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161 :M☆Gアフター4(芝浜) ◆9VH6xuHQDo:2009/12/31(木) 11:41:28 ID:eW1.Yv5c




 師走の夜風に晒された首すじをコートの襟に引っ込め、竜児は神社へ向う薄暗い車
道を、少し斜めに横断していた。
「寒い?」
 少し先を歩いていた実乃梨は、振り向きざまにそんな仕草を見て、竜児の左腕に絡
まってくる。
「おう、もう大晦日だしな……でもそうしてくれると、暖ったけえな」
 竜児は引っ込めた首を傾け、実乃梨の髪に頬を寄せる。
「う〜ん、そんなにグイグイくっ付いたら背が縮んじまうよ〜。あ、竜児くんマフラ
 ーどうしたのさ? カシミアのマフラー」
 ぴょこんと実乃梨は跳ね、竜児の顔をはね飛ばす。絡んだ腕は、離さない。
「あれはだな……昨日みんなで大河んちのマンションの大掃除しただろ? あん時に
 忘れてきちまったんだ。今日出掛ける時に思い出した」
 おー、と実乃梨は白い息を吐き、自分がしているマフラーの余ったところを、竜児
の首に巻きつけてきた。
「殿、人肌に暖めておきました……なんてな!」
 ほんのり香る、彼女の甘い匂い。竜児は伝わる熱以上に、心が火照るのである。ど
うやら実乃梨も竜児と同じらしく、「んふっ、ヌクいでござるな〜」と、猫撫で声を
漏らすのだ。
 竜児と実乃梨は、高須家で毘沙門天国のカウントダウンパーティーで使う小道具を
泰子と一緒に作って見送り、櫛枝家で年越しそばを食べ、ふたりで近所の神社へ二年
参りに行く途中なのである。神社が近づくにつれ、参拝者と思われる親子連れやら、
カップルやら同じ方角へ向う人影が増えてくる。
「そういえば実乃梨はなんて願い事するんだ?」
 なんとなく竜児は聞いてみた。
「ふっふっふ……来年も神さまには頑張ってもらうぜ〜。まずはインターハイ優勝で
 しょ〜。次に、体育大の受験でしょ〜?後はバイト代アップでしょ〜。んで……」
「願い事多すぎだろ! あんま欲張るなよな〜? 神さまだって大変じゃねえか?」
「てへっ。そだねっ……でも去年はさ、やっぱソフトの事お願いしたんだけど、惜し
 いとこまでいったし、御利益あったしね。大橋神社あなどれねえ! って感じ。つ
 い欲張っちゃうんだよ。竜児くんとも知り合えたし。感謝感激〜ってな訳なのだよ!」
 ギュ〜ッとさらに実乃梨は竜児に絡む腕に力を込める。竜児の左腕だけ、焦げるほ
ど熱くなる。心地よく、そして嬉しい。
「ありゃ?……お財布だ」
 道ばたに実乃梨は長財布を見つける。竜児が屈み、拾い上げると、その分厚さと重
さに驚く。ワニ皮のゴツイやつだ。
「こっ……これは相当入ってるんじゃねえか?……ヤバい、震えてきた……」
「ほお。実弾がたんまりと……。きっと初詣客のだね。神社にお巡りさんいるから届
 けようよ。あっ、篝火が見えてきた。もうすぐだぜ」
 一瞬ネコババしようと思ってしまった竜児は反省しつつ、鳥居をくぐり、神社の参
道に入る。すると、
「泥棒だー! 泥棒ー! 俺の財布取りやがったー! うおー!」
 大騒ぎする強面の、いかにもヤバそうな男がいた。身内と思われる極悪ヅラの男た
ちも数人たむろしていて、多分、いや間違いなくその筋の方々であろう。思わず竜児
はポケットの中にある財布を握り締めるのだが、実乃梨は、なんて事なさそうに竜児
に耳打ちしてきた。
「竜児くんきっとあの人の財布だよ。返してあげよ?」
「おうっ! でもよ、泥棒ー!……っとか騒いでるぞ。勘違いされねえかな?」
「それもそうだね〜……やっぱお巡りさんに渡そっか」
 そうして竜児と実乃梨は、男の横をスルーしようとした、が。
「ぐわああっ! 兄ちゃん! 俺の財布知らねえか!? ワニ皮で、分厚い奴なんだ!」
 突然肩を鷲掴みされ、竜児は全力で揺さ振られてしまう。するとポケットの中にあ
る財布が、ドサッと、足元に落ちてしまうのだ。

 ……終わった。竜児は思う。泰子……今まで育ててくれて、ありがとう。櫛枝家の
皆さん。お嬢さんは命を掛けて、俺が守ります。

 ……と、死を覚悟するのだが、せっかくの覚悟も幸か不幸か、無駄になるのであっ
た。大橋神社の御利はハンパないのである。
「うおおおっ! にっ、兄ちゃん……あんた、高須竜児さんじゃないすか?」
 ガラの悪い知らないヤツから自分のフルネームを呼ばれ、竜児は相当ビビるのだが、
追い打ちをかけるように、竜児の名前を聞いて出てきたと思われる、初老の紳士が現
れる。
「魅羅乃ちゃんとこの竜児くんか?」
「お、オーナーさんっ! いつも母親がお世話になっております! あの、ここに来
 る途中で、財布拾って、警察に届けようとしてたところなんです!」
 そう全力で説明する竜児に毘沙門天国のオーナーは顔を緩ます。
「そうか。わざわざすまなかったね。拾ってくれたのが君で良かった。礼を言うよ」
 オーナーは受け取った財布を一度掲げ、頭を下げる。再び向かい合うオーナーの眼
差しに竜児は違和感をおぼえる。それはまるで、旧友との再開を喜ぶような、父親そ
っくりに成長した竜児にその面影を懐かむような……そんな気がするのだ。
「竜児くん。私に君の父親がわりの事は出来ないが、困ったことがあったら遠慮なく
 相談してくれ。……おい、竜児くんに御礼しとけ。失礼のないようにな」
 すると、竜児に匹敵するほどおっかないツラの兄ちゃんは、
「竜児さん財布、あざーすっ! すっげー助かりました! なんでもっ、なんとでも
 お申し付けください!」
「おうっ! 別にお礼なんてイイっすよ!」
 しかしそんなことでは兄ちゃんは引き下がらない。般若顔を竜児に突きつける。俺
もこんな感じなのかな……とコンプレックスをくすぐられる。
「そんなわけいかねえよ! ボスに怒られっちまう! さあさあ!」
 そんな強烈プッシュに困ってしまった竜児が、なんとなく実乃梨を見下ろすと、
「……初日の出がみたいな」
 そんなことを呟いた。

***

「いったい幾らするんだ?この部屋……」
「言い出しっぺは私なんだけれども……こんなところ沖縄以来だよね……なんか遠慮
 しちゃうなあ……」
 ここは都内にあるホテルのジュニアスイート。例の兄ちゃんに朝10時のチェック
アウト時に迎えにくると言い残され、置いてかれてしまった竜児と実乃梨。落ち着き
なく辺りを見廻す。
 ヨーロピアンモダンテイストな客室には大きな窓ガラスがあり、そこからライトア
ップされた大きな橋と、その下を通る船が見える。
「たぶんあっちから昇るんじゃない? 初日の出。東の方角」
 窓ガラスにへばりつく実乃梨だったが、
「なあ、風呂場にも窓があるぞ」
 そういう竜児がいる浴室にパタパタと足音を鳴らし、覗き込みにきた。
「おーどれどれ? 本当だ〜。ビル街が見えるね?」
 大きな瞳をさらに見開き、キラキラした笑顔を零すのだ。窓からの臨海のビル群の
美しい夜景が、実乃梨の瞳に映りこんでいる。なんて可愛いんだろう……素直に竜児
はそう思う。そして素直に実乃梨の身体をその腕の中に包み込む。

「実乃梨……一緒に入るか、ぬ、脱がしてやるよ」
「いやだペンペン。そう言ってクリスマスの時だって竜児くんお風呂入らせてくれな
 かったじゃん。自分で脱ぐ」
 竜児を振り払い、あっかんべーをする。竜児は怯んでしまった。
「そうだっ……っけ?」
「そうだよー! 私あんなに言ったのに、そのままするんだもん。も〜、恥ずかしい
 んだからよ〜。頼みますよ〜」
「すまねえ……わかった……じゃあ先に入ってきてくれ」
「応!……すぐ来ないでよ?」

***

自主規制

***

 黎明の空はすでに白みがかっており、あまり使わない言葉であるが、竜児は『彼誰
時』という言葉を思い出す。それは太陽がのぼるとき、そこにあるもの全てが眩しい
オレンジ色に包まれ、目の前にいる人も誰かわからなくなるから、彼は誰時……とい
う、なかなかロマンティックな言葉なのだが、今自分自身がそんな瞬間を迎えようと
している竜児は、思わずとなりに寄り添う実乃梨の肩をグイッと引き寄せるのだった。
「んふっ……なあに? 竜児くん。もうすぐだよ?」
「おう、そうだな。もうすぐだ」

 窓の外の気温はいったい何度くらいなのだろう? 埠頭沿いに平行して、初日の出
待ちの幾重もの人垣が確認できた。群衆の影は寒そうに微妙にブレていて、ここから
でも熱気なのか、吐く息なのか、白い湯気が立ち上っているのがわかる。それに引き
換え竜児たちは暖かいVIPルームで迎える初日の出。さらに傍らには愛しい実乃梨
がいてくれる。まるで、夢のようなシチュエーションだ。今年も正月そうそう、思い
掛けない夢のような幸運でロケットスタートを決められるなんて、いい年になるんじ
ゃないかと、そうしみじみ感じると竜児は気分が高潮し、喉の渇きを覚えるのだった。
「なんか飲みてえな……まだジュースあったよな? 俺、持ってくる」
 竜児は日の出に備えるため窓際に向きをかえたソファーから立ち上がり、壁際にあ
る冷蔵庫の扉を開ける。すると、
「あ! 竜児くん急いで! 太陽出そうだよ!」
「マジか! すぐ行く!」
 と言って適当に飲み物を取り出し、ソファーへと急ぐ。目の前の窓ガラスは一面オ
レンジ色の光に染まり、ソファーから振り向いている彼女の顔が見えなくなっていた。
再び、『彼誰時』という言葉が竜児の頭をよぎるのだが、そこに存在するのは紛れも
なく竜児が愛する実乃梨なのである。まるでクロスプレーのようにソファーにすべり
込む竜児を実乃梨はブロック……いや、ガッチリ抱きとめるのだった。
「竜児くんすべり込みアウトー! でも日の出にはセーフだぜ? あ、ほらっ……う
 わあ! キタ────! すっげー!」
 実乃梨の指で示す先には、小さいが強烈に輝く火球が現れた。降り注ぐ光の中に包
まれ、その神々しさにしばらく固着する二人。さらに干上がる喉に竜児は持っていた
ビンの口を開け、太陽に見とれたまま一気にラッパ飲みしてしまったその時、液体と
共に激痛が胃の中に流れ込んだ。急いで戻そうと口から放すが、時すでに遅く、ほぼ
飲み干してしまうのだった。
「キレイだね〜、竜児く……うおおっ、どうしたの? 竜児くんしっかり! ちょっ
 と! 竜児くん! ねえっ!」
 とっろ〜んと、意識が揺らぎ、実乃梨に肩を揺さぶられ、さらに事態は悪化する。
感覚が鈍り、トランス状態に陥る竜児。
「おうっ……き、れい……だ、な」
 一気飲みしたビンがカーペットに転がる。
 そのラベルに記してあるスピリタスという文字を読み、ウォッカかよ……というツ
ッコミを最後に、竜児は落ちてしまった。

***

「おっはよ〜☆竜ちゃ〜ん!」
「おうっ!……おはよう泰子……あれ? 今何時だ?」
 目が覚めた竜児はあろうことかダウンジャケットのまま自宅の居間に寝っ転がって
いた。

「も〜お昼だよ〜? 竜ちゃんお酒呑んだでしょ〜? クッサ〜イ〜ッ! お正月だ
 からってぇ、やっちゃんが言うのもなんだけど呑み過ぎはだめでガンスよ〜?」
「おうっ! そ、そうか……よく憶えてねえ……いつの間に帰ってきたんだ、俺……」
 勢いを付けて起き上がると身体中の至る所に痛みが走る。畳の上でへんな体勢で寝
ていたからだろうか、そして、頭の中に鈍痛が走るのはお酒のせいだろうか。
「やっちゃんが帰ってきたときいたかな〜? えへっ☆やっちゃんもお酒呑んできた
 からっ、憶えてないでヤンすぅ☆」
 己の頭をポカリと叩く泰子を尻目に、竜児は口元を抑えて記憶を辿る。しかし何も
思い出せない。ホテルのカーペットに転がっているはずの世界最強の酒、スピリタス
の空きビンが足元にある。家で呑んだのだろうか……。そういえば彼女がいない。
「……そうだ実乃梨は? まさか……」
 そう言って立ち上がり、自室の襖をガラリと開けると……誰もいなかった。ベッド
も冷たく、誰かが寝ていた形跡はない。竜児は混乱してきた。こうも考える。あれは
現実だったのだろうか……
 すると高須家の呼鈴が鳴る。まだボケ気味の頭を押さえ、竜児は玄関の扉を開いた。
「あけおめーっ! あら竜児。なんだってお正月からそんなにボサボサなのよ? 今
 年は寅年よ。もっとシャキッとしな」
「……ことよろ大河。いきなりなんでなんだが、実乃梨しらねえか?」
「みのりん? 知らない。なんで? それよりこれ。おとといマフラー忘れたでしょ」
 ほいっと大河からマフラーを受け取ると、遠くから、ア──────! というク
リアな声が爽やか朝に響く。借家の階段をカンカン上がる音がする。

「────ッ、ハッピーニューウ、イヤアアアン竜児く〜ん! 大河もHNY!」
 実乃梨は、両手でそのアルファベットを形作る。最後のYなどと見事なY字バラン
スを決める。一抱えもある重そうな風呂敷につつまれた重箱も落とさない。さすが現
役ウェイトレス。見事だ。
「HNYみのりんっ! あっそれ もしかしておせち料理?」
 めざとく重箱に食い付いた大河は目を輝かせる。たぶん今年に入ってからなにも口
にしていないのであろう。
「おーよっ! 家から持ってきたんだ。みんなで食べようぜ?」
 やったー! っと大河は宙に浮くほど喜んでいるが、竜児にはさっそく確認しなく
てはいけないことがあった。そう、大晦日のお参りから、竜児が帰宅するまでの事だ。
「なあ実乃梨。昨晩俺、どうしたっけ? 何にも憶え……ってうおおうっ!」
 二人の来訪者の声を聞きつけたほぼ裸状態の泰子が、竜児を押し退け飛び出してきた。
「みのりんちゃ〜ん、大河ちゃ〜んおめでと〜☆」
「あひゃー、泰子さんおめでとうございま〜すっ……あれ竜児くん、憶えてないの?
 神社行ってお参りして、私竜児くんに家まで送ってもらったじゃん……うおー泰子
 さんハーダー! モアハーダーっす!」
 泰子が実乃梨と大河の三人でおしくら饅頭している姿を呆然としながら眺めつつ、頭
の中を整理する竜児。そ、そうなのか? ってことは、財布拾ってから、あのホテルで
一緒にお風呂入って、一緒に観た初日の出までは、夢かまぼろしか……。
「そっか……夢か……初夢か……だよな」
 と思うのだ。やっぱり昨日のアレは、なにもかもがちょっとした勘違い、思い違い、
だったのだろう。たしかに出来過ぎた話だ。夢じゃなければそううまい話転がってくる
はずがない。……そう解釈した竜児におせち料理を手渡し、Fカップから離脱した実乃
梨が竜児の耳元にそっと呟くのだ。

「……竜児くん本当に憶えてないんだ? オーナーさんの善意のことは泰子さんには内緒
 にしといてくれって言われたんだよ? あ、はーいっ今そっちいきまーすっ!」
 いつの間にか卓袱台を囲んでいた泰子と大河に呼ばれ、竜児の横をすり抜けて高須家
におじゃまする実乃梨。……てことは……そういうことか。まるで、落語の『芝浜』だ
な……。苦笑しながら竜児も卓袱台に向う。
「竜ちゃ〜ん! おとそあるけど呑む〜?」


「やめとこう。また夢になるといけねえ」


おしまい


165 : ◆9VH6xuHQDo:2009/12/31(木) 11:47:16 ID:eW1.Yv5c

お読み頂いた方有り難うございます。
このシリーズはこっち向きでないことがわかりました、お読み頂いて
ご不快になられた方には申し訳ございませんでした。
来年はまったりと高1のみのりんのスポ根ものを投下させていただき
たいと存じております。

では良いお年を。

160 : ◆9VH6xuHQDo:2009/12/31(木) 11:40:13 ID:eW1.Yv5c
 こんにちは、失礼いたします。
 先述の年末用に書いていた小ネタですが、飛行機の時間になり、残念ながら推
敲時間がなくなってしまったのでエロシーンはカットするだけで投下いたします。
 元ネタは年末という事で古典落語「芝浜」です。ご存じないとさっぱりです。
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/芝浜


題名 * M☆Gアフター4(芝浜)
時期 * 二年生の12月31日。
設定 * 竜×実付き合って約半年。エロ成分有。自主規制してます。
物量 * 4レスになります。

【とらドラ!】櫛枝実乃梨SSスレ【まったり妄想】
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