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◆KARsW3gC4M sage 2009/09/22(火) 04:17:05 ID:NDswd0Cg

[キミの瞳に恋してる(3)]

まだ寒さの残る初春の朝、俺は我が母校 大橋高校の正門前で佇んでいた。
通り掛かる人も少なく、また、校内へ入る生徒も疎らな午前九時。
部活のある奴等くらいしか来ない、何故か? それはシンプルにたった一つ。
今日が土曜日だからだ。いつからか始まった毎週末二日の休日の第一日目。
大企業の社員、ないし、学生のみに許された特権らしい。
普段の休日なら、まだ惰眠を貪っている時間。だが俺はここに居る。
醒めない頭が眠気を誘い、初春にしては底冷えする外気は寝不足な身体には堪える。
おお、太陽が黄色い…寝不足だと黄色く見えるってマジなのね。
どうしてこうなった。
ああ…うん、待ち合わせ……しているんだ、木原と。
昨日の今日で早速相談らしい、人の気も知らずに…。
無理矢理に自分を納得させても、やっぱり割り切れないんだ…恋心ってヤツは。
特に俺なんて『板挟み』もいいとこ、親友と想い人に高火力の十字砲火を食らわんといけんし。
北村はアニキが好きで、木原は北村が好きで、俺は木原が好き…と。
四角関係……爛れ過ぎっしょ、もっと歳相応の純粋な恋は出来ないの? 俺はしたいよ。

北村と木原をくっつけようとしたら親友の気持ちを裏切る事になり、俺が木原に告ろうものなら想い人を裏切る事になる。
あ、じゃあ木原とアニキ、俺と北村で付き合えば全て解決しねぇ? なんて言うのは春田だけでいい。
少なくとも俺は特殊な性癖は持ち合わせてない、女子に恋する健全な男子さ。
まあ、アホな話はさておき…。
俺がハイテンションなのは、悩んで寝不足かつ木原と会えるだけなのではないからだ。
昨日、木原から届いたメールも要因に数えれる、こんな内容だからだ。
『あんな事があったから、正直、能登のこと今も信用は…出来ない、ごめん。
でも、でも…私も信じられるように頑張る、深い事まで相談出来そうなのは能登だけだから…。
奈々子にも、亜美ちゃんにも言えない事…言えるの能登だけだもん、二人にからかわれたり、ウザいって思われるの嫌だ。
…男子の気持ちを理解したいから能登に教えて貰いたい』
頼られ、仲直りのキッカケを掴めて嬉しい反面、自分が『男』として認識されてない事を読み取っちまったからだ。
『信用出来ない』ってよ、ははっ…面白いな。

確かにね、嫉妬して横槍入れまくりだった男子を、いきなり信用出来たら…アイツの将来を案じて止まなくなる。
下心丸出しなイケメン達に食い物にされる。
男ってのは狼、スキあらば羊を美味しく頂こうと常に画策してる生き物だ。
『恋愛相談してたら、いつの間にか食べられてた』
よく聞く話だ、女の子が恋愛相談するのは『抱かれたいサイン』らしい、それは女の子もよく知る事だとか…。
だが、俺はそんな度胸は無い、出来たら未だに童貞なんかして無い。
つまり、俺は『無害』だと…雄ですらないと思われている訳だ。
ははっ! そうですね! うん! 大丈夫! 俺はヘタレですから! …うぅ。
といった具合に『諦め』て自棄になってテンションが高いんだ。
もちろんメールは無難に返事を返したよ。
『了解、いつでも相談に乗るよ、信頼を取り戻したいからね』
…別段おかしくない筈。
そして、送り返されたメールは
『うん。じゃあ明日、相談したいんだけど? 能登は予定とかある?』
である。
あれよあれよと言う間に事は運び、気付けば翌日の朝九時に校門前で待ち合わせる約束をしていた。
悲しいかな、俺は抗えないし、常に予定なんて無い。

友達に相談しようともした、何せ失意と歓喜、混乱して訳分からなくなってさ。
高校の友人はNG 身近なヤツに知られたくない、なら中学の時の…。
ああ、駄目だ。ヤツらに恋バナは解らない。
走りに狂い、バイトした金で原付を改造して、膝にガムテープで巻き着けた空き缶を峠のコーナーで擦り付けてるヤツ。
座右の銘は『女と遊ぶ金があったら、新しいタイヤが欲しい』だ。
片や、三次元を諦めて二次元に逃げたヤツ。ずっとツインテールが素敵、ネギな歌姫に夢中だ。
『俺の嫁がディスプレーから出て来ないっす』と季節の変わり目には必ず言っている。
ちなみにコイツが『縛りプレイは燃える』と宣った野郎だ。
他も似たり寄ったり…誰にも相談出来ん、駄目じゃん。
……はあ、何やってんだ俺は。諦めないって言ったり、諦めるって言ったり…気持ちが変わり過ぎ。
男ならバシッと決めちまえ、どっちかに。 諦めたくないなら自分の心に正直になれ、それでいて木原に魅せる方法で勝負しろ。北村が霞むくらいに。
諦めるならダラダラすんな、ズルズル引っ張ってどうする、今から家に帰って疎遠になれ。

愚問だ、決めろ、なんて自分に問い掛けたら答は一つしか無いわな。
木原の笑顔が見たいんだろ、ずっと笑っていて欲しいんだろ?
なら…笑顔を見せる対象が北村じゃなくて俺でも良くね?
「あ…そうか」
今さら気付く、消極的に振る舞って遠回しに接したって木原には解らない、むしろ逆効果。
アイツの中の『北村』より、自分を磨けば…可能性が高まる、つまり自分に自信を持て。
俺は勘違いしてた、諦める必要なんて無いじゃねぇか。俺が木原に告ったところで彼女の気持ちを裏切る事にはならない。
木原を振り向かせたうえで告白したら、恋愛対象が俺に移って…結果、丸く治まる。
待ち合わせ中の今、俺は苦境で活路を見出す。
その為には、まず信頼を取り戻す事、それが重要、どうするか。
穿った見方ばかりして、言いなりになってたら信頼は戻せない、見下される。
だから斜め読みしてた木原からのメールに、もう一度目を通してみる、もしかしたらヒントがあるかも…。
…………ない、てか解らない。だけど妙な違和感がある、初っ端に送られたメールを見ているんだけど、何か重要な事が抜けている気がした。

それが何なのかは解らないが、直感で…。
「能登ーっ!」
思考を巡らせていると、そんな声が聞こえる。
声のした方に目を向けると、数十メートル先から木原が走っていた。
ファー付きの白いダウンジャケットに黒い超ミニスカ、ヌバックブーツ。といった具合におしゃれしている。
俺に相談するだけにしてはやけに…、ああ、女子はいつでもおしゃれしたいもんだ。そうだろ?
「お、おはよう!」
正直に言うなら、俺はその木原の姿に魅とれてしまい、第一声はうわずってしまう。
「はっ!は…っ、ん、おはよう…! 遅れちゃった、待った?」
俺の側に着いた木原が膝の上に手をついて、肩で息をしつつ、そう言った。
それはまるで…デートの待ち合わせに遅刻した彼女が言う台詞みたいで……少し胸をドキドキさせる。
「あ…いや、大丈夫、全然待ってないし」
だからか、俺もそんな言葉を返してしまう…彼氏のように。
「そっか、うん…。あ、そうだ! 能登って朝御飯食べた?」
呼吸を整えて、顔を上げた彼女は走って来たからか頬を赤く染めていて…、なんて事を考えてしまうのは仕方無いだろう。

今日の木原は昨日と違い、いつも通りに明るくて輝いているから。
それが俺に向けられていないとしても、やっぱり魅せられる訳だ。
「え? 軽く、だけど…」
「あ、ならいい! ほら、朝早いから…まだかなぁ〜って」
俺の言葉に木原が、両手を左右にブンブン振って返す。
「早いって…もう九時だし」
そう言った後に、俺は後悔する。木原の気遣いに気付いたから…バカだ俺。
「だねぇ、あはは…は」
そう乾いた笑いを最後にピタッと会話が止まる。
ほら、見てみろ…会話が終わったし、俺のせいで。
木原が気まずそう顔してる、何か、何か話さないと!
「あ、そうそう! そ、相談! 相談したい事があるんだよね?」
そこで、さっそく本題に移る事にする。内容は何となく解るが、直接聞かないと始まらない。
俺を木原にアピール出来る機会でもある、確実な受け答えさえ出来れば、だけど。
「う、うん。あ、あのさ…………昨日のメールで書いたけど、男の子の気持ち…が知りたいなって思って。
こ、告る前に相手の感じ方をたち、…確かみぇ……、ごほんっ!
確認したいんだ…よね!」

言い難いのか噛み噛みに木原が言って、俺の顔を見上げる。
大きな猫目がまっすぐ俺を見詰めて、決意に満ちたようにも見える。
「え〜と、ごめん、いまいち言ってる事が解んないんだけど…。
ん…つまり、木原の仕草とか言った事の感想? みたいなのを教えろって事?」
「う〜ん、…うん! そんな感じ!
男の子の目線から見て、私ってどんな感じかなぁ〜って。
んんっ! 男子、…の、能登から見た私の可愛い仕草…とかを知りたいの!」
両手の拳を握って力説する彼女は、紅潮した頬を更に染め、俺にズイッと近付く。
「あ、ああ。なるほど、そういうこと。
でも俺と北村じゃ"可愛い"って思うツボが違わねぇ…?」
木原の言う事は解る、異性から見た自分の魅せ方を研究したいのだろう。
俺では無く、北村に対しての、だけど…現状は仕方無い。
焦るな俺、急いでは事を仕損じる。
こうやって仲良くなるしか無いんだ、今は耐えろ、いつかは俺に向けさせてみせるから。
「い、良いの! うぅ…能登の意見が欲しいんだってば!」
木原が返した言葉に俺はドキッとする、そして先程の違和感を再び感じた、なんだろう…この感じは?

「あ…、ま、まるおと能登って仲が良いじゃん? ん、だから好み…とかも似てるかなって。べ、別に能登の為にするんじゃ…。
ああっ、じゃなくて!! ともかくお願い、冗談じゃなく私マジですからっ!」
俺が思案していると、彼女に焦り気味にそう言われる。まあ…俺の為にする訳じゃないよな、解ってる、力説しなくても。ああああ…。
ヘコむ…、だがいちいち負けてられるか!
「うんうん! 解った、解ったから…、協力するよ」
俺が返すと木原の表情がパッと明るくなる、だが数秒すると顔を横に逸す、恥かしそうに。
ああ、違和感の正体が見えた…。何か木原ってフラれた割には元気なんだよ、…悔やむ暇なんか無い、先を見ようとしてるのか、邪推だけど。
北村と付き合いたいから、一回くらいで諦めてなんかいられない…とか。
俺の前に立ちはだかる『北村』は大きかった、乗り越えるのは大変だろうなぁ。
どんなに痛くても、これは絶対に通らないといけない道なんだよ、避けて通れない。
「ありがと、う…。じゃあ、はいっ」
顔を紅潮させた彼女が、上目遣いで俺を見て…手を差し延べてきた。
「えっと…」
な、何だ急に…。

「あ、あ、握手っ! な、仲直りの握手して無かったし、…ほらっ!」
木原は確実に俺との溝を埋めようとしてくれてるじゃないか。
『恐れ』だけ抱いてビクビクしてても駄目だよな…。
よし…俺も勇気を出そう、女子に引っ張られてばかりじゃ…ヘタレてばかりじゃ……。
「う、うん、仲直りの…握手な」
俺は右手で彼女の右手を握って、一回振る、触れた木原の手が僅かに震えているのは、多分…俺と同じ気持ちだからだ。
また嫌われたら…そう思うと怖い、どこまで踏み込んだら良いのか手探り。
でも『見たいモノ』を見るために持つ勇気を互いに確かめる。そうだろ?
「ん…」
木原の小さな手がギュッと俺を握る、そしてゆっくり力を抜いて離す。
「能登…落ち着いて話せる場所に行かない?」
照れ隠しか、俯いた木原がポツリと呟く。
俺も照れてしまう、昨日までいがみ合ってたのが嘘みたいでさ…。
嬉しかった、この気持ちを正直に打ち明ける時では無いのが残念だけど、ならせめて言葉じゃなく態度で示そう。
緊張するけど、自分の出来得る限りの優しい顔付きで紡ぐんだ。
「そうだね、公園、…公園にでも行く?」


.

「私さ、今まで勇気が持てなかったんだ、人に言い当てられて逆ギレまでして…。
勢い…みたいな感じもあったの、まるおに告ったのは」
公園に着き、ベンチに腰掛けた木原がポツリポツリと話し始める。
途中で買ったミルクティーの缶を両手で持ち、掌の中で手持ちぶさたそうに転がしつつ。
「まるおはアニキが好きだって解ってたし、誤魔化して嘘をついたし。
自分も他人も騙して、能登と喧嘩したのも八つ当たりみたいな感じだった。
何も上手くいかないからイライラしてた、ごめんね…」
俺は横で彼女の言う事を黙って聞く、相槌も打たない、途中で口を挟んだりもしない。
まずは木原の言いたい事を全て言わせて、木原の心情を察する事から始めようと思ったからだ。
「方法を間違えたって気付いた時には遅かった、引き返せない。
でも好きな人を…振り向かせたい、だから勇気を出そう…そう想った。
ねぇ、能登は……好きな女子とか…居るの?」
木原が俺の方に顔を向けて問い掛けてくる、恐る恐るといった感じに。
「居るよ…好きな女子は……居る、振り向かせるのが難しい…片想いだけど」
お前だよ、なんて言えたら…。けど、まだ言えない。

「私も居るよ、片想い…だし、その…身近な男子……うん。
手が届く近さで、でも届かない遠さ…だけど」
北村と暗に言っている、俺だって知ってる、わざわざ言ったのは意図があるのか?
「自分に自信が無いよ、けど…相手に見て貰いたいから頑張りたい……能登に協力して欲しいんだ。
自分勝手な話だけど、良い…かなぁ?」
普段の勝気そうな様子は無く、怯えた子猫みたいな……昨日見た、小さな子猫のような姿。
それは…守ってやりたい、という気持ちにさせる魔力があった。
「昨日も言ったよ俺、協力するって…、その上手く言えないけど、ま…任せてくれ」
咄嗟に…なんて言い訳しない、俺が言った事は本心で…、木原に魅力されて自然と出た言葉だった。
「うん、ありがとう。それでさっきも言ったんだけど、男の子の気持ちが知りたい、……笑わないで聞いてくれる?」
言葉が出ない、喉元までで止まる…だから一回頷いて返す。
「手…繋いでいい?」
俺の脳内で木原の言った事が反響しながら繰り返される、自分だけ時が止まったような感覚も覚えた。
思考も、視界も、血流すら停止したように思う、目の前の彼女に魅入られて…固まる。

大袈裟…? いや、当たり前の反応だろ、だって………えぇ? な、何で瞳をウルウルさせる! ジッと見詰めて!
な、男子の気持ちを知りたいから手を繋ごう、って…。
それは、あれか? ん、俺が木原と手を繋いだ『感想』を言えって事か!?
ま、待て、そんな…縋るように見るな! うは!
「ほ、ほら! あれだよ、あ、あの、その、う、嬉しかったりするかもしれないじゃん!
たっ! た、たか、確かめときたいしぃ! 反応とかっ!! いざって時にテンパりたくないですしぃ!」
俺が固まった姿を見て、顔を真っ赤にした木原が慌てふためきながら捲し立てる。
右手に握り締めたミルクティーの缶をブンブン、何も持たない左手も同様に。缶を開けて無くて良かったな……、じゃねぇっ!! 何、達観してんだ俺は!!
止まっていた時が流れ始め、勢い良く血液が全身を巡れていく。
膝の上で握り締めた拳が汗ばみ、身体が燃えるように熱くなっていく。
「あ、あはは!! そうか! れ、れれ練習、てか慣れ! トレーニングっしょ! OK! OK!」
中学生かよ…、緊張しやがって、手を繋ぐくらい簡単に…あああ、いくわけねぇ! お、おおお…良いんですか? マジで?

さっきのは握手! 親しみを込めて? みたいな、でも手を繋ぐってのは……少なくとも嫌われて無い? えっ、ええ?
ちくしょう! 考えてたって埒が明かない、ええい、ままよ!
「じゃ、じゃあ、繋いでみる? はっ、はははっ!」
落ち着け俺、握手はノーカンとしても女子と手を繋ぐ事は初めてじゃない、一回だけあるだろ。
知らない娘だけど握った、いや、繋いだことありますし!
もっと凄いのも握り締めた事あるし? それも木原の! あれに比べたら…。
スッと伸ばされた彼女の手を優しく触ってみる、するとピクッと微かに震えた…。
顔なんて見れない、想いを寄せた女子と手を繋ぐ事に緊張して…。
思い切って握ってみる、すると木原はギュッと握り返してきて、更に指を絡ませてくる。
「れ、練習とかじゃないし……、気持ちを知る為だから、マジで…カレカノみたいに、だよ?
能登が嫌なら…止めるけど…」
木原の言った事に俺は混乱する、急過ぎて気持ちの整理が追い付かない。
戸惑う…でも嬉しくて…照れて、信頼は地の底にある筈なのに信頼されてる気持ちになる。
上手く言い表せないわ、メールで伝えてきた内容とのギャップに驚いている、としか言えない。

『俺が望む道へ誘導されている』なんて誤解してしまう、けど勘違いしちゃいけない、これは『北村の為に』木原が取った行動なのだ。
そう思わないとマジに誤解して手痛い失敗を招くかもしれない。
少なくとも今は、木原の出方を観察しないとな。木原と『カレカノ』になりたいなら慎重にならないと水泡に帰す。
最後のチャンスなんだ、踏み外さないように石橋を叩いて渡る。それでいて自分をアピール、少しづつ小出しして様子見しろ!
言葉で答えるな、行動で示せ。
『嫌じゃない』って!
「んっ…」
だからまずは小手調べ、俺も指を絡ませてみる、徐々に深く…抵抗されるまで。でも木原は一度、微かに声を出した後はされるがまま。
自分の予想よりは嫌われていない事が解る、直感で。
彼女が恥かしそうに俯く様からも読み取れた、良い線行ってるとか? これはなんとなく。
「ど、どう? どんな感じ?」
木原は顔を伏せたまま、チラリと俺を見て問うてくる。
「聞いて怒るなよ? ち、小さくて…柔らかくて…暖かい、スベスベしてて…気持ち良いよ」
キ、キモい…キモいよ俺。でも、そう言うしか無いじゃん、感想なんだし。

「あ、ぅ…、ふ、ふ〜ん。そう? うん、それって…能登のマジな感想…だよね?」
ああ、さっそくやらかしたか? キモかったんだな?
心無しか落ち着かない様子の木原を見て、俺は後悔しつつも返事する。
「マジで……。わ、悪い…そういう意味じゃなかった?」
「え? ちが、違う。そういう意味なんですけど…、いきなり…な、馴々しかった?
あのさ、こういうのって男の子は…嫌いなの…かな、能登は…んん、嫌だったりする?」
サッと俺から目を逸した木原は、そう言うと絡ませた指を離そうとする。
嫌なわけない、少なくとも俺は…、自分の意見で……良いんだよな?
「ん、他のヤツは知らないけど、俺は……こういうの……嬉しい、よ。き、木原とだからか、な?」
そう言って俺は指をより深く絡ませる。
体温が急激に上昇した気がする、自分から初めての積極的攻勢、…上手く伝われ!
「え、あ…、う…うん」
小出しに、でも気持ちを目一杯載せて、初めから正直に言うのは無謀、だからこんな言い方しか出来ない。
まずは楔を打つところから、縄を掛けるのはもっと時間を置いて。焦るな俺、冷静になれ。

高鳴る胸の鼓動、脳内で響くドクドクとした血流の音、言い訳なんて間違っても口にするな!
真っ赤な顔をした木原が目を見開いて、俺を見詰める。驚いているんだ、な。
重なった掌が汗ばんでいるのは、俺の汗か木原のものか…、溶け合って解らない。
前を見据えた俺、固まった木原、二人に共通しているのは顔を真っ赤にして何も言えない、この二つ。
彼女は男子と付き合った事が無いなんて噂されてる、それが正しいならこの反応も頷ける。
告白すらされてないのに、こんな反応していたら……本戦ではどうなるやら、確かに『慣れ』が必要かもしれない。
木原は『こういう事』を言われ慣れてないから戸惑っている。
それは俺も同じで言い慣れてない、慣れたいとは思わないけどね。
「あ、あはは! ま、またまたぁ〜、能登はお世辞が上手いんだぁ〜、
…そ、そうやっていつも女の子を誘惑してるとか? 上手だねぇっ!」
?…!…!?
ご、誤魔化された、だと?
う…嘘だ! 俺の攻撃が効いてない!?
しかも、なんか怒ってらっしゃる? 痛い! 痛いよ! 木原さん!?
そんな力一杯に手を握り締めないでくださいっ!!

顔は笑ってる、けどオーラがっ! 変な闘気が出てるよ! え? 何、俺は変な地雷でも踏んだのか!?
「ま、まあ? 能登って"モテなさそう"だしぃ、多分それはないだろうけどぉ?
そ、そんな事よりお昼ご飯食べに行こっか。うん、そうしよう!」
んなっ!? ああああああああっ!!!!
俺のコンプレックスを抉らないでっ! 事実だよ、でも認めたくないんだからっ!
高須はおろか春田にすら先を行かれた喪失感を思い出させないでくれよ!
リアルが充実している奴等に対する劣等感がっ!!
「何してるの、早くっ! ほ、ほら!」
木原に手を引かれて立たされ、グイグイ引っ張られていく…。
先を足速に進む彼女の明るく染めた髪がサラサラと風で流れ、陽光で輝く、その様を抜殻状態の俺は遠くで見ている錯覚を覚えた。
やっぱり…まだ信用されてない、調子に乗るな、と毒を吐かれて俺の意思とは関係無く引っ張られ、……ん?
あれ…そういや、手…繋いだままだよ、な?
「なあ木原、手ってずっと繋いだままなの?」
そう聞いたのは、何故だろう? 黙ってれば、気付かれずにずっと繋いでいられるのに。
言えば、離されるかもしれないのに。

「だ、だだ…だからぁ〜、さっきも言ったじゃん!
"カレカノ"みたいにって! 手を繋いでないと解らないの!!」
「あ、ああ! そっか、そうだよね! 何言ってんだろ、俺!」
捲し立てるように木原が口走り、俺は即座に肯定する。
まあ…、これなら俺も救われた、よな? とりあえず。
木原は怒ったように見えたけど、実は憎まれ口というか、急に言われて恥かしかっただけなんだ、多分。
そう思えるし……、って、待て待て…な、何を『両想い』だって勘違いしてんのよ、俺の『片想い』ですからっ!
ともかく、救われた、と信じておこう。
「え〜っと…何を食べたい?」
何も喋らない木原の横に並んで、恐る恐る聞いてみる、何も話さないのは気まずいし。
「能登が決めていいよ…」
耳を赤く染めた木原が返し、ほんの少し顔を横に背けたのには傷付くが、俺は負けてられない。
「じゃあジョニーズに行こう、ファミレスならメニューも色々あるし」
よし、噛まなかった、自然に言えた、さっきからお互いに噛み噛み、ようやく落ち着いてこれた。
『脳味噌ふっとー状態』から『心臓ドキドキ状態』までは戻れた。エマージェンシー5からエマージェンシー4まで回復したよ。

この1の差は大きい、段階が上がる毎に自爆率が上がるのだ。
心の余裕があれば自身のアピールもしやすい、焦ればミスし易いのは誰しも同じ。俺は冷静でいたい。
今日は朝から常に4と5の間を行ったり来たり、このままでは俺の血圧がヤバい。
例えるならヒューズだ。 『ときめき木原電流』が流れれば俺の0.1Aヒューズなんて簡単に切れる。
漫画の如く鼻血を噴出してしまいかねない。
それほどに今日の木原は眩しい、強烈に俺の理性を揺さぶるのだ。
だが大丈夫。
「平常心、平常心…」
と、彼女が顔を僅かに俯かせ、ブツブツ唱えながら歩く姿を落ち着いて観察出来るまでに回復した。
しかし…俺と歩くと心が乱れ、平常心と唱えて自分に言い聞かせないと駄目なのか?
…とか考えると鬱になるから止めとこう。
駐車場を突っ切り、ジョニーズ店内への階段を上り、少しウキウキ気分でガラス扉を開ける。
いやぁ、これってデートっぽくね? 店員さんもカップルとしか見ないだろ、ゆ・う・え・つ・か・ん
「いらっしゃいませぇー! 御二人様ですか、御煙草はお吸いになられますか?」
なんて可愛い声と共に軽く礼する店員さんに顔を向け、返事を返そうとする、……んん?
「ありゃ? 能登くんと木原さんじゃないかね、あれれ?」



続く

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