れない……胸がチクチクする…痛ぇ。
北村の答に素直な反応をせずに、無理に振る舞う木原の姿に…『無かった事』にしようとしている彼女が不憫でならない。
付き合えないならせめて『無かった事』に…。今までの関係は壊したくない…って事か。
ショックが大きかったんだろうな、咄嗟に出た言葉にも表われている。
「む…俺はからかわれたのか」
北村……お前だって本当は解ってんだろ? なのに……騙されたフリなんかして、それは『余計な優しさ』なんだよ…。

「ご、ごめん! ほ、ほら来月の一日って……エイプリルフールじゃん? その…その予行演習ってか、う…、練習、練習だって!
あれよ、あ、う…ネタバレして練習しても意味無いですしぃ! 無理矢理付き合わせて……本当にごめん!」
謝りながら…捲し立てて、裏返った声は悲痛で…。
好意の問は『ブレたくない』と残酷に返され、認めたくなくて、普段通りに振る舞おうとして醜態を晒していく。
そんな木原は…『小さく』見えた。俺に猛った時とは正反対に小さく、小さく……子猫みたいで…。
見てらんねぇ…、耳を塞げば聞かなくて済む。でも…出来なかった。
「そうだったな、確かにエイプリルフール、てっきり俺は本当に告白されたかと思ったぞ」
合わせるなよ…そこで、何で合わせてやるんだよ。
「まあ…、クラスの仲間の役にたてたなら、学級委員長冥利に尽きるな。
それに俺は"失恋大明神"だから…」
そしてトドメの一言まで言ってしまう…、思わず言っちまったんだろうな。
完璧超人なんていない、弾みで出る言葉もあるだろう。
オブラートに包んで言ったつもりだろうが、それは明確な答になっている。

「だねぇ! は、はははっ! あ、ありが、とう!っ!そ、そうだ、部活…、ぅ、行かないで良いの…かなぁって?」
もう木原も限界だ、言葉の端々に鼻声が混りだしている…。
「そうだな…、よし…、じゃあ俺は行くから…木原も早く帰れよ?」
北村も居辛いんだろうな、砂を踏み締める音が聞こえ、徐々に遠くなっていく。
そして、それが聞こえなくなって、次に聞こえ始めたのは啜り泣く声…。
「っ…ぅ! ひっ、ぐすっ! うっ! うっ! ひっ…ん!」
誰も悪くなんて無い、北村は北村なりに考える事があって、アイツなりの『優しさ』で木原に答えた。
北村はまだ兄貴の事が忘れれなくて、必死にもがいて成就させようとしている。
それを誰が否定し、咎められるんだよ。
「っう! うあ…っ! っず! ふ…!!」
俺は木原が両手で顔を覆って咽び泣く姿から目を逸す、泣いて泣いて…泣かせてやるしか俺には出来ないんだ。
せめて一人で泣かせてやろう、傍観者なんて必要無い…。
今なら…そうだな。目の前の階段を静かに下って、忍び足で校舎を周れば気付かれないだろう。
下駄箱から教室に行って、荷物を取って帰ればいい。…ちくしょう。

俺は立ち上がって密かに去ろうとした、だが、忘れていた…足元に置いていたコーヒー缶の存在を。
カンッ!
一歩踏み出した爪先が空き缶を蹴り、倒れて乾いた金属音を発てる。
『やばっ!!!』
転がっていく缶は、そのまま階段の段を一段づつ落ちていく……甲高い音を残しながら…。
転がるソレを目で追い掛け、伸ばした視線の先には………もちろん木原が居る訳で。
ビクッと身体を跳ねさせた後、顔を覆っていた両手を離し、ゆっくり音のした方向に振り向いた木原が呟く。
「っすん! の…と?」
そこには涙で顔をグシャグシャにし、呆けた表情をした彼女がいた。
「あ…そ、その……うっ」
俺は焦って舌がもつれ上手く喋れない。うろたえて視線を泳がせる。
「っ…んで、ひっく! なんで? っうぅ!! アンタが…ぐすっ! ……ここに居るのよ!?」
キッ!と猫目を吊り上げ俺を威嚇する木原、顔は真っ赤…、一番弱味を握られたくない奴に見付かって…虚勢をはっている。
「ち、ちが! ワザとじゃ!! たまたま…!!」
俺は突出した両手を左右にブンブン振って、説明しようとする。

「ふっぅ!! たまたま…? うそ…嘘! っひ! 授業に…居なかった…! 待ち伏せ…っしてたんだろ?
わ、わら、笑いにっ…来たんでしょ? 私を尾行て…すんっ! 笑い者にしよっ…うとしてんだっ!?」
『待ち伏せ』なのか『尾行』なのかハッキリしろよ、なんてツッこむ余裕すら生まれない。俺はただ事情を説明するのに必死。
「ちが! 違う! 違うって!! 俺はここでサボってて……帰ろうとしたら……木原達が来て、出るに出れなかったんだよっ!!」
「嘘だ! 嘘っ! 嘘つきっ!! 有り得ねぇんだよっ!! ぐすっ…ん!! み、みんなに言い触らすんでっ…しょ?
うっ! うぅ…っ! 私がっ…玉砕し、たって…言い回るつも、り……ひっ! ひっ! うわぁああぁっっっっ!!!!」
聞く耳を持たない木原は、咽づきながらそう俺に言い放って、ワンワン大泣きする。
化粧は崩れ、流れ、黒いマスカラが涙と共に流れる。
両手を目元にあて、泣き続ける木原の扱いに困ってオロオロする俺がいた。
「しねぇ! そんなことしないよ!! なっ? 本当だっ、マジだっ! だから泣くなって!」俺はどんな悪人だよ? 木原の中では、さぞ底意地悪い奴なんだろうよ。

『ヴゾだあぁあああ!!!!』
と、叫んで更に激しく泣きだした木原に動揺してしまい、俺は咄嗟にこう言ってしまった。
「わ、分かった! よ、よし!俺が木原と北村の仲を取り持ってやる!! う、嘘じゃない! 前に横槍を入れちまった事を反省してるっ!!
ずっと謝りたかった!! だから罪滅ぼしっ! そうお詫びに相談も聞くし、手助けするよ!! だから泣きやんでくれよう!!」
うおっ!? な、何を俺は言ってんだ!!
誰が得すんだよ!? 墓穴っ! 何で自分を追い込んでんだよっ!?
「っすん!……本当?ぐすん…」
それを聞いて木原は泣く勢いを弱め、俺に聞き返す。
「うん! うん! 本当だって! 俺は嘘は言わないよ? なんなら誓ってもいい、嘘ついたら木原が望むままに罰してもいいっ!!!」
あああ!!? 止まれ!! 止まれよ!? 何を勝手な事を! 俺のっ、俺の口が勝手に!
「すんっ! うっ! わ、わかった…っひう……お願い…私を助けて…っよう…!!」
ああ……やっちまった。サヨナラ、俺の初恋…うぅ。今さら引けない……燃え尽きた、真っ白に燃え尽きたよ………。

「あ、のさ…実は私も、ずっと謝りたかった。ムカついてたけど、キツい事を能登に言っちゃったし…ごめん」
泣きやんで落ち着いた木原が、そうポツリポツリ呟き、俺に謝ったのは……先程の件から約三十分後。
「イインダヨ…俺モ悪カッタシ…、ゴメン」
ショックから立ち直れない俺が抑揚の無い声で返し、カクカクと首を縦に振る。
階段に一緒に腰掛け、ポーッとした木原と真っ白な灰になった俺が一言、二言…短い会話をしていた。
良かったね、俺。仲直り出来たじゃん。良かった良かった…わ〜い。
何か大切な事を犠牲にして何かを得た。肉を斬らせて骨を断つ。木原の『持ち物』を辱めたバチがあたったんだね。
「まるおは…私の事、嫌いだったのか、なぁ? ぐすっ…ん! こ、こくっ! 告っ…たら……即答だよ?
ふぇ…すぐにフラれちゃった、よ…」
と、木原が言い…治まった涙腺が再び決壊する兆候が見え始める。
目元で涙がウルウル、ひっくひっく!と噎び、顔が徐々に赤くなっていく…。
これはヤバい…、さっきだって落ち着かせるのに苦労したんだ、また泣かれたら困る、何より見たくないじゃん?
好意を寄せた娘の泣き顔なんて…。

ちなみに木原は一度泣き出すと止まらない、泣き叫び、自分の口走った事で傷付いて自爆し、更に激しく泣く。
最後には収拾がつかなくなる。
「いやいやいやいや!! 違うって! あれだ、木原の気持ちの伝え方が曖昧ってか、足らないっていうか!
急過ぎてビックリしただけだって、多分」
ああ、もうどうにでもなれ、ヤケクソだ!
ここで気の利いた一言ども掛けてやれたらベストなのだろう、が、俺は悲しくも童貞…、告白した事もされた事も無い。
慌てていた事も重なって、口をついて出たのは、追討ちをかける言葉…。
「だっ、だってぇ! 亜美ちゃんが言ってたんだもん! っすん!
"素直にならないと相手は見てくれなくなる、後悔した時には遅い"
ってぇ…!」
ああ……そういうこと?
それは亜美ちゃんと櫛枝の件で誰しもが思った事だ。少なくともあの場に居た奴なら全員。
つまりは実体験から何気なしに言ったんだ、そうしたら木原が暴走した…と。
タイガーが高須とベッタリしなくなって、北村と仲が進展したとか勘違いして焦ったんだろうな。
そして何を言うかも考えないまま即実行…。
多分、菜々子様辺りがからかったんだろう。結構黒そうだし…。

「あー…なに、あれっすか、木原は素直に北村に気持ち? を伝えた…と」
「うん、っ…す、好きってちゃんと…」
スカートの端をギュッと握り締め、搾り出すように返してきた。
「…で、北村のどんなところが好きなのか、って言えた? …具体的に」
思い返して欲しい、木原は確かに『好き・ずっと見てた』とは言った。けど、どこに惚れた、とまでは言っていない。
「え…」
木原が俺の顔を見上げ、キョトンとした顔をする。多分、意味が解ってないんだな。
「例えば
"北村のこういうところに惹かれて、いつの間にか好きになってましたー"
みたいな…動機?が無いとアイツだって判断に困るっしょ」
「あ…」
具体的な例を交えて教えると、木原が、今さら気付いた、といった感じに声を洩らす。
ついでに言えば、北村を振り向かせたいなら『兄貴』より印象が残るような事をしなければいけない。
惚れに惚れ込んだ前会長の事が忘れられる程に魅力的な『木原麻耶』にならないと……まあ、十中八九勝算は無い。
まあ…これは追々言うとしよう。今の段階で言えば木原はまた泣く。

「ともかくさ、今日はもう暗くなって来たし…また話を聞くから、ひとまず帰らん?」
気付けば、辺りは暗くなり始めている。
「…うん…、なんかマジでごめん。色々と」
木原は顔をションボリとさせて、俺に軽く頭を下げる。
その時、俺は……胸がキュンとした。
その淋しそうな表情に…魅入られている。
そして、その言葉は先程と同様に自然と…。
「いいって、役にたてるか解んないけど、出来る限りの協力はする。
まだチャンスはある、諦めんな!」
それが自分の首を締める事だとは理解していても、やっぱり木原には笑っていて欲しい訳で…。
いつか報われる日が来れば良いや……、そう思わないと俺だって辛い、好きな女子を諦めるのだから…。


こうして俺達の奇妙な関係が始まるのだった。



続く

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